著者
加藤 あい 宮田 明子 守屋 由香
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.145, 2006

<b><はじめに></b><BR> 産褥期における子宮の復古および悪露の変化は著しくかつ重要であるため、産褥期における注意深い観察と復古促進に向けたケアが必要となる。<BR> 経腟分娩後の子宮復古状態については基準化され、看護を行う上でのアセスメントの指針ともなっている。しかし、帝王切開後の子宮復古に関しては一般に経腟分娩より遅いと言われているが、明らかなデータとして発表されているものはない。そこで、経腟分娩と帝王切開の子宮復古状態を比較し、帝王切開術後のアセスメントの基準を明らかにすることを目的とし検討した。<BR><b><研究方法></b><BR> 経腟分娩者30名、帝王切開分娩者21名。正期産かつ単胎とし、帝王切開分娩者に関しては、緊急帝王切開や合併症がない者とした。産褥0日より退院日までの子宮底長と硬度および、悪露量を測定した。妊娠・分娩経過、分娩週数、妊娠・分娩歴、Hb値、胎盤の大きさ・重さ、児体重、使用薬剤名・投与量、排泄状況、離床時期などについてフェイスシートを用い情報収集した。<BR><b><結果および考察></b><br> 子宮底長の経日的変化に関して、産褥1日を除いては、帝王切開の方が経膣分娩の子宮底長に比べて高い。これは子宮に手術操作が加わることや、安静の期間が長いこと、授乳開始の遅れが影響していると考えられる。<BR>悪露量の経日的変化において、産褥1・3・4日で帝王切開より経腟分娩のほうが有意に悪露量が多く、産褥5日は経腟分娩の悪露量が多い傾向にあり、産褥2・6日は、帝王切開の悪露量が多い傾向であった。産褥1日は経腟分娩では、授乳の開始や安静の制限がされていないことが関連していると考えられる。産褥2日に帝王切開の悪露量が多い傾向であったのは、歩行開始となることが関連していると考えられる。<BR> 帝王切開の場合、経腟分娩と比べて子宮底長は高く経過していくが悪露量は経腟分娩が多い量で推移することが多かった。一般的には、子宮底長が高いと悪露量が多く子宮収縮が悪いと判断するが、帝王切開の場合は子宮底長が高いことと、悪露量の多さには関連がなく、子宮底長と悪露量では子宮収縮状態を判断することはできない。<BR>【まとめ】<BR> 経腟分娩と帝王切開における産褥期の子宮底長の経日的変化をみた結果、帝王切開分娩の方が、経腟分娩よりも子宮底長が高く推移することが明らかとなった。しかし、帝王切開の子宮底長が高く推移しても、経腟分娩に比べ悪露量は少なく、子宮収縮が不良という指標にはならない。<BR>産褥期の子宮復古に影響を及ぼすといわれる因子についての今回の研究では有意差はでなかった。今後は、産褥期の吸啜回数や時間など、本研究項目に取り上げなかった因子の影響も含め、検討すべきである。
著者
杉村 龍也 吉村 公博 井木 徹 松村 弥和 蟹江 史明 今川 智香子 梶原 佳代子 龍樹 利加子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.79, 2006

<b><緒言></b>医療法の改正や診療報酬の改定、社会福祉基礎構造改革で介護保険法を主とした社会保障領域における福祉制度の改正や新設などにより、患者を取り巻く医療供給体制がここ数年目まぐるしく変化してきている。急性期病床の加茂病院においても、退院や転院に関する援助件数が、年々飛躍的に増加している。そこで、医療供給体制の変化と当地域医療保健福祉連携室における相談実績の統計資料とを比較検討し、豊田市(人口40万)における今後の地域医療のあり方を考察する。<BR>〈<b><方法></b>〉平成7年度から平成17年度の加茂病院の地域医療保健福祉連携室の相談実績の統計や豊田市周辺の医療・介護提供施設の状況と、第2次医療法改正から現在までの医療供給体制の推移を比較検討する。<BR><b><結果></b>加茂病院の地域医療保健福祉連携室における対応件数は開設当時から現在に至るまで年々増加の一途をたどってきている。その内訳を見ると、全体的に増加傾向であるが、中でも退院・転院に関する相談は顕著である。平成7年当時と比べると、退院・転院相談の実件数は平成12年で2倍強、平成16年では4倍強となっている。<BR> 転院の例として平成9年当時の医療・介護提供施設を見てみると、転院先として挙げられるのは老人病院と長期療養型病床群、老人保健施設しかなく、特に豊田市では、平成9年当時は長期療養型病床群が無く、老人病院も市内には一ヶ所のみであり、周辺市町村への転院が殆どであった。そのため、施設待機の1ヵ月から2ヶ月を加茂病院での入院継続を余儀なくするケースも多かった。<BR> しかし、現在の医療・介護提供施設を見ると、施設がそれぞれ専門分化してきている。急性期病院では、急性期加算をとるための平均在院日数を意識しながらの退院指示や、受入れ施設に併せた形での退院指示が増えている。回復期リハビリテーション病棟では、入院日数や入院までの日数に制限が設定されるようになり、早期での転院を求められるようになった。以前のように施設待機を急性期病院で過ごすことが難しくなり、早期での退院指示に不安を抱える患者・家族が多くなったのである。つまり、単独の医療機関では、治療から療養・介護までの一連の医療の提供ができないのである。<BR> この現状は、国の医療費抑制政策が大きな要因となっている。特に平成12年の介護保険法施行や平成14年の急性期入院加算の設置などは、専門特化しないと病院が生き残っていけない現状を作り出したと言える。それ以上に影響を被ったのは患者・家族である。社会構造や家族形態の変化による家庭介護力不足が深刻な中で、医療依存度が高い患者でも退院指示が出されるようになり、高額な施設への転院や、充分な準備の無い中での退院を迫られる状況となった。以上のことが退院相談増加に繋がっていると言える。<BR> 結論として、今後の地域医療では、単独の医療機関だけで充分な医療の提供はできない。そのため、患者・家族に不安の無い充分な医療を提供するには、医療費抑制政策の中で専門分化した複数の医療機関が、相互の特性を活かした密接な連携を図り、地域の中で一つの大きな医療機関として機能する必要があると考える。
著者
臼田 誠 広澤 三和子 前島 文夫 西垣 良夫 矢島 伸樹 夏川 周介 関口 鉄夫
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.248, 2005

