著者
坪井 聡 山縣 然太朗 大橋 靖雄 片野田 耕太 中村 好一 祖父江 友孝 上原 里程 小熊 妙子 古城 隆雄 ENKH-OYUN Tsogzolbaatar 小谷 和彦 青山 泰子 岡山 明 橋本 修二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.613-624, 2014

<b>目的</b> 糖尿病患者の病院への満足度に関する対策を政策的に推し進める科学的根拠を得るためには,一般化可能な知見が必要である。本研究の目的は,既存の公的統計を二次利用することで外来に通う糖尿病患者の病院への満足度の分布を示し,関連を持つ要因を詳細に検討することである。<br/><b>方法</b> 患者調査,医療施設調査および受療行動調査(いずれも平成20年)を連結させたデータセットを作成した。患者調査と医療施設調査の連結には,医療施設調査整理番号を,加えて,受療行動調査との連結には,性と生年月日の情報を用いた。外来に通う糖尿病患者の病院への満足度の分布を検討し,また,様々な要因との関連の有無を検討した。関連の検討に用いた項目は,受診状況(初診か再来か),診察までの待ち時間,医師による診察時間,受療状況(他の医療機関の利用の有無等),糖尿病性の合併症,その他の合併症,生活保護法による支払い,禁煙外来,糖尿病内科(代謝内科)の標ぼう,診療時間(土曜日,日曜日,祝日の診療),生活習慣病に関連する健診の実施である。<br/><b>結果</b> 糖尿病患者の62.3%は,病院への満足度において,やや満足,非常に満足と回答し,やや不満,非常に不満と回答した者は5.6%であった。受診状況,診察までの待ち時間,診察時間,受療状況,土曜日の診療の有無は,病院への満足度と統計学的に有意な関連を示した。一方,その他の項目は病院への満足度との間に明らかな関連を示さなかった。統計学的に有意な関連を示した要因を用いた多変量解析では,再診,短い待ち時間,他の医療機関にかかっていないこと,長い診察時間と高い満足度との間に統計学的に有意な関連が観察された。<br/><b>結論</b> 複数の公的統計を連結させることによって,外来に通う糖尿病患者の病院への満足度の分布を示し,関連を持つ要因を明らかにすることができた。糖尿病患者の病院への満足度を高めるために,待ち時間の短縮と診察時間の確保が重要である。今後,多くの公衆衛生施策の検討に際して,公的統計の更なる活用が望まれる。
著者
西田 和正 河合 恒 解良 武士 中田 晴美 佐藤 和之 大渕 修一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.8, pp.518-527, 2020-08-15 (Released:2020-09-01)
参考文献数
28

目的 我々は,フレイル高齢者では,地域における役割がないことが,社会からの離脱を早め,二次的に心身機能維持の意欲が低下していると考え,地域保健モデルであるコミュニティアズパートナー(Community As Partner:CAP)に基づく介入によって地域における役割期待の認知を促す,住民主体フレイル予防活動支援プログラムを開発した。本報告では,このプログラムを自治体の介護予防事業等で実施できるよう,プログラムの実践例の紹介と,その評価を通して,実施可能性と実施上の留意点を検討した。方法 プログラムは週1回90分の教室で,「学習期」,「課題抽出期」,「体験・実践期」の3期全10回4か月間で構成した。教室は,ワークブックを用いたフレイル予防や地域資源に関する学習と,CAPに基づく地域診断やグループワークを専門職が支援する内容とした。このプログラムの実践を,地域高齢者を対象としたコホート研究のフィールドにおいて行った。基本チェックリストでプレフレイル・フレイルに該当する160人に対して案内を郵送し参加者を募集し,プログラムによる介入と,介入前後にフレイルや地域資源に対する理解度や,フレイル予防行動変容ステージについてのアンケートを行った。本報告では,参加率やフレイルの内訳,脱落率,介入前後のアンケートをもとにプログラムの実施可能性と実施上の留意点を検討した。結果 参加者は42人で(参加率26.3%),プレフレイル25人,フレイル17人であった。脱落者は10人であった(脱落率23.8%)。介入前後でフレイルの理解は5項目中4項目,地域資源の理解は,11項目中6項目で統計的に有意な向上を認めた(P<0.05)。フレイル予防行動変容ステージは,維持・向上したものが26人(81.2%)だった。結論 住民によるグループワークを専門職が支援するプログラムであっても,専門職が直接介入する従来型プログラムと同程度の約3割の参加率があった。一方,脱落率はやや高く,事前説明会で参加者に教室の特徴を理解させることや,教室中はグループワークに参加しやすくするための専門職の支援が重要であると考えられた。また,アンケート結果から,プログラムによってフレイルや地域資源への理解度が向上し,フレイル予防行動の獲得も示唆された。
著者
上田 進久
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.8, pp.528-533, 2020-08-15 (Released:2020-09-01)
参考文献数
13

