著者
根田 遼太 井上 純大 中村 健太郎 堀 隆博 渡辺 晋二
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

2011年3月に発生した東日本大震災の津波被害を受けた東松島市沿岸部(宅地、畑地等)を対象に、被害後3年半経過した植生及び土壌状況(化学性、物理性)の調査を行ったので報告する。東松島市沿岸部8箇所において周辺域の植生を調査し、長谷川式土壌貫入計を用いた土壌硬度の測定及び0-10cm、10-20cm、20-30cmの深さごとの土壌化学性(pH、電気伝導度、C/N比、土壌塩類)を測定した。<br> 調査地の植生は、木本種の出現はほぼニセアカシアのみであり、草本種ではセイタカアワダチソウなどの外来種が優占した。ニセアカシアの樹齢は3年であったため、津波被害直後に成立した可能性が高い。土壌硬度は植物生育に概ね良好な値を示したが、化学性は一部で土壌塩類、pH、C/N比などが植物生育にとって異常値を示した。津波被害を受けた沿岸部は3年半経過した現在でも海水の塩の影響が残っていると見られる場所が存在し、土壌改良および適切な植生誘導がなければ、旺盛な繁殖力と塩類堆積土壌への適応性の高さによりニセアカシアの優占する景観となる可能性が高いと考えられた。沿岸部の正確な植生動態の予測には、今後の詳細かつ広域な調査が必要である。
著者
徳岡 良則 早川 宗志 木村 健一郎 高嶋 賢二 藤田 儲三 橋越 清一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

足摺宇和海国立公園内の愛媛県愛南町鹿島にはアオギリの樹林が約6 haあり、貴重な群落としてその重要性が指摘されてきた。アオギリは豊後水道沿岸域に点在するが、遷移系列上の位置づけや過去の資源利用に関する知見は限られている。対象地域におけるアオギリの分布を調査した結果、本種は撹乱地に早期に分布を拡大する先駆樹種的性質が示された。地域住民の証言では第二次大戦前後には主にアオギリの繊維から綱を作り農具や漁具等の材料とし、一部の個体は山地斜面、耕地境界、人家裏に植栽されていた。アオギリにはジョウドノキ、ジョウドギ、アオギ、カタナギ(愛媛県佐田岬)、ヘラ(愛媛県由良半島、大分県津久見)、イサキ(高知県大月町、大分県蒲江、宮崎県北浦)の地域呼称があった。漁村でのアオギリの採取・利用法や個体管理に関する証言、豊後水道を挟んだ大分県と愛媛県や高知県に共通したアオギリの地域呼称が存在することは、沿岸集落に現存するアオギリの一部は、海路を通じた植物利用文化の伝播に由来する可能性を示唆している。資源利用の役割を失ったアオギリは、現在点在する成木を種子源として、周囲の陽地へ今後も定着していくと予想される。
著者
土井 裕介 尾形 信行
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018-05-28

