著者
辻 浩和
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

1. 〈遊女〉の生活実態に関わる基礎的事実の解明をすすめた(1)『梁塵秘抄』380番歌および『遊女記』の読解から、遊女・従女の服飾・身分的表象・出自等について解明を進めた。(2)『遊女記』の新解釈を提示し、〈遊女〉の得分について明らかにした。2. 〈遊女〉の身分論的把握をすすめた→(1)従女を中心として、〈遊女〉の「家」内外の権力関係を考察した。(2)『遊女記』をもとに、〈遊女〉集団内外の秩序・勢力関係について考察した。その結果、集団内部に遊女・従女の階層が、集団外部に「豪家之侍女」(出遊)との競合関係が存在することがわかった。3. 中世後期〈遊女〉史研究への展望をひらくべく、基礎作業を進めた→(1)〈遊女〉の芸態について、芸能史的系譜関係を考察するため、『梁塵秘抄』248番歌の新解釈を提示し、傀儡子と関わる可能性を指摘した。(2)〈遊女〉の芸能を中世芸能環境の中に位置づけるため、仏教芸能を中心として、広く文化・芸能状況の調査を行った。また、神社関係の新出史料を中心に法楽芸能における歌女参仕について分析・考察した。(3)女性を含む芸能者、および被差別民と関連の深い祇園社に関してその実態を探るため、その統括者である社家に関して基礎的な分析を行った。さらに、祇園祭に関する文献の紹介と批判を行った。また、同じく芸能者・被差別民との関係が深い賀茂社に関して新出史料の分析を進めた。
著者
山本 圭
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は英国University of Essex, Department of GovernmentにてAletta J. Norval博士のもとで研究課題を遂行した。まずは研究課題である闘技的民主主義の諸相を捉えるべく、一般に「闘技理論」としてカテゴライズされる政治理論-ハンナ・アーレント、シャンタル・ムフ、ウィリアム・コノリー-のマッピングを行った。これらを比較検討することにより、それぞれのあいだの差異、つまりは闘技理論の様々な可能性を吟味出来たと同時に、これらのあいだに見出される共通点を闘技理論の特徴として抽出することが可能となった。続いて闘技理論を批判する熟議民主主義の議論を検討した。熟議民主主義は今日、単に対立のモメントを拒絶しているわけではなく、むしろ対立をどのように熟議のうちに取り込むかに関心をもっていることに着目し、それらの議論を二つのタイプに分けることを試みた。すなわち第一に、熟議のうちにも対立の契機が存在することを主張するもの、そして第二には如何なる闘技も一定の合意に基づいたフレームワーク、ないしは熟議の結果としてのルールを前提とせざるをえない、というものである。これらの議論を検討することで、通常熟議/闘技として認知されている現代民主主義理論の二項対立の有効性を疑問に付し、この二分法を超えるパースペクティブの必要性を提示した。この成果は、Kei Yamamoto, "Beyond the Dichotomy of Agonism and Deliberation",(Multiculturalism, Nagoya University, Graduate School of Languages an and Cultures, No. 11, pp. 159-183, 2011)として発表された。
著者
西原 大輔
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

Pax6は眼の「マスターコントロール遺伝子」とも呼ばれ、その所以の一つは、ショウジョウバエやアフリカツメガエル胚においてPax6遺伝子やmRNAの強制発現によって異所的な眼の形成が誘導されたという知見によるものである。脊椎動物の場合、眼の複数の組織の正常形成がPax6遺伝子の機能喪失によって乱されることから、Pax6は眼の形成過程で多面的な機能を担っていると考えられている。従って、眼の形態形成過程を理解し、また将来の展開が予想される眼の組織再生に発生学的な知見を活かす上でも、Pax6のin vivoでの機能解析は必須の課題と言える。本研究では、共通の発生起源から形成される網膜色素上皮(RPE)と神経網膜の2つの眼の組織の形成過程に着目し、1)Pax6という1つの因子が、異なる2種類の組織の形成に関わっているかどうか、2)またその過程でPax6がどのような分子メカニズムを介して機能するのかを解析した。