著者
大塚 宏司 田仲 勝一 入船 朱美 井上 里美 北山 哲也 吉田 健太郎 新田 竜司 河野 正晴 廣瀬 友彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1432-C3P1432, 2009

【はじめに】2005年より、理学療法士(以下PT)として社会人サッカーチームに関わりトレーナー活動を行っている.本チームは現在、地域リーグに所属しているが、将来のJリーグ入りを目指して活動している.<BR>サッカー競技は非常に激しいコンタクトスポーツであり、ケガをするリスクも高い.ケガの予防に努めることはトレーナーとして非常に難しい責務でもある.競技スポーツの現場において、実際に起こったケガを調査・分析することで、サッカー選手におけるスポーツ傷害にどのような特徴があるのかを明らかにし、その予防策を示すことを目的とした.<BR><BR>【対象と方法】2005年~2007年の過去3年間に本チームに所属した選手92名の内、当院整形外科を受診した選手は32名で、件数はのべ49件であった.調査データーより(1)各年度の有疾患率(受診件数/各年度在籍選手数)を算出(2)外傷・障害の発生率(3)受傷機転(4)発生部位(5)発生時期(6)ポジション別発生状況(7)試合復帰状況を後方視的に調査した.<BR><BR>【結果】(1)各年度の有疾患率:05年27.5%・06年50.0%・07年85.1%であった.(2)外傷・障害の発生率:外傷が31件(63%)、障害が18件(37%)であった.(3)受傷機転:練習中26件(53%)、試合中23件(47%)に分類された.(4)発生部位:足関節・足部14件(28.5%)、膝関節10件(20.4%)、大腿部4件(8.1%)、下腿部3件(7.5%)であり、筋腱損傷では大腿部、靭帯損傷では膝関節・足関節が多かった.(5)発生時期:月別にみると4月が最も発生件数が多く、3月と5月と8月と続いた.(6)ポジション別発生状況:MFが20件(41%)で最も多く、ついでDFが16件(32.6%)、FWが10件(20.4%)、GKが3件(6%)であった.(7)試合復帰状況:重症度を1週間以内を軽症、1週間以上4週間未満を中等症、4週間以上を重症と分け、軽症:28件(57.1%)、05年5件・06年10件・07年13件、中等症:8件(16.4件)、05年0件・06年4件・07年4件、重症:13件(26.5%)、05年3件・06年4件・07年6件であった.<BR><BR>【考察】ケガの発生状況は下肢に集中しており、サッカーの競技特性と一致し、その6割がコンタクトプレイによる外傷が原因であった.各年度の有疾患率が増加したのは、チームドクターやPTが関わることでケガに対する意識が高まり初期症状のうちに受診してくる選手が増えたためと考えている.年度別にて重症例が増えていることに関しては、試合中におこるアクシデントにて長期離脱が余儀なくされたケースであった.
著者
和田 治 赤山 僚輔 飛山 義憲 北河 朗 丸野 英人 岩崎 安伸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101867-48101867, 2013

【はじめに,目的】前十字靭帯(ACL)損傷は,スポーツ膝傷害の中でも頻度が高い.ACL再建術後の目標は受傷前の運動レベルに復帰し,復帰したスポーツにおいて全力でプレー出来ることである.ACL再建術後の運動復帰および復帰後の全力プレーには,再建された膝機能に加え,再受傷に対する恐怖心やスポーツに対する自信などの心理的要因が重要であると考えられるが,これらの項目とスポーツ復帰の関連性を包括的に検討した研究は見当たらない.そこで本研究はACL再建術患者を対象とし,膝の機能面と再受傷に対する恐怖心,スポーツに対する自信とACL再建術患者のスポーツ復帰状況との関連性を明らかにし,さらにこれらの要素がスポーツ復帰後の全力プレーに与える影響を検討することを目的とした.【方法】対象は当院にてACL再建術を施行された患者のうちアンケート調査に同意の得られた156名とした.まず,受傷前,術後の活動レベルの指標としてTegner Activity Scoreを使用した.また,膝機能の評価としてIKDC Subjective Scoreを用いた.心理的要因に関しては,再受傷に対する恐怖心,スポーツに対する自信,全力プレーを評価するため,Mohtabi ,Websterらの質問紙を日本語訳・引用しVisual Analog Scale(VAS)を用いて評価した.Tegner Activity Scoreに関しては受傷前/術後の両方を,IKDC Subjective Score,恐怖心,自信,全力プレーのVASは術後の状態のみ聴取した.復帰の基準は,受傷前,術後のTegner Activity Scoreを用い,対象者を復帰可能群と復帰不可能群に分けた.次にIKDC Subjective Score,再受傷に対する恐怖心のVAS,スポーツに対する自信のVAS,全力プレーのVASを対応のないt検定を用いて各群で比較した.さらに,復帰可能群を対象とし,従属変数を全力プレーのVAS,独立変数をIKDC Subjective Score,再受傷に対する恐怖心のVAS,スポーツに対する自信のVASとした重回帰分析を行った.なお,手術時の年齢,性別,術後の経過期間,受傷前Tegner Activity Scoreを調整変数として投入した.有意水準はすべて5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,対象者には本研究の主旨,目的,測定の内容および方法,安全管理,プライバシーの保護に関して書面および口頭にて十分な説明を行い,署名にて同意を得た.【結果】アンケートに協力の得られた156名のうち,受傷前のTegner Activity Scoreが4以下の者および社会的な理由により活動レベルが低下した者を対象から除外した結果,分析を行った対象者は140名となった(年齢25.8±12.0歳,男性57名/女性83名,身長165.2±8.6cm,体重61.1±12.9kg).対象者全体の復帰率は82.1%であり,復帰可能群115名,復帰不可能群25名であった. IKDC Subjective scoreに関しては,復帰可能群で有意に高い数値を示した(p<0.01).一方で,再受傷に対する恐怖心およびスポーツに対する自信では,両群の間に有意な差は認められなかった.また重回帰分析の結果,IKDC Subjective Score,再受傷に対する恐怖心のVAS,スポーツに対する自信のVAS全てが有意な項目として抽出され(p<0.01),全力プレーのVASにはスポーツに対する自信のVASが最も影響を与える結果となった.【考察】IKDC Subjective Scoreを復帰可能群と復帰不可能群と比較すると,復帰可能群で有意に高い結果となった.したがって,復帰可能群では復帰不可能群よりも優れた膝機能を獲得していることが明らかとなり,ACL再建術後のスポーツ復帰には膝機能の獲得が重要であると予想される.一方で,再受傷に対する恐怖心およびスポーツに対する自信に関しては復帰可能群と復帰不可能群では有意な差は認められず,これらの項目はACL再建術後のスポーツ復帰には影響を与えないことが示唆される結果となった.さらに,復帰可能群を対象とした重回帰分析の結果,スポーツ復帰後の全力プレーには,膝機能,再受傷に対する恐怖心,スポーツに対する自信の全てが影響を与えることが明らかとなり,さらに膝機能よりもスポーツに対する自信が重要となることが示唆された.スポーツに対する自信の低下はスポーツ時の消極的なプレーにつながり,全力プレーを阻害していると予想される.本研究結果より,ACL術後のスポーツ復帰にはまず膝機能が重要となるが,復帰後に全力プレーを可能にし,プレーの質を向上させるには,膝機能に加え自信を高めていく必要があることが示された.【理学療法学研究としての意義】現在まで,ACL再建術後の膝機能および心理的要因を包括的に検討した研究は認められない.本研究は今まで明らかにされていなかった,ACL再建術後の膝機能および心理的要因がスポーツ復帰におけるどの段階で重要となるかを示した点において,臨床におけるリハビリテーションを行う上で1つの示唆を与えるものであると考える.
著者
前野 竜太郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3198-E4P3198, 2010

