著者
谷口 忍 国中 優治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P2578-G3P2578, 2009

【はじめに】PTとしての将来に不安を感じる最近の医療情勢は、若い世代にとって深刻な問題である.しかしながら、PTの知識や技術の可能性はまだまだ可能性があることは誰しもが承知であろう.そこで今回、PTの職域拡大への取り組みとして美容業界への参入を目指し、エステティシャンへの医学的知識の提供や美容系イベントの参加を経験して感じた将来的展望を報告する.<BR>【方法】1,美容メニューであるフェイシャルアプローチの施術に必要と考えられる医学的根拠(解剖学や生理学を中心に)を機器メーカー、美容外科に所属するエステティシャンに提供した.2,700人参加規模の一般女性向けイベントにて、美容系の各業種が集まる中、PT及びエステティシャンの混成チームとしてブースを設け、施術を行った.施術には通電装置であるElectrical Muscle Stimulation:EMS(商品名プロテクノPNF アルファトリニティ社製)を用いた.その効果は、a.表情筋への通電刺激による目尻、口角の位置を高位にする.b.下顎部のむくみを除去することで、フェイスラインに変化をもたらす.C.機器の特徴である中周波以上の周波数が、真皮層の血管拡張を促すことで肌に透明感を与え、美白効果をもたらす.また、表皮層のきめ細かさの現れによる化粧のりの良さなどが挙げられる.<BR>【結果及び考察】エステティシャンへの医学的知識の提供は、論理的な思考における施術への導きとなった.近年、美容業界においても、医学的根拠が求められる時代となり、その習得はサービスの質の高さを保証することとなっている.しかし、「メディカル~」などといったキャッチコピー的な扱いにより、実際のサービスとの差異が大きいのもトラブルの原因となっているようである.医学的知識の習得はエステティシャンにとって、サービスの質の向上として強く必要とされていることは確かであり、医学的知識を教授されているのも事実ではあるが、教授内容やその習得度が施術とは程遠く、実際にはマニュアル的な知識としてしか持ちえていないようである.その上、話題性にスピードが必要とされるあまり、不十分な状態でクライアントに提供してしまうなどの問題点がある.よって、我々が専門知識を提供する役割は非常に高いと感じている.<BR>【おわりに】PTがエステティシャンになり変われるかというと、簡単ではないようである.エステティシャンの接客対応(格好、言葉遣いなど)や経営理論、及びファッション性に関しての資質は高く、保険診療下におけるPTにとって、大きな課題であると思われる.また、エステ業界に参入しようと、エステティシャンの資格を取得する女性PTが増えつつあるが、PTとしての落とし込みがうまくいかないのも現状としてみられる.よって課題は多いが、参入に関するシステムの組み方及び人材次第で可能性は十分にあると思われる.
著者
関 裕也 関 貴子 黒沢 明子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B3O1059-B3O1059, 2010

【目的】脳卒中片麻痺の麻痺側下肢筋力を対象とした研究では、大腿四頭筋のみを指標としているものが多い。しかし、脳卒中片麻痺の下肢筋力と他の因子との関係を調べる上で、大腿四頭筋のみの指標で十分なのだろうか。日々の臨床では、麻痺側大腿四頭筋を重点的に強化しても能力が改善しない例を多く経験するため、大腿四頭筋以外に重視すべき筋があるのではないかと疑問に感じている。そこで今回、ハンドヘルドダイナモメーター(以下、HHD)を用いて脳卒中片麻痺患者の大腿四頭筋を含む複数の下肢筋力を測定し、バランス・歩行・ADLとの相関を検討した。<BR>【方法】対象は、歩行能力が監視レベル以上の脳卒中片麻痺患者22名(男性14名、女性8名、平均年齢61.9±8.8歳、平均罹患期間66.2±70.1ヶ月)である。HHD(μTasF-1:アニマ社製)を用いた麻痺側下肢の筋力測定は、前脛骨筋、下腿三頭筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、股関節屈筋、伸筋、内転筋、外転筋を対象に行った。測定は、最大努力の等尺性収縮を5秒間行わせた。1回の練習後、30秒以上の間隔をあけ2回測定し、最大値を採用した。そして得られた値(N)に、関節からセンサーまでの距離(m)を乗じてトルク値を求め、さらにデータを標準化するためにトルク値を対象者の体重(kg)で除して筋力値(Nm/kg)とした。バランスおよび歩行指標はFunctional Reach Test(以下、FRT)、10m歩行速度(以下、歩行速度)、Timed U p & Go Test(以下、TUG)を計測した。歩行速度とTUGはいずれも最速歩行で計測した。ADL指標はFIMを用いた。統計学的解析は、各筋力値とFRT、歩行速度、TUG、FIMの間で、Pearsonの相関係数検定を実施した。<BR>【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に沿って計画した。対象者には本研究についての説明を行い、同意を得た上で計測を行った。<BR>【結果】前脛骨筋、大腿四頭筋、股関節内転筋、外転筋においてFRT(r=0.44, 0.45, 0.65, 0.64)、歩行速度(r=0.52, 0.51, 0.68, 0.70)、TUG(r=-0.45, -0.49, -0.64, -0.71)、FIM(r=0.45, 0.46, 0.65, 0.58)の全指標と相関が認められた(前脛骨筋と大腿四頭筋はp<0.05、股関節内転筋と外転筋はp<0.01)。また、股関節伸筋はいずれの指標とも相関が認められなかった。その他の筋に関しては、部分的な相関しか認められなかった。<BR>【考察】結果より、バランス・歩行・ADLと相関の認められた筋は、前頸骨筋、大腿四頭筋、股関節内転筋、外転筋であった。特に股関節内転筋と外転筋は前2者に比して高い相関が認められた。股関節内転筋が全指標と相関するのは仮説に反していたが、股関節外転筋との同時収縮で骨盤の側方安定性を得るために重要な役割を果たしていると解釈できる。以上より、脳卒中片麻痺の能力との関係を調べる際、大腿四頭筋だけでなく骨盤の側方安定性に関与する股関節内・外転筋群も指標として用いる方が、より的確に関係性を捉えることができると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺の麻痺側下肢筋力を対象とした先行研究の多くは大腿四頭筋のみを指標としているが、本研究結果から股関節内・外転筋群の方が指標として適している可能性が示唆された。さらに、麻痺側股関節内・外転筋群を強化し、同時収縮を促すことで、脳卒中片麻痺の能力が向上する可能性も示唆された。この点については、今後検討を重ねていきたい。
著者
西村 純 市橋 則明
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A0417-A0417, 2005

【はじめに】ラグビー選手にとって、筋力と持久力はパフォーマンスに直結する非常に重要な要素である。スクラム、ダッシュなどポジションによって求められる能力は異なるものの筋力は、競技の中で常にパフォーマンスに影響する。持久力の指標には、最大酸素摂取量などが用いられるが、実際の競技では有酸素性能力だけではなく、無酵素性能力を維持する能力も重要となる。そこで今回我々は、筋力測定と無酵素能力の持久力を測定する間歇的ペダリングテストを行い、ポジション別に比較・検討し、若干の知見を得たので報告する。<BR>【対象および方法】対象はラグビー部(関西大学Bリーグ)に所属する男子学生30名(平均年齢20.6±1.2歳)とした。間歇的ペダリングテストには自転車エルゴメーター(コンビ社製のPOWER MAX V)を用い、ペダリングの負荷は被験者の体重の7.5%(kp)とした。合計12回、5秒間の全力ペダリングを行い、最初3回の最大値を体重で除した値を最大パワーとした。また、最後3回の平均値を体重で除した値を持久パワーとした。さらに、最大パワーと持久パワーの差を最大パワーで除した値を低下率とした。12回のペダリング間で、最初2度の休憩は十分に取り(5分以上)、その後9度の休憩は20秒とした。筋力測定には等速性筋力評価訓練装置MYORET(川崎重工業株式会社製RZ450)を用い、角速度60、180、300deg/secでの等速性膝関節屈伸筋力を測定した。3回の膝屈伸動作の最高値をピークトルクとして求め、トルク体重比(ピークトルク/体重)を測定した。分析は30名をポジション(フォワード17名、バックス13名)に分け、ポジション間で最大パワー、持久パワー、低下率、トルク体重比を比較した。また、持久パワーの高かった順に15名ずつのグループに分け、両グループ間で低下率、最大パワーを比較した。<BR>【結果および考察】膝屈伸筋力のポジション間の比較では、膝伸展筋力はすべての角速度で有意な違いがみられなかったが、膝屈曲筋力においてはバックス(BK)はフォワード(FW)に比べ180(BK:1.64 Nm/kg、FW:1.42 Nm/kg)、300(BK:1.38 Nm/kg、FW:1.20 Nm/kg)deg/secにおいて有意に高い値を示した。ペダリングでの最大パワー、持久パワーには有意な違いはみられなかったが、低下率はBKの方が有意に高かった(BK:25%、FW:19%)。また、持久パワーの高かった順でグループに分けた場合には、持久パワーが高かったグループは、低かったクループに比べ、低下率(高かったグループ:16%、低かったグループ:28%)が有意に低かったが、最大パワー(高かったグループ:11.3 W/kg、低かったグループ:11.7 W/kg)に有意差は見られなかった。持久パワーは、無酸素能力の持久力を測定する指標として重要であることが示唆された。
著者
笹井 宣昌 縣 信秀 宮津 真寿美 早川 公英 河上 敬介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0458-A0458, 2008