目的 阪神・淡路大震災から25年になる。被災地では多くの建物が倒壊し,大量のアスベストが飛散した。震災に関連したアスベストによる健康被害者は,マスコミによって公表された6名であるが,国や自治体による実態調査は行われておらず詳細は不明である。アスベストによる環境汚染の状況を検証し,健康リスクを評価するために,被災地で実施された調査資料を検討した。方法 震災直後から環境庁が実施したアスベスト濃度測定の調査資料を検討した。結果 倒壊した建物からは最も危険とされている青や茶石綿が飛散し混合曝露の状態であったが調査では白石綿濃度だけの測定であった。これがアスベスト濃度として表記されており,白石綿濃度だけに基づく健康リスクは実際よりも低く評価されていると考えられる。結論 被災地におけるアスベストによる環境汚染は多角的な角度からの検証が重要であり,混合曝露による健康リスクを正しく評価しなければならない。作業員の他にも住民やボランティアなどのハイリスクの人達への注意喚起が求められる。さらに,二次災害としての健康被害者の拡大を防止するために,実態調査や追跡調査が重要であり,その受け口としての検診体制の構築が急務である。
著者
町田 宗仁 大澤 絵里 野村 真利香 曽根 智史
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.471-478, 2020-07-15 (Released:2020-07-31)
参考文献数
11

目的 将来的な国際保健政策人材となることが期待される,日本人の国際保健人材が,より多く国際的組織に採用されるために,国際的組織で求められるスキルやコンピテンシーの獲得に繋がるキャリアパスや,国際保健人材育成の際に考慮すべき支援内容の抽出を目的として,国際的組織に勤務する保健関係日本人職員9人に聞き取り調査を実施した。方法 調査期間は2017年10月から2018年2月であった。質問項目は,①基本属性(年代,現所属組織,現所属先の職位,留学経験,現場・フィールド経験,採用前の職業)に加え,②国際機関に応募することになったきっかけ,③現在の仕事をする上でとくに重要だと感じている能力やコンピテンシー,④国際機関に採用されるために結果として役立ったこと,⑤国際機関で働く前の在職中ないし在学中の準備,⑥国際機関で受けた面接の内容,⑦これから一人でも多くの日本人が国際機関に採用されるために必要な後押しの7項目とした。結果 9人全員が修士課程以上の海外留学とフィールド経験を有していた。留学,語学,フィールド経験,ネットワーク,専門性が採用に役に立っていた。職務上の重要な経験,能力,コンピテンシーとして,海外での修士号,フィールドの経験,サブ(業務に関する専門性),スキル(業務を遂行する上で必要な技術)が挙げられた。応募準備として,語学,履歴書作成や面接対策が行われていた。面接では,国際機関等から示されているコンテンツ,公募情報の内容,マネジメント能力に関して質問されていた。今後,多くの日本人を国際機関に送り出すためには,現場経験を積むための環境,ポストを得やすくするためのプログラム創設,国際機関の意思決定プロセスへの日本人の関与,政治的サポート,公募ポストの周知が挙げられていた。結論 将来的に国際的組織で勤務を希望する者は,語学習得の機会,海外留学,また,現場・フィールド経験を積むキャリアパスにより,まずは国際機関との繋がりが持てる仕事,経験を得ることに繋げられるという流れが考えられ,これらを通じてコンピテンシーも体得でき,採用に関して望ましい方向に働くことが一定程度明らかとなったと言える。また,採用試験準備,公募情報の周知や理解の促進等は,人材育成支援策のポイントであり,採用試験に向けた研修等を提供する組織的活動は,将来的に一人でも多くの日本人を国際保健人材として送り出せる可能性を生むものと考えられた。
著者
糸井 志津乃 安齋 ひとみ 林 美奈子 板山 稔 吉田 由美 風間 眞理 刀根 洋子 堤 千鶴子 奈良 雅之 鈴木 祐子 川田 智惠子 小池 眞規子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.442-451, 2020-07-15 (Released:2020-07-31)
参考文献数
41

目的 本研究では病院で活動しているがんピアサポーターが大事にしていることを明らかにすることを目的とする。方法 質的記述的研究方法を用いた。研究協力を承諾した患者会団体から研究参加候補者の紹介を受けた。研究参加に同意したがんピアサポーター10人に半構造化面接を2014年7月から10月に実施した。逐語録より,がんピアサポーターが大事にしていることを抽出した。文脈を単位としてコードを生成し,さらにサブカテゴリー化,カテゴリー化を行い分析した。本研究は目白大学研究倫理審査委員会の承認を得て,その内容を遵守して実施した。結果 研究参加者は病院を活動の場とし,個別相談,がんサロンで活動中の40歳代から70歳代の10人(男性2人,女性8人)のがんピアサポーターである。医療機関で活動しているがんピアサポーターが大事にしていることとして,129コード,11サブカテゴリーから5つのカテゴリーが生成された。カテゴリーは【傾聴しありのままを受け止め,利用者が方向性を出せるようにする】【医療者とは違う立場をわきまえ,対応する】【心持ちを安定させ,生活とがんピアサポート活動とのバランスを考える】【知識や技術を担保し,自分を磨き続ける】【医療者,病院との信頼関係を築く】である。結論 病院で活動しているがんピアサポーターが大事にしていることは,以下のようであった。まず,利用者を対象に,【傾聴しありのままを受け止め,利用者が方向性を出せるようにする】【医療者とは違う立場をわきまえ,対応する】である。これは“がんピアサポート活動の実践中に利用者のために大事にしていること”であり,大事にしていることの中心を成している。次に,がんピアサポーター自身を対象に,【心持ちを安定させ,生活とがんピアサポート活動とのバランスを考える】【知識や技術を担保し,自分を磨き続ける】である。これは“がんピアサポート活動の継続と質の向上のために大事にしていること”であり,支援体制や学習環境の整備が課題である。さらに,【医療者,病院との信頼関係を築く】である。これは“がんピアサポート活動を円滑にするために大事にしていること”である。医療者・病院との信頼関係の重視は,病院でのがんピアサポート活動の特徴と言える。本研究の結果は,がんピアサポート活動を振り返る視点になると考えるが,今後の課題としてがんピアサポーター養成講座への活用の検討が必要である。
著者
國方 弘子 三野 善央
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.377-388, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
43
被引用文献数
2

