著者
伊藤 貴啓
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.303-326, 1993
被引用文献数
2

本研究は愛知県豊橋市におけるつま物栽培の地域的性格を工業的農業という観点から検討した.つま物栽培農家は豊橋市の市街地隣接地区に集積する.その農業経営は利潤を目的に家族労働力と雇用労働力で経営内分業をしながら,施設化・装置化に基づいた計画的周年生産を特色とした.それによって,生産の季節性,生産と労働の時間的差異や土地の制約という農業の特殊性は克服されていった.また,つま物栽培は土地集約型・労働集約型・資本集約型農業の性格も示した.つま物栽培地域は土地利用の集約性と粗放性,後継者と男子専従者の存在.労働力多投農家の集中,高い土地生産性と労働生産性,高販売金額農家の集中によって特色づけられ,都市化地帯にありながら積極的に農業を維持していた.それは市街地隣接地区という立地をいかした女性労働力の雇用と専門農協の強力な共選共販による大都市圏出荷を基盤としていた・この点から,本地域は輸送園芸産地としての性格も有する.
著者
堀内 義隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.175-187, 1962-04-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
22

1) 環濠集落は古くから研究された集落であるが,今日なお幾分の問題が残されている.奈良盆地全域に分布する多数の環濠は,他府県のものに比べて,地域性において多少の類似性が認められるとしても,低湿地集落と一概に規定することは困難であると考える.少なくとも現在完全な形で残存しているものは,高度的にも機能においても,若干の相異があると思う.盆地の地域性として水旱両側面をあげることができると思うが,少なくとも環濠の継続的条件より考察するとき,旱ばつ環境との関連性が強く,部落によつては主要な用水源であつた. 2) 環濠は部落周辺の用水系統の一環をなすもので,今日完全な形態の環濠においては,部落としての用水統制は厳重である.貯水量はわずかでも繰り返して利用できることは溜池以上で高く評価されるべきである.環濠集落では一般的に用水に恵まれず,他村に依存せねばならない部落が多く,このような地域ではとくに価値は大きい.この環濠は,さらに貯水兼水路的機能をもつ点に,今日まで継続された要因の一つがあると考える. 3) 水利の近代化に伴つて,環濠の機能が主要用水源的立場より,補助水源へと推移して行く傾向がみられ,これに伴つて堀が次第に耕地,道路,屋敷地などに変化している.この傾向は用水の豊富な地域でもつとも早く行なわれたようで,最近では昭和初期頃から強くあらわれてきた.
著者
武田 一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.294-306, 1998-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
49

日本の太平洋沿岸の砂礫質海浜における後浜上限を地形と海浜植物を用いて六つのタイプに分類し,その高度BH(平均海面からの高さ)と海浜堆積物の粒径Dとの関係を検討した.その結果,D<10mmの範囲ではDが大きくなるにつれてBHも大きくなるが,D>10mmの範囲ではDが大きくなるにつれてBHが小さくなること,また,バー海岸のBHはバーなし海岸のBHよりも小さくなることを見出した.後浜上限高度は暴浪時に波が遡上する最大の高度Rmaxに一致するが,Rmaxは暴浪時の波の規模だけではなく,バーの波に対するフィルター効果,汀線砕波波高を規定するステップの規模,および礫の消波効果と関係する.これらの諸要素はDと密接に関連するために,BHもDに大きく左右されることが分かった.
著者
青木 栄一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.349-362, 1969-06-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
2

日本の私鉄はおおむね局地鉄道としての性格をもち,沿線地域の産業活動が鉄道の貨物輸送に直接反映する可能性が高い.このことから私鉄の貨物輸送の実態を全国的,総括的に把握するため,貨物運輸密度(1日1キロ当り貨物平均通過トン数)および輸送貨物の品目構成から明らかにしようと試みた. 考察の結果,日本の私鉄の大部分は貨物品目構成の上で,農産品または林産品,あるいはその両者の発送・および肥料の到着が大きい比率を占める1型(第1次産業基盤の私鉄),鉱産関係品の発着,あるいはセメントの発送が大きい比率を占めるm:型(第2次産業基盤の私鉄),およびI・III型の中間型であるII型の3者に分類することができた.I・II・III各型に属する線区数は調査私鉄113線区 (1955~56年現在,総数の83%に相当)中,それぞれ43 (38%), 17 (15%), 38 (34%)であった.また一般に貨物運輸密度の高い線区では第2次産業生産物およびその関連貨物の比率が高く,皿型に属し9第1次産業生産物およびその関連貨物の比率が高い線区では貨物運輸密度が低い.
著者
松岡 憲知 上本 進二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.263-281, 1984-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
36
被引用文献数
3

