著者
川尻 啓太 末吉 正尚 石山 信雄 太田 民久 福澤 加里部 中村 太士
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.133-148, 2020

<p>積雪寒冷地の札幌市では路面凍結防止のために,塩化ナトリウムを主成分とする凍結防止剤が大量に散布されている.散布された塩類は除雪された雪とともに,雪堆積場へと集められ,春になると融けて近隣の河川に流れ込む可能性がある.しかしながら,雪堆積場からの融雪水中の塩類の含有量や河川水質,生物への影響はほとんど明らかになっておらず,その実態把握が求められている.本研究では,まず,札幌市内の 73 箇所の雪堆積場における人為由来の塩化ナトリウム含有量の推定をおこなった.次に,2015 年 2 月から 6 月にかけて雪堆積場 7 か所とその近隣河川を対象に,雪堆積場からの融雪水の水質ならびに雪堆積場からの融雪水が流入する上流部(コントロール区)と下流部(インパクト区)における河川水の水質調査,河川に生息する底生動物と付着藻類の定量調査を 2015 年 2 月から 6 月にかけて継続的に実施した.調査の結果,融雪初期において,雪堆積場からの融雪水中の Na<sup>+ </sup>濃度と Cl<sup>- </sup>濃度が河川水の 2~9 倍と極めて高くなる傾向が見られた.さらに同時期のインパクト区における Na<sup>+ </sup>および Cl<sup>- </sup>濃度がコントロール区に比べて 1.56 ± 1.27 mg L<sup>-1</sup>,3.05 ± 2.74 mg L<sup>-1</sup>(平均値±標準偏差)上昇した.生物については底生動物の一部では雪堆積場の負の影響が認められ,トビケラ目の個体数と代表的な水生昆虫 3 目(カゲロウ目,カワゲラ目ならびにトビケラ目)の総個体数はコントロール区よりインパクト区で低い傾向が認められた.積雪寒冷地における河川生態系の保全のためには,融雪開始時期の河川水質の急激な変化を抑えることが重要であり,これにより底生動物への影響を回避することができるだろう.</p>
著者
桒原 淳 今井 久子 出繩 二郎 櫻井 日出伸
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.21-00003, (Released:2021-09-20)
参考文献数
16

臨港道路「霞 4 号幹線」の整備では,高松海岸や干潟の多様な機能の保全を目指し,各種の環境保全対策を実施した.これらのうち,整備に伴い撤去した範囲の海浜植生を復元する,全国的にも少ない技術事例を報告する.復元する植生の配置は,整備撤去範囲外に残る海浜植生との連続性や地形条件を考慮して決定した.また,復元に使用する海浜植物は,復元群落の面積と植栽密度から必要数量を算出し,整備撤去範囲外の海浜植生から調達した.また,復元工事の施工時には,施工業者に対し,復元作業手引書に基づいた現地指導を行った.
著者
速水 将人 石山 信雄 水本 寛基 神戸 崇 下田 和孝 三坂 尚行 卜部 浩一 長坂 晶子 長坂 有 小野 理 荒木 仁志 中嶋 信美 福島 路生
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
pp.20-00043, (Released:2021-07-10)
参考文献数
47

