著者
加藤 俊博 奥山 治美 徳留 信寛 織田 久男 渡辺 和彦 木村 眞人
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.192-200, 2009-04-05
被引用文献数
1

健康志向が世界的に高まりつつあり、わが国においても、国民の食育、食と健康に関する関心は益々高くなっており、食生活の重要性が強く認識されつつある。一方、国民の「栄養と健康」に関する知識の現状はなお不十分で、野菜摂取量不足等によるビタミン、ミネラル不足あるいは油脂・脂肪(リノール酸、トランス脂肪酸)の取りすぎ等による栄養摂取のアンバランスががん、心疾患等の生活習慣病を助長している。他方で、消費者の健康食品・機能性成分に対する関心は高く、栄養補助食品としてビタミンやミネラル成分が摂取されている。しかし、ミネラル等の栄養補助食品では過剰摂取による弊害も発生しており、野菜等の食物からの摂取を積極的に勧める必要がある。このため、行政サイドからも、野菜摂取量の増加が叫ばれているものの、食生活の変化から、こども、若者高齢者を中心に野菜を十分に摂取できていないのが現状であり、流通と消費の両サイドから十分量のミネラル強化野菜の周年安定供給が望まれている。
著者
武田 甲 白木 与志也 舩橋 秀登 北 宜裕 山田 良雄
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.49-52, 2013-02-05

日本における茶栽培の主要産地は関東以南であり,作什面積は平成22年度に全国で46,800ha,神奈川県では274haである(社団法人日本茶業中央会,2011)。茶栽培は鳥獣被害を受けないことなどから中山間地域における重要な作目のひとつとなっている。2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所の事故により,3月15日および3月21日に放射性物質が拡散した(青山ら,2011)。当該原子力発電所から239~310kmの距離にある神奈川県内では,葉根菜および果樹類への影響は軽徴であり,2011年3月17日に設定された食品衛生法に基づく放射性セシウムの暫定規制値である500Bqkg-1を超えた作物はなかった。しかし茶生産においては,関東地域内のほとんどの茶産地で生産された一番茶の荒茶から放射性セシウムが検出され,暫定規制値を超えた産地では出荷制限に至った(原子力災害対策本部長神奈川県知事宛通知,2011など)。これまで茶の放射能汚染に関する研究としては,1954年のビキニ環礁での水爆実験が日本の茶葉および浸出液に及ぼした影響に関する報告(河合ら,1956),チェルノブイリ原子力発電所の事故がトルコの黒海沿岸部で生産された茶に及ぼした影響に関する報告(Gedikoglu and Sipahi,1989),同地域で生産された茶葉の生物学的半減期の報告(UEnlue et. al.,1995),および 1961年~1979年に生産されたインドのアッサム茶で行われた核種別濃度推移に関する報告等がある(Lalitet. al.,1983)。また,放射性セシウムの移行係数を算出した報告(近澤・宅間,2005),汚染茶葉から抽出した放射性セシウムの挙動を砂質土で試験した報告(Yuecel and OEzmen,1995),茶樹体内での部位別の放射性セシウム濃度を調査した報告(Topcuoglu et. al.,1997)等がある。しかし,国内の茶園土壌あるいは茶樹根圏における放射性セシウム動態については詳細な検討がなされていないことから,著者らは降下後6ヶ月後(1地点)および8ヶ月以後(5地点)の神奈川県内の茶園土壌における放射性セシウムの垂直分布調査を行ったので報告する。
著者
北村 秀教 米山 忠克
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.660-669, 1994-12-05
被引用文献数
3 2

