著者
小田 太史 福田 治久
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.3-11, 2021-01-15 (Released:2021-01-30)
参考文献数
24

目的 リハビリテーションの主な目的は,日常生活動作を改善させることである。回復期病棟においては,患者に対して集中的なリハビリテーションを提供し,日常生活動作の改善を図ることが求められているが,検証が十分とは言い難い。本研究では,リハビリテーション提供時間に焦点を当て,病床機能報告制度の悉皆調査を用いて日常生活動作とリハビリテーション提供量の関係を検証する。方法 本研究は,2014年度から2017年度の病床機能報告から病棟別パネルデータを構築し,全国の回復期病棟を対象とした後方視的コホート研究である。主要評価項目に日常生活機能改善割合を,説明変数にリハビリテーション単位数を使用し,固定効果モデルを用いて回帰分析を実施した。結果 2014年度の病床機能報告から「機能区分」が回復期である2,003病棟を抽出し,437病棟(317病院)が分析対象となった。2014年度,2015年度および2017年度の日常生活機能改善割合の平均値は,それぞれ0.601,0.614および0.627ポイントであった。2014年度,2015年度および2017年度のリハビリテーション単位数の平均値は,それぞれ6.302,6.477および6.642単位であった。パネルデータ分析の結果,日常生活機能改善割合の増加とリハビリテーション単位数の増加に有意な関係を認めた(偏回帰係数=0.015, P=0.015)。結論 全国規模の調査を用いた病床レベルの検証において,リハビリテーション提供時間の増加が日常生活動作の改善に有意に関係していることが示された。
著者
安藤 雄一 池田 奈由 西 信雄 田野 ルミ 岩崎 正則 三浦 宏子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-085, (Released:2020-12-19)
参考文献数
18

目的 歯科疾患実態調査(以下,歯調)では,協力者数の減少傾向が懸念されている。2016(平成28)年調査では従来の口腔診査に質問紙調査が加わり,口腔診査への協力の有無を問わず質問紙調査に回答すれば協力者とみなされることになった。本研究は,平成28年歯調の協力状況を把握し,歯調への協力に関連する生活習慣要因を明らかにすることを目的とした。方法 平成28年歯調と親標本である平成28年国民健康・栄養調査(以下,栄調)のレコードリンケージを行い,分析に用いた。分析対象は,歯調対象地区における20歳以上の栄調協力者7,997人とした。歯調の質問紙調査および口腔診査ならびに栄調の身体状況調査(うち血圧測定および血液検査),栄養摂取状況調査(うち歩数測定)および生活習慣調査の協力者割合を,性・年齢階級(20~59歳,60歳以上)別に算出した。協力者割合は,栄養摂取状況調査,身体状況調査および生活習慣調査のいずれかに協力した人数を分母とし,各調査および調査項目に協力した人数を分子とした。歯調への協力と生活習慣要因(喫煙習慣の有無[基準値:あり],歯の本数[28歯以上],歯科検診受診の有無[なし],睡眠による休養[とれていない])との関連について,性・年齢階級別に多重ロジスティック回帰分析を行い,オッズ比を求めた。結果 歯調対象地区における栄調協力者7,997人の協力者割合は,身体状況調査89%(血圧測定44%,血液検査41%),栄養摂取状況調査83%(歩数測定78%),生活習慣調査98%,歯調質問紙調査65%,口腔診査41%であった。血圧測定と血液検査の協力者の95%以上が,歯調の質問紙調査および口腔診査に協力した。歯調への協力と有意な正の相関が見られた生活習慣要因は,喫煙習慣なし(20~59歳男性の口腔診査,20~59歳女性の質問紙調査と口腔診査),歯科検診受診あり(60歳以上女性の質問紙調査),睡眠による休養がとれている(20~59歳男性の口腔診査)であった。20~59歳男性を除き,歯数20未満と口腔診査への協力との間に有意な負の相関が見られた。結論 栄調協力者の約3分の2が歯調の質問紙調査に協力し,口腔診査の協力者割合は血圧測定および血液検査の協力者割合とほぼ一致した。女性を中心に,歯の本数,喫煙,歯科検診受診といった口腔に関する生活習慣要因と歯調への協力との間に相関がみられた。
著者
臼田 寛 玉城 英彦 紺野 圭太 河野 公一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1058-1065, 2003