解析の結果、1)については、Pax6が実際にRPEと神経網膜の両方の形成を促すことを、一つのin vivo実験系内で観察できた。RPEと神経網膜の発生過程では、それぞれのプロセスを異なる転写因子が動かしている。本解析では、構成的活性化状態のPax6をコードする遺伝子を眼杯に導入することで、Pax6の機能が亢進した場合にRPEと神経網膜のそれぞれで特異的に発現する転写因子の両方が発現誘導されることが分かった。さらに2)について、RPEと神経網膜のそれぞれで働く転写因子の発現誘導が、Pax6タンパク質内の異なるドメインを介して活性化されることも明らかにした。これらのデータはPax6の多面的な機能メカニズムの一端を明らかにするものであり、現在論文投稿の準備中である。
著者
渡邊 克巳 MOUGUNOT Celine
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は本研究課題「プロダクトデザインにおける顕在的・潜在的要因の認知科学的研究」というテーマの中で、前年度に見いだした知見「聴覚刺激を与えられた群の方が、対応する視覚刺激を与えられた群よりも、有意にオリジナルなスケッチ及びデザインを作成する傾向」に関して、追加の調査を行い、外部発表を行った。また、その結果集まったスケッチやデザインのアイデアを表現する際に、日本では「オノマトペ」が多用されることを発見し、平成22年度は、日本特有の言語表現である「オノマトペ」がデザインにどのように生かされているのかを調べる研究をスタートした。前年度と同様のパラダイムを用いて、例えば「楽しいメガネ」をデザインする場合と「うきうきする眼鏡」をデザインする場合などを比較し、作成されたスケッチを第三者に評価させた。その結果、オノマトペを使って表現したデザインとそれ以外のデザインでは、特定の差が見られることが明らかになった。この差が具体的に何に起因するのかは、今後の分析によるところが大きく、最終年度である平成23年度では、さらなる考察を加えて外部への発表を重点的に進めた。本研究の成果は、外部のデザイン専門学校と協力して行ったものであり、これからの研究を展開する上での基盤作りともなった。これらの結果は、複数の国際学会で発表され、その内2つは招待講演となっている。また、研究内容をまとめたものは、英文書籍およびフランス語での出版につながっている。
著者
児玉 直美
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究は有用木本植物であるユーカリを対象として、その蒸散効率の制限要因の環境応答を調べることであった。具体的には、蒸散効率の重要な要因である膜のCO_2と水の拡散を制限しているアクアポリンという膜たんぱく質に注目して、アクアポリンの蓄積量を遺伝的に改良した植物を用いて実験を行った。本年度は、1)蒸散効率の制限要因である気孔コンダクタンス(gs)と葉肉コンダクタンス(gm)を、秒~分単位の高時間分解能で連続的に同時測定できるように実験システムのセットアップを行った。これによってgsやgmの短期的な環境応答の測定が可能になった。2)アクアポリンの蓄積量の変化によって、短期的な光環境の変化に対する、蒸散効率の制限要因であるgsとgmの応答速度の違いを調べた。1)の実験セットアップは中赤外分光レーザーCO_2同位体計というシステムを導入し、他機関の研究者と協力して行った。これによって、葉肉コンダクタンスと気孔コンダクタンスの同時測定を、秒単位で行えるシステムを確立した。このシステムによって環境の変化に素早く反応して変化するタンパク質や酵素の影響をとらえることが可能になった。また、2)の実験によってアクアポリンの蓄積量の違いによって、光変化に対する応答時間が異なることを示すことに成功した。これらの結果は植物の生産性を高めることや生態系内の水や炭素の循環に関しても重要な知見を与えると考えられる。
著者
磯野 真由
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