河川上流域に多数設置された治山ダムは,渓流や森林の荒廃を防ぐ重要な役割を果たす一方で,渓流魚の河川内の自由な移動を阻害している.こうした状況に鑑み,河川生態系の保全を目的とした改良事業(魚道の設置,堤体の切り下げ)が国内の多くの治山ダムで実施されている.本研究では,北海道 3 河川に設置された治山ダムを対象に,魚道設置と切り下げによるダム改良工事が,その上下流の渓流魚類相に与える影響について,改良工事前後で行われた採捕調査によって検証した.同時に,ダム改良後の採捕結果と環境 DNA メタバーコーディングによる魚類相推定結果を比較し,治山ダム改良事業における環境 DNA メタバーコーディングを用いた魚類相推定の有効性を検討した.採捕調査の結果,治山ダムの改良事業によって,遡河回遊魚であるアメマスとサクラマスのダム上流への移動を可能にし,10 年後においても効果が確認された.環境 DNA メタバーコーディングでは,採捕された全 9 種に加え,採捕では確認されなか ったニジマスの計 10 種が検出され,治山ダム上下流に設定した各調査地点における遡河回遊魚のアメマス・サクラマスや,ハナカジカの採捕結果との一致率は 70-90 %であった.環境 DNA メタバーコーディングを治山ダム改良事業に適用する場合,評価対象魚種の特性や過去の採捕記録を考慮する必要はあるものの,改良前の治山ダムにおける魚類の遡上阻害の推定や,改良後の河川の魚類相・生息状況の推定に有効であることが示唆された.但し,治山ダムの切り下げを例にとると,遡上阻害の改善効果が維持される期間は工法によって異なる可能性もあり,正確な評価には様々な河川・工法を対象としたさらなる研究の蓄積が必要である.
著者
幸福 智 久保 雄広 北村 立実 松崎 慎一郎 松本 俊一 山野 博哉 西 浩司 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.235-243, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
27

本研究では,全国の一般市民及び霞ヶ浦流域の住民を対象にウェブアンケート調査を実施し,霞ヶ浦が有する生態系サービスについて,選択型実験(コンジョイント分析)を用いて経済価値評価を実施した.選択型実験では,漁獲量(供給サービス)・湖岸植生帯(調整サービス)・希少種(基盤サービス)及び水質(文化的サービス)の 4 つの属性からなる選択セットを提示し,望ましい案を選択してもらうようにした.調査の結果から,生態系サービスが劣化した状態,現状及び 2040 年の将来の値(良好な状態)の水準の値を設定し,値の変化に対する支払意思額(WTP)を求め,これに人口を乗じて生態系サービスの経済価値を求めた.霞ヶ浦の生態系サービスに対する経済価値は,現状は全国では 1 兆 302 億円,県では 253 億円,流域では 70 億円, 2040 年の将来(望ましい状態への改善)の場合は,全国では,1 兆 4,264 億円,県では 324 億円,流域では 89 億円という結果となった.
著者
西 浩司 久保 雄広 北村 立実 松崎 慎一郎 松本 俊一 山野 博哉 幸福 智 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.245-256, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究では,ベスト・ワースト・スケーリング手法(BWS)を用いて,霞ヶ浦が有する代表的な生態系サービス(農産物,水産物,飲料水等の供給サービス,気候の調整サービス,観光,景観等の文化的サービス,多様な動植物の育成等の基盤サービス)の重要度を明らかにすることを目的として,全国及び霞ヶ浦流域を対象にしたウェブアンケートを実施した.BWS では,霞ヶ浦の生態系サービス(恵み)の組み合わせを変えて選択肢として提示し,最も重要と思うもの(Best)と最も重要でないと思うもの(Worst)を選んでもらうことを複数回繰り返すという方法で実施し,Best と Worst の選択回数の比率を生態系サービスごとの重要度の評価の指標とした.霞ヶ浦については調整サービスの「水質の浄化」,供給サービスの「水の供給」,基盤サービスの「生物の生息場所」など,湖沼の水環境保全により維持される生態系サービスが重要と評価された.この結果を食料の供給(農産物,水産物)とのトレードオフの可能性も踏まえて,今後の施策の検討へ反映することが必要と考えられた. また,今後の観光振興策の検討に資する情報を得るために,同じ手法を用いて霞ヶ浦周辺の観光地を訪れている人に現地アンケートを行い,生態系サービスの重要度を評価した.「農産物」,「水産物」に加え「生きもの」が重要と評価されたされたことから,生きものの保全をブランド化した産物の創出等が振興策として有効ではないかと考えられた.
著者
川尻 啓太 末吉 正尚 石山 信雄 太田 民久 福澤 加里部 中村 太士
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.133-148, 2020-03-28 (Released:2020-04-25)
参考文献数
34

