著者
前島 治樹 藤平 啓 御田 成顕 増田 美砂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

本報告では、インドネシアのグヌンパルン国立公園を事例として、森林減少に直接的な影響を与える土地利用を特定し、国立公園管理の課題を明らかにする。まず、USGSから取得した1997年、2001年、2005年、2009年のLandsat TM/ ETM+および2013年のLandsat 8の衛星画像を用い、教師付き最尤法による土地被覆分類図を作成した。その結果、解析対象地域内の国立公園面積4,916 haのうち、森林消失面積は、2001~2005年に60 ha/年と最も大きく、2009~2013年は31 ha/年へと減速していた。国立公園外の3,175 haにおける森林消失に関しては、1997~2001年の19 ha/年が、2005~2009年に42 ha/へと増加したが、2009~2013年は4 ha/年と激減した。国立公園内外の1997年~2013年の土地被覆変化モデルを比較すると、森林がゴム林あるいは農地に変化した面積の比率は公園内の方が5%高かった。全体的な森林破壊の減速には、国立公園事務所による取り締まり強化の影響があると考えられるが、森林の農地転換にみる公園内外の相違は、公園外における適地の枯渇を示唆している。
著者
紙谷 智彦 青木 美和子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

半世紀前まで薪炭林として利用されていた里山に分布する民有のブナ林は、ほとんどが未利用のままである。地域によっては、すでに用材としての利用が可能な大きさに成長しているが、ブナ材は人工乾燥が不十分な場合に歪みが激しいことに加え、クワカミキリによる穿孔や変色(偽心材)材を多く含む。そのため、国内に流通しているブナ製品のほとんどに欧州産のホワイトビーチ(ヨーロッパブナ)が使われている。本研究は、里山のブナに含まれる穿孔や変色を自然がつくり出した造形ととらえ、毎木調査で歩留りを意識した選木を行い、製材後の板材の材質を適確に記録することで、乾燥後の板材製品を効果的に販売する方法を検討した。新潟県魚沼市で試験伐採した15本のブナ丸太から乾燥挽板となるまでの材積歩留りは、通直性が乏しい広葉樹においては十分な値であった。さらに、ブナ丸太からとれる総板面積と材質別の枚数予測式を求め、厚さと板幅を指定することで丸太材積からおおよその挽板枚数が算出できた。この式を用いることで、国内産ブナの製材品の量と質的な内訳の予測が可能となり、ブナの製材品を扱う川中の業者には、目安のひとつになるだろう。
著者
横山 泰之 各務 翔太 小山 裕美 白木 克繁 内山 佳美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

本研究では森林の水源涵養機能について重要な要素となる樹冠遮断損失に着目する。樹冠遮断率は立木密度と共に大きくなることが知られており、立木密度の高い荒廃人工林の遮断損失量は水源涵養機能の低下に繋がると考えられる。本研究の調査地である貝沢試験地では2012年に本数割合17%の間伐整備を行っている。流域内、15m×15m内にスギが11本存在するAプロットと28本存在するBプロットの2か所を設定し2015年9月~12月まで林内雨量及び樹幹流下量の観測を行った。林内雨量はA・Bプロット共に貯留タンクを10個ずつ、0.5mm転倒枡型雨量計を1つずつ設置した。樹幹流下量は貯留式・水道メーター・自動記録式流量計の3方式でAは全木・Bは11本で測定を行い、得られたデータから樹冠遮断率を算出した。この結果樹冠遮断率はAプロット:14.3%、Bプロット:17.4%であった。立木密度と遮断率の関係を森林整備前後の林班ごとの立木密度に適用したところ、樹冠遮断量の森林整備による減少は年間10mm程度と推定された。これは対照流域法により求められた森林整備による流出水量増加の1割にも満たず、今後蒸散量変化についても分析が必要である。
著者
山田 明義
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

