著者
阿瀬 寛幸 髙木 辰哉 藤原 俊之
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.633-640, 2021-10-15 (Released:2021-10-15)
参考文献数
17

乳がん転移性胸椎腫瘍により切迫麻痺を認めた症例に対し,最小侵襲脊椎安定術前後の入院作業療法を実施した.当初,背部疼痛や神経症状に加え,家事や子育てが行えないことによる精神的・社会的苦痛を認めていた.術前安静時から生活行為の評価を行い,術後の動作指導を円滑に行うことで術後8日目に退院し,家事と子育てに復帰した.術後1年が経過し,役割を変えることなく生活を送っている.乳がんは骨転移後も放射線や化学療法の併用により長期予後が見込めることが多い.術前・術後の症状や生活行為を他職種とともに評価し,骨転移部に対する愛護的な動作指導や環境調整,社会資源の提案など退院後の生活に向けた支援が有効であったと考えられた.
著者
勝山 このみ 髙島 千敬 奥 結季恵 阿部 和夫
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.135-140, 2023-04-15 (Released:2023-04-15)
参考文献数
29

本研究の目的は,パーキンソン病患者の認知機能・前頭葉機能が転倒に及ぼす影響を明らかにすることである.対象は当院で入院加療したPD患者81例,Hoehn&Yahr重症度分類Stage2~4の患者であった.転倒回数により3群に分類し,MMSEおよびFABの総点数との関係について多重ロジスティック回帰分析を用いて解析した.また,Yahr分類とMMSEおよびFAB総点との関係は,Spearmanの順位相関係数を用いて分析した.非転倒群と複数回転倒群のMMSEおよびFABの総点数との間に有意な相関を認め,FABの総点数は,転倒予測因子として抽出され,前頭葉機能低下が転倒と相関していることが示唆された.
著者
穴田 麻紀 甘井 努 新舎 規由
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.60-67, 2023-02-15 (Released:2023-02-15)
参考文献数
21

回復期リハビリテーション病棟へ入院した大腿骨近位部骨折術後患者130例(女性105例,平均年齢82.1±7.8歳)において,退院時の夜間の排泄関連動作の自立の可否とその関連要因を調査した.その結果,退院時に夜間排泄関連動作が自立した者は96例(73.8%)で,自立の可否にてロジスティック回帰分析をおこない,入院時において日常生活活動動作,認知機能,バランス能力が高いこと,失禁を有さないことが有意な因子として抽出された.入院時点で退院時の夜間排泄関連動作の自立の可否を予測することで,機能回復だけでなく介助指導の必要性やタイミングを検討し,早期からの円滑な在宅移行支援が可能になると考えられた.
著者
常深 志子 近藤 健 藤原 香子 中野 美佐
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.250-256, 2023-04-15 (Released:2023-04-15)
参考文献数
20

急性期病院での認知症ケアチームにおける作業療法実践を検討した.認知機能低下を伴う運動器疾患術後の高齢者16名を調査した結果,認知機能改善はMini Mental State Examination-Japaneseではなく,Functional Independence Measure(以下,FIM)cognitiveに認められた.また,FIM motorに改善を認め,行動・心理症状,せん妄,向精神薬内服,テープ付き紙おむつの使用数,身体拘束使用数は減少した.作業療法士の認知症ケアチームへの関わりは,急性期医療における高齢者ケアに役立つことが示唆された.
著者
今井 卓也 小林 昭博
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.242-249, 2023-04-15 (Released:2023-04-15)

右上下肢の運動麻痺と失語症を呈した脳卒中患者一事例に対して,シングルケースデザイン(BAB法)を用いてTransfer Package(以下,TP)の効果を検証した.A期は標準的作業療法(関節可動域練習,課題指向型練習,日常生活動作練習,家事動作練習)を実施,B1期・B2期は標準的作業療法とTPを実施した.結果,B1期およびB2期ではA期に比べ,Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目,麻痺手の使用頻度と動作の質の改善を認めた.TPは失語症患者に対しても有用なアプローチである可能性が示唆された.
著者
寺尾 貴子 冨士井 睦 津田 明子 柴田 八衣子 田村 陽子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.16-25, 2023-02-15 (Released:2023-02-15)
参考文献数
17