&emsp;公衆衛生史上初の国際条約となる「たばこ規制枠組み条約」(FCTC:Framework Convention on Tobacco Control)最終案がスイス・ジュネーブの世界保健機関(WHO)で開催された加盟171か国による第 6 回政府間交渉委員会(INB6:6<sup>th</sup> Intergovernmental Negotiating Body)最終日の2003年 2 月28日に合意に達した。FCTC はその後 5 月に開催された WHO の最高意思決定会議である第56回世界保健総会(WHA56:56th World Health Assembly)で正式採択され,現在は署名・批准作業に入り 9 月29日現在で73か国と 1 団体が署名,2 か国が批准している。日本政府は来年 1 月召集の通常国会での批准を予定している。<br/>&emsp;この国際条約作成を強力に推進してきた前 WHO 事務局長 Brundtland 氏は,今回の合意を「国際保健の歴史上画期的であり,世界の人々すべての健康にとって非常に大きな一歩である」と評価している。たばこ対策にかねてから強い関心を持っていた Brundtland 氏は98年 5 月の事務局長就任演説で早々にたばこの有害性とたばこ対策の必要性を強く主張し,7 月の正式就任直後には WHO のたばこ対策本部である「たばこのない世界構想」(TFI:Tobacco Free Initiative)を組織,翌年の WHA52 では FCTC 作成のための INB と作業部会を発足させ,一期 5 年の在任期間中常にたばこ対策推進の先頭に立ってきた。Brundtland 氏は事務局長を 7 月に退任しており,今回の FCTC 原案合意は氏の任期 5 年(98~03年)の活動を締めくくる集大成とも言える。本稿ではこの国際条約が原案合意に至った経過を報告する。
著者
斎藤 民 近藤 克則 村田 千代栄 鄭 丞媛 鈴木 佳代 近藤 尚己 JAGES グループ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.596-608, 2015

<b>目的</b> 生きがいや社会的活動参加の促進を通じた高齢者の健康づくりには性差や地域差への考慮が重要とされる。しかしこれらの活動における性差や地域差の現状は十分明らかとはいえない。本研究では高齢者の外出行動と社会的・余暇的活動の性差と地域差を検討した。<br/><b>方法</b> Japan Gerontological Evaluation Study (JAGES)プロジェクトが2010年~2012年に実施した,全国31自治体の要介護認定非該当65歳以上男女への郵送自記式質問紙調査データから103,621人を分析対象とした。分析項目は,週 1 日以上の外出有無,就労有無,団体・会への参加有無および月 1 回以上の参加有無,友人・知人との交流有無および月 1 回以上の交流有無,趣味の有無を測定した。性,年齢階級(65歳以上75歳未満,75歳以上),および地域特性として都市度(大都市地域,都市的地域,郡部的地域)を用いた。年齢階級別の性差および地域差の分析にはカイ二乗検定を実施した。さらに実年齢や就学年数,抑うつ傾向等の影響を調整するロジスティック回帰分析を行った(有意水準 1%)。また趣味や参加する団体・会についてはその具体的内容を記述的に示した。<br/><b>結果</b> 年齢階級別の多変量解析の結果,男性は有意に週 1 回以上の外出や就労,趣味活動が多く,団体・会への参加や友人・知人との交流は少なかった。ほとんどの活動項目で都市度間に有意差が認められ,郡部的地域と比較して大都市地域では週 1 回以上外出のオッズ比が約2.3と高い一方,友人との交流のオッズ比は後期高齢者で約0.4,前期高齢者で約0.5であった。性や都市度に共通して趣味の会の加入は多い一方,前期高齢者では町内会,後期高齢者では老人クラブの都市度差が大きく,実施割合に30%程度の差がみられた。趣味についても同様に散歩・ジョギングや園芸は性や都市度によらず実施割合が高いが,パソコンや体操・太極拳は性差が大きく,作物の栽培は地域差が大きかった。<br/><b>結論</b> 本研究から,①外出行動や社会的・余暇的活動のほとんどに性差や都市度差が観察され,それらのパターンが活動の種類によって異なること,②参加する団体・会や趣味の内容には男女や都市度に共通するものと,性差や都市度差の大きいものがあることが明らかになった。以上の特徴を踏まえた高齢者の活動推進のための具体的手法開発が重要であることが示唆された。
著者
奥井 佑
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.892-903, 2020-12-15 (Released:2020-12-31)
参考文献数
44

