著者
長倉 淳子 三浦 覚 齊藤 哲 田中 憲蔵 大橋 伸太 金指 努 大前 芳美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>きのこ原木栽培に用いる広葉樹について、原木利用部位の放射性セシウム濃度を当年枝のセシウム濃度から推定する方法の確立を目指している。本研究は、当年枝のセシウム濃度が同一個体内の採取位置によって異なるかどうかを明らかにすることを目的とした。原発事故後に萌芽更新したコナラ林3サイトの各3個体から8~11本の当年枝(主軸の梢端から下部に向けて5本、および主軸以外の萌芽枝)を採取し、放射性セシウムおよび安定同位体セシウムの濃度を測定した。当年枝の放射性セシウム濃度は、個体によっては採取位置によって2倍以上異なるものもあったが、梢端で高い、下部で高い、主軸で高い、といった採取位置による決まった傾向はみられなかった。放射性セシウム濃度の変動係数は枝間では0.22、個体間では0.29、サイト間では0.51であり、個体内変動よりもサイトによる違いが大きかった。コナラ当年枝の放射性セシウム濃度は枝間や個体間でばらつきはあるが、サイトの指標値として利用できる可能性が示された。</p>
著者
小向 愛 斎藤 秀之 渋谷 正人 小池 孝良
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

広葉樹の花成は花成ホルモンをコードする遺伝子(<i>FT</i>)が葉で発現することで誘導される。しかし開花年の不規則な広葉樹における<i>FT</i></i>遺伝子発現の年変動については、その発現制御が日長等の即時的な環境シグナルでは説明できず、過去の環境刺激がゲノムに記録され、遺伝子に対してエピジェネティックに発現制御していると考えられた。本報告では、ブナの<i>FT</i>遺伝子の塩基配列の特徴を調べ、DNAメチル化の潜在的な可能性を検討した。またDNAメチル化率を調べ、<i>FT</i>遺伝子のDNAメチル化を介したエピジェネティック制御の可能性を検討した。ブナの<i>FT</i>遺伝子のTATA配列はシトシン塩基を含まず、RNAポリメラーゼ結合におけるDNAメチル化の制御はないと考えられた。日長誘導型の転写因子(CO)の結合が推定されるcis配列は、連年開花型のポプラ、オレンジ、リンゴ、ブドウ、ユーカリに比べてブナでは数多くのシトシンを含んだ。よってブナの<i>FT</i>遺伝子は連年開花型の樹種に比べてDNAメチル化による発現制御の可能性が潜在的に大きいと考えられ、ブナの花成周期の不規性と関連が示唆された。発表ではDNAメチル化率についても報告する予定である。
著者
延廣 竜彦 佐々木 尚三
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>上川地方南部の南富良野町に位置する人工林流域において、グラップルとレーキブレードを組み合わせた林業用機械を用いた地がき処理を2015年7月に行った。地がきは筋状にササ類の根系と表層土壌を剥ぎ取った(地がき帯)。剥ぎ取った土壌は地がき筋間(残し帯)にまとめ置いた。このような地がき斜面上に土砂受け箱を設置し、2015年8月から土砂発生量の観測を行った。同時に、流域末端の簡易堰堤において流量・土砂濃度を観測し、土砂流出量を求めた。土砂発生量は地がき帯、残し帯ともに地がき後2~3年で森林土壌と同程度まで低下した。これは地がき後に植生が回復し、同時に土壌表面が落葉等で覆われることによって土壌の浸食速度が大きく低下したためと考えられた。2015年の地がき直後には流量増加時に土砂濃度が大きく上昇するケースが認められたが、渓床が大きく浸食された2016年の台風時を除けば流量の増加に対する土砂濃度のピーク値は低下傾向にあり、結果として土砂流出量も大きく低下した。以上より、地がき後の土砂発生量・土砂流出量の低下傾向は植生回復の程度に影響を受けると考えられた。</p>
著者
延廣 竜彦 佐々木 尚三
