著者
大屋 愛実
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

グルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1; GLP-1)は、小腸内分泌L細胞から分泌され、グルコース濃度上昇によって起こるインスリン分泌を増強する。小腸内分泌L細胞は、管腔内の栄養素、特にグルタミンの濃度変化に応答してGLP-1を分泌するが、その詳細な制御機構については、不明である。そこで小腸内分泌L細胞モデルGLUTag細胞における、グルタミン投与時の細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)およびcAMP濃度([cAMP]i)の動態を解析した。その結果、グルタミン投与により[Ca2+]iおよび[cAMP]iが上昇することが分かった。グルタミンは、細胞外Na+と共にナトリウム-アミノ酸共輸送体によって細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれたNa+は、細胞膜を脱分極させ、細胞内へのCa2+流入を引き起こす。その結果、GLP-1が分泌されると考えられている。そこで、細胞外Na+除去下での、グルタミン投与時の[Ca2+]iおよび[cAMP]i動態を解析した。その結果、細胞外Na+の除去により、グルタミン投与によって起こる[Ca2+]i上昇は抑制されたが、[cAMP]i上昇は抑制されなかった。また、このグルタミン刺激依存的に起こる[cAMP]i上昇は、Gsタンパク質阻害剤の投与では阻害されなかった。今後は、siRNAライブラリーを用いてグルタミン刺激依存的に起こる[cAMP]i上昇に関与する遺伝子の解析を予定している。
著者
藤高 和輝
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

もともとの研究計画をほとんど達成し、且つこれまでの研究成果をほぼ公表することができた。とりわけ、ゲイル・サラモン『身体を引き受ける――トランスジェンダーと物質性のレトリック』(以文社)の翻訳出版を達成できたことが大きな成果である。他には、「感じられた身体--トランスジェンダーと『知覚の現象学』」(立命館大学人文科学研究所紀要)、「「曖昧なジェンダー」の承認に向けて――ボーヴォワール『第二の性』における「両義性=曖昧性」」(『女性空間』)、「インターセクショナル・フェミニズムから/へ」(『現代思想』)など、多くの論文を公表する機会を得た。以上を通して、トランスジェンダーの「生きられた経験」を哲学的に研究する「トランスジェンダー現象学」の導入・深化を行った。トランスジェンダーの経験をよりリアルに捉える分析枠組みを提示することで、「哲学・倫理学」の学問分野のみならず、社会学や心理学、ジェンダー・スタディーズ、クィア理論などより広い分野に貢献することができたと自負している。今後は、特別研究員のあいだに行った研究を一冊の書籍にまとめ、研究成果をさらに社会に発信・公表していきたい。
著者
井出 草平
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究目的は、40万人規模で日本に存在する「ひきこもり」という現象の原因理解とその支援・解決である。これまでの調査研究の中でひきこもり状態にある人にはいくつかのサブグループがあることを示してきた。中学・高校で陥ることり多い「拘束型」と、大学で陥ることの多い「開放型」があるとした。研究の1つとして大学でのひきこもりについて初めての量的調査を行った。大学の中学・高校の不登校既往はおおよそ7割が経験していない。これは、大学でひきこもり状態になっている者と中学・高校でひきこもり状態になっている者の質的な違いを示すデータだと考えている。また、この期間に厚生労働省でのひきこもり科研に参加し、新しい版のひきこもり対応ガイドラインづくりに関与してきた。現在までの研究結果を政策に反映することに成功した。家族とひきこもりの関係性について考察することを目標にし、経験者、支援者への調査を行った。この調査の結果、家族とひきこもりの関係性がより明らかになったと考えている。ひきこもりとは、社会的関係を持たないこと、家族以外の他者とコミュニケーションをしないことをいうが、ひきこもりの家族を調査した結果、本人がひきこもる以前に、家族がひきこもり状態にあることがわかった。加えて、そのような家族像は近代家族の報想像とされてきたことから、近代化とひきこもりの関係が示唆された。研究結果は牟田和恵編『家族を超える社会学』(新曜社)「ひきこもりと家族」にまとめた。
