著者
久野 純治 坂田 清美 丹野 高三 坪田(宇津木) 恵 田鎖 愛理 下田 陽樹 高梨 信之 佐々木 亮平 小林 誠一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.255-266, 2021-04-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
50

目的 大規模自然災害後の被災地では生活不活発病が問題とされ,それに伴う転倒予防の必要性が高まっている。本研究では東日本大震災後の被災高齢者の新規転倒要因を明らかにすることを目的とした。方法 2011年度に岩手県沿岸部で実施された大規模コホート研究(RIAS Study)に参加した65歳以上の高齢者のうち,転倒や要介護認定,脳卒中・心疾患・悪性新生物の既往がなく,2012~2016年度までの調査に毎年参加した1,380人を対象とした。本研究では毎年の質問紙調査で一度でも転倒したと回答した者を新規転倒ありとした。新規転倒要因には,2011年度実施した自己記入式質問票,身体計測,および,握力検査から,自宅被害状況,転倒不安,関節痛,認知機能,心理的苦痛,不眠,外出頻度,既往歴(高血圧,脂質異常症,糖尿病)の有無,飲酒状況,喫煙状況,肥満度,握力を評価した。新規転倒の調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を,年齢と居住地域を調整した多変数ロジスティック回帰分析を用いて算出した。その後,前期高齢者と後期高齢者に層化し,同様の解析を行った。結果 5年間の追跡期間中,参加者の35.5%(男性31.9%,女性37.9%)が新規転倒を経験した。新規転倒と有意に関連した要因は,男性では認知機能低下疑い(OR[95% CI]:1.50[1.01-2.22]),女性では認知機能低下疑い(1.82[1.34-2.47]),不眠(1.41[1.02-1.94]),脂質異常症の既往(1.58[1.11-2.25]),過去喫煙(4.30[1.08-17.14])であった。年齢層では,後期高齢女性で自宅半壊(7.93[1.85-33.91]),心理的苦痛(2.83[1.09-7.37])が有意に関連した。結論 男女ともに認知機能低下,女性では不眠,脂質異常症の既往,過去喫煙が新規転倒要因であった。後期高齢女性では自宅半壊と心理的苦痛が新規転倒要因となった。大規模自然災害後の転倒予防対策では従来指摘されている転倒要因に加えて,環境やメンタル面の変化にも注意する必要があることが示唆された。
著者
吉田 真二 山崎 喜比古
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.241-254, 2021-04-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
57

目的 高齢者のQOL支援のため,健康かつ前向きに生きる力概念を包含した動態的なライフを生命・生活・人生の3つの次元で捉える主観的QOLを測定する尺度の開発を試み,その信頼性と妥当性を検討することである.方法 文献調査,慢性疾患患者へのインタビューを行い項目を作成し,3つの次元各々が1項目ずつの計3項目から成る主観的QOL尺度を完成させた.本尺度は,質問項目に参照期間を設け,誰にでもある生活や人生の浮き沈み双方の日数比をVisual Analogue Scale(VAS)による7件法で自己評価を行うものである.本調査では,病院の外来患者や,地域包括支援センターなどの紹介によりリクルートした70~84歳の在宅高齢者100人を対象に,他記式質問紙調査を行った.信頼性の検討は,Cronbach α(以下α),Item-Total(以下I-T)相関分析,項目削除時のα係数の算出により行った.内容妥当性の検討は,自由回答の内容分析に依った.構成概念妥当性の検討は,階層的重回帰分析を行い,抽出された主観的QOLの関連要因の意味内容を検討し,また先行研究との一致も確認した.結果 信頼性の分析では,α係数は0.898であり,I-T相関と項目削除時のα係数のいずれも基準値をクリアできており,一定の信頼性が確認できた.内容妥当性の検討では,3つの次元各々で抽出したカテゴリは共通性と固有性からなることがみてとれ,ともにQOLの各次元の概念の特徴を示しており,内容妥当性が概ね確認できた.構成概念妥当性の検討では,就労している者,役割や経済的にゆとりが有る者,利用中の介護サービスが1つの者よりも2つ以上の者,主観的健康管理能力やソーシャルネットワーク,Sense of Coherence(以下SOC)が高群の者は主観的QOLが有意に高かった.また,主観的QOLは,SOCの有意味感と経済的にゆとりが有ることとに有意な関連性がみられ,これらの結果は先行研究と一致しており,構成概念妥当性が確認できた.結論 本尺度の信頼性と妥当性が概ね確認でき,使用可能性が示された.
著者
田中 宏和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.276-285, 2021-04-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
20