<p> 近年、局地的な豪雨に伴う土砂災害とともに、山地渓流域から流木等が流出する流木災害が問題となっている。渓流内には、様々な腐朽段階の倒木が存在しており、直径や長さ等の形態的な特徴とともに腐朽段階が倒木の挙動に影響することが指摘されている。そのため、山地渓流域における腐朽段階ごとの倒木の蓄積量や、それと集中豪雨前後における挙動との関係を把握しておくことが、今後の対策立案のために重要であると考えられる。そこで、本研究では、倒木の腐朽段階等の形態的特徴と集中豪雨前後の倒木の移動等の状況を調査した。大阪府の北部、中部、南河内、泉州の各地域の4渓流を調査地とし、2017年2月に各渓流における直径10cm以上の倒木の長さ、直径、位置、樹種、腐朽段階、渓流への移入状況、流向となす角を記録し、2017年10月の台風第21号、第22号通過後に再度調査を行った。 その結果、倒木の長さが短いほど集中豪雨後に大きく移動する傾向が見られた。発表では、倒木のその他の形態的特徴と倒木の移動に関する解析結果を示し、山地渓流域における倒木の挙動について議論したい。</p>
著者
若原 妙子 石川 芳治 服部 恭也 森山 希美 臼井 里佳 岩﨑 紀子 船木 健
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>降雨量は自然環境を評価するための基本データであり、水資源量の把握や土砂災害予測の指標として欠かせない。地上で直接降雨を観測する雨量計は、無風で上空が開けた平地に設置することが理想とされる。しかし実際の雨量観測値には、地形や風、雨量計の受雨面積など様々な影響が加味されている。本研究では東京都大島町(伊豆大島)の草地斜面に通常の転倒マス型雨量計、受雨面積が転倒マス型雨量計の約40倍である雨量検定装置および風向風速計を設置し、降雨、風および受雨面積が降雨捕捉に与える影響を調査した。その結果、降雨イベント毎の雨量は、雨量検定装置のほうが雨量計より約6-8割多かった。降雨量15-80mmの中程度の降雨イベントでは、風速が強まると雨量計の降雨捕捉率は低下した。平均風速5m以上では、雨量計の降雨捕捉率は約5割まで低下した。また、大きな降雨イベントで雨量捕捉率は低下した。強雨・強風下で計測された雨量には捕捉損失が多く含まれると考えた。降雨と風速は関係するため、今後は短い時間分解能で捕捉率を解析するとともに、斜面向きと風向の影響を解析する。</p>
著者
八代田 千鶴 森元 萌弥 中須 真史 岡本 宏之 鈴木 正嗣
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

森林におけるシカによる被害防止のためには、捕獲による個体数管理も重要である。そこで本研究では、植栽地での捕獲実施によるシカの出没状況への影響を検討した。三重県多気郡大台町内のパッチディフェンスを設置した広葉樹植栽地(3.2ha)において調査を実施した。2012年度(以下、12年)および2013年度(以下、13年)の2年間実施し、両年とも調査期間は11月~4月とした。植栽地内に設置した自動撮影カメラを用いてシカの出没状況を記録し、12月および2月に2週間ずつ給餌を行った。捕獲は12年のみ実施し、給餌期間中に誘引狙撃法により3回実施した。また、植栽地内および周辺の林内に固定コドラートを設置し、1カ月あたりの平均糞粒数(個/m<sup>2</sup>)を測定した。シカの出没頻度は、給餌期間中に増加したことから、給餌によりシカの出没を誘導できることが確認できた。12年の捕獲では、合計8頭のシカを捕獲した。実施前の平均糞粒数は、林内では0.5個以下であったが、植栽地内では約7.5個と多かった。実施後における植栽地内の平均糞粒数は実施前の半分に減少し13年も同水準であったことから、捕獲により植栽地内へのシカの出没頻度を減少させる一定の効果があると考えられた。
著者
八代田 千鶴 小泉 透
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.128, 2017

<p>森林におけるシカによる被害は、林業への直接的な被害だけでなく森林生態系にも深刻な影響を及ぼしている。被害防止のために、個体数管理を目的とした様々な捕獲技術が開発されているが、これらの技術は給餌による誘引を利用したものが多い。そこで本研究では、給餌による誘引効果と下層植生との関連について検討した。静岡県伊豆半島中央部に位置する伊豆森林管理署管轄の国有林内において調査を行った。調査時期は、夏季(2014年9月)、秋季(2014年10-11月)、冬季(2015年1-2月)、春季(2015年5月)とした。調査開始前に、植生調査(階層毎の植被率)、植物現存量調査(下層植物の刈取)を行い、その後1カ月間誘引調査(給餌場へのシカ出没状況)を行った。草本層の植被率は、広葉樹林で低く人工林で高かった。同様に、植物現存量も人工林で多い傾向にあったが、シカの不嗜好性植物が優占していた。秋季から冬季にかけて全ての調査区で完食されており、不嗜好性植物の現存量は誘引効果に影響しないと考えられた。夏季および春季は調査区によって傾向が異なったことから、この時期は現存量だけでなく植物種構成など他の要因の影響も大きいと考えられた。</p>
著者
國嶋 俊輔 鳥丸 猛 大宮 泰徳 赤田 辰治
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