【目的】静岡県中部地域では,1997年より「外国人のための無料健康相談と検診会」を同実行委員会の主催のもと行っている.検診会を続ける中で,特に2002年度より3年間,受診者の最も訴えの多い症状は腰痛であった.このため2006年度より,腰痛対策として腰痛教室を行ってきた。そこで集められたデータをもとに今回,1.静岡県中部在住の外国人の腰痛の現状を明らかにし,2.通訳を交えて母語による腰痛教室を行った効果について検討したので報告する.<BR><BR>【方法】無料健康相談と検診会」の腰痛教室に参加した対象者に,母語に翻訳されたパンフレットを用いた腰痛体操指導や,日常生活動作指導の効果について,また,腰痛と日常生活動作との関係,腰痛への対処方法,予防などについて,自己記入または通訳者代筆記入による質問紙調査(スペイン語,ポルトガル語,英語,日本語)を行った.腰痛教室の方法としては, 1.個別に腰痛予防としての日常生活動作の指導を逐語訳にて説明しながら,2.通訳による問診にて,腰痛の症状や部位,頻度などを確認した後,3.個別に腰痛体操を処方した.4.体操の内容は,ストレッチング,腹筋筋力強化,背筋筋力強化の3種類であり,各1種類,計3種類の体操を処方し,5.会場内のリハ室にて個別に通訳付でPTが指導を行い、体操を実践してもらった.<BR><BR>【説明と同意】アンケートに関しては,事前にアンケートの説明を行った後,協力いただける場合のみ回答してもらった.また、回答したくない項目には空欄としてもらい,通訳を介して記入する場合は,事前に通訳者が記入してよいか事前承諾をお願いした.アンケート自体に回答したくない場合は,アンケート回答は強制しない旨通訳を交えて説明を行った.<BR><BR>【結果】1.基礎データ›日時:2006年10月30日,2007年11月11日,2008年11月9日.会場:静岡厚生病院(静岡市).対象者:腰痛患者のべ38人(男17人,女20人,不明1人).年度毎にそれぞれ19人(2006),9人(2007),10人(2008)であった.国籍;ブラジル11人,ペルー8人,フィリピン6人,中国3人,モンゴル,日本各2名の順に多数を占めた。ブラジル人とペルー人その他中南米系外国人が最も多く、22人と全体の57.8%を占めた.毎年、スペイン語,ブラジル(=ポルトガル)語の通訳付きで腰痛教室を受けたものが50%以上を占める.全外国人のうち、年齢別に最も多かったのは30歳代15人(39.4%)で,次いで40歳代11人(26.3%),20歳代8人(21.1%)の順で,合わせて86.8%を占めた.‹2.腰痛の現状›「普段の生活で、どのような姿勢の時に、痛いか」,「中腰」18人(47.4%),「寝ているとき」15人(39.5%),「椅子に座っているとき」11人(28.9%).「どのような作業の時に、痛みが増強するのか」,「立った姿勢での労働作業」31人(81.6%),「重いものをもって運ぶ」20人(52.6%).「痛くなった時の対処方法」,「安静にする」20人(52.6%),「市販薬を使う」15人(39.5%).「腰痛をおこさないために、日頃から、行っていることがあるか」,「特に何もしていない」15人(39.5%),「運動をする」14人(36.8%),「姿勢に気をつける」11人(28.9%).また、BMI25以上の者は,16人(42.1%)であった.‹3.指導効果›「腰痛体操は、役に立った」31人(81.6%),「毎日の生活の中で腰痛体操はできる」32人84.2%),「今後、腰痛体操、生活の仕方等の指導が必要」28人(73.7%).<BR><BR>【考察】1.腰痛は,国籍に関係なく20代後半~40歳代の働き盛りの成人に多い。2.また作業時、「立った姿勢での労働作業」時や「重いものをもって運ぶ」時に、痛みが増強する者が多く、それが非作業時にも慢性痛として影響を及ぼしている可能性がある.3.腰痛時には,何らかの自己対処を行っているものが多く,腰痛予防について,軽い運動をする者が見られる一方で,何も行わない者も多い. 4. 腰痛を抱える者の半数近くが肥満であったが,日頃から体重を増やさないように肥満対策をしている者は2名と少ない.5.事前の腰痛対策の有無のアンケート結果から見て,母語を用いた逐語通訳による腰痛体操指導,日常生活指導パンフレットを用いて,通訳を交えて行った腰痛教室は効果があった.6.また腰痛予防の意識付けとして日常生活動作指導には効果が見られ、その結果は、更なる自己対処法の要求へとつながっていた。7.しかし、腰痛体操指導は、ほとんどの者が通訳を必要としており、結果個別対応で施行せざるを得ない現状であり、有効なチャートの作成など集団への対応が今後の課題である.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】1.労働条件・環境ともによいとは言えない成人外国人の腰痛の現状を明らかにできた。2.外国人に腰痛教室や日常生活動作指導を行うことが有効であり,継続していく必要があることが明らかとなった。
著者
岩井 信彦 山下 和樹 長尾 賢治 大川 あや
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100164-48100164, 2013

【はじめに】ADLの回復過程において潜在的な活動能力と実際の生活の中で行っている活動レベルに差が生じることを経験する。前者は「できるADL」後者は「しているADL」と称され、この二面性は「リハ総合実施計画書」にも評価項目として組み込まれている。今回、脳卒中と大腿骨頚部骨折患者のいわゆる「しているADL」と「できるADL」を機能的自立度評価法(FIM)にて評価し、双方の得点の比較からADLの二面性、格差発生の特性を調査し考察を加えたので報告する。【対象と方法】2005 年4 月から2012 年3 月までに回復期リハ病棟に入院した脳卒中患者391 例、大腿骨頚部骨折患者229 例を対象とした。実行状況ADL(実行ADL)をFIMで評価した。療法士の監視下のもと理学療法室など特定の環境で遂行可能なADLを潜在的活動能力(潜在的ADL)とし同様にFIMで評価した。得点の差の検定はWilcoxonの符号順位和検定を用い、有意水準を5%未満とした。ADL難易度はRasch分析にて求めた。Rasch分析は数値で表された順序尺度を間隔尺度に変換し、課題の難易度を数値化する解析手法である。また、FIM運動13 項目に関し得点に差のあった症例数の全症例に対する割合(格差率)を求めた。【結果】脳卒中は男性189 名、女性202 名、平均年齢74.8 ± 11.5 歳、脳梗塞258 例、脳出血110 例、くも膜下出血23 例、発症から入棟まで44.0 ± 16.8 日、入院時FIM運動13 項目合計点は潜在的ADL 43.4 ± 26.0 点、実行ADL 41.7 ± 25.6 点であった。大腿骨頚部骨折は男性44 名、女性185 名、平均年齢80.9 ± 10.7 歳、内側骨折132 例、外側骨折97 例、発症から入棟まで35.3 ± 14.2 日、潜在的ADL 51.1 ± 22.0 点、実行ADL 49.5 ± 22.2 点であった。脳卒中FIM得点は運動13 項目何れも潜在的ADLの方が高く、統計的にも有意差があった。難易度は実行ADLでは低い順に食事、ベッド移乗、整容、排便コントロール、排尿コントロール、上半身更衣、トイレ移乗、トイレ動作、下半身更衣、歩行/車椅子、清拭、浴槽移乗、階段で、潜在的ADLではベッド移乗と整容、排尿コントロールと上半身更衣の順位が入れ替わっていた。大腿骨頚部骨折の得点も同様に何れも潜在的ADLの方が高く、統計的にも有意であった。難易度は実行ADLでは食事、整容、上半身更衣、排便コントロール、ベッド移乗、排尿コントロール、トイレ移乗、トイレ動作、下半身更衣、歩行/車椅子、清拭、浴槽移乗、階段の順に高かった。潜在的ADLの順位も同様であった。脳卒中ADL格差率は食事6.4%、整容10.0%、清拭7.4%、上半身更衣14.6%、下半身更衣9.2%、トイレ動作10.0%、排尿コントロール3.3%、排便コントロール2.0%、ベッド移乗7.9%、トイレ移乗9.5%、浴槽移乗3.8%、歩行/車椅子9.7%、階段9.5%であった。格差率が高かった上半身更衣、整容、トイレ動作、歩行/車椅子ではFIM評価7 段階のうち3 で格差が発生している症例が多かった。大腿骨頚部骨折の格差率は食事2.6%、整容11.4%、清拭8.3%、上半身更衣11.4%、下半身更衣8.3%、トイレ動作8.3%、排尿コントロール4.4%、排便コントロール3.5%.ベッド移乗8.7%、トイレ移乗8.7%、浴槽移乗4.4%,歩行/車椅子11.8%、階段6.1%であった。格差率が高かった歩行/車椅子では評価段階2 及び3、整容では2、上半身更衣では4 及び5 で格差が多く発生していた。【考察】脳卒中ADLに関しGrangerらはRasch分析にて難易度を求め、階段、浴槽移乗、歩行/車椅子が最も高く、食事、整容が最も低かったと報告している。本調査でも類似した結果であった。脳卒中と大腿骨頚部骨折の難易度序列の差はベッド移乗、整容、排便コントロール、排尿コントロール、上半身更衣で見られたが、これは脳卒中では片側上下肢、大腿骨頚部骨折では一側下肢の障害という障害構造の違いによって生じたものと思われる。岩井らは脳卒中ADLに関し下半身更衣、上半身更衣、トイレ動作、トイレ移乗、ベッド移乗、整容の難易度は接近していたが、大腿骨頚部骨折ではこの傾向はなかったと報告している。脳卒中では格差率の高かったADLを中心に実行ADLと潜在的ADLで難易度序列が入れ替わったもの、大腿骨頚部骨折では序列に変化がなかったがこのことが要因と考える。高難易度のADLが必ずしも格差率の高かったADLではなかった。例えば整容や上半身更衣など難易度が低くても格差率は高かった。格差率の高低は本人の意欲や介助技術の問題、物的な環境の問題など様々な要因で生じているものと思われた。【倫理的配慮】当該病棟では主治医、担当療法士が患者・家族に対し「リハ総合実施計画書」を提示し、内容や個人情報提供に関する同意を得ている。また、本調査は当該医療機関倫理委員会より承認を得ている。【理学療法学研究としての意義】ADL構造、難易度序列、格差発生の特性を知ることで、習得が遅れているADLの確認や治療プログラムの立案を的確に行うことが期待できる。
著者
佐藤 隆一 鈴木 敦生 小池 和幸 大澤 貴子 斎藤 啓二 竹田 誠 鈴木 富子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.C0930-C0930, 2005

