著者
武内 和彦 TRUDY Fraser TRUDY Fraser FRASER Trudy
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の主要目的は、国際的な平和と安全に対する現代の脅威に対応する国連システムの効率性について調査を行うことである。本年度はオーストラリア・メルボルンのロイヤルメルボルン工科大学で開催された「People and the Planet」というワークショップに参加し、本研究成果を発表し、レビューを受けることができた。本年度も英国パルグレイブ・マクミラン社から出版予定の「The UN Today : Human Security in a World of States」の執筆に引き続き取り組んだ。原稿は査読審査段階であり、現在校正作業を行っている。最終原稿は平成25年9月1日に出版社に提出し、引き続き編集を行う予定である。国連大学サステイナビリティと平和研究所のヴェセリン・ポポフスキー博士と共同で取り組んでいる「グローバルな立法者としての安全保障委員会」というテーマのプロジェクトでは、安全保障委員会の立法的決議の知識基盤を構築することを模索し、安全保障委員会の立法行動が国連加盟国と国際的な安全と平和に与える影響について評価する。平成24年夏には、ニューヨーク市立大学ラルフ・バンチ国際研究所の所長であるThomas Weiss氏が開催した専門家諮問会議に参加し、平成25年3月にはセント・アンドルーズ大学のグローバル立憲政治研究所の所長であるAnthony Lang氏による「著者のワークショップ(Authors Workshop)」に参加した。現在、このプロジェクトの論文に取り組んでおり、ラウトレッジ社から出版される「Global Institutions」シリーズとして出版される予定である。
著者
上田 多門 FARGHALY Ahmed Sabry Abdel Hamid
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