【目的】負荷運動により骨格筋が肥大して、筋力が増強される。運動中、収縮力に対抗する力学的負荷(張力)が筋に働く。その張力が加わることが、筋肥大に重要であると考えられる。しかし、その分子メカニズムは十分に解明されていない。これまでに我々は、培養骨格筋細胞の伸張刺激による肥大に、自己・傍分泌を介して PI3K/Akt/TOR 経路が働くことを支持する結果を得た。そこで今回は、伸張刺激による自己・傍分泌が、伸張刺激による肥大に十分であるかどうかを調べた。<BR><BR>【方法】ニワトリ胚胸筋由来の筋芽細胞を、 collagen type I をコートした薄いシリコン膜上に初代培養した。筋線維様に成長した筋管(筋細胞)が一定方向に並ぶように工夫した。培養 5 日目の筋管に、その長軸方向の周期的伸張刺激(周期 1/6 Hz、伸張率 10%)を、 72 時間加えて伸張群とした。伸張群と同じチャンバー内で、非伸張の細胞(同チャンバー非伸張群)と、それらと別のチャンバー内で、非伸張とした細胞(別チャンバー非伸張群)を実験対照として用いた。各群における筋管の太さ(直径)を、次の手順で計測した。 4% パラフォルムアルデヒドで固定した細胞の位相差顕微鏡像を、デジタルカメラで、シリコン膜全域に亘り任意に撮影した。画像解析ソフト Scion Image を用いて、筋管の直径を計測した。尚、本研究は、名古屋大学における動物実験に関する規定・指針に従って行われた。<BR><BR>【結果】筋管の太さ (mean ± SD) は、別チャンバー非伸張群 20.9 ± 9.7 μm (n = 215)、同チャンバー非伸張群 21.5 ± 11.6 μm (n = 91) に対して、伸張群 34.1 ± 18.2 μm (n = 103) であり、伸張群の筋管が有意に肥大した (p < 0.01)。なお、別チャンバー非伸張群の mean + 1SD を超える太さの筋管が占める割合は、同群 15.8% に対して、同チャンバー非伸張群 26.2%、伸張群 48.6% であり、伸張群のみならず、同チャンバー非伸張群にも太い筋管が増えていた。<BR><BR>【考察】同チャンバー非伸張群で、十分な肥大が見られなかった。よって、自己・傍分泌を介した PI3K/Akt/TOR 経路の活性化は、本系の肥大に十分ではない。しかし、その PI3K/Akt/TOR 経路を阻害すると、伸張群の肥大が顕著に抑制されることは分かっている。これらの点から、同経路は、この伸張刺激による肥大に関連するが、その働きは、主に自己・傍分泌とは別に調節されていることが考えられた。<BR><BR>【略称】PI3K: phosphatidylinositol 3-kinase, TOR: target of rapamycin
著者
中江 秀幸 對馬 均
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.B0673-B0673, 2008

【目的】パーキンソン病患者(以下PD)では、その症状の進行や精神的緊張などにより一日の身体活動量が低下したり変動したりする。したがって、在宅PDの支援を展開するには、実際の生活場面での活動状況や生活構造を評価し、その経時的変化を的確に把握することが重要となる。そこで本研究では、在宅PDの24時間の身体活動を定量的かつ定性的に把握する方法として、三軸加速度計を用いた評価方法を開発し、その有効性を明らかにすることを目的とした。 <BR>【方法】対象は在宅PD7名とした。内訳は、平均年齢68.1±4.2歳、Hoehn&Yahrのstage(以下stage)II度3名・III度3名・IV度1名、FIMの得点は平均97.3±27.0点であった。身体活動の評価は、MicroStone社製三軸加速度計を腹部に固定し、x・y・z加速度から合成成分を算出し、時間で積分した24時間分の総力積(kgm/day)を身体活動の量的指標とした。同時にソリッドブレインズ社製"生活活動度計(A-MES)"を用い、1日の中で臥位・座位・立位・歩行の各姿勢動作が占める時間数、および姿勢変換回数と寝返り回数を測定し、身体活動の質的指標とした。 <BR>【結果】対象者の平均活動量は、総力積:1.67±0.64kgm/dayであった。各姿勢の占める平均時間数は、臥位:7.7±1.8時間、座位:10.4±3.0時間、立位3.6±1.9時間、歩行3.0±2.2時間と、座位が43.3%を占めていた。姿勢変換の総回数平均は786±326回、臥位-座位の変換では458±281回、座位-立位の変換では282±178回と、臥位-座位間の姿勢変換が約60%を占めていた。また、寝返り回数は62±77回であった。総力積と他の変数間では、stageとの相関は認められなかったものの、FIMとの間では有意な相関(r=0.707)を認めた。同様に、総力積と歩行時間との相関(r=0.905)は認められたが、他の姿勢時間や姿勢変換回数との間には相関を認めなかった。なお、立位時間と座位時間(r=-0.914)、臥位時間とstage(r=0.772)の間には相関が認められた。 <BR>【考察】我々が若年成人と一般高齢者を対象として行った先行研究の結果と比較すると、24時間の総力積値は若年成人で2.04±0.29kgm/day、一般高齢者で1.65±0.40kgm/dayであったことから、本研究のPDの総力積値は一般高齢者と同程度であった。対象者が7名と少なかったため、総力積とstageの関連性まで言及できなかったが、総力積と歩行時間並びにFIMとの間に相関が認められたことから、今回のような三軸加速度計と生活活動度計を用いて在宅PDの身体活動を量的・質的に評価することの可能性が示されたものと考える。<BR>
著者
岸川 倫子 大橋 淳司 後藤 悦子 石澤 充 杉田 勇 浜 一広
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.760-760, 2003

【はじめに】回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)の利点にADL能力の向上や生活全体の活発化などが挙げられる。当院においては2003年4月の開設に向けて2002年10月より仮施行してきた。その中で患者の「しているADL」と「できるADL」の差に着目し、11月時点での実態をアンケート調査し検討を行ったので報告する。【対象と方法】当院回復期リハ病棟に関わる理学療法士、作業療法士、言語聴覚士(以下リハスタッフ)、看護師、介護員、ソーシャルワーカー、医師、看護助手(以下病棟スタッフ)の計34人を対象に質問紙による選択法と自由回答にてアンケート調査した。内容は(1)「しているADL」と「できるADL」について4項目(2)病棟における他職種、患者との関わりについて1項目(3)情報交換、記録について3項目である。【結果】回収率97%(1)a)「できるADL」を把握している:いる62% いない25% 又、どのように把握したか:カルテ79% カンファレンス(以下カンファ)75% リハスタッフから聴取66% b)「しているADL」を把握している:いる78% いない9% 又、どのように把握したか:カルテ81% カンファ81% 看護師、介護員から聴取90% c)「できるADL」と「しているADL」の差が縮まったと思うか:思う84% 思わない6% d)c)の理由は何か:「できるADL」と「しているADL」を把握できた11件 カンファで全職種が統一した目標を持った9件 リハスタッフの病棟での関わりが増えた4件(2)e)介助方法の指導:リハスタッフ回答-している88% していない0% 病棟スタッフ回答-受けた80% 受けていない4%(3)f)カンファにて他職種との問題の共有:十分90% 不十分0% g)カンファにて今後の方針は:明確96% 不明確0% h)カルテにて今後の方針は:明確50% 不明確25%【考察】「できるADL」と「しているADL」の差が縮まったと8割のスタッフが感じていた。理由として「できるADL」と「しているADL」の把握が出来るようになったからという意見が多かった。把握方法は様々なものがあるが、カルテにて今後の方針は十分と言う意見が5割であるのに対し、カンファでは問題の共有化、今後の方針が明確になったと9割の回答がありカンファの有効性が示された。又、介助方法の指導を受けた病棟スタッフ、指導したリハスタッフが共に8割以上を占めた。これよりリハスタッフの病棟生活への介入が示され「できるADL」と「しているADL」の差を縮めるための行動がとられていることが示唆された。よって、リハスタッフが積極的に病棟生活に介入する事で「できるADL」を病棟スタッフが普段の生活の中での「しているADL」の向上に繋げられたと考えた。今後はADL自立度、在院日数、自宅復帰率に与える影響等を評価・検討していく必要性を感じた。
著者
瀬川 栄一 静間 久晴 柏木 宏彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1120-C4P1120, 2010