日本アルプスの稜線縦断面にみられる起伏と岩質の関係について検討した.花崩岩などの単一の岩種からなる稜線では,起伏は岩盤中の節理の発達程度(密度・結合度)に対応し,突出部ほど節理の発達が少ない.また複数の岩種からなる稜線でも,岩種にかかわらず,起伏は節理の発達程度に対応している。例えば,赤石山脈の堆積岩地域では,チャートや砂岩などの節理の発達の少ない岩石が突出部を構成し,節理の発達の著しい頁岩が鞍部を構成するという対応関係が認められる.節理の発達がとくに著しい断層破砕帯は,深く切れ込んだ鞍部を形成する. 現在の日本アルプスの高山地域では,風化作用の中で凍結破砕作用が卓越している.凍結破砕作用に対する抵抗性の大きさは,主として岩盤中の節理の発達程度に依存している.したがって,現在の凍結破砕作用の進み方は,現在みられる稜線上の起伏の状態と調和的であり,組織地形はより明瞭になっているといえる.
著者
梅田 克樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.133-157, 2001-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
43

本研究は,愛知県みどり牛乳農協の組合員における酪農経営動向に地域的分化が生じた要因を,地域的機能組織の階層的構成に着目して検討した.分析の結果,多頭育化志向の強い組合員が半田市住吉地区に集中する反面,その他の地区では多頭育化志向が弱まる傾向にあった.その要因として, 4次の階層的構成をなす地域的機能組織の存在が挙げられた.その中で,多頭育化を牽引してきた半田市の組合員は,地域的機能組織が担うすべての事業において最小最適規模を達成し,集積の経済を獲得していた.ところが,その結果として知多郡部の第3次機能組織は過小規模に陥り,個別酪農経営の支持効果が著しく低下した.また,住吉地区においては,第2次機能組織である住吉酪農発展会が,技術革新や技術発展を創造する場として機能していた.このように,地域的機能組織による個別酪農経営の支持効果によって生じた地区間格差が,組合員の経営動向に地域的分化を生じさせていた.
著者
渡辺 久雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.631-649, 1961

本研究の目的は,条里制起源が,これに先行する肝晒地割にあることを明らかにし,中国の肝晒地割形式が,朝鮮を経て,古墳時代にわが国に伝来し,条里制の基盤となつたことを,地割形式およびGeo-magnetochronologyの成果より明らかにすることにある.その:解明の順序は1)条里制と5刊百地割, 2) 東亜における磁石・磁針の問題,3)兵庫県下における条里遺構の復原とGeomagnetochronologyの応用とする.<br> (1) 古い地積単位の残存から,条里地割に先行する一種の地割の存在を考える立場は早くからあつた.しかしそれがいかなるものか,いつ頃実施されたものかについては必ずしも明確にされていなかつた.この点に関して,筆者は条里先行地割が,中国の井田・肝階地割と同系のものと考え,その証明として,地割形式を尺度および進法の変遷から検討した,<br> (2) この種の先行地割方式が,いつ頃わが国で開始されたかという,本論文の表題である起源論について,この種の先行地割が古く阡陌地割と呼ばれていた点から,地割の経緯線は常に東西と南北を指している筈だと考え,中国における古代の方位決定法,ならびに磁石・磁針の問題の解決から出発した.その結果,わが国へも,古墳時代すでに司南と呼ばれる一種の簡易Compassが渡来し,阡陌地割の施行に利用されている可能性を認めた,<br> (3) 条里遺構の復原に関して,筆者の年来の疑問点の一つは,条里地割における経緯線方向の区々なることにあつた.その理由に関する従来の解釈に疑義を持つとともに,あらたな解釈として,磁針を用いたことによつて生.じた当時の地磁気偏角に原因すると仮定した.そのテストとして,兵庫県下における条里地割の経緯線方向の測定値を,近年著しく発達したGeomagnetochronologyの偏角永年変化表に照合し,地割が紀元3世紀より6世紀にわたつて施行されたことを知つた.また結果において,河系ごとに地割施行に関する地域的類型の存在をも認めることができた.<br> 最後にGeomagnetochronlogyが,本論文の起源論の根幹をなすものであるだけに,その客観妥当性を若干の吏実との照合によつて試みた.もちろん100%の妥当性があるか否かは,史実自体の側にも問題がある限り明言できぬが,かなり高い信頼度を認めることができた.しかし今後,全国各地における条里地割への適用をはじめ,各方面における妥当性の検証が必要である.
著者
松本 豊寿
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.97-112, 1962-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
13