積雪寒冷地の札幌市では路面凍結防止のために,塩化ナトリウムを主成分とする凍結防止剤が大量に散布されている.散布された塩類は除雪された雪とともに,雪堆積場へと集められ,春になると融けて近隣の河川に流れ込む可能性がある.しかしながら,雪堆積場からの融雪水中の塩類の含有量や河川水質,生物への影響はほとんど明らかになっておらず,その実態把握が求められている.本研究では,まず,札幌市内の 73 箇所の雪堆積場における人為由来の塩化ナトリウム含有量の推定をおこなった.次に,2015 年 2 月から 6 月にかけて雪堆積場 7 か所とその近隣河川を対象に,雪堆積場からの融雪水の水質ならびに雪堆積場からの融雪水が流入する上流部(コントロール区)と下流部(インパクト区)における河川水の水質調査,河川に生息する底生動物と付着藻類の定量調査を 2015 年 2 月から 6 月にかけて継続的に実施した.調査の結果,融雪初期において,雪堆積場からの融雪水中の Na+ 濃度と Cl- 濃度が河川水の 2~9 倍と極めて高くなる傾向が見られた.さらに同時期のインパクト区における Na+ および Cl- 濃度がコントロール区に比べて 1.56 ± 1.27 mg L-1,3.05 ± 2.74 mg L-1(平均値±標準偏差)上昇した.生物については底生動物の一部では雪堆積場の負の影響が認められ,トビケラ目の個体数と代表的な水生昆虫 3 目(カゲロウ目,カワゲラ目ならびにトビケラ目)の総個体数はコントロール区よりインパクト区で低い傾向が認められた.積雪寒冷地における河川生態系の保全のためには,融雪開始時期の河川水質の急激な変化を抑えることが重要であり,これにより底生動物への影響を回避することができるだろう.
著者
土岐 範彦 大杉 奉功 中沢 重一 鎌田 健太郎 熊澤 一正 浅見 和弘 中井 克樹
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.37-50, 2013-09-30 (Released:2013-11-29)
参考文献数
11
被引用文献数
3 1

福島県阿武隈川水系三春ダムの蛇石川前貯水池は,水質保全を目的として設置した前貯水池の一つであり,2006 年にはオオクチバスが優占していた.2006 年 10 月に水質保全の試験のため,前貯水池内の水を抜き,湖底を 2 ヶ月間干し上げた.その際,魚類の全量捕獲を行い,捕獲したオオクチバスは駆除し,在来魚等は再放流した.魚類の捕獲は前貯水池内で 2 箇所,前貯水池堤体下流で 1 箇所の計 3 箇所で行ったが,捕獲状況からオオクチバスは貯水池内に広く生息している傾向が示唆された.一方,ギンブナの小型個体は貯水池堤体近くの深いところに集まっている傾向がみられた.また,ギンブナとコイの大型個体はダム流入部付近の水深 2 m 以浅に生息している傾向がみられた.水抜きの 2 年後にはオオクチバスの個体数割合は 2006 年と同等になった.これは,流路沿い等に取り切れなかった個体が存在した可能性等が考えられる.他の事例同様,複数回の水抜きを行わないと完全駆除は困難と考えられた.
著者
海部 健三 竹野 遼馬 三田村 啓理 高木 淳一 市川 光太郎 脇谷 量子郎 板倉 光 石井 潤 荒井 修亮
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.73-82, 2019-07-28 (Released:2019-09-10)
参考文献数
28
被引用文献数
1