〈はじめに〉ミカンや落花生の栽培が盛んな神奈川県N町の一般廃棄物焼却施設(し尿焼却と最終処分場も併設)周辺住民は、長年にわたる本施設からの悪臭、騒音や煙ならびに粉塵などによる生活環境や健康への不安を募らせていた。さらに、近隣自治体からの生ごみを受け入れたバイオガス発生施設を本施設に増設するという企画が浮上し、本施設直下にあるM自治会では現在の本施設による周辺環境ならびに住民健康への影響を調査したいとの依頼が当研究所にあり、調査を実施した。その結果の内で環境影響については前演者が述べたので、ここでは周辺住民への健康影響について報告する。<BR>〈調査対象および方法〉2004年9月、上記の一般廃棄物焼却施設直下にあるM自治会全住民(622戸、2200人)を対象に、生活環境の変化や現在の自覚症状などを問う調査票による健康アンケート調査を実施した。対象住民の居住地が本施設から900m以内という近距離にあるため、対象住民全体を一つの集団としてデータ処理を行なった。そして、得られたデータを当研究所が実施した以下の2つの焼却施設周辺住民健康影響調査データと比較し、本対象住民の状況を判断することとした。比較データ1:埼玉県T市の県下最大産廃焼却施設周辺住民調査(対象994人)、比較データ2:長野県K町の民間産廃焼却施設周辺住民調査(対象4,443人)<BR>〈結果〉アンケートの回収率は92%と高率であった。本対象住民では都市圏への通勤のために、居住地での滞在時間が8時間以内の割合が多かった。生活環境の変化では、「臭いがする」との回答が64%と最も高く、これは比較データよりも有意に高い値であり、これが本施設による影響の特徴と考えられた。「窓ガラスや庭木が汚れる」などの粉塵による影響はT市の焼却施設から1000ー1500m地域住民と同程度の訴えがあった。<BR> 本対象住民の平均年齢は2比較住民よりも若く、現在治療中の病気では最も多い高血圧症が4%以下と比較2住民よりも有意に低かった。具体的な24項目の自覚症状では、「喉がいがらっぽい」「風邪でもないのに咳が出る」「目がしょぼしょぼする」「皮膚のかゆみ」など多くの項目で、本対象住民の訴え率は、比較したT市の焼却施設から1000mー1500m地域住民や長野県K町の焼却施設から400mー800m地域住民の訴え率と同程度あるいはそれ以上であった。また、24症状を喉・呼吸器・眼・皮膚・頭の6症状群にまとめて比較すると、その傾向がより明らかとなった。<BR>〈考察〉N町の一般廃棄物焼却施設によるM自治会住民への健康影響がダイオキシン騒動の中心地であるT市の焼却施設周辺住民と同程度であり、しかもM自治会住民の多くの居住時間が少ない状況を考えると、本施設による影響は深刻であると考えられる。
著者
嘉屋 祥昭
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.199, 2009

〈はじめに〉病院を取り巻く情勢は,マイナス要因につながる多くの状況下にある。コンプライアンスに抵触する事案,セクハラ,パワハラ等不祥事はメディアを通じて広がり,また病院・医師のランク等も一方的に報じられている。このように周辺環境がめまぐるしく変化する中,組合員・地域住民の要望に応えるためにも厚生連4病院(尾道・吉田・広島・府中)に働く全職員が仕事の基本やマナーを身に付けて,一層の信頼を高めなければならない。患者や家族が何に不満を抱くのかを検証するのではなく,私たちは何を期待されているのかという観点からもう一度自院・所属職場の接遇を見直す必要がある。広島県厚生連人事部教育課を中心に,4病院教育担当看護副部長と共に作成したマナーガイドブックを活用しながら接遇指導者を育成し,委託職員を含め多職種を対象とする接遇教育に取り組み成果が得られたので報告する。<br>〈マナーガイドブックのねらい〉<br>・4病院の対応の違いや手法の違いをなくし,マナーのレベルアップに努める。<br>・職場の実情に精通した職員が職場の仲間としてマナーを直接指導することでよりきめ細かなマナーが定着する。そのためにも組織内に「質の高い指導・論評」ができる人材を広く育てていくことが必要である。<br>〈接遇指導者養成〉まず各病院より各々の職種から指導者として活動できる人材を選出し,現状と課題を持ち寄った。次にどのように自院で接遇研修に取り組むかをビジョンとゴールを設定し,講義やグループワーク・ロールプレイ等をしながら指導者養成に取り組んだ。終了後は認定証を発行し,接遇指導者としての意識付けとした。現在接遇指導者を28名養成した段階である。<br>〈厚生連4病院での成果〉接遇指導者はこの研修の必要性を説き,ガイドブックを使用し,ロールプレイを取り入れ各病院で研修を実施した。参加者は多職種(医師・研修医・薬剤師・放射線技師・理学療法士・事務・委託業者等)であり,職種間の理解も深まり,協力しながら自部署で自ら実践者として活動できると評価している。<br>〈これからの取り組み〉・ロールプレイ事例集の作成・広島県厚生連として接遇指導者100名を養成する・マナーブック活用の拡大(抄読会など)・患者満足度調査と患者さまの声を用いた評価
著者
新井 修 芝田 房枝 沢 仁子 池添 正哉 山口 博
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.149, 2005

【目的】<BR> 阪神淡路大震災から10年、地震列島であり台風の通過点と言われる日本において、どんな災害がいつあるかわからない。本年10月23日には透析中に新潟中越地震があり、当院においても震度2を経験した。緊急離脱及び避難について患者、スタッフ共に意識も高まってきている。しかし透析患者の高齢化も進み、自分で緊急離脱できる患者の減少が見られるため、5年前との離脱、避難について比較し、今回患者のレベルにあった対処方法をまとめたので報告する。<BR>【方法】<BR>1.全患者へアンケート調査、分析、検討<BR>2.緊急離脱・避難訓練<BR>3.環境整備<BR>4.患者会を含め学習会<BR>5.上記による患者個人に合わせた対応の検討と実施<BR>【結果および考察】<BR> 危機管理、災害対策についてスタッフ、患者とともに毎年「離脱訓練」「避難訓練」を行なってきた。5年前との比較を見ると高齢化が進んでおり、今回患者アンケートで介助者の増加がわかった。訓練後患者から「パニックになりそう」「自分の命は自分で守らないと」といった意見が見られた。患者個別の離脱方法、避難方法の用紙を渡すことで、患者個々の避難方法が認識でき安心感へとつながった。透析自体も自己血管型から人工血管、テシオカテーテル等多種多様化されてきているため、離脱方法、避難方法を患者の選定をすることでスタッフも動きやすくなり、無駄が少なくなった。患者会と協力し学習会を行なうことで災害に対して意識を高めることができた。スタッフも病院防災訓練時同時に訓練することで災害に対する意識も高まり、環境も整えることができた。当施設においても長野県内の透析施設災害ネットワーク加入により災害面への対処も一歩前進しつつある。<BR>【まとめ】<BR> 災害時には、まず患者の安全を第一に優先する。それとともに、スタッフ自らも一次、二次災害などに巻き込まれないことも重要である。それには患者層に沿った訓練、離脱方法を確立することは大切であり、スタッフの日々の意識と、訓練が大切である。<BR>※倫理的配慮として研究に当たって患者へ趣旨を充分説明、理解していただいた上でアンケート調査等を行なっている。
著者
宮地 恵美 中内 涼子 鈴木 弘美 高橋 佐智子 宮島 雄二
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.39, 2006