近年,患者立脚型アウトカムの指標のひとつとして QOL が重視されている。本稿の目的は,QOL に関する研究を歴史的に概観することにより QOL の概念を明確にすること,ならびに統合失調症患者の QOL についての研究の到達点を明らかにし今後の課題を考えることとした。 保健医療におけるアウトカムを重視する流れの中で,QOL が注目されるようになり,1990年から QOL の研究が活発になった。QOL の定義は必ずしも一致しているわけではないが,QOL は患者自身による回答に基づくものであること,QOL は主観的である,QOL の指標は多因子的である,数値は時間と共に変化することの 4 つが QOL の重要な特性とされていた。 次に,統合失調症患者の QOL 理論モデルとして,Bigelow, Lehman, Skantze and Malm のモデルを紹介し,あわせて 7 つの QOL 測定尺度を紹介した。統合失調症患者の QOL の研究について,Medline と医学中央雑誌を利用し,過去10年間に報告された文献から広く文献を検索するために「QOL,精神科(psychiatric)」をキーワードとして検索を行い,そのうち地域で住む統合失調症患者を対象にした論文のみに絞り込み検討した。その結果,患者の QOL 得点は健常者やうつ病患者と比較して低いことが明らかにされた。QOL の関連要因には,個人の特徴,生活様式,陰性症状,精神症状,能力(家族関係適応,友人関係適応,他者との相互作用),ソーシャルサポート,自己評価,自己決定などがあった。QOL には心理的領域が大きく影響することから,今後,それらと QOL の関連を縦断研究により明らかにし,心理社会的介入方法の構築が課題であると考える。
著者
小竹 理奈 羽成 恭子 岩上 将夫 大河内 二郎 植嶋 大晃 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.390-398, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
27

目的 介護老人保健施設(以下,老健施設)での看取りの実施割合は増加傾向にあり,老健施設での質の高い看取りを提供することは重要である。しかし,日本で老健施設における遺族による看取りの質の評価と施設の体制との関連を調査した研究はない。そこで本研究では,老健施設における看取りの質の指標のひとつである遺族の満足度と施設体制との関連を明らかにすることを目的とした。方法 全国老人保健施設協会が2014年1に実施した調査の個票匿名データを,二次的に分析した。調査対象は,同会会員施設の各施設で計画的な看取りを行った直近3ケースの遺族であった。従属変数は,遺族における看取りの「満足度」(「直後は悔いのない看取りだったと思えましたか」という5段階の質問に対して,最良の「大いに思えた」およびそれ以外)とした。独立変数は,各施設での各種説明体制(入所~死亡までにおける説明の状況など),運営・教育等への取り組み状況とした。単変量解析および多変量ロジスティック回帰分析により,従属変数と独立変数との関連を検討した。結果 分析対象は363人の遺族であった。このうち250人(68.9%)が「満足度」では「大いに思えた」を選択していた。多変量ロジスティック回帰分析の結果,遺族の看取り「満足度」と有意に正の関連を示したのは,利用者への定期的な診察があること,(オッズ比2.94,95%信頼区間1.52-5.70),入所時に利用者に対し疾病状態の説明が医師・多職種協働でなされていること(2.07,1.01-4.25),病態悪化時に利用者および家族に対し状況説明が医師・多職種協働でなされていること(3.12,1.17-8.33),施設職員のストレスマネジメントに取り組んでいること(3.63,1.84-7.16)であった。結論 遺族の看取りの高い満足度に関連する要因として,利用者および家族への説明において医師以外の職種の関わりが多いことや,管理医師が施設職員へのストレスに配慮していることが示唆された。施設の運営でこれらの要素を重視することによって,老健施設での看取りの質が向上する可能性がある。
著者
平 和也 河原 めぐみ 小沢 彩歌 清水 奈穂美 山川 正信 伊藤 美樹子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.413-420, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
13

