著者
杉浦 むつみ 大前 由紀雄 新名 理恵 池田 稔
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.8, pp.922-927, 2000-08-20
参考文献数
12
被引用文献数
4 1

難聴の高齢者を対象に補聴器装着前後における心理的ストレスの評価を行った.対象は,難聴を主訴に東京都老人医療センター耳鼻咽喉科を受診した患者のうち,補聴器の装着が適切であると判断された31例(男性11例,女性20例,年齢80.4&plusmn;5.3歳,66~89歳)である.補聴器装着前後に聴こえに対する自己評価と,新名の心理的ストレス反応尺度のうち情動18項目(うつ&bull;不安&bull;怒り)について質問した.その結果,患者の聴こえに対する自己評価は,装着後に有意(p<0.001)な改善を認めた.また情動18項目(うつ,不安,怒り)における心理的ストレス反応は,うつ,不安,怒りのいずれも有意(p<0.001)な減少を認めた.特にうつについてはストレス反応スコアの減少が著明であった.従って,補聴器の装着は,聴力の改善によるコミュニケーション能力の向上だけでなく,高齢者の心理面にも良い影響を及ほしたと考えられた.精神科領域では老年期にみられる痴呆とうつ状態は相互に影響しあい,互いに移行することが指摘されており,高齢者の心理面より,うつ,不安等の心理的ストレス反応を減少させることは,老年期うつ病の発症や,老年期痴呆への移行を二次的に予防することにもつながる可能性が考えられた.また聴覚障害が痴呆や認知障害の進行や重症度に影響する可能性も指摘されており,補聴器装着による聴力の改善は,痴呆や認知障害の進行を抑制するという観点からも有用であると考えられた.
著者
牧山 清
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.10, pp.930-931, 2012-10-20
参考文献数
6
被引用文献数
3
著者
松本 智成
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.3, pp.141-150, 2012-03-20
参考文献数
29

1943年の日本での結核死亡率は人口10万対235で, 2010年の約120倍と高く, 結核はかつては死の病もしくは亡国病として恐れられていたが, 標準化学療法の確立により結核患者数は1980年まで大きく減少し, 一時は「結核の流行は終わった」といわれるくらいになった. 一方において世界では, その発生数は増加している.<br>結核の増加とともに問題となっているのは, 耐性結核の問題である. 多剤耐性結核 (MDR-TB) は, 結核治療に重要な抗結核薬であるイスコチン (INH), リファンピシン (RFP) にともに耐性である結核菌と定義される. 最近, さらにフルオロキノロンおよびアミノグリコシド系の抗結核剤にも耐性であり, さらに治療困難である超多剤耐性結核 (XDR-TB) が世界的に広がっており上述の結核の増加の原因になっている.<br>日本におけるMDR-/XDR-TBの問題点は, MDR-TBは感染しづらいという考え方が根強く存在したことである. 結核菌分子疫学解析の大きな成果は, MDR-TB, 特にXDR-TBは日本において主に感染によって広がっていることを提示できたことである. つまり, MDR-/XDR-TBは医療機関内感染だけではなく市中感染によっても広がっているということである.<br>2011年9月14日には, 世界保健機関 (WHO) が, 従来の薬が効かないMDR-TBやXDR-TBの感染が欧州・中央アジア地域で急速に拡大しており, 保健当局が阻止できなければ多くの死者が出ると警告した. 有効な治療法が少なく, かつ莫大な治療経費を必要とするMDR-/XDR-TB対策には, DOTSのみならず, 結核菌分子疫学解析を駆使しながら感染拡大を防止すること, さらに新規抗結核薬の開発が重要な手段の一つになる. 新しい抗結核薬として日本からdelamanid (OPC-67683) が発表された. 今後, MDR-/XDR-TBも含めた結核の治療への貢献が期待される.<br>さらに, 近年, 関節リウマチや膠原病の治療に抗TNF製剤に代表される生物製剤が開発され, その治療の中心的な役割を担うようになってきた. この抗TNF製剤は感染症, 特に結核の発生率を上げ生物製剤使用中の結核対策が重要になってきた. また結核を発症した場合, paradoxical responseへの対策も重要である.
著者
北原 糺 堀井 新 近藤 千雅 奥村 新一 久保 武
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.110, no.11, pp.720-727, 2007-11-20
参考文献数
33
被引用文献数
3 7