作物の生体液の養分濃度の変化から栄養生理や栄養診断の情報を得ることを目的とした.ここでは培地の Ca 濃度を 2 mM と 7mM に変えてコマツナと節木キュウリを水耕栽培し,両作物の導管液や作物下位と上位の葉柄と葉身の汁液の pH, EC, カオチン (Ca^<2+>, Mg^<2+>, K^+)とアニオン (NO_3^-, H_2PO_4^-, SO_4^<2->, Cl^-) の濃度の変化を分析した.pH は,導管液でやや低下したが,葉柄と葉身汁液では培地とほぼ同じ (コマツナ) か,やや上昇 (キュウリ) した.EC は導管液,葉身汁液,葉柄汁液と上昇した.培地の Ca 濃度が 2 mM から 7 mM になると,両作物で生体液の Ca 濃度が上昇, Mg 濃度が低下したが,キュウリはさらに K 濃度が低下した.コマツナ葉身では全 Ca の 60〜88%, 全 Mg の76〜103% が汁液に分布していたが,キュウリ葉身では全 Ca の 5〜11%, 全 Mg の 15〜34% が汁液に分布していた.K は葉柄と葉身の汁液で 100〜150 mM と変わらず葉身 K の約 60〜80% が汁液に分布していた.キュウリの葉身汁液の NO_3^- の濃度はコマツナより低く,またコマツナ葉身では全 N の 11〜25%, キュウリでは 2〜10% が NO_3-N であり,キュウリの活発な NO_3^- 還元能が示唆された.H_2PO_4^- は,導管液で 2〜4 mM, 葉柄汁液で 4〜9 mM, 葉身汁液で 10〜15 mM となり,培地 Ca 濃度の上昇はキュウリの葉柄や葉身の汁液の H_2PO_4^- 濃度を低下させたが,導管液や葉身の全 P への影響はなかった.全アニオン/全カチオンの当量比は,両作物の導管液でほぼ1, コマツナの葉柄汁液でもほぼ1であった.しかし,キュウリの葉柄汁液および両作物の葉身汁液で 0.2〜0.8 となり,他のアニオン (CO_3^<2-> やリンゴ酸) の存在が示唆された.キュウリの台木がクロダネとスーパー雲竜では,養分の吸収,移動,代謝には差がほとんどないので,ハウスで認められたスーパー雲竜台木キュウリ葉の黄白化症は台木根の生理的特性ではなく,養分が富化した上位土層に根が分布したためと考えられた.
著者
松中 照夫 熊井 実鈴 千徳 あす香
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.31-38, 2003-02-05
被引用文献数
16

バイオガスプラント消化液由来Nの肥料的効果を,乳牛由来液状きゅう肥および化学肥料と比較することを目的としてOG栽植条件下のポット試験を実施した.得られた結果は以下のとおりである.1)消化液の施与は,OGの収穫部位である刈取り部乾物重を無施与より明らかに増加させた.その効果は,液状きゅう肥のそれとほぼ同等であり,NH_4-N施与量が同じであっても,化学肥料に比較すると劣った。2)消化液や液状きゅう肥に含まれる有機態Nは,見かけ上,OGのN吸収や土壌の可給態Nに影響を与えなかった。したがって,消化液の有機態NはNからみた肥効に大きな寄与をしないと考えられた。3)施与された資材からのNH_3-N揮散は,消化液と液状きゅう肥からだけに認められた。このため,施与されたNH_4-N量からNH_3-N揮散損失量を差し引いた量(正味のNH_4-N施与量)は,消化液区や液状きゅう肥区より化学肥料区のほうが多かった。この差異が刈取り部乾物重の処理間差をもたらしたと思われた.4)正味のNH_4-N施与量がOGに明らかなN欠乏を与えない程度であるたら,その単位NH_4-N量当たりの刈取り部乾物重増加量は,消化液,液状きゅう肥および化学肥料の各資材間に大差がなかった。5)以上の結果から,消化液のNからみた肥料的効果は,液状きゅう肥や化学肥料のそれと本質的な違いはなく,消化液の肥料的効果の発現程度は,NH_3-N揮散損失を考慮した正味のNH_4-N施与量に依存すると結論づけられる。
著者
柴田 英昭 田中 夕美子 佐久間 敏雄
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.406-412, 1994-08-05

