著者
森永 康子 坂田 桐子 古川 善也 福留 広大
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.375-387, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
44
被引用文献数
11

「女子は数学ができない」というステレオタイプに基づきながら, 好意的に聞こえる好意的性差別発言「女の子なのにすごいね(BS条件)」(vs.「すごいね(統制条件)」)が女子生徒の数学に対する意欲を低下させることを実証的に検討した。中学2, 3年生(研究1), 高校1年生(研究2)の女子生徒を対象に, シナリオ法を用いて, 数学で良い成績あるいは悪い成績をとった時に, 教師の好意的性差別発言を聞く場面を設定し, 感情や意欲, 差別の知覚を尋ねた。高成績のシナリオの場合, BS条件は統制条件に比べて数学に対する意欲が低かったが, 低成績のシナリオでは意欲の差異は見られなかった。数学に対する意欲の低下プロセスについて, 感情と差別の知覚を用いて検討したところ, 高成績の場合, 低いポジティブ感情と「恥ずかしい」といった自己に向けられたネガティブ感情の喚起が意欲を低めていること, 怒りなどの外に向けられたネガティブ感情はBS条件の発言を差別と知覚することで喚起されるが, 数学に対する意欲には関連しないことが示された。
著者
岡田 有司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.419-431, 2009
被引用文献数
3

本研究の目的は, 運動部と文化部を区分して捉え, 部活動への積極性に注目しながら, (1) 部活動への参加が学校生活の諸領域, 学校への心理社会的適応とポジティブな関係にあるのか, (2) 対人関係領域の心理社会的適応への影響が部活動への参加状況によって異なるのか, について検討することであった。質問紙調査によって得られた中学生894名のデータから, 以下のことが明らかになった。まず, 部活動に積極的な生徒は全体的に部活動に所属していない生徒に比べ, 学校生活の諸領域や心理的適応の得点が高くなっていた。一方で, 部活動に積極的でない生徒は全体的に学校生活の諸領域や心理的適応の得点が無所属の生徒よりも高いという結果は得られなかった。また, 運動部の生徒は反社会的傾向が高いことが明らかになった。対人関係領域が心理社会的適応に与える影響については, 「クラスへの意識」「他学年との関係」に関しては部活動の参加状況によって影響の仕方に違いがなかったが, 「友人関係」「教師との関係」について違いがみられた。これらの知見をもとに, 学校生活における部活動のポジティブ・ネガティブな面について議論がなされた。
著者
伊藤 大幸 浜田 恵 村山 恭朗 髙柳 伸哉 野村 和代 明翫 光宜 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.451-465, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
37
被引用文献数
5 9

クラスサイズ(学級の人数)が学業成績および情緒的・行動的問題に及ぼす影響について,要因の交絡とデータの階層性という2つの方法論的問題に対処した上で検証した。第1に,学年ごとの人数によってのみクラスサイズが決定されている学校を調査対象とする自然実験デザインにより,学校の裁量に起因する要因の交絡や逆方向の影響の発生を防いだ。第2に,マルチレベルモデルの一種である交差分類(cross-classified)モデルを用いて,データの特殊な階層性を適切にモデル化した。第3に,学校内中心化によって学校間変動を除外することで,クラスサイズの純粋な学校内効果を検証するとともに,学校規模との交絡を回避した。9回の縦断調査で得られた小学4年生から中学3年生のデータ(11,702名,のべ45,694名,1,308クラス)に基づく分析の結果,クラスサイズの拡大は,(a)学業成績を低下させること,(b)教師からのサポートを減少させること,(c)友人からのサポートや向社会的行動の減少をもたらすこと,(d)抑うつを高めることが示された。こうした影響の広さから,クラスサイズは学級運営上,重大な意味を持つ変数であることが示された。
著者
伊藤 美奈子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.26-36, 2017-03-30 (Released:2017-04-21)
参考文献数
21
被引用文献数
11 8