<B><緒言></B>病院における小児の事故としてはベッドからの転落が圧倒的に多く、転落防止指導は非常に重要である。当病棟では、小児病棟の安全管理として、成人用ベッドとは異なる、四方に柵のついたサークルベッド(以下、高サークルベッドとする)を使用し転落防止に努めている。入院時のオリエンテーションでは、付き添い者に口頭で指導を行い、転落注意の警告文を表示したり呼びかけているが、転落は絶えず発生している状況である。今まで以上に具体的な対策を立案し、実施する必要性を感じた。<BR><B><目的></B>転落防止対策としての写真付きシートを作成し、それを用いて付き添い者への指導を行うことで、付き添い者の意識向上を図り、転落件数を減らす。<BR><B><方法></B>高サークルベッドの使用が必要な、付き添い者のいる0-4歳の入院患児を対象に、従来の指導方法:A群と、写真付きシートを使用した指導方法:B群での転落件数の比較検討と、アンケートによる付き添い者の意識調査を行った。写真付きシートは、乳児の人形を用いて、ベッド柵を正しく使用しないことで今にも転落しそうになっている状況や実際に転落してしまった場面の写真を載せた。入院時に持参して説明後、ベッド柵にかけ、退院時に回収した。付き添い者へのアンケートは、自由意志でありプライバシーは守られる事、同意を頂けなかった場合でも治療に影響しない事を記載し、倫理的配慮に努めた。各120例ずつ回収した。<BR><B><結果></B>転落件数は、A群延入院患者数3003人中9件(1件/334人)から、B群延入院患者数2968人中2件(1件/1484人)と有意に減少した。意識調査に関する質問内容については、「入院中注意してベッド柵を一番上まで上げていましたか」に対して、A群:できた39例(33%)・中段までしか上げていなかった21例(18%)・できなかった60例(49%)、B群:できた41例(34%)・中段までしか上げていなかった27例(23%)・できなかった52例(43%)で、有意差は認めなかった。「入院中、何を見て(聞いて)ベッド柵を一番上まで上げておこうと思いましたか(複数回答可)」については、A群:看護師の説明41%・柵についている警告文33%・掲示板に貼ってある警告文11%・看護師の声かけ8%、B群:看護師の説明31%・写真付きシート24%・柵についている警告文23%・掲示板に貼ってある警告文7%・看護師の声かけ9%であった。<BR><B><考察></B>写真付きシートを用いた転落防止指導で、小児の転落事故が有意に減少した。付き添い者が、実際に転落する場面の写真を見ることで、視覚的に危険性をイメージすることができたと考える。また、入院中常にベッド柵に写真付きシートを掲げ、付き添い者の目に留まるようにしたことで、転落防止について常に意識を持つことができ、付き添い者が代わった場合も転落防止の意識付けになったと考える。意識調査から「柵についている警告文」「看護師の説明」も有効であることが伺え、視覚的な指導方法と組み合わせ、看護師が声かけを繰り返すことも事故防止に有効であった。今後の課題として、今回の取り組みのような視覚的に効果のある説明や指導を十分に行っていくと同時に、小児病棟の入院患児の幅広い年齢層に対応できるような具体的な指導を考えていきたい。
著者
田實 直也 山田 浩昭 石川 一博 伊藤 祐 鈴木 和広 近藤 国和
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.199, 2008

〈緒言〉当院の電子カルテシステムは、効率的で安全な医療提供を追求するために2002年に紙カルテから全面移行した。稼動後6年が経過したが、不慮のトラブルは極めて稀で、半年に1回の保守停止以外はほぼ不眠不休で機能してきた。しかし、今回は更新に伴う停止時間が約27時間と算出された。このような長期停止は当院にとって前代未聞の出来事であり、様々な対策が必要となった。ここでは、今回のような病院機能の停止状態に対し、どのような対策を行ったかを報告する。<BR>〈方法〉院内では長時間停止が判明して、即管理職を中心に対応策を検討した。当初は三次救急医療を担う病院としての対応を模索したが、システム停止により情報網が寸断された状態では、求められる医療の提供が出来ないのは確実であることや、1日の救急外来患者が350名を越すため、処理が追いつかず飽和状態になることが予想されるなどから、対策として、最低限の患者数へ絞り込みを行い、この急場を乗り切るという苦渋の決断を強いられた。このため受け入れ先の確保や住民周知という難題に直面した。特に、地域住民の周知については短期的ながら患者の受療行動を抑制することになり、市民と近隣病院へ強く協力を働きかける方法を検討した。以下が行った対策である。<BR>1_県に救急の受診制限が問題ないか確認<BR>2_他病院への協力を要請<BR>3_救急隊へ搬送停止協力の依頼<BR>4_市広報へ掲載依頼<BR>5_周辺医師会へ連絡<BR>6_自院のホームページへ掲載<BR>7_地域の回覧板に依頼<BR>8_院内掲示・配布<BR>院内の対応は、停止中の職員を通常より増員し、今回の停止にあわせて臨時運用マニュアルを作成し、職員周知会を開催した。また、不測の事態に備えて定期的に行われているダウン時シミュレーションも運用参考とした。<BR>〈結果〉当日に電話や窓口でお断りする患者もいたが、対策が功を奏し、停止中の救急外来受診者数は期間中143人(前々週同期間374人、システム停止時間中実患者24人)となり、一定の効果を得ることが出来た。期間中救急の現場に大きな混乱もなく、停止時間も予定より6時間短く終了し、無事乗り切ることが出来た。今回行った対策の結果については、概ね以下の通りである(番号は前述〈方法〉欄記載に対応する)。<BR>1_医療圏内で十分な協力体制を敷くことができれば問題ないとの回答であった。<BR>2_近隣病院長会議や救急医療ネットワーク会議にて全面的な協力が得られ、他院の一部では期間中に増員体制で臨む協力が得られた。<BR>3_他院が救急搬送を受け入れてくれたため、特に問題はなかった。<BR>4_医療圏内12市町の広報へ掲載を依頼したが、断られる市もあった。<BR>7_安城市内の回覧板にて回覧協力を得た。<BR>8_院内数箇所に看板、ポスターを設置し、救急外来では、全患者に1ヶ月間リーフレット配布を行った。<BR>〈まとめ〉今回の試みは、早期に電子カルテを導入した当院が、更新作業をどのように行い、どのような対応策を検討したかという点以外にも、近年救急外来のコンビニ化が叫ばれる中、短期的ながら受け入れ先を明確化して明示すれば、患者の受療行動はかなりの確立でコントロールできるという二つの結果を導き出すことになった。通常業務における電子カルテの有用性を改めて実感するとともに、病院も行政との連携体制を強化し、地域を巻き込んだ広報周知活動を行うことによって、在るべき医療提供体制の機能分担体制構築に望みを見出す結果となった。
著者
平間 好弘 沼崎 誠 吉田 公代 鶴岡 信 新谷 周三 椎貝 達夫
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.233, 2007