近世城下町は典形的な身分制都市であり特権都市である.前者から士庶居住区分制が問題となり,後者からは都市域の特権的分化が検討されねばらない. 侍町と町屋は対立する都市域であるとともに経済的には結合せんとする性質をもつ.街村状町屋と団塊状町屋を基本系列とし,これと侍町が結合して最終的には,江戸で代表される4段階と8つのタイプが設定される.これら類型群は同時にまた発達段階をも示すものである.特権都市としての城下町では営業の地域的独占制とそれと関連する同業町の成立が当面の課題となる.とくに特権町人と結ぶ中心街区の町座や株組織の結成は重要で,ここに城下町の中の城下町としての封建的都心が形成される.城下町都心は機能の専門化=同業者集住と機能の複合化=業種の多様性という相反する両面をもち,それをみたすために都心部の膨脹と大型化が促進される.封建的都心には当然のこととして地域差が存在するが,他面城下町自体の大小も問題となる.小城下町では都心と非都心部の地域構造上の断層が著しくなく,それだけ都心の成長と発達はルーズである.
著者
冨田 芳郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.555-563, 1966-08-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
11

これまで天竜川はその中流の中部(なかっぺ)付近で豊川を截頭し,その後に天竜水系の大千瀬川が豊川の旧河谷の風隙からその空谷或は化石谷に沿って頭部侵食による分水移動を行って,現在池場の長さ500m内外,海抜321mの谷中分水で裁頭後の豊川本流の源流と対峙していると考えられている.しかしこの池場の谷の地形を見ると,豊川の截頭前の旧河谷とは考えられず,むしろ西南日本の地体構造における内帯と外帯との境界線をなす中央構造線に沿う断層谷とみるべきで,この戴頭による流路争奪の事実はこの地域の地形発達史の現段階では考えられない.すなわち,池場とその西側の上流河谷の幅は,谷中谷の上谷があるとしても,旧豊川本流河谷としては甚だ狭いし,池場の両側の谷壁は,所謂screesというべき崖錐斜面であり,谷底はU字形の盆谷 (Muldental) で,流路の跡と見るべき河床の地形ではない.また池場の谷底の堆積物は拳大栗実大の亜角礫と粘土質の軟かいmatrixから成り,土石流による無層理又は不整層理の崩れ易い堆積物から成り,裁頭前の豊川の中流性旧河床を立証するような河流堆積層は認められない.ただ池場の谷の東西両側の谷底にそれぞれ現在の小流による小段丘があるだけである.さらに池場の谷の断層は崖錐層の被覆で確認されないが,池場から松平に至る間の流紋岩や石英安山岩には鏡肌を示す節理面があって板状節理を示し,節理面の方向が屡々中央構造線の方向と一致するものがあることから,この構造線に沿う破砕帯と考えられる. 由来断層谷といっても,多くはそこには河が流れて,河蝕が行われるが,この点では池場の谷は純粋な断層谷といえよう.しかし規模が小さいが,ここからENEの天竜川支流の水窪川の西方にあって,明かに中央構造線に沿った断層谷と見るべきものが,18km内外の長さで,佐久間から水窪まで及んでいる.1部は水窪川の支流や天竜小支流の厚地川で削られているが,その谷間では,開析段丘面のような緩斜面は崖錐の堆積面である.またこの谷には河蝕による分水峠があるが,一連の断層谷と見るべきで,池場の谷はその一小部分としての地形はよく似ているので,池場の谷を断層谷と認定して,この谷は戯頭された豊川の旧河谷ではなく,流路争奪の事実を疑うのである.
著者
田中 眞吾 沖村 孝 田中 茂
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.262-281, 1983-04-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
23
被引用文献数
3 3