CFRP接着補強されたRCスラブの静的押抜きせん断耐力に関し,H20年度の成果をさらに発展させることにより,以下のことを明らかにした.(1)既往のFRP-コンクリート界面用の付着モデルを改良したモデルを導入した3次元FEM解析により,本研究での供試体に既往の研究の供試体を加えた14体の押抜きせん断破壊結果を,その破壊モード,変形量,耐荷力のいずれにおいても,適切な精度で推定できる.(2)接着されたCFRP補強材の引張力の存在により,CFRP接着補強されていない場合より,スラブコンクリートの圧縮領域に作用する圧縮力が増加する.この増加により,押抜きせん断破壊する際の,圧縮領域に作用するせん断力方向力が増加し,耐力が増加することになる.(3)押抜きせん断耐力は,圧縮領域での抵抗成分を考慮するだけで,概ね推定できる.(4)圧縮領域の応力分布推定モデルを提示し,第3方向の応力の影響が小さいことを考慮し,簡便な2次元のモール円に基づく破壊則を適用することにより,押抜きせん断耐力算定マクロモデルを提案した.(5)上記の耐力算定モデルによれば,押抜きせん断破壊は,圧縮領域での引張破壊により生じる.(6)本研究での供試体に既往の研究の供試体を加えた14体の試験結果を,耐力算定モデルは精度よく推定できる(平均値が1.00,変動係数が10.2%).この結果は,日米(JSCEとACl)のRCスラブ用の式を拡張して適用した場合より,精度が良い(JSCE式:平均値が1.59,変動係数が25.0%,ACl式:平均値1.38,変動係数が19.9%).上記に加え,CFRP接着補強されたRCスラブの疲労試験を実施し,押抜きせん断の疲労性状として次のことを明らかにした.(7)補強されていないRCスラブより,疲労寿命が長い可能性がある.
著者
高濱 謙太朗
出版者
静岡大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究の目的は、テロメアが形成するグアニン四重鎖に対するTLSの結合性とテロメアにおける機能との関係を明らかにすることである。そこで研究計画では、平成24年度に試験管におけるTLSのテロメアDNAとテロメアRNAに対する認識機構を詳細に解析して、平成25年度に細胞内でのTLSによるテロメアDNAとテロメアRANAの結合性と、TLSがガン化の機構に関与しているかを解析することであった。実験計画が当初の予定以上に進展し、平成24年度中にTLSのRGG3領域がテロメアDNAとテロメアRNAに対してグアニン四重鎖特異的に同時に結合することを明らかにして、テロメア構造のヘテロクロマチン化とテロメア短縮に関与していることがわかった。この結果はChemistry & Biology誌に掲載された(Chemistry & Biology (2013) 20, 341-350.)。そこで本年は、TLSのRGG領域によるテロメアDNAとテロメアRNAに同時に結合する分子機構をさらに詳細に解析することで、テロメアRNAが形成するグアニン四重鎖に結合する分子の開発を行なった。RGG領域中の芳香族アミノ酸がグアニン四重鎖DNAとRNAの識別に重要であることを見出したので、このタンパク質中の芳香族アミノ酸をすべてチロシンにしたところグアニン四重鎖DNAに結合せず、RNAに結合することがわかった。さらに、この開発されたタンパク質はグアニン四重鎖RAAのループ構造の2'-OHを認識することがわかった。これらの結果はJournal of American Chemical Society誌に掲載された(J. Am. Chem. Soc. (2013) 135, 18016-8019.)。この成果は、グアニン四重鎖構造の機能解明に大きく貢献すると考えられる。
著者
松田 暁子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成24年度は、会津若松と郡山をフィールドに、それぞれ以下のようなことを研究し、明らかにした。まず会津若松に関しては、簗田氏の家の経営について検討した。特に、商人司としての側面がどのように変化するのかに注目して研究した。その結果、簗田氏は18世紀以降、商人司が本来持っていた商人を統括する権限を喪失し、一介の町役人として存在していたことが明らかになった。ただ、町役人としての職務の中に、会津若松を通過する商人の荷物の改めがあるところを見ると、商人司としての職務が町役人のそれの中に引き継がれていることがうかがえる。また、簗田氏はこの時期、小規模ながら町屋敷経営を行っており、こうしたところから収入を得ていたものと思われる。次に郡山に関しては、永原家の経営分析を行った。永原家は城下では比較的大規模な酒造屋であった。しかし、18世紀末に一時、酒造経営を休止する。そして、それと時を同じくして酒造仲間内の役職である酒造改役を降板する。このことから、酒造屋経営の盛衰と酒造仲間内での地位のあり方は、相互に連関しあっていると評価できる。また、郡山の株仲間と町についても分析を試みた。その結果、近世半ば以降、郡山では株仲間の種類と町域との間に関係性は見られないことが判明した。以上の点から、地方城下町の社会構造の一端を、家の経営・仲間組織・町の三つの要素から明らかにし得たと言える。
著者
谷村 吉隆 DIJKSTRA ArendG. DIJKSTRA A.G.
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は昨年度行った非マルコフ性について研究をさらに発展させ、系と熱浴が強く結合していることにより生じる平衡統計力学からのずれについて詳細に研究した。具体的には2スピン系に2つの熱浴をつけた研究を行った。この計算は2つの独立した階層を扱うことになり、計算コストは大変高いが並列化等の処理により初めて可能になった。系と熱浴との相関に関しても、非線形応答関数を計算する手法を応用することでより深く研究しBathentanglementという概念を導入して、その解析を行った。結合強度が強い領域で熱浴とのエンタングルメントにより、通常の熱力学と様相が大きくことなることをパンプ・プローブなどの非線形分光スペクトルと結びつけながら研究を行った。光合成FMO系についてこのような概念を導入することで、これまでの結果を変えるかについてもチェックを行った。これまではドルーデ型という構造をもたないスペクトル分布関数にを用いて主に研究をおこなったが、ブラウニアン型という、共鳴周波数をもつスペクトル分布関数に対する階層方程式をもちいることで、電子移動反応についての2次元分光についても研究を開始した。マーカスのインバーテッドパラボロと呼ばれる化学反応律の変化を、シーケンシャルからスーパーエクスチェンジと呼ばれる電子移動反応領域について、階層方程式を用いることで統一的に議論し、それがどのように多次元分光スペクトルに反映されるかについてのシミュレーションを開始している。結果はヨーロッパやシンガポール等の国際会議で発表し、投稿中を含む2本の論文として出版した。
著者
澤田 幸平
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

