著者
木村 由貴 竹林 崇 徳田 和宏 海瀬 一也 藤田 敏晃
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.423-429, 2017-08-15

要旨:脳卒中患者は脳卒中によって上下肢の麻痺が生じる.特に上肢麻痺は脳卒中患者のQOLを低下させる.複数の研究者は,分枝粥腫病(Branch Atheromatous Desease;以下,BAD)の上肢の機能予後は,通常の脳卒中に比べ,不良と報告している.今回,我々は入院後2日の間に麻痺の悪化を認めた中等度の上肢麻痺を呈したBAD患者を担当した.急性期から,上肢麻痺に対して対象者の意味のある作業を用いた課題指向型アプローチを提供した結果,上肢機能は臨床上意味のある最小変化を超える改善を認めた.本事例報告では,経過と結果について,BADの梗塞の深さ,梗塞層の大きさ,さらには発症当初の身体機能を用いた予後予測に関する考察を加えて報告する.
著者
上杉 治 山根 伸吾
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.335-343, 2019-06-15 (Released:2019-06-15)
参考文献数
8

本報告の目的は,難渋する高次脳機能障害をもつ事例に対して行った介入のリーズニング過程を構造化し,介入方法の一助とすることである.事例は,左中大脳動脈梗塞後,多彩な高次脳機能障害を呈し,入浴や更衣,家事といった生活障害があった.介入では,本人,家族に面接を行い,Mattinglyの指摘する叙述的リーズニングの視点から捉え,本人,家族の価値を重要視した.また,介入方法を考察する際には,同じくMattinglyの科学的リーズニングの側面から捉えた.結果,事例は更衣,入浴,家事の一部を獲得した.
著者
工藤 梨紗 沼田 士嗣 村田 和香
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.473-480, 2015-08-15

要旨:養護老人ホームへの入所によって役割を喪失し,身体機能およびADLの低下が認められた脳出血後遺症をもつ70歳代女性に,本人が重要と感じている作業に従事することを支援した.提供された作業の成功体験を基に,その他の作業へも挑戦し役割を獲得することで,介助を受ける生活から積極的な生活を送るといった習慣の変化が生じた.この背景には,入院している「夫への報告」という意味のある作業が大きな影響を与えていた.作業療法の経過を振り返り,回数制限のある外来作業療法において,役割を獲得し習慣変化に影響を与える,意味のある作業への支援の重要性を考察した.
著者
今井 忠則
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.611-620, 2016-12-15

要旨:意味のある作業への従事(作業参加)は健康・well-beingにとって重要であるが,その関係性を疫学的に実証した研究は少ない.本研究では作業参加が生きがいに及ぼす影響を明らかにすることを目的に,健康な地域中高年者456名(男性121名,女性335名,平均年齢63.8歳,範囲50〜85歳)を対象に1年間の追跡調査を実施した.作業参加,生きがい,基本属性・社会経済的要因を調査し重回帰分析を行った結果,作業参加が生きがいに肯定的な影響(β=0.35,p<0.001)を及ぼし,1年間では余暇活動,生産的活動,セルフ・ケアの3領域全てで同程度の影響があることが明らかとなった.本研究結果は健康増進・予防的作業療法の基礎的・疫学的根拠の一つとなる.
著者
佐々木 洋子 高橋 香代子 佐々木 祥太郎 宮内 貴之 榊原 陽太郎
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.683-690, 2019-12-15 (Released:2019-12-15)
参考文献数
25

本研究の目的は,急性期脳卒中片麻痺患者の日常生活における麻痺側上肢の使用頻度に影響を及ぼす要因について,基本特性や身体機能,麻痺側上肢の使用方法に対する理解度の観点から,明らかにすることである.対象は発症から1週間以内の急性期脳卒中患者56名とした.多変量ロジスティック回帰分析の結果,麻痺側上肢の日常生活における使用頻度には,上肢麻痺の程度と理解度が影響することが明らかになった.この結果から,急性期の作業療法では,麻痺側上肢の機能改善を図ることに加え,麻痺側上肢の使用方法に対する理解度を評価し,日常生活での使用を促す介入が必要であると考えられた.
著者
平澤 勉 野際 陽子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.536-546, 2013-12-15

