著者
吉田 寿夫 村山 航
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.32-43, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
30
被引用文献数
13 5

これまで, 「学習者は専門家が学習に有効だと考えている方略を必ずしも使用していない」ということが, 学習方略の研究者によって示唆されてきた。本研究では, こうした実態について定量的に検証するとともに, なぜこうしたことが起きるのかに関して, 「コスト感阻害仮説」, 「テスト有効性阻害仮説」, 「学習有効性の誤認識仮説」という3つの仮説を提唱し, 各々の妥当性について検討を行った。また, その際, 先行研究の方法論的な問題に対処するために, 学習方略の専門家から収集したデータを活用するとともに, 各学習者内での方略間変動に着目した分析を行った。中学生(N=715)と専門家(N=4)を対象にした数学の学習方略に関する質問紙調査を行い, それらのデータを分析した結果, 実際に学習者は専門家が学習に有効だと考えている方略を必ずしも使用していないことが示された。また, 学習有効性の認識に関して専門家と学習者の間に種々の齟齬があることが示されたことなどから, 学習有効性の誤認識仮説が概ね支持され, どのような方略が学習に有効であるかを学習者に明示的に伝える必要性が示唆された。
著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.309-322, 2015 (Released:2015-11-03)
参考文献数
55
被引用文献数
6 7

本研究では, 体型に関するメディアの情報を受けた個人が, その影響から痩身理想をどの程度内在化しているかを評価するSociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3 Revised(SATAQ-3R ; Thompson, van den Berg, Keery, Williams, Shroff, Haselhuhn, & Boroughs, 2000)の日本語版を作成し, 大学生の痩身理想の内在化とメディア利用頻度との関連性について検討した。研究1では, 男女大学生1,054名を対象に調査を実施し, 29項目(4下位尺度)の日本語版SATAQ-3Rを作成し, 尺度の信頼性と妥当性を確認した。研究2では, 男女大学生998名を対象に日本語版SATAQ-3Rとインターネットやテレビ, 雑誌といったメディア利用頻度との関連性を調べた結果, 男性より女性のほうが, メディアの影響を受けて痩身理想を内在化し, メディア情報を重要だと考え, 外見に関するプレッシャーを感じていることが示された。一方でスポーツマン体型への内在化は女性より男性のほうが高いことが示された。また, メディアのうち特にテレビと雑誌が大きく影響を及ぼす可能性が示され, わが国の摂食障害患者の増加を防ぐためにも, 学校教育におけるメディアリテラシー教育の重要性が示唆された。
著者
高原 龍二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.242-253, 2015 (Released:2015-11-03)
参考文献数
40
被引用文献数
6

公立学校教員の都道府県別精神疾患休職率に関して, 教員を対象とした質問紙調査より得た職場環境認知とストレス反応を個人レベルデータとして, 政府統計から得た教育行政や教員のメンタルヘルスに関する施策を都道府県レベルデータとして用いたマルチレベルSEM(Structural Equation Modeling)による検討を行った。小学校教員, 中学校教員の両モデルにおいて, 個人レベルでは伝統的な職業性ストレスモデル(e.g., Karasek, 1979)に従って職場環境の認知がストレス反応を説明することが示され, 集団レベルでは, 教員の意識が教育行政やメンタルヘルス施策と精神疾患休職率の関係を媒介することが示された。小学校, 中学校の両方で共通あるいは類似する要因として挙がったのは, 非正規教員比率, 児童生徒数に対する教員や教育委員会の体制, 労働組合の組織率, 学校数であった。本分析の結果は, 都道府県レベルのような広い範囲であっても, 組織的な環境調整や施策によって, ストレス反応や精神疾患休職を予防できることを示唆しているものと考えられる。
著者
水谷 聡秀 雨宮 俊彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.102-110, 2015-06-30 (Released:2015-08-22)
参考文献数
18
被引用文献数
5 2

いじめ被害経験は心身状態に長期的な影響を及ぼす。従来の研究は, 子どもの頃のいじめ被害経験が後年における自尊感情や特性不安, 抑鬱, 孤独などに影響を与えることを示している。本研究では, いじめの発生状況をとらえ, 小学校と中学校, 高等学校のうちどの時期のいじめ被害経験が大学生のWell-beingに影響を与えるか, また自尊感情を媒介したWell-beingへの影響があるのかを検討する。そこで, 自尊感情, 主観的幸福感, 特性怒り, 特性不安, 各時期にいじめられた頻度について尋ねる質問紙を用いて大学生に調査を実施した。その結果, いじめ経験の頻度は高等学校よりも小中学校で高かった。パス解析により, 中学校や高等学校の頃のいじめ被害経験が大学生のWell-beingに影響を及ぼしていることを明らかにした。また, いじめ被害経験がWell-beingに直接的にも, 自尊感情を介して間接的にも影響を与えていることを見出した。これらの結果はいじめ被害経験が長期的に心的状態に影響を及ぼすことを支持するものである。
著者
水品 江里子 麻柄 啓一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.573-583, 2007-12-30