著者
井出 草平
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究目的は、日本に40万人規模で存在するとされているひきこもり現象の原因理解を行い、逸脱現象への理論的貢献をすることである。ひきこもりが社会問題化されて10年あまり経つが、ひきこもりの規定要因を研究する研究は未だに不十分である。特にひきこもりを対象とした量的研究は少なく、大学生のひきこもりを対象とした井出・水田・谷口(2011)など限られていた。本研究はでは対象を拡大し、一般人口を対象とした調査を行った。量的研究が不足している現在では、インプリケーションのある結果を引き出すことができた。調査結果の概要を記載する。ひきこもりと収入・暮らし向きといった経済状況は長期化し、親が退職するといった家庭では起こるが若年では関係は優位差がなかった。親との関係や優等生であるといった親子間の問題も見られなかった。一方で、不登校をはじめ小学校や中学校といった早い段階から孤立をすること、友人を持たないことがひきこもりにつながっていることが判明した。ひきこもりと不登校の関連はよく知られたことだが、孤立は不登校には関連が見られず、ひきこもりにのみ効果を持っていた。また、いじめ体験はひきこもりと弱いながらも関連性が見られるが、不登校とは関連がなかった。一方で、成績不振は不登校との関連が見られたが、ひきこもりとの関連が見られなかった。ひきこもり現象は家庭よりも学校における逸脱現象と関連しており、中でも不登校との関連は強いがあることが判明した。しかし、その他の逸脱項目との間では不登校とひきこもりの間には差異が見られ、学校における逸脱と雑駁に捕らえるのではなく、一つ一つの現象と関連を明らかにする必要があることが判明した。逸脱論、特に学校に関連した逸脱現象を理論化する上での基礎的な資料の収集ができた。
著者
神尾 道也
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

1.クリガニン配偶行動の観察クリガニの配偶行動の全体を明らかにするために配偶行動を観察した。その結果、クリガニは脱皮の直後にしか交尾を行わないSoft Female Mating型の配偶行動、即ち交尾前ガード、メスの脱皮とそれに引き続く交尾を示した。飼育下では性比はオスの配偶行動に影響を与えなかった。また、複数のペアを一つの水槽で飼育すると一つのペアの脱皮直後のメスから放出された交尾行動刺激フェロモンが隣のペアのオスの交尾行動をひき起こすことが観察され、養殖環境下におけるフェロモン濃度の管理が正常な交尾行動を維持するために重要である事が明らかとなった。2.抱きつき行動刺激フェロモンメスの尿特異的に存在する化合物を2次元NMRを用いて検索したところ、コハク酸、トリメチルアミンオキシド、酢酸塩および尿素が検出された。これらの化合物の活性試験を行ったが個々の化合物および混合物は活性を示さなかった。LC-MSを用いて分析したところ、フォトダイオードアレイでは検出されなかったメス特異的成分が複数確認され、現在構造解析中である。3.電気生理学的フェロモン検出法の開発フェロモンは複数成分から構成されていると考えられるため、個々の成分を検出するためにフェロモン受容器からの電気生理学的応答を利用する方法を考案した。フェロモン受容器である第一触角の外肢の神経束からメス尿に対する応答が記録され、本法はフェロモン成分の検索に有効であると考えられる。
著者