パイルドラフト(PR)基礎は直接基礎の支持性能を活かしつつ、少数の摩擦杭により沈下の低減が見込める基礎形式である。従来の杭基礎の設計ではスラブ底面の支持力を無視し杭の支持力のみを考慮するため、PR基礎は合理的な基礎形式といえるが、ラフト-地盤-杭の相互作用が複雑であり未解明な点が多く残っている。特に地震時等、基礎に水平荷重が働く場合、この相互作用が水平変位により変化するため、基礎の挙動がより複雑になる。このため水平力に対してはラフト部のみで支持する簡便な設計方法が採用されることもある。また橋梁の基礎等の土木構造物は基礎幅に比べ重心位置が高いケースが多く、水平荷重を受けた際の水平変位に加え、基礎の回転が重要な問題となり相互作用が一層複雑となる。このため地盤工学の分野ではPR基礎の耐震設計法の確立には至っていない。地盤工学の分野では設計が性能設計に移行しつつあり、合理的な基礎形式であるPR基礎の耐震設計法の確立が強く望まれている。そこで本研究の目的は、PR基礎の合理的な耐震設計法の確立のために、PR基礎のラフト-地盤-杭の相互作用に関する詳細なメカニズムの把握である。具体的には相似則を考慮した遠心場で、PR基礎とその構成要素である、杭基礎、直接基礎の水平載荷実験を行った。これら3つの基礎形式の結果を比較することで、PR基礎のラフト-地盤-杭の相互作用を明確にする事が可能となる。またパイルドラフト基礎を実務に適用するためには、この複雑な相互作用のモデル化が必要となる。このため本研究ではPR基礎のモデル化に必要となるラフト、杭のバネ値である地盤反力係数について着目して結果の整理を行った。本研究の結果より、PR基礎の鉛直、水平、モーメント抵抗は杭基礎よりも大きくなることが確認できた。これらの結果はラフト部から抵抗が得られることに加え、ラフト底面の接地圧の増加により杭周面摩擦力、および押込み側の杭部の地盤反力係数が杭基礎に比べ増加しているためであることが確認できた。
著者
松山 倫也 SETHU Selvaraj SETHU Selvaraj
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

脊椎動物の性成熟を支配する脳-脳下垂体-生殖腺軸(BPG-axis)の活動は, 春機発動の開始に伴い活性化すると考えられているが, 魚類ではその詳細は明らかでない。これまでBPG-axisの最上位における生殖制御因子として生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が知られていたが, 近年, 哺乳類において, GnRHの分泌を促して性成熟の引金を引く因子, キスペプチン(Kiss)が発見された。急速に進展している哺乳類でのKiss研究に比べ, 魚類のKiss研究は少なく, 現在, メダカ, ゼブラフィッシュ, キンギョ, フグやシーバスでの研究があるに過ぎず, その機能もほとんど明らかでない。本研究では, 春機発動機構解明のための解析ツールと全生活史にわたる飼育実験系が整備されているマサバを用いて, 期間内(平成23年9月~25年8月)に, KissによるGnRH制御機構, およびマサバへのKiss投与による春機発動促進効果を明かにする。本年度(平成25年4月~平成25年9月)は, 2種のKiss受容体(KissR1, KissR2)の遺伝子クローニングを行い, 合成したマサバKiss1-15およびKiss2-12をリガンドとしたレポーター遺伝子アッセイを行った。その成果、KissR1はKiss1-15の、またKissR2はKiss2-12の固有な受容体であり、それぞれのKiss受容体へのシグナルは、PKC/MAPKs経路で伝達されることが明らかとなった。
著者
中島 秀人 MORENO-PENARANDA Raquel MORENO-PENARANDA Raqouel
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

世界中の都市で人口が急増し、都市の面積が拡大している。都市外の生物多様性は犠牲となり、生物多様性の喪失や温室効果ガスの排出など、地球環境問題を悪化させている。食物を供給し、洪水やヒートアイランド効果を抑え、地域の福利に不可欠な物資やサービスを提供する、生態系の能力は見落とされている。近年になってようやく、ローカルおよびグローバルな観点から、地域の食システムを(再)構築する都市農業の潜在性が注目されるようになった。当研究は、日本の都市農業が持続性や福利にどの程度貢献しているかを検証し、また、都市農業と林業・漁業の繋がり、さらにはこれに対する地域、国、国際的ガバナンスの影響を検証した。日本は、都市圏で国内農業生産の1/4以上を供給する高度先進国であり、グローバルな持続可能性に貢献すると同時に、地域の農業の生態学的、社会経済的恩恵を得ている珍しい事例である。この研究では、持続可能な自然資源管理について、フィールド調査を中心として分析を加え、社会や生態系に関する学際的な理解を深めた。具体的には、生態系サービスと生物多様性を高める都市農業の生態系上の役割を調査し、それが都市のエコロジカルフットプリントをどの程度軽減するかを分析した。以上のコアプロジェクトに加えて、インドネシアにおけるバイオ燃料作物の持続可能性の研究、日本では、石川県金沢市の生物多様性について広範囲な調査を行い、沖縄では、沿岸地域の暮らしの影響評価にも関わった。具体的には、石油流出による沖縄の生物影響評価を利害関係者の認識の観点から調査し、インドネシアでは、パーム油拡大による生態学的、社会経済的影響についてのフィールド調査を実施した。
著者
長崎 励朗
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

