著者
中村 晃 神藤 貴昭 田口 真奈 西森 年寿 中原 淳
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.491-500, 2007-12-30
被引用文献数
3

本研究では,大学教員初任者がもつ教育に対する不安について検討し,さらにこのような不安と同時に周囲からのサポートについても考慮し,これらがどのように仕事に対する満足感と関係するかを検討することを目的とした。そのため,まず教育不安尺度を作成し,次に教育不安が周囲からのサポート,および職務満足感とどのような関係にあるかを質問紙により検討した。その結果,教育不安尺度では因子分析により「教育方法に関する不安」「学生に関する不安」「教育システムに関する不安」の3因子が見出された。また教育不安と職場におけるサポート,および職務内容満足感との関係を検討した結果,教育に関する不安が高い場合,先輩教員のサポートが満足感を上げる要因になること,および教育システムに関する不安が高い場合,同世代教員によるサポートが少ないと満足感が低くなることが示唆された。これらのことから,特に不安の高い教員に対しては,職場のサポートが仕事の満足感を上げるうえで重要であると考えられる。
著者
舛田 弘子 工藤 与志文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.241-253, 2021-09-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
26
被引用文献数
2

工藤・舛田(2013),舛田・工藤(2013)は,説明文の不適切な読解が生じる原因の一つとして,文章内容から触発された想念が読解表象に入り込む現象,すなわち「想念の侵入」を指摘した。この現象は舛田(2018)による質的研究において確認されている。本研究では「想念の侵入」と不適切な読解表象との関係について量的な分析を行った。研究1では大学生96名を対象に,説明文の読解,文章中の「重要と思う部分」と「気になる部分」の抽出,文章の主旨の記述を行わせた。その結果,適切な主旨を記述した者は,重要と思う部分に依拠して記述する傾向があったが,不適切な主旨を記述した者では気になる部分への依拠が多く,「侵入」も多く観察された。このことから,文章中のエピソードの印象深さがその要因として指摘された。さらに,文章の冒頭と結びの部分に関連する「侵入」が多かったことから,文章構成の影響も考えられた。そこで,研究2では大学生94名を対象に,研究1の文章の結末部分を入れ替えた文章を用いて調査を実施した。その結果,入れ替えられた結末部分の内容に関する「侵入」の増減が確認された。以上の結果は,トップダウン処理による読解ストラテジーの誤用という観点から考察された。
著者
坂本 篤史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.584-596, 2007-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
63
被引用文献数
6 4

本研究は, 現職教師の学習, 特に授業力量の形成要因に関し, 主に2000年以降の米国での研究と日本での研究を用いて検討し, 今後の展望を示した。現職教師の学習を1) 授業経験からの学習, 2) 学習を支える学校内の文脈, 3) 長期的な成長過程, という3つの観点から包括的に捉えた。そして, 教師を“反省的実践家”と見なす視点から、現職教師の学習の中核を授業経験の“省察 (reflection)”に据えた。授業経験からの学習として教職課程の学生や新任教師の研究から, 省察と授業観の関係や, 省察と知識形成の関係が指摘された。学校内の文脈としては教師共同体や授業研究に関する研究から, 教師同士の葛藤を通じた相互作用や, 校内研修としての授業研究を通じた学習や同僚性の形成が示唆された。長期的な成長過程としては, 教師の発達研究や熟達化研究から, 授業実践の個性化が生じること,“適応的熟達者 (adaptive expert)”として発達を遂げることを示した。今後の課題として, 現職教師の個人的な授業観の形成過程に関する研究, 教師同士が学び合う関係の形成に関する実証的研究方法の開発, 日本での教師の学習研究の促進が挙げられた。
著者
高橋 登
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-10, 2001-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
10 15

本研究の目的は, 学童期の読解能力の発達過程を縦断的に分析することであった。被験児は大阪府内の公立小学校に通う, 高橋 (1996a) の就学前後の縦断研究に参加した子ども達であった。本報告では1・3・5年生の冬に行われた読解能力と, 関連する諸能力との間の関係が分析された。その結果, 以下の諸点が明らかになった。かな単語の命名速度は1年生の段階ではひらがなの読みの習得時期によって異なり, しかもこの時期の読解能力を規定していたが, 学年が上昇するに従い習得時期による違いはなくなり, しかも読解能力への影響力も少なくなっていった。一方漢字の符号化も5年生の読解能力を規定するものではなかった。従って符号化レベルでの処理の効率性は, 小学校高学年段階では読解能力を規定するものとはならないと考えられた。それに対して語彙は低学年から高学年まで読解を規定するものであり続けた。しかも学童期の語彙は, 前の調査時期の読解能力によっても説明されるものであった。このことはこの時期の子ども達が読むこと, すなわち読書を通じて語彙を増やし, それがまた読解の能力を高めるという相互的な関係にあるものであることを示すものと考えられた。
著者
鈴木 高志 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.51-63, 2011-03-30 (Released:2011-09-07)
参考文献数
42
被引用文献数
7 3 3

