著者
服部 謙志
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.1412-1422, 1998-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
30
被引用文献数
8 6

IgA腎症に対する口蓋扁桃摘出術(以下扁摘)の長期的な臨床効果と長期予後を左右する因子について検討した.対象は腎生検後5年以上経過を観察できたIgA腎症扁摘例71例とした.予後予測因子については,性別,発症年齢,腎病理所見,腎生検時臨床検査所見(血清クレアチニン値,クレアチニンクリアランス,1日尿蛋白量,血清IgA値,高血圧の有無),扁桃炎の既往,扁桃誘発試験,経過(発症から扁摘までの期間,発症から現在までの期間)について検討した.各々の因子について,寛解率(寛解群/全症例×100),腎機能保持率{(寛解群+腎機能保持群)/全症例×100}を求め,Fisherの直接確率計算法を用いて統計学的に検討した.全症例の予後は,寛解率28.2%,腎機能保持率90.1%であり,長期的な臨床効果が期待できると考えた.予後予測因子については,発症年齢が20歳以上,腎病理組織障害度が高度,血清クレアチニン値が1.3mg/dl以上,1日尿蛋白量が1.0g/日以上,血清IgA値が350mg/dl以上で,有意に予後不良であった.性別,クレアチニンクリアランス(80ml/min以上と未満),高血圧の有無,扁桃炎の既往の有無,扁桃誘発試験陽性項目の有無,経過の長短については有意差は認めなかった.IgA腎症に対する扁摘の適応については,腎病理組織障害度が軽度な症例は,扁摘により腎機能低下への進行を抑制する効果が期待できると考えた.腎病理組織障害度が高度な症例は,腎生検時すでに腎機能が低下していれば積極的な扁摘の適応はないが,腎機能が比較的保持されていれば扁摘を含めた治療の効果が期待できると考えた.
著者
杉浦 彩子 内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.707-713, 2017-05-20 (Released:2017-06-20)
参考文献数
31

難聴は高齢者に最も多くみられる障害の一つだが, 近年難聴が認知機能低下のリスク要因であることが注目されている. 難聴と認知機能は, 共通の因子や相互作用もあると考えられ, その関係性は複雑である. 補聴器による難聴に対する介入で, 認知機能の維持・改善が報告されており, 2015年には大規模な疫学調査における補聴器装用の認知機能への有効性がイギリスとフランスから報告された. 難聴高齢者は難聴の自覚が乏しく, 家族から難聴を指摘されて受診する場合が多い. 高齢者において聴力を評価する場合には, 既に認知機能低下を伴っていて, マスキングがうまく入らなかったり, 聴力検査でのボタン操作が不安定だったりすることがある. また, 本来の難聴に機能性難聴を伴う症例があり, 留意が必要である. 認知機能低下のある高齢者の難聴への介入は, 語音明瞭度が悪く補聴器の効果が限定的な方が多いこと, 本人の自覚が乏しく補聴器装用の意思の乏しい方が多いこと, 意思があっても補聴器の操作などが困難な方がいること, 紛失のリスクが高いこと, などの問題点があり, 慎重な対応を要する. 認知機能正常の難聴高齢者と認知機能低下のある難聴高齢者とを区別して対応する必要がある. 高齢の難聴者の看過できない問題として耳垢栓塞があり, 湿性耳垢の多い欧米では高齢者の3割程度に認めるとされているが, 本邦においても1割弱の方に耳垢栓塞があると考えられ, 留意が必要である.
著者
湯田 厚司 小川 由起子 荻原 仁美 鈴木 祐輔 太田 伸男 有方 雅彦 神前 英明 清水 猛史
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.833-840, 2017-06-20 (Released:2017-07-15)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