日本学術振興会特別研究員(DC1)として最後の年度となった本年は、これまでに調査を重ねてきた大阪労音に関する研究をまとまった形の論文に仕上げる作業に集中することとなった。その過程で、理論装置として機能させるべく考察を重ねていた「キッチュ」というテーマについて、国際学会AMIC(Asian Media Information and Commumcation Centre)で発表したことで、国際的に通用する研究へと育てるためのヒントを得られたことも大きい。元来、ドイツ語であった「キッチュ」が英語圏の人間にとってどのような意味を持つのか、という点は今後の課題ともなった。調査の進展としては、二点が挙げられる。まず第一点として、大阪労音の前史としての宝塚についてより詳細に分析したことを挙げておきたい。大阪労音の初代会長であった須藤五郎という人物は元・宝塚の指揮者であり、実際に数えてみたところ、戦前・戦後を通じてちょうど100の公演に関与していることがわかった。さらに、宝塚に関する先行研究を調べる中で、宝塚が人々の西洋イメージを反映した「イメージの西洋」によって大衆性と教育性を両立していたという事実も明らかになった。このことは「イメージの教養」たるジャズ・ミュージックによって会員層を拡大した労音の手法と相似的である。このメカニズムこそ、「イメージの〇〇」という形で人々の共同主観に訴えかける「キッチュ」のそれであった。本研究で追求してきた文化的共通基盤のよりどころとは、動員力と教育力を兼ね備えたこの「キッチュ」であったと結論づけられよう。調査の進展における二点目は朝日会館に関するものである。朝日会館には大阪労音設立における影の立役者として以前から注目していたが、朝日会館のオーナーである朝日新聞社に足を運び、実際にその通史や機関誌を閲覧することで、大阪労音との協力関係の実態を知ることができた。意外なことに、朝日会館の公式記録を見る限り、少なくとも1950年代前半において大阪労音の公演は一度としておこなわれていない。これは、大阪労音の公演に際しての賃館が、十河巌という当時の会館長の権限によって私的なものとして行われていたためである。『大阪労音十年史』に記されていた「好意的賃館」の意味がここで明らかになった。すなわち、初期における大阪労音は会員集めを含め、すべてが個人的つながり(あるいは社会関係資本といっても良い)によって運営されていたことが明らかになった。以上のような新たな研究成果を盛り込みつつ完成した集大成としての論文は、京都大学教育学研究科において審査され、結果として博士論文として認定された。また、この成果を著書として出版するため、某出版社とも企画の段階に入っている。その意味で本年は日本学術振興会特別研究員としての研究を締めくくる集大成となった年度であったといえる。
著者
大八木 篤
出版者
岐阜薬科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

ヘパリン結合性上皮成長因子(heparin-binding epidermal growth factor-like growth factor : HB-EGF)はEGFファミリーの主要な増殖因子の一つである。HB-EGFは海馬や大脳皮質、小脳など中枢神経系で高い発現を示すことから、神経細胞のネットワーク回路の構築や高次脳機能への関与が示唆される。そこで、前脳選択的にHB-EGF欠損させたマウスを作製し、中枢神経系の高次脳機能におけるHB-EGFの役割について検討した。これまでの研究で、前脳選択的HB-EGF欠損マウスはプレパルスインヒビションの低下などの諸種の行動変化、脳内モノアミン含量の変化および大脳皮質のスパイン密度の減少を示した。また、HB-EGF欠損マウスはモーリス水迷路試験および受動回避試験における記憶力の低下や海馬CA1野における長期増強(LTP)が低下することが分かった。また、HB-EGF欠損マウスの海馬ではCa2+/カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKII)およびグルタミン酸受容体GluR1のリン酸化が低下していた。一方、HB-EGF欠損マウスは野生型マウスと比べて脳虚血障害の悪化や、脳虚血によって誘発される脳室下帯(SVZ)における神経幹細胞の増殖が低下していた。以上のことから、HB-EGFが中枢神経系において記憶や情動などの高次脳機能に関与することが初めて示された。このことから、統合失調症や他の神経疾患に対してHB-EGFが新たな治療ターゲットとなりうることが示唆された。
著者
植木 保昭
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

