著者
海保 邦夫 CRAMER Benjamin S. CRAMER Benjamin
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

1)試料採取と測定海洋掘削計画Site 762における白亜紀-第三紀境界の試料を得た。安定同位体比分析中。海洋掘削計画Sites 761,762,1209,Sites 525,527,528,577の白亜紀/第三紀境界セクションの堆積物の色分析を研究中。ベルギー南部のホニーとシンシンのフラスニアン/ファメニアン境界の磁化率測定を行なった。後期ペルム紀の初頭と末の大量絶滅を記録した中国のライビンとメイシャンの地層の磁化率測定を行なった。2)データ解析:スペインのカラバカの暁新世/始新世境界の掘削試料の色と磁化率に記録されたミランコビッチサイクルの解析を行なった。暁新世/始新世境界の極端温暖化を記録した堆積物へミランコビッチサイクルに基づく時間スケールを入れることを行なった。ミランコビッチサイクルと炭素同位体記録の間の関係を調べるためのボックスモデルの構築を行なった。ミランコビッチサイクルから時間スケールを求めるためのコンピュータープログラムの開発を行なった。後期ペルム紀の初頭大量絶滅を記録した中国のライビンの地層へミランコビッチサイクルに基づく時間スケールを入れることを行なった。3)調査旅行:2003年6月:ベルギーのホニーとシンシンのフラスニアン/ファメニアン境界の磁化率測定4)会議2003年6月:スペインのカラバカの生物事変国際会議で4件の成果発表を行なった。
著者
周 文涛
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2020-04-24

本研究は明治・大正期における日本陸軍の官僚制への関心から出発し、陸軍の末端組織である部隊、すなわち師団(内地師団)、そして陸軍の中央組織である三官衙(陸軍省、参謀本部、教育総監部)を主な研究対象とし、師団の陸軍内における位置づけ(師団とは何か)、行政運営(師団は何をする組織なのか)などの基礎課題を検討することに加え、師団と陸軍中央官庁(特にこれまで研究の蓄積が希薄であった教育総監部)との行政上のやり取りを分析することによって、明治・大正期における陸軍全体の行政運営の実態や各部署間の関係を明らかにし、さらに、陸軍という官僚組織の性格を解明しようとする研究である。
著者
田中 啓太
出版者
立教大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

ジュウイチは東アジアにのみ生息するカッコウ科托卵鳥で,ルリビタキなどの小鳥に卵を産み込み,雛を育てさせる.ジュウイチの雛は翼の裏側に口内と同じ色をした皮膚裸出部(以下翼角パッチ)があり,給餌にやってきた宿主にたいし,翼を持ち上げ,この翼角パッチをディスプレイするという,他の鳥類では確認されていない,非常に珍しい特徴を持っているが,これまでの研究からこのディスプレイは宿主により多くの餌を運ばせるための適応であり,ジュウイチの雛は翼角ディスプレイによって生育に十分な餌量を確保しているということがわかっている.これは恐らく宿主は翼角パッチと雛の嘴を区別できず,雛の数を実際よりも多いと錯覚してしまうためであると考えられる.本研究では宿主が実際に雛の数を多く錯覚しているのかどうかを検証した.これまでの観察から,ディスプレイされた翼角パッチの数が増加するにつれ,宿主が巣に滞在する時間が長くなるということが確認された.このことから宿主の在巣時間は提示されている数に対する特異的な反応であるということが考えられる.そこで,托卵されていないルリビタキの巣を用い,雛の数を人工的に増減させる実験を行った.現在までに得られている最新の成果を以下の国内・国外における学会にて発表し,議論を行った.7月23日より29日までフランス・トゥールで行われた国際行動生態学会第11回大会にて口頭発表『Does a Horsfield's hawk cuckoo chick deceive hosts numerically?』,8月13日より19日までドイツ・ハンブルクで行われた第24回国際鳥学会議にてポスター発表『Does a Horsfield's hawk cuckoo chick deceive host parents numerically?』,9月15日に盛岡大学農学研究科で行われたCOEフォーラムにて『ジュウイチの雛による宿主操作-鳥類における認知と寄生者による搾取-』,3月19日より23日まで松山大学で行われた日本生態学会第54回大会にてポスター発表『ジュウイチの雛による宿主操作:宿主は雛の数を認識しているのか?』を行った.また,9月15日より19日,盛岡大学で行われた日本鳥学会2006年度大会にて自由集会『統計モデルによるデータ解析入門:線形モデルとモデル選択』を企画し,講演『統計モデル入門』を行った.現在,宿主であるルリビタキの親鳥による数に対する反応と,ジュウイチに寄生されたときの行動に関し,宿主が自分の雛を育てているときの雛の数と,ジュウイチに托卵された場合の翼角パッチの数に対する反応を比較した論文を執筆中である.ここで用いられている寄生されていない巣における親鳥の行動は,実験を行っていない,自然状態でのものであり,実験処理に関してはまだ十分な例数は確保できていないため,今後も引き続き研究を継続していく.
著者
姉川 大輔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