【目的】<BR>近年、理学療法士はスポーツ現場より様々な立場での介入を求められることが増加傾向にある。その中でもメディカルスタッフとしてアスリートに対するコンディショニングサポートを要求されることが多い。スポーツ現場においてコンディショニングの用語の定義は難しく、「技術面」、「体力面」、「栄養面」、「用具」など総合的な意味合いで使用されることが多い。中野によれば、競技者のコンディショニングでは、目指す大会期日に照準を合わせてトップコンディショニングになるように準備することを目的とし、選手自らがコントロールしなければならず、選手の主体的なコンディショニング管理はセルフコントロール(自覚的コンディション)が階層的な部分の底辺にあり土台となるとしている。それに対して、理学療法士を含むコーチやトレーナーといった職種のプライマリーケアが競技成績に反映される、とされ重要視されている。本研究においては、2009年5月に行われた水球男子日本代表のワールドリーグアジア大洋州ラウンド遠征に帯同した機会を用いて、競技者の自覚的疲労度と理学療法の介入に焦点をあて関係性を検討する事にした。<BR><BR>【方法】<BR>2009年5月22日~31日においてFINA Water Polo World League 2009 アジア大洋州ラウンドが開催された。日程の詳細は22日~24日(オーストラリアラウンド)、28日~31日(ニュージーランドラウンド)であった。また、ラウンド間の日程は練習を行った。対象は2009年4月に行われた代表選考会により選出され本遠征に参加した男子選手13名、平均年齢22.6±3.18歳。調査期間は2009年5月20日から31日の12日間。理学療法(以下PT)は希望者に対し、夕食後介入した。この間施行したPTは106件あり、処置内容の割合はマッサージ52%、アイシング14%、ストレッチング12%、超音波療法10%、その他12%であった。選手全員は夕食時およびケア対応時に配布された問診表に、疲労・疼痛を感じる部位とその強度を記入した。強度に関しては、疲労を全く感じていない状態を0としてベースラインを設け、疲労は1~3、疼痛は4~6の6段階スコアにて表現した。各選手の訴える身体部位すべてのスコアを合計し、前日との差を求めた。次にそれら全選手11日間分のデータを、前日にPTが介入した群とPTが非介入であった群に振り分け、スコアの合計、延べ人数を算出し比較・検討した。検定にはMann-WhitneyのU検定を用い、有意水準5%にて解析した。<BR><BR>【同意と説明】<BR>対象者には遠征参加時に研究目的・研究内容について十分な説明を行ったうえ同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR>11日間における介入群の延べ人数は62人、合計スコアは-65と自覚的疲労度は減少した。非介入群では延べ人数81人、合計スコアは20という値を示した。2群間において、介入群に有意な疲労度の減少が認められた(p<0.05)。<BR><BR>【考察】<BR>今回、短期間の横断的手法であったものの、理学療法の介入が選手の自覚的疲労度を低下させる結果を得られた。遠征初期では約2週間の国内事前合宿と長時間の移動による影響から不安定な値を示した可能性が考えられた。ファーストラウンドの終了した24日には大会主催の食事会があり、介入する事ができず翌日に疲労度を上昇させた要因と考えた。<BR>セルフコントロールがコンディショニング作りの基礎であると考えるならば、主観的な感覚にアプローチする意義はある。そして、アスリート自身が疲労感を自覚的にとらえることができるような指導を行わなければならない。アスリートの主たる内省報告の内容は「筋肉のハリ」や「痛み」、「違和感」といった抽象的なものが大部分を占めている。それらの要求を軽減させることが選手やチームのコンディショニングの向上につながるであろう。これらはいわゆる遅発性筋痛(delayed on-set muscle soreness: DOMS)に対するアプローチと言い換えられることも考えられ、処置内容の生理学的考察と内省報告との相関を検討することを今後の課題とした。<BR>【理学療法学としての意義】<BR>スポーツの現場からは常に理学療法士としての介入を求められるとは限らない。特に「アスレチックトレーナー」としての介入が一般化してきている。そのうえ合宿や大会期間のみという短期間で「競技成績」や「パフォーマンスの向上」といった、チームに対する貢献度が我々の業務評価につながることもあり、「チーム強化」という目的を意識しなくてはいけない。このような需要にこたえることが理学療法士の社会的地位向上や職域拡大の一助となるであろう。また、自覚的な疲労感を考察することは一般の医療機関における臨床場面においてもフィードバックできる要素と考える。<BR>
著者
高橋 光彦 笠原 敏史 水村 瞬 永谷 祐美子 佐藤 貴一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0616-A0616, 2006

【目的】<BR>端坐位での静的・動的側方傾斜刺激に対する姿勢反応を明らかにする.<BR><BR>【方法】<BR> 静的側方傾斜刺激:被験者は健康な男子大学生9名であり,平均年齢22.1±1.9歳,平均身長173.1±2.4cm.被験者に電動ティルトテーブル上で,上肢は胸の前に組ませ,下肢は股関節内外転中間位,骨盤は中間位になるように端座位になり、傾斜角度は0°から5°間隔で7つの肢位(30°まで)で実施し,それぞれの角度で10秒間坐位保持を実施し、頸部,体幹の傾斜角度を解析する.<BR> 動的側方傾斜刺激:被験者は男子大学生6名であり、平均年齢23.2±2.2歳.被験者には全身黒タイツを着用し、反射マーカーを付けて電動ティルトテーブルに座り、上肢を胸の前で組ませ股関節内外転中間位・骨盤直立位姿勢をとらせ、連続的に右側へ坐面傾斜角度を0°~20°増加させ、開眼・閉眼状態でそれぞれランダムに実施し、頸部,体幹の傾斜角度を解析する.<BR><BR>【結果】<BR> 静的側方傾斜刺激:頸部,体幹のそれぞれの座面傾斜角度における0°との比較では,座面傾斜角度の増加に対して頸部,体幹傾斜角度も増加した.<BR>頸部,体幹のそれぞれの角度における左右の傾斜での比較では,座面傾斜角度が増加しても左右の頸部,体幹それぞれの傾斜角度で有意差はみられなかった.傾斜角度が増加するにつれて,頸部の傾斜角度は右傾斜がより増加する傾向があり,体幹は左傾斜がより増加する傾向にあった.<BR> 動的側方傾斜刺激:頸部は、開眼時・閉眼時とも坐面傾斜角度8°付近までは坐面傾斜角度が増加するに伴い頸部傾斜角度も急激に増加していき、8°以上は緩やかな増加となり、18°付近で傾斜角度は減少した。<BR><BR>【考察】<BR> 静的側方傾斜刺激:頸部,体幹傾斜角度は20°では全てで有意差があり,20°付近から頸部,体幹の立ち直り(頸部,体幹を水平に保つこととする)よりもバランス反応が優位になり,姿勢保持のために頸部,体幹傾斜角度が増加していると考えられる。<BR> 動的側方傾斜刺激:各坐面傾斜角度で頸部傾斜角度と体幹傾斜角度の有意差はなく、両者とも8°付近で最大となりその後18°付近から減少していることから、同様のパターンで傾斜していると言える。これは頸部・体幹の反応は連動して行われていることを示唆している。<BR><BR>【まとめ】傾斜反応において、立ち直り反応は出現するが、傾斜角度を増加させると、立ち直り反応を抑制しバランス反応が優先されるよう姿勢変化することがわかった。
著者
安里 和也 大神 裕俊 比嘉 裕 石井 慎一郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0070-A0070, 2007

【はじめに】 臨床上、腰椎や骨盤の可動性を上げることで、歩行中の「歩きやすさ」や歩幅が増大することが確認される。しかし、腰椎・骨盤の運動前後で変化を明示した研究は見当たらない。そこで今回、実際に腰椎・骨盤運動前後での歩行の変化を調査し、得られた結果と若干の知見を交え報告する。<BR><BR>【対象と方法】 本研究の趣旨を充分に説明し、賛同を得た健常成人男性7名(平均年齢26.0±7.26歳)を対象とし、骨盤運動前後での歩行変化を比較した。骨盤運動とは、足関節・膝関節・股関節がそれぞれ90度になるようにセットした端坐位にて、体幹を伸ばす・丸めると連動して骨盤を前傾・後傾させる運動を選択した。また検者の手の感触にて腰椎前弯の分節的な動きが確認できるまで運動を繰り返した。歩行分析にはVicon-peak社製三次元動作解析装置を使用し、歩行は自然歩行(以下、歩行)とし、骨盤運動前後に4試行ずつ行った。マーカーは胸骨柄・胸骨剣状突起・第一胸椎棘突起・第10胸椎棘突起・両上前腸骨棘・両上後腸骨棘中間点・左股関節・左大腿骨内側上顆・左大腿骨外側上顆・左外果・左踵骨先端・左第五中足骨頭に貼付し、A:胸郭・B:骨盤の空間に対する角度及びC:骨盤に対する大腿骨(以下、股関節)の角度を求めた。データは前述の4試行の歩行の中からFoot flat時のA~Cを抽出、平均を求め、対応のあるT-検定にて比較した。また、各個人のデータ間の比較として対応のないT-検定を用い、比較した。なお、感想として運動前後の歩きやすさも記録した。<BR><BR>【結果】 骨盤運動前後における歩行に、統一した変化はみられなかった。しかし7例中6例が、骨盤・胸郭・股関節それぞれのXYZ成分9成分中のどれか2つ以上の有意差を認めた。また、全例で骨盤運動後は「歩きやすい」との答えが得られた。<BR><BR>【考察】 結果である、骨盤運動後の「歩きやすさ」という点から察するに、今回の対象者は腰椎・骨盤周辺に不合理な動きがあったと予測される。つまり、腰椎椎間関節・仙腸関節の可動域制限を有していて、骨盤運動により若干、腰椎個々、仙腸関節の可動性が見出され、立位身体質量中心点(以下、重心点)が前方へ移動しやすくなったと考えられる。今回は、そのことへの身体対応の多様さの結果と考えられるのではないだろうか。また統一見解が得られなかったことに関しては、個々の対象者の腰椎・骨盤周辺の不合理さが、研究前からの統一を得ていなかったからでないかとも考えている。<BR><BR>【まとめ】 「ヒトの動き」も物体の移動と同様、力学の本質である重心点移動という視点にたち、動作分析を行うことも一方法に成り得るのではないかと考えられた。
著者
吉田 大輔 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 伊藤 健吾 加藤 隆司 下方 浩史 鷲見 幸彦 遠藤 英俊 鈴木 隆雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1414-EbPI1414, 2011