ニホンウナギは重要な水産資源だが,現在個体群は減少し,環境省および IUCN によって絶滅危惧種に区分されている.個体群を回復させるための対策が求められているが,その生育城である河川や沿岸域の環境をどのように回復すべきか,知見は限られている.本研究では成育場である河川や湖沼,沿岸域の環境の回復策に資することを目指し,福井県久々子湖において,超音波テレメトリー手法を利用して,ニホンウナギ 10 個体の行動を追跡した.超音波発信機を挿入した個体を放流した後,全ての個体が測位可能範囲内で測位された.明け方(4:00-6:00)および昼(6:00-18:00)に測位された個体は少なかったが,夕方(18:00-20:00)および夜(20:00-翌4:00)にはほぼ全ての個体が測位された.位置が確認された時間の長さは個体ごとに大きく異なり,最も短い個体で 0.3 時間,最も長い個体で 102.3 時間,平均は 16.5 時間であった.調査期間全体の湖岸エリア(水際から 50 m 以内)と沖エリア(水際から 50 m 以遠)の滞在時間比と面積比を個体ごとに比較した結果,6 個体で有意差が検出された.このうち 4 個体は湖岸エリアの滞在時間比が大きく,2 個体は沖エリアの滞在時間比が大きかった.湖岸エリアに滞在しなかった 1 個体を除き, 9 個体について湖岸を石積み護岸エリア,ヨシ帯エリア,コンクリート護岸エリアに分けて,各エリアの滞在時間 比と面積比を比較したところ,全ての個体で有意差が検出された.このうち 7 個体では石積み護岸エリアの滞在時間が最も長く,ヨシ帯エリアの滞在時間が最も長い個体と,コンクリート護岸エリアの滞在時間が最も長い個体が,それぞれ 1 個体ずつ見られた.湖岸を利用する個体については石積み護岸を選択する傾向が見られたが,沖および湖岸の利用は個体ごとにばらつきがあり,一定の傾向は確認されなかった.
著者
海部 健三 竹野 遼馬 高木 淳一 市川 光太郎 脇谷 量子郎 板倉 光 平江 多績 猪狩 忠光 三田村 啓理 荒井 修亮
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.83-92, 2019-07-28 (Released:2019-09-10)
参考文献数
27
被引用文献数
5

鹿児島県水産技術開発センターの所有する人工池(21.2 m × 36.0 m,水深1.1 m)において,間隙を持つ石積み,および,間隙が埋められた石積みを作成し,超音波テレメトリー技術を利用してニホンウナギ 8 個体の行動追跡を試みた.砂泥底の実験池内に直径約 1 m,高さ約 0.7 m の円錐型に,石積みを6 基設置した.石積みのうち 3 基に関しては,実験開始 9 日後に砂泥を用いて石材の間隙を塞ぎ,その 26 日後に砂泥を除去した.行動追跡実験の供試個体としてニホンウナギ 8 個体を用い,ピンガーを腹腔に挿入して実験池に放流した.8 台の受信機を用い,個体ごとに 1 時間単位で二次元カーネル密度推定を行い,実験期間中のニホンウナギの存在位置を推定した.間隙のある石積みに定位する個体が確認されたが,定位する環境は個体ごとに異なるだけではなく,同一個体であっても,利用環境は時間の経過と環境改変とともに変化しうることが確認された.また,石積みの間隙を砂泥で埋めることによって,定位環境としての石積みの利用は激減した.複数個体が同一の石積みを利用することは少なく,個体の侵入によって,別の個体の石積みの利用が制限される可能性が示唆された.さらに,実験中にニホンウナギが砂泥に潜る行動が観察され,実験期間中には巣穴と考えられる構造が確認された.既往研究によれば,石の間隙が砂泥で埋まる要因として,土砂供給の減少と流量の安定化が考えられる.ダムなどの河川横断構造物が土砂供給の減少と流量の安定化の要因の一つとされており,ニホンウナギの生息環境の改善のためには,これらの問題に対する適切な対処が必要と考えられる.
著者
藤原 結花 内田 有紀 川西 亮太 井上 幹生
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.91-105, 2014
被引用文献数
2