ヒトを含む多くの哺乳類にとって、体温を約37℃に維持することは非常に重要である。実際ヒトの場合、体温が18℃を下回ると心停止することが報告されている。一方で、冬眠する哺乳類の中には、冬眠中体温が10℃以下になるにも関わらず、生命を維持できるものが存在する。しかし、冬眠動物が、なぜ低体温状態でも生存可能なのかは未だ不明である。本研究は、冬眠動物の低温耐性の機構の解明を目指している。これまでに本研究により、冬眠動物シリアンハムスターは、冬眠中に顕著な腎・肝機能障害を示さないことが明らかになった。さらに、冬眠しない哺乳類であるマウスと、冬眠動物ハムスター、それぞれの肝細胞を低温で培養することで、ハムスターは細胞自律的な低温耐性をもつことが明らかとなった。この細胞自律的な低温耐性が、冬眠中の臓器機能の維持、ひいては生命維持に寄与していると考えられる。さらに、この低温耐性は、冬眠していない時と比べ、冬眠中のハムスターでより増強されることも判明した。この結果は、冬眠していない時期から、冬眠までの間で、細胞レベルで性質変化が起きることを示唆している。医療現場では、移植用臓器の低温保存や低体温療法が行われる例があるが、長期間の低温処理は患者の予後に悪影響を及ぼすことが知られている。冬眠動物の低温耐性の分子機構が明らかになれば、これら治療法の改善に応用できる可能性があり、医学的な意義も大きい。現在、低温耐性の分子機構解明を目指し、低温時に発現変動する遺伝子や、低温時に誘導される代謝変化に着目し、解析を進めている。
著者
若松 大祐
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

現代台湾(1945-現在)において、中華救助総会(救総)はとりわけ泰緬地区の同胞を救援するに際し、いかにして「我々」(国民国家的な主体)の歴史を叙述してきたのか。本研究の目的はこの問いを解明し、現代台湾という時空をよりよく理解することに在る。三年目の今年度は、現代台湾史において出現した官製歴史叙述や泰緬孤軍像を背景として踏まえた上で、特に救総が展開する歴史叙述について考察を試み、次の2つの知見を得た。すなわち、第1に、現代台湾において泰緬孤軍というふうに名づけられた泰緬地区在住の人々を、中華民国政府の主導する人権概念に基づき、救助対象とみなしていたこと。第2に、世代交代により、孤軍後商(孤軍の末窩)と呼ばれる人びとが出現し、救総の他にも中華民国と孤軍を架橋する媒体が出現したこと、の2点である。孤軍後裔は、救総とのつながりを相対的に希薄化しつつも、台湾との多様なつながりを持ち、タイや台湾という土地に根付こうとしており、タイにおいては朝野挙げての観光立国化の機運の中で、ゴールデン・トライアングルに関するテーマパークを立ち上げたり、台湾においては朝野挙げての多元化の機運の中で、雲南文化公園を設置している。特に第2点について、更なる考察を踏まえ、投稿を前提にした論文を執筆中である。受入機関の京都大学で東南アジア地域研究に関する研究会や講義へ参加し、またタイへ1回、台湾へ1回短期出張して、今年度の研究を遂行ができた。
著者
舟久保 恵美
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