目的 本研究では就業状況による各年齢・時代・コホートでの日本人女性における婚姻率・出生率の違いを明らかにする。方法 1995年から2015年までの人口動態職業・産業別統計と国勢調査のデータを用い,20歳から49歳まで5歳おきの就業有無および配偶有無別で婚姻数・出生数データを取得した。ベイジアンAPCモデルをもとに無配偶婚姻率・有配偶出生率の変化を年齢,時代,コホートの3効果に分離するとともに,各年齢,時代,コホートにおける就業者の非就業者に対する無配偶婚姻率比および有配偶出生率比を算出した。結果 非就業者における無配偶婚姻率の時代効果は期間を通して減少し続けたが,就業者では2005年から上昇に転じていた。有配偶出生率に対する時代効果は就業状況によらず上昇したが,就業者の方が上昇率が大きかった。無配偶婚姻率のコホート効果は非就業者では1960年代,就業者では1970年代から減少しており,非就業者の方が減少率が大きかった。それにより,就業者の非就業者に対する無配偶婚姻率比は1946-1950年生まれで0.46(95%信頼区間:0.21,0.90)であったが,1991-1995年生まれで1.00(95%信頼区間:0.45,1.92)となっていた。一方,就業者の非就業者に対する有配偶出生率比は1946-1950年生まれで0.31(95%信頼区間:0.12,0.69)であったが,1991-1995年生まれで0.38(95%信頼区間:0.14,1.81)となっていた。結論 就業者と非就業者における無配偶婚姻率および有配偶出生率の差は時代が経過するほど,または若いコホートになるほど縮小する傾向にあり,とくに無配偶婚姻率に関する差の減少率が大きかった。一方で,有配偶者出生率については依然としてコホートを問わず就業有無により統計学的に有意な差があることがわかった。
著者
伊藤 海 村山 洋史 田口 敦子 大森 純子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.860-870, 2020-12-15 (Released:2020-12-31)
参考文献数
33

目的 高齢化の進展に伴い,心身機能の低下により日常生活に支援を必要とする高齢者が増加していることから,近年,生活支援の担い手となる地域住民の拡充が求められている。中でも,生活支援の担い手となり得る地域住民として,高齢者が携わることに期待が寄せられている。本研究では,生活支援の担い手への意向を持つ高齢者の特性を,細分類した生活支援内容ごとに明らかにすることを目的とした。方法 対象者は吉島地区に在住し,要介護1~5の要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者全数である801人とした。自治会長および隣組長による全戸訪問にて,調査票を配布・回収した。データの収集期間は2018年6~7月であった。調査項目は,基本属性,健康状態,近隣との社会関係,8種類の生活支援内容であった。分析は,実施意向の有無を従属変数,基本属性,健康状態,近隣付き合いの程度の各変数を独立変数とするロジスティック回帰分析を支援内容ごとに行った。結果 分析対象者は586人であった(有効回答率73.2%)。実施意向に関連していた特性は,性別では,女性であるほど「話し相手・困った時の相談相手」,「食事の準備や掃除・洗濯の手伝い」,「気軽に参加できる集まりやイベントに誘う」への意向が強く,「庭仕事や畑作業などの外回り作業」,「雪かき・雪下ろし」への意向が弱かった。暮らし向きでは,よいと回答した人ほど「通院の送迎や付き添い」への意向が弱く,最終学歴が高いほど「話し相手・困った時の相談相手」,「見守り・安否確認」への意向が強かった。手段的自立評価が高いほど「話し相手・困った時の相談相手」,「見守り・安否確認」,「気軽に参加できる集まりやイベントに誘う」,「買い物の同行・代行」への意向が強かった。また,「食事の準備や掃除・洗濯の手伝い」「庭仕事や畑作業などの外回り作業」以外の6種類の支援内容では,近隣との付き合いの程度が密である者ほど実施意向が有意に強かった。結論 支援内容によって意向する高齢者の特性が異なることが明らかになった。これらを考慮した上で,担い手の募集や仲介を行うことにより,生活支援への担い手の拡充が期待できる。
著者
サラ•ルイーズ バーバー ローゼンバーグ 恵美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.845-849, 2020-12-15 (Released:2020-12-31)
参考文献数
27