目的 日本では,平均寿命の延伸に伴い,一般の人々が自身や家族の医療や介護ニーズの意思決定に直面する機会が増えており,Advanced Care Planning(以下,ACP)が推進されている。本研究では,ACPの動機付けと知識獲得を支援するツールとしてゲーミフィケーションを活用した試行プログラム(以下,試行プログラム)を開発し,その短期評価を目的とする。方法 2~4人でプレイするすごろく形式で,止まったマスで高齢期のリスクを提示する問題発生カードをめくり,手札(解決策カード)で解決していくゲーム形式の試行プログラムを開発し,評価のために市民公開講座を開催した。一般の参加者4人1組に研究者1人が同席し,無記名自記式質問紙調査,プレイ中の会話の録音と動画撮影を行った。質問紙の主な調査項目は,年齢,性別といった基本情報と試行プログラムの『ゲームの総合評価』,『ゲームの面白さの持続性』『ゲームの難易度』の3つの観点からの評価(5点満点)や学びになった高齢者のリスクとした。高齢者のリスクは,問題発生カードの内容を選択肢とした設問で回答を得た。また,録音データはトランスクリプト化し,ACPに関する発話の誘発や知識獲得の評価,動画データはゲームの仕様に関する評価に用いた。なお,本調査は滋賀医科大学長の許可を得て実施した。活動内容 参加者は9人であり,50歳代が3人,60歳代が5人,70歳代が1人で全員女性であった。試行プログラム評価(各5点満点で得点が高い方が高評価,高持続性,高難度)は,総合評価は平均4.1±0.6点,ゲームの面白さの持続性は平均4.0±0.8点,難易度は2.2±1.2点であり,高評価で難易度も適正であった。 ゲーム中の発話では,【高齢者のリスクについて】家族の延命治療や在宅看取り希望の療養者の救急連絡などACPにかかわる発話が誘発され,『専門職(ケアマネ)』『地域包括支援センター』などの用語の知識獲得もできていた。また,学びになった高齢者のリスクとしてもACPに関する内容が含まれていた。ただし,解決策カードの解説内容までは理解が及んでいないため,今後,副読書の作成や家庭内で実施した場合の効果検証が必要である。結論 ゲーミフィケーションを活用した試作プログラムが高齢期のリスクに関する知識の獲得および会話を誘発することが示唆された。
著者
山縣 恵美 渡邊 裕也 木村 みさか 桝本 妙子 杉原 百合子 小松 光代 岡山 寧子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.369-379, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
33

目的 高齢者の閉じこもり予防および改善の支援に向けて,地域在住自立高齢者を対象とした体力測定会に参加した者の2年間の閉じこもりに関する状態の変化とその関連要因を明らかにすることを目的とした。方法 亀岡市10地区の高齢者6,696人に対し2011年7月に日常生活圏域ニーズ調査(以下,ベースライン調査)を実施し,その回答者に2012年3~4月に体力測定会を開催し1,379人が参加した。この1,379人に対し2013年9月に再度体力測定会の案内を郵送し,参加を希望した638人に質問紙調査(以下,追跡調査)を実施した。本研究の対象者は,両調査で閉じこもり関連項目に回答した522人とした。分析には,ベースライン調査より基本属性,日常生活状況,健康状態,基本チェックリスト,生活機能に関する項目を,追跡調査より閉じこもりに関する項目を用いた。閉じこもりは,基本チェックリストの2項目のうち,1項目以上該当したか否かで評価した。両調査から,1) 非閉じこもりであった者が,そのまま非閉じこもり(非閉じこもり維持群)であったか,閉じこもり項目に該当(閉じこもり移行群)したか,2) 閉じこもり項目該当者が,それを改善(閉じこもり改善群)したか,そのまま(閉じこもり継続群)であったかで対象者を分類した。各群の特性を比較後,ロジスティック回帰分析を行い,閉じこもりに関する状態の変化に関連する要因を明らかにした。結果 ベースライン調査で非閉じこもりであった375人中,非閉じこもり維持群が326人(86.9%),閉じこもり移行群が49人(13.1%)であった。また,閉じこもり項目に該当した147人中,閉じこもり改善群が85人(57.8%),閉じこもり継続群が62人(42.2%)であった。2年後に新たに閉じこもり項目に該当する要因として,社会的役割が低いこと(OR=1.481,CI=1.003-2.185)が,閉じこもり改善の要因として,治療疾患がないこと(OR=14.340,CI=1.345-152.944),知的能動性が高いこと(OR=2.643,CI=1.378-5.069)が選択された。結論 2年間の縦断研究より,非閉じこもりであっても社会的役割の乏しい高齢者への支援の必要性が,また,閉じこもり項目該当者に対しては,治療疾患,知的能動性を考慮した支援の必要性が示唆された。
著者
清野 諭 北村 明彦 遠峰 結衣 田中 泉澄 西 真理子 野藤 悠 横山 友里 野中 久美子 倉岡 正高 天野 秀紀 藤原 佳典 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.399-412, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
39