[目的] 頭部や身体の動きに応じた平衡適応現象は動的代償と呼ばれ, 一定の治療により回復し得なかった末梢前庭障害患者の日常生活障害度を左右する重要な過程である. 今回, 前庭神経炎 (VN), めまいを伴う突発性難聴 (SDV), メニエール病 (MD), 聴神経腫瘍 (AT) を対象疾患として, 温度刺激検査およびめまい・ふらつきによる日常生活障害度アンケート (めまいアンケート) を施行し, 疾患別および半規管能別にめまいによる日常生活障害度を検討した.<br>[対象と方法] 対象は1997~2002年に大阪労災病院および大阪大学耳鼻咽喉科を受診した患者のうち温度刺激検査で一側半規管麻痺 (CP) を認め, めまいアンケートを施行できたVN34例, SDV25例, MD28例, AT14例.<br>[結果] めまいアンケートによる日常生活障害度は, SDV, VN, MD, ATの順に上昇した. また疾患を軽度CP (25%以上, 45%未満) と高度CP (45%以上, 100%以下) の2群に分けると, VN, SDVでは軽度CP群は高度CP群より有意に日常生活障害度が低かった. 一方, MD, ATでは両群間で有意差を認めなかった.<br>[考察] 末梢前庭障害が固定するVN, SDVは動的前庭代償がMD, ATより進みやすく, 障害の程度が軽い程代償は速やかであるが, 末梢前庭障害が変動し得るMD, ATは動的前庭代償がVN, SDVより進みにくく, 障害の程度が軽くても代償は速やかに進むとは言えないことが示唆された.
著者
村井 紀彦 谷口 善知 高橋 由佳 安原 裕美子 窪島 史子 楯谷 一郎
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.7, pp.615-619, 2011-07-20
参考文献数
16
被引用文献数
5

目的: 2004年に日本臨床細胞学会において提唱された, 唾液腺細胞診に関する新報告様式の当科での運用状況, 有用性と問題点を検討すること. 対象と方法: 2006年から2010年までの4年間に, 術前穿刺吸引細胞診と外科的切除を行った44例を対象とし, カルテをレトロスペクティブに調査し, 細胞診の結果, 病理組織診断等を記録した. 結果: 耳下腺原発が33例, 顎下腺原発は11例, 悪性は8例, 良性は36例であった. 良性例のうちの2例は検体不適正であり, また, 良性例のうちの4例と悪性例のうちの1例は「鑑別困難」と判定された. 真陽性は3例, 真陰性は30例で, 偽陰性が4例あり, 偽陽性例はなかった. 感度, 特異度, 正診率はそれぞれ42.9% (4/7), 100% (30/30), 89.2% (34/37) であった. 精度管理指標については, 検体不適正率は4.5% (2/44), 良悪性鑑別困難率は11.4% (5/44), 悪性疑い例の悪性率は100% (2/2) であった. 結論: 新報告様式の使用により, パパニコロウ分類の報告結果に対する臨床医の解釈の曖昧さが減少し, 臨床的に有意義であると考えられた.
著者
中屋 宗雄 森田 一郎 奥野 秀次 武田 広誠 堀内 正敏
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.22-28, 2002-01-20
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