呉座 勇一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は3年目に当たる。2006年5月に鎌倉遺文研究会の例会で報告した内容を基に作成、投稿した論文が『鎌倉遺文研究』第19号(2007年4月)に「論文」として掲載された。また2006年12月に千葉歴史学会中世史部会の例会で報告した内容を基に作成、投稿した論文が『千葉史学』第50号(2007年5月)に「研究ノート」として掲載された。2007年11月には、史学会第115回大会の日本中世史部会シンポジウム「『人のつながり』の中世」において、「国人・侍の一揆とその歴史的展開」という報告を行った。この史学会報告では、国人・侍の一揆と、被官・下人・百姓といった身分の人々との関係について考察した。一揆契状をはじめとする領主間協約に見える、被官・下人・百姓に関する規定(人返など)を主な検討対象とした。第1章では、南北朝期の一揆契状は軍事同盟であり、被官・下人・百姓に関する規定は基本的に存在せず、松浦地域の一揆契状は例外と捉えるべきであると論じた。第2章では、国人当主が近隣領主と提携し「衆中」(国衆連合)へ結集していく一方で、侍層は「家中」(被官の一揆)へ結集していった結果、国衆連合は各々の「家中」における政治的・軍事的中核たる被官層への対応を重視したことを明らかにした。第3章では、国人一揆は被官・中間・下人という直属家臣までしか統制できず、百姓統制を広範に展開した戦国大名とは権力としての質的差異があったことを指摘した。また一揆契状の原本の閲覧を行った。たとえば新潟県立歴史博物館では、「色部家文書」所収の起請文を閲覧した。享禄4年8月20日付の色部氏宛ての起請文は3通(鮎川氏・小河氏・本庄氏)存在するが、紙の大きさが一致せず筆跡も異なるようである。日付の書き方がまちまちであることを考慮すると、同時に作成されたわけではないと考えられる。一堂に会して一味神水を行ったという状況は想定しにくいと言えよう。
著者
呉座 勇一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は3年目に当たる。論文「隅田一族一揆の構造と展開」を『ヒストリア』221号に発表した。本論文では隅田八幡宮に集う隅田一族による祭祀の運営方法を検討した。その結果、従来は一揆の中核とみなされてきた葛原氏は、他氏に超越する惣領家的存在ではなく、小西氏や上田氏などと結んで集団指導体制をとっていたことを示した。また阿部猛編『中世政治史の研究』(日本史史料研究会)に論文「室町期武家の一族分業一沼田小早川氏を中心に一」を寄稿した。沼田小早川氏を主な事例として、室町期の武家領主の「家」が、惣領の権限を子息・兄弟に分散させる組織構造になっていたことを解明した。そして、この体制は戦争に対応するための危機管理対策の所産であったことを説いた。加えて、『東京大学史料編纂所研究紀要』21号に論文「乙訓郡『惣国』の構造一惣国一揆論の再検討一1を発表した。長享・明応年間の乙訓郡「惣国」の具体的・実証的な分析を通じて、議論が複雑に錯綜している惣国一揆の研究史を解きほぐすことを試みたものである。すなわち、国衆の地域的連合である「惣国」と、百姓層をも包摂した「惣国一揆」の区別を提唱した。学会活動としては、2010年6月に、日本史研究会中世史部会にて「国人一揆研究の成果と課題」という研究史整理の発表を行った。一揆研究においては、勝俣鎮夫氏による一連の一揆研究などを契機として、社会史的な一揆論が隆盛した。しかし荘家の一揆や土一揆などの研究が社会史的手法によって進展する一方で、国人一揆は専ら地域権力論や在地領主研究の題材として扱われた。この問題の解決策として、「領主制論」的な問題関心から離れて、一揆論的な視角から国人一揆を研究する必要性を訴えた。なお報告内容の要旨は、『日本史研究』580号に掲載された。
著者
有馬 恵子
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2021-04-28

本研究は、京都市の鴨川を挟んで上京区と左京区にまたがる出町エリアを調査地として、都市経済活動の内部において、いかに日常的な経済的・文化的実践が生起し、社会関係や都市空間に働きかけているのかを検討することを目的としている。具体的には、軒先や土間、シェア空間などの非定型空間での経済的・文化的活動、川や橋で日々実践される公式・非公式な活動に注目する。研究をとおして、地域・都市と芸術・文化に関する研究を横断的・批判的に検討し、日々の生活に埋め込まれた日常的実践の実像をあきらかにする。
著者
高島 亜理沙