はじめに 2019年末に中華人民共和国湖北省武漢市で初報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はわずか数か月で世界的に拡大し,欧州でも多くの感染者を出した。本稿はオランダにおける2020年7月末までの感染拡大とその対応についてまとめ,新興感染症による公衆衛生の海外での体験を一例として共有することを目的とした。疫学 2020年2月27日に初めての新型コロナウイルス感染症患者が確認されてから感染が急拡大し,第一波は新規感染者・死亡者ともに4月10日ごろにピーク(日別新規感染者1,395人,日本の人口換算で約10,000人)を迎えた。その後,感染拡大は収束したが5月31日時点で感染者46,422人,入院患者11,735人,死亡者5,956人が累計で報告された。死亡のほとんどが60歳以上で発生し,男性は80-84歳で,女性は85-89歳でそれぞれピークとなっていた。地理的な広がりとしてはアムステルダム・ロッテルダムといった都市圏での感染者は相対的に少なく,南部の北ブラバント州・リンブルフ州で多かった。オランダ政府の対応 オランダ政府の対策の特徴は,最初の感染者の確認からわずか2週間で全国的な都市封鎖に追い込まれたこと,比較的緩やかな都市封鎖措置と行動制限を実施したこと,社会・経済活動の再開までに約3か月を要したことが挙げられる。2020年3月12日から段階的に全国的な対策を施行し,3月下旬にルッテ首相がインテリジェント・ロックダウン(Intelligent Lockdown)と呼ぶオランダ式の新型コロナウイルス感染防止対策が形成された。5月中旬以降,子どもに対する規制が緩和されたが対策措置の多くは6月中旬まで続き,段階的な緩和をもって社会・経済活動が再開,7月1日にほぼすべての規制が解除された。それ以降,在宅勤務の推奨,1.5メートルの社会的距離を取ることや公共交通機関でのマスク着用義務化など新しい日常への模索が続いている。おわりに オランダにおける感染拡大防止策は多様性と寛容に裏打ちされたオランダの国民性を体現したものだったが,感染者数および死亡者数は日本より深刻な状況であった。健康危機管理に関する他国の政策の評価には公衆衛生や医療資源の評価とともに,その背景にある社会の特徴を考慮することが重要である。
著者
Ayumi KONO Naomi FUKUSHIMA Takuma ISHIHARA Noriko YOSHIYUKI Kouji YAMAMOTO
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.267-275, 2021-04-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
34

Objectives We investigated the 5-year disease-related mortality risk, including that associated with neoplasms, mental/behavioral/neurodevelopmental disorders, and diseases of the circulatory system and respiratory system,in ambulatory frail Japanese older adults.Methods We retrospectively analyzed long-term care and health insurance claims data in this cohort study performed between April 2012 and March 2017. The primary outcome was mortality, and the secondary outcome was care-need level decline. Risk factors were determined based on the International Statistical Classification of Disease and Related Health Problems, 10th Revision codes, hospitalization, and institutionalization. The study included 1,239 ambulatory frail older adults newly certified as needing Support-Level care at baseline (April 2012-March 2013) across three Japanese municipalities.Results Of the 1,239 participants, 454 (36.6%) died. Neoplasms (hazard ratio [HR] 2.69, 95% confidence interval [CI] 1.97-3.68) or respiratory system diseases (HR 1.62, 95%CI 1.26-2.08) were independently associated with mortality. Mental/behavioral/neurodevelopmental disorders (HR 1.39, 95%CI 1.17-1.66) or diseases of the respiratory system(HR 86, 95%CI 75-99) were independently associated with care-need level decline.Conclusions This study suggests that neoplasms or respiratory system diseases were associated with a high mortality risk and that mental/behavioral/neurodevelopmental disorders were associated with care-need level decline among ambulatory frail older adults. Optimal disease management and effective long-term care are important to delay the onset of these events in older adults certified as needing Support-Level care.
著者
桂 晶子 萩原 潤 山田 嘉明
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.221-229, 2021-04-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
30

目的 災害時の保健情報をはじめ健康に関わる情報を住民へ適切に伝えることは公衆衛生行政の役割の一つである。本研究は,東日本大震災および平成27年9月関東・東北豪雨の両者を経験した地域に住む住民の日常における情報収集行動を把握すること,その要因を被災経験,生活背景等から検討し防災リテラシー向上の示唆を得ることを目的とした。方法 大震災,関東・東北豪雨の両者を経験した2つの地域の全1,065世帯を対象に,2017年6月に質問紙による横断調査を行った。回答は1世帯1人とし,回答者362人(回答率34.0%)のうち属性の明らかな336人を分析対象とした。日常における情報収集行動を把握し,災害時の活用が報告されている情報収集手段3変数を従属変数として二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 対象者は男性179人(53.3%),女性157人(46.7%),平均年齢(標準偏差)は65.5(10.6)歳であった。対象全体の半数以上が利用する情報収集手段は,利用率が高い順に「テレビ」「新聞」「会話や口づて」「ラジオ」「地域広報誌」であった。友人・知人との「会話や口づて」「ラジオ」「インターネットサービス」の3変数の要因を検討した結果,「会話や口づて」の利用は4変数が有意となり,性別が「女性」(オッズ比(OR),1.82;95%信頼区間(CI);1.05-3.15),同居家族「あり」(OR, 2.46;95%CI, 1.06-5.72),住民の助け合いが「期待できる」(OR, 2.31;95%CI, 1.27-4.21),台風・大雨の怖さが「強くなった」(OR, 1.82;95%CI, 1.04-3.18)において正の関連が示された。「ラジオ」の利用は,同居家族「あり」(OR, 3.22;95%CI, 1.35-7.67),関東・東北豪雨の被害「あり」(OR, 1.73;95%CI, 1.01-2.97)と正の関連が示された。「インターネットサービス」は「年齢」と負の関連(OR, 0.91;95%CI, 0.88-0.94),住民の助け合いが「期待できる」と正の関連が示された(OR, 2.66;95%CI, 1.19-5.93)。結論 自然災害による被害や恐怖心はその後の情報収集行動に影響すること,また,住民の助け合いの意識と情報収集行動との関連を活かした平時における防災リテラシー向上への取り組みの可能性が示唆された。
著者
本田 浩子 斉藤 恵美子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.252-259, 2016 (Released:2016-06-18)
参考文献数
20