昨今, 深刻化・複雑化するいじめについて, 小学生(3,720人), 中学生(3,302人), 高校生(2,146人)に調査をおこなった。いじめの被害・加害経験を尋ねた結果より, いじめの加害役割と被害役割が固定したものではないことが明らかになった。また, いじめの被害者は自尊感情が低く情緒不安定な特徴を有するが, それに加害経験が加わるとより一層, 自尊感情(とくに人間関係における自己肯定感)は低くなることが示唆された。また, クラスメートをからかうことを「悪くない」「おもしろい」と認知するものの割合は, 年齢とともに多くなること, その傾向は, とくにいじめ加害経験を有するものに多いこともわかった。いじめによる不登校や希死念慮は, ネット上のいじめ・集団無視・金品たかりといういじめでとくに強く経験される。またこれらの辛さは, 加害経験がなくいじめ被害のみのものに強く, 仕返し願望は, いじめ加害経験者により強い。いじめを見たときの反応(注意する・誰かに相談する・傍観する)も, 発達段階による違いが見られた。さらに, そうしたいじめに対する反応の背景にも, いじめ加害経験や自尊感情の低さが関与していることがうかがえた。
著者
相澤 直樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.215-224, 2002-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
3 8

本研究では, 誇大特性と過敏特性からなる自己愛的人格項目群を作成し, 自己愛的人格の構造を検討した。まず, 67項目からなる自己愛的人格項目群を作成し, YG性格検査の10下位尺度とともに一般の大学生・大学院生545名に実施した。得られたデータにプロマックス回転による因子分析を施したところ,“対人過敏”,“対人消極性”,“自己誇大感”,“自己萎縮感”,“賞賛願望”,“権威的操作”,“自己愛的憤怒”の7因子が抽出された。その後, これらの下位尺度について, 項目一総得点問相関とα係数を用いて内的一貫性を検討した。また, YG性格検査との関係を検討したところ, 各下位尺度の併存的妥当性が確かめられた。次に, 共分散構造分析を用いて自己愛的人格項目群の潜在変数に関するモデルを検討した。モデル1は, 2つの独立的な潜在因子が別々に誇大特性下位尺度と過敏特性下位尺度を規定するという仮説から構成された。モデル2は,“誇大自己”と“萎縮自己”の2つの自己イメージから“自己愛的傷つき易さ”が生じるという潜在因果関係により構成された。分析の結果, 両モデルにおいてすべてのパス係数は有意な値を示したが, 十分な適合度 (GFI) を示したのはモデル2のみであった。以上の結果について, 誇大特性と過敏特性を含む自己愛的人格を包括的にとらえる視点から考察を行った。
著者
大西 彩子 黒川 雅幸 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.324-335, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
37
被引用文献数
11 12

本研究の目的は, 児童・生徒が教師の日常的な指導態度をどのように捉えているのかということ(教師認知)が, 学級のいじめに否定的な集団規範と, いじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることである。547名(小学生240名, 中学生307名)の児童・生徒を対象に, 教師認知, 学級のいじめに否定的な集団規範, いじめに対する罪悪感予期, いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し, 共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1) 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2) 受容・親近・自信・客観の教師認知は, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期に正の影響を与えていた。(3) 怖さの教師認知と学級のいじめに否定的な集団規範は, いじめに対する罪悪感に正の影響を与えていた。(4)罰の教師認知は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に正の影響を与えていた。本研究によって, 教師の受容・親近・自信・客観といった態度が, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒の加害傾向を抑制する効果があることが示唆され, いじめを防止する上で教師の果たす役割の重要性が明らかになった。
著者
犬塚 美輪 三浦 麻子 小川 洋和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.35-47, 2022-03-30 (Released:2022-03-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