日本文の「〜は」は主語として使われるだけではなく,提題(〜について言えば)としても用いられる。従って日本文の「〜は」は英文の主語と常に対応するわけではない。また,日本語の文では主語はしばしば省略される。両言語にはこのような違いがあるので,日本語の「〜は」をそのまま英文の主語として用いる誤りが生じる可能性が考えられる。研究1では,57名の中学生と114名の高校生に,例えば「昨日はバイトだった」の英作文としてYesterday was a part-time job.を,「一月は私の誕生日です」の英作文としてJanuary is my birthday.を,「シャツはすべてクリーニング屋に出します」の英作文としてAll my shirts bring to the laundry.を提示して正誤判断を求めた。その結果40%〜80%の者がこのような英文を「正しい」と判断した。これは英文の主語を把握する際に日本語の知識が干渉を及ぼしていることを示している。研究2では,日本語の「〜は」と英文の主語の違いを説明した解説文を作成し,それを用いて高校生89名に授業を行った。授業後には上記のような誤答はなくなった。
著者
榊原 彩子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.485-496, 2004-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

絶対音感の発達には臨界期が存在し, 6歳を超えると絶対音感習得が困難であることが指摘されている。加齢にともなう変化が絶対音感の習得可能性を減じていると考えられるが, 本研究では年齢の異なる幼児 (2歳児4名, 5歳児4名) に対し, 同一の和音判別訓練法による絶対音感習得訓練を実践して彼らの絶対音感習得過程を縦断的に明らかにし, 年齢によって習得過程の様相も異なるのか調べることで, 加齢にともなう変化を検討した。音高という属性に「ハイト」と「クロマ」の2次元があるという考えに従えば, 絶対音感とはクロマの特定能力であり, その習得とはクロマの参照枠形成とみなせる。訓練課題のエラーから聴取傾向を記述すると, 習得過程中, 年少児は早い段階でクロマに着目し, 全体的にクロマ次元を重視した聴取傾向を示したのに対し, 年長児はクロマ次元の利用が少なく, 一貫してハイト次元に依存した聴取傾向を強く示した。加齢にともなう変化として, クロマ次元に依存する傾向が減じ, 逆にハイト次元に依存する傾向が増すという変化が示唆され, クロマの参照枠形成である絶対音感習得が, 加齢により不利になる様が示された。
著者
小林 敬一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.401-414, 2020-12-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
57
被引用文献数
1 2

近年,教授による学習が効果的な理由を説明する様々な考えが提案されてきた。本論文では,その学習効果の背後にどのような心的過程が仮定されているかという観点から,それらの説明を次の5つの仮説に整理した。(a)知識構成仮説:教授・教授準備が知識構築や生成的処理を促進することで学習効果を生み出す。(b)動機づけ仮説:教師役を務めることが学習内容の知識構成的な処理を動機づける。(c)説明生成仮説:説明産出の行為やその準備が知識構成を促す。(d)メタ認知仮説:教授的説明の産出や生徒役との相互作用がメタ認知的モニタリングを介して知識構成を促進する。(e)検索練習仮説:説明産出に伴う検索練習が学習効果を生み出す。さらに,先行研究の知見を批判的に検討した結果,知識構成仮説とメタ認知仮説を肯定する証拠は多少揃っているが,残り3つの仮説については証拠がほとんどないか知見が分かれていることが示唆された。最後に,教授による学習研究の課題と展望を述べた。
著者
曽山 いづみ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.305-321, 2014-06-30 (Released:2015-03-30)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