有機系廃棄物であるポリエチレン(PE)とゴミ固形化燃料(RDF)を還元材に用いた酸化鉄(ウスタイト)の還元実験を行ったところ、RDFを用いた方が高還元率を得ることができた。これは、PEは固定炭素を含有していないが、RDFは固定炭素を含有しているため、RDFの熱分解によって試料内部に多くのチャーが残留し、このチャーによりガス改質反応(CO_2+C=2CO、H_2O+C=H_2+CO)が生じ、COが長時間発生し続けることで、還元雰囲気が持続したためであると考えられる。また、有機系廃棄物が熱分解されて生じた炭素がガス改質反応に及ぼす影響について調査することを目的として、炭素結晶性や比表面積が水蒸気-炭素間反応に及ぼす影響について注目して調査を行った。熱分解炭素としてRDF、木材粉(Wood)とCH_4ガスを1100℃で熱分解させたCarbon Black(CB)を用いた。ラマン分光分析の結果(ラマンスペクトルにおけるI_V/I_G値)から、熱処理温度が高い炭素ほどI_V/I_G値が小さくなり、黒鉛化が進行し結晶性が向上していることが分かった。一方、水蒸気による炭素のガス化速度は全ての炭素で熱処理温度が高くなるにつれて小さくなった。ガス化速度とI_V/I_G値、及び比表面積の関係は、両指標ともにガス化速度とおおよそ直線関係が得られた。I_V/I_G値が小さくなると反応性が悪くなるのは、黒鉛化が進行し結晶性が向上すると反応サイトが減少する事と、炭素の脱離が起こりにくくなる事が要因であると考えられる。同様に比表面積が小さくなると反応性が悪くなるのは、反応サイトが減少するためだと考えられ、I_V/I_G値と比表面積にも相関関係があると推察される。
著者
鳥谷部 祐
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

初年度から開発してきた超音波システムが完成し、液体金属の超音波キャビテーションを標的にした原子核実験を実施することが可能となった。液体及び気体Li標的に対して30-70keVの重陽子ビームを照射し、標的中で生起する^6Li(d,α)^4He及びD(d,p)T反応を測定することで、液体及び気体中での核反応率の違いを実測した。実験を行ったあらゆる条件下で超音波による^6Li(d,α)^4He反応の増大は観測されなかった。裸の原子核状態から液体状態へ変化させた時の反応の増大分は重心系のエネルギー差分で543±38eVと決定した。これは絶縁体標的の報告値よりも大きいが、液体LiがLi^<1+>とe^-に電離していることによって生じるデバイ遮蔽を考慮すれば妥当である。固体標的で報告された大きな遮蔽効果は観測されなかった為、大きな反応増大は固体状態に特有であると考えられる。これに対して、特定の条件下では超音波ON状態でD(d,p)T反応が数十%程度増大することが判明した。しかし、反応増大は標的の表面状態に著しく依存し、試行毎のばらつきが非常に大きい。そこで、比較的安定な条件を探索し、その条件下で増大率のエネルギー依存性を測定することで反応機構を推定した。この結果、反応の増大は遮蔽効果ではなく、気泡内の高温が原因であると判明した。表面での気泡の存在割合は約65%であり、気泡内温度は590±54eV(約680万度)である。本研究により、これまで分光によってのみ測定されてきた気泡内温度を世界で初めて原子核反応により決定した。気泡内でLi温度は低く、D温度のみが高いと予測されるが、この温度差と気泡内温度は分子動力学的な数値計算結果と定量的に一致している。本研究結果から、最適な条件が決定できれば、超音波キャビテーションによって核融合反応を生起させることが可能であると示唆される。
著者
菅野 貴皓
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