目的 発達障害は症状や障害の範囲が広く,外見から障害があることがわかりにくいことも多い。また,乳幼児期から青年期・成人期に進むと発達障害の特性に二次障害による生活障害が加わることも多く,家族の負担が増加することが予測される。そこで,本研究では成人の発達障害者の親を対象として親の負担感に関連する要因を明らかにし,家族への支援について検討することを目的とした。方法 首都圏で活動している発達障害者の親の会,精神保健福祉センター,発達障害者支援センターを利用している発達障害者(18歳以上)の親125人を調査対象とした。調査期間は2011年10~11月として,無記名自記式質問紙による郵送調査を行った。調査項目は,対象者の基本属性,負担感として日本語版 Zarit 介護負担尺度短縮版(以下,J-ZBI_8),子どもの状況(性別・年齢・診断名・診断年齢・日常生活の状況・二次障害の有無等),家族内外のサポート状況として情緒的サポート(配偶者,配偶者以外の同居家族等),相談者の有無等とした。結果 有効回答64票を分析対象とした。女性54人(84.4%),50歳以上89.1%,家族人数の平均3.5人(標準偏差1.1,以下 SD),子どもの平均年齢28.9歳(SD 6.6)であった。子どもの診断は,自閉症32人(50.0%),アスペルガー症候群16人(25.0%),広汎性発達障害(自閉症・アスペルガー症候群以外)13人(20.3%)であり,J-ZBI_8 の平均値は12.8(SD 7.2)であった。負担感を目的変数とし,2 変量の単回帰分析で統計的に有意差のあった家族人数,二次障害の有無,日常生活の状況,情緒的サポート(配偶者)を説明変数,対象者の年齢および診断名を調整変数とした重回帰分析を行った。その結果,二次障害がありの方が(P=0.001),また,日常生活の状況として援助が必要であるほど(P=0.041),負担感が高かった。考察 本研究は,自閉症を中心とした限定した発達障害者の親を対象としており解釈に限界はあるが,親の負担感は,統合失調症や高次脳機能障害などの精神障害者等を介護している家族の負担感とほぼ同様の結果であった。子どもに二次障害があり,また,日常生活の状況として援助が必要であるほど,親の負担感と関連があった。今回の結果から,親の負担感を軽減するために,二次障害への支援と日常生活の状況に応じた援助が重要であることが示唆された。
著者
内野 英幸
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.499-508, 1997-07-15
参考文献数
16
被引用文献数
4
著者
チェ ジョンヒョン 村嶋 幸代 堀井 とよみ 服部 真理子 永田 智子 麻原 きよみ
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.948-958, 2002-09-15
被引用文献数
4

<b>目的</b> 在宅ケアサービスの利用に関する従来の研究では,複数のサービスを一括して扱うことが多かった。本研究では,訪問看護と介護サービスについて,各々の利用者の特徴を明らかにすることを目的とした。<br/><b>方法</b> 人口36,000人の S 県 M 町における平成 9 年10月 1 日時点の訪問指導台帳より抽出した調査対象高齢者134人に対し,質問紙を用いた面接調査を行った。訪問看護,ホームヘルプの利用に関して,①利用の有無,および,② Andersen のモデルの 3 要因(属性要因,ニーズ要因,サービス利用促進/阻害要因)との関連性を明らかにした。<br/><b>結果および考察</b> 134人中,訪問看護は38.1%,ホームヘルプは36.6%の人が利用していた。<br/> 訪問看護は,高齢者の ADL が低下しているほど,過去 2 年間の入院経験があるほど家族の世話の仕方が少ないほど,介護者のサービス利用への抵抗感が少ないほど利用しており,ニーズ要因が最も影響していた。<br/> ホームヘルプは,家族の世話の仕方が少ないほど,訪問看護を利用しているほど,利用しており,属性要因と利用促進/阻害要因が影響していた。<br/> 訪問看護とホームヘルプの両方の利用者は,看護のみの利用者に比べて,家族がケアを提供するのが難しく,また,ヘルパーのみの利用者に比べて利用者の ADL 等身体状態が低い。<br/><b>結論</b> 訪問看護とホームヘルプの利用を推進する要因は異なっており,両者を併せて利用している者は,複合的ニーズを持っているという特徴が認められた。
著者
桝本 妙子 山田 陽介 山田 実 中谷 友樹 三宅 基子 渡邊 裕也 吉田 司 横山 慶一 山縣 恵美 伊達 平和 南里 妃名子 小松 光代 吉中 康子 藤原 佳典 岡山 寧子 木村 みさか
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.390-401, 2015 (Released:2015-10-27)
参考文献数
43
被引用文献数
6

