著者
谷口 綾子 香川 太郎 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.329-335, 2009 (Released:2009-08-20)
参考文献数
11

本研究では,都市の中心市街地の商店街において,自動車との接触が歩行者の心理状態に否定的な影響を与えているであろうとの仮説を措定し,その仮説を検証するため,東京都目黒区自由ヶ丘商店街を対象に,歩行者の街路歩行に対する主観的評価と自動車からの物理的干渉を測定する調査を行った.歩行者の主観的評価の指標として「歩きやすさ」「雰囲気のよさ」「楽しさ」の3指標を用い,これらを自動車流入規制のある時間帯と無い時間帯で比較を行うとともに,共分散構造分析による因果構造分析を行った結果,歩行者が自動車から何らかの干渉を受けると,上記3指標が有意に低下することが統計的に示された.これらより,歩行空間への自動車の流入は,歩行者の意識に否定的な影響を及ぼすことが示唆された.
著者
山田 忠史 繁田 健 今井 康治 谷口 栄一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.359-368, 2010 (Released:2010-08-20)
参考文献数
26

本研究は,行政側の物資流動発生メカニズムや物流施策効果の適切な把握,および,企業側の施策理解に資するための,在庫費用を考慮したサプライチェーンネットワーク均衡モデルを提案する.製造業者,卸売業者,小売業者,消費市場,物流業者の分権的な意思決定や行動の相互作用を考慮した既存モデルに,消費市場での商品需要の不確実性に伴い発生する在庫費用を組み込み,各主体の意思決定の定式化,サプライチェーンネットワーク全体の均衡条件,および,その解法を示す.このモデルを用いて簡単な数値計算を行い,消費需要のばらつきや需要情報の共有が,物資流動量(商品取引量,生産量,輸送量)やサプライチェーンネットワークの効率性に及ぼす影響について,基礎的な考察を行う.
著者
柳原 崇男 三星 昭宏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.285-298, 2008 (Released:2008-06-20)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本研究は,全盲者および重度弱視者を対象として,視覚障害者の方向感覚を測定し,視覚障害者用移動支援システムの開発や評価などにおいて,被験者を分類し,評価を行うことを検討した.まず,方向感覚質問紙簡易版(SDQ-S)により,これまでの歩行実験などではなく,簡易な質問紙で方向感覚から歩行能力を測定できることを示した.そして,歩行者音声案内システム社会実験において,方向感覚から歩行能力の高い群と低い群に分類し,評価結果を示した.その結果,方向感覚から被験者を分類し,その評価の有効性を示すことができた.
著者
赤松 隆 佐藤 慎太郎 Nguyen Xuan Long
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.605-620, 2006 (Released:2006-12-20)
参考文献数
23
被引用文献数
26 27

混雑料金制は,理論的には,交通渋滞問題に対する優れた方策である.しかし,その制度の有効な実施に不可欠な(1)利用者情報(需要関数)の正確な推定や(2)渋滞メカニズム(ボトルネック混雑)を考慮した動的料金の設定は,実際には非常に難しい.そこで本稿では,混雑料金制度に代わるTDM施策として,“ボトルネック通行権取引制度”を提案する.そして,この制度の導入により,確実に渋滞が解消するのみならず,通行権取引市場で適切な通行権価格体系が実現し,社会的に最適な状態となることを示す.さらに,その証明を通じて,提案した通行権の設定・取引問題と住宅立地均衡問題の数理的同型性を明らかにする.
著者
林 倫子 神邊 和貴子 出村 嘉史 川崎 雅史
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.246-254, 2010 (Released:2010-05-20)
参考文献数
23

本研究は,明治・大正期に鴨川の河川空間が官有地となり京都府の管理下にあった時期を取り上げ,官有地利用に関する行政文書など当時の史料の読み取りを通じて,料理屋・貸座敷営業者による先斗町の鴨川河岸地と堤外地の土地利用の仕組みを解明した.その結果,[1]当時の先斗町の鴨川官有地は,営業者にとって付加価値の高い場所として認識されていたこと,[2]先斗町の営業者は,河岸地を宅地として隣接する民有地と一体的に利用しており,その地先に当たる堤外には高床構造や床几構造を設け,それぞれ別の契約によって官有地を借用していたこと,[3]営業に用いる河川構造物は営業者が私費を持って設置・修繕を行っており,京都府は一定の節度を持ってその可否決定をなすことで鴨川の河川環境を管理していたことが明らかになった.
著者
奥田 昌男 中根 洋治 可児 幸彦 早川 清 松井 保
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.383-393, 2010

