著者
山本 啓介
出版者
学習院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、前年度までの和歌会作法書類の資料調査を整理し、現存和歌会作法書目録の作成を進めた。同目録は現在のところ当初目標と設定した調査をほぼ終了しているが、なお未調査の資料も少なくないため、これらの継続的調査を完了した段階で発表する予定である。上記の調査にあわせて、室町中・後期を中心に和歌会に関する古記録を収集調査し、内容をデータとしてまとめている。また、現存和歌懐紙・短冊の調査もあわせて行い、和歌会作法書との対応関連についても考察を行っている。以上の成果として、和歌会作法書の生成、及び伝授の諸相の研究の進展が挙げられる。室町後期飛鳥井流の書に『和歌条々』という書があり、当主自筆原本が多く伝来している。これらの内容整理、分析、及び伝授の様相を考察し、「飛鳥井家の和歌会作法伝授-『和歌条々』を中心に-」(「和歌文学研究」2010年6月)に発表した。さらに、伝授の考察という点で、共通点の少なくない飛鳥井流蹴鞠書『蹴鞠条々』についても併せて調査を進め、これらの様相を照合することから飛鳥井家の和歌伝授の様相をさらに考究した。その成果は中世文学会秋季大会(2010年10月於県立広島大学)において「中世における和歌と蹴鞠-『蹴鞠条々』と『和歌条々』の伝授を中心に-」として口頭発表を行った。また同発表の成果をまとめた同題の論文を「中世文学」五六号(2011年6月)に掲載する予定である。これらの一連の研究は、室町後期における和歌の作品の背景の様相解明に加え、地方武家相など含めた様々な層における文学・文化享受の有り様を知る上でも、当時における芸道伝授の一面を知る上でも重要なものであると位置づけうる。
著者
上田 哲司
出版者
国文学研究資料館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2020-04-24

本研究は、江戸幕府による蝦夷地直轄に関する史料や、東北諸藩による蝦夷地警備に関する史料、場所請負商人に関する史料などを収集し、そこよりアイヌ社会に関する情報を抜粋し、その実態を細かく追及しようとするものである。検討時期としては、特に蝦夷地一次幕領期(1799~1821)を中心にする。この調査を通して明らかになったアイヌ社会のあり様が、アイヌ側の主体性によって構成されたのか、場所請負商人などの介在や幕藩制国家の支配が及び始めてきたことが関係するのかを考察する。それによって、アイヌ社会の歴史像を描くとともに、国家がアイヌ社会へと支配を及ぼしていった過程を精緻に考察する。
著者
太田 考陽
出版者
静岡大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

本年度も引き続き、脊椎動物種々の肝臓構造の比較、その違いを生み出す分子進化の研究を行い、その成果を学会等で発表し学術論文の執筆を行った。比較ゲノム解析により、進化的保存された転写調節領域(ECR)の候補を同定したが、肝臓進化には直接関わらない領域であると予想され、予定していたゲノム編集を用いたECR領域の機能解析は断念した。その一方で、jag1の分子進化・ゲノム進化に関しては引き続き解析を進めた。その結果、真骨魚類特異的なJag1重複遺伝子間では、様々な観点で保存傾向と革新傾向を示すことが明らかとなり、この傾向は重複直後の決定ではなく、各系統群間の進化の中で別々にその傾向が決定していることが明らかとなった。これらのバリエーションの違いが真骨魚類の多様性を引き起こしている可能性があり、これらに関して論文の執筆を行っている。また、本年度は、肝臓の起源・進化に迫るため、原始的な肝臓の探索を目標に行った。哺乳類から系統的に離れている円口類ヌタウナギとスナヤツメ、軟骨魚類イヌザメの肝臓が、形態学的・遺伝子発現的に哺乳類の肝臓と類似しているのかin situ hybridization法を用いて調べた。その結果、円口類の肝臓でも、肝機能を担う“肝細胞”と、胆汁を運ぶ胆管を構成する“胆管上皮細胞”は、哺乳類同様の遺伝子発現差で区別することができた。このことから、形態学的でも分子レベルでも顎口類と円口類の肝臓は類似していると明らかにし、脊椎動物は同一起源の肝臓を保持していると予想された。また、イヌザメの胚を使用した発生の比較解析では、軟骨魚類は哺乳類の肝発生様式と非常に類似した発生様式を有することが明らかとなった。このことから、軟骨魚類と哺乳類の肝発生システムは同一起源である可能性が高く、少なくとも顎口類誕生前後には哺乳類での肝発生システムと同様のシステムが確立していたことが予想された。