神戸市中心部の自然的背景は,1,000m近い起伏をもつ山地が直接,海にのぞみ,低平地を欠くといううらみがあった.第2次大戦後の都市発展のための低平地の確保は,このような自然的背景から,市街地の後背山地の開発と,その土砂による前面の海面の埋立てという2面において行なわれた.すなわち,その両面において大規模地形改変が進行した. 背山における大規模地形改変と土砂採取は, 1960年代より急増し,地域的には市街地に近接した六甲山地南麓から次第に西方の丘陵地・六甲山西部山頂地区を経て,より遠隔地へと移動し,開発規模も大型化した.また,これらの開発の事業主体は,主として公共企業体によっているという特色をもっている.このようにして,すでにポートアイランドを代表とする10km2の低平地が得られ,港湾・公共・工業なちびに住宅の各用途に向けられている. これらの事業は,しばしばの大災害属歴をもつ六甲山地や,既成の大人口密集地や伝統産業地区(たとえば灘の酒造地区)などとの深いかかわりあいをもつゆえに,すでに1950年代後半の時期から,環境アセスメント的配慮がなされ,防災・環境保全・景観保全などの諸点から,土取りや土砂輸送などの具体面において,数多くのユニークな方式がとられてきた.これらは,今後の大規模地形改変に際して,種々の示唆を提示しているものと思われる.
著者
千田 稔
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.257-275, 1977-05-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

都市的集落の発生は農業生産力の拡大に伴う社会的余剰の産出が契機になるといわれるが,イングランド南部においては,花粉分析の成果によれば鉄器時代に森林の開拓が見られ農業が進展したことが知られ,その時期に形成された高城 (Hillfort) という防御集落には都市的様相を認めることができる.この高城のうち15エーカー以上のものについては, 13km間隔の正六角形網の領域パターンを構成する中心集落として立地すると解釈でき,さらにこれらの高城群が直径60~80kmの円に包摂されるような領域を形成していたことが指摘される.この領域的規模は部族領域かあるいはそれを分割したものとしてあらわれるが,鉄器時代末期のoppidum (マチ)を中心集落とする領域形成にも継承され,さらにローマ支配時のキヴィタス (Civitas) の空間的広がりにおいても踏襲されるものである.こうした規則性を支える原理については,今後の検討の余地がある.
著者
北田 晃司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.651-669, 1996-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

近代初期の非欧米諸国には,伝統的都市に行政的中枢管理機能,開港地などの新興都市に経済的中枢管理機能が立地するという二元的構造が見られ,それが後の中枢管理機能の立地にも影響した例が多い.本研究は植民地時代の朝鮮を例に,主要都市における経済的中枢管理機能および行政的中枢管理機能の立地を分析し,以下の結果が得られた. 1910年代初頭には,二元的構i造が顕著に見られた. 1920年代後半も大きな変化はないが,伝統的都市でも経済的中枢管理機能,あるいは新興都市でも行政的中枢管理機能を強化した都市が登場した.戦時体制下の1940年代前半には,工業化を背景とした北部の諸都市の経済的中枢管理機能の強化や,新たな官署の立地による都市相互の管轄関係の複雑化により,二元的構造はさらに後退した.このようななかで,京城の圧倒的優位のもとではあるが,北部では平壌,南部では釜山や大邸が,広域中心都市としての性格を持っに至った.
著者
高野 史男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.32, no.12, pp.629-642, 1959-12-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
37
被引用文献数
4 5