【目的】物忘れなどの記憶障害は、アルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)の特徴的な前駆症状である。海馬や嗅内野皮質を含んだ内側側頭葉はこの記憶の中枢であり、記憶障害と内側側頭葉の脳萎縮とは密接な関係があると考えられている。一方、日常的に知的な活動や身体活動、あるいは社会活動(社会とのつながり)を保持することは、高齢期における認知症(特にAD)の発症遅延や認知機能の維持にとって有効である可能性が示唆されている。これらのことから、活動性の高い日常生活を送ることは、内側側頭葉の脳萎縮を抑制できると推察されるが、高齢期における内側側頭葉の脳容量と日常生活活動との関係については、これまでほとんど報告されていない。そこで本研究では、どのような日常生活活動が内側側頭葉の脳萎縮と関連があるのか明らかにすることを目的とした。<BR><BR>【方法】主観的な記憶低下の訴えがある、もしくはClinical Dementia Ratingが0.5に該当した65歳以上の地域在住高齢者125名(76.1±7.3歳)を対象とした。すべての対象者は、基本情報に加え一般的な認知機能検査、頭部のmagnetic resonance imaging (MRI)検査を受けた。内側側頭葉における脳萎縮の程度は、MRI検査で得られた画像を基にvoxel-based specific regional analysis system for Alzheimer's disease(VSRAD)を用いて定量的に評価した。日常の生活活動状況は、質問紙を用いて過去1ヶ月における各活動の実施状況(二択式;している/していない)を聴取した。各々の活動項目はセルフケアや手段的日常生活動作、社会活動などの25項目から構成されており、高齢者の生活活動全般を幅広く捉えられる項目内容とした。そして、活動項目ごとに「している」と回答した者(活動群)と「していない」と回答した者(不活動群)の2群間で内側側頭葉の脳萎縮度に差がないか、共分散分析を用いて検討した。なお分析の前段階として、2群いずれかのサンプルサイズが20に満たなかった活動項目は、あらかじめ分析項目から外した。また、年齢と脳萎縮との関係をpearsonの相関係数で確認した。<BR><BR>【説明と同意】すべての対象者に対しては、事前に研究内容を説明し、書面による同意を得た。また、本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得て行った。<BR><BR>【結果】内側側頭葉の脳萎縮と年齢との間には、有意な正の相関関係が認められた(r = 0.457, p < 0.01)。そこで、年齢を共変量とした共分散分析を行い、内側側頭葉の脳萎縮と日常生活活動との関係を検討した結果、「頭を使う活動(将棋や学習)」において、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 6.43, p = 0.01)。同様に、「習い事」においても、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 4.40, p = 0.04)。<BR><BR>【考察】記憶とその関連領域である内側側頭葉の脳容量とは、密接な関係があると考えられている。今回、同領域の脳萎縮と知的活動(「頭を使う活動」)の実施状況との間に関連性が認められたことは、先行研究の結果と矛盾しない。地域高齢者にとって、日常的に知的な活動を取り入れることは、認知機能の低下だけでなく内側側頭葉の脳萎縮も抑制できる可能性が示唆された。ただし、それ以外の活動(主に身体活動)の実施状況と内側側頭葉の脳萎縮については、有意な関連性が認められていない。今後は内側側頭葉以外の領域、あるいは活動の実施頻度を考慮したより詳細な検討が必要と考える。また、日常的な知的活動が内側側頭葉の脳萎縮を抑制できるとの仮説を立証するためには、縦断的な研究や介入研究が必要であり、今後も追跡調査を継続する予定である。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法の現場において、認知機能障害を有する高齢者を対象とするケースは少なくない。本研究は、このような高齢者に対し運動療法だけでなく日常の生活活動状況にも配慮した理学療法戦略が重要であることを示した、意義ある研究であると考えられる。また、今回の研究結果をさらに発展させることで、脳萎縮や認知機能の低下を予防するような方策が将来明らかになると期待している。
著者
相澤 高治 松田 雅弘
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2059-A3O2059, 2010

【目的】<BR>本研究の目的はジャンプ能力と股関節筋力との関係性の検討である。ジャンプ能力と筋力との関係については、太田垣らが等速性膝屈伸筋力との相関があると報告しており、膝屈伸筋力に関しては同様な報告が多数ある。筆者らは第44回全国理学療法学術大会において、熊本らが提唱する機能別実効筋力とジャンプ能力との関係性を検討し、股関節屈筋筋力との関係性を示唆する報告を行なった。しかし、股関節筋力に関する報告は散見する程度であり、更なる検討が必要であると考えた。<BR>【方法】<BR>整形外科的疾患を有しない健常者16人(男性8人、女性8人、身長165.4±8.4 cm、体重59.9±8.7kg、平均年齢19.7歳)を対象とした。筋力測定にはBIODEX(SAKAImed製BDX-4)を用い、右脚の等速性股関節屈伸筋力を角速度60、180、300deg/secで各3回測定した。屈曲、伸展それぞれの最大値を体重で除してトルク体重比として算出した。ジャンプテストは片脚で行ない、全て右脚を測定脚とした。種類は垂直跳び、幅跳び、三段跳び、6mHopの4種目とした。垂直跳びはタッチ式測定法で測定し、着地は両脚とした。幅跳びは踏み切り時のつま先から着地時の踵までの距離を測定し、着地は両脚とした。三段跳びは踏み切り時のつま先から着地時の踵までの距離を測定した。3回連続で前方に跳び、最後の着地は両脚とした。6m Hopは6mの距離を出来るだけ素早くホップし、その時間を測定した。テストは2回実施し良値を採用した。上肢や反体側の下肢についての動作規定は設定しなかった。統計処理はSPSSver15(windows)を使用して4種目のジャンプ能力と股関節屈曲・伸展トルク体重比間における相関をPearsonの相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>ヘルシンキ宣言に基づいて、研究内容の説明、被験者に対する不利益の排除、個人情報の保護を説明し、同意を得た上で実験を行なった。<BR>【結果】<BR>ジャンプ能力とトルク体重比で有意差のあった項目は以下の通りであった。垂直跳び:屈曲60deg/sec(r=0.49)、屈曲180deg/sec(r=0.67)、屈曲300deg/sec(r=0.83)。幅跳び:屈曲180deg/sec(r=0.54)、屈曲300deg/sec(r=0.75)。三段跳び:屈曲180deg/sec(r=0.62)、屈曲300deg/sec(r=0.75)。6mHop:屈曲180deg/sec(r=-0.50)、屈曲300deg/sec(r=-0.64)。伸展に関しては全てに有意差を認めなかった。<BR>【考察】<BR>股関節屈曲筋力と4種目のジャンプ能力との関係性が改めて確認された。小澤らは大腰筋の断面積と重心動揺との関係性の検討から大腰筋が前後方向のバランス能力に関与していると報告しており、また森田らも大腰筋訓練が片脚立位での前後左右方向のバランス能力に寄与したと報告している。本研究は全て片脚でジャンプ動作を行なっており、先の報告以上にバランス能力が求められたと推測される。このことから、股関節屈曲筋力とジャンプ能力の関係性にバランス能力が関与した可能性が示唆される。次に水平方向の要素が強い幅跳び、三段跳び、6mHopと股関節屈曲筋力との関係性で推測されることは着地姿勢への関与である。この3種目は下肢を前方に素早く屈曲させ、着地時に下肢が体幹の前方回転を制動すると推測される。つまり股関節屈曲筋力と着地姿勢形成能力が関係したと示唆される。一方、垂直跳びに関してはRobertsonが動作解析により、下肢伸展筋の貢献度を股関節40%膝関節24%足関節35%だと報告している。しかし今回の結果では伸展筋との相関は確認されず、異なる結果となった。ここで熊本らが提唱する協調制御モデルで考えてみる。モデルでは拮抗筋の同時収縮が系先端(足部)での出力方向制御を担うとされ、4種目とも股関節筋群が方向制御を担当する領域でtake-off時に出力していると推定される。股関節の伸展に拮抗するだけの屈曲筋力があることにより方向制御が可能となると考えられ、出力方向制御能力とジャンプ能力との関係性が示唆される。今後は股関節屈曲筋力とジャンプ能力との関係性は確認できたが、まだ推測の域をでないものが多く、動作の種類やフェーズとの関係性、協調制御モデルにもとづく解析方法の検討など、更なる検討が必要と思われる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>従来の報告は出力を生み出す膝関節に注目が集まり、ジャンプ能力と膝屈伸筋力との関係性に議論が集中していた。しかし私達の研究成果は、股関節屈曲筋力が関与するとされるバランス能力や出力方向制御能力がジャンプ能力と関係することを示唆するもので、他に報告はなく新規性が高い。
著者
木原 秀樹
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D0579-D0579, 2005