目的 取手市など、5市1村で構成する「取手・龍ヶ崎医療圏」の基幹病院となっている当院では、災害現場での救急隊・現場救護所および病院での多数傷病者対応の想定訓練を通じて、地域の災害医療にかかわる各部門の問題点を抽出し、実際の発災時の初期対応の改善を目的に3病院合同災害医療訓練を実施したので報告する。<BR>方法 災害医療の原点は、12年前の阪神淡路大震災である。以後、厚生労働省の指導で全国に災害拠点病院が設置され、当院も平成14年4月に茨城県災害拠点病院に指定された。<BR> 平成17年4月、当地区を管轄する龍ヶ崎保健所は、医療圏内の災害発生時における広域医療の中心病院として、取手地区は取手協同病院、龍ヶ崎地区は龍ヶ崎済生会病院、阿見地区は東京医大霞ヶ浦病院の3病院を指定した。<BR> この3病院を中心に、医療圏内にある医療・消防・保健機関が合同し、取手龍ヶ崎医療圏災害医療協議会を結成し、3回の準備会と災害医療講演、机上訓練などを含め7回の会合を開催し、昨年(平成18年)の9月23日に災害医療訓練を実施した。<BR> 訓練には、3病院の他に医師会や保健所、保健センター、取手市消防本部、稲敷地方広域消防本部、阿見町消防本部などから150名が参加した。<BR> 訓練内容は、取手市を横断するJR常盤線下り線踏み切り内で、立ち往生したダンプカーに列車が追突、先頭車両が脱線転覆し、30人の重軽傷者が出たと想定し訓練を行った。<BR>結果 救助活動は、事故現場近くのガス会社敷地内に現地本部と救護所を設置。救護所では、消防本部から要請を受けたDMAT(Disaster Medical Assistant Team)がトリアージを行い、4台の救急車などで対策本部のある当院へ負傷者を搬送した。<BR>3病院を想定したブース内では、長いすを利用した仮ベッドで苦しがる重軽傷者を医師や看護師が対応すると同時に、重症患者に対しては県の防災ヘリによる他病院への搬送訓練も実施した。<BR>結語 同じ医療圏内にある複数の病院が合同して訓練を行なうことは、全国的にも珍しく高い評価を得た。今後も、実際の災害場面での協力体制・合同対応を円滑に進めるため、定期的に訓練を実施したい。
著者
永見 佳子 松浦 美由紀 宮田 恵子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.65, 2011

当院ではこの度、子どもに分かりやすいパンフレットを作成し、キワニスドール(以下人形)を使用した周手術期プレパレーションを試みた結果,有効性が得られた。BR 扁桃摘出術を受けた3歳~7歳の子どもとその家族、手術室看護師を対象に独自に作成した選択・記述式のアンケート調査を行った。倫理的配慮は、文書で説明し同意を得た。プレパレーションの方法は、まず外来看護師は親と子どもに作成したパンフレットと人形を渡す。その時に、パンフレットは親子で読み、人形は子ども自身にみたて、顔を書いてもらうよう説明する。そして入院後、病棟看護師は、手術前後に行う処置についてパンフレットと人形を用いて説明する。また,手術室看護師も術前訪問で同様に説明する。BR アンケートの結果より、パンフレットは大半の子供が見ていることが分かり、「これからどのようなことをしていくのかよく分かった」という意見がきかれた。パンフレットは、手術を受ける子どもと親にとって、これから行う入院から手術、退院までの流れを知るよい情報源となった。そして、これから自分の身に起こる出来事を正面から受け入れるものであった。また子どもは、人形に医療行為を真似るというよりも、自分の身に起こる出来事を一緒に立ち向かう仲間とし不安の軽減をはかったと考える。そして、周手術期プレパレーションは、各部署が一人の子どもの入院から退院までの流れや内容を具体的に把握し表現することで一貫した看護を提供できた。そして,手術室看護師は小児看護に関して経験が乏しいため、作成したパンフレットは術前訪問で十分に活用でき、一貫した手術室看護を提供できるようになった。BR 今後は、どの小児の周手術期プレパレーションにも対応できるパンフレットを作成し、外来と病棟、手術室で連携した看護を展開していきたい。
著者
小森 佑美 笹井 由利子 須原 伸子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.178, 2008

【はじめに】<BR>現在、当院では、顔の清拭を朝と夕方に蒸しタオルにて行っているが、眼脂が残っていることがあり、眼の清拭が不十分だった。布団を掛け臥床している患者にとって、顔は第一印象となる。しかし、長期臥床患者は自己にてケアすることができず、眼脂の多い患者は、点眼薬を使用し続け悪循環となる。また、点眼薬に関する研究は数多くされているが、眼清拭に関する研究はほとんど見あたらず、関心の低さが伺えた。そこで、2%ホウ酸水コットンにて眼清拭を取り入れた結果、洗浄や点眼を使用しなくても眼脂が減少し、効果が得られたので、ここに報告する。<BR>【研究方法】<BR>1.研究期間:2007年7月~9月 2.研究対象:当院長期療養型病棟入院中65歳以上の寝たきり患者 3.方法:_丸1_2%ホウ酸水コットンを作り、朝・昼・夕方に眼清拭をする。_丸2_点眼薬使用者は、医師の許可を得て、ケア期間中点眼薬の使用を中止し、すべての患者を同じ条件にて行う。_丸3_手洗い後、又は手袋を使用し眼脂の少ない側から拭く。拭く時は、まず初めに目頭部分の眼脂を拭き取り、コットンの面を変えて目頭から目尻にむかって拭く。 評価方法:スケール表を個別に作成し、両眼計30点で1週間ごとに3回評価する。<BR>【研究結果および考察】<BR>眼脂は、眼清拭実施前も眼清拭実施後も朝に多くみられた。また、眼脂は目頭側に一番多くみられ、続いて目尻側に多くみられた。点眼薬未使用者だけでなく眼清拭実施前点眼者(以後点眼者とする)も、眼清拭実施後どの時間帯にも眼脂の量は減少した。分析の結果、有意差があり(p<0.00)眼清拭が効果的だったと言える。また、点眼者に対しても有意差があり(p<0.05)、眼清拭は効果的だったと言える。そのため、現在も点眼薬を使用せず経過している。しかし、眼清拭実施後、眼脂の量はある一定量まで減少したが、分析の結果、有意差はなく眼脂量が減少しつづけているとは言えなかった。眼脂は夜間閉眼していることや、ケアをしない時間が長いことで朝に多くみられたと考えられる。そのため、夜間のケアを導入すれば、もっと眼脂の減少につながると思われるが、患者の睡眠を配慮すれば、必須とは言えない。評価方法に関しても、個別のスケール表を使用したが、有る無は分かっても、量的な評価に関しては難しさを感じた。眼脂が目頭側に多く見られたのは、目頭には鼻涙管があることが考えられ、一般的な拭き方では、眼脂を広げることになる。そこで、初めに目頭側の眼脂を拭き取ってから、コットンの面を変え目頭から目尻に向かって拭くことが眼脂の減少につながったのではないかと考えられる。また、結果から目尻側を最後にもう一度拭き取る清拭方法を見直すことが、より効果的だったと考えられる。<BR>【結論】<BR>高齢で長期臥床患者の眼脂は、2%ホウ酸水コットンにて眼清拭をすることで減少した。しかし、消失することはなかった。
著者
山田 雅子 勝山 奈々美 中川 映里 花村 真梨子 諸星 浩美 玉内 登志雄
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.448, 2011