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本研究は、エンターテイメントとして消費されるホモフォビックな表現形態に着目し、こういった表現が①どのように発展・継続してきたか、②どのようにポリティカル・コレクトネスの規制を免れてきたのか、そして③なぜ必要とされるのかを明らかにすることを目的としたものである。差別性が問題化されながらも人気を博しているコンテンツに関して、内容分析やインタビュー調査を行うことで、度々論争を呼んでいる「冗談か差別か」「表現の自由かヘイト・スピーチか」といった問いに一定の方向性を示すことを目指す。
著者
本田 由貴
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

イミキモド誘発性尋常性乾癬様皮膚炎モデルマウスを用いてリノール酸およびαリノレン酸よりそれぞれ代謝産生されるHYA、KetoA、αHYA、αKetoAの効果を検討した。これらの4種類の不飽和脂肪酸代謝産物のうち、αKetoAについてのみ、容量依存性の耳介厚抑制効果を認めた。αKetoA投与群において、病態の中心と考えられているIL-17A産生細胞の浸潤や好中球の浸潤についてフローサイトメトリーを用いて確認したところ、それらの細胞浸潤については抑制効果を示さなかった。次に皮膚組織切片についてヘマトキシリンエオジン染色を行い、組織学的に解析したことろ、αKetoA投与群では表皮の肥厚が軽度に抑制されていることが示唆された。そこで、まずRT-PCRにて尋常性乾癬の病態、表皮肥厚に関与していると考えられているサイトカインおよびケモカインのmRNA産生を調べた。その結果IL-23p19,IL-17A,IL-1β,CCL20,S100A8,Keratine17についてはαKatoA投与群でもコントロール群と同様に発現上昇を認めた。しかし、表皮肥厚に関与していると考えられているIL-22に関しては、αKetoA投与群で軽度ではあるが、優位な発現減少を認めた。次にタンパクレベルでの発現の違いを調べるために、フローサイトメトリーを用いて、IL-22産生細胞数を測定した。その結果、IL-22産生細胞数についてはコントロール群とαKetoA投与群で優位な差を認めなかった。RT-PCRの結果からはαKetoAがIL-22産生をmRNAレベルで抑制している可能性が示唆されたが、フローサイトメトリーの結果からはその抑制効果は明らかでなく、別のメカニズムが関与している可能性が考えられた。
著者
上田 大志
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本年度は、昨年度同様、注視している固視点を数百ミリ秒前に消すことにより、周辺視野に呈示される視覚刺激への運動反応が促進されるギャップ効果と呼ばれる現象を使い、「意識にのぼらない視覚刺激が行動に及ぼす影響」について検証した。昨年度の研究では、アモーダル補完による「物理的には消失するものの主観的には維持される固視点」を使用することで、ギャップ効果による運動反応促進には固視点の主観的消失が必要不可欠であることを明らかにした。そこで本年度は、昨年度の「見えていないのに在ると思う」に合わせ、「見えていないのに実際には在る」視覚刺激を使用し、ギャップ効果による運動反応促進における固視点の物理的消失の必要性を検証した。実験では、視覚刺激の物理的入力が維持された状態で意識に上らなくさせる連続フラッシュ抑制と呼ばれる知覚現象を利用し、「主観的には消失しているものの物理的には維持される固視点」を使用した。結果、眼球運動では、通常のギャップ効果の条件に比べ反応促進効果が減少し、固視点の物理的消失が必要不可欠であることが示された。一方、手の運動では、通常条件と同程度の反応促進効果が見られ、固視点の主観的消失の有無のみ影響することが示された(Experimental Brain Research誌掲載)。また本年度は、これまでの「知覚と運動」に、「高次認知機能」を加えたより一般的な視覚運動変換の理解を目指し、自分に対する視線の出現・消失による注視刺激の「意味的」変化によるその後の運動反応への影響についても検証した。結果、従来のような低次知覚によるギャップ効果が生じない条件であっても、顔・視線認知に関連する高次機能がその後の眼球運動反応に影響を与えることを明らかにした。このことは、顔・視線認知同様、ギャップ効果による眼球運動の反応促進が、潜在的かつ自動的なプロセスによって生じていることを示唆している(Attention, Perception, & Psychophysics誌掲載)。