目的: ライフル射撃音による急性音響性難聴の聴力像と治療効果に対する臨床的検討を行った.<BR>対象と方法: ライフル射撃音による急性音響性難聴と診断され入院加療を行った53例, 74耳とした. 治療方法別 (ステロイド大量漸減療法群23耳とステロイド大量漸減療法+PGE<SUB>1</SUB>群51耳) と受傷から治療開始までの期間別 (受傷から治療開始まで7日以内の群42耳と8日以降の群32耳) に対する治療効果と聴力改善 (dB) についてretrospectiveに検討した. また, 各周波数別に治療前後の聴力改善 (dB) を比較検討した.<BR>結果: 全症例の治癒率19%, 回復率66%であった. ステロイド大量漸減療法群では治癒率17%, 回復率78%, ステロイド大量漸減療法+PGE<SUB>1</SUB>群では治癒率24%, 回復率63%であり, 両者の群で治療効果に有意差を認めなかった. 受傷から7日以内に治療を開始した群では治癒率21%, 回復率78%, 受傷から8日目以降に治療を開始した群では治癒率16%, 回復率50%であり, 受傷から7日以内に治療を開始した群の方が有意に治療効果は高かった. 入院時の聴力像はさまざまな型を示したが, 2kHz以上の周波数において聴力障害を認める高音障害群が50耳と多く, 中でも高音急墜型が20耳と最も多かった. また, 治療前後における各周波数別の聴力改善 (dB) において, 500Hz, 1kHzの聴力改善 (dB) は8kHzの聴力改善 (dB) よりも有意に大きかった.<BR>結論: 今回の検討で, 受傷後早期に治療を行った症例の治療効果が高かったことが示された. また, 高音部より中音部での聴力障害は回復しやすいと考えられた.
著者
神田 幸彦
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.8, pp.703-712, 2011-08-20
参考文献数
3

補聴器 (右耳) と人工内耳 (左耳) を装用する医師として243名の人工内耳手術を執刀医として経験したこと, 10年前に開業し人工内耳・聴覚リハビリ医療機関で行ってきた補聴器適合, 人工内耳と補聴器の聴覚リハビリテーションを通して筆者自身の難聴の経験と医療の現場を通して得られたことを振り返って報告した. 医学生時代の24歳から20種類以上の補聴器を装用, アナログからデジタル, そして最近では第3世代のデジタルも出現, ISP (統合信号処理) やFMなども進歩している. 使用してきた補聴器の利点を報告した. 一方, 人工内耳は2004年に補聴器非装用側に「より良い聴覚の獲得」を目的として, 以前留学していたドイツ・ビュルツブルグ大学で人工内耳手術を受けてきた. 現在6年が経過したが, 補聴器との両耳聴により, 騒音下・離れたところからの会話・早口の会話・音楽の聴取などがより改善された. 現在は左の人工内耳だけでも会話可能で装用閾値は20-30dB, 語音明瞭度 (67-S) は左人工内耳のみで95%, 騒音下 (S/N=0, 70/70) で90%である. 両耳聴では50, 60, 70dBSPLすべての提示音圧, 騒音下で100%となった. 人工内耳も最新の器機では聴取能アップが進んでいる. 筆者自身の難聴の経験, 聴覚の回復の過程, 患者としての心理, 補聴器・人工内耳の近来の進歩と人工内耳の未来について考察を加え報告する.
著者
丹生 健一
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.7-14, 2011-01-20
参考文献数
6
被引用文献数
3 4