当院で脳卒中・脳外傷者の運転再開に向け実車前評価と実車評価を行った218名に対し,その後の運転実状についてアンケート調査を行った.運転再開可能と判断した者のうち,無事故無違反を継続していたのは59名,何らかの事故や違反を経験していたのは21名であった.2群間で実車前評価の結果を後方視的に検討し,統計学的有意差はみられなかったが,無事故無違反群は病前に比べ再開後の週あたりの運転時間が有意に短かった(p<0.05).再開後に無事故無違反を保つには,脳疲労を起こさない範囲の運転時間に留めるよう指導することや,自動車の代替となる移動手段の利用を提案することが重要であると示唆された.
著者
田中 陽一 福井 美晴
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.95-101, 2023-02-15 (Released:2023-02-15)
参考文献数
24

全人工膝関節置換術後(以下,TKA)に身体知覚異常を呈していた症例に対し,目標共有介入に加えて触圧覚識別課題を併用して実施した.約5週間の介入の結果,身体知覚異常の程度が改善し,疼痛強度も軽減した.本症例の介入結果により,TKA後には複合的な評価に基づき,評価結果から適切な治療介入を組み合わせることが有用ではないかと考えられた.
著者
佐藤 晃太郎 石川 隆志 浅野 朝秋
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.276-284, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
21

本研究の目的は,「生活行為相互作用評価表」の開発に向けて,原案作成と内容的妥当性の検討を通して試作版を作り上げることである.経験のある作業療法士10名の協力のもと,Nominal Group TechniqueとDelphi法によって内容を収斂し,その後,健常者80名に試行した.その結果,主対象者や実施方法,評価の視点,結果の解釈などを一部改訂し,試作版が完成した.本評価表には生活行為の相互作用を因果的に捉える特徴がある.生活状況や考え方などの質的評価を深める点,相互作用マトリクスによって生活を俯瞰的に分析する点,協業を促進する点などから,作業療法に活用可能な枠組みであることが示唆された.
著者
小柳津 章允
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.719-724, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
10

複視により,麻痺眼不使用を認めた 70代男性の急性期脳幹梗塞例に対し,視覚と体性感覚の統合機構への治療介入を実践したため報告する.症例は,右眼(麻痺眼)に内転障害を呈し,左方視で複視を認めた.麻痺眼に眼帯使用など片眼遮断にて生活を行っていたが,歩行などに生活の不自由を感じていた症例に対し,上肢運動覚と視覚の統合を用いた治療介入を週5回を限度として,1日20分,期間は9日間実施した.その結果,両眼使用での生活が可能になり,生活の不自由度も改善された.両眼使用により,(麻痺眼)外眼筋の短縮や萎縮など二次的な変化を予防できたことが,良好な結果につながったと考える.
著者
嶺 愛優人 長城 晃一 舛尾 伸広
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.733-740, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
23

【目的】日中の過度な眠気(EDS)により日常生活に制限を呈したパーキンソン病患者(PD患者)に対し,睡眠マネジメントや食事調整など状況に応じた非薬物的介入を探索的に検討した.【症例】60代男性.H&Y重症度分類3度のPD患者で通所リハを利用中にEDSが出現し,日常生活に制限が生じた.【方法】本人と家族に夜間・日中の睡眠マネジメント,食事量の調整を指導し,段階的に運動療法を実施した.【結果】UPDRS Part3は50点から41点.PDSS 2の得点は43点から21点と改善した.【結論】家族の協力を得て生活様式の是正を図り,通所リハで運動療法を実施し,EDSの軽減と日常生活動作が改善した.
著者
木下 亮平 長城 晃一 石附 智奈美 宮口 英樹
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.34-41, 2021-02-15 (Released:2021-02-15)
参考文献数
34

