著者
兼井 典子 児玉 達哉 張谷 友義
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.311-316, 2017-12-20 (Released:2017-12-27)
参考文献数
5
被引用文献数
1

シャンプーの主成分であるアニオン界面活性剤はカチオン性高分子との相互作用により,シャンプー希釈時のある濃度領域において,コアセルベートと呼ばれる水に不溶の複合体を形成する。コアセルベートは毛髪に付着してコンディショニング効果を付与することが知られており,コアセルベートの性質がシャンプーの使用感に影響を及ぼすことが報告されている。一方,香料はシャンプーに配合されており,香り立ちや残香は重要である。コアセルベートは毛髪に付着することから,香料の香り立ちや残香はコアセルベートの影響を受けるものと考えられる。そこで,本研究では毛髪への香料の付着に及ぼすコアセルベートの影響について検討した。コアセルベート有/無シャンプー水溶液の上澄み液中の香料量を比較した結果,香料はコアセルベート中に取り込まれる傾向にあることが明らかとなった。さらに,コアセルベート有/無のシャンプーを用いて洗髪した毛髪への香料の付着量をガスクロマトグラフィーにより定量した結果,コアセルベート有の方が無よりも香料の付着量は増加することが確認された。これは,コアセルベート形成時に香料が取り込まれて毛髪へ付着するためと考えられる。
著者
水越 興治 及川 みどり 伊藤 夕子 小林 和法 今村 仁 松本 克夫
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.262-268, 2007-12-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
6
被引用文献数
5 2

本研究では10代から50代の, 248名の日本人女性の顔面を対象とし, 目立つ毛穴の実態調査を行った。その結果, 20代から30代で目立つ毛穴には角栓が存在し, 角栓の組成を分析した結果, タンパク質成分が約7割を占めることが判明した。一方40代以降では角栓が存在せずに開大した状態の目立つ毛穴が存在することが明らかとなった。また毛穴の開口部面積は10代から20代と, 30代から40代で各々急増するという, 2段階の変化を示す一方, 皮脂量との関連性は年齢とともに低下した。これらの結果から, 若年層では毛穴は角栓が詰まることによって目立ち, 年齢とともに毛穴の中に角栓が存在しなくなっても目立つ構造に変わっていくことが推察された。この調査結果から目立つ毛穴に対するケア方法は画一的ではなく, その性状, 年齢に応じて異なるべきであることが示唆された。
著者
大坊 郁夫
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.241-248, 2000-09-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
15
被引用文献数
1

顔の魅力は, 身体的特徴にのみによって形成されるものではなく, 社会的脈絡や文化によって大きく影響される。多くの研究は, 進化によって築かれた民族的な同一性と顔の形態特徴によって顔の魅力が形成されることを示している。日本人は, 歴史的に外見的特徴自体および外見的美を表現することに抑制的であり, 包括的な平等さを重視する傾向がある。しかし, 外見美に無関心なわけではない。このような間接性を重視する文化は, 欧米, 他のアジアとも異なるものであり, 日本人の同調性, 集団主義的傾向を示唆する。外見美や化粧の効用の社会心理学的研究において, 個人の特徴や文化的影響を十分に踏まえる必要がある。さらに, 顔の形態特徴に加えてコミュニケーション性への視点も重要である。
著者
野々村 美宗
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.89-92, 2014-06-20 (Released:2014-06-20)
参考文献数
14

泡は身体洗浄料の洗浄力や使用感を左右する重要な因子であるため,多くの研究者がその物理的性質の制御に取り組んできた。しかし,商品のコンセプトにあった起泡性や泡安定性を実現することはいまだに難しい。本総説では,泡の物理的な特性の起源となる構造とダイナミクスに関する最近の研究を紹介する。
著者
木田 尚子 曽我部 隆彰 加塩 麻紀子 須賀 康 金丸 晶子 大場 愛 富永 真琴
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.108-118, 2013-06-20 (Released:2015-08-25)
参考文献数
32