スギ花粉舌下免疫療法のヒノキ花粉飛散期への効果を検討した. 方法: スギ花粉舌下免疫療法 (SLIT) を行ったヒノキ花粉症合併180例 (平均37.0 ± 17.0歳, 男性105例, 女性75例, CAP スコアスギ4.6 ± 1.1, ヒノキ2.7 ± 0.8) を対象とした. スギ・ヒノキ花粉とも中等度飛散の2016年に日本アレルギー性鼻炎標準 QOL 調査票の QOL およびフェーススケール (FS) と, 症状薬物スコア (TNSMS) を花粉ピーク期に調査した. また, 花粉飛散後に両花粉期の効果をアンケート調査した. 結果: 飛散後アンケートで, 治療前にはスギ期で症状の強い例が多く, SLIT の効果良好例はスギ期68.7%とヒノキ期38.7%でスギ期に多かった. 両花粉期を比較すると, 同等効果42.2%であったが, ヒノキ期悪化が半数以上の54.9%にあった. 各調査項目の平均では両花粉期に有意差がなかったが, 個々の例で TNSMS スコア1以上悪化例が27.2%あり, スギ期軽症の FS 0または1の43.4%で FS が悪化した. 治療前にスギとヒノキ期に同等症状であった例の30.4%でヒノキ期に TNSMS が悪化した. 一方で, 治療前にヒノキ期症状の強かった8/30例 (26.7%) でヒノキ期に改善し, 効果例も認めた. 結論: スギ花粉舌下免疫療法はヒノキ花粉症に効果例と効果不十分例があり, ヒノキ期の悪化に注意が必要である.
著者
藤原 崇志 野々村 万智 白 康晴 吉澤 亮 岩永 健 水田 匡信 吉田 充裕 佐藤 進一 玉木 久信
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.143-147, 2019-02-20 (Released:2019-03-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1

2010年4月~2018年3月の間に専攻医が執刀した甲状腺葉切除術の安全性と質を評価するため, 手術時間, 術後半年以上治癒しない声帯麻痺, 術後出血を評価した. 8名の耳鼻咽喉科専攻医が専門領域研修を開始し, 339例の甲状腺葉切除術を執刀した. 声帯麻痺は3例 (0.9%) に生じ, 術後出血は10例 (2.9%) に生じた. 術後出血は執刀10~20例目に多く, 執刀経験が40例を超えると1例も認めなかった. また手術時間は執刀数が45例を超えると手術の約75パーセンタイルが1.5時間以内であった. 術後出血および手術時間の観点から甲状腺葉切除術を安全に行うには45例程度の執刀経験が必要であった.
著者
竹内 義夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.95, no.11, pp.1744-1758,1891, 1992-11-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
68

骨導測定とマスキングに関連する基本的事項を定量的法則に再編成し, 実効マスキング狭帯域雑音を装備するオージオメータの使用を前提とすれば, マスキングノイズレベルと気導および骨導の域値の関係を計算して予測できることを示した. 良聴耳骨導を非検耳の骨導とする仮定を導入すれば, この骨導と両気導の3者および両耳間移行減衰量からマスキングノイズレベルが算出できることを新たに見いだし, ABCマスキング法として体系化した. ABCマスキング法は原則的に一検査周波数につき1つのノイズレベル下の骨導測定で終わるのでプラトー法に比べて測定時間を飛躍的に短縮することができた.
著者
鈴木 衞
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.12, pp.1468-1473, 2018-12-20 (Released:2019-01-16)
参考文献数
24