中国が源流といわれる版築工法は土の突固めが工法の要であるから,土の突固め技法が渡来人の持込んだ技術であろうと推察し,土の突固め技法を突固め用小型道具の側面から中国の文献に遡って調査した.滋賀県湖東には,地盤を突固めるための道具として,ぐりんさんと呼ばれる地搗石が残されている.このぐりんさんを用いて地盤の突固め実験をした.実験結果から,ぐりんさんを用いて突固めた土工事の歩掛りを推定すると共に,ぐりんさん伝承の背景を文献史学的に調査した.これらの結果,ぐりんさんによる地盤の突固め効果は,近代的な締固め工法による盛土の締固め効果に劣らぬことが判明し,手作業による土工事の歩掛りも推定できた.また,地搗石伝承の文献調査過程において,ぐりんさんが亥の子突き風習と関係ある事と共に,その語源も推察できた.
著者
小林 潔司 JAAFAR Mohamed Nazari Bin 尾形 誠一郎 塚井 誠人
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.478-497, 2007

インドネシアのスマトラ島の森林火災は,周辺各国における日常的サービスの中断,呼吸器系疾患の多発等の深刻なヘイズ(煙害)災害をもたらしている.マレーシア政府は,大気中の汚染物質量をリアルタイムに観測し,ヘイズ警報を発令するシステムを開発している.ヘイズ警報を発令(解除)するためには,衛星情報と地上観測データに基づいて,将来時刻における大気汚染物質の滞留量を迅速に予測するような統計的予測モデルが有用である.本研究では,レジーム変化(regime switching)と長期記憶性を考慮した統計的時空間モデルを定式化するとともに,ヘイズ災害に関する危機管理情報を作成するための方法論を提案する.さらに,マレーシア半島部を対象としたケーススタディにより,本研究で提案した方法論の有効性を実証的に検証する.
著者
二井 昭佳 齋藤 潮
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.182-189, 2007 (Released:2007-06-20)
参考文献数
20

本論文では,海図に記載の山アテにかかわる海上地名「~出シ」を対象として,「~出シ」とその周辺におけるアテ山の地景の変化に注目し,「~出シ」を特徴付けている地景,その地景が得られる場所と海底地形の対応関係について考察した.その結果,「~出シ」はアテ山の見かけの位置関係が変化するなかで,可視⇔不可視,相接⇔乖離に挟まれてオヤ山とシタ山が関係付けられる地景の持続領域に相当し,その領域が集魚効果の高い海底隆起部とおおむね対応することを示した.また,その領域が海底隆起部の大きさに依存せずおおむね350m以下になることから,数分の移動の間に認識されやすい地景の変化の存在が「~出シ」における山アテの特徴だと指摘した.加えて「~出シ」に対応する地景を12種類に分類した.
著者
片田 敏孝 木村 秀治 児玉 真
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.498-508, 2007 (Released:2007-12-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2 1

近年,ハード対策のみによる防災施策の限界が認識されるようになり,住民の自発的な対応行動による被害軽減のあり方が重要視されるなか,住民の意識啓発の重要なツールとしてハザードマップが位置づけられるようになった.しかし現状は,公表されたハザードマップが住民に認知され,かつそこに表示される災害リスク情報が適切に理解されているとはいえない状況にある.本稿では,洪水ハザードマップを事例に,現状における洪水ハザードマップの運用に係る課題を,住民,行政それぞれの観点から整理した.また,地域防災力の向上には行政と住民とのリスク · コミュニケーションが必要不可欠との認識から,洪水ハザードマップをそのコミュニケーションのためのツールとして活用することの重要性と効果的な運用のあり方について提示した.
著者
小林 潔司 松島 格也 菱田 憲輔
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.299-318, 2008
被引用文献数
2

予約システムは供給制約のあるサービスを申し込み順に家計に割り当てるメカニズムである.本研究では,予約システムの経済便益として,1)家計が将来時点におけるサービス購入オプションを確保する便益と,2)大きな効用を持つ家計に優先的にサービスを割り当てる顕示メカニズムとしての便益に着目する.その上で,単一もしくは複数のサービスが供給される独占市場を対象とした市場均衡モデルを定式化し,予約システムの導入がもたらす経済便益を評価する.その結果,予約システムの導入により企業利潤,社会的厚生は増加するが,家計の経済厚生が逆に減少することを明らかにする.その上で,家計の経済厚生低下を抑止するためには,キャンセル料金の規制が必要となることを示す.
著者
山口 敬太 出村 嘉史 川崎 雅史 樋口 忠彦
出版者
土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.14-26, 2010-01
被引用文献数
1