現在の学習が将来のために役立つと位置づける認知, すなわち「利用価値」は学習動機づけに適応的・不適応的両面の影響を与えるといわれてきた。本研究では, Kasser & Ryan(1993, 1996)の将来目標の内発—外発の2分に従って, 利用価値を, 展望する将来目標により2分し (1) 現在の学習が将来の自己成長や社会貢献といった内発的将来目標のために役立つと考える「内発的利用価値」と, (2) 現在の学習が将来の金銭的成功や名声の獲得といった外発的将来目標のために役立つと考える「外発的利用価値」とを下位尺度とする「内発的-外発的利用価値尺度」を作成した。その上で, 高校1年生(N=318)に対する調査で学習動機づけへの影響を検討した。その結果, (1) 内発的利用価値は, 主にマスタリー目標志向性を媒介に内発的動機づけなど適応的な学習動機づけを促進するのに対して, (2)外発的利用価値は, 主に遂行回避目標志向性を媒介に勉強不安など不適応的な学習動機づけに影響を及ぼす可能性のあることが分かった。さらに, 内発的-外発的利用価値がもつ達成目標志向性の先行要因として意義, 介入への示唆および今後の展開について議論する。
著者
秦野 悦子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.255-264, 1983-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
55
被引用文献数
1 1
著者
高本 真寛 古村 健太郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.14-27, 2018-03-30 (Released:2018-04-18)
参考文献数
38
被引用文献数
7 4

本研究は,大学生がアルバイトを行うことによって精神的健康と修学にどのような影響を受けるのかについて検討した。研究1では,大学生284名を対象に,アルバイト就労と抑うつとの関連を検討した。決定木分析の結果,心理的負荷のかかる出来事(職場での人間関係のトラブルやサポート源の消失)の方が深夜勤務よりも抑うつへのリスクが高いことが示された。研究2では,大学生324名を対象に,アルバイト就労と修学との関連について検討した。決定木分析の結果,アルバイト就労による授業等の欠席および期末試験期間中のアルバイト就労が修学困難に対するリスク要因となることが明らかとなった。本研究の結果から,大学生が修学に支障を来すにいたるまでのプロセスには,(a)アルバイト中に心理的負荷のかかる出来事を経験することで精神的不調になり修学困難に至る,(b)深夜勤務による睡眠不足や疲労の蓄積が大学への出席に支障を来すことで修学困難に至るという2つの存在が示唆された。
著者
伊藤 貴昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.237-251, 2009 (Released:2012-02-22)
参考文献数
71
被引用文献数
5 7

学習者に言語化を促すと学習効果が促進されることがある。本稿では, そのような学習方略として言語化を活用することの効果を検討するため, 関連する3つの研究アプローチ(自己説明研究, Tutoring研究, 協同学習研究)を取り上げ, その理論と問題点を概観した。その結果, (1) 自己説明研究では言語化の目的が不明確であるため, 方法論の多様性という問題を抱えており, (2) Tutoring研究では, 知識陳述の言語化に留まってしまう学習者の存在が指摘され, (3) 協同学習研究では言語化の効果ではなく認知的葛藤の源泉としての他者の存在を指摘していること, の3点が明らかとなった。これらの問題を解決するため, 本稿ではTutoring研究において指摘された知識構築の言語化を取り上げ, 認知的葛藤を設定することで, 関連する研究アプローチを統合するモデル(目標達成モデル)を提案した。このモデルによって, これまでの研究によって拡散した理論を一定の方向へと収束可能となることが示唆された。
著者
西村 多久磨 河村 茂雄 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.77-87, 2011-03-30 (Released:2011-09-07)
参考文献数
28
被引用文献数
43 15