白神山地には世界最大級のブナ林が分布しており、世界的にも希少な森林生態系が形成されているが、地球温暖化により現存のブナ林存続が危惧されている。本研究はブナの持つ環境適応能力を調べることにより、白神山地の環境保全に役立てることを目的としている。産地の異なるブナ実生の乾燥耐性を比較解析するため、青森県の白神山地、岩木山、鰺ヶ沢、岩手県の安比高原、山形県の戸沢村、鳥取県の大山など、合計7か所の異なる産地由来のブナ実生全90個体をコンテナ毎に9個体ずつ植え、対照区44個体、乾燥区46個体に分けて、樹高と幹直径の成長量と葉面積を比較解析した。その結果、乾燥区においては対照区に比べて肥大成長が遅延し、葉面積が減少する傾向が見られたが、個体数が限られていた為にどちらも有意な差としては検出されなかった。一方、乾燥ストレスにより強い発現誘導を示す<i>FcMYB1603</i>の機能解析を行うため、シロイヌナズナに遺伝子導入して恒常的に発現させたところ、長期の乾燥に対する強い抵抗性を示した。このシロイヌナズナ形質転換体を用いたマイクロアレイ解析によって、転写因子FcMYB1603の標的遺伝子を同定するための網羅的な探索を行っている。
著者
田中 延亮 南光 一樹 加藤 弘亮 平田 晶子 恩田 裕一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

林地における豪雨時の表面流発生プロセスを理解する上で,豪雨時の林内雨量の空間分布の把握は重要であるが,既往研究では,その点について十分に調べられていない.我々は,愛知県内のヒノキ人工林で2010年7月に発生した豪雨イベントを対象にして,同林内17地点において30分間隔で観測された林内雨量の空間分布を調べた.具体的には,上記イベント中の豪雨前(最大30分間降雨強度9.0 mm),豪雨中(同57.0 mm),豪雨後(同5.5 mm)の各時間帯について,林内雨量の空間分布を調べた.豪雨前の時間帯から起算した各地点の積算林内雨量の変動係数は,豪雨のタイミングでほとんど変化せず,林内雨量の空間分布の変動の度合いについては,豪雨の影響をあまり受けないことがわかった.各地点の林内雨量の順位が時間帯の間で相関があるかどうかについて, Spearmanの順位相関係数(r)を用いて調べたところ,豪雨前と後の時間帯は高い相関(r=0.92)を示したが,両時間帯ともに,豪雨中とは比較的低い相関(r=0.79,0.67)を示した.これは,豪雨時には,通常の降雨時とは異なる地点に林内雨が集中することを示唆する.
著者
下山 泰史 久保田 好枝 丸 章彦 松永 孝治
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

【目的】マツ材線虫病の防除方法には、抵抗性マツの導入、樹幹注入剤の使用等があるが、これらの防除方法の特性を効果的に組み合わせる事で、より高い防除効果が期待できる。そこで、両法を併用した場合のマツ材線虫病に対する防除効果を検討した。【方法】抵抗性クロマツ2家系及び精英樹1家系に由来するさし木苗を用い、2013年3月に酒石酸モランテル(グリンガード・NEO<br>(ゾエティス・ジャパン㈱))を地際部に注入した。同年7月にマツノザイセンチュウのアイソレイトSc9を1,000、3,000及び10,000頭接種した。同年12月に病徴を観察した。【結果】抵抗性由来の苗の10%で全身的な病徴が認められ、精英樹由来の苗は接種線虫濃度の増加に伴い23、29、64%の苗が枯損した。一方、樹幹注入した場合、抵抗性由来の苗に全身的な病徴は認められず、精英樹由来の苗は枯死率がそれぞれ0、7、21%に低下した。以上から抵抗性マツと樹幹注入剤を組み合わせることでより防除効果が高まることが示唆された。
著者
田中 隆文 大津 悠暉 熊谷 冴矢子 西田 結也 宮城島 由有
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