世界保健機関健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)は,兵庫県ならびに神戸市などによる国際保健への貢献として兵庫県神戸市に設立されてから,2020年で25年を迎えた。世界的な高齢化を考慮したユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進に資するべく,サービス提供モデル,持続可能な資金調達,イノベーション,指標と測定,災害・健康危機管理の各テーマに関して,保健医療制度や政策の観点から研究に取り組んでいる。
著者
木村 宣哉 小林 道
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.871-880, 2020-12-15 (Released:2020-12-31)
参考文献数
34

目的 地域から層化無作為抽出した集団において,相互作用的・批判的ヘルスリテラシー(CCHL,Communicative and Critical Health Literacy)と高血圧・糖尿病・脂質異常症の関連を横断的に明らかにすることを目的とした。方法 2018年7~8月,北海道江別市の3,000人(20~75歳未満)を対象に自記式質問紙調査を実施した。江別市は大きく3地区に分かれており,参加者は各地区から1,000人を層化無作為抽出した。調査票は,市の職員によって配付・回収が行われた。調査終了後,市から匿名化されたデータを受け取り,分析を実施した。解析に当たって,結果が返送された1,630人から調査票のCCHLの項目が未記入の8人,疾患の有無の項目が未記入の43人を除外し,男性692人と女性887人でそれぞれ解析を行った。CCHLは,疾患および生活習慣等の要因の傾向性を観察するために四分位で群分けした。高血圧,糖尿病,脂質異常症の有無を目的変数とし,CCHLを説明変数とした。年代,世帯構成,配偶者,最終学歴,仕事の有無,肥満区分,定期的な運動,喫煙,朝食欠食を調整変数として,男女別に多重ロジスティック回帰分析を行った。結果 全体のCCHLスコアは3.58±0.67(平均値±標準偏差)だった。単変量回帰の結果では,CCHLスコアの第一分位群を参照群とした場合に第四分位群で,男性の高血圧の割合が有意に低下した(OR=0.49; 95%CI: 0.28-0.84)。一方で,調整変数を含めた多重ロジスティック回帰の結果では,男性の高血圧の調整済みオッズ比は0.62(95%CI: 0.32-1.22)となった。CCHLと疾患の関連について,男女ともすべての項目で有意差は認められなかった。結論 男性では,CCHLが高いほど高血圧の有病率が有意に低い傾向が認められたが,多変量解析による調整後では関連性が弱まり,その他の疾患についても関連は認められなかった。HLと生活習慣病の関連をより明確にするためには,縦断研究による検討を実施する必要がある。
著者
荒木田 美香子 松田 有子 青木 恵美子 竹中 香名子 山下 留理子 六路 恵子 山崎 衣津子 町田 恵子 船川 由香
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.881-891, 2020-12-15 (Released:2020-12-31)
参考文献数
18