著者
嶋本 聖子
出版者
香川大学(医学部)
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

ウエルシュ菌イプシロン毒素(ET)は、MDCK細胞に対し細胞毒性を示す(CT50=100ng/ml)。これまでの結果からMDCK細胞は、ETの細胞膜への結合、ETの7量体(膜孔)形成、細胞膜の透過性の亢進、のプロセスを経て細胞死に至ると考えられる。しかしながらその詳細な分子メカニズムは不明である。ETのMDCK細胞に対する作用機構を検討するために耐性細胞を分離し、ET結合性を初めとするいくつかの性状について解析した。耐性細胞の耐性の形質は、10代継代後も保持されていた。この細胞の由来が、Heterogenous cloneとして存在していたのか、変異によるものかは不明である。ETの7量体形成は耐性細胞では見られず、7量体形成は細胞毒性と関係していることが確認された。35S標識のET前駆体毒素の結合実験を行ったところ、耐性細胞では毒素の結合が見られなかった。以上の結果から、耐性細胞はETに対する結合能の欠損により耐性を示すものと考えられた。一方、我々はこれまでに、MDCK細胞のラフト画分(1%Triton X-100耐性、蔗糖密度勾配低比重画分)に、ETの結合性が高いことを示している。そこで、両細胞の結合性の相違について検討するため、それぞれからラフト画分を調製し、SDS-PAGEにて両者の構成蛋白の比較を試みたところ、分子量約130kDa蛋白が野生型にのみ存在していた。よってこの130kDa蛋白の、レセプター蛋白としての可能性について現在検討中である。
著者
岩月 憲一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

英語による論文執筆は,非英語母語話者には大きな負担であり,その支援は,我が国の研究スピード及びプレゼンスの向上という観点でも極めて重要である。本研究は,英語論文において繰り返し使われる表現,「定型表現」に着目し,この定型表現を大量の論文から抽出し,適切に分類し,検索・提示する方法の確立を目指す。そして,英語論文の執筆支援システムを構築し,広く利用に供することが本研究の最終目的である。
著者
糠谷 学
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

3-メチルコランスレン(MC)などの多環芳香族炭化水素(PAH)は,脂質代謝異常および脂肪肝を引き起こすことが報告されている.しかし,その毒性発現機構についてははとんど解明されていない.そこで.我々はDNAマイクロアレイを用いて無処置のマウスとMCを投与したマウスの肝における遺伝子の発現パターンを比較し,PAHにより発現が変化する遺伝子について検討した.その結果,多くの脂質代謝酵素遺伝子の発現がPAHにより抑制されることを明らかにした.興味深い事に,これらの遺伝子は共通して核内レセプターperoxisome proliferators-activated receptor α (PPARα)の標的遺伝子であった.このことより,PAHによる脂質代謝酵素遺伝子の発現抑制は,PPARαシグナル伝達の抑制により生じている可能性が考えられた.そこで,申請者は,PAHによるPPARαシグナル伝達機構への影響について検討した.その結果,PAHによりPPARαシグナル伝達が抑制されることを明らかにした.また,興味深いことに,この抑制はPAHと結合し活性化する転写因子・芳香族炭化水素受容体(AhR)を介していることが明らかとなった.次に,PAHによるAhRを介したPPARαシグナル伝達の抑制機構について解析を行ったところ,PPARαシグナル伝達系を構成している因子であるretinoid X receptor α (RXRα)のmRNAおよびタンパク質量の減少が重要であることを明らかにした.このRXRαの減少はAhRに依存的な現象であったことより,PAHによる脂質代謝酵素遺伝子の発現抑制およびPPARαシグナル伝達の抑制はAhRを介したRXRαの抑制が原因である可能性が考えられた。現在,この抑制機構に関するさらなる詳細な解析を行なっている.