本研究では,大学での授業において,試験時に参照するためにノートをまとめ直す(事後ノート作成)方略に関する認知とその変化を検討するとともに,作成された事後ノートの質的特徴と成績の関連を検討した。研究1(n=171)では,講義科目において,試験時に参照できる場合に事後ノート作成の有効性や工夫の認知が高く,コストが低く認知されることが示された。また,作成された事後ノートの記述量と図の使用頻度が事実問題の成績を予測した。研究2(n=114)では演習科目において中間テストと事後ノート作成を繰り返した。期末試験問題のうち,事実問題には事後ノートの記述量と体制化の指標の正の効果,まとめ文をそのまま写すことの負の効果が見られた。知識適用問題と説明問題では記述量の効果は有意ではなく,体制化とまとめ文の写しの有無が成績を予測した。方略としての認知は,工夫の認知に有意な変化が認められたが効果量は小さかった。研究3(n=45)では,演習科目において事後ノート作成の繰り返しに加え明示的教示を実施した。作成された事後ノートの体制化の指標が知識適用問題の成績を予測する結果が得られ,方略の認知に関しては,工夫の認知が有意な上昇を示した。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.458-468, 2001-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
41
被引用文献数
3 1

本研究の目的は, 第1に, 青年期女子の性同一性を測定する尺度を開発してその発達過程を明らかにし, 第2に, 自尊感情および身体満足度と性同一性との関連を検討することにある。中1, 中3, 高2, 大学に在籍する701名の女子青年に, 性同一性, 自尊感情, 身体満足度を尋ねた。その結果,(1) 女子青年の性同一性は, 父への信頼, 母への同一視, ステレオタイプな性役割への同調, 性的成熟への戸惑い, 性の非受容から構成される,(2) 性同一性は中学1年から3年にかけて低下し, その後上昇するという発達的変化を示す,(3) 身体満足度との関連から, 青年前期には身体的側面において性同一性の危機が経験されている,(4) 青年期における女子の自尊感情は, 両親の良好な関係を認知し, その関係を生み出す源泉としての父親を頼りに思い尊敬できること, および自己の性を受容できることが関係していた。このことより, 性同一性から摂食障害に至る過程において, 母親の存在の背後にある父親の影響が小さくないことが示唆された。なお, 性同一性尺度 (GIIF) の信頼性, 構成概念妥当性, および基準関連妥当性も併せて検証された。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.129-139, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
44
被引用文献数
7 1

本研究では, 近年用いられるようになった「障がい者」表記に注目し, ひらがな及び漢字の表記形態が身体障害者に対する態度に及ぼす影響について, 接触経験との関連から検討することを目的とした。身体障害者に対する態度については, イメージと交流態度の2つの態度次元に着目した。SD法及び交流態度尺度を用いて, 大学生・大学院生348名を対象に調査を行った。その結果, 身体障害者イメージは身体障害学生との交流に対する当惑感を媒介として身体障害学生と交友関係を持つことや自己主張することに対する抵抗感に影響を与えることが示された。そして, ひらがな表記は接触経験者が持つ身体障害者に対する「尊敬」に関わるポジティブなイメージを促進させるが, 接触経験の無い者が持つ尊敬イメージや, 身体障害学生との交流に対する態度の改善には直接影響を及ぼすほどの効果を持たないことがわかった。身体障害学生との交流の改善には「社会的不利」「尊敬」「同情」を検討することが重要であることが本研究から示唆された。特に, 身体障害者に対する「尊敬」のイメージの上昇は, 接触経験の有無にかかわらず, 交流態度の改善に影響を与えることが考えられる。
著者
高橋 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.95-111, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
108
被引用文献数
3 2