気圧・気温低下など気象変化により、ヒトの慢性痛が増強する現象が知られている。我々はこれまでに、慢性疼痛モデルラットを日常の気象変化で起こりうる程度の強さ・変化速度の人工的気圧低下環境に曝露し、その痛み行動が増強することを明らかにした。また、ヒ素注入により内耳を破壊した慢性痛モデルラットに対して気圧低下の影響を観察したところ、内耳破壊が慢性痛増強を抑制する結果を得た。これは内耳に何らかの気圧検出機構が存在することを示唆している。そこで、内耳の気圧検出機構を明らかにするため、健常ラット前庭神経核の単一神経放電記録を行い、気圧低下に対する応答を調べた。大気圧から40hPa気圧を低下させ、設定気圧到達後8分間低圧を維持し、その後大気圧に戻し、その間の反応を観察した。昨年度までに合計40例のニューロンを記録し、そのうち17個に気圧低下曝露を行うことができた。そのうちの5つで放電頻度の増加が観察でき、気圧低下に対する反応は以下の3パターンに分類できた。気圧低下により、1)放電頻度が増加し、復圧により元に戻る(3例),2)放電頻度が増加し、そのまま持続する(1例),3)変動のあった放電頻度が一定になる(1例)。5例中4例は前庭刺激(回転、カロリックテスト)にも反応したが、1例は気圧以外の刺激には応答しなかった。従って、気圧にのみ反応するニューロンの存在が示唆される。今年度は上記1)のパターンの二ューロンがさらに2つ記録でき、気圧低下に反応するニューロンの存在が明らかとなった。そこで、気圧をいろいろな大きさ、速度で段階的に変化させたときの刺激反応性、放電数への影響の解析を進めている。また、慢性痛モデルラットの痛み行動を惹起するには5hPa/h以上の速度で5hPa以上の気圧変化が必要であることを明らかにした。気圧検出機構が内耳器官に存在する可能性について、行動実験を主体に論文執筆中である。
著者
萬屋 博喜
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は、前年度に引き続き、(1)デイヴィッド・ヒュームの因果論と(2)現代因果論におけるヒューム主義を主な課題として研究し、その成果を口頭や論文の形で発表した。(1)第一に、ヒュームの因果論に関しては、自然法則に関する見解について研究報告を行った。これについては、『人間知性研究』を主なテクストとして用い、(a)従来の解釈ではヒューム哲学が自然法則と偶然的一般化を区別できないという困難に直面することになるという点を指摘した上で、(b)自然法則の信念成立において数学的表現による数量化という手続きが不可欠であるという「数量化可能性の条件」という論点をテクストから析出することで、そうした困難の解消を試みた。(2)第二に、現代因果論におけるヒューム主義に関しては、(1)行為の道徳的評価における因果性の役割、(2)共同行為における因果性の役割に分けて研究報告を行った。まず、行為の道徳的評価における因果性の役割については、(a)行為の善悪を評価する原理の一つである二重結果原理の内実を明らかにした上で、(b)その原理において因果性が果たす役割の重要性を示したのちに、(c)その原理は傍観者視点での概念的直観ではなく当事者視点での経験的直観によって根拠づけられるということを示した。次に、共同行為における因果性の役割については、この論文では、(a)共同行為の定義や成立条件に関する黒田亘の見解を検討したのち、(b)黒田の議論が、合理性、暗黙の相互期待、意志表明の言語ゲームにおける<原因としての意志>の共有、という共同行為成立のための三条件を提示するものであった、ということを明らかにした。
著者
星 和彦 QIN LiQiang
出版者
山梨大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