著者
齋須 直人
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

採用年度2年目は採用1年目から開始した帰一派旧教徒の思想家コンスタンチン・ゴールボフとドストエフスキーとの関係についての研究を継続した。成果は、2019年4月のロシア思想史研究会で報告し、ロシア思想史の専門家の参加者たちから有益なフィードバックを得た。また、それをもとにさらに研究を進め、11月にロシアのサンクトペテルブルグで行われたドストエフスキー学会「ドストエフスキーと世界文化」で発表した。これらをまとめ上げ、博士論文の最後の章とした。12月から3月にかけて博士課程入学時からの成果をロシア語でまとめ上げ、2014年11月から2017年10月まで留学していたゲルツェン名称ロシア国立教育大学博士課程ロシア文学科に、2020年3月に学位論文(タイトルは『1860年代末から1870年代初頭のドストエフスキーの作品における導き手像:ザドンスクのチーホン、コンスタンチン・ゴールボフ』)として提出した。学位論文のテーマと並行して、現在のロシアの学校教育科目である「文学」において、ドストエフスキーがどのように教えられているかについても研究を行った。今に至るまで「文学」の教科書の多くでソ連時代のイデオロギーに沿った歪められたドストエフスキー理解がそのまま残っていること、ドストエフスキーの宗教面についての説明が少ないことなどが指摘されているが、近年のロシアのキリスト教的テーマでのドストエフスキー研究の隆盛との乖離があり、興味深い現象となっている。この研究は6月に東京大学で行われた第10回スラブ・ユーラシア研究東アジア大会で、申請者が組織した二つの共同パネルのうちの一つで発表した。この成果は論文としてまとめ、ドストエフスキー研究の論集(現在、出版のための手続き中)に寄稿した。
著者
垣沼 絢子
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

今年度は、日本レヴュー史研究の最終まとめとして、戦後ヌードレヴューにおける身体統制と身体美のイデオロギーについて、研究し、発表した。1)東宝のヌードレヴュー劇場と、戦後を代表する伝統演劇の前衛演出家である武智鉄二の交錯の意義を、身体統制と身体美という側面から明らかにした。武智は東宝のヌードレヴュー劇場で、伝統芸能である能をヌードで上演したが、現在から振り返ると、それが武智鉄二本人にとって、また東宝のヌードレヴュー劇場にとって、日本人としての身体美および身体制度について考え直す、ターニングポイントとなっていたことがわかった。2)昨年度末に行ったアメリカ国立公文書館でのGHQ/SCAP資料の調査をもとに、占領期日本演劇のレヴューの検閲や統制について、これまで不透明であった占領軍側の立場を明らかにした。残された検閲資料や会議録から、実際にどのような検閲が行われていたのか、どのような会議が行われ、日本の演劇人たちとどのような交渉が行われていたのかなどについて、日本側の報道や記録とは異なる側面を分析した。その結果、占領期におけるヌードレヴューの規制の背景には、ヌードレヴューを鑑賞しに行っていた占領軍の兵士たちを統制・保護するという側面があったということがわかった。こうした事実の解明により、日本における戦後レヴューの展開において、ヌードレヴュー実践者たちの言説に基づいたこれまでの研究に、占領軍側の交渉を反映することができた。3)占領期レヴューの検閲について、アメリカ国立公文書館および早稲田大学演劇博物館所蔵の検閲台本や会議録を分析した。その結果、検閲の実態を明らかにするとともに、舞踊の検閲の難しさもまた、浮き彫りにすることができた。舞踊の検閲台本を検証することは、舞踊のアーカイブ方法について考えることにつながるもので、本研究が、広く舞踊研究にも寄与しうることが示唆された。