要旨:本研究の目的は,うつ病患者に対する作業療法の気分改善効果や不快な思考低減効果と,入院期間の関係を検討することである.対象者は精神科病院に入院中のうつ病患者105名.入院日数90日以内の回復期群と91日以上の慢性期群に分け,作業療法前後の気分および不快な思考体験とその反応を比較し,満足度との関係を分析した.気分と不快な思考の改善効果は回復期群でより良好であり,対象者の満足度に影響を与えていた.入院うつ病患者に対する作業療法において,ポジティブな気分を促す活動,集中をもたらし不快な思考を低減できるような活動の有効性が示唆された.
著者
原田 祐輔 長谷川 利夫
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.324-336, 2014-08-15

要旨:仕事のストレス要因とストレス反応の関連性を明らかにすることはストレス対処に寄与すると言われているが,作業療法分野において,働く領域ごとにストレス要因やストレス反応を比較した研究は見られない.本研究では,訪問リハビリテーションに従事する作業療法士(以下,訪問OTR)・病院に勤務する作業療法士(以下,病院OTR)を対象とした仕事のストレス要因,ストレス反応に関する実態調査を行った.結果として,訪問OTRは,病院OTRと比較するとストレスは低く,メンタルヘルスは良好であるということが示唆された.また,両群共にストレス反応に最も影響するストレス要因として「やりがい・適性」が抽出された.
著者
水野 高昌 鈴木 久義 奥原 孝幸 上原 栄一郎 山口 芳文
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.273-283, 2011-06-15

要旨:作業療法士が行っている感情労働に焦点をあて,作業療法士の業務において求められている感情労働の構成概念を明確にすることを目的に研究を行った.医療施設および福祉施設に従事する100名を選択し調査対象とした.調査方法は郵送によるアンケート調査で無記名の自記式とし,回収されたデータはBerelson Bの内容分析によって分析した.分析の結果,対象者への感情労働は9カテゴリーが抽出された.対象者への感情労働として抽出されたカテゴリーは,先行研究に類似したものと「プログラムの工夫」など作業療法士独自のものも見られ,本研究によって作業療法士が感情労働を行っていることが示唆された.
著者
石川 哲也 野々垣 学
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.307-314, 2012-06-15

要旨:本研究の目的はミラーセラピーが脳卒中患者の麻痺手に対する主観的認識の強度と質に及ぼす影響を調べることとした.対象は発症から2ヵ月以上経過した脳卒中患者3例.方法は通常の訓練に加え1日30分のミラーセラピーを6週間実施した.アウトカムの測定は上肢機能にFugl-Meyer Assessment,麻痺手に対する主観的認識の強度にVisual Analog Scaleを用い主観的認識の質は対象者の語りを聴取した.結果,上肢機能は1例で改善を認めた.また麻痺手の主観的認識は全例で強度の向上と,質の良性変化を認めた.3例の共通点と相違点から,ミラーセラピーは麻痺手に対する主観的認識の強度と質の改善に有効な方法である可能性が示唆された.
著者
塩津 裕康
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.344-350, 2019-06-15

要旨:本報告の目的は,限られた介入頻度でも,Cognitive Orientation to daily Occupational Performance(以下,CO-OP)を用いた介入の有用性を示すことである.方法は,2事例の事例報告で,介入はそれぞれ2回(約1ヵ月に1回)であり,その前後を比較した.結果は,CO-OPを用いることで,粗大運動および微細運動スキルどちらの課題でも,スキルを獲得することができた.さらに,最小限の介入頻度で,スキルの獲得およびスキルの般化,転移を導く可能性が示唆された.結論として,CO-OPの適応児の選定に検討の必要性はあるが,認知戦略を発見および使用できる子どもに対しては,有効である可能性が示された.
著者
外川 佑 村山 拓也 佐藤 卓也 﨑村 陽子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.599-608, 2017-12-15