目的 本研究の目的は,大都市在住高齢者を対象としてフレイルの認知度とその関連要因を明らかにすることである。方法 東京都大田区で実施したフレイル予防のための地域介入研究のベースラインと2年後調査データを用いた。2016年7月に,郵送法によって65-84歳の男女15,500人の健康度や生活実態を調査した。2018年 7 月に同一集団のフレイル認知度を調査し,この有効回答者10,228人をフレイル認知度の解析対象とした。さらに,これに2016年の調査データを結合できた9,069人を対象として,フレイル認知度の関連要因を検討した。フレイルについて「意味を知っている」または「聞いたことはあるが意味は知らない」と回答した者の割合を認知度とした。これを目的変数とし,年齢,婚姻状況,家族構成,教育歴,等価所得,BMI,既往歴の数,食品摂取多様性得点,腰痛,膝痛,飲酒,喫煙,抑うつ,運動習慣,社会活動,社会的孤立,フレイルの有無を説明変数とした決定木分析とマルチレベルポアソン回帰分析を適用した。結果 フレイルの認知度は20.1%(男性15.5%,女性24.3%)と推定された。決定木分析による認知度の最も高い集団は,社会活動と運動の習慣があり,かつ食品摂取多様性得点が 4 点以上の女性であった(認知度36.3%)。フレイル認知の独立した有意な関連要因は,年齢(1 歳ごと:多変量調整済み prevalence ratio[PR]=1.03,[95%信頼区間=1.02-1.04]),性(女性:1.35[1.21-1.51]),教育歴(高等学校:1.27[1.11-1.45],短大・専門学校以上:1.47[1.28-1.70]),等価所得(250万円以上/年:1.12[1.01-1.25]),運動習慣(あり:1.26[1.11-1.43]),食品摂取多様性得点(6 点以上:1.37[1.21-1.55]),社会活動(あり:1.33[1.20-1.49]),社会的孤立(あり:0.75[0.67-0.85]),フレイル(あり:0.72[0.62-0.84])であった。結論 フレイルの認知度は低水準であった。高年齢で社会経済状態や社会活動・運動・食習慣が良好な女性ではフレイルという用語が比較的よく認知されていた。一方,フレイル対策が必要な者ではフレイル認知度が低いという実態が明示された。ハイリスク者のフレイル予防・改善を促す具体策の検討が急務である。
著者
安藤 裕一 植嶋 大晃 渡邊 多永子 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.311-318, 2020-05-15 (Released:2020-06-02)
参考文献数
20

目的 日常的に運動を行うことは,生活習慣病の予防ならびに健康寿命を延伸するための一つの要素とされている。本研究は,高齢者の参加と安全配慮に主眼をおき全国に展開する「総合型地域スポーツクラブ」(総合型クラブ)の現状を分析し課題を考察することを目的とした。方法 スポーツ庁が2016年に実施した「総合型地域スポーツクラブ活動状況調査」を二次利用し,年代別会員数の記載のある2,444クラブを対象とした。総会員数に対するシニア会員数の割合(シニア会員割合)の4分位点を算出した上で,シニア会員割合が少ない群から順にA群,B群,C群,D群としこれを独立変数とした。また総合型クラブの所在地に基づき6地域に分類したものをもう一つの独立変数とした。従属変数は,総会員数,シニア会員数,シニア会員割合,1人当たりの月会費,クラブ収入総額,会員1人当たりの年予算,スポーツ・レクリエーション活動種目数,スポーツ指導者数,会員10人当たりのスポーツ指導者数,危機管理方策・事故防止対策(全13項目),法人格取得の有無とした。結果 シニア会員割合が高いD群は,会員数,1人当たりの会費,クラブ収入総額,会員1人当たりの年予算が低く,スポーツ指導者数ならびに,会員10人当たりのスポーツ指導者数が少なかった。またD群は危機管理方策・事故防止対策の6項目(健康証明書提出,賠償責任保険加入,安全講習会実施,熱中症対策,医師との連携,AED設置)の実施割合が最も低く,法人格の取得割合も最も低かった。地域間の比較では,シニア会員の割合は,中国四国が高く,中部が低いという地域差を認めたもののいずれの地域もその中央値は20%台であった。危機管理方策・事故防止対策の実施割合は,関東は10項目で最も高かったのに対し,近畿は8項目で最も低かった。結論 高齢の会員割合が高い総合型クラブは人的規模ならびに予算規模が小さく,危機管理方策・事故防止対策が遅れていること,またこれらの規模や安全対策に地域差がみられることが示された。「高齢者は疾病を抱える可能性が高いことを鑑みれば,高齢の会員割合が高い総合型クラブは安全配慮が重要であるにも関わらず取り組みが遅れている」という現状を,該当する総合型クラブならびに関係機関は理解した上で改善を進めることが必要である。
著者
伊藤 海 田口 敦子 松永 篤志 竹田 香織 村山 洋史 大森 純子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.334-343, 2020-05-15 (Released:2020-06-02)
参考文献数
32