(緒言)近年、身体拘束を廃止しようと医療機関では拘束廃止の取り組みが増加してきている。抑制には紐で縛る抑制「フィジカルロック」、薬物による抑制「ドラッグロック」、言葉による抑制「スピーチロック」があることを知った。私たちは「動かないで!」等の言葉を、言葉による抑制であるという意識なく患者に使用していることに気付いた。そこで、医療現場で勤務する看護師を対象に言葉による抑制「スピーチロック」について意識調査を行った。(方法)看護師174名に独自で作成したアンケート用紙を用いて実施した。1)看護師の背景、2)スピーチロックの認知度、3)例題の言葉に対する認識の程度、等5項目に対し記入を求めた。(結果) スピーチロックを「知っている」と回答した者は26.6%であった。言い方の変化としてスピーチロックと認識されるのは「ちょっと待って!!」が43.2%であることに対し、「ちょっとお待ちください」が1.9%と、差がみられた。スピーチロックと捉える言葉を「毎日聞く」と回答した者は50%を占めた。(考察)言葉は目に見えないもので、抑制であるという定義づけが難しく、他の身体抑制よりも看護師の認識が薄い。そのため不必要な抑制は行わないように心がけていても、言葉で相手を抑制している現状があることを知った。同じ意味でも言葉を変えるだけで抑制に対しての感じ方も変わってくることがわかり、接遇とスピーチロックは関係が深く、接遇の改善でスピーチロックを減らすことができると考える。看護は人と人とのつながりであり、良い接遇は不必要な抑制を減らし、良い看護につながると、多くの看護師が感じていた。看護の現場ではスピーチロックという言葉に対する認識は薄いが、スピーチロックにならないための対策を考えていく必要がある。
著者
山崎 良子 五十嵐 久美子 小川 真理子 池田 真由美
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.169, 2007

〈緒言〉 平成17年10月の新築移転に際し病棟が泌尿器科・循環器内科・血液内科・血管外科の4科で再編成された。看護部では固定チームナーシングが導入され看護を実践している。A病棟ではAチームを泌尿器科、Bチームを残りの3科でチーム編成した。近年、ドックや検診等で前立腺PSAの検査導入により前立腺生検(以後、P生検と略す)を行う対象が増え2泊3日の短期入院が増加した。また、AMIの緊急入院や心臓カテーテル検査(以後、心カテと略す)入院、血液内科の連日の検査や化学療法、輸血療法、血管外科の2泊3日の検査入院と1日平均6~7人の入院がある。病室単位でチームを分けている為、退院患者を待って入院をいれている。A・Bチームに関係なく入院が入る為、1部屋にA・B両方の看護師が出入りすることは常であり固定チームナーシングが機能していない状況である。そこで、看護スタッフがお互いのチームの特徴を知り、チーム間の応援・協力体制を充実させることで、日々の看護業務を円滑にし患者へより良い看護が提供できるように、当病棟における応援体制について研究したのでここに報告する。〈方法〉 1、対象 A病棟看護スタッフ22~24人2、期間 平成18年7月~平成19年2月3、方法 _丸1_各科チェックリストの作成 _丸2_チェックリストについてアンケート調査・分析・活用_丸3_応援マニュアルの修正〈結果〉チーム編成にあたり看護問題の共通性からPPC方式では患者グループ分けができず、病室単位でグループを分けた。しかし、4科の特殊性が強く1部屋にそれぞれの患者が入るとそれぞれのチームの看護師が入り看護してきた。その為、患者はどちらの看護師に頼んだらよいかわからず、頼んでも反対チームの看護師だと最後まで責任もって行えないことがあり1部屋1チームで看護できないかと考えた。その為に循環器・泌尿器科・血液内科・血管外科4科の特徴を知るように各科のチェックリストを作成した。(90項目)作成後、チェックリストについてのアンケート調査を行った。その結果、ただ、項目があってもわからない。チェックリストとしては技術的にも内容的にも細かすぎる、などの意見が聞かれた。そこで、5東では応援体制に何が必要かを考え応援体制に必要なラインを決め行った。1・各科のチェックリストから最低限経験または知ってほしい項目をあげる。2・チームで声をかけあい経験できるようにしていく。その結果、チェック項目を18に絞り、経験できるように日々の業務の中に取り入れた。また、経験前にシュミレーションすることでチェック項目が受け入れられるのではないかと考え、それぞれのチーム会でAチームには心臓カテーテル検査入院についてBチームには前立腺生検入院についてのオリエンテーションを行った。この前後にアンケート調査を行った。オリエンテーション前より後の方が出来ない、聞きながら出来る、のわりあいが減り、出来るが増えている。その為、日勤のスタッフでA/Bチームを問わず入院を取る事ができるようになり、退院まで一貫して看る事ができるようになった。
著者
佐藤 栄子 細金 佳子 佐藤 加代美 尾見 朝子 片桐 善陽
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.88, 2007

_I_ はじめに 当病棟は脳血管疾患などにより、片麻痺、四肢麻痺の患者が多数を占めている。上肢に麻痺がある場合、手掌部が屈曲、拘縮により湿潤し不潔になりやすく悪臭を伴いやすい。そこで、消臭、除湿、空気清浄化に効果があり、安全、安価で洗って再利用できるという利点を持つ木炭を用いて、消臭効果を試みた。_II_ 研究目的:木炭パックを使用することにより、麻痺側手掌の不快臭が軽減でき、有効性を知る。_III_ 研究方法1 対象患者 手指拘縮の患者男性2名 女性1名2 調査方法調査期間 平成19年2月18日~2月24日麻痺側の手掌内に木炭パックを握らない状態で入浴当日の入浴前後、入浴後の3日間を6段階臭気強度表示法を用いて職員5人が測定し平均値を出す。次に木炭パックを使用した状態で同様に調査を行う。_IV_ 結果A氏は、木炭パック未使用時の一番高かった数値は3.2であった。入浴直後は1.4、木炭パックを使用してから1、2日目は徐々に減り3日目は0までいった。B氏は、木炭パック未使用時の一番高かった数値0.4であった。入浴直後は0に減ったが、木炭パックを使用してから3日間ともに数値の変化が少なく、3日目は0.4となった。C氏は、木炭パック未使用時の一番高かった数値は3.6であった。入浴直後は0.2、木炭パックを使用してから1日目が0まで低下。しかし2日目は4.2と増加し、3日目には1.6となった。_V_ 考察今回、木炭を使用して、手掌内の不快臭を消臭できるかと研究を試みた。対象となった患者は全員、週2回の入浴のみであり、手掌内が汚れていない限り手洗いは行っていない。また、見た目の変化も少ないことから臭気における対策ができていなかった。入浴前の不快臭は強く、入浴により不快臭が減少し、時間、日数が経過とともに不快臭の数値が上昇するものと考えていた。結果、3人の対象患者の手掌内の不快臭の消臭効果は木炭パック使用前に比べて数値的に効果があったといえる。A氏B氏共に使用後の数値はほぼ無臭に近い少数点での平均値を出すことが出来た。C氏は研究途中の2日目に木炭パックが手掌内から外れていたため、数値がその日だけ異常に上昇していたことが予測できる。外れていると効果がないということであり、例え短時間でも外れていた場面で数値は上昇し、その後装着した翌日には数値は減少した。このことから、木炭パックの消臭効果は高いといえる。しかし、麻痺側の手掌内に木炭パックを装着するということは容易に出来ることではなく、今後は握らせ方の工夫が必要である。今回は臭いを6段階臭気強度表示法を使用し平均値を出すという方法で行ったため、臭覚の個人差は少なかった。木炭の消臭効果により数値的変動は少なく、おおむね不快臭は軽減できる結果が出た。 _VI_ 結論木炭には消臭の効果があり、その効果は麻痺手の不快臭の軽減にも有効である。麻痺側手掌だけではなく棟内のさまざまな臭いの消臭に木炭を活用することで、良い療養環境を提供していきたい。
著者
永美 大志 西垣 良夫 矢島 伸樹 浅沼 信治 臼田 誠 広澤 三和子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.2, 2005