要旨:地域在住高齢者298名を対象に主観的幸福感(Satisfaction with Life Scale;SWLS)と活動の参加状況(Self-completed Occupational Performance Index;SOPI),基本属性(年齢,性別,慢性疾患,婚姻状況,同居者)の関連性を検討した.SWLSへの関連は,SOPI(β=0.415)と年齢(β=0.187)であった(p<0.05).年齢階級別のSWLSとSOPIの関連性は,前期高齢者群(R=0.477),後期高齢者群(R=0.426)に正の関連を認め(p<0.05),超高齢者群に認めなかった(p>0.05).活動の参加状況が主観的幸福感の充足に寄与しており,作業療法の疫学的根拠を拡大する可能性が示唆されたが,超高齢者群には,主観的幸福感促進の活動参加状況に関する調査課題が示された.
著者
中岡 和代 立山 清美 倉澤 茂樹 丹葉 寛之 高畑 進一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.151-162, 2019-04-15 (Released:2019-04-15)
参考文献数
13

本研究の目的は,自閉スペクトラム症(以下,ASD)児の食に関する行動を測定する尺度である「食に関する行動質問紙」の妥当性と信頼性を検討することであった.3〜18歳のASD児を対象に保護者に回答を求める調査を実施し,分析対象者は384名であった.ASD児の平均年齢は9.8±4.2歳,性別は男児301名,女児82名,未回答1名であった.因子分析の結果,5因子42項目となり,因子は【偏食】,【不器用・マナー】,【食への関心・集中】,【口腔機能】,【過食】と命名された.Cronbachのα係数は全体で0.930,5因子において0.781〜0.923であり,「食に関する行動質問紙」の構成概念妥当性,内容的妥当性,信頼性(内的整合性)が確認された.
著者
高浜 功丞 神保 和正 吉村 友宏 安森 太一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.577-585, 2022-10-15 (Released:2022-10-15)
参考文献数
23

上肢機能評価バッテリーGRASSP(Graded Redefined Assessment of Strength, Sensation and Prehension)は,頸髄損傷者を主たる対象とした上肢・手指機能の評価ツールであり,既に海外では北米やヨーロッパを中心に脊髄損傷者の上肢機能評価に多く用いられている.この使用報告がほぼない本邦で,これを用いて脊髄損傷者の上肢機能の評価を行い,信頼性,妥当性,反応性について検証したところ,いずれも先行文献とほぼ同様の結果が得られた.また対象者のADL状況との関連を検証したところ,自助具箸の使用可否との間に有意な関係が示されることが確認された.
著者
学会運営委員会
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.133-135, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)

日本作業療法学会では,「日本作業療法学会の優秀演題賞表彰に関する規程」に基づいて,第53回日本作業療法学会(福岡)から優秀演題が表彰されることとなった.演題査読システムの演題審査得点の上位演題を対象とした一次審査,当日のスペシャルセッションでの発表を対象とした二次審査で,最優秀演題賞と優秀演題賞が厳正な審査によって選出される.
著者
野本 潤矢 石橋 裕 小林 法一 小林 隆司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.706-713, 2019-12-15 (Released:2019-12-15)
参考文献数
8
被引用文献数
1

訪問型サービスC(以下,訪問C)は,介護予防・日常生活支援総合事業の介護予防・生活支援サービス事業の1つであり,ADL/IADL課題の改善を主目標に,3ヵ月程度の短期間で支援を終結させる点が特徴である.要支援2認定のA氏は,作業工程の多さや洗濯かごの運搬距離の長さから,洗濯物を干す動作に努力の増大と効率性の低下を認めた.A氏が少ない疲労で効率よく干すことを目的に,洗濯物干しハンガーの位置変更など,作業遂行に焦点を当てて環境設定や動作方法を中心に助言した.その結果,3回の助言でA氏の作業遂行能力や健康関連QOLが向上した.作業療法士が訪問Cを担うことにより,短期間でADL/IADLの改善につなげることができると示唆された.
著者
宮内 貴之 佐々木 祥太郎 佐々木 洋子 最上谷 拓磨 榊原 陽太郎
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.487-493, 2022-08-15 (Released:2022-08-15)
参考文献数
21