日本頭頸部外科学会が母体となり, 平成21年4月より耳鼻咽喉科専門医のサブスペシャルティーとして頭頸部がん専門医制度が発足した. 本制度の基本理念は, 耳鼻咽喉科・頭頸部外科に関する熟練した技能と高度の専門知識とともに, がん治療の共通基盤となる基本的知識と技術, 医療倫理を併せ持ち, 頭頸部がんの集学的治療を実践する能力を養成することにある. 頭頸部領域はQOLに大きく関わっており, 外科的治療, 薬物療法, 放射線治療などを組み合わせた治療が行われることが多い. 頭頸部がん専門医には, そのチームリーダーとしての役割が求められる. 診断から終末期まで, がん治療の全相における幅広い経験や知識, 患者とのコミュニケーション能力, そしてコーディネーターとしての調整能力が必要である. 一方, 外科的治療は依然として頭頸部がん治療の大きな柱であり, その治療を自ら担当する頭頸部がん専門医にとっては最も重要な能力である. 専門医の認定にあたっては, 頭頸部がんの入院治療100例以上, 頭頸部がんの手術経験50件以上 (術者として) に加え, 外科的治療の基本である頸部郭清術を特に重視し, 頸部郭清術を助手として20側以上・術者として20側以上と, 必要経験症例数を決定した. さらに, これらの技術を集中的に学べるように, 5年間の頭頸部がん診療研修中, 頭頸部がんの年間新患数100例以上の指定研修施設で2年間の研修を行うことを義務付けている. 本原稿執筆時点で, 257名が暫定指導医として, 127施設が指定研修施設として認定された. 昨年9月には第1回頭頸部がん専門医認定試験が行われ, 165名が受験した. 本制度の発足が, 頭頸部外科を目指す耳鼻咽喉科医の増加, 大学・施設横断的な頭頸部外科医育成システムの構築, 頭頸部癌診療施設の集約化など, 頭頸部がん診療の今後の発展につながることを大いに期待している.
著者
河野 淳 博久 詠司 舩坂 宗太郎
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.884-894, 1996-06-20
参考文献数
27
被引用文献数
3 2

今論文では, 聾仔猫の蝸牛神経核細胞の成熟が, 慢性電気刺激によりいかなる影響を受けるか調べた. 対象は生後10日目聾の仔猫4匹で, 電極挿入後1000時間以上慢性電気刺激を行い, 実験終了時2-deoxyglucose (以下2DG) を静注45分刺激後, 蝸牛神経核の連続切片を作製し, 蝸牛神経核細胞体の面積を測定した. その結果刺激側の2DGの取り込みが見られた部位の神経細胞体面積は2DGの取り込みが見られない部位に比べ, 前腹側核, 後腹側核, 背側核のいずれにおいても大きく, 多くに有意差が認められた. つまり蝸牛内の慢性電気刺激により, 蝸牛神経核内の特定の部位が機能的活動性が増し, その部位に限っては慢性電気刺激が成熟期の神経細胞の成熟に関与していることが示唆された.
著者
鈴木 幹男 小川 富美雄 北野 博也 矢澤 代四郎 北嶋 和智
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.8, pp.879-884, 2000-08-20
被引用文献数
2 4

音刺激の聴覚野への交叉性投射を調べる目的で単音節刺激時の聴覚野脳活動をfunctional MRIを用いて検討した.対象は聴力正常な成人6名(右利き)である.1秒間に1個の単音節(95dBSPL)を呈示し,OFF-ONパラダイム(OFF;音刺激なし,20秒,ON;音刺激あり,20秒)を4回繰り返した.機能画像は1.5テスラMRI装置(GE社製Signa Horizon)でグラジエントエコーエコープラナー画像(EPI)として得た.EPIはワークステーション上でSPM99bを使用し解析を行い,聴覚野賦活部位を測定した.<br>予備実験としてEPI撮像時の騒音を測定した.ERI撮像時の騒音は97dBSPLであったが,MR対応のヘッドホンを使用することにより80dBSPLまで減少させることが可能であった.片耳単音節刺激により主に反対側の1次聴覚野,両側の聴覚連合野に広い賦活部位が観察された.賦活は一次聴覚野より聴覚連合野に著明であった.右耳に単音節刺激を与えた際は左聴覚野に,左耳に与えた際は右聴覚野に有意に広い賦活部位がみられた.このパターンは被験者全員に観察された.この結果から単音節聴取時の音情報は両側の聴覚野に入力されるが,刺激対側の聴覚野に反応が強く交叉性投射が確認された.撮像時の騒音を減少させれば聴覚刺激による反応をfunctional MRIで測定することが可能であり今後臨床応用できると結論した.
著者
柏村 正明 福田 諭 間口 四郎 樋口 栄作 犬山 征夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.98, no.2, pp.254-259, 1995-02-20
被引用文献数
6 1