著者
森田 紘平
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

本年度の研究実績は大きく三つに分けることができる.物理学における創発の一般論,存在論的構造実在論の洗練,および量子力学の思想史の展開である.まず,物理学の不連続性の典型例である創発について,主に量子力学と古典力学の関係に注目して,モデル概念の重要性を指摘した.より具体的には,準古典的領域が不可欠である量子論と古典論の間の関係づけについてパターン実在論による特徴づけが不十分であり,創発的なパターンとして実在性を確保するためにはモデルの役割を強調する必要があることを示した.次に,ミクロな量子力学的領域に関する存在論である存在論的構造実在論についてその内容を洗練させた.特に,多くの議論が異なる意味で用いてた「構造」や「先行性」といった概念を精緻化して,量子力学に応用することで,ミクロ領域の存在論的特徴付けを行った.この営みは,我々の日常的なスケールである古典的な領域についての存在論的地位を特徴づけることに役立ち,物理学における不連続性を明確化する助けとなる.さらに,このような量子と古典の対立の思想史的展開についても研究を行った.量子力学の哲学においては特に重要視されるニールス・ボーアの歴史的資料を分析することで,ボーアが1920年ごろに量子論や古典論についてどのような立場を取っていたのかを明らかにした.以上,これらの研究は量子力学と古典力学の関係に限定されているが,前者二つの研究は,さらなる応用が可能である.一方で,後者については,現代の不連続性の理解のされ方を特徴づけるために重要な視点を与えるものであると言えるだろう.
著者
工藤 瞳
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度を含めた3年間の研究において、働く子どもの運動MANTHOCが学校教育を提供する背景には、仕事をしていることのみならず、留年、中退、学校関連費負担、そして一部には小学校入試の存在など、子どもが一般の公立学校に通う上での様々な阻害要因が明らかになった。本年度は、仕事以外の学校教育への阻害要因および公立学校間格差、そして修道会などが運営する公立学校である民営公立校に着目して研究を行った。前年度および本年度の現地調査を踏まえて明らかになった点は以下の通りである。(1)ペルーの地方都市カハマルカの公立学校間格差に着目し、入試の有無や学校関連費といった点から比較した。2011年当時学区制のなかったカハマルカにおいて、試験による入学者選抜や学校関連費の違いといった諸条件が、各家庭による学校選択を左右している可能性があり、選抜がなく「誰でも入れる」学校の教育環境の改善が放置される懸念がある。(2)また、国が教員給与を全額負担し、修道会などが運営する宗教系民営公立校は、学校数は少ないものの、公立学校の枠内で貧困層に対して質の高い教育機会を提供してきた。ペルーでは財政的制約や政策の不連続性によって教育制度の変化が低調であり、教会による貧困層への教育の関与を背景とした民営公立校という伝統的な教育の公私協働の形が維持されてきた。(3)宗教系民営公立校の中でもネットワークを形成し、ラテンアメリカ17か国において学校教育・ノンフォーマル教育を展開するフェ・イ・アレグリアは、学校運営に関して地域と緊密な関係を築くとともに、教員研修や専門家の視察により教育環境・内容の向上に取り組んでいる。以上のように子どもの就学への阻害要因を学校側から検討することにより、働く子ども、貧困層の子どもへのより良い教育機会をいかに保障するかを考える上での重要な知見が得られた。
著者
本田 賢也 KEARNEY SEAN
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-10-12

