著者
藤部 文昭 坂上 公平 中鉢 幸悦 山下 浩史
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.395-405, 2002-05-31
参考文献数
16
被引用文献数
24

東京23区で夏の高温日の午後に起こる短時間強雨について,その発生に先立つ地上風系の特徴や風系と降水系との対応関係を,7年間のアメダス資料と6年間の東京都大気汚染常時監視測定局の資料および4年間のレーダーエコー資料を使って調べた.解析対象は23区内で日最高気温が30℃以上になり午後に20mm/時以上の降水が観測された場合とした.このような例は7年間に16件あり(台風時の1例を除く),そのうち12件では強雨発生に先立って鹿島灘沿岸から吹く東寄りの風と相模湾沿岸から吹く南寄りの風とが東京付近で収束するパタン(E-S型)になっていた.詳しく見ると,東京付近には10〜20kmスケールの収束域が1つないし複数個あり,その後降水系が発達した場所はこれらのうちのどれかに対応していた.E-S型の風系は,晴天日でも東風が吹きやすい気圧配置のもとでは現れることがあるが,強雨日は晴天日に比べ対流圏下〜中層が湿っていて,K-indexや可降水量が大きい傾向があった.
著者
神田 学 森脇 亮 高柳 百合子 横山 仁 浜田 崇
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.713-722, 1997-10-31
参考文献数
15
被引用文献数
31

明治神宮の気候緩和機能・大気浄化機能を熱収支・汚染物質吸収量の観点から定量的に把握することを目的として1996年8月に集中観測を行い, 以下の成果が得られた. 1) 神宮の森の放射収支・熱収支が算定された. 正味放射量の約7割は蒸発潜熱に変換されており, 日中に神宮の森が放出する水分量は, 1秒あたり約150kg (ペットボトル100本分) に達する. また都市域の熱収支 (神田ほか, 1997) と比較することにより, 神宮の森の気候緩和機能が定量的に把握された. 2) ポロメーターにより計測される1枚の葉の蒸散・気孔コンダクタンスは, 計測地点の局所的な気象条件の影響を大きく受けるため, そのままでは群落全体の蒸散量に換算できないことが示された. 3) 晴天日の夕方の一般風が弱まる時間帯において, 0.5ms^<-1>以下の弱い森林吹き出し風の存在が示された. 4) 林冠上における汚染物質の鉛直下向きフラックスを傾度法を用いて算定したところ, 日中の平均値として, O_3は約0.30ppb ms^<-1>, NO_2は約0.11PPb ms^<-1>となり, 神宮の森による汚染物質吸収量が定量的に把握された. 5) 神宮の森で測定した汚染物質の濃度変動特性を検討した結果, 物質によりその挙動が異なった. 特にSPM濃度の日変化は夜間にピークをもち, 近接市街地とは逆の傾向を示す. これは夜間森林上に形成される安定層の影響であることが推察された.
著者
小林 文明 藤田 博之 野村 卓史 田村 幸雄 松井 正宏 山田 正 土屋 修一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.53-64, 2007-01-31
参考文献数
27
被引用文献数
4

2002年10月6日から7日にかけて発達した低気圧の北東進に伴い,各地で突風災害が相次いだ.横須賀市内では10月7日04時頃突風災害が発生した.現地調査の結果,被害は100か所を越える住家で確認され,被害域はほぼ直線的で長さ2.5km,最大幅は約150m(平均で30〜50m)であった.被害スケールはF1から局所的にF2であった.被害域は連続しておらず,かつ蛇行していた.また,最も被害の大きかった公郷小学校付近で被害幅が広がっており,竜巻の複雑な挙動が示唆された.最大風速に関しては,被害が最も甚大であった場所の東端に位置する道路標識から少なくとも風速は34〜38ms^<-1>と見積もられ,被害スケール(F1)を裏付けた.今回の突風は以下の理由から竜巻であったと推測された.地上被害の特徴から,1)被害域の幅が狭く直線的である.2)回転性(低気圧性)の風による痕跡が確認された.3)吸い上げ渦とおもわれる痕跡が2か所確認された.4)吸い上げ渦の痕跡近傍では,実際に体育館の屋根や空調室外機が少なくとも高さ10mは吹き上げられた.上空の積乱雲の特徴は,5)強エコー域の南西端に被害域が対応していた.6)ドップラー速度パターンには直径7kmの渦が上空に確認された.7)このメソサイクロンの影響をうける地上観測点では,1hPaの気圧降下が確認された.横須賀市の竜巻被害は,発達した低気圧の暖域で形成された積乱雲群が広範囲にわたりもたらした竜巻(ダウンバースト)の中のひとつに位置づけられる.
著者
榊原 保志
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.567-575, 1999-09-30
被引用文献数
13