本研究の目的は,Bálint症候群を呈した患者1名を対象に日常生活活動(ADL)で用いられる代償手段を明らかにすることとした.事例は左後頭葉出血で急性期病院に入院中の80歳代女性とした.急性期病院入院中に事例のBálint症候群の重症度に変化はなかったが,ADLは向上し,セルフケアが発症から4週間で自立した.向上したADLでは非利き手を用いた視覚的な手がかりと体性感覚による代償手段を用いていた.このことから,Bálint症候群を呈した患者のADLの再獲得には非利き手を用いた視覚的な手がかりと体性感覚を活用した代償手段の練習が有効であると示唆された.
著者
学術誌編集委員会
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.391-392, 2022 (Released:2022-08-15)

このたび,「学術誌『作業療法』掲載論文の表彰に関する規程」に基づいて,学術誌編集委員会が厳正・公平に選考し,同委員会の推薦を受け会長に承認された第8回の受賞論文が決定したので,以下に掲示する.
著者
池田 晋平 長谷川 裕司 関本 繁樹 王 建人 平井 美佳 芳賀 博
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.427-435, 2022-08-15 (Released:2022-08-15)
参考文献数
28

COVID-19の流行下における行動制限が地域在住高齢者の主観的健康感の悪化に及ぼす影響を検討するため,神奈川県綾瀬市の高齢者を対象に2019年12月と2020年7月に追跡調査を実施した.330名のうち2時点で健康維持(A群)75.2%,健康悪化(B群)7.3%であり,A群・B群を従属変数としたロジスティック回帰分析では,主観的健康感の健康悪化(B群)に「運動器機能の低下(リスクありを維持/ありへ悪化)」,「うつ傾向(リスクありを維持/ありへ悪化)」が影響し,作業療法士が高齢者の主観的健康感の悪化を予防していくうえで,身体の活動性やメンタルヘルスを維持していくことが手掛かりになると考えられた.
著者
小幡 紘輝 鈴鴨 よしみ 宮武 ミドリ 出江 紳一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.407-414, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
34

要旨:ロービジョンとは,見えにくいために生活上の困難を生じている状態を総称した概念である.作業療法士によるロービジョンの評価や介入の実践を文献検索にて調査した.システマティックレビュー,ランダム化比較試験などを対象とし,医学中央雑誌とPubMedのデータベースを用いて検索を行い,66件の論文が抽出された.評価には,視機能や運転適性や住環境調査が含まれ,介入には,個別に対応する問題解決戦略や住環境調整やデバイス処方が含まれた.ロービジョンに対する作業療法の効果を調査している研究はまだ少ない.今後,ロービジョンについて作業療法士への啓発を行うとともに,作業療法の効果を科学的に検証していく必要がある.
著者
葛岡 哲 松岡 太一 川口 敬之
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.340-347, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
13

入院中の統合失調症者に対し,作業機能障害に焦点を当てた介入を行い,リカバリーに与える影響を検討した.評価は作業機能障害の程度,リカバリープロセス,語り,行動,注意サインの出現回数とした.介入は作業機能障害の原因を面接にて共有し,希望する作業を実施するための環境調整や,症状に対する対処プランの作成を協働で行った.その結果,注意サインの出現がなくなり,作業機能障害の改善とともに本人の語りや行動,リカバリープロセスに前向きな変化がみられた.作業機能障害に焦点を当てた介入は当事者の主観的体験を捉え,協働することに貢献すると考えられ,リカバリー志向の作業療法における具体的方策の一つとなる可能性がある.