当該年度は,多地点に配置されたロボットアームや力覚提示デバイスを計算機ネットワークで接続し,相互に位置と力の情報をやり取りすることのできるマルチラテラル・テレオペレーションシステムについて,実機を用いた実験システムの構築および前年度に提案した制御手法の検証を行った.前年度は,マルチラテラル制御の定式化を行い,提案手法が安定であることを検証したが,実験に使用した通信遅延およびデバイスの一部にシミュレータを用いており,複数の実機を実際のネットワークで接続した時の制御系の安定性や追従性の検証はなされていなかった.当該年度は,制御ソフトウェアを力覚提示装置Falconに対応させ,前年度用いていたPHANTOMと合わせて3台の実機を用いた実験システムを構築した.構築した実験システムを用いて,遠隔ショッピングで複数人に触覚情報を同時に提示する場面を模擬した被験者実験を行った.実験では,被験者はランダムに提示される対象物を遠隔で触り,その対象物の大きさを回答する.実験の結果,本システムを使用して10mm程度の大きさの違いを判別することが可能であった.前年度に,通信遅れ時間の変動によって発生するマスタ・スレーブ間の位置ドリフトを補償する制御手法を構築したが,提案手法と他の手法との比較は行われていなかった.当該年度は,位置ドリフト補償器の周波数特性を解析することで補償制御を比較する方法を検討し,単純な位置フィードバックでは受動性が損なわれること,提案手法の制御則の一部を省略して通信データを一時的に削減できることを示した.また,実機実験により,従来の単純な位置フィードバック則では位置ドリフトは補償されるものの環境中の物体形状を適切に提示できないことを示した.
著者
小林 雄一郎
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

最終年度では、これまでの研究を総括し、今後の研究方向に繋がる分析を行った。まず、異なるトピックで書かれたライティングを対象として、語彙、品詞、統語、談話などに関する言語使用の差を調査した。そして、t検定、決定木、ランダムフォレストなどの結果から、異なるトピックで書かれたライティングでは、言語使用が大きく異なることが明らかにされた。このことは、習熟度の自動判定をする場合に、タスクの影響の有無に注意しなければならないということを示している。また、これまでは「学習者が何をできるか」という点に注目してきたが、今年度はそれに加えて、「学習者が何をできないか」というエラーの情報を分析に加えた。その結果、冠詞、前置詞、動詞の時制などに関するエラーが習熟度と高い相関関係にあることが明らかにされた。
著者
小林 雄一郎
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

近年,英語教育の現場では実践的コミュニケーション能力の育成を図ることが求められており,中学校や高校の学習指導要領にも同様の記述が見られる。しかし,円滑で効果的なコミュニケーションをするためには,「何を」伝えるかよりも,「いかに」伝えるかが必要不可欠となる。具体的に効果的なコミュニケーションを達成する1つの方法は,対比,理由,結果,列挙,例示といった接続語や(メタ)談話標識によって,談話のユニット間の論理関係や意味関係を表すことである。従って,実践的コミュニケーション能力の育成を図る上で,学習者による(メタ)談話標識の使用傾向を調査し,彼らの談話構造における特徴や誤用を究明することは極めて重要である。しかしながら,これまでの研究では,手作業による談話分析のコストが高いこともあって,限られた数の学習者データしか扱うことができず,そこから得られた結果がどこまで普遍的なものかを検証することが難しかった。さらに,大規模な調査を行う場合は,多くの分析者が必要となり,どうしても結果が個々の分析者による主観に影響されてしまうという欠点があった。本研究では,日本人中学生,高校生,大学生の英作文を集めた学習者コーパスをテキストマイニングの手法を用いて客観的に解析し,そこから得られた結果を様々な角度から比較検討した。まず,相関分析,対応分析,クラスター分析などを用いて,分析データの全体像を把握し,データの構造を視覚的に提示した。また,メタ談話標識の意味カテゴリー別に詳細な量的分析と質的分析を行い,母語話者と日本人学習者の英作文を識別する特徴を抽出した。そして,日本語を含む17種類の異なる言語を背景とする書き手の英作文データを統計的に比較した。さらに,日本の中学校・高校の英語検定教科書におけるメタ談話標識の提示のされ方を調査し,日本人学習者によるメタ談話標識の使用傾向との関係を明らかにした。
著者
村松 怜
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は、年度内に学位を取得できるように博士論文を提出するということを大きな目標として研究を進めた。昨年度の末から本年度の初頭にかけてはまず、占領期における法人税制の問題に関する研究を行った。今日、シャウプ税制はわずか数年のうちに「崩壊」し、戦後日本の「非シャウプ的・資本蓄積型税制」が形成されていったと評価されている。その一つの証左とされるものが、シャウプ税制以降の法人課税に関する改正であり、中でも租税特別措置ないしは引当金制度等の導入・拡大である。しかし一方で注目に値するのは、同時期に法人税率の引き上げが行われていることであり、必ずしも「非シャウプ的・資本蓄積型税制」化という視点からは捉えきれない面も持っている。そこで、占領期末に租税特別措置の拡大と法人税率の引き上げという政策がいかにして行われるに至ったかを明らかする研究を行った。それは2012年春のうちに論文としてまとめ、雑誌『証券経済研究』へ投稿した。その結果、採択が決定され、同誌の9月号に掲載された。以上の研究と同時に、これまで行ってきた研究を博士論文としてまとめる作業を進めていった。博士論文は、シャウプ税制がどのようにして当時積極的に受入れられ、そしてどのようにして「崩壊」ないしは「解体」されていったのか、という大きな問いを、豊富な一次資料を駆使した上で明らかにしようとするものである。年度内に学位を取得できるよう、秋までに博士論文「占領期日本税制史研究」をまとめ上げ、11月に慶應義塾大学へ提出した。その後、2013年1月に博士論文の口頭審査が行われた結果、年度内に学位が授与されることが正式に決定した。年度末には、今後の研究の資料収集のため、米国国立公文書館に滞在し、GHQ/SCAP資料の閲覧・収集を行った。
著者
上田 麻理
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