本研究は新任小学校教師9名を対象に1年間計4回の継時的インタビューを行い, 新任教師の経験過程を明らかにした。1学期, 夏休み, 2学期, 3学期末以降のインタビュー時期別に, 1: 子どもへの理解とかかわり方, 2: 先生としての自分のあり方, 3: 1, 2を促進する要因, 阻害する要因, について分析を行った。新任教師は【わからなさ/難しさに直面する】【子どもの色々な姿を見る】ことを通して徐々に【自分なりの感覚をつかむ】ことができるようになっていた。一方で【先生としてのあり方に悩む】ことと【自分らしいあり方が明確になる】ことを揺れ動きながら, 教師としてのアイデンティティを模索, 形成していた。担任クラスでの困難が大きく, かつ周囲のサポートが得られにくいときには【担任としての責任の範囲】に深く悩むことが示唆された。発達過程を阻害する要因として, 1学期時はリアリティ・ショックや環境への適応が強くあったが, 徐々にその影響は小さくなっていた。同僚教師や保護者との関係は, 阻害/促進どちらの要因にもなり得, 状況文脈によってその影響は大きく変わること, 新任教師にとっては主体性の発揮が大きなテーマであることが示唆された。
著者
千島 雄太 村上 達也
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1-12, 2016 (Released:2016-04-11)
参考文献数
34
被引用文献数
4 4

本研究では, 現代青年に顕著なキャラを介した友人関係について, 中学生と大学生の比較から検討が行われた。本研究の目的は, キャラの有無による心理的適応の相違に加えて, キャラの受け止め方とキャラ行動が心理的適応に及ぼす影響を明らかにすることであった。中学生396名と大学生244名に質問紙調査を行った。分析の結果, 大学生は中学生よりもキャラがある者の割合が多く, キャラがない者よりも自己有用感が高いことが示された。因子分析の結果, キャラの受け止め方は, “積極的受容”, “拒否”, “無関心”, “消極的受容”の4つが得られた。得点とパス係数の比較を行った結果, 学校段階で違いが見られた。中学生では, 友人から付与されたキャラを受容しにくく, キャラに合わせて振る舞うことが, 心理的不適応と関連することが明らかになった。一方で, 大学生ではキャラ行動と適応には有意な関連が見られず, 付与されたキャラを消極的にでも受け容れることが, 居場所感の高さと関連していた。以上の結果から, 中学生におけるキャラを介した友人関係の危うさについて議論された。
著者
小塩 真司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.261-270, 2002-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33
被引用文献数
12 8

本論文の目的は理論的に指摘される2種類の自己愛を考慮した上で, 自己愛傾向の観点から青年を分類し, 対人関係と適応の観点から各群の特徴を明らかにすることであった。研究1では511名の青年 (平均年齢19.84歳) を対象に, 自己愛人格目録短縮版 (NPI-S), 対人恐怖尺度, 攻撃行動, 個人志向性・社会志向性, GHQを実施した。NPI-Sの下位尺度に対して主成分分析を行い, 自己愛傾向全体の高低を意味する第1主成分と,「注目・賞賛欲求」が優位であるか「自己主張性」が優位であるかを意味する第2主成分を得た。そして得られた2つの主成分得点の高低によって被調査者を4群に分類し, 各群の特徴を検討した。研究2では, 研究1の各被調査者のイメージを彼らの友人が評定した。384名を分析対象とし, 各群の特徴を検討した。2つの研究を通して, 自己愛傾向が全体的に高い群を, 理論的に指摘される2種類の自己愛に類似した特徴を示す2つの群に分類可能であることが示された。
著者
中山 留美子 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.188-198, 2006-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
52
被引用文献数
11 16

本研究では, 青年期における自己愛の発達的変化について,「2種類の自己愛」という枠組みを用い, 横断的方法により検討を行った。研究1では, 理論的に指摘される「2種類の自己愛」を測定する尺度を作成した。研究2では, この尺度を中学生から大学生までの青年1114人に対して実施した。下位尺度得点を用いて青年の自己愛を「誇大型」「過敏型」「混合型」「低自己愛群」の4下位型に分類し, 各下位型の生起率を学年ごとに算出して, これを比較した。その結果, 自己愛は全体として, 中学生から高校生にかけて高揚し, 高校3年生付近でピークを迎えることが示唆された。また, GHQ (精神的健康調査票) 得点との関連から, 下位型によって適応の高さに違いがあることが明らかになり, ここから, 青年期の自己愛が適応と関連していることが示唆された。
著者
光浪 睦美
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.348-360, 2010 (Released:2012-03-07)
参考文献数
37
被引用文献数
20 8