声門下喉頭癌27例について臨床的検討を行った. 5年生存率が44%と他の部位の喉頭癌に比べ不良であった. その原因として, 放射線治療後の局所再発率の高さが第一に考えられた. さらにsalvage operationの結果がT2で低く, 声門下喉頭癌の治療は他の喉頭癌より放射線治療の適応を厳しくし, 初めから手術を念頭においた治療計画が必要と思われた. またT1でも照射終了後の化学療法を考慮すべきと考えられた. また進行例では転移が多く初回治療後の化学療法の施行や, 喉頭全摘時の頸部郭清の施行により予後の改善に努めるべきと思われた. 縦隔への転移例は少なかったが実際にはもう少し多いと思われ, 慎重な経過観察が必要と思われた.
著者
五島 史行 堤 知子 新井 基洋 小川 郁
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.9, pp.742-750, 2010-09-20
被引用文献数
2 8

めまい患者の身体症状とストレスに着目し調べることを目的とした. めまいの治療のため集団リハビリテーション治療を目的として入院した患者145例を対象とした. 今回作成した問診票を用いて調査した. 質問項目の内容は現在有している身体症状としてめまい, 頭痛, 不眠, 下痢, 便秘, 腹痛, 胸痛, 心臓がドキドキする, 息が切れやすい, 疲れやすいの項目, さらに現在感じているストレスの内容として仕事 (学業), 家庭内の問題, 社会に対して, 金銭面, 自分の健康, 生活環境, 近所づきあいの項目について数値評価尺度 (Numerical Rating Scale: NRS) によって回答するものである. また不安, 抑うつの程度, めまいによる障害度をHADS (hospital anxiety and depression scale), DHI (dizziness handicap inventory) にて評価を行った. 身体症状として疲れやすい, 不眠, 頭痛を多く認めた. これらの症状は抑うつや不安にしばしば認められる症状である. NRSにて数値化しためまいと頭痛症状の間には相関関係が認められた (R=0.48, P<0.0001). 今回の結果, めまい患者はめまい以外にもさまざまな身体愁訴を有していることが明らかになった. めまい患者の治療においてはめまい以外の身体症状に焦点をあて, 適切に症状聴取を行い対応していくことが必要である.
著者
小松原 幸子 花牟礼 豊 須田 佳人 春田 厚 笠野 藤彦 鹿島 直子
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.111, no.5, pp.412-415, 2008-05-20
被引用文献数
2 10

耳鼻咽喉科領域では, 脂肪注入術は, 主に声門閉鎖不全に対し行われる方法である. われわれは, 喉頭摘出後にボイスプロステーシス (PROVOX2<SUP>®</SUP>) を留置したがシャント孔が拡大し, 保存的には縮小困難であった症例に遭遇した. この症例に対し, 声帯内脂肪注入術を応用して, シャント孔周囲に脂肪を注入した. その結果, シャント孔の十分な縮小が得られた. これにより, ボイスプロステーシスを用いた発声が継続可能となった.
著者
八木 昌人 川端 五十鈴 佐藤 恒正 鳥山 稔 山下 公一 牧嶋 和見 村井 和夫 原田 勇彦 岡本 牧人
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.869-874, 1996-06-20
参考文献数
6
被引用文献数
18 5

厚生省の高齢者の聴力に関する研究班は65歳以上の高齢者の聴力を調査した. 測定7周波数の平均聴力レベルはA群 (65~69歳) で35.0dB, B群 (70~74歳) で42.1dB, C群 (75~79歳) で46. 1dB, D群 (80~84歳) で52. 1dB, E群 (85歳以上) で55.6dBであった. すべてのグループにおいて聴力の男女差はみられず, オージオグラムの型は大部分の例で高音漸傾型を示した. 平均語音弁別能はA群で75.4%, B群で70%, C群で63.8%, D群で59.7%, E群で52.1%, また, SISI検査で70%以上を示した率はA群で45.2%, B群で49.3%, C群で47.9%, D群で51.6%, E群で59.7%であった.
著者
鈴木 光也
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.15-23, 2011-01-20