めまいを訴える患者は高齢社会を反映して増加の一途をたどっている. 体平衡には前庭系, 視覚情報, 深部知覚などが総合的に関与する. また, めまいは自己の感覚なので検査所見とは並行せず, 病態の把握も困難なことが多い. しかしながら研究の蓄積によって病態や治療に多くの新知見が得られている. 眼振検査をはじめとする神経耳科的検査の多くは過去の基礎的研究の成果で, 診断に大きく貢献してきた. 温度刺激検査だけでなく, 簡便で特異度も高い head impulse test が一側半規管の検査法として開発された. 新しい耳石器機能検査法としては前庭誘発筋電位 (VEMP) 検査や自覚的垂直位が臨床応用され, 前庭神経の障害が詳しく区別されるようになった. 今後, 病態に応じた治療法の開発も期待される. 画像検査の進歩は著しく, 内リンパ水腫の診断や平衡中枢機能の解明が進んでいる. 遺伝学も平衡障害の診断や治療法開発に寄与していくと思われる. BPPV の治療は, Epley らによる病態特異的な理学療法の開発を契機に大きく進歩した. 最先端の治療としては薬物を内耳へ直接作用させる drug delivery system や再生医学的手法があり, 今後内耳疾患治療の主流になることが予想される. 手術療法では, 難治性 BPPV への半規管遮断術, メニエール病へのゲンタマイシン鼓室内注入などが詳しく検討されている. 平衡訓練やリハビリテーションでは, 聴覚, 振動覚, 舌知覚などほかの感覚を利用した感覚代行が試みられている. 適応の決定や治療効果の判定にこれまで開発された機能検査が画像検査とともに貢献することを望みたい. 高齢者の QOL 向上のため, 平衡医学の果たす役割は今後増していくものと思われる.
著者
岩﨑 真一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.1, pp.14-21, 2018-01-20 (Released:2018-02-07)
参考文献数
18
被引用文献数
1

一側の前庭障害であれば, いわゆる前庭代償によりめまい感や平衡障害は徐々に軽快するが, 両側の前庭障害では前庭代償が働かず, 慢性のふらつきや動揺視が持続する. この両側前庭障害に対する治療を目指して, さまざまな基礎研究や臨床研究が進められている. 本稿では, 両側前庭障害に対して現在進められている研究のうち, 1) 人工前庭, 2) ノイズ前庭電気刺激, 3) 内耳再生の研究について概説する. 両側前庭障害に対する治療の一つとして, 人工前庭の開発が進められている. 人工前庭は, 3つの半規管の膨大部に電極を埋込み, 頭部に装着した加速度計によって解析した頭部の動きを基に, 各々の半規管の刺激を行うものである. 2000年頃より開発が開始され, 現在はヒトを対象とした臨床試験が欧米で進められるところまで来ている. 残存する前庭機能を底上げする治療の一つとして経皮的ノイズ前庭電気刺激 (ノイズ GVS) を利用した治療の開発を進めている. ノイズ GVS は, 耳後部に貼付した電極より微弱なノイズ様の電流を流すことで前庭神経を刺激する方法である. これまでの研究で, ノイズ GVS の短期刺激 (30秒間) では, 両側前庭障害患者の約9割において体平衡機能の改善を認めており, 長期刺激 (30分間, 3時間) では, 刺激終了後少なくとも数時間は体平衡機能改善効果が持続することが判明している. 内耳の再生医療を目指した研究では, 既に ES 細胞, iPS 細胞から有毛細胞の作成が可能となっており, 再生医療研究は目覚ましく進展しているが, 臨床応用にあたっては, 内耳への到達手段が問題となっている. 前庭上皮の特徴としては, 蝸牛有毛細胞とは異なり, 成熟した哺乳類の動物においてもある程度の再生能を有することが挙げられる. この自発再生を促進する目的で, さまざまな薬剤の投与が試みられており, 複数の栄養因子が再生を促進する効果があることが判明している.
著者
熊川 孝三
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.809-815, 2015-06-20 (Released:2015-07-18)
参考文献数
15
被引用文献数
1
著者
大塚 雄一郎 根本 俊光 國井 直樹 花澤 豊行 岡本 美孝
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.9, pp.1225-1230, 2016-09-20 (Released:2016-10-07)
参考文献数
15
被引用文献数
2

甲状腺吸引細胞診の最も一般的な合併症である頸部腫脹には2つの機序が知られている. 1つは穿刺部からの出血による血腫形成 (甲状腺内と甲状腺外), もう1つは穿刺刺激に反応した腺内血管の拡張によるびまん性甲状腺腫脹である. 後者は過去の報告で acute and frightening swelling of thyroid と表現される重要な合併症であるが, 適当な名称がないため本文では便宜上 dTSaFNA (diffuse thyroid swelling after fine needle aspiration) と称した. われわれは甲状腺の吸引細胞診後の血腫形成を1例と dTSaFNA を2例経験した.
著者
岩崎 聡
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.5, pp.636-642, 2015-05-20 (Released:2015-06-11)
参考文献数
12