菌根性食用きのこが地域再生に貢献できる前提として,山林を活用した栽培技術の開発が挙げられよう.腐生性きのこの菌床栽培技術をそのまま応用しただけでは,必ずしも地域再生には結びつかない.マツタケで言うならば,経験的なマツタケ山の施業を元にしつつ,施業内容の科学的な再検証と,新たな生物工学的技術の導入が考えられる.また,野生食用きのこの資源価値を吟味することも大いに意義があろう.戦後,菌根性きのこを含む野生きのこの収穫や生産は,栽培きのこの量産化に伴ってその価値が低下した.しかし,食文化の成熟とともに,菌根性きのこにしかない風味や食感に対するニーズが,今後大きくなると予想される.また,欧米のきのこという見られ方の強いトリュフ,ポルチーニ,シャントレルも,実は国内の山林に自生する.このため,まずは,資源となる菌根性きのこが地域にはどのくらいあるのか明らかにし,その活用法や活用先について知恵を絞る手が考えられる.同時に,地域の山林でどの菌根性きのこをどのくらい収穫したいのかといった青写真をかざしながら,菌根苗の生産と植林や,菌床埋設によるきのこ山の造成などの技術面を詰めていく手が考えられる.
著者
鹿島 潤 都築 伸行 鹿又 秀聡 興梠 克久
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

チェーンソー用防護服を使用している300超名の林業労働者に対してアンケート調査を行った。その結果、防護服の日常管理が必ずしも正しい方法行われていない現状が明らかになった。メーカーからの使用上の注意事項への認識が十分でなく、誤った使用、管理が行われているため防護性の低下している防護服を使っている作業者が多い可能性が示された。特に洗濯方法を誤っている場合や、破損を自分で修理している場合にその可能性が高い。防護服が破損する理由は様々であるが、チェーンソーで切った、汚れがひどくなった、破れたといった理由が多い。作業者の身体に合っていないサイズの防護服を使用しているために破損している場合も少なからずあると考えられる。防護服の更新期間は約2年と推測されたが、正しい使い方とメンテナンスができれば更新期間の延長が可能なばかりか、更新経費の抑制も可能と考えられる。
著者
関 剛
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

トドマツを含むモミ属樹種では、種子生産の豊凶は雌花序生産の年次間変動と深く関わっている。北海道においてトドマツは天然林の構成樹種であり、主要な造林樹種でもあることから、雌花序の年次間変動の予測方法は天然林管理、種子採取に関して重要な情報である。本研究では、トドマツ林冠木の樹冠上部の枝に残存する球果・発達中止した雌花および雌花芽の中軸を確認して雌花序の過去の年次間変動を推定し、線型混合モデルによって豊作に有効な要因を選択した。説明変数として、花芽形成年、その前年の気温、および両年の気温差(花芽形成年の気温から前年の気温を引いた値)を用いた。雌花序の調査は、北海道・後志地域の中山峠付近で、トドマツ林冠木10個体の主幹から分枝して3-5年目に相当する枝の主軸を対象とした。調査対象の13年間のうち、雌花序の豊作は3回確認され、対象個体のほとんどによる開花がこの他に2回確認された。雌花序生産の豊作のきっかけとしては、6月における花芽形成当年と前年の気温差の正の効果が最も有効な要因として検出された。雌花序生産の年次間変動予測において、連続する2年間の温度条件を調べることの重要性が示唆された。
著者
斎藤 馨 中村 和彦 渡辺 隆一 藤原 章雄 岩岡 正博 中山 雅哉 大辻 永 小林 博樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

「インターネット森林観察サイト」は、森林の現在の様子、過去の様子をインターネットから提供するサイトで、誰もが、遠隔の森林情報に容易に接しながら、森林の季節や経年変化に気づき、興味を持って森林の観察ができ、しかも観察継続がしやすくなるサイトを目的に開発した。対象の森林は遠隔の天然林で、 かつ長期映像記録のある東京大学秩父演習林(埼玉県奥秩父:過去15 年間記録)と信州大学志賀 自然教育園(長野県志賀高原:過去20 年間記録)とした。森林の様子を映像と音によりリアルタ イム(ライブ)でインターネット上に配信し、同時に配信データを録画・録音・公開し、配信後 にも観察できる森林観察サイトを開発し、継続的な運用試験を可能にした。例えば、フェノロジーに着目すると過去の映像と同じショットの画像が毎日配信されることで、日々や季節の変化を見ることが出来、ふと気づいたときに数年から十数年を遡って確認することが出来る。しかもインターネット上で共有されているため、SNSとの親和性も高いことを確認した。
著者
大地 純平
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