superior canal dehiscence syndrome (上半規管裂隙症候群) とは, 上半規管を被っている中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲に骨欠損を生じ, 瘻孔症状, Tullio現象, 難聴などさまざまな臨床症状を来す疾患単位である. 発症の機序はいまだ不明であるが, その頻度は欧米に比較してアジア諸国では少ない. 本症候群の瘻孔症状やTullio現象は上半規管の刺激によって生じるため特徴的な眼球偏倚がみられる. つまり時計回りまたは反時計回りの回旋成分を含んだ垂直性の動きであり, 上半規管が正に刺激されると上方に, 負に刺激されると下方に眼球が偏倚する. 難聴は伝音難聴 (気導—骨導差) も感音難聴も生じうる. その他, 前庭誘発筋電位 (Vestibular evoked myogenic potential) 検査において振幅の増大と反応閾値の低下がみられる. 画像診断には側頭骨HRCT (high resolution CT) が用いられる. 上半規管裂隙症候群の診断ではスライス幅0.5-1.0mmの冠状断CTが有用とされているが, CTのみでは裂隙の診断に限界があり, false positiveに注意しなければならない. false positiveを排除するためには神経耳科学的検査で上半規管瘻孔を示唆する眼球運動の確認が必要である.
著者
長縄 慎二 中島 務
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.10, pp.783-789, 2010-10-20
被引用文献数
3 1

従来, 難聴やめまいのMRI (Magnetic Resonance Imaging) 診断では聴神経腫瘍の有無や奇形, 椎骨脳底動脈循環不全, 脳腫瘍, 多発性硬化症などが診断される程度であり, 内耳のリンパ環境の変化については, 迷路炎によるリンパ腔の形態的変化や著明な内耳出血がない限り検出が困難であった.<br>近年, 3Tの登場とマルチチャンネルコイルによる信号雑音比の向上, 新しいパルスシークエンスソフトの開発による高速化などのMR技術の顕著な進歩が複合して, 内耳リンパ環境の変化を鋭敏に捉えることのできる3D-FLAIR (fluid attenuated inversion recovery) が臨床応用可能となり, 従来は画像的な異常を検出できなかった突発性難聴やハント症候群, ムンプス難聴などの多くの患者で異常所見を検出し得るようになった. さらに3D-FLAIRを鼓室内ガドリニウム造影剤投与と組み合わせることによって, 内リンパ水腫を検出することが可能となった. しかし, 本法はガドリニウム造影剤の適応外使用であり, 侵襲性もあるので, 次のステップとして静脈注射での内リンパ腔描出を目指した. まず血液迷路関門の透過性が亢進していると思われる突発性難聴症例を対象に通常量静脈投与4時間後には迷路外リンパ腔が増強され, 前庭において内リンパ腔の認識が造影欠損として可能であることを示した. メニエール病については国内で認可されている最大量である2倍量のガドリニウム造影剤の静脈投与4時間後の3D-FLAIRで蝸牛, 前庭において内リンパ水腫を描出することに成功した. しかし, 静脈投与4時間後撮影は鼓室内ガドリニウム造影剤投与に比べて造影剤の外リンパ移行が不十分なことも多く, さらに薄い濃度の造影剤を検出する方法を検討している. このようにさまざまな内耳MRI研究は, 感音性難聴とめまいにおける画像を使った客観的医療の導入のきっかけとなることを目指して進化している.
著者
小林 正佳 今西 義宜 石川 雅子 西田 幸平 足立 光朗 大石 真綾 中村 哲 坂井田 寛 間島 雄一
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.108, no.10, pp.986-995, 2005-10-20
被引用文献数
5 9 3