雪面に対する乾性降下物の沈着速度および積雪内部における物質の再分配を明らかにするために,1991年12月〜1992年4月に苫小牧市高丘に立地する森林地帯の開放露場において降雪および積雪の量と化学性を観測した.H^+ を除く,ほとんどのイオンにおいて降雪の平均イオン濃度は降雨のそれよりも高い値を示し,降雪による月間イオン負荷量は降雨に匹敵する大きな値を示した.乾性降下物の沈着フラックスを積雪中に存在する物質量と降雪によって供給される積算湿性降下物量の増加速度の差から見積もった.得られた沈着フラックス(μmol_c m^<-2> d^<-1>)は Cl^<-1>>Na^+>NH_4^+ の順に大きかった.SO_4^<2-> の乾性沈着フラックスは 27 μmol_c m^<-2> d^<-1> と見積もられ,海水起源以外の汚染源から主として供給されたものと推定された.また,雪面からわずかに雪が溶けることによって積雪中の物質が積雪内部を移動したことが推定され,これらの物質はざらめ雪上部で高濃度で集積する傾向にあった.また,その移動フラックスは乾性沈着フラックスの大きいイオンほど大きかった.イオンの移動速度係数(cm d^<-1>)は K^+,NH_4^+ が高い値を示した.
著者
石橋 英二 金野 隆光 木本 英照
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.664-668, 1992-12-05
被引用文献数
10

水田土壌におけるコーティング肥料(LP 140, LP100, LPS 140, U-L)からの窒素溶出パターンについて反応速度論から導かれる温度変換日数法を用いて解析した.その結果,コーティング肥料の溶出は一次反応式で説明でき,五つの特性地(溶出速度,溶出速度の温度依存性,誘導期,誘導期の温度依存性,最大溶出率)を用いて,予測できることを明らかにした.1)反応式:コーティング肥料からの窒素溶出は次の一次反応式にしたがった.[chemical formula] ただし,k : 溶出速度定数(d^<-1>),TAU : 窒素が溶出を開始するまでの期間(誘導期),TAU_1 : 溶出開始までに要する期間のうち温度に無関係な部分,TAU_2 : 溶出開始までの期間のうち温度に依存する部分,A : 最大溶出率.2)溶出速度:溶出速度定数は0.0177〜0.0326(25℃,d^<-1>)で土壌窒素の無機化速度の2〜5倍であった.3)溶出速度の温度依存性:溶出速度に関わる見かけの活性化エネルギーは69,900〜98,000 Jmol^<-1>であり,土壌窒素の無機化と同等の温度反応性を示した.4)誘導期および誘導期の温度依存性:誘導期には温度に依存しない誘導期(TAU_1)と温度に依存する誘導期(TAU_2)があり,LP 140はおのおの10.9日,0.0日であり,LP 100は8.0日,0.0日,LPS 140は12.2日,26.4日,U-Lは0.0日,26.2日であった.また,TAU_2の見かけの活性化エネルギーはLPS 140で114,300 J mol^<-1>,U-Lでは126,800 J mol^<-1>であった.5)最大溶出率:最大溶出率はLP 140,LP100,LPS140では100%で,U-Lは90%であった.
著者
西尾 隆 荒尾 知人
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.493-499, 2002-10-05
被引用文献数
7