<はじめに><BR> 農薬中毒(障害)において、パラコート剤による中毒は、死亡率、死亡数の高さから重要な位置を占める。演者らは、本学会の農薬中毒臨床例特別研究班として、1998-2003年度の調査を担当し、調査の概要を報告してきた(西垣ら 2002、2005)。ここでは、自殺企図によるパラコート中毒について考察する。<BR><方法><BR> 本学会が行なってきた農薬中毒(障害)臨床例調査の1998-2003年度分の中で、自殺企図でパラコート製剤を服毒した症例71例について、製剤、性、年令階級、服毒量などと転帰との関係について検討した。<BR><結果><BR>1.製剤別の転帰<BR> パラコート製剤は、1960年代に販売され始めたが、その中毒による死亡の多さに鑑み、1986年に24%製剤(主な商品名;グラモキソン、以下「高濃度製剤」)の販売が自粛され、5%パラコート+7%ジクワット製剤(主な商品名;プリグロックスL、マイゼット、以下「低濃度製剤」)が販売されるようになった。高濃度製剤の販売自粛から10年以上経過した、1998-2003年の調査でも高濃度製剤を用いた自殺症例はあり、8例全てが死亡した。一方、低濃度製剤による症例は48例あり39例(81%)が死亡した。また、尿定性、血中濃度の測定などからパラコートの服毒であることは明らかであるが製剤名が不明であった15症例も全て死亡した。<BR>2.性別の転帰<BR> 性別では、症例数で、男31例、女39例であり、死亡数(率)は、男25例(81%)、女36例(92%)であった。<BR>3.年令階級別の転帰 症例を、20-49才、50-69才、70-89才の3群に分類したところ、死亡数/症例数(死亡率)はそれぞれ、17/21(81%)、23/27(85%)、22/23(96%)であり、比較的若い群でも死亡率が高かった。4.服毒量と転帰<BR> 高濃度製剤、製剤名不明の症例については、上記のとおり死亡例のみである。低濃度製剤については、20mL以下、50mL以下、50mLを超える量を服毒した群に分類したところ、死亡数/症例数(死亡率)はそれぞれ、4/9(44%)、2/4(50%)、22/23(96%)であり、数十mLの服毒であっても、半数近くが死亡し、50mLを超える群ではほとんどが死亡した。<BR>5.尿定性と転帰<BR> 尿定性の判定結果を、陰性、陽性、強陽性に分類したところ、死亡数/症例数(死亡率)はそれぞれ、1/2、12/17、24/27であり、陽性で71%が、強陽性では89%が死亡した。<BR>6.血清中パラコート濃度<BR> Proudfood(1979)が提案した、50%生存曲線との比較を行なったところ、おおむね、死亡例は曲線の上に、生存例は曲線の下に位置した。<BR><まとめ><BR> パラコート中毒の転帰を予測する因子としては、服毒量、服毒からの時間と血清中濃度などが考えられた。<BR><謝辞><BR> 本調査にご協力いただいた、全国の医療施設の方々に、深謝いたします。<BR><文献><BR>西垣良夫 他(2002).日農医誌 51:95-104 <BR>西垣良夫 他(2005).日農医誌 (投稿中) <BR>Proudfood AT et al.(1979) Lancet 1979;ii:330-332
著者
石田 智子 大石 博美 八子 圭子 小黒 弘美 佐藤 ちよ子 山本 卓 殷 煕安
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.147, 2005

【はじめに】<BR>2004年10月23日17時56分中越地震発生。当日医師1名、看護師4名、臨床工学士2名で外来患者29名(内護送9名)の二部透析中だった。地震発生当日から依頼透析を経て透析再開に至るまでの4日間の経過をまとめたので、ここに報告する。<BR>【経過】<BR>地震当日<BR>17時56分震度6弱の地震発生。度重なる余震があり3回目の余震時配管の破損により水の供給が停止、水漏れがセンター内に広がる。この様な状況の中で、医師より指示があり返血を開始する。<BR>18時11分、5回目の余震で天井からも水が漏れる。更に蛍光灯が次々に落下したため返血から離脱へ指示が変更になる。<BR>18時30分離脱完了後センター床には、割れた蛍光灯が散乱、足首まで水がきており、入り口の防火扉も閉まっている状況の中歩ける人は当院から100メートル程離れた避難場所へ誘導、車椅子の人は、エレベーター使用不可の為スタッフ2-3人で1階まで移動した。<BR>19時20分全員の避難が完了、患者の状態を確認し抜針する。<BR>19時40分患者の帰宅開始。帰宅できない患者を病院玄関ホールへ移動。交通手段のない患者に対し、スタッフが道路状況を確認しながら車で送迎。22時過ぎ最後の患者を家人が迎えに来て、全員の帰宅が完了。<BR>10月24日(地震発生後1日目)復旧作業開始したが、給水管の破損のため透析再開不可能にて10月25,26日の両日他施設に、依頼することになる。<BR>その為患者に電話連絡し依頼透析を行なうことになった旨を伝え、場所と時間、交通手段の確認を行なう。他施設に持っていく書類、ダイアライザー、回路等の準備も平行して行なった。<BR>また連絡の取れない患者に向け、当院で透析が出来ない為連絡してほしいと放送局に依頼。<BR>10月25,26日(地震発生後2・3日目)2施設にそれぞれ1日約30名ずつ透析を依頼、その際に看護師4名がそれぞれの施設に付き添うこととした。当院に残ったスタッフは患者連絡や復旧作業、病棟透析にあたった。<BR>【反省、問題点】<BR>地震発生時医師がセンターにいた為指示、判断がすぐ伝わり速やかに行動する事が出来た。しかし、医師不在時に誰がどのように指示し、連絡行動をしていくのか考えていく必要があると思う。その他、返血する際の優先順位・交通手段のない患者の帰宅方法も検討課題としてあげられる。<BR>院内の被害状況については、透析センターが渡り廊下を挟み病棟とは違う棟にあるため、地震直後病院側、透析スタッフ双方お互いの被害状況を把握しきれなかった。全館放送等情報の伝達手段の検討が必要とされる。<BR>患者に連絡を取るさい、避難場所が分からず苦労したが、今後行政やメディアの活用について事前に情報を得て有効利用できる方法を考えていかなければならない。依頼透析に関しては、受け入れ先の情報を確認した上での準備が必要だと思われる。30名という多人数の依頼だった為双方共に混乱し大変ではあったが、患者にとっては顔なじみのスタッフがいることから安心感を得られたようだった。しかし、移動に片道1時間から1時間30分かかり患者負担が大きかったと思われる。<BR>【まとめ】<BR>今回の経験を通して、災害時の問題点や課題を基に災害対策マニュアルを検討中である。今後様々な災害を想定したマニュアルも作成していきたい。
著者
有馬 聡一郎 佐川 京子 北川 千佳子 河村 加代子 藤原 拓也
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.168, 2010