ニホンジカの捕獲法は様々な方法が考案されており、それぞれに一長一短がある。本研究では、①誰でも容易に設置・運用が可能な事、②資材の確保が容易な事、③効率的な捕獲が可能な事の三点に注目し、「市販資材を用いた簡易囲い罠によるニホンジカ誘引捕獲」について研究を行った。囲い罠資材はホームセンターや建築資材店等で購入可能な単管パイプ、落下防止ネットなどを用いて、10万円以下の資金で構築できるように設計した。また、オプションとして150m程度離れた場所から監視、ゲート閉鎖を行うことのできる遠隔監視装置を用意した。<br> 囲い罠を用いた誘引・捕獲試験は山梨県南アルプス市高尾の牧場採草地を利用して実施した。ニホンジカ誘引試験では、毎日~週二回(火曜日、金曜日)囲い罠内外にアルファルファを給餌し、採食の様子を自動撮影カメラで記録した。捕獲については、誘引個体数、馴致の様子を確認して適宜実施した。試験結果から、市販資材を用いた簡易囲い罠であっても、ニホンジカ捕獲に耐える十分な性能を確保できること、週二回程度の給餌であっても十分な誘引効果がある事を確認することが出来た。
著者
平野 和隆 梶山 雄太 高橋 俊守 山本 美穂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

栃木・茨城県境八溝地域の山間集落、栃木県那須烏山市大木須地区において木造古民家である長屋門が、農家のどのような土地利用との関連で存在し残されてきたのかを明らかにし、近世から近代への村落構造・農民層の変化を考察することを目的とする。大木須地区、那須烏山市、那珂川流域についての文献史料収集・整理、大木須地区の長屋門所有者13戸のうち11戸に対して、長屋門及び家屋の形状・木材使用状況、建築時期、土地利用、戦後経営史、文書の有無などについて聞き取り調査を行った。八溝地域で盛んであった葉煙草作の経済的優位性が長屋門を構える経済的な余裕を生んだこと、集落内の各戸に十分な林野面積が配分されており自家用材の備蓄林として大きな役割を果たしていたと共に葉煙草作の堆肥にもなっていたこと、大木須地区の立地条件上、木材輸送の拠点であった那珂川まで大木須地区から材を搬出する際の輸送上の困難さがありその搬出の必要性も見られず木材の集落内での使用に傾注できたこと、地域内で高い木造建築技術を有する大工が存在し継承されてきたこと等により、長屋門がこの地区で存在し残されてきたことなどがその理由として挙げられる。
著者
山口 亮 鈴木 拓馬 山田 晋也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

近年、気温の高い日が多く、特に夏季の最高気温が30℃を超える日が増加している。このため、原木シイタケ栽培の夏季における休養中のほだ木への影響が懸念される。そこで、自然条件よりも高い温度でほだ木を休養させ、子実体発生への影響を検討した。 シイタケ中高温性品種2種を接種したほだ木を用いて、浸水、子実体採取、休養の順番で複数回繰り返し、発生した子実体の生重量及び個数をほだ木ごとに測定した。発生は2014年5月から2015年12月にかけて8及び12回行った。休養は通常の栽培で用いられる遮光ネット下及び加温した遮光温室下(以下、遮光区、加温区)で行った。加温区のほだ木内部温度は、遮光区よりも平均で2から3℃高い状態となった。 ほだ木一代の子実体発生量は、2品種ともに試験区間で差はみられなかった。しかし、発生回ごとの子実体発生量は試験区間で差がみられる場合があり、夏季に限ると加温区における発生量は減少し、浸水から収穫までの日数が増加し、高温下での休養の影響が現れた。その後の発生回では、加温区の発生量が遮光区を上回ったことから、ほだ木への影響は長期に及ばないと思われる
著者
安宅 未央子 小南 裕志 吉村 謙一 深山 貴文 谷 誠
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