畑土壌に施用したアンモニア態窒素の有機化に関する土壌間差を明らかにするために,硫酸アンモニウムを添加した土壌の長期インキュベーションを行い,有機化量の経時的推移を求めた.典型淡色黒ボク土,多腐植質厚層黒ボク土,細粒質普通灰色低地土,細粒質台地黄色土の4種類の土壌に対して,重窒素標識硫酸アンモニウムを200mg N kg^-1或いは2000mg N kg^-1添加して実験を行った.また,重窒素同位体希釈法を用いてそれぞれの土壌の無機化,有機化,硝化速度の測定を行った.土壌中にアンモニア態窒素が残存している条件下では,2種の黒ボク土の有機化速度は,灰色低地土や台地黄色土よりも速かった.硫酸アンモニウム添加量2000mg N kg^-1の時には,総ての土壌で180日後になってもアンモニア態窒素が残存していたため,2種類の黒ボク土で有機化量がアンモニア態窒素施用量の5.2%となったが,台地黄色土では1.4%であった.しかし,硫酸アンモニウム添加量200mg N kg^-1の場合は,台地黄色土以外の土壌はアンモニア態窒素がほぼ20日以内に硝化されてしまったために,窒素有機化量が施用量の3%前後だったのに対し,台地黄色土では最後までアンモニア態窒素が残り,有機化量は施用量の12%以上まで到達した.重窒素同位体希釈法で求めた土壌の有機化速度と,長期インキュベーション実験で土壌にアンモニア態窒素が残存した期間との積をとると,同実験の最終的な重窒素標識窒素有機化量と,良い相関関係が得られた.また,アンモニア態窒素が残存する条件下では,窒素有機化量がバイオマス窒素の値を超えても,なお有機化量が単調増加してゆくことから,いったん微生物に取り込まれた窒素が,死菌体残さ,空の胞子等として残ったり,或いは腐植化したりしている可能性が考えられた.
著者
後藤 茂子 林 浩昭 山岸 順子 米山 忠克 茅野 充男
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.391-396, 2002-08-05
被引用文献数
11

2種類の下水汚泥コンポストを20余年連用した試験圃場の深さ10cmまでの土壌中の亜鉛,銅,カドミウム,鉛含有量の経年変化と水平方向(試験区外)への移行について調べ,下水汚泥由来重金属の土壌への蓄積について棟討した.(1)下水汚泥コンポスト中の含有量が土壌中のそれよりも高かったモミガラコンポスト区,オガクズコンポスト区両区の亜鉛およびカドミウムと,モミガラコンポスト区の鉛は,施用によって土壌中に蓄積が認められたが,試験開始後10年が経過したころからは蓄積の鈍化あるいは停滞の傾向がみられた.一方,含有量が土壌より低かった両コンポスト区の銅およびオガクズコンポスト区の鉛は,土壌中に蓄積が認められなかった.(2)土壌に蓄積した重金属の水平方向の移行もまた,蓄積と同様に下水汚泥中含有量の高い亜鉛およびカドミウムで明らかに認められた.これは耕うんに伴う土の移動によると推定した.(3)下水汚泥の施用に伴ってモミガラコンポスト区に添加された亜鉛の分配を,隣接する化学肥料区との間で検討したところ,累積添加亜鉛量の約53.4%が区内の深さ10cmまでの土壌に,約6.5%が隣接する化学肥料区の深さ10cmまでの土壌に存在した.また,累積添加亜鉛量のほとんどが20cmまでの表層土中に存在し,下方への溶脱はそれほど多くはないと考えられた.
著者
熊澤 喜久雄
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.207-213, 1999-04-05
被引用文献数
61
著者
長谷部 亮 飯村 康二
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.42-48, 1986-02-05
被引用文献数
3 3

水稲の生育にとって重要な役割を果たすケイ酸が土壌溶液中にどのくらいの濃度であれば健全な水稲が生育するのかをみる目的で,水耕培養液を土壌溶液に模してケイ酸供給濃度を一定に保ち水稲の生育経過,収量およびケイ酸吸収量を調べた。水耕培養は容量300lの流動水耕培養装置を用いた。試験区として水耕培養液のケイ酸濃度0,3,10,30,100 ppmの5区を設けた。ケイ酸濃度は移植後から収穫期までほぼ毎日調べ,常に所定の濃度に保つようにした。結果を要約すれば次のとおりである。1)ケイ酸濃度は3 ppmに保たれていれば,10,30および100 ppm区と比べ水稲の生育に大差はなく健全な水稲となった。2)ケイ酸濃度30 ppm区および100 ppm区では葉身のケイ酸含有率30%以上,全ケイ酸含量13gという大量のケイ酸の蓄積があった。3)ケイ酸濃度0 ppm区ではケイ酸欠乏水稲の生育症状を呈し,収穫も低く稔実歩合も75%と最低であった。4)水稲葉身,葉鞘+茎のケイ酸含有率は30 ppm区までは水耕液中のケイ酸濃度の対数に比例した。5)水稲はケイ酸を積極的に吸収し,受動的に吸収する場合ははるかに小さく,また積極吸収は生育初期よりも後期のほうが強かった。
著者
金田 吉弘 粟崎 弘利 村井 隆
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.385-391, 1994-08-05
被引用文献数
29