目的 地域在住自立高齢者の転倒リスクとその関連要因および性差を検討した。方法 京都府亀岡市の65歳以上の全高齢者の中で要介護 3 以上を除く18,231人に対して2011年 7~8 月に行った自記式留め置き式質問紙調査への回答者13,159人のうち(回収率72.2%),要支援・要介護認定者を除く「自立高齢者」12,054人について分析した。調査票は個別に配布し郵送で回収した。調査内容には,基本属性,鳥羽らによる転倒リスク簡易評価指標 5 項目,日常生活圏域ニーズ調査基本チェックリスト25項目,老研式活動能力指標13項目を用い,高齢者の諸機能や生活機能の低下の有無を示す 9 つの指標(①運動機能,②低栄養,③口腔機能,④閉じこもり,⑤物忘れ,⑥うつ傾向,⑦ IADL,⑧知的能動性,⑨社会的役割)で調査した。分析は,性,年齢別の転倒リスクとその関連要因および性差をカイ二乗検定とロジスティック回帰分析により把握し,9 つの評価指標を独立変数,年齢と教育年数を共変量,転倒リスクを従属変数とするロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行って各要因による転倒リスクへの独立した影響を性別ごとに分析した。結果 本調査回答者の過去 1 年間の転倒率は20.8%で,転倒リスク高群は26.6%であった。転倒リスクは,男女とも加齢とともに高くなり,女性はすべての年齢層において男性よりも高かった。また,男女とも,すべての評価指標と転倒リスクとの関連がみられ,それぞれの要因を調整した結果では,男性は運動機能,低栄養,口腔機能,物忘れ,うつ傾向,IADL に,女性は運動機能,口腔機能,物忘れ,うつ傾向,IADL に有意な関連がみられ,運動機能低下は男女とも最も強い要因であった。性差では,低栄養,口腔機能は男性の方に,IADL,知的能動性は女性の方に転倒リスクとの関連が強かった。結論 地域在住自立高齢者の 5 人に 1 人は過去 1 年間に転倒を経験し,4 人に 1 人は転倒リスクを有していた。転倒リスクと 9 つすべての評価指標との間に有意な関連がみられ,とくに男女とも運動機能低下が最も大きかった。また,転倒リスクに影響する要因に性差がみられ,性別を考慮した支援策が必要と示唆された。
著者
高橋 恭子 築島 恵理
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.195-203, 2021-03-15 (Released:2021-03-30)
参考文献数
23

目的 高齢化が急速に進行している地域において,高齢者人口の増加に伴う要介護原因疾病の変化を明らかにすることを目的に,5年前の要介護原因疾病との比較検討を行った。方法 札幌市南区において2018年度に新規要介護認定を受けた第1号被保険者2,538人および2013~2014年度に認定を受けた第1号被保険者4,089人が対象となった。 主治医意見書に記載された疾患名を国民生活基礎調査の介護票の疾病分類に基づいて分類して原因疾病として用いた。調査年度間の原因疾病の割合をχ2検定を用いて解析を実施した。結果 5年間の比較では男性は原因疾病の比率に統計学的有意な変化を認めなかった。女性は脳血管疾患の比率が7.8%から5.6%に減少し(P=0.008),骨折・転倒の比率が9.5%から13.8%に増加し(P<0.001),いずれも統計学的有意であった。 介護度が重度になる疾患について男性は5年間では変化がなく,悪性新生物が最も多く,次いで脳血管疾患であった。女性は骨折・転倒が10.5%から17.7%に統計学的有意に増加し(P=0.002),原因として最も多くなった。女性の骨折・転倒に関しては介護度が軽度の群でも9.2%から12.5%と統計学的有意に増加していた(P=0.004)。結論 5年間の経過で女性の骨折・転倒が増加し,予防対策を早期から開始することの必要性が示された。健康寿命短縮の要因となる原因疾病には悪性新生物,脳血管疾患の生活習慣病の関与が大きく,健康寿命延伸において生活習慣病予防の重要性が改めて示された。
著者
宮川 雅充 濱島 淑恵
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.157-166, 2021-03-15 (Released:2021-03-30)
参考文献数
28

