著者
平塚 伸 渡辺 学 河合 義隆 前島 勤 川村 啓太郎 加藤 尉行
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.62-67, 2002-01-15
参考文献数
10
被引用文献数
5 9

ギ酸カルシウムによるニホンナシの摘花効果と, その機構について検討した.1%のギ酸カルシウム溶液を受精前の雌ずいに散布すると, 柱頭への花粉の付着と花柱内の花粉管伸長が明確に抑制され, 30∿40%の果実が落果した.一方, 同濃度の酢酸カルシウムや乳酸カルシウム溶液による摘花効果は認められなかった.有機酸カルシウムが花粉発芽に及ぼす影響をin vitroで比較すると, ギ酸カルシウムは他の塩より明らかに強い抑制力を示した.有機酸について同様に調査した結果, ギ酸の発芽抑制作用は際立っていた.以上の結果より, ギ酸カルシウムによるニホンナシの摘花機構は, ギ酸による受精阻害と考えられた.摘花されなかった果実の生長や成熟期の果汁糖度は, 対照区と殆ど差が認められなかった.このように, ギ酸カルシウムはニホンナシの摘花剤として利用できる可能性が示された.
著者
平塚 伸 渡辺 学 河合 義隆
出版者
園藝學會
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.62-67, 2002 (Released:2011-03-05)

ギ酸カルシウムによるニホンナシの摘花効果と、その機構について検討した。1%のギ酸カルシウム溶液を受精前の雌ずいに散布すると、柱頭への花粉の付着と花柱内の花粉管伸長が明確に抑制され、30~40%の果実が落果した。一方、同濃度の酢酸カルシウムや乳酸カルシウム溶液による摘花効果は認められなかった。有機酸カルシウムが花粉発芽に及ぼす影響をin vitroで比較すると、ギ酸カルシウムは他の塩より明らかに強い抑制力を示した。有機酸について同様に調査した結果、ギ酸の発芽抑制作用は際立っていた。以上の結果より、ギ酸カルシウムによるニホンナシの摘花機構は、ギ酸による受精阻害と考えられた。摘花されなかった果実の生長や成熟期の果汁糖度は、対照区と殆ど差が認められなかった。このように、ギ酸カルシウムはニホンナシの摘花剤として利用できる可能性が示された。
著者
稲垣 昇 津田 和久 前川 進 寺分 元一
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.369-376, 1989 (Released:2007-07-05)
参考文献数
14
被引用文献数
4 11

暖地におけるアスパラガスの生理•生態的特性を明らかにし合理的な栽培体系を確立することを目的に, 本報では物質生産の基礎となる光合成特性について検討した.(1) アスパラガスの主たる光合成器官は葉状茎であったが, 側枝や主茎でも光合成が行われており, 特に0.5~1mmほどの太さの側枝では単位乾物重当りで見ると葉状茎の光合成速度の30%近い値を示した.(2) 光合成速度に及ぼす光強度の影響を見ると, 光飽和点は生育前期及び中期の株で40~50klx付近, 生育後期の株では10~20klxであった. また, 光補償点は1.5~2klx付近であった.(3) CO2濃度の影響を見ると, CO2濃度を上げながら (400→1,400ppm) 測定した場合は600~1,000ppm付近にCO2飽和点があることが観察されたが, CO2濃度を下げながら (1,400→400) 測定した場合は1,400ppmでも飽和しなかった. また, 後者はそれぞれの測定濃度での光合成速度において前者を下回っていた.(4) 光合成に好適な温度範囲は20±5°Cであることが推察され, アスパラガスが冷涼な地域に適した作物であることを示していた.(5) 光, CO2及び温度に対する各生育期間 (生育初期, 中期及び後期) の株の反応特性はほぼ共通していた.(6) 光合成の日内変動はポットの状態で測定した場合顕著に見られ午後に光合成速度が低下する傾向を示した. 一方根から切り離した状態で測定した場合はほとんど違いはみられなかった.
著者
宍戸 良洋 熊倉 裕史 堀 裕
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.95-102, 1993 (Released:2008-05-15)
参考文献数
16
被引用文献数
4 4