補聴器を含めて人工聴覚器の適応評価は大変複雑化してきたため, これらの人工聴覚手術の最新情報と本邦における現状を紹介し, それぞれの機種の特徴と違いを整理した. 人工内耳の適応は, 2014年小児人工内耳適応基準が見直され, 適応評価が多様化された. 既存の補聴器の装用が困難な高音急墜型感音難聴に対し, 言葉の聞き取りが改善できる新たな人工内耳が残存聴力活用型人工内耳 (electric acoustic stimulation: EAS) であり, 保険収載された. 高度難聴の中・高音部を人工内耳で, 残聴のある低音部を音響刺激で聞き取るシステムである. 直接的な機械的内耳組織損傷を最小限にするため, 電極の先端がより柔軟になるよう改良されている. 正円窓アプローチによる電極挿入法がより蝸牛へ低侵襲となる. 聴力温存成績向上のため, 蝸牛損傷を軽減するための drug delivery system の応用, さらなる電極の改良が必要と思われる. 日本で開発されたリオン型人工中耳がきっかけで, さまざまな人工中耳が開発された. 海外では感音難聴を対象にした人工中耳として開発が進められ, 振動子を正円窓に設置することで伝音・混合性難聴に適応拡大され, 本邦における臨床治験が終了した. 人工中耳は補聴器に比べて周波数歪みが少なく, 過渡応答特性に優れており, 海外では正円窓アプローチ以外に人工耳小骨と組み合わせた卵円窓アプローチなども行われ, 今後さまざまな術式の応用と感音難聴への適応拡大が課題になると思われる. 骨導インプラントは音声情報を骨振動として直接蝸牛に伝播し, 聞き取る方法であり, BAHA は保険収載された. 良聴耳の手術や中耳, 内耳奇形がある症例, 顔面神経走行異常が明らかな症例は骨導インプラントがよいかと考えるが, 人工中耳に比べ出力が弱く, 高音域の周波数特性が弱いため, 聴力像も考慮する必要がある.
著者
高橋 亮介 有泉 陽介 岸根 有美 冨田 誠 小田 智三
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.817-824, 2017-06-20 (Released:2017-07-15)
参考文献数
32
被引用文献数
1

背景: 扁桃周囲膿瘍は重症な合併症を生じる可能性から適切な対応を要する. 目的: 当地域の扁桃周囲膿瘍の原因菌と薬剤耐性を評価する. 化膿性扁桃炎治療後に扁桃周囲膿瘍へ進展した頻度と処方抗菌薬の関連を検討する. 対象と方法: 2010年4月から2016年3月の扁桃周囲膿瘍214例の前医抗菌薬を, また2010年4月から2014年3月の119例の原因菌と薬剤耐性を診療録から記述した. 次に2010年4月から2016年3月の化膿性扁桃炎397例の扁桃周囲膿瘍進展頻度について過去起点コホート研究を施行した. さらに化膿性扁桃炎, 扁桃周囲膿瘍既往有無での解析も施行した. 結果: 扁桃周囲膿瘍への前医処方はセファロスポリン系37% (31/84処方), キノロン系抗菌薬25% (21/84処方) であった. 膿汁培養ではレンサ球菌属67% (98/66株), 嫌気性菌13% (13/98株) であった. 全検出菌の45% (42/94株) がキノロン系抗菌薬に耐性を示した. 化膿性扁桃炎へのキノロン系抗菌薬処方群が他抗菌薬処方群と比較し, 治療後に扁桃周囲膿瘍へ進展した頻度が有意に高値 (リスク比11.8, p=0.032) であった. 既往がある症例の検討も同様の結果であった. 結論: 化膿性扁桃炎, 扁桃周囲膿瘍の既往がある化膿性扁桃炎へのキノロン系抗菌薬投与は慎重を要することが示唆された. 今後さらなる検討が望まれる.