目的 日本においても,家族のケアを担っている子ども(ヤングケアラー)が相当数存在することが指摘されている。しかしながら,ケア役割の状況が彼らの生活満足感や健康に与える影響に関する調査研究はほとんど行われていない。本研究では,高校生を対象に,生活満足感および主観的健康感についてケア役割の状況との関連を分析し,ケア役割がヤングケアラーの生活満足感や主観的健康感に与える影響について検討した。方法 大阪府の府立高校(10校)の生徒6,160人を対象に質問紙調査を行った。調査では,家族の状況とともに,彼らの担うケア役割の状況を尋ねた。また,生活満足感に関する質問(1問),主観的健康感(全体的な健康感)に関する質問(1問)を尋ねた。さらに,各種自覚症状に関する質問(7問)を尋ね,主成分分析を適用し主観的健康感を評価した。生活満足感および主観的健康感について,ケア役割の状況との関連を,交絡因子の影響を調整して分析した。結果 5,246人(85.2%)から有効回答を得た。本稿では,分析で使用する変数に欠損値がなかった4,509人を分析対象とした。そのうち47人(1.0%)が幼いきょうだい(障がいや疾病等はない)のケアを担っていた(ヤングケアラーA)。また,233人(5.2%)が,障がいや疾病等のある家族のケアを担っていた(ヤングケアラーB)。残りの4,229人(93.8%)は,家族のケアを行っていなかった(対照群)。生活満足感に関するロジスティック回帰分析では,ケア役割の状況との間に有意な関連が認められた(P<0.001)。ヤングケアラーAとBの不満足感のオッズ比は,対照群と比較した場合,それぞれ2.742(P<0.001),1.546(P=0.003)であり,いずれも有意に高かった。全体的な健康感については,ケア役割の状況との間に有意な関連は認められなかった(P=0.109)が,各種自覚症状の主成分得点に関する重回帰分析では,ケア役割の状況との間に有意な関連が認められた(P<0.001)。ヤングケアラーAとBの不健康感の係数は,対照群と比較した場合,それぞれ0.362(P=0.012),0.330(P<0.001)であり,いずれも有意に高かった。結論 ケア役割の状況が過度になった場合,ヤングケアラーの生活満足感や主観的健康感に悪影響が生じることが示唆された。
著者
柴田 陽介 岡田 栄作 中村 美詠子 尾島 俊之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.180-185, 2021-03-15 (Released:2021-03-30)
参考文献数
15

目的 本邦ではロコモティブシンドローム(ロコモ)の予防としてロコモーショントレーニング(ロコトレ)が注目されてる。ロコトレの効果を検証した報告は,虚弱な高齢者を対象にした研究が多く,健康な者が多い地域在住高齢者を対象にした報告は少ない。そこで本研究の目的は,地域在住高齢者を対象に行われたロコトレの効果を報告することとした。方法 浜松市ではサロンの場でロコトレ事業(サロン型ロコトレ事業)を行っている。この事業は,一人以上のサロンメンバーがロコトレの講習会を受け,その者が各サロンの場で他のメンバーにロコトレを指導する形式の事業である。定期的な評価として,ロコトレ開始前と3か月ごとにロコモ5を用いてロコモの度合いを評価している。ロコモ5とは0~20点のスコア化ができる自記式調査票であり,高得点なほどロコモの重症度が高く,6点以上ではロコモ陽性と判定される。本研究では,2017年度に初めてサロン型ロコトレ事業に参加した地域在住高齢者2,855人のうち,欠損データがない者1,211人を解析対象とした。解析は,ロコトレ開始前の状態によってロコモ群(ロコモ5の得点:6点以上)と非ロコモ群(5点以下)に分類し,開始前,3か月後と6か月後のロコモ5の得点およびロコモ陽性者の割合を算出した。活動内容 対象者の平均年齢は77.5歳,男性は301人(24.9%),ロコモ群は237人(19.6%)であった。ロコモ5の平均得点±標準偏差は,非ロコモ群では開始前1.39±1.67点,3か月後1.62±2.35点,6か月後1.59±2.26点,ロコモ群では開始前9.47±3.50点,3か月後8.35±4.82点,6か月後8.22±4.66点であった。ロコモ陽性者の割合は,非ロコモ群では3か月後54人(5.5%),6か月後57人(5.9%),ロコモ群では3か月後165人(69.6%),6か月後167人(70.5%)であった。サロン型ロコトレ事業の特徴としては,多くのロコモ陽性者をリクルートできたこと,ロコトレ事業の運営側の労力が少なかったことが挙げられた。結論 ロコモだった者は3か月でロコモ5の得点が低下し,ロコモ陽性者の割合も減少したが,6か月後は横ばい傾向であった。一方でロコモでなかった者は,良い状態が維持されていた。
著者
塚田 久恵 三浦 克之 城戸 照彦 佐伯 和子 川島 ひろ子 伊川 あけみ 西 正美 森河 裕子 西条 旨子 中西 由美子 由田 克士 中川 秀昭
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1125-1134, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
18
被引用文献数
1