目的 全国健康保険協会(協会けんぽ)は保健師の保健指導能力の向上のための研修を各支部で実施している。そこで,協会けんぽの本部保健師と研究者らが都道府県支部のリーダー的保健師等を対象に,各支部でのロールプレイを活用した研修の企画とファシリテーション技術の獲得に向けた研修を実施した。本報告はその研修の効果を検討することを目的とした。方法 研修はインストラクショナルデザインを参考に構成し,対象者の分析,研修プログラムの開発,実施,評価を行った。研修の目標は,①ロールプレイの振り返りにおけるファシリテーションとファシリテーターの役割を理解する,②ファシリテーションの技法を理解する,③振り返りにおいてファシリテーターを行う自信ができる,④ファシリテーションの技法を用いた振り返りを行うことができるとした。研修の評価はKirkpatrick Modelに基づき,研修への反応,学習,行動の観点で質問紙による評価を行った。評価は研修開始前,研修直後,研修3か月後の3回実施した。研修は2016年8月に約4.5時間の1日研修を実施した。研修スタッフは3人であった。活動内容 研修の参加者は79人であった。知識・自信(0~10点)は,研修前の平均点は2.6~3.6であったが,研修直後は6.3~7.9,3か月後は6.0~6.9であった。研修内容への興味(0~10点)を3項目で尋ねたところ,平均点は8.1~8.6と高い評価であった。また,研修会終了後3か月間でロールプレイ研修会を支部内で開催した者は64.6%であった。ロールプレイのルールの周知やねらいの説明はそれぞれ96.1%,98.0%が実施していた。知識・自信は研修前にファシリテーション研修の受講経験のあった者のほうが,事前および3か月後で得点が高かった。研修3か月後の「ロールプレイにおいて,ファシリテーターの役割にはどのようなものがあるか」という自由記載は「ロールプレイ研修の基本と企画に関する意見」と「振り返りにおける役割に関する意見」に分類された。結論 参加者は本研修会での内容や使用した教材を概ね妥当と評価しており,研修後のファシリテーションの知識や自信が向上した。また,約65%が研修後にロールプレイを活用した研修を実施していた。これまでの学習経験の検討から,ファシリテーション技術の維持向上には繰り返しの研修が必要であることが示唆された。
著者
Tasuku OKUI
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.781-790, 2020-11-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
25

Objectives In this study, we compared the decrease in cancer mortality rates among prefectures in Japan using age-period-cohort (APC) analysis.Methods We used the cancer mortality data of each prefecture in Japan, as determined by the Vital Statistics, over 5-year periods from 1995 to 2015. Records of the number of mortalities in each 5-year age group from 40-44 to 85-89 years age was collected. We fitted a Bayesian APC model to the data of each prefecture and estimated the birth cohort effect on cancer mortality rates in the prefectures over 5-year periods ranging from 1916-1920 to 1971-1975. In addition, we calculated the ratio of the mortality rate of each prefecture to that of the entire country for each birth cohort.Results Our APC analysis revealed that the decrease in the age-adjusted cancer mortality rates was mainly attributable to a reduction in the cohort effect on the rates in men and to reduction in the cohort and period effects on the rates in women. The magnitude of reduction in cohort effect varied by prefecture for men and women. Several prefectures having a government ordinance-designated municipality tended to show a higher reduction than those that do not. Spearman's correlation coefficient between the population size of prefectures and the percentage reduction in cohort effect was 0.370 in men. In addition, the relative ranking of the prefectures based on cancer mortality rates greatly varied by birth cohorts, particularly in men.Conclusion A disparity exists in the percentage reduction in the cohort effect among prefectures. In each prefecture target cohorts with higher than average cancer mortality rates must be identified to implement specific countermeasures for cancer prevention. In addition, for each prefecture, assessment of lifestyle differences that might be related to cancer mortality among birth cohorts is important for reducing cancer mortality in the more recent birth cohorts.
著者
藤原 聡子 辻 大士 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.828, 2020-11-15 (Released:2020-12-23)