乳製品は人間に役に立つ食べものである。一方、牛乳の消費と乳がんとの間に関係があるかどうかという議論が今まで続いている。乳がんは女性に最も多いがんといわれているが、牛乳と乳がんの関連性についての解明が重要である。本研究では、全部のラットに10mgのDMBAを与えて、腫瘍数と大きさが規準を満足したことを確認した後、ラットを以下の3群に分類した。1)成分無調整乳(milk)投与群;2)水道水(Negative control)投与群。この2群のラットは卵巣を摘除した。3)Positive control群。この群は手術操作を行ったが、卵巣は摘除しなかった。群分け10週後、ラットを屠殺した。腫瘍率、腫瘍平均数、平均重量、平均サイズについて、Negative control群に比べるとMilk群が有意に高くなった。注目すべきはMilk群の子宮重量(0.134±0.0329g)はnegative control群(0.107±0.020g)に比べ、有意に重くなったことである。血液中のホルモンを測ると、Milk群のprogesteronはNegative control群より有意に高くなった。また、細胞培養の実験を行った。MCF7細胞は10%charcoal-stripped牛胎児血清と1%抗生物質含むPRMI-1640で培養した。1×10^5の細胞はプレートに蒔いた。妊娠牛乳と非妊娠牛乳は遠心して、ウェー取った。0、0.5%、2%、5%のウェーを含む培地に細胞を48時間で培養した。そして、細胞数、生細胞数(MTT法)、細胞増殖(BrdU法)を測定した。一方、妊娠牛乳と非妊娠牛乳を取ったウェーをcharcoalで処理して、同じ方法で細胞数、細胞増殖を測定した。牛乳濃度の増加に伴って、細胞数、MTT、BrdUの値が高くなった。妊娠牛乳は非妊娠牛乳よりこの傾向が強かった。Charcoal処理した牛乳を用いると、妊娠牛乳、非妊娠牛乳共に、細胞への影響がほぼ失われた。この結果から、牛乳、特に妊娠乳牛由来の牛乳中に乳がん細胞成長、増殖を促進する因子が存在することが分かった。Charcoal処理すると、この因子が取り除かれた。この因子がエストロゲンかどうかについて検討するには、さらなる研究が必要である。
著者
藤嶋 昭 LATTHE Sanjay LATTHE Sanjay
出版者
東京理科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

蓮の葉表面のマイクロ/ナノ構造や化学組成を模倣し,高い水滴接触角と低いロールオフ角を示す優れたセルフクリーニング超撥水性コーティング膜を開発した.半透明で耐久性のあるセルフクリーニングシリカ-PMMAナノ複合材料を用いて,ガラス上に超撥水性コーティングを行った. PMMA濃度が2%で浸漬時間を30分でコーティングしたとき,最も高い水滴接触角を示した.浸漬時間が1分のコーティング膜では,ガラス基板上のコーティングが薄く,超撥水性を示すには不十分であった.浸漬時間が15分になると,コーティング膜は表面上に多孔質なドメイン構造を形成し,基板表面を覆うように成長し始めた.このドメイン構造は空気を閉じ込めることができず簡単に水で置き換えられ,そのため水滴接触角は150°以下となりWenzel状態となってしまう.一方,浸漬時間が30分以上になると,コーティング膜は多孔質構造体の連結構造をとり,マイクロメートルスケールで空隙を有していた.また,PMMA濃度については,4 %や6 %と濃くすることで水滴接触角は低下した.これは,シリカ粒子で構成された凹凸構造が軟質ポリマーの増加によって減少したと考えている.条件を最適化したPMMA濃度が2 %で浸漬時間30分でコーティングした膜は,優れた超撥水性と超親油性を示した.スクラッチ試験機を用いて機械的強度も調べた.PMMA高分子を含まないシリカコーティングでは,機械的安定性は低く,わずか1.1 mNの荷重をかけただけでも簡単に膜が剥がれた.一方,PMMA濃度を2%でコーティングした膜はおよそ2倍の2.8 mNの荷重まで耐えることができた.また,シリカ中のPMMA濃度は機械的特性の影響を及ぼすだけではなく,光学特性にも大きく関わり,PMMA濃度が高くなると光透過性が向上した.総じて,シリカなど無機膜に含まれるポリマー添加量が少量であれば,複合膜の特性,特に疎水性,機械的耐久性及び光学的透明性は向上することがわかった.
著者
笹山 啓
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