われわれヒトの皮膚温度は気温や体温によって大きく変動する。しかし,温度が皮膚機能に与える影響やその詳細なメカニズムは不明である。本研究では,生理的皮膚温度付近 (>30°C) の熱刺激や化学的刺激によって活性化する温度感受性イオンチャネルTRPV4に着目し,皮膚機能におけるその役割を検証した。その結果,TRPV4はヒト表皮ケラチノサイトにおいて細胞間接着構造adherens-junction (AJ) を構成するタンパク質βカテニン,Eカドヘリンと複合体を形成し,TRPV4を活性化する熱刺激や化学的刺激を加えることで①細胞内カルシウムイオン (Ca2+) 濃度の上昇,②低分子GTP結合タンパク質Rhoの活性促進,③細胞間接着構造AJおよびtight-junction (TJ) の形成・成熟促進とそれらを介した表皮細胞間バリア機能の亢進に関わることが示唆された。さらに,TRPV4を活性化する素材の開発はバリア機能の維持・改善に有用であると考え,天然由来物からTRPV4活性化成分を探索したところ,バナバ葉から単離されたエラグ酸誘導体に高いTRPV4活性化作用および表皮細胞間バリア機能向上作用が確認された。
著者
松岡 桓準 平 徳久 中村 清香 勝山 雄志 吉岡 正人
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.200-207, 2014

アスコルビン酸は生体にとって不可欠な成分であり,化粧品分野においても抗酸化作用をはじめとする様々な生理機能を求めて多くの製剤に配合されている。しかし,アスコルビン酸は非常に不安定な物質で,しばしば着色・着臭をはじめ乳化系の破壊や製剤の粘度低下の原因となる。今回われわれは,アスコルビン酸とグリセリンを結合させた2種類のグリセリル化アスコルビン酸を開発した。これらはB16細胞を用いたメラニン生成抑制試験において高いメラニン生成抑制効果を示した。また,<i>in vivo</i>の連用試験ではグリセリン由来の保湿効果を示し,肌表面の紋理を整え,乾燥による目尻の小じわを目立たなくした。さらに,水溶液や粘性製剤において高い安定性を示すことも確認された。これらの結果よりグリセリル化アスコルビン酸は既存の誘導体と同様の生理活性を有するだけでなく,化粧品市場に求められる付加的機能を併せ持った保湿型アスコルビン酸誘導体であることが確認された。
著者
神原 敏光 周 艶陽 川嶋 善仁 岸田 直子 水谷 健二 池田 孝夫 亀山 孝一郎
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.179-186, 2003-09-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
12
被引用文献数
1

甘草の化粧品添加物としてのさらなる利用を目的に, Glycyrrhiza inflata Batalinの根から調製したリコカルコンAを主要成分とする抽出物である油溶性甘草エキスP-Uについて, 新たな皮膚科学的有用性を検討した。その結果, 本抽出物はテストステロン5α-リダクターゼ, リパーゼおよびホスホリパーゼA2の阻害作用やアンドロゲン受容体結合阻害, 抗菌およびSOD様作用など, スキンケア, 特にニキビの形成や悪化の抑制に係わる種々の作用を示した。これらの試験結果を基に, ニキビ患者に対する油溶性甘草エキスP-Uの効果を検証し, その有効性が推定された。
著者
屋敷(土肥) 圭子 木曽 昭典 周 艶陽 岩崎 大剛 神原 敏光 水谷 健二
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.274-280, 2009
被引用文献数
1

皮膚組織における皮下脂肪の増加は,リンパ管や血管を圧迫し皮膚のたるみやむくみなどのトラブルを引き起こすだけではなく,ボディラインを崩すセルライトなどを形成する。われわれは,植物抽出物のさらなる応用を化粧品に広げるために,皮下由来の脂肪細胞に対する分化誘導抑制作用および脂肪分解促進作用について検討した。本研究では,ヒト皮下由来の前駆脂肪細胞を用いて,分化誘導抑制作用について数種類の植物抽出物をスクリーニングした結果,オウレン抽出物とその主成分であるベルベリンに作用があることを見出した。さらに,前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞へ分化するさいに関与する遺伝子発現を解析した結果,オウレン抽出物およびベルベリンにこれらの遺伝子を抑制する作用が認められた。また,オウレン抽出物およびベルベリンには,成熟脂肪細胞に対して脂肪分解作用および熱産生関連遺伝子の発現促進作用を有することが明らかになった。本研究においてわれわれが検討したオウレン抽出物およびその主成分ベルベリンは,中性脂肪を増やさず,すでに蓄積した脂肪を分解することが期待され,ボディケア製品やスリミング化粧品などへの応用が示唆された。
著者
澤根 美加 大田 正弘 山西 治代 本山 晃 高倉 伸幸 加治屋 健太朗
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.188-196, 2012
被引用文献数
1