愛媛県の重信川中流域に点在する灌漑用湧水池の魚類群集を,約 10 年を隔てた 2 時期 (1998-1999 年と 2008 年) 間で比較し,護岸改修工事やオオクチバスの定着が魚類群集にどのような変化をもたらしたかについて検討した.調査地である 11 の湧水池のうち 2 つが 2000 年以降に護岸改修 (素堀りから石積み護岸への改修) が施されたもので (改修湧水池), 別の 1 つは 1999 年においてオオクチバスの定着が確認されていたものである (バス湧水池). 出現種数,種構成,種毎の生息密度,および岸部の状態,底質,カバーといった環境要素を比較した結果,バス湧水池では,オオクチバス以外の種が激減するという大きな変化が認められた.このような顕著な変化はバス湧水池に特有のものであり,また,その 10 年間で環境要素に際立った違いは認められなかったことから,バス湧水池で見られた他魚種の激減は,オオクチバスによるものと考えられた.一方,改修湧水池では,改修工事に伴う大きな環境変化が示されたものの,魚類群集には顕著な違いは認められなかった.1 つの改修湧水池では種数は減少したが,もう一方の改修湧水池では増加していた.また,両改修湧水池で生息種の入れ替わりや生息密度の増減が認められたものの,そのような変動は他の非改修湧水池で見られた変動と同程度であった.それぞれの湧水池における各魚種の増減を総じて見た場合,生息密度が増加した例が 32 に対して減少したのは 56 例であり,全体的には減少傾向にあった.この減少傾向は,2008 年におこった水位低下による一時的な減少を含む可能性があるが,ヤリタナゴとタモロコの減少傾向については注意を払う必要があると思われた.これら 2 種は,以前生息していた湧水池の全て (ヤリタナゴ 6 池,タモロコ 2 池) から消失しており,これらの分布域や個体群サイズの縮小が示唆された.また,このことが氾濫原水域や農業水系網全体の劣化を示唆する可能性があることを指摘した.
著者
香川 尚徳
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.141-151, 1999-11-19 (Released:2010-03-03)
参考文献数
72
被引用文献数
7 5

本総説では,はじめに,過去20年間に提唱された河川生態系に関する三つの重要な概念すなわち,河川連続体,不連続結合,栄養素らせんの各概念と,それらの概念によるダムの取り扱い方とを概観した.次に,これらの概念に基づき,ダムを河川連続体に対する不連続発生の場とみなす立場で,ダムによる河川水質の変化,すなわち,不連続発生の実状を,ダム下流の河川生態系に及ぼす影響を考慮しつつ,水温,粒子状物質,クロロフィルa,栄養素,嫌気的水質環境の5項目について検討した.最後に,不連続軽減対策について,ダム湖水の滞留時間を短くして河川的性質を保つことは必ずしも出来ることではないので,下流の生態系に重大な影響を与える水質変化を中心に不連続発生を軽減することが現実的であると考察した.特に,自然に備わった水の動きや物質を利用することが望ましいとの観点に立って,富栄養化対策における二つの方法,密度流と選択取水の統合的利用と分解中の麦藁や落葉落枝が示す藻類増殖阻止作用の利用とを今後の検討課題にあげた.
著者
岩木 晃三 佐藤 宏明
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.115-127, 2006-12-20 (Released:2008-07-18)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

本研究では, 渡良瀬貯水池での水質改善を目的とした水位低下・干し上げによる鳥類個体数への影響の有無を, 人為的な水位変動のない自然湖沼との比較によって明らかにすることを目的とした.調査は, 2004年1月26日から5月15日までに渡良瀬貯水池, 多々良沼, 城沼など9ヶ所において水鳥類を対象に85回の個体数カウントを行い, 渡良瀬貯水池と比較しうる結果が得られた多々良沼と城沼の個体数の増減をを分析した. 分析対象はオナガガモを除くカモ科およびカイツブリ科鳥類とした. 併せて, 種数と出現種の変化にも注目した.各期別すべてで3池沼の個体数変化率に有意差がなかった. また全調査期間では, 渡良瀬貯水池と多々良沼に有意差がなく, 渡良瀬貯水池と城沼に有意差があったが, 城沼の傾斜がより強かった.渡良瀬貯水池で水位低下期から干し上げ期に記録されなくなった種があり, 多々良沼と城沼でも記録されなくなった種があった. 渡良瀬貯水池では, 最低水位維持期と干し上げ期にサギ科, チドリ科, シギ科, カモメ科などの渉禽類および魚食猛禽類のミサゴで新たな記録や個体数の増加がみられた. 多々良沼と城沼では, 同じ時期に個体数が顕著に増加した種はなかった.以上のことから, 水位低下期から満水期においてみられた個体数の減少に関しては, 水位低下・干し上げの影響は少なく, 自然条件下における季節的移動 (渡去) が主原因であったと考えられる.
著者
棗田 孝晴 大木 智矢
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.119-125, 2014
被引用文献数
4