本研究は, 達成動機や目標志向性が学習行動に及ぼす影響について, 過去の認知(以下, 過去認知)と将来の期待(以下, 将来期待)の組み合わせによって設定された4つの認知的方略(方略的楽観主義(SO), 防衛的悲観主義(DP), 非現実的楽観主義(UO), 真の悲観主義(RP))の違いに焦点を当てて検討することを目的とした。大学生407名を対象に質問紙調査を行い, 過去認知(ポジティブ・ネガティブ)×将来期待(高・低)の2要因分散分析を行った結果, 将来の期待が高い群は熟達目標を, 期待が低い群は遂行回避目標を, 過去の認知がポジティブな群は遂行接近目標を採用しており, DP者は遂行接近目標と遂行回避目標の両方をもつことが示された。また, 達成動機や目標志向性および学習行動との関連では, 熟達目標や遂行接近目標は学習行動に正の影響を与えていたが, 遂行回避目標は負の影響を与えていた。認知的方略ごとの検討では, 達成欲求が熟達目標に, 失敗恐怖が遂行回避目標に影響を及ぼす点は共通していたが, 遂行接近目標に関しては群で違いがみられた。達成動機, 目標志向性, 学習行動の観点から, 4つの認知的方略の特徴の違いが議論された。
著者
南風原 朝和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.155-158, 1986-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
2

Many educational and psychological researchers determine the sample size in their research without any guideline except for the vague “as many as possible” principle. This article presents easy-to-use tables for determining the sample size in a research involving the use of the Pearson product-moment correlation coefficient. To use the tables, the researcher needs to specify the expected size of the sample correlation and the desired width of the 95% or 99% confidence interval for the population correlation. The construction of the tables is based on the large sample theory with Fisher's Z transformation.
著者
南風原 朝和 芝 祐順
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.259-265, 1987-09-30

Three probabilistic indices were proposed for interpreting major types of statistical results obtained in behavioral research:the probability of concordance as an index of correlation, and two versions of the probability of dominance being indices of mean difference in the case of randomized and paired data, respectively. Charts for finding confidence intervals for their population values were provided. The relationships of these indices with certain nonparametric statistics were also noted.
著者
杉本 希映 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.289-299, 2006-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
32
被引用文献数
9 7

本研究では,「居場所」の心理的機能の構造とその発達的変化について検討した。「居場所」の心理的機能の構造を分析するために, 自由記述により得られた居場所の選択理由と先行研究を検討して作成した尺度を用いて, 小・中・高校生を対象に調査を行った。その結果,「居場所」の心理的機能には, 「被受容感」「精神的安定」「行動の自由」「思考・内省」「自己肯定感」「他者からの自由」の6因子があることが明らかとなった。「居場所」を他者の存在により,「自分ひとりの居場所」「家族のいる居場所」「家族以外の人のいる居場所」に分類した結果, 小学生では「家族のいる居場所」, 中・高校生では「自分ひとりの居場所」が多いことが明らかとなり, 発達段階により選択される「居場所」が異なってくることが示された。この3分類により心理的機能の比較分析を行った結果, それぞれの「居場所」の固有性が明らかとなった。
著者
植阪 友理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.80-94, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
41
被引用文献数
27 17

自己学習力の育成には, 学習方略の指導が有効である。中でも, 複数の教科で利用できる教科横断的な方略は, 指導した教科以外でも活用できるため有用である。指導された学習方略を他の教科や内容の学習に生かすことは「方略の転移」と呼べる。しかし, 方略の転移については, 従来, ほとんど検討されてきていない。そこで本研究では, 方略の転移が生じた認知カウンセリングの事例を分析し, 方略の転移が生じるプロセスを考察する。クライエントは中学2年生の女子である。非認知主義的学習観が不適切な学習方法を引き起こし, 学習成果が長期間にわたって得られないことから, 学習意欲が低くなっていた。このクライエントに対して教訓帰納と呼ばれる学習方略を, 数学を題材として指導し, さらに, 本人の学習観を意識化させる働きかけを行った。学習方法の改善によって学習成果が実感できるようになると, 非認知主義的学習観から認知主義的学習観へと変容が見られ, その後, 数学の異なる単元や理科へ方略が転移したことが確認された。学習方略を規定する学習観が変容したことによって, 教科間で方略が転移したと考えられた。また, 学習者同士の教え合いが多いというクライエントの学習環境の特徴も影響したと考えられた。
著者
内田 奈緒 水野 木綿 植阪 友理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.145-158, 2023-06-30 (Released:2023-06-14)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本研究では,研究者が効果的な語彙学習方略について明示的に指導し,教師が通常授業で方略使用を支援する方略指導実践を行った。その実践を通して,高校生の方略使用の変化と,変化の個人差の背景にあるプロセスについて検討した。実践では,高校1年生1クラス33名を対象に,英単語を他の情報と関連づけながら学習する方略について指導した。指導の効果について,実践開始前の4月から実践開始後の7月,2月にかけて,指導した関連づけ方略の使用が継続的に増えていた。また,指導後方略を普段の学習でよく使うようになった生徒3名とあまり使うようにならなかった生徒2名にインタビューを行った。その結果,方略を使うようになった生徒は,指導を受ける前にもともと自分が使用していた方略の問題を認識し,それと相対化して新たな方略の有効性を認知していた。一方,あまり使うようにならなかった生徒は,指導前の学習について具体的な問題は認識せず,新たな方略について感覚的に,あるいは外的資源に依存して有効性を認知していた。研究者と教師が連携する方略指導の有効性および,元の学習方略と新たな学習方略を相対化することの重要性が示唆された。
著者
木村 晴
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.115-126, 2004-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
36
被引用文献数
15 10