平成24年度は、昨年度に引き続き、マイクロビーム照射実験では、増殖期の神経幹細胞における細胞核へのプロトン照射粒子数に対する生存率について、結果の精度向上を図り、線量依存性を示唆する結果が得られた。また、照射粒子数100個を細胞核へ照射した際の、DNA損傷の修復およびアポトーシスの誘発率について評価した。DNA損傷の修復は経時的な損傷修復が見られ、アポトーシスの誘発率は非照射細胞と比べて有意な上昇が見られた。よって、マイクロビーム照射実験のDNA損傷およびアポトーシス誘発率については、線量依存性についてそれぞれの検討を行い、昨年度に得られたブロードビームX線照射実験の結果と比較することによって、細胞核または一細胞という標的の違いによる放射線感受性の違いについて明らかに出来るという方向性が見えた。X線照射実験については、今年度より、分化誘導条件で神経幹細胞を培養し、異なる分化段階でマイクロビーム照射実験と同等の照射線量で放射線照射を行い、分化効率への影響について検討を行った。異なる分化段階での照射によって、神経細胞への分化効率の違いが示唆された。細胞分化の際には主に細胞核DNAが関与しており、X線で示唆された分化段階の違いによる分化効率の違いは、DNA損傷の修復機構および修復関連因子、細胞周期制御因子に対する放射線の影響が関与していると考えられる。今後、マイクロビーム照射を用い分化誘導条件で細胞核照射を行い、DNA損傷修復に伴う関連因子と分化関連因子との相関の有無について検討していきたい。これは分化の程度、すなわち発生段階における放射線感受性の違いを解明する一つの手がかりとなり得る。
著者
熊 仁美
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

1.自閉症児の顔刺激に対する認知特徴の基礎研究自閉症児、または自閉症リスク児と定型発達児について、視線や表情を含む顔刺激に対する反応の分析を行い,特徴を比較することにより、自閉症児のコミュニケーションにおける顔認知特徴を明らかにすることを目的とした。本年度は、10名の自閉症児と10名の定型発達児についてのデータ収集により、自閉症児の顔刺激への認知傾向と、実際のコミュニケーション行動との関連も明らかにすることができた。今後はさらに条件を変化させ、より詳細な分析を行っていくことで、早期スクリーニング開発や早期支援プログラムの開発に応用していくことが可能となる。2.自閉症児の早期スクリーニングの開発研究視線分析装置を用いて、5名の自閉症児の視線刺激に対する反応特徴の分析を行った。また、他者とのコミュニケーションにおける社会的刺激の機能に関連した行動指標の評価研究を行った。現在、社会的刺激が強化として機能する場合に、反応が困難である可能性が示唆されており、今後被験者を増やすことで、早期スクリーニングの開発につなげていくことができると考える。3.自閉症児への共同注意行動への介入プログラム開発研究約30名の自閉症児に対し、週10時間の早期集中療育の効果測定研究を行い、初期のプロファイルと効果の相関分析を行った。その結果、知的障害と診断名が、早期療育の効果に関連が強いことが示唆された。また、現在、介入初期の自閉症児への共同注意行動と、早期療育の効果の関連の分析を開始している。それにより、共同注意行動への介入が、早期の発達支援の基盤として必要であることが明確になると考えられる。今後は、(1)自閉症児の顔刺激に対する認知特徴の基礎研究や(2)自閉症児の早期スクリーニングの開発研究において明らかになった点より、新たな共同注意介入プログラムの開発を行う。共同注意に特化した集中介入を伴わない早期療育群と、共同注意に特化した集中介入を伴う早期療育群の知能指数、共同注意、その他のコミュニケーション指標の変化の分析を行い、そのプログラムの効果を検討する。
著者
松本 有記雄
出版者
長崎大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

雄の配偶成功は性的二型などの質に依存するが、その質の差に関係なく配偶成功に極端な偏りが生じることがある。この原因の1つが雌の非独立型配偶者選択(以下、コピー戦術)である。コピー戦術を採用する雌は、他個体の配偶者選択を真似て同じ雄を選ぶため、通常の選択の基盤となる遺伝的な好みとは逆の特徴を持つ雄さえ選ぶことがある。このように、コピー戦術は既存の性淘汰の概念を覆すような重要な現象であるが、過去の研究の多くがコピー戦術か否かの報告に留まっており、その適応的意義まで実証した例は皆無である。昨年度までの研究で、ロウソクギンポ雌のコピー戦術には配偶者探索時の移動コストや捕食リスクを軽減する機能は無いことが示された。そこで、多くの種で観察される全卵食行動、すなわち保護卵が少ない場合に(ロウソクギンポでは1000個末満)、卵を保護する雄がそれらの卵を孵化まで保護せずに全て食べる行動に注目した。本種雌の場合、雌1個体の産卵数は最大でも500個程度なので、雌はすでに他の雌の卵がある巣に卵を追加産卵しなければ、自身の卵が全卵食される可能性が高い。ところが、雌が卵を確認するために、巣内に入ると雄に産卵するまで巣内に閉じ込められるリスクが生じていることが実験的に示された。コピー雌の卵が無い巣への産卵頻度は通常選択を採用した雌よりも低く、実際に孵化まで保護されるケースが多かったことから、コピー戦術には、卵を保護していない雄に強制産卵させられるリスクを回避して、自身の卵の生残率を上げる機能があると考えられた。