2015年度はまず、7月4日東京外国語大学において開催されたスラヴ人文学会で、「60年代ソ連の地下文化と現代ロシアの『新しい言葉』」と題した発表を行った。これはソ連の神秘主義・実存主義的な傾向を持つ地下文化と現代ロシアにおける「ネオ・ユーラシア主義」のようなあらたなナショナリズム的イデオロギーの関係を扱うものであった。8月には、幕張メッセおよび神田外国語大学にて3~8日にかけて開催された国際中欧・東欧研究協議会(ICCEES)第9回世界大会に参加し、7日のパネルにてPelevin and ‘Counter-Culture’ in the Soviet Union(内容ロシア語)と題した発表を行った。これは従来注目されてこなかった、現代ロシアのポストモダン作家ヴィクトル・ペレーヴィンと、ソ連時代の非公式文化、とりわけ作家ユーリー・マムレーエフのインド哲学を下敷きにした思想との関係を論じたものである。この発表をまとめたプロシーディング集が東京外国語大学ロシア文学研究室より今年に入り発行され、そこでПелевин и 'контркультура' в Советском Союзеと題名をロシア語に改め、引用・註などの手直しをくわえた論考を発表した。11月8日、埼玉大学で開催された日本ロシア文学会全国大会にて「ペレーヴィンはなにから目覚めるのか」と題する発表を行った。これはペレーヴィンの初期作品に頻出する「夢」というモチーフを手がかりに、現在までペレーヴィンが一貫して描き続けている現実の虚構性というテーマの政治性を明らかにすることを試みた。2月には北海道大学・スラヴ・ユーラシア研究センターにて研究会での発表と資料収集を行った。
著者
茂木 淳
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

体内時計は生物にとって、昼夜の光環境の変化に代表される、周期的な外部環境の変化に対応し、自らの行動や生理活性を最適化するうえで重要な機構である。多くの生物では、安定性と柔軟性を兼ね備えた、体内時計の計時メカニズムは「内因性の自律振動の発振」と「外部環境への同調」という二つの要素によって形成されている。照明条件は養殖魚の生残率、成長量に関わる要因の一つである。一般に長日照明飼育は成長を促進させるが、それによって形態異常を持つ割合が増加する魚種も多く知られている。照明条件は、現在までのところ、養殖業者の経験に基づいて設定されている。本研究では、魚類の体内時計と照明条件の関係を理解し、養殖魚の健苗性の向上において最適な照明条件を魚種ごとに予測することを目的とした。これまでの研究で、ヒラメでは、ゼブラフィッシュとは異なる、これまで魚類では知られていなかった視交叉上核を介した体内時計の制御機構が働いていること、中枢時計の同調因子としてコルチゾルが働いていることを示唆した。当該年度では、当初の計画にあった、ヒラメ以外の魚種(カンパチ、フグ、メダカ)における時計遺伝子per2の発現解析をおこなった。カンパチではヒラメと同様に視交叉上核特異的な発現が見られた。それに対してフグでは染色が見られたが他領域の染色と差はなく、組織特異的に強く発現しているとはいえない。これはゼブラフィッシュの染色パターンに類似している。メダカでは、染色が見られなかったため、発現量がISH法の検出可能レベルよりも低いと考えられる。これらのことから魚類の視交叉上核のリズム発信には魚種間で種差があることが推測される。
著者
村田 知慧
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

トゲネズミ属3種のうち、アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミは、XO/XO型の性染色体構成をもち、Y染色体だけでなく性決定遺伝子SRYを消失した極めてめずらしい哺乳類である。一方、オキナワトゲネズミ(以下オキナワ)は、一般的なXX/XY型の性染色体をもつが、その性染色体は一対の常染色体の転座により大型化し、SRYは特異的なアミノ酸置換と重複により独自の進化を遂げている。トゲネズミ属のY染色体の進化過程を明らかにすることを目的とし、平成22年度はオキナワにおいて、性染色体のさらなる構造変化の有無の検出、祖先Y染色体領域の同定、SRYの機能性予測をおこなった。29のマウスのcDNAクローンを用いたFISH解析の結果、オキナワの祖先X染色体領域(Xq)および性染色体に転座した常染色体領域(Xp、Yp)は他のネズミ類の遺伝子オーダーと一致し、構造変化はみられなかった。ただし、アマミトゲネズミの性決定候補遺伝子であるCBX2が、オキナワにおいて常染色体の転座に伴い、性染色体に連鎖し、さらに他の染色体に重複していた。また、CGH解析の結果、オキナワのY染色体に性特異的な領域は検出されなかったが、単一のY連鎖遺伝子と同定されたDDX3YとUTYのcDNAクローンを用いたFISHの結果、両遺伝子はYpの動原体付近に存在し、祖先Y染色体領域がYp動原体付近に保持されていることをつきとめた。さらに、SOX9の精巣特異的エンハンサー領域にあるSRY結合配列の保存性を、マウス、ラット、ヒト、オキナワにおいて比較した結果、結合サイトの一つにオキナワ特異的な置換がみられ、保存性が失われていた。今回の結果から、トゲネズミ共通祖先はY染色体にいくつかのY連鎖遺伝子を保持していたことが明らかとなったが、SRYの機能はトゲネズミ共通祖先において、すでに低下もしくは消失していた可能性が考えられた。トゲネズミ属のY染色体進化を解明するために、オキナワは鍵となる重要な種であることが本研究によって強く示された。
著者
坂田 完三 CHO Jeong-Yong CHO Jeong-Young
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