要旨:本研究では,半側空間無視(以下,USN)軽度3症例の自動車運転評価結果を分析し,評価中の行動面の特徴に加え,運転再開につながる要因を見出すことを目的とした.全症例のBITがカットオフ値以上を示す一方で,シミュレータ検査や実車評価での車両位置偏位,車線左への脱輪,右方向への接触などの特徴が観察された.また,再評価で運転再開可能となった症例では,運転に関する自己認識の改善がみられ,さらに全般性注意機能の改善が方向性注意機能の低下を補完した可能性が示唆された.USN軽度例の自動車運転評価では,シミュレータ検査や実車を用いて,潜在化したUSN症状のみならず,全般性注意機能の低下や病識の問題にも着目すべきである.
著者
藤田 佳男 三村 將 飯島 節
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.233-244, 2012-06-15

要旨:高齢運転者による事故が増加しており,その対策として免許更新時に認知機能検査が行われている.しかし認知機能と運転適性の関連は明らかでない.本研究では日常的に運転している高齢者20名を対象に認知機能検査,有効視野検査,実車評価を行いその実態とそれぞれの関係を調べた.その結果,認知機能検査の成績とは無関係に,ほとんどの者が高頻度に運転していた.また7名が過去1年間に物損事故を起こしていた.年齢や認知機能成績と運転頻度や運転への自信および実車成績との間には関連はなかったが,有効視野成績と実車成績には関連が認められ,有効視野検査は運転適性を予測する指標の1つとして有用であることが示唆された.
著者
吉田 裕紀 向 文緒
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.532-540, 2019-10-15

要旨:本研究では,若年層作業療法士の職業的アイデンティティ(Occupational Identity;以下,OI)に影響を与える因子を検討した.愛知県,岐阜県,三重県で勤務する35歳未満の作業療法士に郵送調査をし,アンケートは,回答者の個人属性,環境属性,OI測定尺度で構成した.その結果,有効回答率は36%となった.統計解析の結果,年齢,臨床経験年数と,OI得点間に弱い相関が認められ,後輩指導経験の有無,取り扱い件数目標の有無,多職種カンファレンスへの参加の有無による,OI得点に有意差が認められた.また,重回帰分析では,臨床経験年数,取り扱い件数目標の有無,多職種カンファレンスへの参加の有無の3因子に対する影響が示唆された.
著者
東 泰弘 松原 麻子 西川 拡志 西川 智子 高畑 進一
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.194-203, 2017-04-15

要旨:国外で標準化されているADL-focused Occupation-based Neurobehavioral Evaluation(以下,A-ONE)の本邦での信頼性と妥当性を検討した.A-ONEは,5領域22項目のADL観察を通して神経行動学的障害を同定する評価法である.信頼性は,4名の対象者のビデオ映像を用い評価者3名で評価者間および評価者内信頼性を検討し中等度以上の一致率を認め,妥当性は,22名の対象者にA-ONEとADL評価および各種高次脳機能検査を実施し両者間に中等度以上の相関を認めた.しかし評価しなかった項目や日本人の生活習慣に合致せず検討できなかった項目があった.今後の課題は,日本版A-ONEを作成し,すべての項目で対象者数を増やし信頼性と妥当性を検討することである.
著者
山崎 せつ子 鎌倉 矩子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.434-444, 2000-10-15

要旨:障害児の親であることを受容した親の適応過程は有用な情報を提供する.今回,自閉症児の親であることを受け入れた母親から,その過程の生活物語(子が6歳に至るまで)を聴取し,育児によせる思いの変遷と変遷を促した要因を検討した.その結果,この母親の思いは不安,闘争,運命への順応,障害の理解と究明への欲求,最適環境の追求,自己肯定と変遷したことがわかった.これらはDrotarらが示した先天奇形児の親の心理適応と大筋は一致したが,この母親の独自性をも示すものであった.思いの変遷を促した要因の中で,日常的出来事,母親自身の内発的力は特徴的だと思われた.一個人の詳細を知ることの意義が示されたと考える.
著者
長谷川 岳
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.556-561, 2016-10-15