日本の森林に多くみられる斜面林では、林床面に供給される有機物(主に落葉)の不均質な分布によって、落葉分解呼吸量は空間的に変異する。さらに、温帯林においては、落葉層含水比のダイナミックな変動に従って、落葉分解呼吸速度は時間変動する。本研究は、複雑地形が特徴的な山城試験地(京都府)において3つのスケール(①プロット・②トランセクトライン・③流域スケール)を対象に、落葉量の空間的・時間的な変動が落葉分解呼吸速度・量に与える影響を定量化した。 まず、①では、320cm<sup>2</sup>区画での落葉の含水比と分解呼吸速度の連続測定によって、落葉量がこれらの変動特性に与える影響を評価した。次に、②では、1斜面37地点(1m毎)で毎月測定された落葉量とそれを基に推定した落葉分解呼吸量の空間分布と季節変動を評価した。さらに、③複雑地形の試験地流域全体へと拡張し、流域全体(1.7ha)での落葉堆積量の観測を行うことによって、落葉分解呼吸量の代表値を推定した。以上より、落葉分解呼吸は、落葉の量とその含水比の不均質な分布を通じて、土壌呼吸の時間的・空間的な変動の重要な制御因子になることを明らかにした。
著者
河上 智也 小林 高嶺 保原 達 春日 純子 松本 真悟 阿江 教治
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

近年の研究では、土壌有機物はリグニン単体と比べて滞留時間が長い事が示されており、鉱物とのキレート結合による化学的吸着が土壌有機物を強く隔離していると考えられている。加えて、土壌有機物の分解過程において、微生物由来のアミノ酸などが増加する事から、新たに物質が生成されている事が示唆されている。 そこで我々は、分解過程で微生物により生成された物質が、鉱物の吸着により安定化し、さらに吸着の度合いによってその蓄積量が左右されると考えた。これを検証するため、吸着度合いが異なる土壌について、本来微生物に速やかに消費されると考えられるグルコースを与えた培養実験を120日間行い、土壌の吸着度合いと炭素蓄積量の関係について調べた。 その結果、グルコース濃度は短期間で急激に減少し、最終的には検出されなくなった。しかし、全炭素量をみると、添加したグルコースに対して多いものでは1/3以上の炭素が残っていた。更に、残った炭素量は吸着度合いの大きい土壌ほど高い値を示した。これらの結果から、微生物によりグルコースは別の物質に変化し、鉱物の吸着により安定化、さらに吸着の度合いによって炭素蓄積量は左右されたと考えられる。
著者
岡本 透 伊藤 優子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

2014年9月27日に長野県と岐阜県境に位置する御嶽山山頂の西〜南西斜面の地獄谷谷頭部で水蒸気噴火が発生した。その後、噴火活動は低下したものの、噴煙の発生は現在も継続している。降水および渓流水の水質に対する御嶽山の噴火の影響を把握するため、降水を週一回、渓流水を月一回程度の頻度で採水し、水質のモニタリングを行っている。火口の南東に位置する降水採水地点では、冬の季節風が強まると火山ガスの影響と見られるpHの低下、塩化物・硫酸イオン濃度の上昇が生じた。噴火と同時に噴出した火口噴出型泥流に起因する土石流が発生した長野県王滝村濁沢川では、土石流の発生直後から渓流水水質に著しいpHの低下とECの上昇が生じた。その後、積雪期にはpHが上昇し、ECが低下して安定したが、融雪期以降は増水時にpHが低下した。一方、火山灰降灰域である火口の東側では、2015年の梅雨期以降増水時に著しくpHが低下する渓流が認められるようになった。これらのことは、御嶽山周辺の流域における火山噴出物の渓流への流入は、積雪に覆われている状況では抑制され、積雪に覆われていない状況では降雨によって促進されることを示していると考えられる。
著者
飯島 勇人 長池 卓男
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