【目的】医療の高度化は救命後の障害の重度化をもたらした反面、気管切開児や人工呼吸器装着児などの在宅療養も可能とした。医療的ケア児の在宅療養は理学療法士(PT)のみで支援できるものではないが、呼吸器合併症をもつ児にとって合併症症状の抑制や治癒は、入院児の在宅移行をスムーズにし、在宅療養児の入退院の繰り返しによる家族の介護負担も軽減できる。2例の"いわゆる寝たきり児"を通して、当院における呼吸理学療法アプローチが至った経過を報告する。<BR>【症例1】<診断名>ギランバレー症候群(劇症型)(男児:現4歳)<現病歴>1歳4ヶ月に意識レベルの低下、呼吸抑制を認め当院へ搬送。<経過>1回目入院(231日間)無気肺・肺炎を5回繰り返す。退院時にはペースト食の摂食嚥下、支持坐位が可能。2回目入院(645日間)再発し、入院後から312日間で11回の無気肺・肺炎を繰り返し、気管切開術も施行した。その後、トータル的な呼吸ケアが整った後333日間、呼吸器合併症なく転院。気管切開後から転院後までCVC/WT変化なし。人工呼吸器装着にて"いわゆる寝たきり"の状態のまま転院。<BR>【症例2】<診断名>先天性筋緊張性ジストロフィー(男児:現17歳)<現病歴>9歳まで寝返りとずり這いまで可能であった。当院リハ外来紹介時には"いわゆる寝たきり児"であった。体重が50kg前後あり、母は慢性関節リウマチ、父は慢性腰痛あり、主に祖母が介護キーパーソンであった。<経過>PTが関わりだした2001年5月から2003年12月までの約2年6ヶ月間で、無気肺・肺炎により8回の入退院を繰り返し、気管切開術も施行した。その後、トータル的な呼吸ケアが整った後2004年11月現在までの約1年間で、感染による呼吸器合併症なく在宅療養をしている。<BR>【結果】試行錯誤しながらアプローチを変更し、最終的にどのようにしたら無気肺・肺炎の繰り返しがなくなったのか?<症例1>定期体位変換を左右90°側臥位、腹臥位実施。均一の完全側臥位、腹臥位がとれるように個別のクッションを作製。口鼻腔の涎が少ないときは、椅子坐位の保持による肺容量の拡大。涎の気道垂れ込み防止に、気管カニューレを太く細いものに交換、ベッドはフラット、口腔内の持続吸引。家族への呼吸理学療法施行の再指導。PTによる呼吸理学療法は排痰体位、バッグ加圧、Squeezing、押さえ込み法を実施。<症例2>夜間BiPAP導入。腹臥位の導入(ホームヘルプ・訪問看護・訪問教育などで実施)。呼吸理学療法が可能な訪問看護stへ変更。地域サービスなどにより、在宅療養からの生活範囲の拡大。<BR>【考察】"いわゆる寝たきり児"を通して、トータル的な呼吸ケアで、ある条件が整った時から繰り返していた無気肺・肺炎が無くなった。姿勢管理、air entry、排痰、嚥下機能評価など、あたりまえの呼吸ケアをトータル的かつ持続していくことの重要性を実感した。そのためには、御家族や地域のサービスを巻き込んだケアをコーディネートすることも大切である。
著者
田中 潤 瀬戸口 佳史 今村 克幸 松本 秀也 中島 洋明 大勝 洋祐
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0915-B0915, 2005

【はじめに】チャーグ-ストラウス症候群(Churg-Strauss Syndrome:CCSと略す)は稀な疾患で、好発年齢は40歳代である。病因として気管支喘息、好酸球増多が先行し、血管炎症候が特徴である。神経症状では多発性単神経炎が高率に認められる。知覚・運動障害が出現し上肢よりも下肢の障害が重度であり、理学療法(以下PT)が必要とされる。今回PTを施行し家庭復帰が可能となった。また本人・家族の同意を得ることもできたので報告する。<BR>【症例紹介】43歳、女性、診断名:CCSによる多発性単神経炎。現病歴は先行症状として38歳頃から難治性気管支喘息があり、平成15年2月頃から食思が低下し、るいそうの進行、四肢のしびれ、脱力、筋萎縮が生じ、半年で体重が約20kg減少した。同年11月に腹痛で救急搬送され前医に入院、腸管膜動脈血栓症にてS状結腸が穿孔しており手術にてストーマ造設された。平成16年2月27日に当院へ転院し、病歴、重度の末梢性多発神経炎の所見、免疫学的検査(好酸球26%、MPO-ANCA80)、神経生検などからCCSと確定診断される。ステロイドホルモンによる治療が開始された。<BR>【PT評価】身長152cm、体重35.9kg、四肢末梢部に紫斑著明。しびれと冷感がある。MMT:両上肢PからG、体幹F、両下肢P-からFであり筋力低下は遠位部に著明であった。握力右2Kg、左4Kg。ROM-T:正常。感覚:両上肢、両下肢、表在・深部ともに重度鈍麻。歩行は、歩行器介助にて休憩を含み約50mがようやく可能で、下垂足による鶏歩を認めた。訓練用の階段で12cmの段差が介助で可能。ADL-TはFIM運動項目(91点満点)にて81点。<BR>【経過・理学療法プログラム】筋力増強・ROM訓練、視覚的フィードバックをさせながらの立位、歩行訓練やADL訓練、パラフィン浴を実施した。1ヵ月後、易疲労性であるも介助にて自室からリハ室まで歩行器で移動可能。体重37kg、握力右5kg、左9kg。2ヵ月後、T字杖使用し屋内歩行は監視レベル、屋外歩行は約100m軽介助レベル。FIM88点。3ヵ月後、筋力は全身的にF~G、表在・深部感覚ともに重度鈍麻であるが極軽度の改善を認めた。しびれの変化なし。T字杖使用し屋内・屋外歩行・階段昇降は自立。FIM90点。体重39Kg、握力右6Kg、左10Kgとなり、同年5月に家庭復帰した。<BR>【考察】本症例は筋力低下に加えて表在・深部覚ともに重度鈍麻で起立・歩行が困難な症例であった。今回視覚的フィードバックを意識したPTを実施したところ、歩行を獲得し家庭復帰が可能となった。小松は、自己身体が環境に対して移動することにより網膜像が変化し、その網膜像の変化を生じる原因となった自己運動を分析すると報告している。これより体性感覚のフィドーバックが困難でも、視覚刺激によるフィードバックにより残存している身体機能を活性化しボディーイメージを再構築できたと考えられる。また回復への意欲も高かったことがPTを進めていく上で効果的に働き、歩行の獲得につながったと考えられる。
著者
中野 浩志 常盤 直孝
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CdPF1027-CdPF1027, 2011