書き言葉を読んで理解する能力は活字媒体から情報を取得するために必要な能力であり, これを効果的に育成することは学校教育の大きな目標の一つである。読解活動の形態には大きく分けて音読と黙読が存在するが, 読解指導の場面では最終的に黙読での読解能力を習得させることを目的としている。本論文では, 読解能力の発達段階によって音読が読解過程に及ぼす影響はどのように異なるのか, そして, 黙読での読解能力を習得する上で音読はどのような役割を担うのかを考察することを目的とした。まず, 成人と児童それぞれにおける音読の有用性を検討し, 読み能力によって音読の役割が異なることを示した。特に児童においては, 読解中に利用可能な認知資源の量が少なくても, 構音運動や音声情報のフィードバックによって音韻表象を生成し利用できることが, 音読の利点として挙げられた。そして, 読解中の音韻表象の生成と眼球運動のコントロールに着目して, 音読から黙読への移行についての仮説的モデルとこれに即した指導法を提案し, 今後の課題を述べた。
著者
波田野 結花 吉田 弘道 岡田 謙介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.151-161, 2015 (Released:2015-08-22)
参考文献数
27
被引用文献数
2 5

これまでの心理学データ分析では, 概して統計的仮説検定の結果は報告されるが, 効果量の報告や議論は軽視されがちであった。しかし近年の統計改革の中で, 効果量を活用することの重要性が再認識されている。そこで本研究では, 過去4年間に 『教育心理学研究』誌に掲載された論文中で報告された仮説検定について, 論文中の情報から対応する効果量の値を算出し, 検定におけるp値と効果量との間の関係を網羅的に調べた。分析対象は, 独立な2群のt検定, 対応のある2群のt検定, 1要因および2要因の被験者間分散分析におけるF検定であった。分析の結果, いずれの場合においても報告されたp値と効果量の相関係数は-0.6~-0.4であり, 両者の間には大まかな対応関係が見られた。一方で, 検定結果が有意であるにもかかわらず小さな効果量しか得られていない研究も決して少なくないことが確認された。こうした研究は概ね標本サイズが大きいため, 仮説検定の枠組みの中では検定力分析の必要性が考えられる。また仮説検定の枠組みに留まらず, メタ分析によって関心下の変数ごとに効果量の知見を蓄積することや, ベイズ統計学に基づく新たな方法論などが今後の方向性として考えられる。
著者
榊原 彩子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.92-101, 1996-03
被引用文献数
1

According to previous theories, effects of repeated exposure of music on pleasingness depend on uncertainty of the music. In this study, "redundancy of rhythm pattern" and "prototypicality of harmony" were manipulated as the factors of uncertainty. The purpose of the following study is to examine effects of repeated exposure on pleasingness determined by the two above mentioned factors. Subjects heard tone sequences that represented four levels of redundancy and four levels of prototypicality, and rated them on 7-point scales of "complexity" and "pleasingness". Pleasingness was shown to be an inverted U-function of redundancy and prototypicality. And then, each tone sequence was repeated and rated pleasingness after each repetition. In a case of sequence whose redundancy caused most pleasingness before repetition, pleasingness of that sequence was decreased by repetition. But, in a case of sequence whose redundancy was too low to cause pleasingness before repetition, pleasingness was seen increased by repetition. On the other hand, pleasingness determined by prototypicality was not affected by repetition, and kept initial pleasingness during repetition.
著者
庭山 和貴 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.598-609, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
30
被引用文献数
13 11

本研究の目的は, 教師の授業中の言語賞賛回数が自己記録手続きによって増えるか検討し, さらにこれが児童らの授業参加行動を促進するか検証することであった。本研究は公立小学校の通常学級において行い, 対象者は担任教師3名とその学級の児童計85名(1年生2学級, 3年生1学級)であった。介入効果の指標として, 授業中に教師が児童を言語賞賛した回数と児童らの授業参加行動を記録した。介入効果を検証するために多層ベースラインデザインを用いて, 介入開始時期を対象者間でずらし, 介入を開始した対象者と介入を開始していない対象者を比較した。ベースライン期では, 介入は実施せず行動観察のみ行った。介入期では, 教師が授業中に自身の言語賞賛回数を自己記録する手続きを1日1授業行った。また訓練者が, 教師に対して週1~2回, 言語賞賛回数が増えていることを賞賛した。介入の結果, 3名の教師の言語賞賛回数が増え, 各学級の平均授業参加率も上昇した。フォローアップにおいても, 教師の言語賞賛回数と学級の平均授業参加率は維持されていた。今後は, 授業参加率が低い水準に留まった数名の児童に対する小集団・個別支援を検討していく必要があると考えられる。
著者
平山 るみ 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.186-198, 2004-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
50 48 11