意見を公募したり住民が企画に参加してさえいれば,ボトムアップの意義が発揮されることになるのだろうか。災害対策基本法に基づく地区防災計画制度を例とすれば,内閣府のガイドブックにはボトムアップという言葉が繰り返し使われるが,地区の防災計画案をまとめる際に専門家のアドバイスを受けるよう繰り返し促されている。 東日本大震災の際の科学知の限界を踏まえれば,ここでの専門家のアドバイスは,ローカルノレッジを頭ごなしに却下する"固い科学"であってはならず,地域特性(自然科学的および人文・社会科学的な意味での地域特性も含む)の理解を踏まえた柔軟なものでなければならない(田中,2015)。しかし,このニーズに応えるために必要となる"柔軟な科学知"をアドバイスできる防災専門家は非常に少ないのが実情である。 本報告では,地区の防災計画およびその親規定である地域防災計画へのローカルノレッジの反映状況を調査し,課題を整理した。参考文献:田中隆文編(2015)想定外を生まない防災科学.-すべてを背負う「知の野生化」-,古今書院,p.299
著者
小林 繁男
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

森林再生を促すようなファシリテーション過程と妨げるようなコンペティション過程は、森林伐採やギャップ形成などの攪乱に伴う二次遷移において起る(Tilman, 1988)。これらの過程は荒廃二次林の動態を含め、主なる林床植生の動態によって推察できる(Kobayashi 2014)。本研究はこのような二次遷移を?年間に渡る林床植生の動態研究を行ってきた結果により、種数(S)―面積(A)曲線に及ぼす影響とそれに関わる環境傾度が、パイオニア林床植生が植物多様性の変化に及ぼす影響を明らかにする。メクロン流域試験地の熱帯季節林択伐跡地で、1992年~2014年までのパイオニア4種をもとに解析を行った。調査地は200mX200mの2ヘクタールの中で、野生バナナ、バウヒニア、スターキュリアとタケのプロットを5mX5mと5mx10m(タケのみ)の調査地を設定した。バナナは22年間で完全に消失した。タケは巨大な2つのクランプが、優占分布していた。繁殖効率のデータから説明できる。種数-面積曲線におけるこれら林床植生の動態と環境傾度を併せて、熱帯季節林二次林の動態を考察した結果、S-A関係において、環境傾度を置き換えられない結果になった。
著者
藤野 正也 嶌田 栄樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

我が国林業の素材生産性を高めるには、現場レベルでPDCAが実践されることが必要である。その重要な基礎となるのが現場での作業日報である。しかし、多くの事業体ではタイムカードの代わりに作業日報が付けられているのが実態であり、日々の作業量や作業時間を記録し、作業実施計画等に活用している事例は少ない。その理由の一つに、作業日報を長期的に活用する方法が分かりづらいことが挙げられる。 本研究では10年以上にわたり作業日報を記録し続けている京都府の日吉町森林組合の協力の下、2012年4月から2015年9月までの作業員15人分の作業日報の解析を試み、作業日報の長期的活用方法の検討を試みた。作業現場は586筆あり、団地数は61に及んでいた。そこで1筆毎に伐倒本数、搬出材積、作業時間等を集計し、1筆毎の生産性を算出し、平均値等の比較を行った。その結果、フォワーダ搬出の生産性の変動係数が最も小さく、様々な条件下でも比較的安定した作業が行われていることが明らかとなった。
著者
中澤 昌彦 吉田 智佳史 佐々木 達也 陣川 雅樹 田中 良明 鈴木 秀典 上村 巧 伊藤 崇之 山﨑 敏彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

【目的】本研究では,急峻で複雑な地形と大径材搬出への適用が期待できる欧州製タワーヤーダを用いた作業システムを開発することを目的に,間伐作業の功程調査を行った。前報で架線下の上荷集材作業について報告したので,本報では上荷横取り集材作業を中心に報告する。【方法】搬器にShelpa U-3toを搭載したMM社製WANDERFALKE U-AM-2toを用いて,上荷横取り集材作業を実施し,時間分析を行なった。【結果】魚骨状に4列伐採し,27サイクル,28本,計17.87m3を集材した。平均荷掛量は0.66m3,平均集材距離は156.6m(135.7~194.6m),平均横取り距離は25.7m(5.1~48.1m)で,打ち合わせや遅延時間を除く横取り集材作業時間の合計は10,371秒となった。既存タワーヤーダであるツルムファルケ(平均荷掛量0.37m3)と比較すると,横取り作業時間が約2割短かった。以上から,本調査区における上げ荷横取り集材作業の生産性を求めると6.2m3/時となり,架線下だけでなく横取り集材作業においても既存タワーヤーダより高い生産性が期待できることが示唆された。
著者
中井 渉 岡田 直紀 大橋 伸太 高野 成美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