郊外に水田域と果樹園域がある長野県小布施町において,都市ヒートアイランドの特徴を調べるため自動車による気温の移動観測を1996年9月から翌年10月にかけて153回行った.その結果,夜間については,1月・2月の積雪期には水田域が最低温域になったのに対し,5月〜7月と10月〜12月では果樹園域であった.このことから都市そのものが気候に与える要因以外に,都市を取り巻く郊外の土地被覆の違いによりヒートアイランド強度は年変化することが分かった.また,冬季に見られる積雪や夏季における水田域の灌水といった土地被覆の季節変化がヒートアイランド強度の年変化に与える影響は認められなかった.さらに夏季日中のヒートアイランド強度における月平均値及び月最大値は夜間の場合と同程度であることが示された.また,5.4℃を示したヒートアイランド強度の最大値は,Fukuoka (1983)やPark (1987)が示した日本の同規模の都市より遙かに大きく,Oke (1973)により指摘された北米の都市で見られる値にほぼ等しい.
著者
安田 朝明 遠峰 菊郎
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.171-186, 1998-03-31
参考文献数
13

飛行場における降雪の短時間予報のため、地上観測、東京タワーでの観測、筑波山の観測を用いて、関東地方の地上気温の分布、その時間変化、及び大気下層の気温の鉛直分布と降水形態の変化を調べた。その結果、地上と大気下層において雨と雪の混在する気温幅がほぼ一致することが認められた。さらに、事例解析から、地上で比較的に高温、低湿で降雪が始まることが多い場合(タイプ1)と、低温、高湿にならなければ降雪が始まらない場合(タイプ2)に分類した。タイプ1では地上気温が2℃になるとほとんどの降水は雪に変わるが、タイプ2では地上気温が2℃では雨が残ることも多く、地上気温が1℃にならないと降水の大部分が雪に変わりにくい。タイプ1の場合は、アメダスによる地上気温の高度分布によれば気温が0℃付近の高度幅の厚さが薄く、タイプ2の場合は降水量が多く、地上気温が0℃程度の高度幅の厚さが厚いことが確認できた。
著者
中村 みゆき 上甲 実 塚本 修 金森 恒雄 東 克彦 川田 一昭 木邨 弘 亀井 紀男 鎌田 忠彦 筆保 弘徳
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.129-139, 2002-02-28
参考文献数
12
被引用文献数
4

岡山県勝田郡奈義町には標高1240mの那岐山が聳え,台風などが那岐山よりも南側を通過する際に,那岐山の南麓に強い北寄りのおろし風が吹くことがある.「岡山県における局地風研究グループ」は,1999年9月より那岐山山頂での観測を開始し,今日までに「那岐山からのおろし風」を2事例観測した.この2事例と台風が瀬戸内海付近を通過したにもかかわらずおろし風が吹かなかった1事例を比較して,気象条件を詳しく調査した更に,過去において山頂での観測を行っていなかった期間に那岐山よりも南側を通過した台風など,36事例についても調査し,「那岐山からのおろし風」の発生条件をまとめた.その結果,本研究では新たに,那岐山の麓におろし風が吹くためには山頂を越えるある程度の空気の量と上層の安定層の強度にある臨界値が必要だということと,おろし風発生時には風下側山麓の奈義で局所的に気圧が低下することがわかった.
著者
力石 國男 蓬田 安弘
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.773-784, 2006-10-31
参考文献数
27
被引用文献数
2

アメダスデータと高層気象観測データ(期間:1992〜2001年)を解析して,北海道十勝平野の局地的強風である十勝風の特性と発生機構を考察した.十勝風の発生頻度は初冬の11・12月と初春の3・4月に最も高く,最大瞬間風速が15m/sを超える日は月に5〜7日である.総観場の気象条件を調べると,十勝風は北海道東方に低気圧があり札幌上空に強い北西風が吹き込むときに発生している.また札幌では09時段階で大気下層に混合層が発達している.平均的な十勝風には正午過ぎに最も強く夜間に収まるという日変化が見られる.風は北西方向にある狩勝峠方面から吹き,08時頃から急激に十勝平野全域で強まる.また,風速は風下に向かって次第に増加している.一方,帯広では風が強い日ほど日照時間が長く,下層大気が不安定になっている.これらのことから,十勝平野では日中日射による対流が発生し,熱対流が上空の強風を下層に運ぶために地表で強い北西風が吹くと推測される.
著者
山崎 剛 田口 文明 近藤 純正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.71-77, 1994-02-28
被引用文献数
18

積雪のある森林小流域(山形県釜淵)における熱収支を評価した.融雪モデルと流出モデルを組み合わせ,融雪過程と流出過程を再現した.その際,森林内の積雪直上の放射条件に対する植被の影響を考慮した.また,森林小流域を巨視的に,それぞれ一層の植被層と積雪層からなる系と考えることによって,森林から大気への顕熱フラックスを見積もった.その結果,枝葉上に雪がなければ真冬の2月下旬でも40〜60Wm^<-2>の顕熱フラックスが大気へ供給され,大気は加熱されることがわかった.さらに熱収支の様子が,植被の有無によってどのように変わるかについても調べた.
著者
木村 龍治
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.957-961, 2012-10-31
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
柴田 のり子
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.197-205, 2006-03-31
参考文献数
13
被引用文献数
3