要旨:本論は,家族の希望により約7年間長期入所し当施設で最期を迎えた事例に対し,洗濯を通して死去される前まで事例らしく生活を送れるよう援助できた実践の報告である.A氏は衣類の整理にこだわりがあった.そこで,A氏が在宅生活で行っていた洗濯が,役割のある作業になる可能性があるのではないかと考え,導入した.洗濯は,開始してから体調不良時以外,拒否することは一度もなかった.またA氏は家族に自己の存在をアピールするようになり,日々の生活の一部として定着した.また役割をもつことにより,自分が自分らしくいられる礎となった.そして洗濯を最期まで継続して行え,A氏らしく過ごすことができた.
著者
長尾 宗典 小林 隆司
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.637-645, 2018-12-15

要旨:介護保険下の通所リハビリテーション(以下,通所リハ)には,利用者を通所リハから他の社会参加の場へ移行させる役割が求められている.本研究では,以前に通所リハを利用していた脳卒中当時者4名にインタビューを行い,どのような経験を経て通所リハ利用を終了したのか,複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach:TEA)を用いて解明した.4名は生活や身体の改善実感を得て,生活への自信を強めて活動圏を拡大させていた.外部からの働きかけで,4名は通所リハ利用終了後にどんな生活を送るかに向き合った.通所リハ利用終了の際は,本人が送りたい生活実現に向け自己決定するプロセスが重要なことが示された.
著者
佐野 伸之 京極 真
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.229-238, 2016-06-15

要旨:介護予防事業では,高齢者の活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションが期待される.本研究の目的は,デイサービスを利用する217名に対して,作業参加と外出頻度や障害重症度,歩行能力,ストレス反応との関連を検討することであった.研究仮説に基づく構造方程式モデリングでの検証の結果,障害の重さは作業参加に抑制的に働き,作業参加は外出頻度を促し,ストレス反応を抑制する効果があった.また,歩行能力は外出頻度を促す働きがあった.作業療法士は,クライエントの障害重症度に配慮しながら,本人にとって大切な活動への関わりを改善することで,社会参加の充実や精神的に安定した生活に結びつける支援が行えると考えられた.
著者
北村 新 宮本 礼子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.392-402, 2018-08-15

要旨:日本の作業療法領域におけるグラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,GTA)による研究の現状と課題を文献検索で検討した.使用されているGTAの種類の調査,内容分析による研究目的の分類,Consolidated Criteria for Reporting Qualitative Research(COREQ)を使用した報告内容の分析を行った.2001年から2016年にかけて33文献が検索され,GTAの種類は,修正版が21件と最も多かった.研究目的は8カテゴリーに分類され,クライエントやその周囲の人の思い・経験に焦点を当てたものや,家族や他職種との社会的相互作用が挙げられた.報告内容の分析から,研究結果の信憑性や正確性に関わる複数の記載不足が,研究の質を高めるうえでの課題であった.
著者
塩津 裕康
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.81-88, 2017-02-15

要旨:脳卒中を呈したクライエントに対して,Cognitive Oriented to daily Occupational Performance(CO-OP)を基盤とした訪問作業療法を実施した.この実践では,自身の目標であった調理などの作業を,問題が生じない方法を自ら考えながら練習することで,それらの技能も獲得できた.この経験を牡蠣養殖の仕事といった他の作業へ応用することにより,その技能を獲得することができた.在宅における自立支援を考えた際に,自ら問題に気づき対処する方策を獲得することは非常に重要であり,本実践の有用性が示唆された.加えて,一連の技能獲得に麻痺手を有効活用するなどの計画を立てたことで,麻痺側の上肢使用頻度が向上し機能も回復した.