本研究の目的は, 批判的思考の態度構造を明らかにし, それが, 結論導出過程に及ぼす効果を検討することである。第1に, 426名の大学生を対象に調査を行い, 批判的思考態度は, 「論理的思考への自覚」, 「探究心」, 「客観性」, 「証拠の重視」の4因子からなることを明らかにし, 態度尺度の信頼性・妥当性を検討した。第2に, 批判的思考態度が, 対立する議論を含むテキストからの結論導出プロセスにどのように関与しているのかについて, 大学生85名を用いて検討した。その結果, 証拠の評価段階に対する信念バイアスの存在が確認された。また, 適切な結論の導出には, 証拠評価段階が影響することが分かった。さらに, 信念バイアスは, 批判的思考態度の1つである「探究心」という態度によって回避することが可能になることが明らかにされ, この態度が信念にとらわれず適切な結論を導出するための重要な鍵となることが分かった。
著者
小塩 真司 岡田 涼 茂垣 まどか 並川 努 脇田 貴文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.273-282, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
34
被引用文献数
47 27

本研究では, 日本で測定されたRosenberg(1965)の自尊感情尺度の平均値に与える調査対象者の年齢段階や調査年の要因を検討するために, 時間横断的メタ分析を試みた。1980年から2013年までに日本で刊行された査読誌に掲載された論文のうち256研究を分析の対象とした。全サンプルサイズは48,927名であった。重回帰分析の結果, 調査対象者の年齢段階と調査年がともに, 自尊感情の平均値に影響を及ぼすことが明らかにされた。年齢段階に関しては, 大学生を基準として, 調査対象者が中高生であることが自尊感情の平均値を低下させ, 成人以降であることが自尊感情の平均値を上昇させていた。また調査年に関しては年齢層によって効果が異なっていた。中高生や成人においては最近の調査であるほど直線的に自尊感情の平均値が低下しており, 大学生では曲線的に変化し, 近年は低下していた。また件法が自尊感情得点の平均値に影響を及ぼすことも明らかにされた。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.396-404, 1997-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
4

This study investigated the formative factors of gender conception as a cognitive frame concerning gender and its influence on a selection of gender roles (career patterns) using a multiple regression analysis. High school students, composed of 747 females and 726 males, were asked their gender conception measured by how much they agreed to stereotypical behaviors and affairs according to gender. The factors contributing to reinforcement of the gender conception were as follows: (a) the contact with magazines proper to gender,(b) awareness of sex/gender differences in an early period of life,(c) encouragement of femininity (masculinity) by parents, and in addition,(d) a gender separated educational environment in males. Otherwise, from the pass analysis it was indicated that the attitudes of gender roles were made by the medium of the gender conception composed by those factors, and that the gender roles were selected on those attitudes. The Scale of Gender Conception was available as a measure for a gender schematic process except the self concepts.
著者
櫻庭 隆浩 松井 豊 福富 護 成田 健一 上瀬 由美子 宇井 美代子 菊島 充子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.167-174, 2001-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
5 4