【目的】<BR>アキレス腱断裂術後の足関節可動域に関する報告や,跛行に関する報告は緒家により様々な報告がなされているが,足関節運動の質が跛行に及ぼす影響についての報告は少ない.今回,アキレス腱断裂術後約10週経過したにも関わらず跛行を呈した症例を経験し,足関節背屈時の距骨下関節に着目して理学療法を行った結果,良好な改善が得られた.今回の報告の目的は,その経験を通して評価体系についての研究を進めることである.<BR><BR>【方法】<BR>対象は20歳代,男性.剣道で踏み込んだ際に左アキレス腱を断裂し,他院にてOpe施行.その後経過良好のため退院するが,術後約10週経過したにも関わらず,歩行時の疼痛と上手く歩けないとの主訴で来院された.初期評価時では,歩行時のinitial contact(以下IC)時に踵骨への疼痛,terminal stance(以下TSt)時に断裂部位への疼痛があり,さらに歩いても前へ進まないという訴えがあった.歩行時の左立脚相では常に距骨下関節(以下ST関節)回内,下腿内旋であり,身体重心は右側へ偏位していた.各関節の可動域において著名な左右差はなかった.しかし,足関節背屈において過度なST関節回内を呈した背屈であり,ST関節中間位にて背屈を行うと可動域制限が著明に現れた.MMTに関しては左側の腓骨筋群,脛骨筋群,殿筋群が3,腓腹筋,ヒラメ筋で2と筋力低下を認めた.activeSLRにおいても,左側で陽性となった.立位アライメントは,左側のST関節回内位,下腿内旋が見られ,骨盤左回旋,体幹右回旋であった.なお,右側のPSISとASISの差2横指,左側のPSISとASISの差1横指と左側の骨盤後傾が見られた.身体重心は右側へ偏位していた.<BR><BR>【説明と同意】<BR>本研究は症例の同意を得て,ヘルシンキ宣言に基づいて行った.<BR><BR>【結果】<BR>理学療法アプローチをST関節内側後方への滑り込み制限に対して徒手療法を行い,ST関節を安定させる目的で後脛骨筋,腓骨筋群の筋力トレーニング行った.その結果,再評価時ではST関節中間位での足関節背屈可動域は改善し,歩行時の疼痛,前方への推進力も改善した.歩行時,左立脚相でのST関節回内,下腿内旋は改善し身体重心の位置も正中位へ近づいた.MMTに関しても左側の腓骨筋群,脛骨筋群,殿筋群が4,腓腹筋,ヒラメ筋で3と筋力が改善し,activeSLRも陰性と改善が得られた.立位アライメントでは,左側のST関節が中間位へ近づき,下腿内旋の改善が得られた.骨盤,体幹の回旋においても改善が得られ,左側のPSISとASISの差も1横指半と改善された.なお,身体重心も正中位へ近づいた.<BR><BR>【考察】<BR>今回,症例の主訴であった歩行時の疼痛,前方への推進力低下をST関節に着目して理学療法アプローチを行った結果,良好な改善が得られた.IC時の疼痛に関しては初期評価時に足関節背屈でST関節の内側後方への滑りが見られず,その結果過度なST関節回内を呈した背屈となっていた.そのため,IC時の衝撃吸収が行えず踵骨部に疼痛が生じていたと考えた.また,TSt時の疼痛においてはST関節回内位であることに加え,ST関節回内位により生じる前足部の不安定性に対して足底筋が過剰収縮する2つの要因により下腿三頭筋に牽引力が生じ,その状態で前方への推進力を得るため,努力性の蹴り出しを行った結果ではないかと考えた.なお,初期歩行時に前方への推進力が得られなかったのは,loading responseからmid stance時に前足部が早期に回内することで重心が正常よりも早い段階で内側へ偏位したためだと考えた.前足部が早期より回内する要因としては,立位時における身体重心右側偏位,長腓骨筋の機能不全により長腓骨筋と筋連結をしている前脛骨筋の筋力低下,さらに,足部から起こる上行性運動連鎖により骨盤後傾位となり,殿筋群の筋力低下によって,右側の骨盤が下制することで身体重心が右側に偏位したことが考えられた.以上のことから,初期評価時では足関節背屈時におけるST関節内測後方への滑り込み制限がダイナミックアライメントに影響を及ぼし,各関節の筋力を低下させ,歩行時の疼痛,前方への推進力低下を招いていたと考えた.したがって,理学療法アプローチによりST関節の後方内側への滑り込み,安定性が改善されたことで,再評価時ではダイナミックアライメントが改善し,各関節の筋力が改善したことなどに伴い,歩行時の疼痛,前方への推進力が改善したと考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>今回の結果から,理学療法評価を行う際には量だけでなく運動の質の評価も行い,他関節への影響も考慮する必要があることを再確認できた.今後の展望としては,各関節の可動性の違いによる筋活動の変化を筋電図等を用いて臨床の場で研究を行っていきたい.
著者
砂原 正和 中川 ふみよ 﨑元 康治 市木 育敏 岩本 周士 佐々木 謙 有田 親史
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cf1506-Cf1506, 2012

【はじめに】 近年、新しいアキレス腱縫合術の報告が散見され、理学療法介入の加速化によりスポーツ復帰までの期間短縮が図られている。しかし、アキレス腱縫合術後では半永続的な筋力低下や運動能力低下が生じることは周知のとおりであり、術後のアキレス腱過伸張(以下、elongation)はこれらの機能不全と関連すると言われている。今回、早期スポーツ復帰が可能であったが、elongationを呈した症例を経験した。術後経過について考察を加えて報告する。【症例紹介】 〈症例〉20歳代、女性。〈競技スポーツ〉バレーボール。〈診断名〉左アキレス腱断裂。〈現病歴〉バレーボールの試合中、後方へ踏み込んだ後に前方移動しようとした際、膝伸展・足背屈強制され受傷。翌日、当院受診され左アキレス腱断裂と診断。受傷3日後、当院にてアキレス腱縫合術施行。〈術式〉主縫合:side locking loop法、補助縫合:cross stitch法。〈術後プロトコル〉術後翌日:自動および他動ROMex開始。足関節背屈0°以上獲得時:部分荷重開始。術後4週:全荷重開始。術後6週:両脚heel raise、下腿三頭筋ストレッチ許可。術後12週以降:徐々にスポーツ復帰。〈評価項目〉足関節背屈ROM、足関節自然下垂角度(腹臥位)、heel raiseの可否、パフォーマンステスト(片脚ジャンプ、立ち幅跳び)、MRI画像判定。【説明と同意】 対象症例に対する倫理的配慮として、発表内容および目的等について十分に説明し文書により承認を得た。【経過】 プログラム立案は介入当初からelongation予防に重きをおき、術創部周囲の皮膚やアキレス腱の滑走性を維持するためのモビライゼーション、膝屈曲位で自動運動でのROMex、歩行時にアキレス腱に伸張が加わることを抑えるために足部外転・股関節外転位接地での歩行指導などの治療介入を行った。足関節背屈ROMは、術後2週に背屈0°獲得し術後3週から片松葉杖による部分荷重を開始。術後4週にはアキレス腱部痛は消失し全荷重を開始した。術後5週で足関節背屈ROM 20°まで順調な回復を認め健患差は消失、足関節自然下垂角度 においても健側、患側ともに35°と健患差は認められなかった。しかし、術後6週以降に足関節自然下垂角度は患側25°まで減少が認められ、術後11週以降には患側足関節背屈ROM 25°と過背屈を呈した。そこで、足底からアキレス腱上を経て腓腹部までのテーピングを施行しアキレス腱の伸張負荷の軽減を図ったところ、それ以降はこれらの進行は認められなかった。筋力回復の指標となるheel raiseは、術後11週で両脚heel raiseの健患差消失し、術後14週で踵挙上距離は健側にやや劣るが、片脚heel raise 20回連続挙上が可能となり足関節底屈MMT5レベルと判定した。術後16週のMRI画像判定にてアキレス腱部の高信号はほぼ消失し、足関節底屈筋力MMT5、パフォーマンステストは各項目で健患差85%以上であったため、スポーツ復帰を許可した。【考察】 elongationは運動能力と関連があると報告されており、本症例のようにスポーツ復帰を目標とする症例にとっては見逃せない所見である。本症例は早期スポーツ復帰が可能となったが、術後経過の中でelongationを呈した。本症例のelongationが生じた時期はトレーニング強度や日常生活などの活動性が増してきている時期に一致している。テーピングによる制動を行った後にはelongationの拡大は認められなかったことから、elongationを予防するという観点からは制動的な処置も考慮する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 アキレス腱断裂縫合術後のelongation予防という観点からは制動的な処置も必要となり得ることが示唆された。今回の症例報告が治療介入の一助となることを期待している。
著者
浜本 寿治 鶴崎 俊哉 永瀬 慎介 平田 恭子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A0439-A0439, 2005

【はじめに】<BR>我々はこれまでにもwavelet変換(WT)を用いた表面筋電図解析について報告してきた。その中でWTを用いた解析は、時間と周波数に関する膨大な情報を集約する必要を認めた。今回、漸増負荷による等尺性収縮時の筋活動について離散wavelet変換(DWT)を使用して独自のパラメータを算出し、若干の知見を得たので報告する。<BR><BR>【方法】<BR>対象は健常女性20名(年齢23.4±1.5)で、被験筋は右上腕二頭筋とした。被験筋上の皮膚に、電極間距離2cmでディスポーザブル電極を貼付し、背臥位にて肘関節屈曲90度を保持させた。ワイヤーおよび滑車を介してポリタンクをつないだアームを前腕遠位部に肘関節伸展方向に負荷がかかるように設定した。それに水を注入し負荷を漸増させた。<BR> 測定は、まず最大筋力(100%MVC)を測定し、続いて負荷開始から肘関節を90度に保持できなくなるまでとし、その筋活動と負荷量を生体計測システム(NF回路ブロック製)を用いサンプリング周波数1kHzにてパーソナルコンピュータに取り込んだ。<BR> 採取したデータから、負荷量が5%MVC増加した時点毎に前後1秒間のデータを選択し、科学技術計算ソフト(MathWorks社製 MATLAB6.5およびWavelet Tool Box)にてDWTを行った。DWTは、信号波形を高周波部分(Detail)と低周波部分(Approximation)に分け、Approximationをさらに次のDetailとApproximationに分解する。この分解の深さがDWTの周波数表現となる。DWTにはDaubechies5、分解レベル5を用いた。<BR> その後、各レベルのwavelet係数の二乗和をDetailのパワー密度(PD)、すべてのwavelet係数の二乗和を総パワー密度(TPw)、TPwに対する各レベルのパワー密度比(RPD)、100%MVC時のTPwに対する漸増負荷時のTPwの比(RTPw)を求めた。<BR> 得られたデータは統計用ソフトウエア(SAS社製Stat View5.0)を用いて、二元配置分散分析にて交互作用を確認後、優位水準5%で多重比較を行った。<BR><BR>【結果と考察】<BR>本研究で用いたパラメータのうち、特に特徴的な所見が観察されたのはRPDであった。その中でも30%MVC以下の負荷時と70%MVC以上の負荷時において、レベル3では減少するのに対してレベル4においては逆に増加していた。<BR> 従来報告されている等尺性収縮時の局所性筋疲労の研究では、筋電図の低周波域がtype1線維の、高周波域がtype2線維の活動をそれぞれ反映しているとされている。またサイズの原理では、まずtype1線維から活動し、筋活動量が増加するに従いtype2線維が活動するとされているが、本研究では、それらの説とは異なる結果が得られた。これには、筋活動量の増加要因である時間的活動参加、空間的活動参加、各運動単位の活動のタイミングの一致(同期化)が関係しているものと思われる。今後、レベル3、4の違いを明らかにするために、さらなる研究が必要である。
著者
米本 竜馬 浅香 結実子 冨岡 詔子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100924-48100924, 2013