皮膚には血管・リンパ管からなる微小循環系がはりめぐらされており,皮膚は全身の臓器と同様に,血管から栄養や酸素を供給され,リンパ管から過剰な水分や老廃物を排出されることで恒常性を維持している。皮膚の恒常性維持に微小循環系は重要と考えられるが,皮膚老化への関わりとその分子メカニズムについては未知な部分が多かった。本研究では,加齢による皮膚老化が循環系機能の低下によって引き起こされ,さらにその循環系機能を血管安定化にかかわる受容体Tie2 (endotheliumspecific receptor tyrosine kinase 2) が制御することを明らかにした。まず,ヒト皮膚組織を用いて循環系変化を解析したところ,加齢で血管およびリンパ管の構造が不安定化し,機能が低下していた。さらに,そのメカニズムはTie2の活性化の低下に起因していた。Tie2は血管と同様,リンパ管機能や成熟化にも寄与しており,Tie2の活性化が血管・リンパ管の安定化に重要であった。そこで,Tie2を活性化する薬剤を網羅的に探索した結果,ケイヒエキスを同定した。
著者
目片 秀明
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.2-11, 2017
被引用文献数
2

近年でも微生物汚染が原因により製品回収に至った化粧品の事例がある。消費者が化粧品を使用する際に,使い始めから終わりまで安全に安心して使用できることは化粧品が有すべき重要な品質である。本稿では二次汚染リスクの高い製品に対する製品設計上の留意点や,使用頻度が高い防腐剤,国際的な防腐剤規制状況,防腐力に影響を与える因子などを中心に概要を列挙した。また,消費者の安全性志向の高まりや海外の防腐剤の配合規制に応えるため,われわれはパラベンフリー・防腐剤フリーを目的とした製品開発に向けて,1,2-アルカンジオールの抗菌効果と皮膚の感覚刺激性についてパラベンと比較して調べた。その結果,抗菌効果はほぼ同等であり,感覚刺激性はパラベンに比べて有意に低いことを確認した。化粧品開発において適正な製品品質を確保した防腐処方設計の考え方の一助となれば幸いである。
著者
佐藤 真由美 森 忍 吉塚 直伸 武馬 吉則
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.125-130, 2004-06-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
8

女性の顔の形状に関しての美意識は高く, 形状を形づくるものとしては骨格や筋肉, 皮下脂肪が関わっていると考えられる。そこでわれわれは, MRI法 (核磁気共鳴映像法) を用いて女性の顔面における皮下脂肪を計測し, 皮下脂肪の分布と体型との関係について実態解析を行ったので報告する。健常女性38名を, 痩身体型10名・正常体型18名・肥満体型10名に分け, 頭部MRI撮影を行った。撮影条件は, 脂肪を映すのに適したT1強調で撮影した。MRI画像の顔面皮下脂肪面積は, 肥満体型, 正常体型, 痩身体型の順で多かった。さらに, 顔面45ヵ所の皮下脂肪厚を計測した結果, 頬部の鼻側は体型にかかわらず皮下脂肪量が多い部位であったが, 咬筋部と下顎骨部周辺の皮下脂肪量はBMI (Body Mass Index) が高くなるに伴い増大した。すなわち, 体型にかかわらず皮下脂肪が存在する部位と, BMIの増加に伴い蓄積していく部位があることが示唆された。
著者
山口 弘毅 大隅 和寿 坂井田 勉 広瀬 統 八代 洋一 中田 悟
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.27-32, 2017 (Released:2017-03-22)
参考文献数
11

毛穴の目立ちの原因となる角栓は,角質や皮脂が毛孔内で凝固して発達したものと考えられていたが,われわれの研究から角栓形成には毛包中の内毛根鞘が関与する可能性が考えられた。また,男性ホルモンの活性化が角栓形成に関与することも明らかにした。これらの結果から,内毛根鞘の形成阻害や男性ホルモンの活性化抑制が角栓形成を防ぎ,結果として毛穴を目立たなくさせると考え,有効成分としてザクロ発酵液を同定した。さらに,ザクロ発酵液を配合したミルクローションを2ヵ月間女性被験者16名(平均年齢30.3歳)に連用させたところ,ポルフィリン量を指標にした角栓の目立ち,およびレプリカにおける毛穴の深さ解析において改善効果を得た。以上の結果から,ザクロ発酵液が角栓形成を抑制し,毛穴の目立ちを改善すると考えられた。
著者
大坊 郁夫
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.241-248, 2000