研究では、微生物叢-宿主相互作用の理解を加速・深化し、健康・医療技術を創出するために、以下の2つのプロジェクトを推進した。1)トリプシンを分解する細菌単離:腸管バリアに関する研究を推進する過程で、炎症性腸疾患患者の便中では、膵由来酵素であるトリプシンの濃度が健常人と比較して高いことを見出した。無菌マウスの便中トリプシン濃度も、SPFマウスと比較して高いことが明らかになった。即ち膵臓から分泌されたトリプシンは、通常小腸においてその役割を終えた後、回盲部の細菌によって分解される必要があるが、炎症性腸疾患ではそうした細菌種が減少して、分解されずに大腸に残存すると考えられた。本研究では、健常ボランティア由来の便サンプルから細菌株を分離培養し、トリプシン分解細菌をスクリーニングし、Paraprevotella claraに属する細菌株がトリプシン分解能がある事がわかった。さらに、同定分離した株をIL10欠損マウスに経口投与すると、腸炎発症を抑制する事がわかった。Paraprevotella claraに由来するトリプシン分解プロテアーゼを同定するため、P. claraのゲノム配列のマイニング、P. claraの発現ライブラリーの作製、P. claraのmutant株の作製を行った。2) 長寿と腸内細菌との関係を調べる目的で慶應義塾大学・百寿総合研究センターと協力し、100名を超える百寿者の腸内細菌叢についてメタゲノムシークエンシングと胆汁酸組成解析を行った。コントロールとしての平均80才前後の高齢者の便サンプルを用いた。百寿者は3-oxo-LCAやallo-iso-LCAといった特殊な胆汁酸を代謝合成する細菌種が多く存在する事がわかった。そこで、3-oxo-LCAやallo-iso-LCAという百寿者に特徴的な胆汁酸代謝胆汁酸代謝を司る細菌株の同定を試み、候補細菌の同定に成功した。
著者
泉田 邦彦
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究は、中世後期における関東・奥羽の領主権力の実態(「洞」を基盤とする権力編成のあり方)を解明し、当該地域における研究概念の枠組みを再構築することを課題としている。今年度の研究実績について、以下の3点にまとめて報告する。①関連史料の調査・集積:昨年度に引き続き、研究の基盤となる史料の集積に取り組んだ。特に、室町期佐竹氏の由緒や礼節が記載された「康応記録」という史料の網羅的収集を試みた。調査成果から「「康応記録」の成立と伝来―戦国期佐竹家中の系図類作成に関する一考察―」と題した論文を執筆し、『常総中世史研究』5(茨城大学中世史研究会、2017年3月)に掲載が決定した。②戦国期北関東・南奥羽の領主権力及び領域支配構造の実態解明:昨年度研究に取り組んだ、15世紀の常陸領主に関する研究をまとめた「佐竹氏と江戸氏・小野崎氏」と題した論文が、高橋修編『佐竹一族の中世』(高志書院、2017年1月)に掲載された。16世紀における北関東の領主権力について、主に常陸江戸氏を対象に据え研究に取り組み、「洞」研究会や歴史学研究会中世史部会例会にて口頭発表を行った。一方、南奥羽の領主権力については岩城氏を対象に据え研究に取り組んだ。昨年度行った口頭発表の成果を基に「一五世紀における岩城氏の内訌と惣領」という論文を執筆し、『歴史』128(東北史学会、2017年5月)に掲載が決定した。③福島第一原子力発電所事故被災地の歴史・文化の継承の取り組み:本研究の対象地域の一つである福島県浜通り地区は、原発事故により地域コミュニティが崩壊し、歴史・文化を継承することが非常に困難な状況にある。そのため、地域に残されている歴史資料を保全し、後世に継承することが重要であると考え、資料保全活動に取り組むとともに、学会・国際シンポジウム・海外の大学にて状況を発信することで、当該地域の課題を共有することに努めた。
著者
柴崎 正勝 PLUTA ROMAN
出版者
公益財団法人微生物化学研究会
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-11-10