本研究は,近世の嵯峨野を対象として,紀行文中の風景記述の分析を通じて,1) 鑑賞対象,2) 風景鑑賞時に主体に想起されている過去の風景表現やイメージ,3) 主体の態度や行為,得た印象,を把握することで,嵯峨野における風景鑑賞のあり方を明らかにすることを目的としている.具体的には,眺望や神社仏閣のほか,歌枕・四季の名所の風景,物語・故事の風景,遊びなどの様々な風景記述ごとについて,イメージの追体験,視覚的風景の観賞などの風景鑑賞のあり方とその特徴を示した.その結果,近世の嵯峨野において,地形条件等による景観の多様性と,多様な風景のイメージに合致した景観の状態,さらには多様な風景鑑賞のあり方によって,様々な風景が重層的に生まれていたことを示した.
著者
谷口 守 芝池 綾
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.608-616, 2008 (Released:2008-12-19)
参考文献数
18

交通環境負荷低減のため,都市構造をコンパクト化することが期待されている.本研究では,その役割を最前線で担う地方自治体の都市計画行政担当者を広く対象とし,コンパクト化政策の意義と可能性を伝えるワンショット型レクチャー(OL)を通じて,1) 担当者の態度形成の現状,2) 担当者の態度変容,3) 態度形成の要因分析,4) 行動のための障害を明らかにした.分析の結果,1) 現状では低い態度水準がOLを通じて大きく向上すること,2) 態度形成にはOLの他に知識や経験が深く関与すること,3) 実際に取り組む者ほど現在の「制度」を障害とはせず,4) 実現のための様々な障害も多くはコミュニケーションと学習を通じて解消される可能性があることが示された.
著者
桑野 将司 藤原 章正 塚井 誠人 張 峻屹 岩本 真由子
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.54-63, 2010 (Released:2010-03-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2

本研究では自動車の保有期間と年間走行距離の相互依存性を考慮した自動車保有・利用行動の同時決定モデルの開発を行った.具体的には,2変量間の非線形な相互依存性を取り扱うことができるコピュラ関数を用いた多変量生存時間モデルを構築し,保有期間と走行距離の間に異なる依存構造を表現する正規コピュラ,ガンベル・コピュラ,クレイトン・コピュラ,フランク・コピュラの適用を行った.2006年10月に中国地方の5県を対象に行われたアンケート調査のデータを用いた実証分析の結果,保有期間と年間走行距離の間にクレイトン・コピュラを適用したときモデル適合度が最も高く,利用行動と保有行動の間に負の相互依存性が存在することを明らかにした.開発したモデルの現況再現性は従来の分析手法よりも高く,その有効性が実証された.
著者
土井 健司 中西 仁美 杉山 郁夫 柴田 久
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.288-303, 2006 (Released:2006-07-20)
参考文献数
29
被引用文献数
1

都市インフラ整備においては,適切なスコーピングの下で,様々な価値観に照らした総合的な公益性の判断が必要とされる.本研究では,多様な利害グループの共同利益の同時性という視点から,インフラ整備を評価する手法を開発している.これは個人・社会に跨る多元的な共同利益を表わすQoL概念に基づき,主体の価値観の違いに起因した整備効果の違いを可視化することにより,意思決定の透明性と当事者間の公平性の確保を支援するものである.本稿では,2004年に甚大な高潮被害を受けた高松港海岸の整備シナリオの評価に本手法を適用し,グループごとのQoL改善効果の違いを明らかにした上で,安心安全性,経済活動機会,生活文化機会,空間快適性および環境持続性という5つの要素に基づく総合的な公益性に関する分析を行っている.
著者
羽鳥 剛史 鄭 蝦榮 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.148-167, 2008

本研究では,第3者委員会の実施が,住民のプロジェクト計画に対する信頼形成に及ぼす影響を分析する.その際,第3者委員会の役割として,1)プロジェクト評価情報の集約,2)プロジェクト計画に対する住民の信頼形成,という2つの役割に着目する.その際,公開の場で実施される第3者委員会を,2つのコミュニケーションモデルを統合した連結ゲームとして定式化する.具体的には,行政と第3者委員,行政と住民のコミュニケーション関係を主観的ゲームとして記述する.その結果,連結ゲームでは,委員の戦略的発言により,非効率的なコミュニケーション均衡が実現する可能性があることを指摘する.さらに,第3者委員会の公開制度が有する問題点を克服するための方策について理論的に考察する.
著者
横松 宗太 湧川 勝巳 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.24-42, 2008