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>北海道内で最も植栽面積が大きいトドマツは主伐対象となる面積が今後拡大することが予想されており、増大する更新コストを低減することが求められている。本研究で対象とした車両系林業機械を用いて地がき作業を行う手法は更新初期コストを低減する面で有望であると考えられている一方、地がきを行うことによる表層土壌のかく乱やそれに伴う土砂移動、ならびに渓流を通じた下流域への土砂輸送などが懸念されている。しかしながら、このような大規模な地がき施工サイトにおける調査事例は少なく、地がきと土砂発生・土砂流出の関係については不明な点が多い。このため、北海道の上川南部地域のトドマツ人工林において、2015年にグラップルと特注のレーキブレードを組み合わせた林業用機械を用いて地がき作業を行い、地がき斜面からの土砂発生量および渓流からの土砂流出量について調査を行なった結果を報告する。</p>
著者
津山 孝人 中村 将太 乗冨 真理 Radka Vladkova
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>環境ストレスは光合成を阻害する。低温や乾燥により炭酸固定速度が低下すると光は過剰になり、葉緑体で活性酸素の生成を引き起こす。活性酸素は各種タンパク質および脂質を酸化し、光合成を不可逆的に阻害する。植物は光合成電子伝達反応を制御することで過剰光を安全に処理する。光合成電子伝達反応のうち、チラコイド膜における酸素還元反応は、その能力が被子植物よりも裸子植物の方が高い。酸素還元反応はフラボプロテインFlvによって触媒される。同タンパク質はらん藻から裸子植物まで保存されている。本研究ではまず、酸素還元反応の能力の評価法を確立するために、らん藻<i>Synechocystis</i> sp. PCC 6803のFlv1欠損株を作製した。酸素還元能は、暗適応後の試料に飽和光パルスを照射して誘導されるクロロフィル蛍光の強度の変化(蛍光減衰)により評価される。蛍光減衰は、野生株よりも欠損株の方が遅かった。これは、蛍光法により酸素還元能を正しく評価できることを示す証拠となる。一方、被子植物の酸素還元反応は小さいが、光化学系Ⅰ循環的電子伝達の能力は高い。裸子と被子、どちらの光合成制御が過剰光処理に有利かを議論する。</p>
著者
上村 佳奈
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>強風による森林風害の発生は、これまで経験/力学的モデルや統計解析によって、 被害発生の風速閾値(限界風速)の推定や要因の解明が行われてきた。しかし、強風時の被害がどのように始まり連鎖(拡大)していくのかという動的プロセスの分析が限られているため、被害推定の精度が向上しないという問題点が指摘されている。動的プロセスについては、通常数値計算などの膨大な計算処理が必要であるため、多様な林分の空間配置などを考慮した解析は少ない。本研究では、ゲーム理論やコンピュータサイエンス技術等を統合したAgent-based modelling手法に既存研究から得られた森林被害に関する理論および風況パラメタを組み込み、森林風害の発生と連鎖のシミュレーションを行った。その結果、林縁での耐風性が高く、林縁から林内への距離が長くなると耐風性は低下した。この傾向は、風洞実験や野外計測結果と類似していることから、 動的プロセスに着目した風害発生メカニズムの解析について本手法は有効であることが示唆された。また、風向に対し立木の配置を変えると、被害の発生場所や連鎖状態が異なることが確認された。</p>
著者
石塚 航 今 博計 黒丸 亮 津田 高明
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>2016年、5つもの台風が北海道に接近・上陸して甚大な被害をもたらした。北海道への台風上陸は9年ぶりの記録だが、3つの台風が上陸したのは気象庁の統計開始以来初の記録で、稀な気象イベントだったことがうかがえる。このうち大型の台風10号は、上陸こそしなかったものの8月末に道南地域を通過したため、この地域の森林に大規模な風倒害が発生した。トドマツ産地試験の1つも風倒害を受けたため、低頻度の攪乱への応答、とくに地域変異の有無を知る貴重な機会と捉え、実態を調べた。対象種は北海道の主要造林樹種トドマツで、道内全地域にまたがる53家系の苗を1980年に植栽した産地試験のうち、函館市内にある試験地にて現地調査を行った。過去の定期調査データも用いて解析し、以下の結果を得た;1) 風倒率は成長や生残密度と関係なく形状比と関係し、道北・道東産で風倒率が高いという地域変異もみられた。2) 幹折れ、根返りの割合に地域変異があり、道北と一部の道東産で根返りが多かった。3) 攪乱後の家系成績(成長×生残)は道西南地域産で高い傾向があった。これらは攪乱応答と地域適応性との密接な関連を示唆すると考えられた。</p>