<はじめに>MSWとして様々な疾患を抱える患者と関わる中で、医療費の支払いに苦慮している患者への対応を行う場面は多い。中でも近年外来化学療法を受けている患者からの相談が増加しており、この要因としては、DPC導入に伴う化学療法の「入院治療」から「外来治療」へのシフトが考えられる。この度「治療と生活」を両立することが困難になり、主治医に治療中止を申し出た患者が来談した一事例を報告する。<患者情報>60歳男性 膵臓がんを罹患。仕事もできなくなり約10万円の傷病手当で生活。月約7万円の治療費と通院費が生活を圧迫し、食事の回数を減らすなど日常生活も破綻している状況。親族の援助も得られず自暴自棄となる。幸い治療は奏功しがんの進行は抑えられているが、治療を断念する旨主治医に申し出る。<関わりと経過>患者の情報収集を行い、後日面談。直接生活暦や世帯状況、収入や生活費について細かく情報を得ることで、多角的視点から生活実態を把握。これにより以前福祉事務所へ相談に行きながらも断念した「生活保護」の申請が可能であることを確認。MSWより福祉事務所へ治療を断念するまでの経緯について詳細な情報を提供し患者にも生活保護申請を進言した。その申請も受理され、生活保護は決定した。治療費の不安が軽減した患者は表情も良く、当院への通院治療を続けている。<考察>経済的事情で「治療と生活」の両立が困難な患者は、非常に厳しい選択を迫られる場面がある。生きるために必要であるはずの治療が生活を破綻に導くのは本末転倒である。このたびの事例で適切なタイミングでのMSWの介入が治療継続に繋がることがわかった。<おわりに> 病気や障害を抱える患者はそれだけでも相当なストレスを被り、またそれに伴い社会的な不安や負担も増大する。MSWはそれに対応し、療養上の負担を軽減できるよう、また治療に専念してもらえるようなアプローチが求められる。
著者
斉藤 匡昭 宮川 孝子 佐々木 こず恵 山崎 とみ子 高橋 明美 小野 文徳 秋山 博実 小野地 章一
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.56, pp.331, 2007

〈緒言〉<BR>平成19年4月よりがん対策基本法が施行され、がん疼痛における対策が明文化された。当院では、平成18年7月に緩和ケアチームが発足した。それに伴い、薬剤科でも、緩和ケアにおける取り組みを行ってきた。当院は平成19年1月にがん診療連携拠点病院に指定された。<BR>これまでの当院の緩和ケアチームの活動と緩和ケアにおける薬剤科の取り組みについて報告する。<BR>〈概要〉<BR>1)緩和ケアチームの業務は、依頼された患者の緩和ケア実施計画書の作成と主治医への助言・協力、退院後の緩和ケア体制の調整、月2回の病棟回診およびチームカンファレンスである。 構成員はチーム本体が医師2名、薬剤師2名、看護師4名。チーム活動に協力する支援ナースが病棟看護師12名と外来看護師1名となっている。<BR>2)薬剤科での取り組みは全職員対象の緩和ケア勉強会では薬剤師が今まで2回に渡って講演を行った。<BR> 月に1度、支援ナース単独の勉強会では薬剤師が薬剤について解説している。勉強会後に補足が必要な場合は院内LANで資料を配布している。平成19年4月に疼痛治療マニュアルを作成し各病棟に配布した。また医師が携帯出来るような縮小版も作成した。原案は薬剤科で検討した。その他、オピオイドの薬物動態表や換算表をポケット携帯版にしてチームメンバーに配布した。<BR>〈症例〉<BR>主病名は胃がん、すい臓がん。<BR>心窩部痛にて近医を受診し胃カメラ検査を受けたところ精査が必要と言われ、総合病院を紹介され、胃がん、膵がん、癌性腹膜炎、肝転移と診断され予後は1~2ヶ月と告知された。その後、本人が希望して当院を受診、疼痛緩和を目的に入院となった。<BR>痛みへの不安と告知による精神的な落ち込みが強いためチームでは在宅へ向けた精神的ケアと十分な鎮痛を緩和ケアの目標とした。<BR>疼痛は腹部が著名であった。依頼時はデュロテップパッチ2.5mgを貼付されていたが鎮痛不十分で、モルヒネ筋注によるレスキューをしばしば使用、他、嘔気を伴っていた。そこで、チームではデュロテップパッチの5mgへの増量と嘔気予防としてノバミンの内服、レスキューとしてオプソ内服液の使用を助言した。<BR> その後、疼痛コントロールは良好となり、嘔気も消失した。入院当初は「家に帰ることは考えられない」と話していたが、徐々に精神的動揺も減り、年末年始には自宅に外泊も可能となった。<BR>〈今後の課題〉<BR>緩和ケアチームとしては、主治医との連携を強化し、医師会、薬剤師会等に働きかけ、在宅緩和ケアに向けた地域医療連携体制を構築できるよう努めていきたい。<BR>薬剤科としては、病棟薬剤師とチーム薬剤師間で患者情報の共有を図り、連携の強化や医師の処方に積極的に支援できるよう個々のレベルを上げていきたいと思う。<BR>
著者
渡辺 隆行 大城 貞次 守田 昌美 八木 敦子 今井 厚 寺島 茂 高野 靖悟
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.104, 2009