千葉県北東部の谷津田で,トウキョウサンショウオ (<i>Hynobius tokyoensis</i>) の産卵場の分布と産卵場の周辺環境に関する調査を 2012 年に行った.3 月中旬から 4 月下旬にかけて 50 か所の産卵場が確認された.産卵場ごとの発見卵嚢数は 1 ~ 52 個の範囲 (平均 9.4 個) で,卵嚢数 10 個未満の少規模産卵場が全体の 70%以上を占めていた.産卵後の成体の再上陸および幼生の成長・変態後の上陸に関係すると考えられる水路幅,水深,堆積物深さ,斜面林距離,水路岸の勾配及び産卵場の面積の 6 変数を基にした一般化線形モデルの解析結果から,斜面林距離が本種の卵嚢数に有意な負の影響を及ぼすことが示された.変態後の幼体及び成体の通常の生息場所である斜面林と産卵場である水場との間の空間的な連続性を微視的スケールで保持することが,本種の個体群を存続させる上で重要と考えられた.
著者
澤邊 久美子 夏原 由博
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.69-78, 2015-12-28 (Released:2016-02-01)
参考文献数
41
被引用文献数
1 3

大阪府堺市において,丘陵地から平野部を含む 47 地点の調査地点を設け,本種の営巣調査を行った.草地のパッチスケールの要素(植物高,パッチ面積,草地タイプ,営巣植物被度)と,景観スケールの要素として半径 20,50,100,200,500 m のバッファ内における 5つ(樹林地,空地,水田,畑,草地)の土地利用の面積比率を説明変数とした.本種の生息に影響する要因とそのスケールを明らかにするため,巣の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析により,5 つのバッファごとに本種の生息確率を示すモデル選択を総当たり法で行った.営巣調査の結果,47 地点のうち 14 地点で巣を確認した.このうち攪乱が少ない草地タイプと,営巣植物の平均被度が高い草地で巣の確認地点数が有意に多かった.ロジスティック回帰分析の結果,総当たり法により最小 AIC との差が 2 未満のモデルについて検討した.その結果,本種の生息に影響を及ぼす空間スケールは,半径 500 m あるいはそれ以上であること,さらにそこに占める草地と水田の面積が生息に正の影響を及ぼす要素であることが明らかとなった.以上から,本種の生息適地は,行動圏よりも広い半径 500 m 以上のスケールで,草地と水田が多く存在する景観であり,その草地は営巣植物となるイネ科草本が優占する植生を維持するため最小限の攪乱を加え維持管理する必要がある.これらの条件で,小規模な半自然草地において本種の生息適地を把握し保全策を講じることが求められる.
著者
熊澤 一正 大杉 奉功 西田 守一 浅見 和弘 鎌田 健太郎 沖津 二朗 中井 克樹 五十嵐 崇博 船橋 昇治 岩見 洋一 中沢 重一
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.171-185, 2012 (Released:2013-04-24)
参考文献数
30
被引用文献数
3

福島県阿武隈川水系三春ダムの蛇沢川前貯水池において,岸に平行して定置網を設置し,人為的に水位低下させることで魚類を網内に集結させて魚類を捕獲した.フィールドとした三春ダムは制限水位方式のダムであり,非洪水期 (10 月 11 日 ~ 6 月 10 日) から洪水期 (6 月 11 日 ~ 10 月 10 日) にかけて,貯水位を 8 m 低下させる運用をしている.捕獲試験は,2007 年 ~ 2011 年に実施した.捕獲した魚類のうち,外来魚のオオクチバスとブルーギルは回収し,それ以外の在来魚等は再放流した.オオクチバスの大型個体は,前貯水池と本貯水池の連結部 (幅 5 m) で多く捕獲でき,これは繁殖のために遊泳している個体と考えられた.一方,ブルーギルはこの時期は遊泳せず,浅い場所に集まっていた.水位低下を利用した定置網での捕獲の結果,オオクチバスと 2 歳魚以上のブルーギルは年々減少し,ギンブナをはじめとする在来魚等は増加傾向であった.在来魚等の若い個体が継続的に生産・維持されることが水域の魚類群集のバランスを保つ上で重要である.蛇沢川前貯水池では,2010 年以降,貯水池内で繁殖したギンブナ,コイの若い個体が顕著に増加しており,捕獲による駆除の効果と考えられる.
著者
牛見 悠奈 宮武 優太 筒井 直昭 坂本 竜哉 中田 和義
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.79-86, 2015-12-28 (Released:2016-02-01)
参考文献数
18
被引用文献数
8 5