目的 介護保険制度が2000年に導入され,高齢社会の到来を見越した動きが高まり,互助の重要性が国として認識され始めた。本研究は,近年の互助の定義と構成概念を明らかにし,互助の取り組みを拡充する方策を検討することを目的とした。それにより,地域包括ケアシステムの構築に向けた互助拡充に資することを目指す。方法 Rodgersの概念分析法を用いた。データベースは医学中央雑誌web版に加え,CiNii Articlesを用いた。タイトルまたは抄録に「互助」を含む文献を検索した。検索式は「互助/TA」と設定した。検索期間は2000年以降とした(検索日2016年8月30日)。30件の文献をランダムサンプリングにより選定し,そこにランドマークとなる文献を加えた全32件を分析対象とした。分析は,属性(互助の特性),先行要件(互助に影響する要因),帰結(互助に期待される成果)の3つの枠組みで質的に行った。結果 互助の特性として,【住民間の生活課題に関する共感体験】,【互いに補おうとする住民の自発的な意識】,【地域の生活課題を解決し合う住民の相互行為】の3つのカテゴリが抽出された。互助に影響する要因として,【自助や共助・公助のみでは解決できない生活課題の存在】,【住民間の交流の存在】,【住民間の生活課題の共有】,【住民主体の支え合いを推進する公的仕組み】の4つのカテゴリが挙がった。互助に期待される成果として,【住民の生活課題の解決】,【住民の自助意識の向上】,【住民の役割や生きがいの創出】,【住民間の交流やつながりの促進】の4つのカテゴリが抽出された。結論 互助は,「地域の生活課題を解決し合う住民の相互行為。また,生活課題に対する共感体験,および互いに地域の生活課題を補おうとする自発的な意識を住民が持つこと」と定義された。また,互助の拡充に向けて必要な対策として,住民が他者への共感を持つこと,互助で取り組むことで得られる住民の利益を住民自身が理解すること,住民主体の支え合いでありつつも公的な仕組みがあることの必要性が示唆された。
著者
國分 恵子 堀口 美奈子 森 亨
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.319-326, 2020-05-15 (Released:2020-06-02)
参考文献数
20

目的 介護保険を初めて申請し,認定された者の5年後の生存状況から生命予後に関連する要因を探る。方法 某自治体で2年間に新たに介護保険認定を受けた65歳以上の556人について,その後平均4.5年間の死亡状況を,標準化死亡比(SMR)を用いて一般人口と比較し,その関連要因について分析した。結果 対象者の平均年齢は81.6歳,女性が63%を占めていた。認定後の死亡率(人年法)は全体で16.9%,男が女より高く,また年齢とともに高くなっていた。SMRは,全体では1.80(倍),男>女であるが,年齢は低いほどSMRは高かった。登録時の障害自立度では区分が重度になるほどSMRは高くなるが,認知症自立度ではそのような有意の関連は見られなかった。多変量解析によると,死亡に対して性(男>女),年齢階級(老>若),障害自立度,生活の場(居宅>施設)が有意の要因であった。すなわち死亡のオッズ比は,女で0.35(男=1),95%信頼区間0.24-0.51,年齢階級では65-74歳を基準として75-84歳,85歳以上の区分ごとに1.84(同1.39-2.47),障害自立度では「正常」を基準に各区分ごとに1.38(同1.21-1.58),生活の場では「居宅」を基準に「施設」で0.64(同0.42-0.99)であった。認知症自立度Ⅱa-Ⅳの該当者を暫定的認知症例としてみても以上の所見は同様であった。結論 介護保険認定高齢者の死亡率は一般人口よりも高く,これは障害者自立度に依存するが,認知症自立度には依存しない。この所見を説明するために更なる研究が必要である。
著者
中島 素子 三浦 克之 森河 裕子 西条 旨子 中西 由美子 櫻井 勝 中川 秀昭
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.647-654, 2008 (Released:2014-07-01)
参考文献数
20

目的 医科大学敷地内禁煙化の実施によって,医学生の喫煙率はどのように推移したか,喫煙についての学生の意識はどのように変化したかを明らかにする。方法 北陸のある医科大学において敷地内全面禁煙化が2004年に実施された。2001年から2007年まで,毎年約640人の医学生の喫煙状況を定期健康診断時に調査した(回答率91.2%)。また2000年度入学から2006年入学までの新入生全員の喫煙状況を経年的に追跡し,進級による喫煙率の変化が敷地内禁煙化によりどのように変化したかを調査した。さらに,喫煙者の喫煙に対する意識の変化や,敷地内禁煙準備期間から禁煙を開始した禁煙群と継続喫煙群の喫煙に関する意識の比較を行った。結果 2001年から2007年までの 7 年間の全学生の喫煙率は,敷地内禁煙実施前と比較すると,実施後に低下し,男子でもっとも喫煙率の高かった2002年の喫煙率41.2%と,2007年の喫煙率22.1%では19.1ポイントの差があった。毎年の新入生の喫煙率の推移を追跡すると,敷地内禁煙実施前は進級とともに喫煙率は上昇していたが,実施後は進級ごとに喫煙率が低下傾向を示した。敷地内禁煙実施前後に同じ対象者で比較すると,男子学生の喫煙率が実施前の36.0%,から実施後の25.6%へ有意に減少した(P<0.05)。また喫煙者のうち「喫煙をやめたい」と答えた人の割合が,実施前は39.1%であったが,実施後では60.2%と有意に増加していた(P<0.01)。さらに敷地内禁煙準備期間から禁煙した禁煙群70人と,継続して喫煙している継続喫煙群90人の 2 群間の意識を比較したところ,将来患者さんに積極的な禁煙教育ができないと思う者は,禁煙群20.8%,継続喫煙群50.0%であり,継続喫煙群で有意に高かった(P<0.01)。結論 医科大学敷地内全面禁煙化は,医学生の禁煙と喫煙への意識の変化に強い効果がある可能性が高いと考えられた。
著者
松崎 良美 猿木 信裕 松田 智大
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.247-260, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
参考文献数
31