目的 乳幼児期の肥満が成人後の肥満にどの程度結びつくかについての日本人でのデータは乏しい。本研究は乳幼児期(3 か月,12か月,3 歳)の肥満度と成人時(20歳)の肥満度との関連を明らかにし,乳幼児健康診査(以下,健診)時の肥満指導のための基礎資料を得ることを目的とする。方法 石川県某保健所管内において1968-1974年に出生した20歳男女を対象として行われた成年健康調査を受診した男女のデータと,同管内における 3 か月,12か月,3 歳の乳幼児健診データとのレコード・リンケージを行い,全ての健診を受診して20年間追跡できた2,314人(男1,080人,女1,234人)を対象とし,乳幼児期と成人時の肥満度の関連について分析した。成績 各月齢・年齢のカウプ指数(または body mass index (BMI))相互間の相関を見たところ,20歳時の BMI と 3 か月時・12か月時・3 歳時のカウプ指数との間ではいずれも有意な正相関が認められ,中で最も強い相関を示したのは 3 歳時カウプ指数とであった(男 r=0.33, P<0.001,女 r=0.42, P<0.001)。乳幼児期の肥満度カテゴリー別に20歳時の肥満者(BMI 25 kg/m2 以上)の割合をみると,3 歳時カウプ指数15未満の者では男で4.6%,女で1.0%であったが,3 歳時カウプ指数18以上の者では男で29.1%,女で29.5%にのぼり,カウプ指数15未満の者に比べ男で6.3倍,女で29.5倍の率となった。3 か月時および 3 歳時におけるカウプ指数が平均未満か以上かのカテゴリー別に20歳時に肥満になっていた割合を検討したところ,3 か月時のカウプ指数が平均以上か未満かを問わず,3 歳時のカウプ指数が平均以上であったもので割合が高かった。結論 乳幼児期の肥満度は20歳時の肥満度と強い関連があったが,3 歳時との関連が最も強かった。3 歳時に肥満であった児は成人時にも肥満である率が約30%と評価され,本データは 3 歳児健診における将来の肥満のアセスメントに利用できると考えられる。
著者
卯津羅 祥子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.18-28, 2002 (Released:2015-04-08)
参考文献数
38
被引用文献数
2

目的 職場および家庭におけるストレス要因が,個人の自覚的健康度,心理学的健康度におよぼす影響について明らかにすること。方法 35歳以上の T 市職員1,652人に対して平成10年 2 月に行った自記式アンケートの結果を用いた(回収率82.6%)。回答者1,364人のうち消防士143人を除いた男性828人,女性393人を分析対象とした。対象者を,仕事や家庭生活に不満を感じている群と,不満を感じていない群に分類した。それぞれの群において,仕事の要求度,裁量度,支援度,家庭の決定権,親しい人間関係,年齢の差について t 検定を,また,職業分類,趣味の有無,性別について χ2 検定を行った。次に,自覚的健康度,心理学的健康度に対する職場および家庭の因果関係について共分散構造分析を行った。結果 仕事や家庭生活に不満を感じている群では不満を感じていない群に比べて仕事の要求度の得点が高く,仕事の裁量度の得点や支援度の得点,親しい人間関係の得点が有意に低かった。また,不満を感じている群では自覚的健康度,心理学的健康度の得点も有意に低かった。職業分類では,事務系,技術系,教員の係長・主任・一般クラスが仕事や家庭生活に不満を感じていた。共分散構造分析では,職場の因子(仕事の要求度,裁量度,支援度,職種,職位,仕事に対する満足感)が個人的因子(年齢,性別,家庭の決定権,親しい人間関係,家庭に対する満足感)に比べて自覚的健康度,心理学的健康度に対して強い因果関係を示した。個々の観測変数の中では,仕事の裁量度,仕事に対する満足感,親しい人間関係,家庭に対する満足感の因果的な影響力が高かった。結論 職場や家庭生活におけるストレス要因が個人の自覚的健康度,心理学的健康度を低くする影響を与えていた。特に,職場の因子,親しい人間関係の影響が高くみられた。職場におけるストレス要因の改善や親しい人間関係の形成が,自覚的健康度,心理学的健康度を改善し,ストレス関連疾患の予防や積極的な健康づくりにおいて重要と考えられる。
著者
角野 香織 増田 理恵 張 俊華 木島 優依子 中村 桂子 橋本 英樹 佐藤 菜々 中芝 健太 大久 敬子 藤井 伽奈 橋本 明弓 片岡 真由美 里 英子 小林 由美子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
2021