著者
茂木 洋平
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、日本国憲法上、Affirmative Action(AA)がいかなる理由から正当化されるのかにある。この点について明らかにするために、本年度は以下の点について研究を進めた。(1)AAに如何なる司法審査基準が適用されるのか、またそれは如何なる理由から判断されるのか、(2)AAの正当化理由には、過去の差別の救済と将来の利益の達成という理由が用いられるが、それらの理由に伴う問題点を明らかにすること、(3)AAの正当化理由として近年多用されている多様性の価値とは具体的にどのような内容のものか、またそれに伴う問題点となにか、(4)AAはその受益者が社会・経済的に優位な状況にある者であることが多く、真に救済の必要な者を救済していないと批判されており、その批判を回避する方法。(1)については、AAには緩やかな厳格審査が適用され、その理由はAAに偏見を解消する可能性があることだと明らかにし、その成果を公刊した。(2)については、過去の差別の救済はAAを正当化するのに強力な理由だが、救済の対象となる差別の範囲が非常に限定されており、実際に認められるのは困難であること、AAの正当化理由たる将来の利益とは、過去の差別や将来における差別といった差別を意識したものでなければならないことを明らかにし、その成果を公刊した。(3)については、AAの正当化理由としての多様性とは差別を意識したものでなければならないこと、AAを永続化する危険性等の欠点があることを明らかにした。この成果については次年度に公刊する。(4)については、その解消方法として社会・経済的な地位を意識するAAがあり、真に救済の必要な者が受益者になっていないとする批判を回避するためには、人種だけでなく、社会・経済的な地位を意識せねばならないことを明らかにした。この成果は、次年度に公刊する。
著者
中村 祥
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究では、深部低周波微動(DLFT)の発生メカニズムを解明することを目的とした。2006年東海地域で名古屋大学と共同で行ったDLFTのアレイ観測の結果を解析し、連続的に発生している微動の短いスケールの時間変化を得ることに成功した。その結果、震源の移動は基本的にプレートの走向に平行な方向で、時速約40kmの移動とほぼ同じ位置での発生とを繰り返す様子が得られた。また、初動が不明瞭で微動の開始終了をはっきりとは定義することは困難なDLFT波動継続時間を見積もる方法を開発した。見積もられた波動継続時間の間の各アレイ観測点でのエンベロープ振幅積分をEAI値と呼び、微動の大きさの指標とした。その結果、検測された微動の多くが波動継続時間45秒前後を持ち、かつその波動継続時間においては他の波動継続時間と比較してEAI値が広い範囲にわたることが示された。この特徴的波動継続時間の存在は、DLFTのメカニズム示すうえで重要な性質である。EAI値から地震モーメントヘの変換を行い、DLFTの単位面積あたりのモーメント解放量を推定した。その結果、1日の活動でおよそ7.5x10^5(N m/m^2)という結果が得られた。DLFTと比較することでその特徴的性質を得るため、2004年紀伊半島南東地震の余震観測の際に設置された海底地震計(OBS)に記録された低周波の微動について解析を行った。決定された震源は、トラフ軸に垂直な方向に分布する。震源分布は超低周波地震の震源にほぼ平行で、相補的な位置に広がる。この結果から、この微動が超低周波地震とは別の現象であることが示された。震源が相補的に分布することは、トラフ近傍の物理過程を考えるうえで非常に重要な結果であり、共に安定、不安定すべりの遷移域である沈み込み帯深部との対応から、この現象が「浅部低周波微動」である可能性が示唆される。成果を博士論文にまとめた。
著者
小林 果