トマトのソース•シンク関係に及ぼすソース葉やシンク葉の摘除ならびに暗黒処理の影響を明らかにしようとした.その結果,8葉期のトマトでは第3および4葉はそれぞれ,全シンク器官に光合成産物を分配しており,独立したソース•シンク関係を持っていることが認められた.さらに,第3葉は第8葉とは強く,第7葉とは弱いソース•シンク関係があり,第4葉では第8葉とは弱く,第7葉とは強いソース•シンク関係を持っていることが認められた.それらの関係の中で,弱い関係のシンクを摘除してもソース葉からの分配パターンはあまり変化しないが,強い関係のシンクを摘除すると大きく変化するというように,シンクの摘除は二つのタイプの反応を引き起こすことが認められた.1枚のソース葉以外の全てのソース葉を摘除または暗黒処理すると,残ったソース葉からの光合成産物の転流は減少した.この場合,根への分配を減少させても,将来ソースになるべき若い葉への分配を増加させるような分配パターンを示し,シンク葉を暗黒下において光合成を抑制した場合には,この分配パターンの傾向が強まることが認められた.このような反応は光合成産物の転流分配現象における劣悪な条件に対する植物体のサバイバル反応と考えられる.
著者
工藤 暢宏 新美 芳二
出版者
園藝學會
雑誌
園藝學會雜誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.428-439, 1999-03-15
参考文献数
16
被引用文献数
6 13

アメリカノリノキ(Hydrangea arborescens)の有する不良環境適応性を'セイヨウアジサイ'(H. macrophylla)に導入することを目的として, 両種間で正逆交雑を行った.1. H. macrophyllaとH. arborescensの花粉を塩化カルシウムとともに管ビンに入れ, -20, 5および20℃の温度条件で貯蔵し, その後の花粉発芽能力を経時的に調査した.-20℃で貯蔵した花粉の発芽能力は長期間(10∿12か月間)維持されたが, 5℃で貯蔵した花粉は, 5ヶ月で, 20℃で貯蔵した花粉は5日でそれぞれ発芽能力を失った.2. 自家, 種内および種間交配ではどの組合せでも両種の花粉は柱頭上で良く発芽し, 花粉管は花柱内を伸長して子房内の胚珠に達した.3. 自家および種内交配では, 両種とも完熟種子が得られた.しかし, 得られた完熟種子数は品種や組み合わせで異なり, さく果当たり種子数は, H. macrophyllaでは10∿54粒, H. arborescensでは19∿38粒であった.4. 得られた種子をポットと無菌培地に播くと, いずれの場合でも, H. macrophyllaでは58∿85%の発芽率であり, H. arborescensの発芽率は, 14∿52%の範囲であった.H. arborescensの実生の第一本葉には毛茸の発生があり, これが両種の実生を区別する形態的特徴であった.5. 種間交配では, 種子親にH. macrophyllaを用いた場合, わずかに種子が得られ, H. arborescensの場合, 種子が得られなかった.得られた種子を人工培地に無菌播種した結果, 実生が得られた.しかし, これらは幼植物期にすべて枯死した.6. H. macrophyllaを種子親にした種間交配では交配60∿150日後の胚珠を培養して実生が得られたが, 子葉展開後生育を停止しすべて幼植物期に枯死した.一方, H. arborescensを種子親とした種間交配では交配60日後の胚珠を培養して1個体の実生を得たが, 子葉展開直後に枯死した.7. H. macrophylla×H. arborescensで胚珠培養により得た実生の子葉に形成された不定芽を切り取り, BA添加培地で継代した結果, 根系をもつ植物体が得られた.その茎頂部に花粉親のH. arborescensに特有の毛茸が発生したため, 雑種植物であると判断した.再分化植物は生育が緩慢で試験管外では生育しなかった.
著者
中野 有加 渡邉 慎一 岡野 邦夫 巽 二郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.683-690, 2002-09-15 (Released:2008-01-31)
参考文献数
21
被引用文献数
6 6