第67巻第10号(2020年10月15日発行)「藤原聡子,他.ウォーキングによる健康ポイント事業が高齢者の歩行時間,運動機能,うつに及ぼす効果:傾向スコアを用いた逆確率重み付け法による検証」において,以下の箇所に誤りがありました。お詫びとともに下記のとおり訂正いたします。P744 Methods 7∼11行目 下線部が訂正箇所誤Changes in walking time, physical function, and depression were designated as independent variables, and participation status in the YWP was designated as the dependent variable in the multiple regression analysis with inverse probability of treatment weighting (IPTW), after adjusting for demographic variables, socioeconomic status, health status, and behavior.正Changes in walking time, physical function, and depression were designated as dependent variables, and participation status in the YWP was designated as the independent variable in the multiple regression analysis with inverse probability of treatment weighting (IPTW), after adjusting for demographic variables, socioeconomic status, health status, and behavior.
著者
真田 知世 田口 晶彦 川瀬 善一郎 小平 紀久 久野 芳之 田中 貴 山中 菜詩 梅村 朋弘 鈴木 孝太
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.603-608, 2020-09-15 (Released:2020-10-10)
参考文献数
10

目的 気象環境の変化によって引き起こされる気象病において,気象環境の変化を把握し,事前の予防行動からリスクを軽減することが重要である。そこで,気象データとレセプトデータを組み合わせて分析を行う「Health Weather」の取り組みを立ち上げ,10歳未満の小児ぜん息を対象として,気象と疾患の関係性について検討した。方法 10歳未満の小児ぜん息の外来患者数を対象とし,全国を7つのエリアに分けて,気象データ(気温,湿度,気圧,風)を説明変数とするポアソン回帰分析を行った。さらに,ポアソン回帰モデルを用いて,気象の変化から予測される10歳未満の小児ぜん息の外来患者数の変化を表す予測モデルを作成した。結果 気象データから予測される10歳未満の小児ぜん息患者数と実際の患者数を比較してみると,各エリアにおいて,作成した予測モデルが実測の患者数をほぼ再現できていることが確認された(0.77≦R2≦0.96)。結論 気象データとレセプトデータを組み合わせた分析から,気象と10歳未満の小児ぜん息患者数の関係性を把握できることが確認された。また,Health Weatherの取り組みが,気象病における気象と疾患の関係性の把握につながる可能性が示唆された。
著者
浦山 晶美 西村 真実子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.223-231, 2009 (Released:2014-06-13)
参考文献数
22

目的 わが子を虐待する母親の要因には愛着関係の障害が一因であるとの見方が一般的になってきた。愛着型にはそれぞれ個人差があり,その人のこれまで経験した関係の質に応じて自己と他者に関する内的ワーキングモデル(Internal Working Model:IWM と略す)が形成される。そこで本研究は虐待防止策の方向性を考えるため,養育歴を反映する IWM と虐待的な養育態度および,サポートとの関連性を明らかにすることを研究目的とした。方法 石川県内の 1 歳 6 か月児健診と 3 歳児健診に訪れている母親534人に直接質問紙票を手渡し,調査は無記名とし回収は郵送で行った。結果 IWM の両価性が高い母親ほど,他の IWM 型の母親よりも虐待的な養育態度が多くみられ,育児サポートが得られていてもその傾向は変わらなかった。一方,IWM の安定性が低い母親ほど他の IWM 型の母親よりも虐待的な養育態度の重複が多くみられたが,サポートを受けている場合には虐待的な養育態度は減少する傾向がみられた。結論 IWM は虐待的な養育態度と関連性があると言え,また安定性が低い母親には育児サポートが虐待的な養育態度の発生を緩和する働きがあることが示唆された。
著者
林 知里 早川 和生 前田 知穂 西原 玲子 尾ノ井 美由紀
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.701-715, 2008 (Released:2014-07-01)
参考文献数
35