本研究の目的は, 中学生における内発的な学習動機づけと同一化的な学習動機づけの学業成績に対する影響の相違を検討することであった。特に, メタ認知的方略との関連に着目し, 学業成績に対する影響の相違について, 本研究では, 以下の仮説を立てた。それらは(1) 内発的な学習動機づけは学業成績を予測しないのではないか, (2) 同一化的な学習動機づけはメタ認知的方略を介して学業成績を予測するであろう, であった。研究1では自己決定理論に基づく学習動機尺度が作成され, 尺度の信頼性と妥当性が確認された。研究2ではパス解析により因果モデルが作成され, 仮説が支持された。本研究の結果より, 学業成績に対する同一化的な学習動機づけの重要性が示唆された。
著者
湯 立 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.212-227, 2016 (Released:2016-08-08)
参考文献数
54
被引用文献数
8 8

本研究では, 一般的個人興味を測定する尺度を作成し, 大学生の専攻している分野への興味の変化様態について検討した。研究1では, 感情, 価値, 知識の3側面から成る大学生用学習分野への興味尺度を作成した(N=202)。内的整合性の観点から信頼性が確認された。確認的因子分析の結果, 因子構造の交差妥当性が確認された(N=288)。内的調整, マスタリー目標, 自己効力感と正に関連したことから, 一定の構成概念妥当性が確保された(N=268)。研究2では, 大学生新入生(N=499)を対象に, 専攻している分野への興味について, 6ヶ月の短期的縦断調査を行った。潜在曲線モデルを用いて分析した結果, 全体的な変化パターンについて, “感情的価値による興味”“認知的価値による興味”は緩やかに減少したが, “興味対象関連の知識”はより急速に増加した。入学後1ヶ月の時点ですでに個人差が存在し, “感情的価値による興味”の変化のパターンは個人差がより大きいことが示された。“認知的価値による興味”の変化パターンにおいて男女差が見られた。今後, 興味の発達における個人差を説明する要因の検討は意義があることが示唆された。
著者
麻柄 啓一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.455-461, 1990-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
5 4

This paper deals with students' misconc eption and the process that a new concept displaces it. Many students think that plants growing from bulk (e. g. tulip) have no seed in the flowers. To correct such misconception, the control group was given reading material describing the fact that tulip has seed in the flower and could be raised. The experimental group was given reading material describing the reason why a tulip was raised from a bulk while it had seed in the flower. The main results were as follows.(1) More Ss in the experimental group abandoned their misconception and acquired new concept than Ss in the control group.(2) The experimental group was more deeply interested in the given article than the control group. The obtained results were discussed from the viewpoint of the mechanism that a new concept displaces an old one. And a general description was made concerning the teaching strategy used in this experiment.
著者
輕部 雄輝 佐藤 純 杉江 征
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.386-400, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
27
被引用文献数
8 4

本研究の目的は, 大学生が企業からの不採用経験をいかに乗り越え就職活動を維持していくかという就職活動維持過程に焦点を当て, 当該過程で経験する行動を測定する尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検討することである。2013年および2015年新卒採用スケジュールの就職活動を経験した大学生に対して, 2つの質問紙調査を行った。研究1では, 212名を対象に6つの下位尺度から構成される就職活動維持過程尺度を作成し, 一定の内的整合性と妥当性が確認された。研究2では, 72名を対象に作成尺度と就職活動の時期との検討を行い, 時期によって行われやすい行動が明らかとなり, 過程を測定する尺度としての妥当性が確認された。以上から, 就職活動の当初より行われやすいのは, 不採用経験を受けて当面の活動を維持するための現在志向的行動であり, 当該経験の蓄積や一定の就職活動の継続に伴って次第に, より現実的な将来目標を確立していく思考的作業を含む未来(目標)志向的行動が追加的に行われるようになることが示唆され, 作成尺度が就職活動維持過程における一次的過程と二次的過程を捉えうることが示された。
著者
森 敏昭
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.57-61, 1980
被引用文献数
3

文章を黙読した場合と音読した場合とでは, 文章の記憶及び読解の成績にどのような違いが生じるかという問題を, 大学生を被験者として検討した。その結果, 音読することは, 文章を逐語的に記憶する場合には有効であるが, その効果は一時的であることがわかった。これに対し, 黙読することは, 文章を逐語的に記憶するというよりも, 文章の内容を体制化して記憶する場合に有効であり, その効果は音読の場合よりも永続的であることがわかった。<BR>一方, 黙読するか音読するかということによって, 読解の成績には顕著な差はみられなかった。このことは, 黙読するか音読するかという事が読解と無関係であるというより, 読解テストのやり方自体に方法上の改善をほどこす必要があるということを示唆するものと考えられる。
著者
葛谷,隆正
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, 1955-07-15