目的 2013年に「がん登録等の推進に関する法律」(以下,「がん登録推進法」)が成立し,2016年1月に施行され,医療機関においてのがんの診断・治療に際して届出が義務付けられた。都道府県で同一患者に関する複数の届出を処理し,がんの罹患数を高い精度で把握するためには,名寄せが必要なため,個人情報の収集が欠かせない。がん登録の遂行をめぐり,財政的基盤が不足していたことに加え,「がん登録推進法」の成立過程では,個人情報保護が主論点となったが,国民のがん登録に対する関心の持ち方にも変化がみられた可能性がある。新聞メディアにおいて,がん登録に触れた記事の本数の推移を把握し,その内容がどのように変化したか記述し,検討を行う。方法 がん登録の標準化や精度向上が進捗したと考えられる第3次対がん10か年総合戦略が開始された2004年から2013年に発刊された主要紙5紙と地方紙50紙を対象に,株式会社ELNETが取り扱う新聞記事クリッピングサービスを用いて1)「がん and 登録」2)「がん and 統計」3)「がん and 対策」4)「がん and 情報」のキーワードを見出しまたは本文に含む記事を抽出したところ,960件が該当した。そのうち「がん登録」の文言を含む記事441件を分析対象とし,2004年から2008年に掲載された「前期」記事,2009年から2013年の「後期」に分け,新聞記事本文の計量テキスト分析を実施した。ソフトはKH Coderを用いた。結果 「がん登録」の文言を含む記事が最も多くみられたのは2006年で68件あり,次いで2011年の60件であった。とくに,がん登録2006年に多くみられた記事の多くは,法律制定にむけた動きの他に,がん登録データを用いた疫学調査の結果の公開と関連して,2011年については東日本大震災で発生した原発事故と関連してみられた。結論 「がん登録」の文言を含む記事数増加の背景には,がん登録を用いたデータ分析結果の公表,国民の不安や健康意識を高めるようなイベントの発生があった。例えば,地域や施設別生存率の提示や,がん発症が懸念されるイベントが挙げられる。これらのイベント発生ががん登録の重要性の認識に繋がったとも考えられる。
著者
Roseline KF YONG Koji FUJITA Patsy YK CHAU Hisanaga SASAKI
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.237-246, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
参考文献数
32

Objectives This study aimed to assess the relevance of hikikomori to a variety of socio-demographic characteristics and socio-psychological conditions and examined these relationships by gender.Methods The study employed a cross-sectional design. A questionnaire survey was conducted among 2,459 participants aged 15-64 years and living in Happo-cho, Akita. The outcome variable, hikikomori, was characterized by “not having participated in any social events nor interacted with others besides family members for more than six months.” Exposure variables included sex, age, marital status, occupational status, outdoor frequencies, health, socio-psychological well-being, and availability of social support. Using Chi-square test of independence and multiple logistic regression, the results indicated the impact of the individual factors and the combined impact of all potential variables on the likelihood of being hikikomori in both participant groups: men and women.Results The effective response rate was 54.5%. Those who socially withdrew for six months or more (n=164 (6.7%); 53.7% men, 46.2% women) were classified as being hikikomori; of these, 45.7% had been withdrawn for more than 10 years. Hikikomori men were more likely to have severe symptoms of mental illness, poorer overall self-rated health, feelings of distress, and passive suicidal ideation than non-hikikomori men, but not hikikomori women. Furthermore, after adjusting for all tested variables as possible confounding factors, being jobless and having fewer outdoor frequencies were associated with being a hikikomori man, and being a homemaker and having no social support were associated with being a hikikomori woman.Conclusion Occupational status and outdoor frequencies are relevant factors for assessing the likelihood of being a hikikomori. Characteristics of hikikomori manifest differently in men and women. Having social support may help women avoid transitioning into a hikikomori. Incorporating emotional and mental health management into intervention programs may help better target potential beneficiaries among Japanese men.
著者
山崎 晶子 錦戸 典子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.272-282, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
参考文献数
18