著者
田宮 寛之
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

本年度は昨年度Six3-mVenusノックインES細胞を用いて開発したSCNオルガノイド分化誘導系を Per2::LuciferaseノックインES細胞 (Tamiya, Sci Rep 2016) へ応用した. Six3-mVenusとは大幅に分化誘導条件を変える必要があったが, 最終的に免疫染色でのSCN終分化マーカーなどの密集発現が観察されるSCNオルガノイドを誘導することができた. また, 発光イメージングで, 時計遺伝子の10周期分以上の減衰しない同期振動が観察できたため, 機能的SCNが誘導できたと考えられる (Tamiya et al., in preparation). また, 共同研究で広視野発光イメージングをおこなった結果, 免疫染色と発光測定のSCNらしい部位は一致していた. また, RNA Seqも行い,半数程度の細胞塊は, トランスクリプトームの観点からもSCNを含んでいることが明らかになった. 総じて, マウスES細胞から三次元SCN組織 (SCNオルガノイド) の試験管内誘導法の開発に成功した. 現在京都府立医科大学との共同研究で, SCN破壊マウスへの移植実験を施行している. 予備実験では第三脳室内に, 成熟SCN組織が生着していた. 現在行動リズムが徐々に観察されつつある. 自然回復の可能性や測定条件の問題があり, 成否の判断はもう少し慎重になる必要があるが, 行動回復が少しずつみえてきている可能性がある.
著者
杉浦 健太
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

2種の自由産卵を行う有性生殖クマムシ、Paramacrobiotus sp.とMacrobiotus shonaicusを用いて、雌雄配偶子とその接合子の観察を電子顕微鏡下で行った。その結果、Paramacrobiotus sp.の先体が極めて長く発達していること、両種の核がコイル状になっていることを見出した。また産卵直後の卵表面に精子が先体を介して結合している様子の撮影に初めて成功した。さらに交尾後のメスを解剖し、貯精嚢で精子の尾部が短縮化されることを確認した。これらの研究はクマムシの配偶子形態とその接合子を時系列に沿って明確に観察した初の研究であり、国際論文誌Zygoteに受理、公開された。精子の形態が種間で大きく異なることから、それらの形態が水中での遊泳に与える影響を調べるため、筑波大学下田臨海実験所の稲葉一男博士、柴小菊博士と共同で、交尾中の精子遊泳をハイスピードカメラにて撮影した。遊泳中は精子の頭部と尾部の結合点である中片を先頭として、直進と曲進を繰り返していることを明らかにした。また頭部、尾部ともに長いParamacrobiotus sp.の方がM. shonaicusに比べて遊泳速度が早かった。ソフトウェアによる解析では、遊泳中の頭部での運動はほとんどなく、尾部の運動のみを用いて遊泳していることが示唆された。交尾後15分経過したメスの総排泄孔を電子顕微鏡で観察すると、強く密集した精子が絡まりあって付着していたことから、長い頭部は遊泳よりむしろメス体内への移入まで総排泄孔に密集するために必要であると考えられた。これらの研究は2件の国内学会で発表し、現在国際論文誌への投稿準備中である。上記の研究に加えて、かねてより見出していたMilnesium属のクマムシ(オニクマムシ)の新種Milnesium pacificumと、タイプ種Milnesium tardigradumの日本初記録を論文としてまとめ、国際論文誌Zoological Scienceに受理、公開された。
著者
三上 恵里
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