台湾烏龍茶(東方美人)は、他の烏龍茶と異なりウンカに吸汁されたチャ葉を摘採して作られ、独特な香気を生み出す。こでまでに東方美人茶の独特な香気成分として2,6-dimethylocta-3,7-diene-2,6-diol(diol)とhotrienolが検出された。本研究では、東方美人茶の原料であるウンカ加害チャ葉でdiolとhotrienolの生合成に関与する酵素遺伝子を明らかにすることを目指した。ウンカ加害チャ葉でモノテルペン酸化酵素活性を有するシトクロムP450がlinaloolを酸化してdiolやhotrienolを生成すると考えられ、様々なP450遺伝子の探索を行った。昨年度、烏龍茶製造工程中のチャ葉についてdifferential screening分析の結果から得られた P450ホモログ(TOBA)はモノテルペン水酸化に関与するP450と比較的高い相同性を示し、diol及びhotrienolの生合成に関与する可能性が高いと考えられた。そこで、ウンカ加害チャ葉で3_-RACEおよび5_-RACEを行い、TOBAの全長cDNAを単離した。RT-PCRによりウンカ無加害チャ葉に比べてウンカ加害チャ葉でTOBAの転写量は増加していた。一方、他の植物でモノテルペン水酸化に関与することが知られているP450遺伝子から作成したプライマーを用いて、RT-PCRに行い、ウンカ加害新鮮チャ葉からTOBAと異なる8種のP450ホモログ遺伝子を見出した。これらのP450ホモログについてRT-PCRを行った結果、3種のP450(候補P450)の発現が無加害チャ葉に比べてウンカ加害チャ葉で増加していた。また、見出した8種のうち3種の候補P450はモノテルペン水酸化に関与するP450と比較的高い相同性を示し、diolおよびhotrienolの生合成に関与する可能性が高いと考えられた。現在、候補P450遺伝子の全長cDNAを取得するため、ウンカ加害チャ葉を用いて、cDNA libraryを構築し、候補P450の全長cDNAの単離を行っている。さらに、TOBAと候補P450遺伝子を昆虫細胞あるいは大腸菌を用いて大量発現し、得られた酵素のlinaloolに対する酸化反応を検討する。
著者
山田 薫
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

ワクチン療法はアルツハイマー病(AD)の現在最も有効な根本的治療法と考えられている。その有力なメカニズムとしてsink仮説が広く受け入れられているが、これまで抗体が実際に血中でAβの引き抜き(sink)効果を示すかについては、実験的に確かめられていなかった。そこで抗Aβ抗体の受動免疫とBEI法を組み合わせ、sink仮説の実験的検証を試みた。マウスに抗Aβ抗体m266を受動免疫した後にBEI法を行い、抗体の存在下でAβの脳からの排出速度の変化を観察した。その結果、m266の投与によって引き抜き現象は生じず、Aβの排出速度が逆に遅延していることを見いだした。さらにこれまで末梢血中で機能すると考えられてきたm266が脳内に一部移行し、Aβと結合することを見いだした。この結果はm266はAβ引き抜き作用以外のメカニズムで作用していることが示唆するものであった。そこでワクチン療法における抗Aβ抗体の新たなメカニズムを明らかにするために、脳内にAD様のアミロイド蓄積を再現するAPPtgマウスを利用し、m266を投与した場合の脳内のAβの存在様式を調べた。Aβモノマーは構造変化を起こしてアミロイド線維化する過程で、Aβオリゴマーを形成し、それが神経細胞障害性を有すると考えられている。申請者はモノマーAβを特異的に検出するELISA系を樹立し、これを利用して、m266抗体を投与したAPPtgマウスの脳内のAβ量を測定すると、抗体の投与により、Aβのモノマーとオリゴマーの総和は変化しないにも関わらず、毒性のないモノマーAβが増加していることを見いだした。この結果から、抗Aβ抗体は脳内においてAβを毒性のないモノマーの状態で安定化することで構造変化を抑制し、毒性分子種Aβオリゴマー形成を阻害するという結論に至った。
著者
芦名 定道 TRONU MONTANE CARLA
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-11-07