2001年8月22日に台風第11号(T0111, PABUK)に伴って埼玉県羽生市で発生したスーパーセル竜巻について,空港気象ドップラーレーダーやウィンドプロファイラのデータを中心に解析を行い,親雲の発生環境・特徴と竜巻の予測可能性について調べた.ウィンドプロファイラのデータから計算した「ストームに相対的なヘリシティ」の推定値はメソサイクロンの発生との対応がよく,関東南部でのスーパーセル発生のポテンシャルを捉えていた.ドップラーレーダーは竜巻発生約45分前からメソサイクロンを観測しており,竜巻が発生したのは,高度2500m以下の大気下層でメソサイクロンの渦度がピークを過ぎて弱まりつつあるときだった.これらの情報を組み合わせることで,竜巻の発生を予測し,対象となる地域に警戒を呼びかけられる可能性がある.
著者
近藤 裕昭 有沢 雄三 鵜野 伊津志 尾形 和彦 木村 富士男 斉藤 朝夫 鈴木 基雄 高橋 俊二 中西 幹郎 中埜 幸宏 水野 建樹 安楽岡 顕 吉門 洋 劉 発華 若松 伸司
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.41, no.11, pp.751-760, 1994-11-30
参考文献数
18
被引用文献数
9

気象研究所,東北大学,国立環境研究所,資源環境技術総合研究所でそれぞれ運用されている局地循環モデルの相互比較実験を,昼間の二次元の海風を対象として行った.地表面の熱的な境界条件を地表面温度で与え,午前6時をスタートとする正弦関数とした.各モデルの固有の接地境界層のモデル化から顕熱輸送量を決定するCASE1と,顕熱輸送量をC_hUΔθで統一的に与えるCASE2の二種類の計算を行ったところ,海風の発達についてCASE1では一致した結果にはならなかったのに対し,CASE2では海風循環の大きさと強さ,地上風速,海風発達後の海風前線の位置について一致した結果が得られた.これより,昼間の海風の発達には地表面からの顕熱輸送量が重要で,これが適切に与えられれば計算された海風の主要な特徴については各モデルで一致することがわかった.
著者
川端 康弘 梶野 瑞王 財前 祐二 足立 光司 田中 泰宙 清野 直子
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.5-12, 2021 (Released:2021-02-28)
参考文献数
53

Visibility is important information not only for meteorological analysis but also for operations of transport and monitoring air pollution. In this study, climatological features of visibility in the Tokyo urban area are investigated. The number of days with low visibility decreases year by year. The factors can be drying in urban areas and the improvement of air quality, and the reduction of suspended particle matters contributes more to improve the visibility than the relative humidity. The visibility shows seasonal changes; during summer, visibility decreases when photochemical smog is likely to occur, whereas the visibility increases in winter. Visibility in Tokyo can be largely affected by anthropogenic hygroscopic aerosols, which decrease visibility when relative humidity is high.
著者
松田 佳久 高木 征弘
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.67-83, 2021 (Released:2021-03-31)
参考文献数
66

金星の軌道に投入された気象衛星である「あかつき」が金星の気象について画期的な情報をもたらしつつある.また,大気大循環モデル(GCM:General Circulation Model)を用いた金星大気の数値シミュレーションも大きな成果をあげつつあり,両者により金星気象学が大きく刷新されつつある.この機会に,金星大気や気象の概要と今までの研究を紹介するとともに,今後の金星気象学を展望したい.
著者
小林 茂
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.113-140, 2019 (Released:2019-03-31)
参考文献数
90

From the beginning of the Sino-Japanese War in 1937 to the end of the WWII in 1945, Japanese military occupied wide areas in East and Southeast Asia and the Western Pacific. Along with the extension of the front, Japanese military's weather surveys replaced existed local ones and interrupted their continual observation. In addition to ground observation, it carried out upper-air observation with pilot-balloon and radiosonde to support its air forces on the basis of the extended survey network. As for the data accumulated up to the end of the WWII by Japanese military, however, it has been believed that they were lost in the disturbances of war and to restore this wartime discontinuity is almost impossible. Scrutinizing book stocks of several institutions at home and in the United States, such as the Library of Congress, the author found not a few unused materials, in which wartime weather data had been recorded. In this paper, following up the wartime vicissitudes of Japanese weather survey, he reviewed instructive cases, where such materials had been rescued successfully, in order to promote the efficient search of buried data in the near future.
著者
甲斐 憲次 浦 健一 河村 武 朴(小野) 恵淑
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.417-427, 1995-07-31
参考文献数
13
被引用文献数
18

本研究では,東京環状八号線道路付近の上空に主として夏季に現れる列状の積雲(環八雲)の発生原因を明らかにするために,出現日の気温・風向・風速・天気図について事例解析を行った.その結果,環八雲は,環状八号線沿いにおいて,夏季の日中に風系の異なる海風の収束によって上昇気流が生じることとヒートアイランド循環によって対流活動が活発になることによって発生する雲であると推定される.都市気候学的視点からみると,環八雲は東京のヒートアイランド循環と東京湾・相模湾の海陸風循環の相互作用として説明することができる.