雨天時は,降雨等による環境の変化によって,視覚障害者が危険に晒されている.特に,降雨時に発生する"傘の雨滴衝撃音"によって視覚障害者や聴覚障害者が普段利用している聴覚情報の利用が妨げられており,道路横断時の自動車接触事故経験を示す視覚障害者が多い等,生命に関わる重要な問題であり,解決策の提案は急務である.本研究では雨天時の視覚障害者の歩行の安全を確保するために降雨騒音低減傘の開発,検証実験と評価指標の検討,視覚障害者用補聴器の開発,法制の整備等を行う.視覚障害者のニーズを配慮した雨天時の歩行環境整備として,以下に示す整備を実施した.◆降雨騒音低減傘の開発/検証実験と評価指標の検討(概要:これまで,降雨騒音低減傘のための基礎的検討を行ってきたが,これらの知見を踏まえ,実用化に向けて制振対策と効果の確認旧標値への追従性等),物性値の測定を行う.また,視覚障害者によるユーザビリティに関する検証実験は大変重要である)昨年度及び一昨年度の二年間は,特許修正,製品化へ向けた傘の軽量化,降雨騒音レベル測定,評価実験を実施した.さらに,視覚障害者用補聴器の開発(概要:高度技術支援システム等の新たなデバイスを用いた福祉機器による移動支援を望む視覚障害者のために,視覚障害者用補聴器の開発と提案を行った.雨天時に,傘の雨滴衝撃音等の降雨騒音にマスキングされずに,必要な聴覚情報を聞き取り易くするための補聴器の開発と補聴器のフィッティングである.さらに,どれくらい降雨騒音によってマスクされているかを明らかにするためにマスキング計算モデルの構築を行った.◆視覚障害者用聴覚情報に係る法制の整備と工業規格化,国際標準化(概要:わが国における視覚障害者支援に関する法制では,雨天時等の環境変化に応じた整備指針がないことが問題の一つである.雨天時の歩行は視覚障害者にとって危険であることから,法制の整備や視覚障害者用サイン音の設置・運用に関する標準化は重要な課題である)本研究では,法整備のためのデータ収集を実施した.◆降雨騒音傘を例とした晴眼者の音環境の価値評価に関する経済評価実験:開発した降雨騒音低減傘の販売価格を設定する際の参考にすること及び,低減傘から得られる様々な効用(メリットなど)を経済評価実験により定量化することを目的とした.対象はまずは,低減傘の主な利用者ではない晴眼者を対象として実験を実施した.
著者
小野 聡
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

2012年度は本研究計画の最終年度であり、研究計画で位置づけられるところの「事例研究」の取りまとめが行われた。これは、2011年度より行われていた、京都市などにおける再生可能エネルギー普及のための市民団体の役割分析、および埼玉県小川町における有機農業を中心とした民間主導のまちづくりの取り組みの分析を中心に行われたものである。また、掲載されるのは2013年度となってしまうが、研究計画1年目より推進してきた、愛知県日進市における調査結果を元に、環境基本計画の推進における市民ネットワークの機能分析についても取りまとめられた。京都市および神奈川県における研究では、再生可能エネルギーの普及促進に取り組む市民団体は、行政の掲げる政策方針に応じて活動内容や資源調達の方法を変化させていたが、その方法として共通しているのが政策提案のネットワークを自ら形成しているということであった。また、小川町における研究では、創成期に活動した1人の農家を中心として有機農業を支援するコミュニティの輪が広がっていったが、そこには有機農業支援の担い手教育のシステムが組み込まれていたことが確認された。そして、日進市における研究では、設立当初はごみ問題、流水域の緑地保全、農業問題などといった分野横断的に計画を総合的に推進してゆくことを目的としたNPO団体であったが、徐々に各分野内での事業連携を行う上での拠点へと機能が変容していったことが明らかになった。
著者
北村 圭一
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