トロヌ・カルラ外国人特別研究員との共同研究では、2018年度も外国人特別研究員によって日本国内と海外において活発な研究発表がなされたが、受入研究者の側の研究を含めるならば、次の4点に、研究成果をまとめることができる。(1)キリシタン時代のキリスト教を担ったイエズス会について、その宣教方針である「適応主義」を、キリスト教思想における「適応の原理」として取り出すことができ、また諸修道会における日本人殉教者の顕彰の在り方についてもその実態の比較検討がなされた。(2)キリシタン研究を東アジアのキリスト教研究へと方法論的に関連付けること、また、その中に東アジアにおけるカトリック諸修道会の動向を結びつけることが試みられた。これは重要な成果である。(3)キリシタン殉教を、江戸幕府の宗教政策を経て、明治から現代までのキリスト教思想史につなぐことがなされた。これは、以下に述べるパネル発表で論じられ、論文化された。(4)現代の記憶論・証言論を参照しつつ、現代キリスト教思想における殉教論の可能性を考察した。これについても、次に述べるパネル発表で論じられ、論文化された。共同研究はさまざまな成果を生みだしたが、最大の成果は、次のパネル発表とその論文化である。パネル発表は、日本宗教学会・第77回学術大会(大谷大学、9月9日)において、「日本におけるキリシタン殉教者の歴史的記憶」として実施された。このパネルは、外国人特別研究員と受入研究者のほかに、淺野淳博氏(新約聖書学者)と狭間芳樹氏(キリシタン研究者)を加え、4名の発表者によって、構成された。このパネルでは、新約聖書研究者を加えることによって、日本のキリシタン殉教がキリスト教史(特に古代の殉教史)に実証的に関連付けられることができたが、今後の研究では、こうした時代を越えた比較研究の実施が重要であることが明らかになった。
著者
野口 舞子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、ムラービト朝とムワッヒド朝という共にマグリブに興り、アンダルス(イスラーム治世下のイベリア半島)支配を行った外来政権を対象に比較分析を行い、両王朝のアンダルス支配と在地社会におけるその受容の実態を明らかにすることである。その結果、アンダルス史における外来政権の支配の性格やイスラーム世界におけるアンダルスの位置づけについて、一つの展望を示すことを目的としている。平成21年度は、ムラービト朝期のアンダルスのウラマー(イスラーム知識人)の実態と、彼らと王朝の支配の関係を明らかにするため、文献調査と現地調査を中心に行った。文献調査では、史料としてアラビア語年代記、伝記集を用いて研究を進めた。本年度は特に、マグリブ地域の記述に特化した史料を加えて用いることで検討対象地域を広げ、両地域の比較作業を通じてムラービト朝のアンダルス支配の実態解明を目指した。これらの成果としては、邦語、英語で研究会報告を3回行った。他方、文献調査と並行して、スペインのマドリードおよびモロッコのラバトの図書館、文書館において現地調査を行った。これは日本では入手することが出来ない史資料を収集するためや、対象地域における最新の研究動向を把握するために本研究に必要不可欠のものである。また、本研究で対象としているように、ムラービト朝の支配領域は現在のスペイン、モロッコ地域にまたがっていたため、両地域での現地調査が必要である。こうした現地調査では、文献を収集するだけでなく、現地研究者とも直接議論を交わすことで研究の精度を高めると共に、新たな知見を得ることに努め、本研究に大きな進行が見られた。
著者
松下 芳之
出版者
東京海洋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