顔の魅力は, 身体的特徴にのみによって形成されるものではなく, 社会的脈絡や文化によって大きく影響される。多くの研究は, 進化によって築かれた民族的な同一性と顔の形態特徴によって顔の魅力が形成されることを示している。日本人は, 歴史的に外見的特徴自体および外見的美を表現することに抑制的であり, 包括的な平等さを重視する傾向がある。しかし, 外見美に無関心なわけではない。このような間接性を重視する文化は, 欧米, 他のアジアとも異なるものであり, 日本人の同調性, 集団主義的傾向を示唆する。外見美や化粧の効用の社会心理学的研究において, 個人の特徴や文化的影響を十分に踏まえる必要がある。さらに, 顔の形態特徴に加えてコミュニケーション性への視点も重要である。
著者
曽我 元 森田 康治 新井 賢二
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.97-103, 2014
被引用文献数
1

日常的に行われる美容行動の一つである地肌マッサージに関して,血行促進を効率的に実現できる方法を考案することにした。そこで,種々のマッサージ基本手技が皮膚血流に与える作用を個別に評価した。その結果,頭皮においては,圧迫法が最も血流上昇作用が高いという特徴を見出した。ほかの基本手技も組み合わせて,約3分間のセルフマッサージ方法を創案した。この方法により地肌をマッサージすると,即時的な血行促進作用が認められ,平均で約120%まで上昇し,20分程度持続することを確認した。また,地肌が動きやすくなり,1週間の連用を行うと動きやすさのスコアに上昇傾向が認められた。この方法は,地肌マッサージの生理学的意義を明らかにする目的で,頭皮の物性や血流量に与える影響と,それに加えて,毛髪の成長に関わる作用を評価するために有用である。
著者
平尾 直靖
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-9, 2002
被引用文献数
4

スキンケア化粧品の品質は, 保湿などの肌状態を改善・維持する特性のみでなく, リラクゼーションなどの心身に働きかける特性にも依存する。使用感は, 心理的な効果を生む最も重要な品質特性だが, 皮膚感覚機能に依存する。皮膚感覚器により受容された感覚信号は, 中枢神経系に伝わる過程で, 自律神経系, 内分泌系, 免疫系へと影響を及ぼし, 情動状態に影響を与える。このようにして生じる心理的な効果は, 肌状態を改善・維持するスキンケア効果とも相互に影響しあっている。本論では, スキンケアの心理的な効果について, 皮膚感覚, 情動, スキンケア効果との関連の観点から論じる。
著者
河野 善行
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.253-261, 2002
被引用文献数
1

保湿は肌荒れに対して大変有効な手段であり, また化粧品の最も基本的かつ重要な機能と考えられる。そして多くの種類のエモリエント剤や保湿剤が皮膚の水分保持や乾燥を防御することを目的として用いられてきた。角質層においては, 自然保湿成分 (NMF), 皮脂および細胞間脂質の重要性が証明されてきた。皮膚科学的なアプローチの観点からわれわれは皮膚保湿のメカニズムのアナロジーを皮膚上で再構築してきた。具体的には肌荒れに対して, 水, 保湿剤および脂質を等価に皮膚に補う"モイスチャーバランス"の有用性を証明してきた。これらとは別に化粧品の開発に薬理学的なアプローチの観点も重要であり, 新規な化粧品有効成分の開発に大変役に立つ方法論である。近年われわれは, 肌荒れにおいて表皮プロテアーゼが重要な役割を果たすこと, またその活性を阻害することが修復を促すことを明らかにしてきた。そして表皮プロテアーゼであるプラスミンの阻害活性を有し, 肌荒れに効果を有する<i>t</i>-AMCHAを開発した。本総説では, 皮膚の保湿のメカニズムと, 皮膚科学的にまた薬理学的に開発されたスキンケア化粧品についてレビューする。
著者
深澤 宏
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.76-87, 2006