以上18民族に対する学生層及び成人層の態度に関する所見を要約すると次の通りである。(i)好意度の順位と各順位の度数分布状況から18民族を分類すると次の6型式が得られる。第1型式と第6型式とは著るしい好悪に対するstereotyped attitudeがあるものと考えられ、第3型式及び第4型式は各個人に於て好悪の評価に著しい個人差があって、未だ好悪の態度におけるstereotyped tendencyは見られない。第2、第5の型式は前二者の中間型と見られ、全体的に言えば十分なstereotyped attitudeは形成されるに至っていないが、ある程度の固定化傾向を示していると思われる。(ii)各型式の主要特長を述べてみると、(イ)第1、第6の型式の特長-第1型式では接触源が多面的且つ豊富であり、従って理由根拠もその数が多く、各理由条項において凡て好ましいものと評価される。自国民を除いて成人層も学生層も共にドイツ人、フランス人、イギリス人に対してこの第1型式の範疇に於て評価しているが、之は明治初期以来約百年間に亘り凡ゆるマス・コミュニケーションによって浸みこまれた我が国民の彼等諸民族に対する凡ゆる面に於ける卓越性のために根強く喰いこんだ彼等への先進民族観、優秀民族観、逆に言えば彼等諸民族への自己民族の根深い民族的劣等感racial inferioity complexに由るのであると考えられる。アメリカ人に対しては成人層は依然前述の事情により更には太平洋戦争(第二次世界大戦)及びその後のアメリカ人との急激な直接的接触を通して益々彼等を優等視することが強化されるに至ったことにより圧倒的に好意度が高くなっていると思われる。併し学生層では成人層とはその米人観に於て著しく異った排米教育を受け、戦後の日本の歩みが彼等によって束縛され支配され利用されていると感じ、特に政治的に経済的に操られていると感ずるところから、成人層のもっているうな好意的なstereotyped attitudeは崩壊しつつあると考えられる。特に国際的にも米国がその平和政策に於てどちらかと言えば失敗しつつあるとの印象が強く、その為愈々米人への不信を強めていると思われる。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.129-139, 2010-06-30
被引用文献数
1

本研究では,近年用いられるようになった「障がい者」表記に注目し,ひらがな及び漢字の表記形態が身体障害者に対する態度に及ぼす影響について,接触経験との関連から検討することを目的とした。身体障害者に対する態度については,イメージと交流態度の2つの態度次元に着目した。SD法及び交流態度尺度を用いて,大学生・大学院生348名を対象に調査を行った。その結果,身体障害者イメージは身体障害学生との交流に対する当惑感を媒介として身体障害学生と交友関係を持つことや自己主張することに対する抵抗感に影響を与えることが示された。そして,ひらがな表記は接触経験者が持つ身体障害者に対する「尊敬」に関わるポジティブなイメージを促進させるが,接触経験の無い者が持つ尊敬イメージや,身体障害学生との交流に対する態度の改善には直接影響を及ぼすほどの効果を持たないことがわかった。身体障害学生との交流の改善には「社会的不利」「尊敬」「同情」を検討することが重要であることが本研究から示唆された。特に,身体障害者に対する「尊敬」のイメージの上昇は,接触経験の有無にかかわらず,交流態度の改善に影響を与えることが考えられる。
著者
海沼 亮 櫻井 茂男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.42-53, 2018-03-30 (Released:2018-04-18)
参考文献数
38
被引用文献数
2 4

本研究の目的は,社会的達成目標尺度を作成し,信頼性と妥当性を検討すること,社会的達成目標と向社会的行動および攻撃行動との関連を検討すること,社会的遂行接近目標と攻撃行動との関連を調整する要因について検討することであった。中学生965名に対して調査を行った。因子分析の結果,社会的達成目標尺度は,社会的熟達接近目標,社会的熟達回避目標,社会的遂行接近目標,社会的遂行回避目標の4因子から構成された。また,社会的達成目標と向社会的行動および攻撃行動との関連を検討した結果,社会的熟達接近目標は,向社会的行動と正の関連を有し,攻撃行動と負の関連を有していた。社会的熟達回避目標は,向社会的行動と正の関連を有し,関係性攻撃と負の関連を有していた。社会的遂行接近目標は,向社会的行動および身体的攻撃と正の関連を有していた。社会的遂行回避目標は,向社会的行動と負の関連を有し,関係性攻撃と正の関連を有していた。さらに,社会的遂行接近目標と攻撃行動との関連は,社会的熟達接近目標の程度によって調整されるという結果も得られた。
著者
水間 玲子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.131-141, 1998-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
49
被引用文献数
2 2