菌類の子実体からは放射性セシウムが植物などと比べて高濃度で検出され、その中でも菌根性のものからは腐生性のものと比べて放射性セシウムが高濃度で検出されることが知られている。植物の中には、菌根を形成して菌類と共生し物質のやり取りを行うものがいる。放射性セシウムを高濃度に含む菌類と共生した場合、植物体の濃度にどのような影響が出るのかを調べるために、外生菌根形成樹種とそれ以外の樹種について当年枝より葉を採取し、137Csの濃度を比較した。調査は福島第一原発から約20kmに位置する福島県川内村の森林2箇所で、2012年7月から2012年11月にかけて行った。樹木葉、菌類子実体の他に、移行係数による比較を行うために土壌サンプルも同時に採取した。菌類子実体についてはこれまで知られている通り、菌根性のものは腐生性のものより高い移行係数の値を示した。樹木葉については、採取した14種において外生菌根形成樹種とそれ以外の樹種とを比較したところ大きな差は見られなかった。
著者
江草 智弘 佐藤 貴紀 小田 智基 鈴木 雅一 内山 佳美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

森林小流域においては、地下水が流域界を越えて移動し、流量・水質形成に大きな影響を及ぼす。既存の地下水移動量を求める研究の多くは年水・物質収支を用いており、年より短い期間の移動量を求めた研究は少ない。短期水収支法は、「流量が同程度の2時点では、流域内の水貯留量の差は無視できる」と仮定する。その結果、2時点間の損失量(蒸発散量と地下水移動量の和)は期間降水量-期間流量によって算出される。本研究の目的は、短期水収支法を用い、年より短い期間の地下水移動量を明らかにすることである。我々は神奈川県丹沢山地に位置する大洞沢流域(NO1; 48ha, NO3; 7ha, NO4; 5ha)を対象とした。2010-14の5年間、降水量・流量の観測を行い、短期水収支法を適用した。今までの研究により、NO1では年間の地下水移動量が小さいことがわかっている。従って、我々はNO1の損失量は蒸発散量を表すと仮定し、NO3, 4の損失量からその値を減じ、地下水移動量を算出した。夏季を中心に、NO3では地下水が流域外に流出しており、NO4では逆に流入していた。いずれの流域でも期間降水量と地下水移動量に相関があり、降雨に伴う地下水位の上昇による地下水流入量の決定が示唆された。
著者
平野 恭弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

三重県松阪市および多気町で覆われている櫛田川流域において、流域の持続可能性を危惧する事象の一つに、森林地域のシカ問題があげられる。臨床環境学研修では、博士後期課程の学生が、地域住民に聞き取り調査などを行い、農林業被害を引き起こすシカによる森林環境の変化に焦点をあて、臨床環境学的診断と処方に取り組んだ。特にシカの活用とシカ肉の流通に関して問題となる点を明らかし改善の提案をすること、また本流域の持続可能性に問題となりうるその他の事象について、シカ問題を中心にそれらのつながりを俯瞰的に明らかにすることを目的とした。<br> シカの活用と流通については、個体数管理のため廃棄されているシカに着目し、狩猟者、肉屋、シェフに聞き取り調査を行うことで、枝肉として利用することが三者にとってコスト的にもメリットがあることを処方箋として提案した。さらにシカ個体数の増加は、単に人工林の管理不足など森林だけでなく、少子高齢化や都市山村間のグローバリズムなどの問題とも密接に関連している可能性が問題マップを描くことで示唆された。