育稲箱全量施肥は,初期の溶出が少ないタイプの被覆尿素を利用して本田の施肥窒素分全量をあらかじめ育苗箱内に施用しておき,移植苗とともに本田に施肥する方法である.本報告では,グライ土水田での水稲不耕起栽培における育苗箱全量施肥の適応効果を検討し,以下の結果を得た. 1)不耕起区の土壌無機態窒素は,慣行区に比べて少なく推移した. 2)無加温育苗34日間における被覆尿素からの累積溶出率は2.8%であった. 3)被覆尿素区では,,本田施肥量を化成肥料区の基肥と追肥の合計窒素量の50〜60%に減肥しても茎数は多く推移した. 4)被覆尿素区における窒素吸収量は化成肥料区より多く推移し,成熟期における利用率は79%と高かった. 5)被覆尿素区における水稲根は下層まで深く伸長し,接触施肥による伸長抑制は認められなかった. 6)被覆尿素区では化学肥料区に比べて総籾数が多く,増収効果が高かった.以上のことから,育苗箱全量施肥法は不耕起植栽培にきわめて有効であることが認められた.
著者
山崎 慎一 木村 和彦 本吉(手嶋) 博美 武田 晃 南條 正巳
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.30-36, 2009-02-05
被引用文献数
3

筆者らは土壌中における各種元素の分布と挙動に関する研究は周期律表に沿ってなるべく多くの元素を対象に、理想的には全元素を対象に、組織的、系統的に行うべきであるとの立場で研究を実施してきている。したがって、ある特定の元素のみを取り上げて研究を進めることには一定の距離を置いてきていた。しかし、コーデックス委員会による食品中のCd(カドミウム)基準値が議論されたことが契機となって、目下日本国内においてはCdに関して数多くの調査研究が実施されている。それに関連し、土壌中におけるCd濃度に関しても種々議論されているが、中には不正確な情報すら流されている現状がある。さらには、我々のこれまでに提供してきたデータが誤って解釈されている例もみられることから、今回はすでに公表している1500点余りの各種土壌試料中の40〜60種類の元素濃度の情報の中からCdを中心により詳細に検討し、発表することにした。
著者
鬼頭 誠 吉田 重方
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1-8, 1993-02-05
被引用文献数
7

前報において植物性廃棄物と浄水場発生土を組み合わせることにより培養土が容易に製造できることを明らかにした.しかし材料とした浄水ケーキがリン酸固定を起こすために可給態リン酸含量がきわめて低く,かつ,交換性カルシウム含量も低い培養土となり,そのことが作物生育の制限因子として働くことを明らかにした.この点を改善し,より良好な培養土を製造することを目的として,本試験では過リン酸石灰および発泡ケイ酸カルシウム材を加えた培養土の製造を試みるとともに,その培養土製造過程における物質変動を調査した.なお,供試植物残さとしては前報と同じ草種(セイタカアワダチソウ,ヨモギ,ススキ,ダイズ,トウモロコシの茎葉)を用いたが,それ以外にモリシマアカシアのせん定枝も供試した.1)供試した植物材料の乾物分解,炭素消失および窒素消失はいずれも埋設1ヶ月間で急激に起こり,その分解,消失率はいずれもダイズ,トウモロコシ,セイタカアワダチソウにおいて高く,ススキ,モリシマアカシアにおいて低かった.また,乾物分解率と植物材料の成分との間には,全炭素含量との間に負の相関が認められた.2)供試植物材料の違いによって製造した培養土の硝酸態窒素含量は異なり,ダイズを植物材料としたものでは最も高く,ススキを材料としたものではきわめて低含量であった.また,ダイズ,トウモロコシを材料としたものでは培養土の堆積に伴い低下傾向を示し,ヨモギ,モリシマアカシアの材料としたものでは高まる傾向を示した.3)過リン酸石灰と発泡ケイ酸カルシウム材の添加により,Ca型リン酸含量と交換性カルシウムの含量の高い良好な培養土が製造できた.4)それら培養土で栽培したコマツナの生育は化学肥料を施肥した土壌に栽培したものに比べて良好な生育を示し,特に根部生育は高まった.したがって,植物の生育反応の点からみても良質な培養土が製造できたことがうかがわれた.以上の結果から,植物性廃棄物を主材料とした培養土の製造に際しては,材料とする植物性廃棄物の種類によって堆積時間を多少考慮することが必要であるが,果・葉菜類等の育苗用培養土として利用可能であるものと推察された.
著者
村上 圭一 中村 文子 後藤 逸男
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.453-457, 2004-08-05
被引用文献数
10