本研究の目的は, 理想自己について, その2側面一自己評価の内的基準, 自己形成を導く指針一に沿って検討していくことであった。そこで, 理想自己と現実自己のズレと自己評価との関連, 及び理想自己の水準と自己形成意識 (可能性追求因子と努力主義因子とからなる) との関連を検討した。研究に際しては, 理想自己に関して, 上記の目的を実証するに意義のあるものとそうでないものとを区別するよう心がけた。結果は以下の通りであった。理想自己と現実自己のズレは, 自己評価と有意な負の相関を示していた。また, 理想自己の水準の高低で群分けを行い, 可能性追求得点と努力主義得点の平均値についてt検定を行ったところ, 可能性追求得点について5%水準で有意に高群の方が高い得点を示していた。ここから, 理想自己の水準の高さは自己評価の低下と関連しながらも, 一方で, 個人の自己形成に向かっていきたいという意識の高さのあらわれともみなしうるのではないかと考えられた。
著者
伊藤 崇達
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.340-349, 1996
被引用文献数
10

The purpose of this study was to investigate the relationships among self-efficacy, causal attributions and learning strategy in an academic achievement situation. The Self-Regulated Learning Strategies, self-efficacy and intrinsic value scales developed by Pintrich and De Groot (1990) were translated into Japanese and administered to 251 junior high school students. On the basis of the results of the factor analysis, five learning strategies subscales were constructed: general cognitive, review-summarizing, rehearsal, giving attention and connecting. These subscales were positively correlated, and there were gender differences in three subscales, self-efficacy and intrinsic value. All these subscales were strongly related to self-efficacy and intrinsic value. The relationships among self-efficacy, causal attributions and learning strategy were analyzed, and the findings suggested that learning strategies had a greater influence on self-efficacy than effort attribution for their failure.
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.256-267, 2008-06-30

本研究では,事前に教科書を読むという予習が授業理解に与える影響とその個人差について,中学2年生を対象とした歴史授業を用いて実験的に検討した。また,予習の効果の授業内プロセスについて検討を行うため,ノートのメモなどの授業中の学習方略に注目した。さらに本研究では,予習が授業への興味に与える影響や,予習時の質問生成の効果についても併せて検討した。予習群,質問生成予習群,復習群を設定した実験授業を行い,予習-復習,質問生成あり-なしの対比を用いて検定を行った結果,予習は歴史の背景因果の理解に効果を持つことが示された。ただし,学習観を個人差変数とした適性処遇交互作用(ATI)の検討の結果,そのような予習の効果は学習者の意味理解志向の高さによって異なることが明らかになった。また,学習方略に注目した授業内プロセスの検討の結果,予習が授業理解に与える影響とその個人差は授業中のメモを媒介して生起することが示された。さらに本研究では,予習は授業への興味を下げないことや,予習時の質問生成には効果が見られないことが示された。
著者
高橋 麻衣子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.538-549, 2007-12
被引用文献数
1

本研究は,黙読と音読での文理解に違いを生み出す要因を検討し,黙読と音読の認知プロセスを明らかにすることを目的とした。認知プロセスにかかわる要因として(1)読解活動中に利用可能な注意資源,(2)黙読における音韻変換をとりあげ,二重課題実験によって検討した。読解活動中に利用可能な注意資源の量を操作するために,読解活動中に読み手にタッピング課題を課した。黙読における音韻変換の要因を検討するために,読解課題中に読み手に構音抑制課題を課し,音韻変換を阻害した。その結果,音読での文の理解度は読み手の注意資源の量にかかわらず,一定の成績を保てるのに対し,黙読での文の理解度は,読み手の注意資源が奪われると低下することが示された。また,黙読において音韻変換が阻害されると,その理解度は常に音韻変換を行っている音読での理解度よりも低下することが示された。これらの知見から,読み手に利用可能な注意資源の量と,黙読で音韻変換を行うかどうかという要因が,黙読と音読での理解度の差を生み出すことが考えられた。以上の結果から音読と黙読の認知プロセスモデルを提案し,これまで提出された多様な現象を統合的に説明できる可能性を指摘した。