湿気中根を形成する保水シート耕(WSC区)と水中根を形成する湛液水耕(DFT区)において, 人工気象室内で生育温度条件を15℃, 25℃および35℃の3段階に変えてトマトを栽培し, 根の生理活性や根系形態を比較することにより湿気中根と水中根の温度適応性の違いを検討した.DFT区における液中溶存酸素濃度は飽和量の93%以上で推移した.トマト植物体の生長は, 全ての温度条件下において, WSC区でDFT区より旺盛であった.根系当たりの出液速度は15℃区と35℃区ではWSC区でDFT区より大きかったが, 根乾物重当たりの呼吸速度は常にDFT区でWSC区より大きかった.根系形態は25℃区では両方式で差異はなかったが, 15℃および35℃区ではWSC区でDFT区より側根長および根投影面積が大きかった.また, フラクタル次元は15℃ではWSC区でDFT区より大きく, 根系がより複雑に発達したことを示した.これらの結果から, 湿気中根は水中根に比べて温度適応性に優れ, 不適温度条件下においても根系の拡大・発達と生理活性を維持できるため, 地上部生長の抑制が水中根と比較して小さかったものと考えられる.
著者
土岐 健次郎 勝山 信之
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.853-861, 1995 (Released:2008-05-15)
参考文献数
10
被引用文献数
6 8

サルスベリの花色育種に関する基礎資料を得る目的で, 紅色~紫色の変異機構の解明を試みた. 結果は以下の通りである.1. シアニック系67個体の測色で, 紅色系 (b/a,-0.183~+0.165) と紫色系 (同, -0.785~-0.442) に大別された.2. 生花弁の吸収スペクトル測定では, 紅色系は524~544nm, 紫色系は, 555~570nmにλmaxがあり,紫色系において360nm付近に強い吸収が観察された.また, E360/EVIS.maxとb/aの間には, 高い負の相関(r=-0.897***) がみられた.3. 含有する主要アントシアニンは, 紅色, 紫色ともDp3G, Pt3GおよびMv3Gであった. これら3色素の量比は, 大きく変異するが, 全体でみるとb/a値との間には相関関係はなかった. ただし, 紅色系に限るとMv3G比 (Dp3G比) とb/aには負の (正の) 相関がみられた.4. 花弁細胞液のpHの測定値は, 4.2~5.1の範囲で, 変異した. しかし, これと花色には, 有意な相関はなかった.5. 粗抽出水溶液を酢酸エチルと振って分画し, 水分画に酢酸エチル分画を加えることにより, 吸収極大は長波長側にシフトし, 逆に粗抽出液を酢酸エチルで洗浄することにより, 短波長側に移動した.6. TLC分析により, エラグ酸誘導体と考えられる物質が, 特に紫色花弁に多量含まれることより, この物質がサルスベリの花の青色化に関係する主要なコピグメントの一つであると推定された.
著者
太田 勝巳 森下 進也 須田 浩平 小林 伸雄 細木 高志
出版者
園藝學會
雑誌
園藝學會雜誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.66-68, 2004-01-15
参考文献数
10
被引用文献数
1 34