著者
正木 隆 中岡 茂 大木 雅俊 青木 理佳 朝倉 嘉勇 五十嵐 徹也 星野 大介
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>巨大なクロマツが生育する神奈川県真鶴町の森林、通称「お林」で調査を行い、クロマツの成長と生存を予測するモデルを作成した。約50haのお林に面積400m<sup>2</sup>の円形プロットを約100m間隔で43箇所設置し、2015~2018年にプロット内の全個体の胸高周囲長を測定した。また、クロマツの樹高と枝下高を2017~2018年に測定した。Matsushitaら(2015)のモデルを基本に、クロマツの年直径成長量を応答変数とし、自身の直径と樹冠長率、プロット内の他個体BA、個体差を固定効果として定式化しパラメータを推定した結果、高精度の成長モデルが得られた(r=0.92)。クロマツの枯死確率については、2015~2016年の直径と直径成長量を固定効果に2017年(通常年)と2018年(稀な巨大台風が直撃)の生存・枯死を定式化し、パラメータを推定した。その結果、通常年の枯死率は直径成長量のみに左右されるが、巨大台風直撃年にはさらに直径の影響も加わり、巨大かつ低成長の個体が枯死しやすい傾向が見られた。以上から、直径、樹冠長率、周囲の広葉樹BAを計測することで成長量の推定が可能であり、それにより通常年および巨大台風が来襲した際の枯死リスクも事前に個体ごとに見積もることができる。</p>
著者
下山 泰史 丸 章彦 松永 孝治
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

【目的】マツ材線虫病に対して種々の防除手法が開発されているが,各手法はそれぞれ異なる特徴を持つ。ここでは、抵抗性マツと樹幹注入剤を併用した場合の防除効果を検討するため,クロマツ苗木を用いた試験を行った。【方法】クロマツ抵抗性品種4家系及び精英樹1家系の苗に、2012年3月に酒石酸モランテル(グリンガード・NEO(ゾエティス・ジャパン(株)))を3段階の濃度で地際部に注入した。同年7月にマツノザイセンチュウ(<i>Bursaphelenchus xylophilus</i>)のアイソレイトSc9,1万頭をシュートに接種した。一部の苗について,線虫接種前に樹体内のモランテル濃度を測定した。2012年12月に苗の発病状況を観察した。【結果】抵抗性家系は精英樹家系より枯死率が低く,これは注入したモランテル濃度が低い場合に顕著であった。酒石酸モランテルを注入した場合,注入濃度の増加に伴い樹体内のモランテル濃度は増加し,苗の枯死率は低下した。これらの結果は抵抗性マツと樹幹注入の併用が防除効果を高めることを示唆した。
著者
対馬 俊之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

環境に配慮した伐採をめざす保残伐施業では単木的もしくは群状に保残木を配置するが、そのことが作業効率の低下やコストのかかり増しにつながる可能性がある。保残方法の違いと木材生産性およびコストとの関係を検討するため、実証試験地で行われた伐出作業の作業能率調査を行った。伐採箇所は北海道有林空知管理区のトドマツ人工林であり、3回繰り返しの第1セット林分である。単木保残(小量、中量、大量)と群状保残、皆伐区の5実験区で、事業体作成の作業日報とビデオ撮影による時間分析によって生産性を把握した。第1セットでは2つの企業が実験区を分担し、両者の作業システムはチェーンソー伐倒、グラップル木寄せ、ハーベスタ造材、フォワーダ集材、グラップル巻立てと同様だが、木寄せ時の全木材の配置方法、1日あたり投入される労働量が異なっていた。ここでは生産性を主に報告する。
著者
渡井 純
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