【はじめに】発展途上国における青年海外協力隊(以下協力隊とする)としての理学療法士隊員の実践活動は、リハビリテーションの基盤となる職種間連携の考え方や必要な職種そのものが存在しないこともあって、日本での考え方や理学療法の手法を導入することは大きな制約を受けることが常である。現在まで大洋州にて4回の「広域研修」を継続してきた。そのうち、研修会の手法とテーマに「他職種連携・チームワーク」と国際的なリハビリテーションの共通言語である「ICF」を意図的に導入した過去2回の研修会を振り返り、その有用性と参加者の反応を検討したので報告する。なお、「広域研修」とは、通常は隊員自身の自主的な企画運営により、複数国に派遣中の隊員とそのカウンターパートを対象とするJICA(国際協力機構)主催の研修会を指す。【方法】今回の調査対象とした第3回および第4回の大洋州リハビリテーション領域広域研修の概要と実施手法を以下に述べる。第3回 (テーマ:他職種とのチームワークによる問題解決アプローチ;2010年11月22日-26日;ソロモン諸島のホニアラ)では、総数27名(隊員は9名)が4カ国(ソロモン・フィジー・パラオ・PNG)から参加した。第4回(テーマ:包括的なアプローチが出来るジェネラリストを目指して;2011年10月31日-11月4日;PNGのココポ・ラバウル)では、総数37名(隊員は11名)が3カ国(PNG・ソロモン・サモア)から参加した。参加隊員の職種は理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・養護教員であり、各国からの参加者には、理学療法士・CBRワーカー・看護師・現地NGOスタッフ・政府関係者などが含まれた。現地JICA事務所のスタッフや協力隊技術顧問は適宜必要な支援をした。研修会の構成は、参加型の問題解決手法を中心に組み立てた。最初の3日間で各国のリハビリテーション状況の情報共有、活動報告、施設見学、技術的なワークショップなどを行い、残り2日で実際の症例を用いた症例検討を行った。報告内容は事前に共通の枠組みを提示し、ワークショップは、各職種が得意な領域や技術などその特性を生かしたものとした。症例検討は4人の当事者とその家族の協力を得て、4組(4-7職種からなる7-9人構成)に分かれて、ICFモデルに沿った評価を行い、ゴール設定、治療プログラムの作成までを検討し、発表を行った。研修終了時にアンケートを実施し、研修の満足度、ICFの活動先での有用性、活動先でジェネラリストであることは必要か、などを回答してもらった。また、研修参加後1年から2年の活動先での成果を可能な範囲で参加者にインタビューした。【説明と同意】アンケートは無記名とし、研修時に今後日本で発表することがあると説明し同意を得た。JICAに発表の趣旨と内容を説明し、許可を得た。【結果】技術的なワークショップは好評だった。症例検討では、症例の全体像を偏りなく捉えられていた。アンケート結果として「研修の満足度」は「満足」が64%、「ふつう」が28%「不満足」は0%「無回答」は2%だった。「ICFの有用性」は「ある」が60%「ない」が32%、「わからない、無回答」が8%だった。「ジェネラリストは必要か」は「はい」が80%、「いいえ」が4%「わからない、無回答」が16%だった。研修終了後の成果として、活動先の病院で他職種を交えた症例検討を企画実行したなどが報告された。【考察】参加者は症例の全体像を偏りなく捉えられていた。これはICFを活用し、グループディスカッションにて他職種の視点を共有できたからだと考えられる。研修に対しての満足度は高かった。これは、参加者の活動現場では物や人だけではなく、教育の機会も不足しており、卒後教育のシステムは皆無に等しいからだと考える。「ICFの有用性」も多くの参加者が「ある」とした。参加者の多くは活動先での人材不足を感じていたが、ICFを活用することで、他職種との連携や包括的な視点での理解が進み、その結果、限られた人材を有効に活用できるようになると参加者が理解したからだと考えられる。「ジェネラリストの必要性」も多くの参加者が「ある」とした。他職種の役割や特徴を理解することによって、参加者は広い視野を持つことの有用性を理解したと考えられる。上記全てにおいて、職種や言語などの違いをバリアとしにくいICFの特徴とグループワークが有効だったと考える。【理学療法学研究としての意義】ICFを用いて他職種との連携やリハビリテーションの包括的視点を体験的に理解していく試みを報告した。チーム医療の重要性が高まっている中で、理学療法士によるICFの活用がその促進の一助となる可能性が示唆された。また、広域研修会の企画・実施運営は理学療法士のマネジメント能力の開発に資する面が大きいと思われる。
著者
弓削 千文 木藤 伸宏 菅川 祥枝 奥村 晃司 吉用 聖加
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.13-13, 2003

【目的】膝関節の運動機能の客観的評価として関節可動域・筋力・筋持久力の測定が一般的には行われているが、滑らかさを定量的に評価することは臨床的に重要な意味を持つ。そこで今回我々は、膝関節運動の滑らかさに着目し数学的解析を行い、臨床に役立つ指標として活用するため、加速度センサと電気角度計を用い、膝関節屈伸運動の滑らかさを定量化する試みを行った。【方法】対象は、膝関節疾患・中枢神経疾患の既往のない健常者男性5名、女性5名とし、年齢27.6±3.9歳、身長165.7±9.3cm、体重59.7±12.3kgであった。膝関節屈伸運動を他動運動と自動運動とで比較した。他動運動では、被験者の脛骨粗面直下に圧電型の3軸加速度センサ(MA3-04Acマイクロストーン(株))を固定。膝関節外側面にBiometrics社製2軸ゴニオメータ(SG150型)を貼付した後、膝関節屈曲0から120°までの屈伸運動をCYBEX CPMモード90・180 deg/secにて各10回施行した。自動運動では、座位にてメトロノーム使用し、膝関節屈曲0から120°までの屈伸運動を2000・4000msecの速さで各10回施行した。評価パラメータとして(1)膝関節屈曲30から60°の矢状面で生じる加速度を一次微分し躍度を算出、この算出値を動作の滑らかさを表す指標(jerk)として用い、(2)膝関節屈伸運動時の躍度波形より振幅値・Movement Unit(加速度の微分が0を通る回数)(以下、MU)を求め、各試行の平均値を算出した。サンプリング周波数は4000Hzとし、統計処理はStatView-J 5.0を用い、一元配置分散分析(Scheffe)を行い有意水準は5%未満とした。【結果】膝関節屈曲-伸展運動とでは有意差は認められなかった。躍度波形での最大-最小振幅値の差(Max-Min)、MUの平均値は、他動伸展運動ではMax-Min;(緩) 290±93/s<SUP>3</SUP>、(速)679±397/s<SUP>3</SUP>、MU;(緩) 46±6.9回、(速)20±5.3回となった。自動伸展運動ではMax-Min;(緩) 98±50/s<SUP>3</SUP>、(速)136±91/s<SUP>3</SUP>、MU;(緩)27±11回、(速)17±6.7回となった。他動屈曲運動Max-Min;(緩) 225±54/s<SUP>3</SUP>、(速)456±116/s<SUP>3</SUP>、MU;(緩) 44±7.7回、(速)20±4.6回となった。自動屈曲運動Max-Min;(緩) 102±60/s<SUP>3</SUP>、(速)135±79/s<SUP>3</SUP>、MU;(緩) 27±11回、(速)19±4.8回となった。Max-Min・MUともに、他動運動での(緩-速)と、(速)での他動-自動運動で有意差が認められた(p<0.001)。【まとめ】Max-Minが小さければ動作は滑らかであることから考えると、他動より自動運動の方が、(速)より(緩)の方が滑らかであることが認められた。また、MUの増大はフィードバック調節が頻繁に行われていることを示しているため、自動運動では(緩)の方がフィーバック調節が頻繁に行われていることが認められた。本研究により、躍度波形の解析は膝関節運動の滑らかさの指標として有用であることが確認できた。
著者
濱中 康治 志村 圭太 梅村 悟 永井 洋 伊藤 博子 中島 啓介 長崎 稔 木村 鷹介 中村 拓成 田中 尚喜 柏口 新二 岡田 知佐子 紙谷 武 石崎 一穂 片野 裕司
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101523-48101523, 2013