目的 双生児は単胎児に比べてことばの発達が遅れることが報告されており,その原因として「双子だけで通じる独自のことば(以下 twin language とする)」が注目されている。本研究では,twin language と学童期における社会性の発達の関係を明らかにすることを目的とした。方法 1999年にツインマザースクラブの会員の親2,733人に自記式質問紙を郵送,回答のあった1,428人(52%)への 5 年後の追跡調査として,2004年に追跡可能であった958人に自記式質問紙を郵送,516人から回答を得た(53.9%)。このうち,学童期(6 歳~12歳)の261組(522人)を分析対象とした。双生児の社会性については,「TS 式幼児・児童性格診断検査」を用いて評価した。結果 双生児ペアのうち第 1 子と第 2 子では異なる結果となった。第 1 子では,「社会性」,「学校適応」,「家庭適応」の 3 領域の合計得点で判定される「社会的不安定」において有意な関係は認められなかった。一方,第 2 子については,出生時体重が2500 g 未満の児は2500 g 以上の児と比べて1.846倍(95%CI: 1.039-3.278, P<0.05),妊娠中に妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)と診断された母親から生まれた児はそうでない児と比べて1.903倍(95%CI: 1.044-3.467, P<0.05),twin language を話していた児は話さなかった児と比べて2.022倍(95%CI: 1.167-3.503, P<0.05)多かった。結論 今回の調査により,乳幼児期の twin language が学童期の社会性の発達に関与することが明らかとなったため,乳幼児健診時における医師,保健師,心理職からのフォローアップ,保育園や幼稚園に通わせるなどで他の大人や子どもとの関係性を築く機会を多く作ること,双生児に対して個別的に関わる時間を多くもつように親に指導するなど,言語発達を促すための積極的な介入が必要であると考えられる。また,双生児の親の会などを組織的に活用し,双生児の親の子育てをサポートしていく必要がある。
著者
石黒 彩 磨田 百合子 井上 まり子 矢野 栄二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.582-592, 2020-09-15 (Released:2020-10-10)
参考文献数
28

目的 人々が健康に安心して暮らせる地域づくりには,医療・保健・福祉等の直接的サービスだけでなく,住民の自助・共助を推進する社会関係資本の強化が重要である。その方法として,地域にある社会資源の調整やネットワーク形成を通し地域を自立活性化させるコーディネーターの機能が注目されているが,コーディネートの具体的な方法は明確化されていない。本研究では,東日本大震災の被害を受け住民の抱える生活課題が複雑化した被災地にて,地域づくりに従事する地域福祉コーディネーター(Community Social Coordinator, CSC)を対象に質的研究を行い,地域への介入プロセスを明らかにする。方法 対象者は,宮城県A市で震災後の地域づくりのために配置されたCSC,10人とした。40~90分の半構造化面接を個別に行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した。結果 CSCによる地域への介入プロセスには,《地域の中で関係を構築する》,《地域をアセスメントする》,《地域へ働きかける》の3段階があった。地域のアセスメントでは,〈地域の課題や強みを見定める〉というように地域課題だけでなく地域の資源となりうる強みを見極めていたが,この際〈対象分野を限定しない〉ようにしていた。地域への働きかけでは,〈CSC自らが地域に働きかける〉だけでなく〈住民の主体性を支援する〉ことや〈住民と資源をつなぐ〉こともCSCは行い,〈地域の課題解決をはかる〉ことへ進んでいた。また〈地域と協力する〉ことや〈他の支援者と協力する〉ことにより,地域への働きかけが促進されていた。結論 本研究の結果から,CSCによる地域への介入プロセスには,地域の中での関係構築・地域のアセスメント・地域への働きかけの3段階があることが示された。対象分野を限定せずアセスメントした地域の課題や強みをもとに,地域や他の支援者とも協力しながら地域へ働きかけており,その際住民を主体として考えコーディネートが進められていることが明らかになった。
著者
岡田 隆志
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.609-619, 2020-09-15 (Released:2020-10-10)
参考文献数
21