全国の根こぶ病発生地域では土壌中の可給態リン酸の過剰が進んでいたことから,土壌中のリン酸と根こぶ病発生との因果関係について検討した.根こぶ病の発病抑止土壌である黒ボク下層土に0〜50g kg^<-1>のリン酸を添加して,可給態リン酸が0.01〜3.57g kg^<-1>に及ぶ5段階のリン酸添加土壌を調整した.これらの土壌に0〜10^7 g^<-1>(8段階)の休眠胞子を加えた人工汚染土壌を作り,リン酸の増加に伴う土壌への休眠胞子吸着率,ハクサイの根毛感染率,ポット栽培によるチンゲンサイ根こぶ病の発病を調査した.その結果,土壌リン酸の増加に伴い,土壌への休眠胞子吸着率が低下するとともに,根毛感染率が上昇し,根こぶ病の発病度が高まった.以上の結果より,大量の陽電荷を有ずる黒ボク下層土は陰電荷を有する休眠胞子を吸着してその動きを抑制するため根こぶ病の発病を抑止する.しかし,その土壌にリン酸を施用すると,土壌コロイドの陽電荷が減少して休眠胞子の吸着率が低下するため休眠胞子が遊離し,アブラナ科野菜の根毛への感染確率が高まり根こぶ病の発病を助長する.すなわち,土壌へのリン酸過剰施用が根こぶ病の発病を助長することが明らかになった.
著者
水上 里美 武田 潔 赤田 辰治 藤田 隆
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.633-641, 2001-10-05
被引用文献数
2

水田土壌の糸状性酢酸利用メタン生成菌の存在形態を検討するとともに、水田土壌から糸状性酢酸利用メタン生成菌K-5菌株を分離し、菌学的特徴を明らかにした。また各地の水田土壌を採取し、糸状性酢酸利用メタン生成菌の分布について検討した。 1)水田土壌の糸状性酢酸利用メタン生成菌の菌数は湛水期、落水期ともに球状酢酸利用メタン生成菌より1桁少なかった。しかし酢酸培地で繰り返し培養を行い、糸状性酢酸利用メタン生成菌を選択的に集積させることができた。 2)水田土壌の糸状性酢酸利用メタン生成菌は土壌粒子と植物遺体に生息したが、湛水下の水田では植物遺体に多く生息していると思われる。糸状性酢酸利用メタン生成菌はフロックを形成せず、伸長した糸状性の細胞形態で生息した。 3)分離されたK-5菌株は短い糸状性細胞形態を特徴とする菌種であった。超薄切片の電子顕微鏡観察から、K-5菌株は細胞膜の外側に電子密度の濃い2層の鞘を持つことが明らかにされた。 4)K-5菌株の菌学的特徴は、メタン生成菌特有の緑青色の蛍光を示す短い糸状性細胞形態であること、コロニーを形成すること、酢酸を唯一の基質としメタンを生成することである。K-5菌株は好気的環境下ですぐに死滅しなかったが、乾燥に対しては耐性がなかった。 5)北海道から九州までの各地の水田土壌から糸状性酢酸利用メタン生成菌を分離することができた。水田土壌の糸状性酢酸利用メタン生成菌は土壌の理化学性の特徴や気温の差異にかかわらず、広く水田土壌に生息するメタン生成菌であることを示唆している。
著者
谷田沢 道彦 東野 正三
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.193-196, 1953-12-20
被引用文献数
1