不快な思考の抑制を試みるとかえって関連する思考の侵入が増加し, 不快感情が高まる抑制の逆説的効果が報告されている。本研究では, 日常的な事象の抑制が侵入思考, 感情, 認知評価に及ぼす影響を検討した。また, このような逆説的効果を低減するために, 抑制時に他に注意を集める代替思考方略の有用性を検討した。研究1では, 過去の苛立った出来事を抑制する際に'代替思考を持たない単純抑制群は, かえって関連する思考を増加させていたが, 代替思考を持つ他3つの群では, そのような思考の増加は見られなかった。研究2では, 落ち込んだ出来事の抑制において, 異なる内容の代替思考による効果の違いと, 抑制後の思考増加 (リバウンド効果) の有無について検討した。ポジティブな代替思考を与えられた群では, 単純抑制群に比べて, 抑制中の思考数や主観的侵入思考頻度が低減していた。しかし, ネガティブな代替思考を与えられた群では, 低減が見られなかった。また, ネガティブな代替思考を与えられた群では, 単純抑制群と同程度に高い不快感情を報告していた。代替思考を用いた全ての群において, 抑制後のリバウンド効果は示されず, 代替思考の使用に伴う弊害は見られなかった。よって, 代替思考は逆説的効果を防ぎ効果的な抑制を促すが, その思考内容に注意を払う必要があると考えられた。
著者
平野 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.343-354, 2012-12-30 (Released:2013-06-04)
参考文献数
37
被引用文献数
6 4

本研究の目的は, 「生得的にストレスを感じやすい」というリスクを, レジリエンスによって後天的に補うことができるかを検討することであった。18歳以上の男女433名を対象に質問紙調査を行い, 心理的敏感さと, 資質的レジリエンス要因(持って生まれた気質の影響を受けやすい要因)・獲得的レジリエンス要因(後天的に身につけやすい要因)の関係を検討した。分散分析の結果, 心理的敏感さの高い人々は資質的レジリエンス要因が低い傾向が示されたが, 獲得的レジリエンス要因については敏感さとは関係なく高めていける可能性が示唆された。次に, 心理的敏感さから心理的適応感への負の影響に対する各レジリエンス要因の緩衝効果を検討したところ, 資質的レジリエンス要因では緩衝効果が見られたものの, 獲得的レジリエンス要因では主効果のみが示され, 敏感さというリスクを後天的に補える可能性は示されなかった。また心理的敏感さの程度によって, 心理的適応感の向上に効果的なレジリエンスが異なることも示唆され, 個人の持つ気質に合わせたレジリエンスを引き出すことが重要であることが示唆された。
著者
赤松 大輔
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.419-438, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
83

現在,教科固有の見方・考え方や,教科を超えた資質・能力を育む重要性が指摘されている。こうした問題意識を踏まえ,本稿では,学習に対する学習者の信念である学習観に着目し,教科・領域という観点から,学習観をはじめとした学習者の信念に関する知見の整理と展望を行った。特に,認識的信念研究と学業的自己概念研究で想定される信念の階層的構造に着目した。まず,信念の領域固有性に関する理論モデルである認識論の統合的領域理論(Muis et al., 2006)のモデルに基づき,先行研究を領域横断型研究と領域特定型研究に分類した。先行研究を整理・展望することを通して,近年は教科や学習全般のみではなく,教科で扱われる具体的なトピックや日常生活を含むより全般的な信念といった新たな階層の信念が取り上げられ,階層に応じて信念の機能や可変性に差異がある可能性が示唆された。次に,学業的自己概念研究では,教科の連続的な関係性や階層の異なる信念間の影響の方向性に関する知見が多くみられた。最後に,これらの知見を学習観研究のモデルに統合することで,特定領域で形成された学習観が他の領域に広がっていくという新たなモデルを提案した。