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究課題ではもやもや病の多発家系を用いて家族性もやもや病の責任遺伝子を特定すること、細胞生物学的解析と遺伝子改変動物の作成により遺伝子の機能を明らかにすることで発症機構の解明を行うことを目的とする。24年度は、昨年度もやもや病感受性遺伝子として同定したmysterin(RNF213)遺伝子のノックアウトマウスの作成と形質の評価を主に行った。近年のもやもや病と糖尿病の合併性を示す報告より、mysterinの機能を明らかにするために、mysterin欠損が糖尿病モデルマウスに与える影響を検討した。具体的にはmysterinを欠損するノックアウトマウス(mysterin-/-)を作成した後、小胞体ストレスによる糖尿病モデルマウスであるAkitaマウス(Ins2+/C96Y)と交配を行い、mysterin KO/Akitaマウス(mysterin-/-,Ins2+/C96Y)を得て糖尿病に関連する形質の解析を行った。その結果、mysterin欠損はAkitaマウスの血清および膵島インスリン量を増加させることで、摂食量の低下、小胞体ストレスの低下を通じて糖尿病を改善することが示された(Biochem Biophys Res Commun 2013)。小胞体ストレス応答の1つとして、異常タンパク質の分解を促進する小胞体関連分解(ERAD)がよく知られている。Akitaマウスの膵β細胞ではERADにより異常プロインスリンのみならず正常プロインスリンの分解も促進していることが報告されており、mysterin欠損はERADによるプロインスリン分解を抑制する可能性がある。本研究は、mysterinがERADに重要な役割を果たす可能性を示唆しており、今後さらに検討を重ねることでmysterinの機能の一端が明らかにできることが期待できる。
著者
柴田 悠
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

まず、1.研究課題「現代社会における他者援助」の公的な典型形態である「所得再分配」(一般政府による公的支出)に関する研究として、(1)所得再分配の規定要因について、歴史社会学的研究と計量社会学的研究を、国内研究会での発表と議論をつうじてさらに精緻化し、ワーキングペーパーと博士論文(2011年7月京都大学大学院人間・環境学研究科受理)にまとめた。また(2)再分配政策の(自殺率・出生率・経済成長に対する)効果についての計量社会学的研究を、国際会議や国内学会での口頭発表と議論をつうじてさらに精緻化し、博士論文(同上)と投稿論文(投稿中)にまとめた(結果の詳細は博士論文などを参照)。つぎに、2.「現代社会における他者援助」の私的な典型形態である「親密性」に関する研究として、とりわけ今後の日本社会で活性化が必要と考えられる(幼児と高齢者の間の非血縁の世代間ケアが生じうる)「多世代コミュニティ」に着目し、国内先進事例に関する文献調査と現場調査(子育て支援施設と高齢者の居場所を兼ね備えたボランティア運営施設での参与観察とインタビュー)を行い、「多世代コミュニティの活性化条件」に関する理論仮説を得ることができた(その成果は現在、論文として執筆中である)。また、東アジアでの国際的な質問紙調査のマイクロデータ(日本・韓国・中国・台湾・バンコク・ハノイ)を用いて、「親子間ケア」(家事援助と金銭援助)のパターンを統計的に分析し、ベトナム・ハノイでの国際研究会で発表した(成果は論文として執筆中)。さらに研究計画にはなかった追加的研究として、子どもと高齢者に対する公的援助(ケアサービス)と私的援助(ケア行動)に関して、東アジア諸国(日本・韓国・中国・台湾・シンガポール・タイ・ベトナム)のマクロデータを、海外研究者たちの協力のもとで、先行研究を上回る規模で収集し、集計した(成果は論文として執筆中)。
著者
ベグム S
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、再生可能な木質バイオマスの量や質を決定する形成層活動の制御機構を細胞生物学的に明らかにすることを目的とした。そこで、交雑ヤマナラシとスギを用いて、形成層活動休眠中の冬期の樹幹に人為的な加温処理(約22℃)を行い、樹幹温度の上昇のみで形成層細胞の分裂開始が誘導されることを明らかにした。さらに、樹幹への局部的な加温処理をモデル系として、形成層再活動に伴うデンプンや脂質など貯蔵物質量の変化パターンを詳細に解析した結果、形成層細胞や師部柔細胞内に含まれる貯蔵物質量が細胞分裂や細胞分化に伴い減少することから、光合成年よる同化産物の供給が制限されている時期において、デシプンなどが細胞分裂開始に必要なエネルギーの供給源であると結論づけた。また、形成層細胞内の微小管を蛍光抗体染色法で観察し、微小管の低温に対する感受性が、形成層細胞の活動期と休眠期では異なることを明らかにした。一方、形成層活動の開始時期と最高気温、平均気温、最低気温との関連性を統計的に解析し、形成層活動の開始時期には最高気温との間に密接な関連性があることを明らかにし、形成層活動を制御する温度閾値を計算した。これらの結果を基に、形成層活動開始時期を予測するために有効な新しい形成層活動指標(Cambial reactivation index ; CRI)を提案した。さらに、CRIには樹種や形成層齢による特性があり、形成層細胞の温度に対する感受性の違いが形成層活動の開始時期の違いを制御していることを明確にし、冬期や初春の気温が上昇した場合の形成層活動の開始時期の変化を予測した。