目的 二次医療圏において地域・職域が連携して実施していた活動とそれによる成果を明らかにするとともに,地域・職域連携推進協議会(以下,協議会)の開催状況との関連を検討する。方法 全国464保健所に所属し,地域・職域連携推進事業を担当またはそれに準じる保健師を対象に,無記名式質問紙調査を実施した。連携活動22項目の実施の有無,および連携活動による成果の実感程度について4件法で回答を求め,それぞれ階層クラスター分析によりカテゴリーに分類した。これらの活動・成果カテゴリーと協議会等の開催の有無ならびに開催頻度との関連をMann-WhitneyのU検定等により,活動・成果の各カテゴリー間の関連をSpearman順位相関分析により,各々検討した。結果 有効回答176件を分析し,3つの連携活動カテゴリー[関係者間の情報交換],[健康相談や健康教育における協働],[新たな企画立案や調査]が得られた。[関係者間の情報交換][新たな企画立案や調査]については,協議会等開催「無」群より「有」群で有意に高値であり,[新たな企画立案や調査]は協議会開催「1回」群よりも「2回」ならびに「3回以上」群で有意に高値だった。連携成果カテゴリーは,【連携窓口の共有が出来た】,【信頼関係の構築と健康課題の把握が出来た】,【達成感獲得,情報交換システム構築,費用削減】,【健康づくりの取り組みが進展】,【ヘルスリテラシーの向上】,【保健事業の質の向上と参加人数の増加】の6つに分類された。【連携窓口の共有が出来た】,【信頼関係の構築と健康課題の把握が出来た】,【達成感獲得,情報交換システム構築,費用削減】,【保健事業の質の向上と参加人数の増加】の4つの成果カテゴリーについては,協議会開催「有」群で有意に高値だった。さらに,上記のうち1~3番目までの成果カテゴリーについては,協議会等を3回以上開催することにより1回開催と比べて高値だった。また,連携活動[健康相談や健康教育における協働],[新たな企画立案や調査]と,ほとんどの連携成果カテゴリー間で有意な関連が認められた。結論 本研究により3つの連携活動カテゴリー,6つの連携成果カテゴリーが得られ,それぞれ協議会開催の有無や開催回数との関連が明らかとなった。また,実質的な協働や新たな事業等を共に企画する等の連携活動を活発に行うほど,連携成果を実感できていた可能性が示された。
著者
福田 早苗 渡邊 映理 小野 直哉 坪内 美樹 白川 太郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.293-300, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
17
被引用文献数
1

目的 近年,その市場の増大が注目される現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法であるが,国内での使用の実態を明らかにした報告は,あまり多くない。本研究では,自記式質問票を用いて,町単位の実態調査を実施し,その使用実態を明らかにするとともに,結果から伺える問題点をとらえる。方法 熊本県小国町町民35歳以上64歳以下の3,501人全員を対象とした自記式質問票を実施した(回収率83.6%)。質問票の内容は,「個人の属性」,「健康状態」,「生活習慣」についてであった。現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法の使用経験の有無については,「漢方薬」,「栄養補助食品/健康食品(カルシウム・ビタミンなど)」,「カイロプラクティック/整体」,「マッサージ/指圧」,「イメージ療法/ヨガ/瞑想」,「鍼灸」,「気功/太極拳」,「アロマセラピー/ハーブ」,「温泉」について,それぞれ,「使用頻度」・「医師の処方/薦めの有無」・「目的」・「効果」・「費用」についてたずねた。結果 現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法使用・摂取は,約57%であり,全体的に年齢が高いほど,女性であるほど,高かった。最も多いのは,栄養補助食品/健康食品で女性47%,男性35.3%であった。医師に薦められて(処方で)用いている項目で最も多いものは,「漢方薬」であり,女性で24.8%,男性で11.4%であった。もっとも治療院や専門店の利用率が高いのは,カイロプラクティック/整体であった(男性68.6%,女性70.5%)。結論 現代西洋医学以外の伝統的な医療や治療方法使用・摂取は,約57%と,各国平均に比べても高く,使用・摂取は,女性や年齢が高いものに多かった。利用状況は高く,健康政策上に無視できない影響を与えると考えられる。
著者
小池 創一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.1268-1277, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
28

目的 キューバのエイズ対策の概要,歴史,疫学,検査体制および療養所システムについて明らかにし,他のエイズ問題を抱える開発途上国に対して適応可能であるかについて考察を行うこと。方法 エイズ療養所への訪問および聞き取り調査(2001年 3 月23日より31日)ならびに文献調査調査結果 (1)疫学 キューバの国立リファレルセンターであるペドロ・コウリ研究所における1986年から2001年 1 月までの累積 HIV 感染者・AIDS 患者数は合計で3,230人,うち男性は2,500人(77.4%),女性は730人(22.6%)であった。このうち AIDS 患者は1,195人,死亡は843人であった。 (2)検査体制 HIV 検査は45ある全国研究所ネットワークにおいて一次検査を行い,ペドロ・コウリ研究所が確定診断を行う。 (3)治療体制 HIV 感染が明らかとなった場合,患者・感染者は療養所に入所するか,デイケアホスピタルに入院することとなる。療養所またはデイケアホスピタルでの評価,教育等の終了後は,地域における外来プログラムに引き継がれるというシステムが構築されている。 (4)キューバのエイズ対策の歴史 キューバにおけるエイズ対策は,1983年にキューバ公衆衛生省が全国エイズ委員会を設置した当時から本格化した。1990年 6 月までに延べ800万人に検査が実施され,大規模なエイズ検査態勢が敷かれた。1990年からはキューバ国内のすべての郡においてエイズ療養所の建設が始まり,1993年にはエイズ患者の外来治療制度が導入された。結論 キューバは,エイズの蔓延を防止できた点において成功を収めたといえるが,その成功は既存の保健医療システムに深く根ざしたものであり,かつ,極めて初期の段階に強力な介入を行うことができた点に特徴がある。一方,感染者をエイズ療養所に入所させるなどの取り扱いなど,手法の是非については国際的にも評価が分かれている。このため,キューバのエイズ対策をモデルとして,他のエイズ問題を抱える開発途上国に対してそのままの形で適応可能であるかという点については,更なる研究を待つ必要がある。キューバにおいてこれまでに確立された保健医療システムおよび国際協力の経験やノウハウは,将来キューバが南々協力の拠点となる可能性を示唆するものとして注目される。