【目的】中学校での部活動におけるスポーツ障害とその後の実態を把握するために,我々は,市内の中学3年生を対象とした「部活動中に発生したケガに関するアンケート」調査を行い,第39回日本理学療法学術大会において概要を報告した.今回は,部活動引退後もなお「痛み」を訴える生徒の存在に着目し,検討を加えたので報告する.<BR>【方法】市内全中学校12校の3年生1613名(回収率92.8%)のうち,運動部に在籍していた1081名(男子654名,女子427名;運動部在籍率67.8%)を対象に「部活動中に発生したケガに関するアンケート」調査を無記名選択式(一部記述)質問票を用いて行った.アンケート調査時点で,部活動引退後男子平均3.2ヶ月,女子平均3.4ヶ月が経過していた.本研究では1.部活動引退後の痛みの有無,2.部活動中の受傷経験,3.部位,4.治療の有無などの項目について分析した.<BR>【結果】アンケート調査時点で「痛み」を訴えた生徒は,男子22.2%,女子は20.5%であった.部位は男子では膝関節(32.1%),腰部(21.1%),足関節(11.1%),女子では腰部(27.5%),膝関節(26.1%),足関節(20.1%)の順に多かった.現在,痛みのある部位と同じ部位のケガを部活動在籍中に受傷した経験のある生徒は,男子64.6%(部位内訳;腰部26.5%,膝関節25.0%,足関節10.9%),女子65.4%(膝関節34.1%,足関節24.4%,腰部21.9%)であり,受傷経験がないと回答した生徒は,男子35.4%(膝関節40.4%,腰部17.0%,足関節10.6%),女子34.6%(腰部35.3%,膝関節14.8%,足関節14.8%)であった.<BR> また調査時点で痛みに対する治療を受けている生徒は男子32.3%,女子37.3%であった.<BR>【考察】今回のアンケート調査では約20%の生徒が部活動引退後も「痛み」を訴えていた.「痛み」は,部活動中に受傷したケガと同一部位に生じている場合と,ケガとして認識されずに受傷経験はないと判断されている場合に分けられ,性別・部位によりその傾向は異なっていた.<BR> 「痛み」には成長期に特有の身体的変化から生じた筋・腱の過緊張状態や柔軟性の低下,骨アライメントの変化により二次的障害として引き起こされるものや,痛みやケガを経験的・習慣的に処置したり,無治療のまま経過することで慢性化するものがあると考えられ,それらが引退後の痛みの原因となっていると推察される.<BR> 青木らにより約16%の生徒がスポーツ障害を抱えたまま高校に進学し運動部に入部していることが報告されていることからも,引退後も継続したメディカルチェックが重要であり,今後もこれらの情報を学校側へ提供し,学校全体で「ケガ」に対する意識を高め,予防と再発防止に取り組むことを促していきたい.
著者
斎藤 功 岡田 恭司 若狭 正彦 齋藤 明 石澤 かおり
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0221-Ca0221, 2012

【はじめに、目的】 変形膝関節症(以下OA膝)は50歳以上の日本人の半数以上が罹患しているとされる一大疾患であり、総数は約700万人と推定されている。進行すると歩行に大きな影響があるため、歩行の改善を目的として種々の保存療法や手術が行われている。そのためOA膝の歩行分析は、より良好な治療効果をあげるため重要な位置を占めている。近年のOA膝の歩行分析では、関節モーメントや下肢の各部位の回旋角度等を検討している報告が多く見られる。しかしこれらから得られる指標は一般には理解しにくく、治療で応用するには問題点が多い。そこで視覚的に理解しやすく、比較的簡便で、測定場所も限定されない足圧分布測定に着目した。目的はOA膝における歩行の特徴を足底圧分布の解析から明らかにすることである。【方法】 人工膝関節全置換術の予定で入院となったOA膝患者さんのうち、杖なしで歩行が可能で手術側に進行したOAがあり、反対側には軽度までのOAがみられた片側性OA膝50例(以下OA群)(男性10例、女性40例、平均年齢75歳)を対象とした。全例歩行時痛があり、50例中12例はKellgren & Lawrence分類のグレード3で罹患側の膝関節の平均ROMは0~135度、20例はグレード4で平均ROMはー5~125度、18例はグレード5で平均ROMはー10~115度であった。対照として下肢に運動器疾患を有しない健常高齢者44例(以下高齢群)(男性8例、女性36例、平均年齢45歳)と、加齢による影響を除外する目的で健常若年者50例(以下若年群)(男性10例、女性40例、平均年齢28歳)を検討した。計測は足圧分布解析システムF-scanIIを装着し、快適速度で歩行時の足圧分布と足圧中心軌跡を3回計測し、その平均値を採用した。歩行路は10mとし前後に各3mの助走路を設けた。足圧は足底を踵部、足底中央部、中足骨部、拇趾部、足趾部に分類し、それぞれの部位で求め、体重に対する比を求めた(%BW)。また足圧中心軌跡長からの前後径の足長に対する比(以下%Long)と、足圧中心軌跡の前額面での移動距離の足幅に対する比(以下%Trans)を求めた。以上の指標をOA群、高齢群、若年群間で比較し、さらにOA群を伸展制限の程度によって細分類した3群間でも比較した。OA群、高齢群、若年群間の統計学的分析には分散分析とpost hoc testを、OA群の群内比較にはFriedman検定を行った。有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は秋田大学倫理委員会の承認を得て、実施した。また、ヘルシンキ宣言に従い、被験者には事前に本研究の目的、方法について、十分な説明し、書面にて研究参加の同意を得た。【結果】 足圧では、踵部の%BWが高齢群(41.7±8.5%)と若年群(37.1±8.9%)に比べ、OA群(27.1±11.2%)で有意に小さかった(p<0.001)。一方、足底中央部では高齢群(16.5±13.8%)と若年群(18.3±7.5%)に比べ、OA群(33.1±11.2%)が有意に大きかった(p<0.001)。%Longは、高齢群(67.8±4.8%)と若年群(64.7±6.6%)に比べ、OA群(52.4±11.3%)では有意に小さかった(p<0.001)。%LongをOA群内で比較すると、膝伸展制限なしの群(62.9±10.9%)、伸展制限5度の群(56.6±6.6%)、伸展制限10度の群(33.1±7.0%)の順に有意に短くなっていた(p<0.01)。%Transは若年群(42.9±11.6%)、高齢群(64.7±6.6%)に比べ、OA(24.8±7.6%)の順に有意に狭かった(p<0.001)。【考察】 進行した片側性のOA膝では、踵部の足圧が小さい一方で足底中央部が健常者に比べ大きく、かつ足圧中心軌跡が前後方向、左右方向とも有意に短くなっており、OA膝では荷重が若年者やOAの軽い高齢者に比べ前方に偏っていることが示された。またOA群内の比較で、膝関節伸展制限の程度が足圧中心軌跡の短縮と関連していることも明らかとなった。以上から進行した片側性OA膝では、膝関節伸展制限があるため踵接地から立脚期に十分な踵部への荷重ができず、結果として荷重部位が前方に偏り、足圧中心軌跡も短縮したものと推定された。【理学療法学研究としての意義】 足圧解析による評価指標は多様であるが、分析方法を工夫することで一般にも分かりやすく説明することが可能である。OA膝の治療に足圧解析を用いることで病態の解明だけでなく、患者教育も容易となり、より効率的なリハビリテーションが実現できることが期待される。
著者
大倉 俊 長 優子 河野 由子 今泉 久仁子 河崎 靖範 槌田 義美 池田 啓一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3071-A3P3071, 2009

【目的】当院は脳性麻痺児に対し、整形外科的選択的痙性コントロール手術(OSSCS)を施行している.術後リハビリテーション(リハ)の経験から、当院における術後リハの現状を調査したので若干の考察を加えて報告する.<BR>【対象】2007年4月から2008年3月の間に当院にてOSSCSを施行した脳性麻痺児で、術後リハを実施した35名(年齢8.6±5.4歳、男児27名、女児8名、県内在住10名、九州内在住21名、九州外在住4名)を対象とした.<BR>【方法】手術の目的別に、歩容改善群21名(A群)、疼痛の緩和・股関節脱臼などの二次障害改善群9名(B群)、運動機能向上群5名(C群)の3群に分類し、それぞれの群において粗大運動能力分類システム(GMFCS)、年齢、入院期間、術後の変化を後方視的に調査した.<BR>【倫理的配慮】本研究はデータ抽出後、集計した後は個人情報を除去し、施設内の倫理委員会の審査を経て承諾を得た.<BR>【結果】A群はGMFCSIレベル13名、IIレベル7名、IIIレベル1名、年齢10.6±5.7歳、入院期間27.2±15.6日、術後の変化として股関節内転・内旋歩行が改善した、内反尖足歩行から足底接地歩行が可能となった、結果的に足底接地できたことで装具なしでの歩行が可能となったことが挙げられた.B群はGMFCSVレベル9名、年齢4.4±2.9歳、入院期間11±2.9日、術後の変化として痛みが和らいだ、自発運動が多くなった、脱臼が改善した、介助量が軽減したことが挙げられた.C群はGMFCSIIIレベル5名、年齢7.4±1.7歳、入院期間21±9.5日、術後の変化として座位が安定し座位保持時間が長くなった、立位姿勢が改善し耐久性が向上した、伝い歩きが数歩可能となったことが挙げられた.<BR>【考察】A群はGMFCSが高く、年齢が学童期から青年期であることからリハに必要な期間の入院が可能であり、入院期間内で歩容改善という目的がおおむね達成できたと思われた.しかしB群、C群では遠方からの入院や家族の事情のために早期退院が多く、退院後も病院・施設または家庭でリハを継続する必要があった.そのため、手術内容や手術による影響などを含めた細かな情報提供書、継続して行ってもらえる分かりやすい家族指導が重要になると考えられた.今後は入院中の変化を客観的に評価し、退院後の長期的な変化を検討することが課題であると思われた.
著者
阿部 広和 大須田 祐亮 井上 和広 森 鉄矢 古川 章子 石岡 卓 中島 久三子 小塚 直樹
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb1176-Bb1176, 2012