8種の花卉(トレニア,エキザカム,ベゴニア,グロキシニア,ロベリア,ミムラス,カルセオラリアおよびカンパニュラ)において1.0%キトサンの土壌混和処理および水溶性無機肥料(1.0%キトサンと同量の窒素量となるよう施用)の施与を行い,栽培試験により成長量と開花について調査した.その結果,定植時(種により播種6週間後から13週間後)において,いずれの花卉においても1.0%キトサン土壌混和処理は対照区(肥料,キトサンとも無施与)および無機肥料区に比べて有意に高い成長量を示した.また,1番花開花日については,トレニア,エキザカム,ベゴニア,グロキシニア,ロベリアおよびミムラスにおいて,1.0%キトサン土壌混和処理は他の処理区に比べ,1番花の開花が有意に促進されたことが認められたが,カルセオラリアおよびカンパニュラにおいては促進効果はみられなかった.これはキトサンによるエリシター効果,土壌中微生物相の変化あるいは有機物として直接植物に吸収利用されることによると推察される.
著者
池田 勇
出版者
園藝學會
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.39-45, 1985 (Released:2011-03-05)
著者
加藤 公道
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.278-289, 1984
被引用文献数
1 11

カキ果実をいろいろな条件下でアルコール処理して果実内のエタノール含量を変え (0.00~1.40%), それらの脱渋性及び追熟中の果実成分の変化, 炭酸ガス及びエチレン排出量の変化などを調査した.<br>1. 果実内のエタノール含量が多くなるにつれて, タンニン含量の減少が始まる時期が早くなるとともに減少速度も速くなった.ただし, タンニン含量の減少が始まるまでには一定の期間が必要であり, 20&deg;Cでは約2日であった. エタノール含量の影響は, およそ0.2%ないし0.3%以下で顕著に現れた.<br>2. 果実内のエタノール含量が多いほど, アセトアルデヒド含量も多くなった.<br>3. アルコール脱渋処理により果実のエチレン排出量が増加し, そのピーク値はエタノールガス濃度が濃いほど高かった. 20&deg;Cではエチレン排出量は処理を開始して約1日後にピーク値に達し, これに伴って炭酸ガス排出量の増加が起こり, さらに, 硬度低下及び果皮のクロロフィル含量の減少が促進される傾向が認められた.<br>4. 果肉硬度の低下速度は, 果実内のエタノール含量が0.1~0.2%以下のアルコール処理果と無処理果との間では相違がほとんど認められなかった.<br>5. 果皮のカロチノイド含量は, エタノール含量が0.03~0.20%のアルコール処理果と無処理果との間では相違がほとんどないか, または, 処理果の方がやや緩やかに増加する傾向が認められた.<br>6. 汚損果の発生はエタノール含量が約0.1%以下では少なく, エタノール含量が約0.1%以上で過湿条件, あるいは約0.3%以上でやや多かった. アルコール脱渋処理時の温度では, 低温の方が汚損果の発生が多かった.<br>7. アルコール処理による脱渋時の果実内のエタノール含量は, 脱渋性及びその後の果実の品質からみて, 10~20&deg;Cでは0.1~0.2%, 30&deg;Cでは0.2%前後が適当と判断された.
著者
池田 勇 山田 昌彦 栗原 昭夫 西田 光夫
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.39-45, 1985
被引用文献数
3 58

旧園芸試験場 (現在, 果樹試験場興津支場) における30年間にわたるカキ交雑育種の調査結果をとりまとめ, カキの甘渋の遺伝様式を検討した.<br>1. PCNA同志の交雑からはほとんどPCNAしか生じなかった. PCNAと「PCNA以外」の交雑及び「PCNA以外」同志の交雑からは, PCNAはほとんど生じなかった. これらのことから, PCNAと「PCNA以外」は質的遺伝をし, 前者は後者に対して劣性であると考えられた. PCNAと「PCNA以外」とを交雑して得た後代のPCAをPCNAに戻し交雑した場合には, 15%程度の割合でPCNAを生じた.<br>2. 「PCNA以外」における脱渋性の遺伝は, 育種的にはPVNA, PVA及びPCAの3段階に区分されるしきい形質として, 量的遺伝をするととらえるのが有効であると考えられた. PCA同志の交雑からはPVNAはほとんど生じなかったが, PVNA同志の交雑からはPCAがかなり生じた.<br>3. PCNAとPCAとの交雑において, &lsquo;富有&rsquo;は他のPCNA品種に比べて特異的にPVNAまたはPVAを多く分離した.
著者
土井 元章 小田 尚 小笠原 宣好 浅平 端
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.963-970, 1992
被引用文献数
2 3