研究テーマ「数値的アプローチによる衝撃波安定・全速度流体解析手法の研究」のうち,「衝撃波安定」という側面について,前年度に提案した新規手法(SLAU法,SLAU2法)を用い,その成果を論文や国際会議にて発表致しました.これらの手法は衝撃波を比較的安定に補足できる上に,既存手法のようなパラメタ依存性が無く,幅広い問題への適用可能性が期待されています.またこの成果から,極超音速流れにおける熱流束のシミュレーション技術を一歩,前進させました.更にその応用として,手法の複雑形状の宇宙機空力解析への適用や,非構造格子における新規手法の開発も行いました.そして我々の手法の適用性を拡大し,より多くの問題に利用するため,1年間アメリカ合衆国へ渡航し,NASA Glenn Research CenterのLiou博士と協力しながら混相流の研究を行いました.混相流では低速から高速まで様々な速度領域が存在するため,「全速度」に対応できる手法が望ましく,この性質を備えた我々の手法(SLAU法,SLAU2法)は有望と言えます.私は現時点でこれらを気液二相流に拡張し,例えば空気の流れの中に置かれた液滴に衝撃波が干渉する問題を解く事ができるようにしました.この成果を今年度および次年度の国際会議で発表し,論文にまとめています.今後はこの手法の更なる発展として,粘性・キャビテーション流れ(=水中で飽和蒸気圧以下になると,自動的に気泡が生じる)への応用と,簡単かつロバストな界面補足(宇宙研・野々村博士と共同)についての研究を進めていく予定です.
著者
安井 伸太郎
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

今年度初旬に計画した通りに研究を進めてきた。まずはプロセスに関して、ローカルエピタキシャル成長のための(111)SrRuO_3/(111)Pt/(111)Si基板をスパッタリング法を用いて作製した。この基板を用いて、ローカルエピタキシャル成長させた一軸配向Bi系圧電体薄膜を堆積させた。強誘電体材料は高圧相材料であるBi(Mg_<1/2>Ti_<1/2>)O_3、およびその固溶体Bi(Zn_<1/2>Ti_<1/2>)O_3-Bi(Mn_<1/2>Ti_<1/2>)O_3-BiFeO_3を用いた。XRDθ-2θパターンおよびX線極点図の結果より、堆積されたこれらの薄膜材料は基板の方位に沿って(111)軸に配向しており、また面内方向はランダムであった。これは作製した薄膜がローカルエピタキシャル成長している結果である。作製したSi基板上のこれらの薄膜について、圧電応答顕微鏡(PFM)を用いて、基板垂直方向の圧電特性d_<33>を測定した。このPFM測定にはAFMのZ-piezo信号を用いた歪電界曲線を用いた。その結果、Bi(Mg_<1/2>Ti_<1/2>)O_3、およびその固溶体Bi(Zn_<1/2>Ti_<1/2>)O_3-Bi(Mn_<1/2>Ti_<1/2>)O_3-BiFeO_3において40pm/vおよび75pm/Vであった。後者の材料の圧電特性は(111)SrRuO_3//SrTiO_3基板上に作製されたエピタキシャル薄膜の場合で150pm/V程度の圧電性を示したが、ローカルエピタキシャル膜の場合は半分程度の値となった。この理由はモルフォトロピック相境界の組成領域が、成長させる基板で異なる可能性がある、言い換えると内部の残留歪に敏感であり、異なる組成域を示す可能性が考えられる。事実、高圧合成法で作製された粉末の結晶構造解析の結果より、薄膜におけるモルフォトロピック相境界と粉末におけるそれは、異なる組成を示した。今後、カンチレバーおよびSAWデバイス用に加工した基板を用いて、上記で調査した特性を基に必要な組成・方位の薄膜を作製する予定である。