最近の各地における急激な都市化現象の進行とともに都市化の研究が学界の関心事となつたが,都市化の概念はまだ確立していない.都市化には都市化のエネルギーがどこからどんな形で作用するかによつて,(1)大都市型都市化,(2)地域中心型都市化,(3)工業化型都市化,(4)在来工業型都市化,の4つの類型がある.現実にはこれらの混合型も多い.これらの諸類型は経済の種々な発展段階に対応して歴史的に形成されたもので,(2)と(4)は産業革命による近代的生産様式の発展以前またはそれと無関係に行われるものであり(前近代的都市化),(1)と(3)は近代的生産様式に基礎をおく近代社会に特有のものである(近代的都市化),とくに(3)は独占資本主義段階においてあらわれる.これら諸類型に共通な点はruralな地域がurbanな地域に変質する過程の存在であり,そこに都市化の本質がある.ここで地域というものを土地と人間との結合によつて成立するものと考えれば,地域のruralからurbanへの変質は土地利用と労働形態との2面に示されることになる.また都市化は近代以後の概念であることからすれば,都市化とは近代産業の発展によつてrura1な地域がurbanな地域へ変質する過程に外ならない.したがつて厳密には近代的都市化のみが真の都市化である.そして都市化は工業化よりも広く近代化よりも狭い概念であるといえる. 地理学における都市化研究は都市化過程の対象(土地利用と労働),主体(資本),原因およびそれらの地域的時間的対比などによつて構成さるべきであろう.
著者
鈴木 秀夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.67-76, 1962-02-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
14
被引用文献数
14 9

最終氷期の周氷河現象が,低い所では,北海道の大部分と,下北半島にみられることを示し,この地形的事実から,当時の気候区界を求めた。これによつて,日本海は,北部を除いては,冬期,凍結していなかつたと推定する。
著者
松本 至巨
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.202-216, 2001-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
41
被引用文献数
1

本稿は東京中心部の緑地を対象にして地形景観,水文景観,植生景観を調査し,これらの諸要素と形成年代を関連させて緑地の自然的景観の地域的特徴を考察した.各緑地の自然的景観を現地調査した結果,自然斜面や原生樹木が武蔵野台地の斜面に残存していた.一方,低地には人工的に造られた景観がみられた.自然的景観から求めた「自然残存度」は台地で高く,低地で低くなっていた.緑地の形成年代を考察すると,低地における緑地の大部分は関東大震災後や第二次世界大戦後に都市的土地利用を改変したり水域を埋め立てた造成地に新たに造られた公園が多く,緑地内部の自然的景観も人工的に造られたと考えられるものが多数を占めていた・それに対し台地の緑地としては,江戸時代に成立した神社と寺院が卓越しており,長い歴史を持っ自然的景観が残存していた.しかし北部の谷中と南部の三田では,樹林や湧水の有無により自然的景観に差異がみられた.台地に分布する緑地には,自然残存度の高い景観と人工的に造られた自然的景観が混在していた.このように東京中心部における緑地内の景観の地域的特徴は,地形・水文・植生といった自然的景観によって規定されていることが明らかになった.
著者
今里 悟之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.394-414, 2001-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
63
被引用文献数
1

本稿では,中国四川省成都市近郊の一村落を対象に,解放前から現在における各時期の社会空間体系の変遷,村境(村落領塚)の画定状況,景観変遷の実態とその規定主体・要因を明らかにした.当該地域の基礎社会は,解放前は院子,集団化期は生産隊,改革開放後は生産隊を継承した村民小組であった.散居の基礎単位でもあった院子は,実質的には同族的な小村であった.成都盆地の社会空間体系は歴史的に流動性が特徴であるが,基礎社会レベルでは主に微地形がその境界基準となり,村境は集団化の過程で属人的要素を基礎として画定された.また,景観変化の規定要因は,国家の政治体制変化,区や鎮の政策,人口増加と経済水準上昇であり,景観維持の規定要因は,微地形と民俗思想(風水思想)の存続である.
著者
林紀 代美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.9, pp.491-511, 2001-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本研究は,下関漁港・商港において,水産物流通の空間構造を解明することを目的とする.この際水産物輸入取扱を含めて,特に集出荷活動に注目して生産から消費の空間全体を検討する.下関漁港は1970年代以降水揚が減少し,漁港市場の集荷では搬入物が増加した.買受人の活動は周辺地域への分荷供給を行う「地廻り」に中心が移った.集出荷地域は周辺地域を中心にほぼ関東以西に広がる.下関商港では,東アジアを中心に貝類やフグなど特色ある輸入水産物を扱う.中継輸送を介して全国出荷する.活動で中心的役割を果たすのは水産物輸入業者である.しかし結節点に関係業者が集積する漁港の集出荷活動の場合と異なり,彼らは必ずしも下関に所在せず,下関の業者に業務を委託する場合もある.両港の活動は一部相互関係を持っが,両港に関わる流通展開は独立している.下関は特徴の異なる港湾,活動空間を並存する水産物流通の空間構造を形成せざるを得ない.
著者
山村 順次
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.295-313, 1969-05-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