順化準備段階(培養最終段階)にあるカラジウム(C3植物),サトウキビ(C4植物),ファレノプシス(CAM植物)を2%のショ糖を含む培地を用いて,全日長,16時間日長,8時間日長下で培養した.半数の培養器に対して,0.8±0.4%のCO2を含む空気を連続通気することでCO2施用を行った.残り半数の培養器では,気相をなりゆきとした。<BR>CO2施用を行わず気相をなりゆきとした場合,CO2施用を行った場合とも,日長が長いほど培養植物の生長は促進された.培養植物にCO2を供給することにより,全日長下で培養したカラジウムを除き,いずれの日長下でも乾物生産が増加した.このCO2による生育促進効果は,主として根に顕著に認められた。<BR>カラジウムとファレノプシスにおけるCO2施用下の培養では,葉身のクロロフィル含量が減少する傾向にあった.しかし,CO2飽和レベルで測定した明期中央におけるCO2の取り込み速度は,CO2無施用の場合に比べて,CO2施用区で大きくなった。<BR>培養器中のO2濃度もまた,培養植物の生長に影響を及ぼした。CO2施用下でO2濃度を37%に高めると,カラジウムおよびデンドロビウム•ファレノプシス(CAM植物)の生長が促進された。<BR>糖を含まない培地でCO2施用を行い培養して得たカラジウムのプラグ苗は,培養時に光独立栄養状態への移行が促されたことにより,慣行の培養方法で得られた苗に比べて,培養終了直後の順化期間中の生育がすぐれていた。<BR>謝 辞 本稿をとりまとめるにあたり,御校閲を賜った大阪府立大学今西英雄教授に謝意を表する。
著者
藤原 隆広 中山 真義 菊地 直
出版者
園藝學會
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.796-804, 2002 (Released:2011-03-05)

キャベツセル成型育苗において、根鉢を乾燥させずに、地上部に適度な水ストレスを与える方法として、育苗後期にNaClを施用する方法を考案し、その実用性について検討した。NaCl処理により、根鉢の浸透ポテンシャルを低くすることで、灌水量を制限せずに育苗時の地上部水ポテンシャルを低く推移させることができた。NaCl処理によって、乾物量を減少させずに草丈と葉面積を抑制し、乾物率の高い苗を生産することができた。また、NaCl処理によって抑制された苗の葉面積は定植後1週間程度で対照区に追いつき、NaCl処理による収量の減少は認められなかった。NaCl処理によるNa含有率の増加に伴い減少したK、CaおよびMg含有率は定植後1週間程度で回復した。NaCl処理によって、クチクラ表面のワックス量が約20%増加し、定植後の苗の水分損失が抑えられた。NaCl処理開始後2日目から気孔コンダクタンスの低下、苗の蒸散量の抑制、水利用効率の向上が認められた。以上の結果、キャベツセル成型育苗における育苗後期のMaCl施用は、根鉢を乾燥させずに、苗の徒長的生育を抑制でき、乾燥ストレス耐性の付与も可能であることから、実用的な技術になりうることを明らかにした。
著者
山下 研介
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.268-272, 1987 (Released:2007-07-05)
参考文献数
13
被引用文献数
3 3