In the preceeding paper, the authors have found the rapid incorporation of inorganic phosphate absorbed through lear epidermis into some organic combinations including acid soluble-barium soluble phosphorus compounds primarily. In the present paper, resting on the basis of fine separation of phosphorus compounds in the use of paper-chromatography, the discussion on the forms of transferring phosphate after the foliar absorption are made. Thus one of the leaves of shakshina (Brassica chinensis L.) grow in field, about 30cm high, was applied with ca 1.5ml. of 1/75 M potassium dihydrogen phosphate containing P-32 in the strengh of 5 micro curie/ml. on a fine day. After 4 hours of this application, the poetiole was cut, and the exudation from this cut end was used for paper-chromatography as it was recommended by R. S. BANDURSKI and B. AXELROD. The developed paper strip was examined for its phosphorus spots by spraying HANES-ISHERWOOD reagent and its radio-activity by means of Geiger-Muller counter as it was reported by R. M. TOMARELI and K. FLOREY. Obtained paper-chramatograms and radiograms are shown in Fig. 1 and 2. Compared with Rf value of each particular known phosphorus compounds that had been determined in the same condition as that employed in the experimental procedure, transferring chief phosphorus compounds which have been newly synthesized in leaves are estimated to be confined to a few other compounds than any of ortho-phosphoric acid, glucose-1-phosphate, and fructose-6-phosphate. Under the condition which have been made, the sum of radio ortho-phosphoric acid, glucose-1-phosphate, and fructose-6-phosphate in the exudate is concieved less than 10% of total radio phosphorus in the exudate. S.ARONOFF has shown that the primary products of phosphate assimilation by soybean roots is fructose-1,6-diphosphate together with some phosphorylated organic acids, and also in our experiment, inorganic phosphate absorbed through leaf-surface is illustrated to be easily assimilated in leaf tissue and converted to such products.
著者
川崎 晃 織田 久男 山田 宗孝
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.667-672, 2004-12-05
被引用文献数
5

カドミウム(Cd)の安定同位体(^<113>Cd濃縮金属,94.8%)をCdトレーサーとして利用する手法を確立するため,土耕ポット栽培のダイズ試験における最適トレーサー添加量を求めるとともに,Cdがダイズ子実へ移行しやすい生育時期について調べた.^<113>Cdの0.1M硝酸溶液(1,000mg Cd L^<-1>)を蒸留水で希釈し,ポット(1/5,000アール)あたりの^<113>Cdトレーサーの添加量が0.2mgもしくは1mgになるように注入した.収穫期のダイズ子実のトレーサー由来Cd濃度は,ポットあたり0.2mg添加時が0.01未満〜0.04mg kg^<-1>,ポットあたり1mg添加時が0.01〜0.10mg kg^<-1>となり,ほぼすべての処理区で^<113>Cdトレーサーが定量できた.また,トレーサー示加に伴う収量の低下や土壌pHの変化は認められなかった.すなわち,ポットあたり0.2mgの^<113>Cdトレーサーの添加により,ダイズの生育に影響を及ぼすことなく,Cdの吸収をトレースできることが明らかになった.ここで開発した^<113>Cd安定同位体を用いたトレーサー法は,従来のRIトレーサー法と異なり,RI管理及びRI半減期の制約を受けない利便性の高い試験法である.さらに,トレーサー出来のCdだけでなく,土壌、由来のCdも同時に定量できるという利点がある.この手法を用いて,生育時期の異なるクイズのポットに注入した^<113>Cdトレーサーの子実吸収量から,経根吸収されたCdがクイズの子実に移行しやすい時期は,粒肥大始め期より以前であることが示唆された.