著者
馬 書根 WANG Kundong
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、蛇の運動原理とミミズの移動原理を融合し、震災等における瓦礫の散在する環境下で生存者の探索・救援が行なえるロボットシステムを開発することを目的としている。平成22年度において、昨年度に試作された基本関節ユニット(直動駆動、ロール回転、及びピッチ回転の3自由度を持つ)を用いて、頭部と尾部をも持つロボットシステムの開発を行った。本ロボットには12自由度を有し、長さ92cm、直径10cm、重さ3.1kg、円柱型の外形を持つ。直動駆動自由度を持たせることで、このロボットは蛇型運動だけでなくミミズの移動原理も行え、蛇とミミズの移動原理を有機的に融合した超生物的な移動を実現することができる。次に、このロボットを駆動制御する制御システムを構築した。この制御システムには駆動電源を含め、サーボーモータ制御系や無線通信系などを全て各ユニット内に納め、ロボットを構成する関節同士やコード類などの相互干渉を無くすことができ、ロボットの運動性能、柔軟性、信頼性が向上できる。また、実機械モデルの開発と並列して、蛇の運動原理とミミズの移動原理を有機的に融合するための理論研究を行い、蛇型移動、ミミズ型移動、および蛇型-ミミズ型の混合移動を行う本ロボットの数学モデルを構築し、これらの運動について計算機シミュレーションで運動解析を行った。その結果として、開発されたロボットにミミズ型移動を導入することで、狭隘空間へ侵入が簡単となり、蛇型移動特有の特異姿勢問題も解決できることを判明した。本年度の研究は超多自由度多関節型移動ロボットを効率よく運動制御するための基礎を成している。
著者
但野 茂 GIRI Bijay
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

骨組織はナノサイズのミネラル粒子がコラーゲン構造に沈着した複合構造を有する。規則的な原子構造を有する材料にX線を照射すると、その規則性に応じて回折X線が発生する。骨組織においては、コラーゲン鎖の周期構造がX線の小角散乱を引きおこし、ミネラル結晶の格子構造からは広角へのX線回折現象が生じる。このX線の回折パターンを解析することで、結晶構造や分子構造といった微視組織の構造変形を検出することができる。そこで、本研究では牛皮質骨から力学実験用の試験片を作製し、試験片負荷時に発生する回折X線の2次元パターンから、ミネラル内部のひずみと結晶学的な構造特徴の変化を調査した。その結果、X線回折により骨組織負荷時にミネラル結晶に明確な構造変化が生じていることが検出された。また、結晶配向と負荷時の変化および除荷時の形態再現性が作用負荷の履歴に依存して変化することを示した。このX線回折結果が示したように、負荷による超微視形態的な変化は明確であるにもかかわらず、作用応力と弾性率の間にはこのような複雑な挙動が現れなかった。すなわち、マクロな特性観察から微視構造に生じる変化を判断することは難しいといえる。今回確認した微視構造レベルのミネラル粒子間および、ミネラル-コラーゲン間の組織の付着と剥離挙動に関する特性は、骨組織破壊の発生源として考えることができる。本結果を生体骨に適用することで、非破壊的に測定可能なナノレベルの構造情報を基にした骨強度診断の実現が期待される。特に、整形外科分野において、骨の加齢や疾患の進行を定量的に診断し、骨折リスクを予測する新しい臨床応用技術として利用される可能性が高い。
著者
岩本 理
出版者
東京農工大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