多くの海産養殖魚種はDHA合成に関わる脂肪酸不飽和化酵素の活性を欠損しており、健全な成長に必要なDHAを自ら合成できない。しかし、淡水に進出した一部のカレイ目魚類は特殊化した当該酵素を有しており、DHAを自ら合成できることが明らかになっている。本研究では淡水産カレイに倣い、海産カレイの当該酵素をゲノム編集により僅かに改変することで特殊化させ、個体にDHA合成能を付与することを目的とする。これにより、DHAを自ら合成できる海産養殖魚を作出する技術基盤を構築し、餌料のDHA源として魚油を必須とする従来の「魚から魚をつくる」海産魚養殖からの脱却を目指す。
著者
瀬戸 文美
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究は生活空間内において人間を支援するロボットの実用化に向けたより効果的な人間とロボットとの協調作業系の実現を目的として,ロボット自身,環境に存在する物体,協調作業の相手である人間の構造・運動の情報からそれぞれSelf-model,Object-model及びPartner-modelという構造・運動モデルを構築し,それらのモデルに基づく人間協調型ロボットの制御システムを提案することを目的にしている.本年度は,協調作業中においてロボットがSelf-Modelに基づいて自己衝突を回避するだけではなく,ロボットの周囲の物体の構造・運動情報から構築されるObject-modelに基づき,協調作業中における障害物回避,及び障害物回避と自己衝突回避を同時に実現する手法を提案し,実機を用いた実験を行うことによってその有効性を確認した.また,ロボットの関節可動範囲から構築したSelf-Modelに基づいて,ロボットが人間との協調作業中において関節の可動範囲限界等の問題を回避可能とする手法を提案し,実機を用いた実験を行うことによってその有効性を確認した.
著者
塩沢 健太
出版者
北里大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2020-04-24

弦が見るミクロ領域の時空構造は点粒子が見るものとは異なり、弦の巻き付きモードが重要な量であるため、これが時空に及ぼす影響について理解したい。そのためにDouble Field Theory (DFT)と呼ばれる、弦の巻き付き効果を明白に含む重力理論を用いる。超弦理論では、古典的には裸の特異点と思われていた時空解が何らかのメカニズムで特異点が解消されると期待される。また、超弦理論の議論ではミクロ領域においては弦の巻き付きモードが支配的であることが知られている。我々は、この特異点を隠すメカニズムは弦の巻き付き効果によるものと予想し、弦の巻き付きにより時空構造が変化することをDFTを用いて示す。
著者
白井 聡
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度に発表された主たる業績は、黒滝正昭・相田愼一・太田仁樹編『ポスト・マルクス研究-多様な対案の探究』に収録された論文「経済学と革命-宇野弘蔵におけるレーニン」である。本論文は、日本において独自のマルクス経済学の体系を築いた宇野弘蔵の理論形成におけるレーニンの決定的な影響を考察することを主題としている。宇野理論におけるいわゆる三段階論(原理論、段階論、現状分析)が形成されるにあたって、原理論と段階論とを峻別するという根本着想を与えたのがレーニンの『帝国主義論』であったことは、よく知られている。しかしながら、従来の研究において、「科学とイデオロギーの峻別」を強調した宇野がいかなる思想的意味合いでレーニンから強い影響を受けたのか、ということはほとんど問われてこなかった。本論文は、この点の探究を進めたことに大きな意義がある。また、両者の影響関係を考察することによって、宇野理論が持ったとされる政治的含意(すなわち、ともに極端な静観主義と主意主義)が出現した必然性を明らかにしつつ、宇野の理論には、こうした両極端とは異なる政治的含意が含まれていることを明らかにした。具体的には、原理論と現状分析の悪循環的性格・無制限性を指摘したうえで、かかる性格を体系構築め初発においてすでに否定している段階論の性格、すなわち、それが歴史における現在をつねにすでに「永遠に繰り返される」悪循環の世界から切断しているということを指摘し、かかる方法がレーニンから受け継がれたものであることを示した。本研究は、レーニンと彼の同時代思想家との対比を行なうという本研究計画の手法をより現代的な局面に対して応用したものである。