嗅覚障害の治療としてステロイド薬の点鼻療法が一般的に行われているが, 治療が長期にわたる症例も多くその副作用が懸念される. ステロイド薬点鼻療法長期連用に関してその安全性を有用性と比較して検討した報告はない. そこで今回は当科嗅覚味覚外来で同療法を施行した患者を対象にこの比較検討を施行した.<BR>0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム液 (リンデロン液®) の点鼻療法を施行した62例中42例 (68%) に点鼻開始後1~2カ月で血清ACTHまたはコルチゾール値の低下が出現したが, 異常な理学的所見や自覚的症状は認められなかった. 点鼻療法を中止した8例は全例1カ月後にそれらの値が正常範囲内に回復した. 一方, 同療法を継続した34例中4例で開始後2~5カ月で自覚的な顔面腫脹感, 顔面の濃毛化というステロイド薬のminor side effectが出現したが, 中止後1カ月ですべての症状が消失した. 同療法のみを3カ月以上継続した23例の治療効果は, 自覚的嗅覚障害度, 基準嗅力検査上ともに統計学的に有意な改善がみられ, 日本鼻科学会嗅覚検査検討委員会制定の嗅覚改善評価法でも78%例で何らかの改善判定が得られた.<BR>ステロイド薬点鼻療法の長期連用は軽度で可逆的な副作用を生じ得る. 一方, 嗅覚障害の治療効果は高い. よって同療法は有用な嗅覚障害の治療法であり, 臨床的必要性に応じて十分な注意の下に長期連用することは可能と考えられる.
著者
石田 正幸 川崎 匡 渡辺 行雄
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp."107-179"-"107-187", 2004-03-20
被引用文献数
1

過去におけるネコの視運動性眼振(OKN)の報告では,水平性と垂直性OKNを定量的に同条件で記録したものは,ほとんどなかった.本研究では,ネコの水平性および垂直性OKNを直立頭位で同条件のもと記録し,定量的パラメーターを用いて解析した.<br>覚醒ネコ5匹を対象とした.直立頭位のネコにランダムドットパターンのステップ状視運動刺激を行い,サーチコイル法を用いて眼球運動を記録した.<br>ネコの水平性と垂直性OKN反応における,直接経路のパラメーターとして,急速緩徐相速度上昇,急速緩徐相速度下降を,間接経路のパラメーターとして,定常状態緩徐相速度,OKAN面積を呈示した.<br>水平性OKNの定常状態緩徐相速度(SPV)は,40~60°/sまで刺激速度の増加に伴って増大し,それ以上では,飽和した.右向きと左向きのOKNは,ほぼ対称だった.垂直性OKNについては,下向きOKNの定常状態緩徐相速度(SPV)は,20°/sまで刺激速度の増加に伴って増大し,それ以上では,飽和した.これは,水平性OKNのSPVよりも低速であった.一方,上向きOKNのSPVは,弱く不規則であった.<br>視運動性後眼振(OKAN)も,右向きと左向きで,ほぼ対称だった.下向きOKANも,認められたが,水平性OKANよりも弱かった.OKANのSPVにおける急速緩徐相速度下降は,水平性と下向きOKNにおいて観察された.一方,上向きOKANは,ほとんど観察されなかった.<br>本研究結果より,ネコの水平性OKNと垂直性OKN反応の差は,直接経路よりも間接経路の差によるところが大きいと思われた.また,ネコとサルのOKN反応を比較すると,直接経路,間接経路ともに,ネコの方が小さく,特に,中心窩視力に関わる直接経路の差が大きいと思われた.
著者
今西 順久 藤井 正人 徳丸 裕 菅家 稔 冨田 俊樹 神崎 仁 大野 芳裕 犬山 征夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.5, pp.602-614, 1998-05-20
被引用文献数
14 5