【はじめに、目的】 脳性麻痺児の移動手段は個々により多種多様にも関わらず,移動に関する研究の多くは歩行に焦点を当てたものである.移動時のエネルギー効率に関しても,歩行時のエネルギー効率を算出している報告が多くみられる.しかし,障害の重症度を表すGross Motor Function Classification System(GMFCS)レベル3-4の脳性麻痺児の多くは学校や地域で車いすを用いて移動している.そのため,GMFCSレベル3-4の脳性麻痺児においては,歩行によるエネルギー効率の把握が日常生活における移動方法のエネルギー効率をみているとは必ずしも言えない.本研究の目的は,脳性麻痺児における手動車いす駆動時のエネルギー効率と歩行時のエネルギー効率をGMFCSレベルごとに分け,比較し検討することである.【方法】 対象は,痙直型脳性麻痺児21名(男性11名,女性10名,平均年齢13.5±3.4歳)とした.内訳は,GMFCSレベル2-4の児が各レベルごと7名であった.移動方法は,GMFCSレベル2の児は独歩,レベル3-4の児は手動車いすであった.エネルギー効率の測定は5分間の安静座位後,1辺10mの正方形のコース上を5分間,対象児の最も快適と感じる速度で歩行・手動車いす駆動させた.歩行時・手動車いす駆動時のエネルギー効率は,Total Heart Beat Index(THBI)を用いて求めた.THBI(beats/m)は,5分間総心拍数(beats)/5分間総移動距離(m)で算出した.心拍数の測定には,Polar RS800CX (Polar Electro社,日本)を使用した.統計処理は,GMFCSレベルごとのエネルギー効率を比較するために一元配置分散分析と多重比較検定を行った(有意水準5%).また,群間の差の大きさをみるために効果量(Cohen's d)を算出した.効果量は,0.2≦d<0.5で軽度,0.5≦d<0.8で中等度,0.8≦dで高度と効果量が高くなるほど群間の差が大きいとされている.一元配置分散分析と多重比較検定はSPSS version 19.0,効果量はG Power3.1を用いて算出した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て,保護者・対象者に説明を行い,同意書を得て行った.【結果】 THBI(beats/m)は,GMFCSレベル2で2.75±0.75,レベル3で1.99±0.21,レベル4で3.0±0.87であった.GMFCSレベルごとのエネルギー効率を比較するために一元配置分散分析を行ったところ,有意な主効果が得られた(F<sub>2,18</sub>=4.254,p=0.031).Games-Howellの方法でpost-hocテストを行ったところ,GMFCS レベル3と4で有意な差が見出された(P=0.049).GMFCSレベル2と3,3と4間の効果量はd=1.37,1.60と大きかったが,レベル2と4間の効果量はd=0.32と小さかった.【考察】 GMFCSレベルが低下するにつれて,歩行時のエネルギー効率は低下するとされている.しかし,GMFCSレベル3の児は車いす駆動で移動することにより,GMFCSレベル2の児における歩行時のエネルギー効率よりも効率よく移動できた.GMFCSレベル2と4間では,効果量が小さいためエネルギー効率にあまり差がないと言える.GMFCSレベル4の児における歩行時のエネルギー効率はレベル1-3の児よりも大きく低下するため,手動車いす駆動で移動することで効率よく移動できることが示唆された.また,有意差はなかったがGMFCSレベル3と4間では,効果量が大きくサンプルサイズを増やせば有意差が生じる可能性がある.つまり,車いす駆動時のエネルギー効率も粗大運動能力により変化する可能性が示唆された.しかし,GMFCSレベル4の児はばらつきが大きいため,手指の操作性を評価するManual Ability Classification System(MACS)などで詳細に評価していく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 日常生活の移動方法として用いられている手動車いす駆動時のエネルギー効率を把握することで,エネルギー効率の改善を目的とした理学療法介入の一助となると考える.
著者
芝原 美由紀 河合 美智子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.B0658-B0658, 2004

【はじめに】学齢期の肢体不自由児に対して、PT関与の重要性は今まで多く報告されている。横浜市西部地域療育センターでは、学齢期の肢体不自由児にPT訓練を実施、又、専門クリニックのシーティングクリニックではPT・OTが業務として関わっている。学齢肢体不自由児の中でも重症心身障害児は、特に日常の生活体調の基礎である呼吸状態に配慮した姿勢設定をする必要がある。今回、成長に伴い座位保持装置を再作製した重症児3例から、PTが専門的な評価・判断から関わる必要を感じたので報告する。<BR>【対象と方法】対象はPT訓練を実施している学齢児3例である。3例は重度心身障害児で、呼吸状況は不安定で全員経管栄養である。症例1養護学校訪問学級の小学1年。染色体異常、痙れん発作で、気管切開している。痙性四肢麻痺で体幹は過緊張、強い前弯があり、両側股関節脱臼がある。症例2養護学校2年。難治性痙れん発作があり、不随運動を伴う混合型痙性四肢麻痺である。左に凸の側弯で左股関節脱臼がある。呼吸状態が不安定で、家庭に酸素が準備されている。症例3養護学校の5年。先天性サイトロメガウィルス感染症、痙れん発作を伴う四肢麻痺である。頭部頸部は正中保持が困難で、この姿勢により呼吸状態が変動する。左に凸の側弯と両側股関節が脱臼している。<BR>3例の重症児に対して、生活状況と機能評価を実施した。運動機能として姿勢筋緊張の影響、支持面の設定と負担など検討した。良肢位としての座位ではなく、生活の中で座位がどのような意味があるのか、考慮した。これにより介助軽減だけでなく、家族のニードに合うものを考え対応できる。呼吸と変形、座位の耐久性、と判断視点が多様であった。<BR>【結果と考察】3例共に体調は変動が大きく不安定で、しかも覚醒や姿勢により呼吸状態・反応性が影響されていた。症例1はわずかな姿勢変化で全身に反り返りが生じる。訪問学級の指導場面で積極的な肢位設定が必要な事から、緊張の影響が軽減するような座位を検討した。症例2は不随運動と体幹の非対称に対し座位を検討した。症例3は頭部非対称姿勢が呼吸に影響していた。呼吸安定する頭部と体幹の位置を評価し、家族と過ごせる場面の使用を検討した。3例は就学前の座位保持設定の変更が必要であった。<BR>在宅の重症児の場合、姿勢設定は本人の機能に基づくのは当然であるが、生活でどのように使用するのか、家族の意図を配慮した視点も必要であった。今回、座位自体がダイナミックな機能でもあることが確認できた。PTは評価として運動障害を明確にし、その上で生活場面を具体化していくことが重要である。姿勢設定は将来の機能に大きく影響し、生活の質に直結している。ヘルスプロモーションとして座位姿勢設定を提示するPTの評価が必要であった。重症児の座位姿勢設定に専門職として関わることが重要と考えられる。
著者
吉井 智晴 福島 豊 星 虎男 山内 章子 前原 達也 高橋 奈央
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.G0635-G0635, 2004

【はじめに】「コミュニケーション能力」は対人サービスを行う理学療法士にとって大変重要である。しかし、その教育方法論は確立されておらず試行錯誤の状態である。そこで基礎能力の向上を目的として授業を実施し、その結果を報告する。<BR>【対象と方法】理学療法学科1年生35名。男性17名。女性18名。平均年齢20.7±4.4歳。4大卒11%、職歴無77%と現役の学生が多かった。授業目標を「話す・書く・聞く能力の基礎を身に付ける」とし、理学療法概論の授業の中で実践した。具体的にはアサーティブネスの理論を用いたロールプレイングや3分間スピーチで、スピーチを聞く側にはコメントシート提出の課題を課した。コメントシートには発表者の良かった点と改善したほうが良い点を書く。それをコピーし、1枚は教員がコメントの内容ではなく書き方について指導し、書いた学生にフィードバックする。もう1枚は発表者にフィードバックするという方法を取った。従って学生1人当たり、35人にコメントし、35人からコメントがもらえる仕組みである。発表する学生はもちろんのこと聞く学生も聞き方を意識し、短時間で自分の意見を的確に書かなければならないという場面設定をした。「話す・書く・聞く」ことについて得意かどうかの自己評価をSemantic differential scale(SD法)にて行い、授業の前後での変化やその内容についてアンケート調査を実施した。統計手法は対応のあるウィルコクソン検定を用いた。<BR>【結果】1)「話す」は授業開始前平均2.8±2.7点→授業終了後5.2±2.4点と改善した。同様に「書く」は4.2±2.0点→5.8±1.8点、「聞く」は5.7±1.7点→6.9±1.4点とどの項目でも学生の自覚的得意度は有意(p<0.01)に向上した。2)変化の内容は、「話す」では「聞く人の事を考えて話すようになった」(65.7%)「書く」では「読み手の事を考えて書くようになった」(77.1%)「聞く」では「相手の話し方に注意して聞くようになった」(71.1%)の項目に回答する学生が多かった。また、それぞれの技術の向上を自覚できたものは「話す」5.7%、「書く」8.6%、「聞く」57.1%であった。<BR>【考察】授業前後での自己評価は改善し、肯定的な変化を自覚したものが多かった。その内容からは常に相手がいる事を強く意識するようになった変化が伺える。実際に体験させ、適宜フィードバックをする授業方法により、コミュニケーションは一方的な情報伝達ではなく、自分の言動によって相手の感情や理解の度合いも変わることに学生自身が気づいた結果だと思う。今回の方法で学生の気づきに対する効果は見られたが、コミュニケーション技術の向上を自覚できたものは「聞く」以外は少数であり、授業内容の検討が必要である。また、学生の能力の変化を見るため主観的、客観的な評価法も考えて行きたい。
著者
山本 美和 金指 巌 横内 亜紀 田村 直子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E3O2200-E3O2200, 2010