近年、電位依存性ナトリウムチャネルは抗疼痛や鎮痛作用の分子標的として注目されている。本研究ではサキシトキシン骨格を基盤とすることで電位依存性ナトリウムチャネルのサブタイプ選択的リガンドの創製を志向した、柔軟な合成手法によるサキシトキシン類の全合成について検討を行った。これまでの研究において、サキシトキシン骨格の構築に成功している。しかしこれらの手法は依然、本研究の目的である「多様な構造展開が可能な柔軟な合成手法」を満足できなかったため、依然として残っていた問題点を解決しつつ新たな反応と方法論を開発した。まず、炭素骨格形成時における工程数を短縮させるために、応用例の全くないニトロン-ニトロオレフィン型1,3-双極子付加環化反応と続く化学種選択的な変換反応をワンポット法と組み合わせる手法を開発した。そして従来法では理論上、(-)-デカルバモイルオキシサキシトキシンよりも工程数が必要な(+)-β-サキシトキシノールをより短段階で合成し、(+)-サキシトキシンの形式全合成を達成した。さらに、サキシトキシン骨格形成時における脱保護の必要性に関する問題を、立体配座を制御し、不安定構造を安定化する手法を用いて克服した。これにより12段階25%で得られるサキシトキシノール保護体をサキシトキシン構造活性相関の共通物質として供給可能となった。また、本化合物の有用性を示すべく各官能基の変換について検討を行いα-,およびβ-サキシトキシノールと13位アジド体の合成、そして(+)-デカルバモイルサキシトキシンおよび(+)-ゴニオトキシン3の全合成に成功した。
著者
橋本 栄莉
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

平成24年度の研究の目的は、現地調査を通じて独立後南スーダンにおいて発生している民族集団間の武力衝突と在来の予言者との関係について明らかにするとともに、植民地時代から現代にかけての予言者の影響力の歴史的変遷を明らかにすることであった。研究の成果は次の3点に大別できる。(1)独立後南スーダンにおいて発生している民族集団間の武力衝突と在来の予言者との関係について2011年-2012年に発生した民族集団間の武力衝突において、在来の予言者が紛争にいかに関与し、どの程度地域住民に対して影響力を持っているのかを、2012年12月~2013年3月にかけて実施した村落社会や難民キャンプにおける参与観察、聞き取り調査によって明らかにした。その結果、南スーダン政府や各種国際機関における予言者の解釈と、地域社会の人々の認識との間にはズレが生じていることが明らかとなった。この成果は研究ノートにまとめ、雑誌『Nilo-Ethiopian Studies』18号に投稿、掲載された。(2)植民地時代から現代にかけての予言者の影響力の歴史的変遷について現代南スーダンにおける在来の予言者のあり方について理解するためには、植民地時代から内戦、戦後復興期にかけての予言者の影響力の歴史的変遷について明らかにする必要がある。平成24年度は歴史的資料と現地調査を通じて、スーダン(南スーダン}の歴史的出来事、特に南スーダンの独立に注目し、1世紀以上前に存在していた予言者に関する知識がどのように人々の間で共有され、信じられてきたのかを明らかにした。この成果は研究ノートにまとめ、雑誌『アフリカ研究』81号に投稿、掲載された。(3)キリスト教と土着信仰の混淆状況について平成24年度に実施した現地調査の中で、多くの地域住民がクリスチャンである一方、予言者に対する信仰をはじめとする土着信仰もキリスト教の教義を接合されるかたちで人々の間で根強く存在していることが明らかとなった。この点についてはさらなる調査が必要である。
著者
王 恵楽
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

近日、上海でH7N9新型の鳥インフルエンザが多くの関心が集まった。本研究は、H5N1型鳥インフルエンザという当時数百人の命を奪った鳥インフルエンザにインスパアされ、公衆衛生と国家権力との関連において考察を行って来た。新型インフルエンザの学名は、携帯電話やパソコンの機種名のように変化していくが、国家権力との繋がりの中で、こうした疫病の流行に対する公衆衛生的な対応に、変わらない本質的な問題が潜んでいる。近年の新型インフルエンザによる実際的な人命の被害は、疫病の歴史の中で見れば、大した数字ではないことがわかる。しかし、それによってもたらした社会全体的な恐怖、そして国家権力の拡張(メディア・衛生機関の動員、学校や市民の日常的生活に浸透する管理など)は、大規模しかも速やかに動かされている。この力によって、古い慣習や風景が抵抗なく排除され、管理しやすい新たな社会が建設されるような現象が見られる。本研究は、この問題を出発点とし、後藤新平の近代化プロジェクトをその中に位置つけようとしてきた。