目的:今後の中咽頭癌に対する治療方針決定の参考にすべく,その予後因子の解析及び治療方針と成績に関する統計学的検討を行った.<br>(対象)1981年7月から1996年6月までの15年間に当科で治療した中咽頭扁平上皮癌91鯛,性別は男性83例,女性8例,年齢分布は29歳から84歳,平均62.7歳であった.病期分類は1期:11例,II期:12例,III期:30例,IV期:38例,進行期(III+IV)が納7500を占めた.原発巣に対する一次治療の内訳は,化学療法併用例とsalvage surgery施行例を含む根治照射群が72例,術前照射と術後照射施行例を含む根治手術群が14例,化学療法単独群が5例であった.NeoadjuvantChemotherapy(NAC)は50例に施行された.<br>(方法)単変量解析として背景因子別に粗累横生存率を箪出し,Coxの比例ハザードモデルによる多変量解析により予後因子の独立性及びハザード比を検討した.また根治照射群と根治手術群の一次治療方針別,さらにNACの有無別及び効果甥に生存率を比較検討した.<br>(結果)全体の5年生存率は55.6%で,単変量解析では(1)T分類(p=0.0075),(2)年齢(p=0.0274),(3)亜部位(p=0.0400)が予後因子と考えられ,多変量解析の結果T分類が独立した予後因子と判定された(p=0.0253).治療方針別生存率の検討に統計学的有意差は認められなかった.再発に対するsalvage surgeryが根治照射群の生存率の向上に寄与しており,特に上壁型は適応が高いと考えられた.NACの葵効率は85.44%と良好であったが,生存率改善に寄与した統計学的証明は得られず,効梁別の比較でも奏効群と非奏効群の生存率に有意差は認められなかった.<br>(結論)今後の治療成績向上のためには,予後不良因子である(1)T4,(2)70歳以上,(3)前壁型に短する治療を強化する必要があると同特に,積極的かつ適切なsalVage surgeryが不可欠である.放射線療法の占める比重は大きいがその適応と限界を正確に見極めるべきである.
著者
渡部 浩伸 菅野 秀貴
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.8, pp.967-978, 1998-08-20
被引用文献数
1 11

(はじめに)抗腫瘍剤であるシスプラチン(以下CDDP)は,腎障害,聴器障害,血液毒性などの副作用を有しているが,これらの副作用には,フリーラジカルや脂質過酸化反応の関与が示唆されている.メシル酸デフェロキサミン(以下DFO)は,鉄排泄剤であり,最近になリフリーラジカルスカベンジャー作用のあることが注目されている.したがって,DFOはフリーラジカルの発生が関与されていると考えられているCDDPの副作用に対し軽減効果が期待されることから,ラットを使用し,CDDPの聴器障害に対するDFCの軽減効果の有無,さらに腎障害に対する軽減効果,CDDPの抗腫瘍効果に対するUFOの影響について検討した.<br>(方法)Fisher系雄ラットを,I群)コントロール群,II群)DFO単独群,III群)CDDP単独群,IV群)CDDP•DFO併用群の4群(各群n=10)に分けて使用した.CAP閾値を測定した後,蝸牛有毛細胞障害の状態を走査電顕を用いて観察した.また,血中尿素窒素(以下BCN),血中クレアチニン(以下Cr)を測定した.抗腫瘍効果については,扁平上皮癌担癌ラットを用いて腫瘍体積の増大率より検討した.<br>(結果)聴器障害について,CDDP•DFO併用群はCDDP単独群と比較し,CAP閾値の上昇および蝸牛外有毛細胞の障害程度は明らかに軽度であり,DFOはCDDPによる聴器障害を有意に軽減した.BUN.Crについては,CDDP•DFO併用群は,CDDP単独群よりも上昇程度は軽度であり,腎障害についても軽減効里が認められた.抗腫瘍効果に関しては,CDDP•DFO併用群とCDDP単独群間には有意差はなかつた.<br>(結論)今回の実験において,DFOの併用はCDDPの抗腫瘍効果に影響を及ぼさず,CDDPの聴器障害,腎障害に対して軽減作用を有していることを明らかにた.したがって,CDDPの副作用を軽減する上でDFOは有用な薬物であり,今後その臨床応用が期待される.