【目的】地域支援事業の創設に伴い、本市では介護予防一般高齢者施策として運動機能の維持向上を目的とした「高齢者運動支援事業」(以下健康教室)を実施しているが、一般高齢者施策は自主活動組織の育成支援を並行して進めることが事業の要件に挙げられており、参加者の自主活動を育成しながらの事業展開が課題である。そこで今回、自主活動を定着させるために健康教室で実施してきた支援方法と支援過程での課題と今後の方向性について報告する。<BR>【方法】健康教室は、平成18年4月から老人保健法の機能訓練B型を地域支援事業に移行し、65歳以上の要介護認定を受けていない方を対象とした介護予防事業として実施している。実施方法は地域の公民館等を会場にし、隔週で月2回理学療法士が出向き指導していたが、住民より毎週開催の要望が多かったことから自主活動の支援を検討した。当初、自主活動を希望する地域に保健所で養成したボランティアを派遣する方法で取り組んだが、大半の地域でボランティアの定着には至らず継続が困難な状況となっていた。一方でボランティアを派遣していない会場で参加者の中から自然に自主グループが発生し活動が定着した事例があり、それらのグループへの関わりを通し支援方法を検証し、手法の転換を図った。支援は3つの基本方針に基づき行った。1.公民館等の会場や必要物品は行政が提供する。2.運動のメニューは理学療法士が状況に合わせて作成した体操の媒体(CD等)に沿って実施する。3.各会場毎に参加者の中からまとめ役を育成し、自主活動を運営する。以上の支援方法を基本に自主活動を拡大していった。まとめ役の育成が進まない会場は期限を定めて看護師等が補助し、段階的に自主化へと進めていった。<BR>【説明と同意】本研究については参加者に口頭で説明を行い同意を得た。<BR>【結果】このような支援体制の整備により、自主活動の実績は平成18年度:10グループ・延人数2,932人、平成19年度:24グループ・延人数5,675人、平成20年度:31グループ・延人数14,132人と飛躍的に拡大した。同様に健康教室全体の実績も平成18年度:25会場、実人数1,405人、延人数12,207人、平成19年度:31会場、実人数1,533人・延人数20,287人、平成20年度:35会場、実人数1,609人・延人数31,236人と増加し、現在では実施会場のほとんどで並行して自主活動が定着している。<BR>【考察】身近な地域で気軽に参加できる運動の機会を提供することは、介護予防を早期から推進する上で効果的な手法であるが、マンパワーや経費等の問題から実行できない状況も推察される。本市では自主活動に対し様々な支援方法がある中、ボランティアを派遣する方法から参加者自らが主体となって実施する方法にシフトし、基本方針に沿って支援を行うことで安定した自主活動が可能となり、実施会場が大幅に増加した。また自宅から歩いて通える身近な場所に会場を設けることで、顔見知りの参加者同士が協働し準備を行う等まとめ役の負担が軽減されたことや、会場使用料等の経費が発生する部分は全て行政側が負担することで金銭管理等の問題を取り除き、住民側が自主活動に専念できる状況を作ったことも自主活動が定着し増加した要因であると考えられる。自立した高齢者に対して、介護予防に効果的な運動メニューを提供し続けるためには、行政と地域住民がそれぞれの役割を認識し、協働して役割を担うことが重要である。健康教室の実施地域は市街地、山間部、島嶼部等多岐に渡り、同様に支援しても自主活動へ移行できない地域もいくつか存在する。これらの問題に対して地域の特性等を考慮しながら地域に出向き、介護予防を啓発する機会を増やす等、住民の意識を高めるような働きかけや地域包括支援センター等他機関と連携し、介護予防活動が定着する方法の検討も必要である。行政の専門職のマンパワーは限られており、直接指導する手法で拡大するには限界がある。今後、健康教室を地域の高齢者が利用できるポピュレーションサービスとして定着させるためには、自主活動組織の育成・支援をさらに進め、費用対効果の高い手法で多くの地域住民に定期的な運動が定着するような手法を検討することが重要である。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は理学療法士が地域の一般高齢者に介護予防サービスを提供していく中で、マンパワー不足や運動の継続の難しさという問題等に対して自主活動組織の育成に取り組み、運動の普及啓発を図った方法を報告するものである。近年、介護予防の分野において地域住民や関係機関から運動指導に対する様々なニーズがあり、理学療法士が専門性を活かし地域の健康づくりの分野で活動していくことは職域の拡大を図る大きなチャンスであり、医療費削減や介護給付費の抑制にも繋がると考えられる。<BR><BR>
著者
比嘉 優子 仲田 美代子 前川 奈津子 名嘉村 博 伊良波 知子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.694-694, 2003

【はじめに】人がその生涯を終える際には、病気であるないに拘らず終の棲家でと願う人が多いのではないだろうか。当院では、住み慣れた自宅での最期を望む患者やその家族に対して在宅医療部を中心に医療サービスを提供してきた。今回末期肺癌患者の在宅での終末期医療に関わった。この症例を通して得た理学療法士(以下PT)としての今後の終末期医療への介入について若干の考察を加えて報告する。【症例】2001年6月現在89歳男性。1997年85歳に肺癌と診断される。既往歴として58歳に脳血管障害にて左片麻痺となる。主な介護者は同居している長男と孫娘であった。【経過】2001年6月頃から咳が出現。8月当院にてX-P上で右上肺野の腫瘤拡大が確認された。その際、家族に対して医師より次の点について確認と説明が行われ、後日返答をもらうこととなった。確認点は1)本人への告知の件、2)終末期を含めた今後の治療方針であった。また、本人の意思確認が大切なことも重ねて説明された。9月頃から発熱を繰り返す。12月痰量・血痰も増加。呼吸困難感も出現したため在宅酸素療法開始。家族より本人への病名告知は行わないこと、終末期は自宅で迎えたいとの返事を得た。介護には同居家族3人と患者の子供5人があたる事になった。2002年3月痰の自力喀出困難出現し、睡眠や食欲が阻害された。その為、排痰目的にて週6回の訪問理学療法を開始。排痰はSqueezingにて両側臥位行い、休憩を入れ20分程度とした。その後は睡眠・食欲ともに改善され、発熱もなくなった。訪問リハを開始して2週間目から本人の希望により坐位訓練や車椅子移乗も行った。また本人および家族の希望を受け4月には2回のドライブを決行した。5月5日午後7時に夕食をいつものように摂取。午後9時喀血しているのを発見され訪問看護と当院在宅医療部に連絡が入り、直ちに医師も往診、家族と相談後そのまま自宅にて経過をみることを確認。午後11時20分自宅にて永眠された。【考察】在宅末期肺癌患者に対し訪問理学療法を行った。当初排痰を中心に行った結果、日常生活の苦痛であった咳・痰に悩まされる事がなくなった。そして終末のその日まで睡眠や食欲も安定し、熱発もなかった。また、疲労度からPTが躊躇していた坐位や車椅子移乗を患者自ら望むようになった。それが可能になったことで、さらに次の要望が挙げられるようになった。PTが関わる前は寝たきりであった終末期の患者が、住み慣れた我家内を車椅子で移動するようになり、楽しみとしていたドライブも施行できるようになった。終末期医療は第一に痛みの緩和にポイントがおかれる。しかしホスピスケアにおいては人間らしく生きる事にも重点が置かれる。今回この症例を通して痛みだけでなく、住み慣れた自宅という場も含め、限られた時間の中でどこまで個々を尊重し人間らしく生きるかという点について、在宅終末期にも理学療法的アプローチを踏まえたリハビリテーションの可能性を確認する事ができた。
著者
髙鳥 真 韮澤 力 橋本 尚幸 小林 麻衣 一ノ本 隆史
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.G0936-G0936, 2006