ミシェル・フーコーやマイケル・ハートやアントニオ・ネグリなどの生政治(Bio-politics)の理論を手かがりにした。「後藤が出版された『処世訓』、『日本膨張論』、『区画整理早わかり:帝国復興の基礎』などの出版物や、『後藤新平文書』にある「我観宗教」、"The Japanese Questionin America"(アメリカにおける日本の問題)などの原稿を取り上げ、アジア医学史の学術大会で発表を行った。当学術大会のコメントや質問を踏まえた上、アジアとの比較、そして、宗教と衛生との対話に重点をおくべきだと考えている。そのために、後藤の原稿である「現代医学」、「霊肉一如の教育」、「学俗一致」、「自治ニ関スル吾人ノ自覚」、「自治生活における宗教との関係」などに現れた言説についての考察を行っている。
著者
松本 尚子
出版者
国立天文台
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、高精度天体位置計測のための望遠鏡VERAを用いた位相補償VLBI観測により、銀河系中心から約3kpcまでの領域の晩期型星および星形成領域に付随するメーザー源の絶対3次元運動を高精度で計測し、その測定結果と銀河系の動力学的な理論モデルとを比較することで、銀河系のバーポテンシャルの深さ・太陽系に対するバーの傾斜角など、銀河系の棒状構造に制限をつける事である。特に、運動学的に議論可能な精度で銀河系内のガスの絶対3次元運動を得るには、現時点において星形成領域に付随するメーザー源を用いた位相補償VLBI観測が唯一であり、運動学的な観点からのアプローチの一つとして重要な意味を持つ。この目的のために、昨年度は国内初の試みである6.7GHz帯メタノールメーザー源を用いた位相補償観測の試験として、もっとも明るい6.7GHz帯メタノールメーザー源の一つである大質量星形成領域W3(OH)に付随するメーザー源の年周視差・固有運動を得た。本年度はその成果をPASJから出版し、国内外の研究会でも成果発表を行った。本成果には、まだ観測例の少ない6.7GHz帯メタノールメーザー源の内部固有運動の検出も含まれており、大質量星形成領域の周辺環境を探るという観点でも重要な意味を持つ成果である。上記の経験を元に、2009年11月よりVERAを用いて、銀河系バー周辺領域の6.7GHz帯メタノールメーザー源を10天体観測してきた。2011年秋までの時点で、10天体中6天体の絶対3次元固有運動を3σ以上の精度で求めることができた。これらのデータ解析結果から得られた3次元運動と銀河の棒状構造モデル等と照らし合わせて非円運動成分を導き、これまでの銀河系に関する研究結果と矛盾しないバーの傾斜角~35°が得られ、棒状構造の存在が3次元運動からも示唆される事を、国内外の研究会にて発表した。
著者
江頭 祐亮
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

最終年度である平成24年度は,前年度で高精度化した陽子線線量分布計算アルゴリズムの実験的な検証を行なった。元来電子線治療に対する線量分布計算法であるPBRA (Pencil Beam Redefinition Algorithm)法を陽子線治療に応用することによって高精度線量分布計算アルゴリズムの実装を行ない、実験的に検証を行なった。PBRA計算法の最大の特徴は,側方向の位相空間の変化に加えて,エネルギーの位相空間の変化を考慮した六次元の位相変化を評価することによって輸送計算毎にPBを再定義することが可能である点である.このPBRA計算法における物理的特性によって,再定義によって再発生したPBは,従来のPBの軌跡が考慮することのできないビームの軌跡を描くことが可能であることを示している。また,PBRA計算法のアルゴリズムとしての妥当性を確認した上で,PBを分割することによる不均質媒体に対する線量分布への影響の評価を行った。この評価では,人体の不均質を模擬した異なる2つのファントムを作成し,PBの深さ毎の分割数が増加するにつれ計算値と測定値の相違が小さくなることを確認し,更に不均質媒体の直上でPBを分けることによって精度が向上することを示した。続いて,PBRA計算法による計算結果とファントム測定の結果の比較による精度向上に対する評価を行った.この評価では,上記の不均質スラブファントムに加えて,より人体の構造に近い模擬人体ファントムを用いており,PBRA計算法がPBA法に対して,より人体に近い体系に対して計算精度が向上することを示した。更に,アルゴリズムの高速化と,高速PBRA計算法を搭載した陽子線治療計画システムの開発を行った。