<p><b>目的</b> 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急速な感染拡大を前に,保健所は感染者の把握・追跡の中核的役割を担う一方,その機能がひっ迫する事態に陥った。日本公衆衛生学会から保健所機能の支援を訴える声明が発出されたことを受け,教育研究機関に所属する筆者らは,都内保健所での支援に参加した。本報告は,支援の経緯を記述し支援体制への示唆をまとめ,保健所と教育研究機関が有機的に連携するうえで必要な要件を考察すること,支援を通して見えた保健所における新型コロナウイルス感染症への対応の課題を提示すること,そして支援活動を通じた公衆衛生学専門職育成への示唆を得ることなどを目的とした。</p><p><b>方法</b> 本支援チームは,2大学の院生(医療職13人・非医療職5人)から構成され,2020年4月から約2月の間支援を行った。支援先は人口約92万人,支援開始当初の検査陽性者累計は約150人,と人口・陽性者数共に特別区最多であった。本報告は,支援内容や支援体制に関する所感・経験を支援メンバー各自が支援活動中に記録したメモをもとに,支援体制の在り方,支援中に得られた学び,支援を進めるために今後検討すべき課題を議論し報告としてまとめた。</p><p><b>活動内容</b> 支援内容は,「新型コロナウイルス感染症相談窓口」「帰国者・接触者相談センター」での電話相談窓口業務,陽性者や濃厚接触者への健康観察業務,陽性者のデータ入力他事務業務であった。各自が週1~2日での支援活動を行っていたため,曜日間の情報共有や引継ぎを円滑に行うために週1回の定例ミーティングやチャットツール,日報を活用した。</p><p><b>結論</b> 教育研究機関が行政支援に入る際には,感染拡大期の緊張状態にある保健所において,現場の指揮系統などを混乱させないよう支援者として現場職員の負担軽減のために尽くす立場を踏まえること,学生が持続可能な支援活動を展開するための条件を考慮することが必要であることが示唆された。一方,本支援を通して保健所の対応の課題も見られた。行政現場の支援に参加することは,教育研究機関では経験できない現場の課題を肌で感じる貴重な機会となり,院生にとって人材教育の観点でも重要だと考えられた。新型コロナウイルスの感染再拡大ならびに他の新興感染症等のリスクに備え,今後も教育研究機関と行政がコミュニケーションを取り,緊急時の有機的関係性を構築することが求められる。</p>
著者
劔 陽子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.146-153, 2020

<p><b>目的</b> 近年,動物の多頭飼育崩壊問題への関心が高まっている。周辺の生活環境の悪化や犬が徘徊していて怖いといったことが,地域住民から苦情として保健所に寄せられることも多い。この度,熊本県内の保健所で犬の多頭飼育事例に対し,多機関で連携して対応に取り組んだ2事例を経験したので報告する。</p><p><b>方法</b> 事例1については,以前より保健所に苦情が寄せられ,現在に至るまで10年間程度対応を続けている事例であり,保健所の担当者による記録が残っている対応について検証した。事例2については,一年間にわたって対応した事例であり,一定の対応が終了した後に関係した諸機関が集まって振り返り検証会を実施した。</p><p><b>活動内容</b> 事例1に対しては,苦情が寄せられ始めた当初は保健所衛生環境課が飼養主に対し犬の登録・注射・係留について指導し,時に係留されていない犬の捕獲を行い,飼養主からの要求があれば指導の後返還するということを繰り返していた。それにも関わらず非常に多数の近隣住民からの苦情が保健所に寄せられるようになって一層の対策を求められ,以降警察,市町村の保健福祉関係者,地域住民等とでたびたび話し合いがもたれた。とくに熊本地震で飼養主とその家族が被災し仮設住宅に入居して以降は,災害関連の支援機関や市町村の地域包括センターなども加わって飼養主の見守りを行い,犬の保健所への引き取り依頼・譲渡をするよう説得に努めた。熊本地震後累計30頭程を保護して多くを譲渡につなぎ,その後4頭程度の飼育となって近隣からの苦情も少なくなっている。事例2では,犬の放し飼い苦情対応に出かけた保健所衛生環境課職員により高齢夫婦が不衛生な環境下で多数の犬と生活をしている状況を発見し,県福祉事務所,市町村福祉課,地域包括センター,認知症初期集中支援チームなどと連携して見守り・支援活動を行った。多くの機関が関わったが,どこが全体を把握して主導するかが曖昧となり,情報共有も不十分であったため,効率的な連携ができず,対応が遅れがちになるなど,課題も見つかった。</p><p><b>結論</b> 多頭飼育に関しては,環境衛生,動物愛護の観点からの対応開始がなされることが多いが,精神保健,高齢者福祉,生活困窮など,多くの問題が含まれていることが多い。対応には難儀することが多く,すぐに問題が解決されるわけではないが,長期間にわたる多機関連携での対応が求められる。</p>
著者
蔭山 正子 横山 恵子 坂本 拓 小林 鮎奈 平間 安喜子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.131-143, 2021-02-15 (Released:2021-02-26)
参考文献数
18