【目的】今回,2年次,3年次の臨床実習終了後のエゴグラム特性について調査し,学生の自我状態の変化と臨床実習成績の関連について検討した.本学では,2年次に3週間の臨床実習(いわゆる評価実習)と3年次に8週間の臨床実習を二期行っている.成績はいずれも優・良・可・不可または保留の総合判定として判断される. <BR>【方法】対象は,平成16年度に晴陵リハビリテーション学院理学療法学科3学年に在学した学生40名(男性18名,女性22名)で,調査は,2年次実習終了後(平成16年2月)と3年次二期目の実習終了後(平成16年12月)に行った.調査用紙は新版東大式エゴグラム(以下,TEG)を用い,学生には調査主旨を説明し了解を得た上で全員一斉に行い,38名(95.2%:3年次)の有効回答を得た.<BR> データ処理は,3年次臨床実習成績から成績上位群(二期間の一方で総合判定が優の10名)と成績下位群(二期間の一方で総合判定が可または保留の9名)の2群に分け,TEGの5項目(批判的親:CP,養育的親:NP,成人:A,自由な子供:FC,従順な子供:AC)について各々の平均値から各群のTEGパターンをみた.さらに両群の同一学生について,後方視的に2年次のTEG項目と3年次のTEG項目について対応のあるt検定(有意水準5%未満)を用いて比較した.<BR>【結果】成績上位群では,2年次でNPとFCが高い「M型:優しく世話好きで他者からかわいがられる」,3年次ではNPを頂点とし次いでAが高く,他が低い「台形型:自己偽性をしても他人に尽くす指導者的」を示し,群内比較においてACで有意に3年次が低かった(p<0.05).成績下位群では両学年ともにNPとACが高く,CPとAが低い「N型:依存的で現実に即した行動が出来ない」を示し,いずれの項目でも学年間での有意な変化はなかった.<BR> 【考察】医療職に求められるTEGパターンは「台形型」と言われている.今回,成績上位群の3年次でこのパターンがみられた.NPは親身になって世話をするという自我を示し,Aはその値が高いと物事を論理的に判断でき,低いと合理的に判断することが困難となる.また,ACが相対的に低位を示すと行動力があるとされる.つまり,成績上位群では,より医療職に適した自我へと変化しうる背景が2年次に現れており,3年次の臨床経験によって自己概念の形成が適切に行われたと言える.<BR> 一方,成績下位群では学年間に変化がなく,ともに「N型」を示した.AC高位では主体性に欠け,さらにA低位を伴うと依存的傾向が強まり,問題解決が難しくなると言われている.故に成績下位群では,学年間においても自己概念の形成が行えず,臨床実習成績に影響を及ぼしたと考えられる.以上のことから,ACが相対的に低位になる(行動力を身に付ける)ようにNPとAを伸ばす(思いやりや計画性を身に付ける)という,自己概念の形成を学生自らが認識するとともに,教員が共有して関わっていくことの必要性が示唆された.<BR>
著者
中野 禎 村西 壽祥 新枦 剛也 片岡 紳一郎 阿曽 絵巳 森 耕平 中土 保 伊藤 陽一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100776-48100776, 2013

【目的】丸山らにより作成された患者立脚肩関節評価法Shoulder36 Ver.1.3(Sh36)は、計量心理学的検証を経た肩関節疾患に対する包括的患者立脚評価とされており、36項目の質問により構成されている。Sh36による評価は患者の主観に基づく評価シートであり、EBM確立に大いに役立つ評価法として期待されているがSh36に関する報告は少ない。本研究の目的は、Sh36における機能領域の主観的評価と肩関節に障害をもつ術前患者の機能実測値評価と関連性について調査し、評価シートの妥当性について検証することである。【方法】対象は肩関節疾患を有する術前患者117名(男性62名、女性55名、平均年齢63.2歳)117肩で、その内訳は腱板断裂55名55肩(腱板断裂群)、インピンジメント症候群41名41肩(インピンジ群)および拘縮肩21名21肩(拘縮群)であった。術前機能評価として、visual analogue scale(VAS)を用いた痛みの評価、肩関節可動域測定、筋力評価ならびにSh36評価シートによる自己回答を実施した。VASは運動時痛を評価し、可動域測定は自動屈曲および自動外転とした。筋力評価はベッド上背臥位、肩関節外転0°、肘関節屈曲90°、前腕中間位を測定肢位とし、ハンドヘルドダイナモメーターを用い、外旋および外転筋力をそれぞれ3秒間の等尺性運動を3回行わせ、その平均値を測定値とし、患側/健側比を算出した。次にSh36で機能領域にあたる3項目「可動域」、「筋力」および「疼痛」の重症度得点有効回答の平均値を算出し、Spearmanの順位相関係数にてそれぞれの客観的実測値可動域(自動屈曲、自動外転)、筋力(外旋および外転筋力)及びVASの関連性を検証した。また疾患別で同様の検討を行った。【説明と同意】対象者には本研究の目的を文書と口頭にて説明し、同意書に自署を得た後に術前機能評価、評価シートへの回答を実施した。【結果】全疾患117肩を対象にした場合、可動域ではSh36と実測値の相関係数は自動屈曲、自動外転でそれぞれ0.59、0.61、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.47、0.45、疼痛は-0.42であり、有意な相関関係を認めた(p<0.01)。また疾患ごとの検討において、腱板断裂群は可動域が自動屈曲、自動外転ではそれぞれ0.63、0.60、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.55、0.44、疼痛は-0.45と有意な相関関係を認めた(p<0.01)。インピンジ群は可動域が自動屈曲、自動外転で0.53、0.60、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.49、0.54、疼痛は-0.53と有意な相関関係を認めた(p<0.01)。拘縮群は可動域が自動屈曲、自動外転で0.49、0.57有意な相関関係が認められ、筋力や疼痛に有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究により、Sh36と客観的実測値には中等度の関連性がみられたが、疾患別では腱板断裂群が可動域において、インピンジ群では可動域および疼痛において、相関が高かった。これらは疾患の特徴を反映するものであり、腱板断裂群では自動屈曲、外転制限が日常生活上の困難性を示し、インピンジ群ではインピンジメントによる疼痛誘発を示す評価としてSh36の有用性を認めた。しかし、拘縮群は筋力と疼痛において客観的実測値とSh36は相関が弱かった。その理由として、Sh36の筋力領域は「患側の手で頭より上の棚に皿を置く」、「患側の手でバスや電車のつり革につかまる」など他4項目、疼痛領域は「患側の手でズボンの後ろポケットに手をのばす」、「テーブル上の調味料を患側の手を伸ばしてとる」など他4項目が質問項目として設定されている。拘縮群は自他動とも可動域制限をきたしているため、可動域制限が原因で質問項目の動作が行えないことが考えられ、必ずしも筋力や疼痛が影響しているとはいえない。また、拘縮肩患者は痛みが生じない代償動作を獲得している可能性も考えられ、領域別平均値と客観的実測値に乖離が認められたと考える。このことから、Sh36は肩関節疾患の一般的評価としてその有用性は認められるものの、疾患によっては客観的実測値を反映しない可能性について留意すべきである。Sh36は日常生活の実態を捉えたものであるため、日常生活における代償機能獲得による機能改善指標としての評価ツールとしても有効であると考える。【理学療法学研究としての意義】主観的評価と客観的評価の関連性を検証することにより、治療者側のみの判断を回避でき、患者満足度を考慮した評価、治療技術発展のために有意義と考える。
著者
渡辺 敏 井澤 和大 小林 亨 平澤 有里 松澤 智美 大宮 一人
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.442-442, 2003

【目的】大動脈瘤症例は慢性期の再解離や血圧評価に一定の見解がないため,客観的な評価手段がなく運動療法の効果判定が困難である。我々はSF-36を効果判定として利用することを考え,遠隔期の症例に断片調査を実施しその有用性を報告した。今回はSF-36とHAD(Hospital Anxiety and Depression)を利用して急性期症例の断片調査と,2症例の追跡調査を実施したので報告する。【方法】当院で急性期治療を受け外来通院中の大動脈瘤症例を対象に,本調査の趣旨を説明し同意を得てSF-36とHADの質問調査を実施した。急性期断片調査は内科治療5例(68歳±9歳)・外科治療5例(58歳±9歳)を退院時に調査した。追跡調査は外科治療を受けた2例(症例A65歳・症例B44歳)を,退院時と術後3ヵ月の2回調査した。【結果】急性期断片調査結果は,内科例外科例それぞれHADの平均値anxietyが12・11,depressionが15・14で,SF-36各項目の平均値は身体機能(PF)65・58,身体的日常役割機能(RP)25・50,体の痛み(BP)70・51,全体的健康観(GH)54・39,活力(VT)46・48,社会生活機能(SF)55・53,精神的日常役割機能(RE)20・67,心の健康(MH)61・67であった。2症例の追跡調査結果は,症例AはHADの平均値anxietyが11から11,depressionが11から12と変化し,SF-36各項目の平均値はPF45から80,RP100から100,BP61から90,GH50から57,VT5から55,SF75から87.5,RE100から100,MH60から92と変化した。症例BはHADの平均値anxietyが14から12,depressionが15から12と変化し,SF-36各項目の平均値はPF55から85,RP50から100,BP 74から100,GH20から57,VT50から65,SF62.5から75,RE33.3から100,MH52から83と変化した。【考察】急性期断片調査結果ではHADの値が高く,身体運動能力の改善と血圧管理の会得による,不安の改善が重要であると考えられた。SF-36では内科例でRP・REの低下を,外科例ではGH・VTの低下を認め,遠隔期とは違う経時的な因子の影響が予測された。2症例の追跡調査結果ではHADの改善傾向とSF-36の明らかな改善を認めた。これは運動療法の実施によって症例のQOLが改善したことを示したと考えられ,運動療法効果の判定が可能であると考えられた。【まとめ】大動脈瘤症例の運動療法効果判定としてSF-36を利用して,急性期断片調査と2症例の追跡調査を実施した。SF-36での運動療法効果判定が可能であると考えられ,今後症例の追加検討が必要であると考えられた。
著者
佐伯 武士 浜岡 隆文 栗原 俊之
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48102059-48102059, 2013