ハッサクの自家不和合性について二, 三の基礎的実験を行い, 次のような知見を得た.1. 自家ならびに他家受粉を行って15分後の成蕾雌ずい中に含まれる糖タンパクを等電点電気泳動で分析したところ, 枯頭, 花柱, 子房のいずれの部位についても, 両受粉区間に差が認められた. しかしながら, その差は受粉後30分におけるほど顕著ではなかった.2. 花柱や子房を切り落した成蕾雌ずいに自家受粉を行っても, 自家花粉管の伸長は促進されず, ほとんどすべての花粉管は柱頭内で伸長を停止した.3. 幼蕾柱頭に, 晩白柚成蕾の柱頭粘液を塗布した後自家受粉を行ったところ, 多数の自殖種子が得られた.以上の結果, ハッサクの不和合反応において柱頭の果す役割が, きわめて重要であることが示唆された.
著者
福島 栄二 岩佐 正一 遠藤 伸夫 吉成 竜也
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.413-421, 1966 (Released:2007-07-05)
参考文献数
21
被引用文献数
3 6

1. 著者らは Camellia assimilis, C. granthamiana, C. hiemalis のそれぞれ1品種, C. japonica の14品 種, C. japonica subsp. rusticana の3品種, C. salicifolia, C. saluenensis のそれぞれ1品種, および不詳の C. spp. 3品種について体細胞染色体数の調査を行なうとともに一部の種については核型分析を行なつた。2. 核型分析の結果は次のごとくであつたC. japonica K(2n)=16V+8J+2Jt+4vC. japonica subsp. rusticana (野生1品種) K(2n)=16V+8J+J1t+J2t+4vC. salicifolia K(2n)=16V+8J+2Jt+4vC. saluenensis (1品種) K(2n)=17V+7J+J1t+J2t+4vC. japonica subsp. rusticana (野生1品種) とC. saluenensisの1品種と推定した“西王母”は核学的調査の結果染色体の構造的雑種あるいは真正雑種である可能性が強い。3. 染色体数の調査結果は第1表に示した。附表として取りまとめた現在までの研究結果に対して, 著者らにより新たに附加された知見は次のごとくである。(i) C. assimilis は2倍体種であること, (ii)C. japonicaにおいて低3倍体 (3X-1=44) および5倍体が見いだされたこと, (iii) C. reticulataの1品種“大谷唐椿”(2n=91) の染色体中には1つの小型過剰染色体が存在すること, (iv) ツバキ系の園芸品種と見られる“手向山”および“梅ケ香”はともに4倍体であること, などである。4. ツバキ属の倍数性系列は2倍体 (2n=30) から8倍体(2n=120)におよび, 染色体数の明らかにされた種の過半数は倍数体種であるか種内倍数性の分化を含む種である。しかも4倍体が意外に少なく3倍体, 6倍体が非常に多いことなどの事実は, ツバキ属の倍数性系列の成立には3倍体が主要な役割をになつてきたことを強く示唆する。ツバキの5倍体品種, ツバキ系4倍体品種 (雑種起源の疑いが強い) の発見は, 倍数体レベルでのツバキの交雑育種に対する強い期待をいだかせる。
著者
建部 民雄
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.86-88, 1951-06-30 (Released:2008-12-19)
参考文献数
7
被引用文献数
1
著者
三浦 周行 山崎 博子 西島 隆明
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.513-517, 1997-12-15
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

ツルムラサキ (Bassela alba L.) 種子を, 低水分レベルに調節した市販の培養土中で処理することにより,出芽を促進できるかどうかを検討した. 培養土 (「新健苗くん140タイプ」, 大塚産業) 500gに水16, 52および100gを加えた. その培養土をセルトレイに詰め, 各セルに1粒ずつ播種し, 培養土の水分レベルを維持した条件下で15あるいは25&deg;Cに異なった期間置いた後, 十分灌水して出芽室 (明期8時間:30&deg;C, 暗期16時間:20&deg;C) に移し, 出芽率を調査した.<BR>15&deg;Cで2~10日間処理した結果, 10日間&bull;水52g区で最も出芽が促進され, 出芽室に移した後2日に出芽が開始し, 5日には63~70%の出芽率に達した. 一方, 無処理区の出芽は5~6日に始まった後, 徐々に増加し, 20日に23~24%となった. 25&deg;Cで3~5日間処理の結果, 5日間&bull;水52g区の出芽率が勝った.15&deg;C&bull;10日間&bull;水52g区と25&deg;C&bull;5日間&bull;水52g区との効果を比較したところ, 前者で出芽速度が速く,20日における芽生えの胚軸長の変異が小さかった.従って, 本実験の範囲ではツルムラサキ種子の出芽促進には, 水52g区 (水分41~45%) の培養土に播種して, 15&deg;Cで10日間処理するのが最適と考えられた.
著者
清水 弘子 市村 一雄
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.449-451, 2002-05-15
参考文献数
10
被引用文献数
3 5