温泉観光集落の発達と構造に関する一般的傾向の把握を目的とし,東京観光1次圏内の温泉観光地のうち,俳香保・鬼怒川の両温泉を選定して研究を進めた.本稿では,とくに観光資本の性格の差異とその変質過程とを注目するとともに,温泉観光集落の経済的機能の実態把握に努めた. 近世初期に確立し,歴史性を有した伊香保は,少数の有力地元資本や町当局が温泉地開発のイニシアチブを握って,外来資本に対して閉鎖的姿勢を示し,それゆえ観光産業化のテンポが遅れがちで,観光市場もローカル性で特色づけられた.これに対して,昭和初期に成長した新興の鬼怒川は,地元資本の外来資本導入の開放的姿勢のもとに,交通資本をはじめとする中,観光資本の積極的な観光開発や宣伝活動が展開され,観光産業の高度化や観光市場の広域化を促進させたことが明らかとなった.
著者
野上 道男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.86-101, 1981-02-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
40
被引用文献数
3 1

平野(1966a)によって提案されたモデル, ut=auxx+buxを河川縦断面形の発達過程に適用し,土砂流量 J=-(aux+bu)の面から検討を加えた.上の2階偏微分方程式は移流を伴う拡散過程を表わす式でもある.高度(拡散問題では濃度に相当)を構成するすべての粒子がブラウン運動を行なっているとするか,あるいは土砂流量が勾配に正比例するということを前提として認めるか,このいずれかであれば地形発達過程を(移流のない)拡散過程でアナロジーすることができる.上に凹である河川縦断面形において,上の式の拡散項が堆積を表わし,移流項が侵蝕を表わす.移流項による土砂の流れはその方向が勾配の向きとは逆であり(拡散流はもちろん順方向),移流に相当するものとして,高度に比例するような流量を生じさせるどのような強制力を想定すればよいのか,地形的あるいは物理的解釈が難しい.このように拡散相当項については大きな仮定または前提があり,移流相当項についてはその強制力が何であるか特定できないなど,モデルとしての物理的根拠が薄弱であるという欠点がこの数学モデルにはある.しかし,数学的な形式は整っておりその定常解が,河川の平衡縦断面形として最もふさわしい指数曲線, u=C1+C2 exp(-rx) (ただし, r=b/a; C1, C2……定数)になるという大きな利点がある.そこで,このモデルを多摩川の段丘発達のシミュレーションに適用してみた.段丘面の縦断面形については寿円(1965b)のデータを用い,武蔵野面のそれを初期条件とした.境界条件としては定点である上端の土砂流量で与えることが望ましいのであるが,そうすると問題が不適切となるので,定点の勾配を時間の関数として指定することにした.下端は河口にとったが,河口における勾配一定という条件のもとで,海面高度を時間の関数で指定するという方法によった(自由境界値問題).係数a, bと平衡縦断面形の形状係数rの間にはr=b/aという関係があるが, aまたはbの値は現在の平衡土砂流量の推定値から計算で求め,各時代のaまたはbの値はこの値を基準にしてシミュレーションをくりかえし,平衡土砂流量が不合理な値とならないような値を選んだ. シミュレーションの結果は良好で現実の河川縦断面形の発達をよく表現することができた.たとえば,最上流部のfill-strathing,更新世末の中上流部における古い面へのoverflow,下流部における海面低下に起因する谷地形の形成,後氷期の海面上昇による溺れ谷地形の形成,そして最近7,000年間の堆積の進行による河口の前進などがうまく表現されている.