【はじめに】 脳内への血液を供給している椎骨動脈の走行は頚椎の横突起にある穴(椎間孔)を貫く様に上行していることから個々の頚椎骨の動きに伴って機械的刺激を受けて血流が変化し、その結果、血流量の著しい低下が起こると脳底動脈系の一過性の血流不全を生じ、目眩やふらつき、意識消失感、霧視などの非特異的な症状を誘発する恐れがある。さらに重篤な場合は脳梗塞の原因になると考えられている(Sorensen,1978)。しかしながら、これまでの頸部回旋運動に伴う椎骨動脈血流変化に関する報告は、症状を有する患者のものが多く、健常者では見解が一致していない(Mitchellら,2004;Zainaら,2003)。 さらに、これまでの研究では超音波診断装置を使用した頸部回旋運動による対側椎骨動脈血流量の変化に着目した研究は多いが、両側椎骨動脈血流量を同時に計測し検討されたものは稀である。 本研究は、頸部の中間位と左右最大回旋位における椎骨動脈の血流状態について、超音波診断装置による片側測定と磁気共鳴血管画像(MRA-TOF法)による両側同時測定を用いて比較検討した。【方法】 健常人男性16名女性7名、年齢20.1±3.9歳、BMI22.2±1.8を対象に、超音波測定検査にて、収縮期最大血流速度(peak systolic velicity:PSV)、拡張期血流速度(endodiastolic velocity:EDV),時間平均血流速度(time average flow velocity:TAV)、血管直径を計測し磁気共鳴血管画像(MRA-TOF法)を用いて椎骨動脈形状変化について測定し検討した。 統計学的検討はBland-Altman plotによる左右誤差の検討、対応のあるt検定を用いて回旋前後の血行動態について検討した。有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 被験者には本研究の趣旨を事前に書面にて説明し,同意を得た.本研究は立命館大学びわこ・くさつキャンパス生命倫理審査委員会の承認を得ている。【結果】 頸部中間位における椎骨動脈血管直径および血流量に左側有意な左右差を認めた(左側直径平均:3.84±0.4mm 右側直径平均3.55±0.4 mm) 超音波診断装置による回旋側反対側椎骨動脈血流測定において、頸部中間位と最大回旋位の比較にて、PSV・EDV・TAVにおいて最大左右回旋位に有意な減少を認めた(p<0.05)。 MRA-TOF画像における椎骨動脈血流変化において、最大右回旋位において右椎骨動脈の有意な増加(p<0.05),左椎骨動脈の有意な減少(p<0.05)を認めた。【考察】 本研究において、健常者椎骨動脈は直径・血流量に左右差を生じ、結果頸部回旋運動において、直径が劣位な椎骨動脈は回旋運動による影響を受けにくく直径が有意な椎骨動脈側は回旋運動による影響を受けやすい事が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 頸動脈病変と冠動脈疾患の危険率が相関することは Salonen(1991)によって報告され、頸動脈病変は優れた予知因子であると考えられている(Salonenら1991)。したがって、頚部回旋による椎骨動脈テストが臨床の現場や健康増進分野において簡便なスクリーニングテストとして用いられることで、動脈疾患の早期発見に有用であると考える。そのためには、頸部回旋運動における椎骨動脈血流変化についての科学的な理解が重要である。
著者
守安 由香 森近 貴幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P2273-E4P2273, 2010

【目的】訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)では、利用者の自宅でリハビリテーションを提供するため、利用者以外の家族とも接する機会が多い。訪問した際に、家族と会話を交わすことも多いため利用者を在宅で介護することの悩みや、家族自身の健康面の不安など様々な話を聞くことがある。身体的、精神的に追い詰められているケースも少なくない。そこで、利用者を対象に現状の問題点を調査し、理学療法分野における家族ケアの必要性と訪問リハの可能性を見出すこととした。<BR>【方法】当院訪問リハ利用者のうち、家族ケアが必要であると考えられた2症例について検討を行った。<BR>ケース1:脳梗塞後遺症、慢性心不全、呼吸不全で在宅酸素療法を実施している80歳代女性。夫と二人暮らしで、家事はほぼ夫が行っている。FIM72点。HDS-R22点。うつ傾向があり精神科通院中。夫への依存、暴言があるが、通所サービスは本人が拒否しており、夫は介護負担感あり。このケースに対しては、夫の介護負担感が増加しており夫自身の健康面の不安も多くなってきていることから、通所サービス利用に向けて訪問する度に話し合いを設けた。利用者の生活リズムの構築、他者との交流という目的と、夫が自由に使うことができる時間(通院など)の確保という点から通所サービスを利用することの重要性を説明した。<BR>ケース2:脳梗塞後遺症による左片麻痺の70歳代男性。妻と二人暮らし。FIM84点。妻は利用者を積極的に歩行練習や映画に連れて行っているが、商業施設のハード面の不満などを感じ、障害者を介護することへの孤独感やいらだちを漏らすことが多い。このケースに対しては、介護保険サービスや自治体の制度についての関心も高かったため、それらについての情報提供や説明をその都度行った。訪問した際には妻からの話を聞く時間も取り、また妻への介助方法の指導も行った。<BR>【説明と同意】症例に挙げた利用者および家族に対して本研究について十分説明をした上で納得・同意を得た。また、結果において個人情報が漏れないことを説明し、同意書に署名していただいた。<BR>【結果】当院訪問リハ利用者のうち、一人暮らしではなく家族がいるケースではほぼ何らかの問題を抱えているということが分かった。ケース1については、利用者が通所サービスの利用を強く拒否していたが、利用者、家族、担当PTと話し合いを重ねることで生活リズムを作ること、および夫が自分のために使える時間を確保することの大切さを理解してもらうことができた。夫ともコミュニケーションをしっかりとることで悩みを傾聴した。そして、利用者は通所サービスを利用し始めることができ、夫も自分の時間を持つことができたため息抜きができている。また、訪問リハ以外の日でも夫が進んで利用者の歩行練習を行うようになり、歩行能力の向上が認められた。<BR>ケース2については、妻から行政やデパートなどの施設への不満を話されることが多いため、しっかりと傾聴して各種相談窓口や介護保険についての情報を提供したことで信頼関係を築くことができた。通所サービスへの要望も出てきたため、ケアマネジャー、通所サービススタッフ、担当PTと利用者・妻とでカンファレンスを開催し、情報の共有ができた。<BR>【考察】上記二つのケースを通して、利用者と家族が同居しているケースでは内容は様々ではあるが何らかの問題を抱えていると考えられる。在宅で利用者を介護する家族は相談相手がいない状況も多く、思いつめてしまうことがある。利用者は通所サービスなどで他者との交流があるが、家族はなかなかそのような機会を持つことができていないのが現状である。訪問リハでは、利用者とその利用者を看護・介護する家族等へのサービスの提供も含まれている。サービス提供の対象者は利用者であるが、その家族も含めてケアを行うことで利用者を取り巻く環境に介入することができると考えられる。看護の分野では家族ケアが重要視されているが、これからはリハの分野でも家族ケアが必要になってくると考えられる。利用者の家庭に入っていく訪問リハにおいては特に重要で、家族も含めた家庭全体をみていくことが、利用者一人一人にとってのより良い生活を送ることに繋がると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】高齢化が進む中で、在宅で介護を行う家庭は更に増加することが予想される。今後も訪問リハの需要が増加するため理学療法の分野でも家族ケアに関する研究が重要となり、利用者とともにその家族への介入の必要性が高まってくる。
著者
由利 真 堀 弘明 千葉 健
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48102116-48102116, 2013

【はじめに】 厚生労働省の患者調査によると、精神疾患患者数は平成11年に約204万人であったが、平成20年には約323万人に増加している。精神科領域における医学的・社会的リハビリテーションは、主に医師、看護師、作業療法士によって行われてきた経緯がある。奈良は、精神疾患を有する患者に適切な身体運動を定期的に行うことの重要性を示唆し、精神科領域における理学療法(以下、PT)介入の必要性を提言している。 精神科領域におけるPT介入の効果に関する報告は増えているが、集団療法に関する研究が多く、精神科入院中の患者に対してベッドサイド(以下、Bedside)から個別療法による理学療法を行い、その効果について検討した報告はない。 本研究の目的は、精神科に入院中の精神疾患患者に対する理学療法の実施状況を調査し、適切な介入方法の一助を得ることである。【方法】 対象は、2008年4月1日から2011年9月30日の期間においてA大学病院で理学療法を実施した精神疾患患者とした。 検討項目は、精神疾患患者にPTを実施した回数(以下、PT回数)、PT開始から終了までの日数(以下、PT期間)、1週間あたりのPT実施回数(以下、PT頻度)とした。除外基準は、精神科の閉鎖病棟あるいは開放病棟に入院中以外の患者とした。精神疾患患者は電子カルテより後方視的に調査し、対象となった延べ人数は84名であり、内訳は男性39名、女性45名、平均年齢52.0±18.0歳であった。 対象の精神疾患患者は閉鎖病棟あるいは開放病棟に入院しており、PTを実施する際はBedsideあるいは運動療法室(以下、Gym)で開始されていた。本研究では、入院病棟(閉鎖病棟と開放病棟)の違いとPT実施場所(BedsideとGym)の違いの要因について、2要因分散分析を行った。なお、統計ソフトはSPSS17.0を用いて危険率は5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、当院の倫理委員会の承認を得て、当院の個人情報保護のガイドラインに沿って行った。【結果】 PT回数は54.4±50.8回、PT期間は108.9±101.3日、PT頻度は3.7±1.0回/Wであった。また、閉鎖病棟に入院中でBedsideから開始した患者は23名であり、PT回数、PT期間、PT頻度の各値は、79.7±60.6回、159.0±128.2日、3.6±0.6回/Wであった。閉鎖病棟に入院中でGymから開始した患者は8名であり、PT回数、PT期間、PT頻度の各値は、26.1±19.9回、58.6±32.6日、3.1±1.1回/Wであった。開放病棟に入院中でBedsideから開始した患者は16名であり、PT回数、PT期間、PT頻度の各値は、71.2±59.1回、139.0±101.3日、4.0±1.3回/Wであった。開放病棟に入院中でGymから開始した患者は37名であり、PT回数、PT期間、PT頻度の各値は、37.4±30.5回、75.6±67.3日、3.7±0.9回/Wであった。 PT回数とPT期間の2要因分散分析のそれぞれの結果は、入院病棟とPT実施場所の交互作用は有意ではなかったが、PT実施場所の主効果は有意であった。また、PT頻度の2要因分散分析の結果は、入院病棟とPT実施場所の交互作用は有意ではなかったが、入院病棟の主効果は有意であった。【考察】 精神疾患患者に対するPTでは、集団療法による検討が多く、個別療法を行った際のPT頻度は、1週間に1~2回程度が適度とする報告も多い。しかし、急性期の精神疾患患者に対するPTの個別訓練に関する検討は十分に行われていない。本研究のPT頻度は3.7±1.0回であり、過去の研究と比較するとPT頻度は大きな値であり、治療効果が得られるようなPT頻度であったと思われる。 本研究の2要因分散分析の結果、PT回数とPT期間には交互作用は有意ではなかったが、PT実施場所の主効果は有意であった。この結果は、PT実施場所の単独の効果であり、BedsideからPTを開始した精神疾患患者のPT回数とPT期間は増加することを示めしている。また、PT頻度の2要因分散分析の結果では、交互作用は有意ではなかったが、入院病棟の主効果が有意であった。この結果は、閉鎖病棟でPTを開始した精神疾患患者のPT頻度は有意に低い値となることを示している。これらの結果より、PTをBedsideで開始する必要がある精神疾患患者では、PT回数やPT期間を短縮させるような介入が重要であり、閉鎖病棟に入院している精神疾患患者ではPT頻度が低くならないような適切な介入方法について検討することが必要であることを本研究は示唆した。【理学療法学研究としての意義】 精神疾患患者にPTを実施する際、Bedsideで開始した場合にはPT回数やPT期間を短縮させるような介入が重要であり、閉鎖病棟に入院している場合にはPT頻度が低くならないような介入の重要性を本研究は示唆した。
著者
田村 直子 黒川 直樹 武田 士郎 山本 美和 横内 亜紀 金指 巌
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ed0829-Ed0829, 2012