静岡県島田市の素材生産現場において、ベース車両8tクラスの小型スイングヤーダ(日立ZAXIS70+南星IW22)による「伐倒同時集材方式」について功程調査を行い、その生産性を評価した。<br> 間伐方法は列状間伐で、集材方法は全木による下げ荷集材(平均幹材積:0.404 m<sup>3</sup>)とし、作業は2名で行った。<br> 「伐倒同時集材方式」における伐倒-集材の労働生産性は0.97m<sup>3</sup>/人・時となり高い生産性を得ることはできなかった。先行伐倒集材で行った他の施業地では2.07 m<sup>3</sup>/人・時の労働生産性が得られており、集材木の平均幹材積(0.614m<sup>3</sup>)などの条件は異なるが、この施業地の1/2以下の生産性であった。<br> 「伐倒同時集材方式」で下げ荷集材の場合、伐倒が上方伐倒となることから伐倒に時間を要したことと作業員の連携不足により、搬器の伐倒待ちの発生時間が多くなってしまった。また、材を引き出す際に集材木が残存木に引っかかるなど、不慣れによるタイムロス等での生産性低下が考えられ、「伐倒同時集材方式」を効率よく行うには、ある程度の経験が必要であると思われた。
著者
山田 容三 安樂 怜央
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>インドネシアのEfi Yuliati Yovi博士が開発した林業安全ゲームを基に、ボゴール農業大学とのJSPS二国間共同研究(2016〜2018年度)を通して、日本版の林業安全ゲーム・チェーンソー伐木作業編を作成した。林業安全ゲームは、5人のプレーヤーと1人のゲームマスターで進めるボードゲームであり、初心者向けの安全編と技術編、熟練者向け、経営者向けの4つのレベルで構成される。林業安全ゲームの学習効果を確かめるために、ゲーム前後に選択式の10問の小テストを行い、チェックリストにより質問カードの出現頻度と正答率を調べた。調査は、静岡県で熟練者向けを、愛媛県で初心者向けの技術編を試行した。小テストの得点は、熟練者向けと初心者向けともにゲーム後に2ポイント前後の向上が見られ、林業安全ゲームの効果が確認された。特に、ゲーム中に16〜18枚程度の質問カードが全て出ると、ゲーム後の小テストの得点が高くなることが確認され、5人のプレーヤーでプレーすることが効果的である。また、質問カードはゲーム中に順不同で現れ、質問の解答中にゲームマスターからのヒントやプレーヤー間の知識や経験の情報交換が促進され、学習効果を高めていると考察された。</p>
著者
池田 重人 志知 幸治 岡本 透
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>これまでに演者らが秋田周辺地域でおこなってきた花粉分析の結果から、天然秋田スギの衰退は中世の時代にはすでに始まっていた可能性が示された(第128回大会)。これらの中で、鳥海山北麓の桑ノ木台湿原で採取した堆積物試料を用いて、大型微粒炭(>250μm)の出現傾向から近傍で起きた火事の時代変化を明らかにし、花粉分析による植生変遷過程と合わせて考察した。大型微粒炭は、深度65cm(約1000年前)以深と表層ではほとんどみられず、深度65~30cmにおいてのみ多数検出された。大型微粒炭の増加と連動するようにシダ(単条溝型胞子)が増えた後イネ科が圧倒的な優勢を示し、やや遅れてカヤツリグサ科やマツ属が増加した。一方、スギは約2500年前以降優勢を保っていたが、大型微粒炭の増加とともに減少し、深度40~25cmでは10%台まで落ち込んだ。これらの一連の変化は、火入れや伐採などの人為的な活動の影響を反映したものと考えられた。</p>
著者
中田 康隆 速水 将人 蓮井 聡 佐藤 創
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>2018年9月6日, 北海道胆振東部地方を震源とする最大震度7の地震が発生し, 約3200箇所の稠密な林地崩壊が確認され, 森林被害面積は約4300 haに及んだ.現在, 崩壊跡地の林業復旧や森林の公益的機能の回復を目的とした植生の早期回復が求められている. 崩壊跡地の植生の早期回復を図るには, 植物の生育基盤となる表層土壌の現況や動態を把握し, 安定性を正確に評価する必要がある.本研究では厚真町の高丘地区と東和地区の崩壊跡地の斜面を対象に, RTK(Real-Time Kinematic)-UAV(Unmanned Aerial Vehicle)とSfM(Structure-from-Motion)多視点ステレオ写真測量を用いて, 測位精度の実証試験と地形解析を行った. 実証試験の結果, 各検証点と数値表層モデルの平均位置精度は, 水平・垂直方向で0.060 m~0.064 mであることがわかった.2019年4月から10月までの地形変化の解析結果では, 高丘地区は東和地区よりも斜面表層の変化量が多かった. これは, 高丘地区の方が斜面表層を構成する土砂や植生が多く残っていることが要因であると考えられる. また, 崩壊斜面表層の変化の特徴としては, 雨裂に近いほど侵食量が多く, さらに崩壊地辺縁に近いほど侵食量が多いことが示された.</p>