【はじめに、目的】成長期における野球肘においては、発育途上にある骨端骨軟骨の障害が多いことに特徴がある。なかでも離断性骨軟骨炎とも呼ばれる、上腕骨小頭骨軟骨障害(以下OCD)は進行すると治療に難渋するため早期発見が望まれる。OCDの早期発見を目的として、1981年から徳島県で実施されている野球肘検診をはじめ、全国各地で野球肘検診活動の取り組みが行われ、その活動は広まり始めている。その多くは、各地の野球教室や野球大会と合同で開催され、野球教室や大会の現場での検診が実施されているが、大規模な検診になると、より多くの機材やマンパワーが必要となるため、都市部での野球肘検診の実施には高いハードルがある。当院では、都市部における野球肘検診活動として、2010年より医療機関内における野球肘検診を実施している。OCD発症予防のための啓発活動と野球肘検診活動の更なる拡大を目的として、その取り組みの紹介とこれまでの検診結果を報告する。【検診方法】当院では1ヵ月に1度、平日の午後6時から、スポーツ健康医学実践センター内で野球肘検診を実施している。野球肘検診については、その目的と機能から保険外診療とし、1件の受診料は2500円に設定している。対象はOCDの好発年齢・保存的加療の適応年齢を考慮し、原則として10~12歳の小学生としている。理学療法士(以下PT)による理学所見評価、臨床検査技師による超音波画像検査(以下エコー検査)、医師による総合評価を実施する。 理学所見評価については、肘関節屈曲・伸展の他動運動時の疼痛と可動域制限の有無、内側上顆・腕橈関節・肘頭の圧痛、外反ストレステストでの疼痛、手関節屈筋群(上腕骨内側上顆に起始するもの)の筋委縮、橈骨頭の肥大、尺骨神経溝部での尺骨神経亜脱臼の有無を評価し、その他、肘関節以外にも利用者が疼痛を訴えた箇所に必要な所見を評価している。エコー検査では前方・後方から上腕骨小頭の不整像の有無とその程度を評価し、それらの結果から、医師による総合評価で二次検診の必要性を判断し、二次検診の必要ありと判断された利用者には、医師が紹介状を作成し、医療機関での精査を勧めている。【倫理的配慮、説明と同意】今回の報告におけるすべての調査は電子カルテを用いて後方視的に行っており、対象者に有害事象は生じなかった。また匿名性の保持と個人情報流出には十分留意した。【検診結果】2010年6月から2012年11月までに、延べ119名の利用があった。年齢は10.5±1.1才だった。理学所見評価での異常所見は肘関節の他動運動時痛3名(2.3%)、可動域制限39名(32.8%)、内側上顆の圧痛10名(8.4%)、肘頭の圧痛1名(0.8%)、腕橈関節部の圧痛0名(0%)、外反ストレステストでの内側部痛20名(16.8%)、手関節屈筋群の筋委縮2名(1.7%)、橈骨頭の肥大4名(3.4%)、尺骨神経溝部での尺骨神経亜脱臼3名(2.5%)に認められた。エコー検査での異常所見を認めたものが6名(5.0%)であった。医師の総合評価によって二次検診の必要ありと判断されたのは27名(22.7%)で、肘内側部障害の疑い18名、OCD疑い6名、上腕骨近位骨端線障害1名、体幹・下肢の骨軟骨障害疑い4名だった。二次検診の必要ありと判断された利用者27名のうち、当院でのフォローアップを実施したものは18名(66.7%)であった。【考察】OCD疑いと判断された6名のうち、3名が肘内側部に圧痛・外反ストレス痛を認めた。1名は肘関節の伸展制限のみを認めたが、2名についてはエコー所見以外、全ての所見で異常は認められなかった。一般的にOCDは投球時の肘外反ストレスによる肘外側部への圧迫・剪断力によって生じ、外側部に疼痛が出現するとされているが、当院の野球肘検診でOCDが発見された6名はいずれも肘外側部の理学所見は認めなかった。このことは早期のOCDは理学所見に乏しく、OCDの早期発見にはエコー検査が有用であることを示すものである。また、当院でフォローアップを実施したOCD疑い5名の中で、定期的な野球肘検診の必要性を示唆する1例を紹介する。初回の検診時(10歳10ヶ月時)にはエコー検査を含めた全ての所見で異常を認めなかったが、その7ヶ月後(11歳5ヶ月時)の検診で外反ストレステストでの内側部痛があり、エコー検査で初期のOCDが発見された。その後、投球動作を禁止することで約7ヶ月後に良好な骨化が確認され、競技復帰が可能となった。この経験から、当院では10歳前後のOCD好発年代には定期的な検診の必要性を啓発し、6ヶ月に1度の検診を勧めている。【理学療法学研究としての意義】医療機関における野球肘検診を紹介することで、野球肘検診を実施できていない地域にも野球肘検診を広め、PTがその活動に参加することにより、より多くの野球プレーヤーを障害から守ることが可能になる。
著者
堀本 ゆかり
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Gc1038-Gc1038, 2012

【はじめに、目的】 理学療法業界の質の低下が言われるようになり久しいが、臨床教育でも対応に難渋する学生が増え、相応の対応に迫られている。これまで学生の心理テストを実施し、生活指導や臨床実習の情報提供等に活用してきた。しかしいわゆる「氷山モデル」で示される通り、水面下である人格は後天的な変化が期待しにくい部分であり、行動変容の手掛かりには成り難かった。相原によるとコンピテンシーは「それぞれの仕事において、高いパフォーマンスに結びつく行動」と定義され、物事の考え方や仕事に対する姿勢、行動特性を明確に観察・測定できるツールとして、人材マネジメントに活用されている。今回、知識やスキル向上のベースとして必要な行動特性に着目し、この先臨床実習に臨む学生を対象にコンピテンシー診断を行ったので報告する。【方法】 対象は本学の3年生43名である。内訳は男子23名 女子20名(平均年齢21.65±3.27歳)である。方法は集合調査法で文化放送キャリアパートナーズ社製コンピテンシー診断「SPROUT」を使用した。質問項目は66で、A・B2つの質問に対して4つの選択肢が設定されており、そのうち1つを選択するものである。所要時間は概ね15分程度である。診断は社会人基礎力に対応した小項目18項目を総括する6領域に集約され、10段階で評価される。これらは「能力、興味・関心、こだわり」といった社会人基礎力を構成する要因とも強い関係があるものが抽出されている。出力は自己啓発支援書として、学生個々に手渡し、面談や臨床実習情報提供書に活用する。統計処理は日本科学技術研修所製JUSE-StatWorks/V4.0を使用し、危険率p<0.05で解析した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象には事前オリエンテーションを実施し本診断の内容及び利用について説明し、署名にて同意を得た。また、個人情報の運用については保護者にも書面で同意を得ている。本診断は、本学倫理規定に則りヘルシンキ宣言を遵守し、個人情報の管理には十分配慮し実施した。【結果】 「SPROUT」6領域の平均得点は5.39で「SPROUT」全体平均5.5よりも低い値となった。相手の悩みや相談にのり手助けをするといった"コンサルテーション"、新しい環境に応じて自分の行動や考え方を切り替える"適応力"は良好な結果であった。一方、自分のやり方を実現するための"戦略策定"、状況を鑑み正しく状況を理解する力である"分析的思考"は課題となった。各要因に関して性別による統計的有意差は認められなかった。領域に関して主成分分析の結果、第三主成分までの累積寄与率は0.762であり、コンピテンシーが発揮されたものとそうでないものとは約90度の位置関係であった。データを総括した6領域のうちコンセプト形成・情報指向性・分析的思考で構成される"新しい価値を創る力"の平均得点は4.77と特に低い傾向がみられた。【考察】 Goncziらによれば「コンピテンシー(臨床能力)」とは医療専門職としての実践に必要な知識・技術・態度などの組み合わせであるという。専門的な仕事をする際に、認知・感情やその他のリソースを連携させ、自らすすんでそれらを活用する事に意味がある。J.A.DentやR.M.Hardenらは患者が抱く期待、医療制度、学生の要求などの変化に応じ、新しいカリキュラムの開発が必要であると述べている。理学療法分野における質の向上に関しては、ハイパフォーマーと呼ばれる人材の行動特性をモデルとして、標準化する必要がある。今回は、その前段階として理学療法士を目指す学生を対象に、社会人に求められる要因の評価より"強み""弱み"を明確にし、実習前の課題認識を促す手掛かりとして使用した。今回の結果を社会人基礎力に置き換えてみると情報収集と現状把握、複数のものや考え方を組み合わせて解決策や新しいものを構築する能力、自分の意見を他者にわかりやすく伝えるプレゼンテーション力、その内容を十分に理解して他者に伝える論理性に課題がある事がわかった。これらの"弱み"は企業採用活動調査でも重要視されており、臨床実習を通じて、社会人の中でトレーニングされる要因であることから、"強み"である傾聴力・柔軟性を発揮する事により改善することが期待できる。一方、これらの要因は指導者の教授能力に大きく影響される事が予測される。そうすると、優れた臨床実習指導者の行動特性が明らかになれば、ハイパフォーマーとの補正を行う人材育成プログラムを構築する事である程度の質の保障は期待できると考える。今後、理学療法士の職能特性を加味したコンピテンシーモデルを構築し、人材育成の手掛かりとしたい。【理学療法学研究としての意義】 理学療法業務をヒューマンサービスと位置付けると、知識・技術を発揮する核となる能力を明確にすることは、学内教育に留まらず、卒後の人材育成にも寄与できると考える。