近年、ニホンジカが個体数を増加させている。それに伴い、ニホンジカによる植生の摂食圧が高まり、植栽木にも深刻な被害が出ている。効率的にニホンジカによる摂食を防止するためには、ニホンジカによる摂食リスクを定量的に評価し、優先度を付けた対策を実施する必要がある。本研究では、広葉樹植栽地を対象とし、ニホンジカ密度、防除方法(防鹿柵とそれ以外)、植栽後経過年数が植栽木の生残に与える影響について検討した。山梨県内の過去6年以内に植栽された広葉樹造林地を対象に、各調査地で100個体の植栽木の生残、樹高を調査した。また、山梨県内で収集されているニホンジカ密度指標に一般化状態空間モデルを適用し、植栽地周辺のニホンジカ密度を推定した。植栽木の生残は、推定したニホンジカ密度が高く、防鹿柵以外の防除方法であり、植栽後年数が経過しているほど低かった。防鹿柵以外の防除方法で平均的な植栽年が経過している場合、ニホンジカ密度が11.2頭/km2での植栽木の生残率は50%と推定され、21.7頭/km2での植栽木の生残率は10%と推定された。今後は、周辺環境や植栽樹種が植栽木の生残に与える影響を明らかにする必要がある。
著者
内山 憲太郎 加藤 珠理 上野 真義 鈴木 節子 須貝 杏子 松本 麻子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

高速シークエンサーやSNPアレイの登場により、ゲノム情報の乏しい生物種においてもゲノムワイドな遺伝解析が比較的容易に行えるようになってきた。しかし、多検体に対して、数千~数万の遺伝子座のタイピングを行うのは未だコストがかかる。その一つの解決策として、制限酵素断片配列の網羅的解析がある(RADseq:Restriction-site Associated DNA sequencing)。本報告では、頻度の異なる2種類の制限酵素組み合わせを用いることで、ゲノムサイズの小さな種から大きな種まで、比較的自由度高くデータ量と解析遺伝子座数を調節できるddRAD(Double Digest RAD)の手法を日本産の14樹種に対して適用した結果を報告する。解析に用いた樹種のゲノムサイズは0.3~19.4Gbの範囲である。12種類の制限酵素の組み合わせを試した結果、7種類の組み合わせにおいて比較的良好なデータが得られた。いずれの樹種においても、数千~数万座の1塩基多型が検出された。一方で、特にゲノムサイズの大きな樹種においては、制限酵素の選択がデータ量に大きな影響を及ぼすことがわかった。
著者
伊藤 広記 大澤 直哉
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

オオゴキブリ(Panesthia angustipennis spadica)は大型の食材性ゴキブリで、本州北部から九州まで広く分布し、針葉樹及び広葉樹の朽木に穿孔することが知られている(朝比奈 1991)。しかし、野外における本種の生態に関しては不明な点が多く、生息環境を詳しく調べた例はほとんどない。特に生息場所兼食物である朽木の性質は明らかにされていない。演者らは、オオゴキブリが利用する朽木の性質を明らかにするため、京都市左京区の吉田山を調査地とし、2011年5月から2012年12月、林床の朽木(N=65)について、オオゴキブリ生息の有無、直径と長さ、樹種(針葉樹/広葉樹)、木材腐朽菌の種類(白色/褐色)、腐朽度を記録した。オオゴキブリが生息していた割合は、褐色腐朽が見られた朽木が白色腐朽が見られたものに比べ有意に高く、直径が大きい朽木が小さいものに比べ有意に高いことが示された。しかし、朽木の樹種、木材腐朽菌、腐朽度について、いずれの区分に属する朽木にもオオゴキブリの生息が確認され、本種が利用する朽木の種類や腐朽段階はかなり幅広いものと推測された。