去年に引き続き、7-アザインドリンを利用する触媒的不斉炭素炭素結合形成反応の探索研究を進めた。アミド部位をチオアミドとした新規誘導体を合成し、その特性を精査した。アミドエノラート類の反応において、そのE/Zジオメトリーは生成物のジアステレオ選択性に直接的に関与するが、その熱力学的不安定性から捕捉は困難であり、各種分光法によるジオメトリー決定が不可能で生成物の立体化学から推察するに留まっていた。今回アミドからチオアミドとすることで、銅と硫黄の親和性を利用したエノラートの直接観測が可能となり、生成物の立体化学から予測されるように反応はZ-エノラートを経由して進んでいることを突き止めた。適切な不斉配位子を利用することでZ-エノラートを介する触媒的不斉アルドール反応が高エナンチオ選択的に進行することを明らかにした。
著者
小川 真弘
出版者
大阪府立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

女性は男性よりも骨格筋量が少ないことから、基礎代謝量が低く、また高齢期での転倒リスクが高い。男女間の性差を引き起こす要因として性ホルモンが挙げられるが、女性ホルモン(エストロゲン)の骨格筋における役割は不明である。ERには2つのアイソフォームERαとERβが存在し、互いに拮抗的に作用する。しかしながら、骨格筋におけるこれら2つのERの役割も不明である。前年度ではメスマウスではERαが脱ユビキチン化酵素であるUSP19の発現が亢進しており、その結果として骨格筋量が負に制御されることを示した。そこで、本年度ではエストロゲンシグナル及びUSP19の骨格筋量に対する影響に世代差があるのかを検証することを目的として行った。まず、メスマウスの骨格筋に対するUSP19の世代差の影響を検証した。若齢、中年齢及び高齢のメスマウスの骨格筋のUSP19あるいはERαの発現をsiRNAによりノックダウンさせた。その結果、若齢のメスマウスのヒラメ筋の重量が増加するが、中年齢及び高齢のメスマウスの骨格筋には影響がなかった。また若齢メスマウスのみで骨格筋のERαをノックダウンすることによって、骨格筋でのUSP19の発現量が減少して、筋量が増加した。続いて、骨格筋量の調節におけるERβアゴニストであるダイゼインとERβの影響における世代差について、エストロゲンを除去した卵巣摘出(OVX)マウスを用いて評価した。若齢のOVXマウスではダイゼイン摂取は筋量を増加させ、さらにE2による筋重量減少を抑制したが、中年齢及び高齢のメスマウスでは骨格筋量に対するダイゼイン摂取の影響は見られなかった。以上の結果から、若齢のメスマウスのみでERβを活性化することによって、骨格筋重量を増加させることがわかり、ERβアゴニストの骨格筋に対する影響には世代差があることが判明した。
著者
渡辺 幸三 CARVAJAL Thaddeus Marzo
出版者
愛媛大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

全世界のデング熱感染者数は2008年の120万人から2015年の320万人に急増している。この原因として「気候変動→洪水頻発→蚊の生息地拡大→蚊の個体数増加→感染者増加」の仮説が考えられている。これまで,媒介蚊の長期的な生息データがなかったため,上記仮説は数多くの研究者が注目しているにも関わらず,検証ができなかった。本研究は,松山・バンドン・マニラの気候や洪水頻度等の環境条件が異なる3都市で現在生息するデング熱媒介蚊のゲノム情報から過去の「個体数動態」と「生息分布の拡大過程」を推定する。そして,これら蚊の生態履歴に影響した各都市の環境条件を探索することで,上記仮説を検証することを目的とする。
著者
星野 太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究課題「偽ロンギノス『崇高論』の研究:言葉とイメージによる共同体の「媒介」の問題を中心に」の二年目である平成21年度においては、主に17世紀および20世紀における「崇高」概念の研究を行った。本年度の前半は、18世紀から19世紀にかけてのイギリス美学史研究、とりわけエドマンド・バーク『崇高と美の観念の起源』(1757)の研究を論文として、学会誌『美学』に発表した。その後、ニコラ・ポワローによる偽ロンギノス『崇高論』の仏訳(1674)、およびその注解についての研究を2010年7月4日の表象文化論学会第五回大会にて口頭発表した。