日本人トップアスリートの瞬発系パワー系運動能力を規定する遺伝子多型を明らかにするため、日本人瞬発系パワー系陸上競技選手211名(国際レベル62名、全国レベル72名、地域レベル77名)および一般の日本人649名を対象として、文献検索により選出した22種の核およびミトコンドリア遺伝子多型をTaqMan法にて解析した。その結果、6種の遺伝子(ACTN3,VDR,MT-ND1,AGT,CNTFR,TRHR)の多型が瞬発系パワー系アスリートステータスと関連しており、これら6種の多型から算出した合計遺伝子型スコアは、統計学的有意に国際レベルの瞬発系パワー系アスリートステータスを予測できることが明らかとなった。しかしながら、合計遺伝子型スコアのアスリートステータスに対する寄与率は10%程度であり、現場での応用を目指す場合にはより精度を高めていく必要がある。また、これら6種の多型の中で、最も貢献度が高かったCNTFR遺伝子多型は、CNTFR遺伝子の3側非翻訳領域(3'-UTR)に位置しており、Target Scan Humanを用いてシミュレーションしたところ、miRNA-675-5pのターゲット領域に存在することが推測された。このことから、CNTFR遺伝子多型はmiR-675-5pの結合に作用することでCNTFRタンパクの発現に影響を及ぼしていると仮説を立て、ルシフェラーゼ・レポーターアッセイを用いてこの仮説の検証を行った。その結果、miR-675-5pはCNTFR遺伝子の3'-UTRに結合することで、CNTFRタンパクの発現を制御している可能性が示されたが、解析したCNTFR遺伝子多型の有無によりmiR-675-5pの結合は影響を受けなかった。したがって、このCNTFR遺伝子多型は、miR-675-5p以外のメカニズムを介して瞬発系パワー系運動能力に影響を及ぼしていると考えられる。
著者
天野 晶子
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

Senescence marker protein(SMP30)は加齢に伴い肝臓で減少する。SMP30は、多くの哺乳類の体内でビタミンC合成に必須の酵素グルコノラクトナーゼである。ヒトと同様に、SMP30遺伝子を破壊(ノックアウト)したマウス(SMP30-KOマウス)はビタミンCを生合成しない。SMP30-KOマウスはビタミンCの長期的な不足で寿命が短縮する。ヒトでは、血中ビタミンCが加齢で減少する。従って、老化とビタミンCの不足には、密接な関係が窺える。ビタミンCは、カテコールアミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)の生合成酵素、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)及びドーパミン-β-ヒドロキシラーゼ(DBH)の活性化に補因子として必要とされる。ビタミンCの加齢に伴う減少により、カテコールアミンも減少する可能性が考えられる。カテコールアミンは脳や副腎で合成され、神経伝達物質やホルモンとして重要な役割を担うとされる。しかしながら、ビタミンCの生体内におけるカテコールアミン合成系への役割は不明な点が多い。そこで本年度は、ビタミンC欠乏状態のSMP30-KOマウスにおけるカテコールアミン濃度およびカテコールアミン生合成酵素の遺伝子発現の変化を調べた。結果、ビタミンCの欠乏した副腎においてアドレナリン、ノルアドレナリン濃度が減少した。従って、ビタミンCは生体内で確かにDBHの活性化に必要であることを明らかにした。本成果はEuropean Journal of Nutritionに投稿、受理された。更に、カテコールアミンが加齢依存的に生体内で減少するかを明らかにするため、野生型マウス副腎におけるカテコールアミン濃度、および合成酵素の遺伝子発現の加齢に伴う変動を調べた。本研究により、マウス副腎でカテコールアミン濃度およびアドレナリン合成酵素のフェニルエタノールアミンNメチルトランスフェラーゼの発現が加齢で減少することがわかった。本成果は、Geriatrics & Gerontology Internationa1に掲載された。
著者
菱田 邦男 HOANG TRONG SO HOANG T. S.
出版者
愛知学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