目的 精神疾患のある親をもつ人を対象とし,小・中・高校時代の体験および学校での相談状況を把握することを目的とした。方法 精神疾患のある親をもつ人の会に参加したことのある240人を対象とし,ウェブ上のアンケート調査を実施した。小・中・高校時代の体験,学校での相談状況,子どもの頃に認識した教師の反応,学校以外での援助などを質問した。分析は単純集計を行い,学校内外の相談歴について回答者の年代で比較した。自由記載は内容の抽象度をあげて分類した。結果 120人から回答を得た。年齢は20歳代から50歳以上まで幅広く,女性が85.8%だった。精神疾患をもつ親は,母親のみが多く67.5%であり,親の精神疾患推定発症年齢は,回答者が小学校に入るまでが73.1%だった。 ヤングケアラーとしての役割は,小・中・高校時代で親の情緒的ケアが最も多く57.8~61.5%が経験し,手伝い以上の家事は29.7~32.1%が経験していた。小学生の頃は62.4%が大人同士の喧嘩を,51.4%が親からの攻撃を経験していた。周囲が問題に気づけると思うサインには,親が授業参観や保護者面談に来ない,いじめ,忘れ物が多い,遅刻欠席が多い,学業の停滞があった。しかし,サインは出していなかったとした人は小・中・高校時代で43.2~55.0%であった。回答者が認識した教師の反応では,精神疾患に関する偏見や差別的な言動,プライバシーへの配慮不足などで嫌な思いをしていた。家庭の事情や悩みを気にかけ,話を聞いて欲しかったという意見が多かった。 学校への相談歴のなかった人は小学生の頃91.7%,中学生の頃84.5%,高校生の頃で78.6%だった。相談しなかった理由としては,問題に気づかない,発信することに抵抗がある,相談する準備性がない,相談環境が不十分というものがあった。相談しやすかった人は,すべての時期で担任の先生が最も多かった。30歳代以下の人は,40歳代以上の人に比べて小学生や高校生の頃に学校への相談歴がある人が有意に多かった。結論 精神疾患のある親をもつ子どもは,支援が必要な状況にありながら,支援につながりにくい子どもたちであった。学校では,子ども自身が家庭の問題に気づけるような働きかけが必要である。教師はまず子どものことを気にかけ,話をよく聞くことが求められる。
著者
安藤 雄一 池田 奈由 西 信雄 田野 ルミ 岩崎 正則 三浦 宏子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.33-41, 2021-01-15 (Released:2021-01-30)
参考文献数
18

目的 歯科疾患実態調査(以下,歯調)では,協力者数の減少傾向が懸念されている。2016(平成28)年調査では従来の口腔診査に質問紙調査が加わり,口腔診査への協力の有無を問わず質問紙調査に回答すれば協力者とみなされることになった。本研究は,平成28年歯調の協力状況を把握し,歯調への協力に関連する生活習慣要因を明らかにすることを目的とした。方法 平成28年歯調と親標本である平成28年国民健康・栄養調査(以下,栄調)のレコードリンケージを行い,分析に用いた。分析対象は,歯調対象地区における20歳以上の栄調協力者7,997人とした。歯調の質問紙調査および口腔診査ならびに栄調の身体状況調査(うち血圧測定および血液検査),栄養摂取状況調査(うち歩数測定)および生活習慣調査の協力者割合を,性・年齢階級(20~59歳,60歳以上)別に算出した。協力者割合は,栄養摂取状況調査,身体状況調査および生活習慣調査のいずれかに協力した人数を分母とし,各調査および調査項目に協力した人数を分子とした。歯調への協力と生活習慣要因(喫煙習慣の有無[基準値:あり],歯の本数[28歯以上],歯科検診受診の有無[なし],睡眠による休養[とれていない])との関連について,性・年齢階級別に多重ロジスティック回帰分析を行い,オッズ比を求めた。結果 歯調対象地区における栄調協力者7,997人の協力者割合は,身体状況調査89%(血圧測定44%,血液検査41%),栄養摂取状況調査83%(歩数測定78%),生活習慣調査98%,歯調質問紙調査65%,口腔診査41%であった。血圧測定と血液検査の協力者の95%以上が,歯調の質問紙調査および口腔診査に協力した。歯調への協力と有意な正の相関が見られた生活習慣要因は,喫煙習慣なし(20~59歳男性の口腔診査,20~59歳女性の質問紙調査と口腔診査),歯科検診受診あり(60歳以上女性の質問紙調査),睡眠による休養がとれている(20~59歳男性の口腔診査)であった。20~59歳男性を除き,歯数20未満と口腔診査への協力との間に有意な負の相関が見られた。結論 栄調協力者の約3分の2が歯調の質問紙調査に協力し,口腔診査の協力者割合は血圧測定および血液検査の協力者割合とほぼ一致した。女性を中心に,歯の本数,喫煙,歯科検診受診といった口腔に関する生活習慣要因と歯調への協力との間に相関がみられた。