また、年度の後半には、20世紀後半の戦後美術における崇高概念についての研究を公にした。特に、アメリカの美術批評家ロバート・ローゼンブラムの著作「抽象的崇高」、『近代絵画と北方ロマン主義の伝統を、クレメント・グリーンバーグをはじめとする同時代のテクストと比較検討し、この成果を論文として発表した。国外においては、まず第18回国際美学会において、ジャン=フランソワ・リオタールの崇高概念についての発表を行った(北京大学、2010年8月13日)。次いで、国際会議ICCTワークショップにおいて、カントの啓蒙思想、および20世紀のフランス哲学(フーコー、デリダ)におけるその批判的検討を扱った発表を行った(北京大学)。いずれの発表も、大幅な加筆の上、論文として受理されている(前者は国際美学会の記録集に掲載予定、後者は発表済)。
著者
森 万由子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2020-04-24

低温の赤色矮星の周りを回る、地球の1~3倍のサイズの系外惑星、いわゆる「スーパーアース」について、その大気の存在を観測的に調べ、これまで明らかになっていなかったその性質を明らかにする。研究の手法として、宇宙望遠鏡TESSによって発見されてきた惑星候補天体の中から惑星大気観測に適したターゲットを選定し、すばる望遠鏡などの大型の望遠鏡による観測を行う。惑星が星の前を横切る現象「トランジット」の際に分光観測を行い、そのデータを解析することで、惑星に広がった水素大気が存在するかどうかを判定する。
著者
増田 亮津
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本研究は豚サーコウイルス2型(PCV2)のウイルス様粒子(VLP)の表面に豚流行性下痢病ウイルス(PEDV)のスパイク(S)抗原又は豚繁殖呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)のグリコプロテイン5(GP5)抗原をディスプレイすることで次世代型のワクチンを作り上げることである。そこで(1)ディスプレイ用抗原のカイコでの高効率生産、(2)九州大学のカイコ系統ライブラリーを利用したカイコの組換えタンパク質生産性の差異の原因探索、(3)タンパク質間のグルタミン残基とリジン残基を架橋する酵素である微生物由来トランスグルタミナーゼ (MTG)を用いた抗原提示VLPワクチン作製を課題として研究を進める。
著者
奥堀 亜紀子
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

宮城県石巻市を中心に「東日本大震災後の喪の作業の過程に見られる死者と生者の関係性の変容」に関するフィールドワークを継続した。採用年度から3年間のフィールドワークの方法論として「当事者の生活に馴染むこと」を用いていた。地政学的とも言える方法論を通して震災を経験した者の視点から見た死の人称性の揺れを分析し、ジャンケレヴィッチの死の人称性、ハイデガーと田辺による死の哲学 (死と死者の違いについて)といった哲学の問題を掘り下げた。震災を経験した者が失った日常とは何なのだろうか。採用最終年度は、一見して死と反対側にある「生活、日常」を分析していくことを課題として設定した。具体的な研究成果は、臨床実践の現象学会第5回大会の口頭発表において「生活とは何か ―東日本大震災から考える、普段は見知らぬものの存在が際立つとき」、石巻市鹿妻地区にある一坪書店文庫の企画ワークショップ「本屋de哲学」において「二人称の死を考える」を報告した。とりわけ石巻での報告は、参加者である住民 (震災の経験者であり、報告者が3年間にわたって関わってきた住民たち)に対する初めての報告であった。二人称の死が訪れた時に生きている人がおこなう喪の作業のあり方を考察するために石巻市に滞在し、最終的に辿りついたのは、人間がただ繰り返し営んでいる日常生活の本質となる「気、雰囲気、空気、情感」といった、一人の人間が置かれている環境を彩っているものたちの存在であった。死と死者の哲学、死の人称性についての考察を進めてきたが、それらを単純に「死」の哲学から見るのではなく、「生」の哲学の観点から見ることによって「石巻の哲学」なるものが完成する。以上のような「生の哲学における死者の哲学」を基盤にしてジャンケレヴィッチの郷愁論を読み直していくことによって、喪の作業の方法論としてジャンケレヴィッチの郷愁論を構築していく見通しを立てた。