現代ベトナムの上座仏教における尼僧たちの存在形態について研究をした。ベトナムの上座仏教は、1939年にカンボジアで修行したベトナムの僧侶によってベトナムの南部にあるサイゴン市(現在ホー・チ・ミン市)に伝えられた。今回参考文献に基づき、現地の諸寺院を訪れ、聞き取り調査を実施し、次のことを明らかにした。現在ベトナムの上座仏教の活動地域は、中部のフェ市と南部のホー・チ・ミン市とその周辺に限られ、上座仏教の尼僧たちの存在もこの二つの地域に見られる。今回の調査で尼僧の人数が150人であることは明白に判った。フェ市における上座仏教の尼僧たち(8人)の修行道場は一箇所に集中し、在家信者として僧侶たちと一緒に修行をしているので、尼僧という名称は認められなかったようであり、「女修」と呼ばれるようになった。生活の面については、尼僧たちは殆ど自給自足であり、その宗派の信者からの布施は滅多にないようである。こうして生活の面で大変厳しい状態なので、初心者の弟子を受け入れることもできなくなるのは当然のことである。しかも、フェ市における上座仏教の尼僧たちは、大乗仏教の尼僧たちとの交流を全く進めていないので完全に孤立の状態にある。修行の面に関しては、尼僧たちは八戒しか伝授されていないので、女性の修行者の形態とみなされている。彼女たちは日常2回の坐禅と読経に専念するが、毎月2回八戒を再び伝授されることを僧侶の教団に求める。フェ市の尼僧と違って南部における上座仏教の尼僧たち(142人)は、特殊な形態を持って更に発展して盛んな様相を見せる。この地方の尼僧たちは5箇寺に集まって修行して入るが、特に福山禅院と宝隆寺における尼僧の場合は、フェ市の尼僧と同じように自給自足であるが、独特の修行法を持っている。修行の専門道場としての福山禅院では、尼僧たちは毎日殆どの時間を坐禅と経行で過ごすので、読経の時間は日課に見られない。そして彼女たちが毎日八戒の伝授を僧侶たちに懇請することは、フェ市の尼僧と違うところである。今回の調査で一番驚くことは、この禅院の修行に参加しているのは上座仏教の尼僧ばかりではなく、ベトナム大乗や「乞士派」の尼僧の姿が見かけられたことである。この三つの宗派の尼僧が一緒に修行することは、ベトナムでは絶対に考えられなかったことであり、戒律上や生活の面や宗教の違う点などというような様々な問題を乗り越えて一つの場所で生活しながら修行することは有り得なかった。このような交流は大変素晴らしいと実感した。宝隆寺における尼僧たちは、学習と修行との両面に重視している。特に注目すべきことは、その住職が尼僧たちに比丘尼の戒律を受戒させたい意向を持っていることである。実際にタイとスリランカに派遣されて受戒をした尼僧はいた。タイ・スリランカ・ミャンマーなどのような上座仏教の国々では、比丘尼の形を公的に認められていないので、これは深刻な問題になっている。尼僧の教団が発展できるか、社会的に活動ができるか、大乗仏教の尼僧教団と交流ができるか、比丘尼の戒律を受戒させることができるかどうかという諸問題には、ベトナム上座仏教の教団に大きな責任がある。
著者
笹川 尚紀
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

『古事記』によると、第8代の天皇・孝元と第9代の天皇・開化の后妃として穂積氏出自とされる女性が確認される。孝元は穂積臣等の祖である内色許男命(ウツシコヲノミコト)の妹・内許売命(ウツシコメノミコト)との間に開化を儲ける。また、内色許男命の女・伊迦賀色許売命(イカガシコメノミコト)と婚姻関係を結んでいる。そして、開化は庶母である伊迦賀色許売命を娶って第10代の天皇・崇神を得ている。一方、『日本書紀』に眼を移すと、孝元は穂積臣の遠祖である欝色雄命の妹・欝色謎命との間に開化を儲けたとみえ、『古事記』と合致する。ところが、孝元の妃となった後、開化の后となって崇神を儲けたとされる伊香色謎命は、穂積氏と同祖関係にある物部氏の遠祖・大綜麻杵(オホヘソキ)の女と記されており、『古事記』の系譜とは明らかに食い違っている。平安時代前期に成立した『新撰姓氏録』、および『先代旧事本紀』巻第五「天孫本紀」から、穂積氏・物部氏の氏族系譜が押さえられ、これらと比較検討したところ、『日本書紀』にみえる大綜麻杵は、『古事記』崇神段などにみえる美和(三輪)の地名起源譚をもとに物部氏によって造作されたものと想定される。さらに、これまであまり取り上げられることのなかった「因幡国伊福部臣古志」に記される系譜に着目した結果、『日本書紀』よりも『古事記』の系譜の方がより古くに成立したものと推断される。それでは、先の系譜が『古事記』編纂の素材である「帝紀」にいつごろ定着したかであるが、種々の史料を分析した結果、舒明朝の修史事業の際がもっとも穏当ではないかと考える。『日本書紀』と比べると、『古事記』では大化前代に勢力を誇った物部氏の系譜・伝承が極端に少ない。かような背景としては、舒明と対立関係にあった蘇我蝦夷の母が物部守屋の妹であり、このことが『古事記』の素材である「帝紀」および「旧辞」に物部氏の系譜・伝承を採録する障碍となったと推察される。