本研究は,『援助交際』を現代女子青年の性的逸脱行動として捉え,その背景要因を明らかにするものである。『援助交際』は,「金品と引き換えに, 一連の性的行動を行うこと」と定義された。首都圏の女子高校生600人を無作為抽出し, 質問紙調査を行った。『援助交際』への態度 (経験・抵抗感) に基づいて, 回答者を3群 (経験群・弱抵抗群・強抵抗群) に分類した。各群の特徴の比較し,『援助交際』に対する態度を規定している要因について検討したところ, 次のような結果が得られた。1) 友人の『援助交際』経験を聞いたことのある回答者は,『援助交際』に対して, 寛容的な態度を取っていた。2)『援助交際』と非行には強い関連があった。3)『援助交際』経験者は, 他者からほめられたり, 他者より目立ちたいと思う傾向が強かった。本研究の結果より,『援助交際』を経験する者や,『援助交際』に対する抵抗感が弱い者の背景に, 従来, 性非行や性行動経験の早い者の背景として指摘されていた要因が, 共通して存在することが明らかとなった。さらに, 現代青年に特徴的とされる心性が,『援助交際』の態度に大きく関与し, 影響を与えていることが明らかとなった。
著者
石田 英子 小笠原 春彦 藤永 保
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.270-278, 1991-09-30

The purpose of this study was to clarify (1) people's concept of intelligence in the following six cultures : Japan, Korea, China, Taiwan, Canada and Mexico ; and (2) the difference between the three following Japanese concepts : 'atamanoyoi', 'rikouna', 'kashikoi', which express "intelligent" in Japanese. The results were as follows : 1)Five-factor solution was found to be valid. They were named "sympathy and sociability", "inter-personal competence", "ability to comprehend and process knowledge", "accurate and quick decision making", and "ability to express oneself" ; 2)The factorstructures of Japan, Korea, China and Taiwan were similar to each other, but dissimilar to those of Canada and Mexico ; 3)The patterns of the correlations among the five factors were rather similar, while the variances of the factors were different between the nations concerned ; 4)The concept of 'kashikoi' was different from that of 'atamanoyoi' in that 'kashikoi' implied sociability together with cognitive ability.
著者
工藤 与志文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.41-50, 1997-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
1

College students numbering 206 were examined on their beliefs of the movement of sunflowers, and 112 students who had the false belief participated also in the experiment. The subjects were asked to read the science text which explained the facts that contradicted their beliefs in the following three conditions: (a) the photosynthetic rule was instructed, and the contradictory facts were referred to as examples of the rule; (b) the photosynthetic rule was instructed, but the facts were referred independently from the rule; and (c) only the facts were presented. The subjects were then put to some reading comprehension tests. The frequencies in the occurrence of belief-dependent misreading (BDM) on the tests were analysed. The following results were obtained: (1) there were less BDMs in the condition of the rule and example than in the other two conditions; (2) there were no less BDMs in the condition of the rule and facts than in the condition of the facts only. There findings suggested that the instruction in the relation of the rule and example was useful in order to avoid BDM.
著者
松岡 弥玲
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.45-54, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
36
被引用文献数
5 3

本研究の目的は,(1) 理想-現実自己のズレが年齢と共に減少していく変化と, 自尊感情が生涯にわたって維持される傾向とが関係しているかどうかを検証すること,(2) 理想自己の実現可能性の生涯発達変化を捉えること,(3) ズレを減少させる方略 (肯定的解釈粘り強さ諦めの早さ) の生涯発達変化をズレとの関わりから探索的に検討することである。調査参加者は15歳から86歳までの男女 (865名)。主な結果は以下の通りである。(1) 自尊感情は生涯維持され, ズレは年齢と共に減少していた。そして青年期から老年期までの全ての群でズレと自尊感情との間に有意な負の相関関係がみられ, ズレが減少していく変化と自尊感情の維持とが関連していることが示唆された。(2) 実現可能性は, 45-54歳に減少する傾向がみられた。(3) ズレを減少させる方略は, 高校生から55-64歳までの間, 対照的な方略が交互に用いられ, 男女差が顕著であった。しかし, 65-86歳群になると男女共にズレと方略との関わりが無くなった。これらの結果について, 性差に焦点をあて, ライフイベントや職業生活との関わりから考察がなされた。