著者
許 淑娟
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究は国際法秩序の基盤をなす法的枠組として「領域権原概念」を問い直すものである。その研究課題に対して本年度は、第1に、昨年度(17年度)に着手した学説史および外交史における領域権原概念の理論的整理作業を引き続き行った。具体的には、19世紀末のベルリン議定書の領域法的意義を外交資料および外交史文献から精査し、従来の国際法学における位置づけとを比較検討した。占有の実効性を定めた先例として国際法学では評価されているが、その本質的意義は「無主地」を「発明」したことにあることを示した。第2に、20世紀初頭から半ばまでの数百に亘る領域帰属をめぐる仲裁裁判を読み解き、その分析を行った。そのほとんどが「様式論」に依拠することなく、条約や承認ならびに「占有」の有無を問題として、それを根拠に判断を行っていたことが明らかになった。第3に、領域法の起源とされるローマ財産法および占有法における「占有」概念について検討し、そこから比較法的および理論的探求作業を行った。すなわち、国際法における領域法を分析するに際して、<領城規律形式>とその<基盤>という異なる次元を設定し、さらに、その基盤を<権原の物的基盤>と<正当化(型)基盤>を分節化するという理論枠組の構築を試みたのである。第4に、16年度に行った領域帰属をめぐる現代国際判例の分析を併せ、「新世界」発見以来、領域関係を規律する法体系として提示された<教皇の勅書と「発見」>、<原始取得の法理>、<様式論>、<「主権の表示」アプローチ>、<ウティ・ポシデティス原則>への遷移を、上記の理論枠組から分析した。その分析の結果を「領域権原論再考-領域支配の実効性と正当性-」という論文にまとめ、博士論文として提出した。
著者
前島 佳孝
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

1 西魏政権下における行台について検討した。西魏の行台は多様な形態を見せ、地方に置かれた一般行台と政権中枢に関わった宇文泰の大行台とに大別され、一般行台はさらに設置形態により、(1)対東魏前線の西魏統治地域に置かれたもの、(2)周辺諸勢力に対する外征や反乱の鎮圧のために置かれたもの、(3)在地勢力へ授与されたものに分類できる。これらは短期間に置廃され常設されなかった点で、常設機構と化していた北魏末期から東魏・北斉の行台とは大きく異なり、本来の臨時機構としての設置形態に回帰したと見なせる。宇文泰の大行台は、丞相府と並ぶ西魏の最重要機構として常設された。大統初年頃に管轄地域名称が外され、これによって管轄地域を限定されることなく、宇文泰は在所における尚書省の権限を代行しえた。平時は確固たる行政機構ではなく、宇文泰の幕僚収容機構として政策・制度の策定に関与し、出征時には現地の行政を執行し、また丞相府とともに行軍組織の運営に参与したと考えられる。西魏の行台の全体像に関する論稿は投稿先にて現在審査中。宇文泰の大行台に関しては『アジア史研究』32号にて公刊予定。2 唐高祖李淵の祖父で、西魏時期に活躍した李虎の事跡と関連史料について検討した。李虎は北朝から唐を結ぶ重要人物でありながら、唐代に編纂された文献ではありのままに記述できない点があったために史料が零細である。甘粛省清水県で発見された李虎墓誌銘を唐皇祖李虎のものであるとした先行論文に批判を加え、現段階で研究に使用できる史料について、潤色が施されている点、内容がぼかされている点や史料批判が必要な点を逐一指摘した。『人文研紀要』2007年秋刊行号にて公刊予定。3 前年度に執筆した西魏北周時期の官制改革に関する論稿が『東洋史論集』34号にて、魏晋南北朝時期に関する学界動向が『史学雑誌』115編5号にて、それぞれ公刊された。