著者
鶴田 燃海 向井 譲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>染井吉野(ソメイヨシノ)は、日本で最も親しまれているサクラ(バラ科サクラ属)の園芸品種で、エドヒガンとオオシマザクラとの雑種であるといわれている。本研究は連鎖地図を利用することで、ゲノム全体にわたりかつ染色体ごとに、染井吉野の由来を推定した。染井吉野の交雑家系を用いた連鎖解析により、SSRマーカー27座の対立遺伝子が、どちらの染色体に座乗していたかを決定した。これと同時に、対立遺伝子がエドヒガン、オオシマザクラそれぞれ3集団にどれほど保持されているかを調べた。この対立遺伝子頻度から、54個の染井吉野の対立遺伝子のうち、44.4%がエドヒガン由来、33.3%がオオシマザクラ由来と推定された。残りの22.2%は、どちらの種でも頻繁に見られるまたは両種ともに稀な対立遺伝子のため、由来は不明であった。染色体ごとにみると、複数の染色体でエドヒガンとオオシマザクラに由来する領域とが混在していた。この結果は、染井吉野の染色体が乗り換えを経て形成されたことを意味し、染井吉野がエドヒガンとオオシマザクラ間の一回の種間交雑による雑種ではなく、より複雑な交雑に由来することが示唆された。</p>
著者
井出 雄二
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>昭和39年に東京営林局から発行された、「伊豆林政史」は、後北条時代から明治時代までの天城山の森林管理について、資料に基づき幅広く紹介したもので、森林史を考究する上で重要な文献である。この論考の基礎とされた資料が資料編として保存されている。これらは、昭和34年から二か年、弓削俊昭が公務として収集した伊豆各地の旧家所蔵の古文書の書き写しなど約1,200点からなり、これまで天城山の森林管理や利用に関する論文に引用されてきた。収集から60年が経ち、古文書原本へのアクセスが困難になる中、資料編の文書群の価値はますます高まっている。しかし、具体的記述については、資料編を直接参照する以外にその内容を知ることができない。ところが、資料編には、ページが振られていないうえ、目次、索引も存在せず、必要な資料を探し出すことは大変困難である。そこで、筆者は、資料編の活用を期し、その画像ファイル(PDF)を作成するとともに、詳細な目録を調製した。なお、資料編は、その学術的価値から、日本森林学会の「林業遺産」(2016年度)に選定されており、令和元年9月現在、関東森林管理局伊豆森林管理署に保管されている。</p>
著者
小野 賢二 野口 宏典
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>東日本大震災では、津波により青森~千葉県にわたる太平洋沿岸の海岸防災林で、林帯地盤の損壊・沈下・流出、樹木の倒伏・流失など壊滅的被害が発生した。特に、地盤高が低く地下水位が高い箇所では根張りが十分でなく、津波により樹木が根返りして流木化した。林野庁が諮問した「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討委員会」は「今後の海岸防災林の再生について」とする提言を取り纏めた。現在は、この方針を踏まえ、海岸防災林の復旧・再生が取り組まれている。本企画シンポジウムでは、海岸防災林の復旧・再生現場から、現在の状況を紹介し、顕在化してきた課題を概説して、樹木の生育基盤として用意された造成土に関わる問題点を整理する。併せて、1990年代から低湿地対策として盛土工を伴う海岸防災林を造成してきた千葉県の事例や、埋立地に公園造成を進めてきた東京都海の森公園予定地(2020年東京オリンピック会場)の事例を紹介する。前述の提言には「広葉樹の植栽等についても考慮することが望ましい」とも言及されている。ここでは四国海岸林に成林する広葉樹林とクロマツ林の状況を紹介し、海岸林での広葉樹の活用のあり方についても議論する。</p>