トルコギキュウ13品種の切り花を供試し, 柱頭からやくまでの距離を指標とした受粉のしやすさが, 花持ちに影響しているのか検討した.受粉が花持ちに及ぼす影響について調査したところ, 一部の品種を除いて受粉により花持ちが有意に短縮した.また, 柱頭からやくまでの距離が短い品種ほど, 受粉花の割合が高い傾向がみられた(相関係数 : -0.86).以上の結果より, トルコギキュウの多くの品種において, 柱頭からやくまでの距離により表される受粉のしやすさは, 切り花の花持ちに影響する要因の一つであると考えられた.
著者
本村 敏明 日高 哲志 秋濱 友也 片木 新作 BERFOW Mark a. 森口 卓哉 大村 三男
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.685-692, 1997-03-01
参考文献数
25
被引用文献数
6

カンキツ類縁種には病害虫抵抗性等の有用遺伝子を有するものが多く,育種素材としての活用が期待されている.しかし,カンキツとの類縁関係が遠くなると交雑は困難となる.これを克服する手段として細胞融合が考えられる.ここでは細胞融合法の適用限界を知るために,カンキッとカンツ類縁種の電気融合を行い,融合後の胚様体の発育について調査を行った.<BR>材料には,ミカン亜科カンキッ連のトリファシァ亜連,カンキツ亜連(カンキツを含む),バルサモシトラス亜連およびワンピ連のワンピ亜連とメリリア亜連内の種を用いた.<BR>一般的にカンキッと分類的に近縁な組合わせにおいて雑種個体の作出が容易であった.カンキッ連カンキッ亜連内のカンキッと他の種との電気融合では,多くの組合わせで融合後の胚様体形成,シュートの再分化,発根が容易であった.カンキツとカンキツ連バルサモシトラス亜連の電気融合では,比較的シュートの形成は容易であった.しかしながら,その発根は困難なために,接ぎ木したところ,一部は植物体にまで生長したが,奇形葉を呈するものも多かった.ワンピ連との組合わせの電気融合では,個体再生は極めて困難で,分化しても異常な個体しか得られなかった.カンキッとカンキッ連トリファシア亜連との電気融合では,カンキツとワンピ連よりも類縁関係が近いにもかかわらず個体再生は困難であり,体細胞雑種作出の可能性は低かった.
著者
橋永 文男 長谷川 信
出版者
園藝學會
雑誌
園芸學會雜誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.227-229, 1989
被引用文献数
12

スダチ種子中のリモノイド組成とその含量をUV検出器を備えた高速液体クロマトグラフを用いて分析した.<br>主要なスダチ種子のリモノイドはリモニンで新鮮種子1g当たり2.53mg (全リモノイドの50.3%) であり,つづいてイチャンゲンシン, デアセチルノミリン, ノミリンが多く, さらに少量のイチャンギン, オバクノンが含まれていた. また酸性リモノイドとしてはノミリン酸,デアセチルノミリン酸, イソリモニン酸が認められた.<br>イチャンゲンシンはイーチャンチーのみに特異的に存在するリモノイドであり, スダチ種子がこれを含有していたことはスダチがイーチャンチーを祖先にもつ雑種であるか, あるいは極めてこれに近い品種であることを裏付けるものである. またイチャンゲンシン等のリモノイドはカンキツの分類学に化学的指標の一つとして利用可能であることを示した.