口紅に求められる品質は, 基本品質と嗜好品質に分けられる。基本品質は「安全性, 安定性 (発汗, 発粉, 折れない, 匂いや色が変わらない等)」が良いことである。嗜好品質は, 「色調」「使用感」「機能」等概ね三つに分類されるが, 優位順位は, 使用する人, 唇の状態, 時間, 場所, 目的に応じて異なるため, 個別検討する必要がある。充填成形時にはさまざまな要因により, 口紅の出来栄え (品質特性) が変化し, 工程管理が行われている。しかし, 「どんな特性をどう評価して, 管理・改善したら良いか」について, 手順が確立しているとはいえない。本研究では「スティックタイプ」の口紅に関して, 充填成形時の管理の手順を「損失関数」の考え方を用いて解説し, 品質特性の改善には「基本機能」の考え方に基づき, 動特性のSN比を用いたパラメータ設計が有効であることを説明する。
著者
野村 浩一 高須 賀豊 西村 博睦 本好 捷宏 山中 昭司
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.254-266, 1999
被引用文献数
2

メークアップ膜の化粧くずれは多忙な現代女性の大きな悩みの一つであるが, この問題に着目した研究例は少ない。化粧くずれにはいくつかのプロセスが考えられているが, われわれが世界に向けて行ったアンケートでは「テカリの発生」がその重要なシグナルであるという結果が得られた。本研究の目的はその光学特性変化の原因を追究し, この現象の新しい解決策を提案することであった。化粧くずれの主な原因が皮脂の分泌であることはよく知られている。われわれが今回ヒト皮脂の各成分についてその化粧くずれに対する影響を調べたところ, 皮脂中の不飽和遊離脂肪酸が主な原因である可能性が示唆された。遊離脂肪酸の存在は皮脂の融点の降下などを招き, 結果的に化粧膜中の粉体と濡れやすくなることによって化粧くずれを助長した。これらの結果はわれわれに, 化粧くずれを防ぐ新しい方法が遊離脂肪酸の選択的吸着であることを示した。その目的を達成するために, シリケート層を物理化学的に修飾した粘土鉱物が化粧品素材として検討された。検討した粘土鉱物は酸化亜鉛担持アルミナピラードクレー (以下ZA-pilc) である。ZA-pilcを配合したパウダーファンデーションは<i>in virto</i>および<i>in vivo</i>試験において化粧膜の光学特性の劣化が少なく, 結果として化粧膜のいわゆる「もち」を改善した。このような化粧くずれ防止の機能に加え, ZA-pilcはその遊離脂肪酸への吸着特性ゆえたとえばニキビ防止といった別の機能も考えられ, 事実, 今回行ったウサギを用いた実験でもその可能性が示唆される結果となった。
著者
上出 良一
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.265-272, 1996-10-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
44
被引用文献数
2 3

紫外線は皮膚の構造・機能に大きな影響を与える環境因子のひとつである。紫外線照射による急性皮膚傷害はサンバーン, サンタンとしてみられ, 慢性の紫外線曝露は老人性色素斑, 光線性弾性線維症, 腫瘍発生などの光老化として長期の潜伏期間の後に出現する。その起点は主にUVBによるDNA損傷と, UVAによる細胞内外の光感作物質の励起で生ずる活性酸素種の発生を介した細胞傷害である。その結果, 皮膚の炎症, 構造的異常, 遺伝子変異, 光発癌, 免疫反応の抑制, 光線過敏症などが生ずる。それらの症状ならびに機序について概説すると共に, それを軽減または予防するための対策について皮膚科学的見地から最近の知見をまとめてみた。
著者
福田 實
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.385-395, 1997

紫外線防御化粧品には紫外線防御効果が表示されている。UVBに対する防御効果はSPF (Sun Protection Factor) が, UVAに対する防御効果はPA gradeで表示されている。これらの表示の根幹を構成するのが, 紫外線防御効果の測定方法で, 日本では日本化粧品工業連合会技術委員会傘下の専門委員会が基準策定にあたった。SPF測定法基準は、SPF専門委員会により1992年1月に発効し, UVA防止効果測定法基準は, 世界で最初に, 紫外線専門委員会により, 1996年1月に発効された。<br>現在, 世界の何処の国でも, 統一されたUVBとUVAの2つの防御効果測定基準を持つ国はない。これら基準を策定する過程で, SPF専門委員会並びに紫外線専門委員会で検討し, 決定するに至った主な条項に解説を加えると共に, 紫外線防御化粧品の評価と表示方法について諸外国の現状を日本と対比しながら概説した。