【はじめに、目的】 本市では、介護保険制度の開始と並行して一次予防事業対象者に対する介護予防事業を地域で実施しながら、事業内容や展開方法等の検討を行ってきた。そして平成18年の地域支援事業創設に伴い高齢者運動支援事業(以下健康教室)を企画し、市内全域での事業展開を図ってきた。今回本市で実施するこれらの介護予防事業について紹介すると共に、行政機関の理学療法士が限られたマンパワーの中で地域においてどのような役割を果たすべきか、課題や今後の方向性について報告する。【方法】 健康教室は65歳以上の要介護認定を受けていない高齢者を対象に市内の公民館等で実施しており、血圧測定等の健康チェック、理学療法士による体幹・下肢を中心としたストレッチや筋力強化等の運動プログラムを地域の会場で継続的に実施している。当初は月2回の開催(隔週)であったが、参加者からの要望を受け週1回の開催に変更し、その際にマンパワーを増加しないまま実施回数を増やすために、参加者の運動グループ(以下自主グループA)を育成するとともに、音声媒体(CD等)と音響機器を準備し、理学療法士なしでも同様の運動が行えるように運動プログラムを作成した。さらに、参加者の増加で受け入れが困難になってきた会場は、開催時間を分けて二部制とし、より多くの希望者が継続的に参加できる状況を整備した。健康教室は参加者の大半を女性が占め、男性が参加し難い状況であったため、男性の要望を調査した上で、男性限定での会場を新たに設置した。事業を継続して実施する中で、公民館等よりもっと身近な、団地の自治会や町内会等の単位で運動を継続して行いたいとの要望を受けるようになってきたため、参加者自身が会場を確保し、そこに行政が側面から技術的な支援を行うというグループ(以下自主グループB)が誕生した。なお、本事業に従事している理学療法士の数は8名(常勤5名、雇い上げ3名)で、開始された平成18年度から現在まで増員はしていない。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究については参加者に目的等について口頭で説明し同意を得た。【結果】 健康教室の実績は、平成20年度:35会場、実人数1,609人、延人数31,236人、自主グループA数32、自主グループB数4、平成21年度:39会場、実人数1,877人、延人数33,788人、自主グループA数33、自主グループB数6、平成22年度:41会場、実人数1,945人、延人数36,664人、自主グループA数37、自主グループB数6であった。健康教室が開始された平成18年度は、25会場、実人数1,405人、延人数12,207人、自主グループA数10、自主グループB数1であった。【考察】 介護予防を目的として理学療法士が介入する最大のメリットは、高齢者の運動機能の維持・向上に対して専門的にアプローチできることであると思われる。そのためには、継続的に運動を実施する機会と場所を保障することと、具体的な運動方法を提供することが重要なポイントであると考えられる。健康教室は当初、行政主体で事業展開を図ってきたが、参加者の中から自主グループAが発生し、その育成支援を図るとともに、市内全域での事業展開へと拡大していった。自主グループBが誕生した要因は、住民が健康教室に参加することで運動の効果や介護予防の重要性を認識し、さらに自主グループAで培われた運営のノウハウを得たことで、会場まで来られない近隣の人にも運動を提供したいという意識が住民に芽生えたものと考えられる。このように自ら希望し教室を運営するグループが増加することは、移動能力の低い虚弱な高齢者への運動機会の提供にもつながり、本市の介護予防事業が地域社会の中に根差していく上で効果的な活動であると認識している。行政主体で開始した事業をきっかけに、住民のニーズに応じて理学療法士がその専門性を発揮しながら、事業形態を変化させ、住民と協働して事業を実施することによって、様々な形の自主的な活動が誕生している。さらにこのような活動を広げることで限られたマンパワーでも多くの高齢者に介護予防サービスを提供することが可能となり、医療費削減や介護給付費の抑制にもつながると考えられる。今後も、介護予防に対する住民の意識の向上を図るとともに、住民の声を事業に積極的に反映させることによって、行政と地域住民がそれぞれの役割を認識し、より効果的な介護予防事業が展開できると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士が従来の対患者という個々に対する関わりから、行政の実施する住民サービスの中で専門性をどのように発揮し、かつ効果をあげることができるか。介護予防に資する運動の定期的な実践や住民の意識啓発等の取り組みを通して、集団に対する具体的なアプローチを考える上で有用であると思われる。
著者
矢野 昌充
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3143-A3P3143, 2009

【目的】<BR>筋力が増大する要因として、運動単位の動員の増加や筋断面積の拡大が考えられている.<BR>後藤らによると,筋細胞の肥大は、筋細胞内におけるタンパク質の合成増加およびサテライトセルの融合によると述べており、筋細胞数の増加に関しては、負荷増大により個々の筋細胞が肥大すると同時に小さな中心核を持った新たな筋細胞の形成をもたらすとされている.<BR>また、温熱負荷による筋肥大の機序について、温熱負荷によりタンパク質の合成が分解に対して相対的に賦活化されることで、温熱負荷のみで筋肥大が引き起こすと述べている.<BR>我々は、第24回東海北陸理学療法学術大会において報告した、8回1セットという低い運動強度での同様の実験では、温熱負荷の影響を見出せなかった.そこで本実験では、極超短波を用い肘関節屈筋群に温熱負荷を加えた後に運動負荷を上げて筋力強化を行い、筋厚の変化を検証し,温熱負荷と筋肥大の関係を明らかにすることを目的とした.<BR>【方法】<BR>被験者は実験の主旨を説明し同意を得た、神経学的・整形外科的疾患のない健常男性19名、彼らを無作為に温熱群9名(年齢21.0±1.1歳)、非温熱群10名(年齢21.2±0.4歳<BR>)とした.温熱群には極超短波装置インバータパルスマイクロージョ MJI-800W(SAKAI社製)を使用し、照射距離は被検筋の膨隆部直上から垂直に10cmの位置にし、振動周波数は2450MHz、照射時間は10分間とし、肘関節屈筋群の最大膨隆部に温熱負荷を加えた.また、両群ともに筋力強化は、鉄アレイを用い、運動強度70%1RM、反復回数は10回を3セット、頻度は週に3回、実験期間は6週間とした.筋厚の測定は、超音波診断装置(日立メディコ、ECHOPAL2)を用い、実験前後の肘関節屈筋群の最大膨留部を測定し比較・検討した.各群における実験前後の筋厚と両群の筋厚の変化度の比較は、各々、対応のあるt検定と対応のないt検定を用いた.有意水準は5%とした.<BR>【結果】<BR>温熱群において、実験前29.6±4.4、実験後31.8±5.5であり有意差を認めた.非温熱群の実験前後および両群の筋厚の変化度比較においては有意差を認めなかった.<BR>【考察】<BR>本実験では、温熱群では実験前後に有意な筋厚の増大が認められ、非温熱群では認められなかった.このことから温熱負荷によって筋肥大が生じる一定の効果があることが示唆された.しかし、両群の筋厚の変化度の比較では有意差は認められなかった.本実験では、被験者数が少なく、被験者間の効果に差違があったことが推察される.また、後藤や小島は,低温かつ長時間の温熱負荷は筋肥大を引き起こし、筋力増強をもたらす刺激になり得ると報告している.本実験の極超短波による10分間の急速な温熱負荷方法では,筋タンパク質の合成の賦活化は不十分であったことも伺われ、今後さらに、筋力増強につながるような筋肥大には温熱負荷方法と筋力強化方法を、さらに検討していく必要があると考えられる.