目的 都道府県の保健所(以下,県型保健所)における精神保健福祉業務は,住民からの相談等に加え,措置入院にかかる通報対応から退院後支援,地域包括ケアシステム構築に資する活動など,多岐にわたる内容が求められている。一方,職員数は全国的に減少が続いており,必要人員の確保は容易ではなくなっている。国の通知では,業務体制について単に人員確保だけでなく,単一の課等を設けることや多職種のチーム体制を敷くこと,専任職員を配置するなどの工夫を凝らすことを各都道府県に提案しているが,実際に都道府県がどのように職員を配置しているかを把握する全国調査は直近では見当たらない。そこで,本研究では既存資料と新たに実施された調査データを活用して,都道府県ごとの専従職員の配置状況を体系的に分類し,それぞれの精神保健福祉業務の実施状況の傾向を分析することを目的とする。方法 本研究では2つの仮説「2018年度の県型保健所専従職員の配置状況は2002年度と比べて変化している」と「精神保健福祉業務の実施状況は専従職員の配置状況の違いによって差異が生じる」を立て,その検証を試みた。対象データは,2018年における県型保健所精神保健福祉業務職員の配置状況を扱った調査と,2002年の配置状況を扱った調査,それぞれの先行調査データの一部を取り扱った。 分析方法は都道府県名と専従専門職員数の平均値の2変数でコレスポンデンス分析を行い,そのうえで,都道府県ごとの専従職員配置の類似性を表すためにクラスター分析を行った。さらに,平成29(2017)年度地域保健・健康増進事業報告を用いて,類型ごとの精神保健福祉業務状況を比較するためにKruskal-Wallis検定および多重比較を行った。結果 県型保健所の専従職員配置状況は,2018年度の配置数の方が2002年より0.61人分上回っていた。都道府県ごとの配置状況の特徴は,2002年度では2類型(「保健師協働型」,「福祉職協働型」)に分けられ,2018年度ではさらに「保健師専従型」が加わり3類型になると解釈できた。精神保健福祉業務の実施状況の差を類型別に比較したところ,「福祉職協働型」は専従職員一人当たりの相談・訪問の延べ件数,市町村援助件数で他の類型と比較して有意に高かった。結論 県型保健所がより効果的に業務を遂行していくために,保健師と精神保健福祉士など複数の専門職を配置する体制にすることが必要と考えられる。
著者
仕子 優樹 原田 亜紀子 大橋 靖雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.593-602, 2020-09-15 (Released:2020-10-10)
参考文献数
26

目的 本研究では乳がん検診データを用いて,乳がん発見率の年齢,期間,コホート,および地域差の検討を行った。方法 日本対がん協会21支部に対して乳がんの検診データの提供を依頼し,2004-2015年における1年ごとの「X線のみ」,「視触診とX線」それぞれの受診者数,要精検者数,精密検診受診者数,精密検診の結果の人数を得た。コホート表に基づきベイズ型Age-Period-Cohortモデルを適用することで年齢,期間,コホートの各効果を分離して推定し,がん発見率に与える影響を考察した。次いで,地域特性の検討を行うために地域を変量効果として組み込んだモデルを使用し再度解析を行った。結果 年齢効果の特徴としては,40代後半でピークを迎えた後に減少し,50代後半以降も上昇する傾向が見られた。期間効果は2004年-2007年にかけ減少した後は頭打ちの傾向であった。コホート効果は,出生年が1943年から1958年のコホートで高い傾向が見られた。また,宮崎県,福井県,栃木県,北海道では高い発見率であったが,鹿児島県,千葉県では低いがん発見率であった。結論 本研究では乳がん発見率の年次推移に対して,3要因(年齢,期間,コホート)のうち年齢が最も強く影響することが確認された。また乳がん発見率が地域により大きく異なることが明らかになった。したがって検診データによって先行研究と同様の乳がん罹患年齢分布および地域差を示すことが可能であると示唆された。