〈はじめに〉わが国のHelicobacter pylori(以下H. ピロ<BR>リ)感染者は推定5,000万人とも言われている。H. ピロリ<BR>は胃炎や胃十二指腸潰瘍の主な原因として,さらに胃癌と<BR>の関わりも注目されている。当院では2005年よりH. ピロ<BR>リ感染診断と除菌判定法の検査として尿素呼気試験,2008<BR>年4月より尿中H. ピロリ抗体検査を行っている。尿素呼<BR>気試験は非侵襲的,簡便で感度,特異度ともに高く,尿素<BR>呼気試験陰性の場合は除菌成功の信頼性は高い。<BR>〈目的〉H. ピロリ検査の現状を把握し,スクリーニング<BR>検査として人間ドックに新規検査項目としての導入効果が<BR>あるか検討した。<BR>〈方法〉2008年2月から2009年1月までの1年間における<BR>尿素呼気試験440件の陽性率,年代別検査依頼数と陽性<BR>率,尿中H. ピロリ抗体の陽性率と尿素呼気試験陽性患者<BR>の除菌治療後の除菌成功率について検討した。<BR>〈結果〉尿素呼気試験陽性率は27%であった。年代別検査<BR>依頼数と陽性率を比較すると,30代では42件で38%,40代<BR>では66件で23%,50代では105件で23%,60代では151件で<BR>26%,70代では58件で33%,80代以上では14件で29%で<BR>あった。尿中H. ピロリ抗体の陽性率は58%であった。陽<BR>性患者の除菌治療後の除菌成功率は85%であった。<BR>〈考察〉尿素呼気試験陽性患者の除菌治療後の除菌失敗率<BR>は15%であった。薬剤耐性菌の存在も確認されたとの報告<BR>もあり,1回の除菌だけでは効果がない場合も考えられ<BR>る。尿素呼気試験と尿中H. ピロリ抗体との陽性率の比較<BR>では,尿素呼気試験の陽性率が低くなったことからも,今<BR>後,人間ドックのスクリーニング検査としては,検体採取<BR>が容易で迅速に結果報告が可能な尿中H. ピロリ抗体を行<BR>い,除菌後は尿素呼気試験でH. ピロリの有無を評価する<BR>方法を提案していきたい。<BR>
著者
谷口 清州
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.370, 2007

新型インフルエンザによるパンデミックは、20世紀に入って以降、1918-19年、1957-58年、1968-69年と3回が記録されており、それぞれ、スペインインフルエンザ(原因ウイルスはA/H1N1亜型)、アジアインフルエンザ(A/H2N2亜型)、香港インフルエンザ(A/H3N2亜型)と呼ばれているが、その後、2005年現在までパンデミックの発生はみられていない。インフルエンザに関する科学的知見が蓄積されるにつれ、再びパンデミックがおこることが懸念され、1993年にはドイツでの第7回ヨーロッパインフルエンザ会議、また1995年に米国でのパンデミックインフルエンザ会議での報告をはじめとして、多くの専門家から「人の世界において流行する新型インフルエンザウイルスが早ければ数年のうちに出現する」との警告が出されていた。世界保健機関(WHO)は、1999年4月に、Influenza pandemic preparedness plan. The role of WHO and guidelines for national or regional planning. Geneva, Switzerland, April 1999を発表し、各国でPandemic Planを策定することを勧告し、2005年5月には、WHO global influenza preparedness plan. The role of WHO and recommendations for national measures before and during pandemics.(グローバルインフルエンザ事前対策計画)を発表してその具体的な方針を示したことから、世界各国のパンデミックプランの策定は促進された。そして、近年の鳥インフルエンザのヒトへの感染事例の多発を受けて、現在世界では、H5N1亜型の鳥インフルエンザウイルスがヒト世界に侵入してパンデミックを起こすのではないかという目前の脅威に対して莫大な予算をかけて準備を進めており、本邦においても、2007年度末に新型インフルエンザ専門家会議が、サーベイランス、公衆衛生対策、ワクチン及び抗ウイルス薬、医療、情報提供・共有の5つの部門別に設置され、2007年3月にそれぞれのガイドラインとしてまとめられた。もちろん、この背景にはこれまでの歴史的な背景からH5N1亜型のような高病原性の鳥インフルエンザウイルスはヒト世界には侵入しないのではないかと議論も理解した上で、これが近い未来にパンデミックを起こさなかったとしても、他の亜型による発生の危険性は依然として存在する。また、これに対して準備を進めることは、大地震、ハリケーン、津波などの自然災害、バイオテロなどの人為災害、すべての健康危機から国民を守ることにつながるという国家戦略としての危機管理の考え方がある。ここでは、歴史的なLesson Learnedや世界の対応状況をもとに、パンデミック対策の戦略を考えてみたい。
著者
澁谷 直美 大浦 栄次
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.352, 2007

〈緒言〉高齢者の骨密度増加に及ぼす因子について3年前の本学会で報告した。つまり、運動習慣を増やした群において、1年後に骨密度が増加しており、食生活においてカルシウム摂取を増した群では、骨密度の低下が少なかった。今回は例数を増やし、また経過観察期間を2年後とし、高齢者の骨密度増加に関わる要因を再検討した。〈対象〉JA高岡、JAいなば、JA氷見市の協力を得て、承諾が得られた転倒予防教室等に参加した60歳以上の男女で、平成13年度から平成18年度の5年間の測定期間のうち、2年後の測定値が得られた者。〈方法〉超音波を用い、骨量を踵骨にて測定(US法、アキレス)。SOS値(皮質骨測定値)とBUA値(海綿骨測定値、以下BUAとする)のうち、今回はBUA値を用い、現病歴・既往歴、身体活動量の変化や食事内容の変化による2年後のBUA変化率を比較検討した。〈結果・考察〉対象者数は、男56名(平均年齢75.1歳)、女236名(平均年齢73.5歳)である。そのうち増加者は男21名37.7%、女89名37.7%であった。2年後の平均BUA変化率は男-1.77%、女-1.46%で男女とも骨密度が減少していたが、男の方がより減少していた。<BR>胃や腸の手術歴がある者は、男性7名、女性9名で、平均BUA変化率は男性-5.77%、女性-3.88%であった。関節リウマチや腰痛・膝痛等の整形外科的疾患の既往のある者は、男性9名、女性46名で、平均BUA変化率は男性-3.96%、女性-2.07%であった。脳出血や脳梗塞の既往のある者は女性4名で平均BUA変化率は、-8.02%であった。胃や腸の手術歴は骨吸収を悪くするため骨密度が低下したと考えられる。また、整形外科的疾患や脳血管疾患は、運動による刺激が少なくなるため骨密度が低下したと考えられる。今までより身体活動を増やしたと答えた者は、女性25名で、平均BUA変化率は+1.33%で増加していた。運動の種類で、布団上での体操や屋内での軽度の身体活動を増やした者等を除き、より活動的な散歩やペタンクなどの屋外での活動を増やした者は12名で、平均BUA変化率は+4.48%であった。高齢者でも運動を増やすこと、特に屋外での運動を増やすことで、骨密度が増加すると考えられた。今までより身体活動量が減った者は、女性では11名で、平均BUA変化率は-2.65%であった。食事に注意した者は女性で22名であった。平均BUA変化率は2.48%で骨密度は増加していた。牛乳やヨーグルトを食べるようにした者の他に、ひじきや小魚を粉にして食べたなど食べ方に工夫をした者がいた。〈まとめ〉2年間に、運動を積極的にとりいれたり、カルシウムをより多くとること等、生活習慣を変えることにより、高齢者においても骨密度が増加すると考えられた。