自然災害により家財を喪失した家計は,復旧のために自己資金以外に外部資金を調達することが必要となる場合がある.しかし,家計が金融機関から借入れができないという流動性制約に直面する場合,家財の復旧過程が遅延することによる被害が発生する.本研究では,流動性制約下における家計による家財の復旧行動をモデル化し,家財が低い水準に止まることや,復旧過程が遅延することにより発生する流動性被害について分析する.そして,防災投資が「期待被害額の減少効果」のみならず,低所得層の家計に対して「期待部分復旧被害額の減少効果」や「期待復旧遅延被害額の減少効果」をもたらすことを明らかにする.また,災害保険や政府による復旧資金の貸付制度というリスクファイナンス手段が,家計の復旧過程に及ぼす機能について考察する.
著者
劉 建宏 大枝 良直 角 知憲
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.513-524, 2008 (Released:2008-10-20)
参考文献数
21
被引用文献数
7 17

本論文は,パーソナルスペースという概念に基づいて歩行者が他の歩行者と干渉を避け,相互の間隔を保とうとする行動を記述するとともに,路上の障害物や車いす利用者と交錯・回避しつつ行動する歩行者の流動を表現する方法を提案するものである. 本論文で提案した方法は,従来から知られた歩行者流動の特性を良く再現するとともに,より複雑な状況における歩行者流動を推定可能である.
著者
大渕 憲一 川嶋 伸佳 青木 俊明
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.325-339, 2008 (Released:2008-07-22)
参考文献数
23

1902名の市民に対する2度の社会調査によって社会資本整備に対する公共評価の構造を探り,意思決定領域で行政優先,住民優先,手続き的公正,結果領域で事業利益,住民弊害,広域弊害,分配的公正の計7次元を抽出した.現在の政策に対して回答者は全般的に批判的だが,行政優先と事業利益の2次元は満足度と正の関係を,手続き的公正と広域弊害の2次元は負の関係を示した.自民党支持者は事業利益と行政優先の2次元を重視し,弊害,公正さ,住民意思などの次元は軽視した.野党支持者や支持政党なしの回答者はこれと正反対だった.高所得者の評価は自民党支持者と類似していたが,行政に対する信頼は低かった.高学歴者は手続き的公正や弊害を重視する反面,事業利益に注目するなど多面的な評価を示した.
著者
加知 範康 加藤 博和 林 良嗣 森杉 雅史
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.558-573, 2006
被引用文献数
2

本研究では,生活環境質(QOL)が高い都市空間構造を実現するための居住地立地誘導の方向性を見いだす指標として,都市内各地区における居住から得られる生活環境質の評価指標を「余命」を尺度として定義する.定義した指標を用いて財政的持続性および社会的公平性制約下での都市全体の生活環境質最大化問題を定式化し,さらに,これを都市の居住地立地施策に適用するために,生活環境質を市街地維持費用で除した社会的費用効率(S値)を用いた撤退・再集結地区選定の枠組みに展開する.本手法を実際の地方都市に適用した結果,生活環境質自体は中心部より郊外部の方が高いものの,S値は市街地が拡大する前の既存集落部で高くなり,分散集中型への誘導が望ましいことが示される.
著者
出村 嘉史 大住 由布子 川崎 雅史 樋口 忠彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.158-168, 2007 (Released:2007-06-20)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

本研究は,本居宣長という個人の目を借りて,門前町が形成されて京都の中でも有数の名所巡りの景域を形成しはじめる18世紀中葉の「清水祗園あたり」における,行楽の空間の構造を明らかにするものである.予め同時代の地図資料,絵図資料から領域の敷地及び経路の構成を把握した上で,本居宣長の『在京日記』(1752-1757)の全記述から「清水祗園あたり」における宣長の体験内容を読み解き,行楽の拠点となった場所と,宣長の足取りの特性を分析した.その結果,宣長によって経験された同景域における,細かなループ状の経路が幾つも重なりあい社寺境内と門前の両方を渡り歩く路傍に4種類の行楽の拠点が配置されている構造が見出され,それぞれの拠点における場づくりの性質が示された.