北米産外来種のアメリカザリガニは,在来生物の捕食などを通じて,在来生態系に深刻な影響を及ぼしている。 また,本種が掘る巣穴が水田漏水の原因になるなど水田管理上の問題も引き起こしている。このため,本種は緊急対策外来種と日本の侵略的外来種ワースト 100 に指定され,効率的な駆除手法の開発が求められている。 そこで本研究では,水田水域や河川・湖沼等に定着したアメリカザリガニの駆除に用いる人工巣穴の適したサイズを明らかにすることを目的として,本種による人工巣穴サイズ選好性実験を実施した。灰色の直管型の塩ビ管を人工巣穴とし,内径と長さの異なる人工巣穴をアメリカザリガニに室内水槽内で選択させた。その結果,人工巣穴の内径については,全長(X, mm)と好んで選択された内径(Y, mm)の間に Y=0.58X+4.26 という有意な回帰式が得られた。人工巣穴の長さについては,全長の 4 倍の長さの巣穴が好んで選択された。以上の結果をもとに,アメリカザリガニの駆除に用いる体サイズ別の人工巣穴サイズを提案した。
著者
川尻 啓太 森 照貴 内藤 太輔 今村 史子 徳江 義宏 中村 圭吾
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.23-32, 2023-07-31 (Released:2023-09-01)
参考文献数
56

近年,河道内の樹木が定着範囲を拡大させる「樹林化」が日本全国で生じている.治水対策として,樹木の伐採に加え高水敷を掘削する対策が実施されているが,掘削後にヤナギ類等の樹木が再び繁茂する事例が報告されている.効率的な樹木管理を実施する上で,掘削後に再び樹林化することを考慮した管理計画が求められる.しかし,どの程度の速さで再び樹林が拡がるかについての知見は乏しい.本研究では,26 箇所の掘削地を対象として,掘削後に撮影された衛星写真と空中写真から河道内における樹木の繁茂状況を判読した.そして得られた繁茂状況の年変化から,ヤナギ類を中心とした樹林の拡大速度と,河床勾配による違いについて検証した.その結果,樹林は掘削から約 5 年が経過すると拡大速度を増し,掘削から約 10 年が経過した頃には掘削した範囲の約 50 %を覆うことが明らかとなった.掘削地には,ヤナギ類の種子が多量に運ばれ,約 5 年が経過する頃には複数の個体が掘削地の一部を覆うほどに樹冠を大きくしたものと考えられる.その後も,各個体での樹冠の拡大と個体の定着範囲の拡大が続いたことで樹林面積が増加したと考えられる.さらに,河床勾配に応じて,樹林化が進行する速度が異なっていた.河床勾配が緩い区間ではより速く樹林が拡大する傾向にあり,これは流速が小さく,樹木が流亡しにくくなったためと考えられる.また,勾配が緩いことで高水敷に堆積する土砂の粒径が小さく,湿潤環境が形成されやすいために,樹木が定着・生長しやすくなったと考えられた.本研究の成果は,高水敷掘削からの経過年数に応じた樹林の繁茂状況の推定に寄与する.これにより,掘削の後にいつ樹木管理を実施するべきかの判断材料となるだろう.また,樹林化の抑制対策の効果を評価する際,対策を実施しなかった場合に想定される樹林化の速度として活用されるだろう.