著者
横田 裕輔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では、地殻内地震の本震から余震活動や余効変動へと移行する時間発展の様子をハイレートGPSを用いた震源インバージョンによって解析し、余効変動への進展の様子を明らかにする。さらに、2011年東北地方太平洋沖地震に関して、その本震の震源過程とバックスリップ・余効すべりの詳細な解析を実施する。これらの解析から、東北沖のプレート境界に関する固着とすべりの時空間発展の描像を得る。さらに一連の時空間発展を再現可能な物理モデル、シミュレーションについて議論を行う。このような解析と議論によって、地震の始まりと進展だけではなく、地震の終焉とその後の中・長期的な時空間発展の概観を知ることを目的とする。本年度は、2011年東北地方太平洋沖地震(Mw:9.0)について強震波形データを用いたインバージョンを行い震源過程を推定した。さらにハイレートGPSデータを使用した解析によりこの地震直後の余効すべり過程を推定し、巨大地震の終焉過程についての考察を実施した。また、過去のGPSの1日サンプルデータについて過去の研究より詳細に時系列解析を行い、北海道から房総沖にかけての太平洋プレートの沈む込み帯におけるバックスリップ過程の詳細な時空間発展を調べた。海底地殻変動データも含めた解析も実施し、同じデータセットを使った本震の解析結果と非常に似た領域が固着を蓄積し続けてきたことも明らかにした。さらに、詳細な本震の震源領域・地震前のバックスリップ領域・地震後の余効すべり領域を比較し、一連の時空間発展を再現可能な物理モデルについて議論を行った。これらの研究の結果、2011年東北地方太平洋沖地震の前後約15年間にわたる詳細な物理過程の全容を推定し、その物理モデルに関する示唆を得た。
著者
長塚 仁 LEFEUVRE M.B.
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

我々の研究グループは、頭頸部扁平上皮癌における新規癌抑制遺伝子候補の同定のために、ヘテロ接合性消失解析(LOH解析)を行ってきた。これまでの研究成果では、染色体1p36において高頻度にLOHが生じている3つの領域を新たに同定し、新規癌抑制遺伝子候補としてp73、DFFB、UBE4B、RIZ、Rap1GAP、EphB2、RUNX3を同定した。本研究ではこれらの新規癌抑制遺伝子候補について機能解析を行う。平成23年度はRIZ遺伝子について継続して研究を行うとともに、LOH解析で11p15.2領域に新たに同定したDkk-3遺伝子の機能解析を行った。RIZ遺伝子についての研究では、頭頸部扁平上皮癌組織を用いて、これまで他臓器で報告されていたP704 polym OrphismとAsp283Glu polymorphismの二種類の遺伝子多形が頭頸部扁平上皮癌でも生じていることが明らかとなった。polymorphismの有無と臨床データとの相関を検討したところ、P704polymorphismを有する群は、wild type群よりも無疾患生存率、期間生存率ともに長い傾向を示した。また、Asp283Glu polymporphism群は、wild type群に比較して、無疾患生存率、期間生存率ともに短い傾向を示した。RIZの頭頸部扁平上皮癌における詳細な機能については今後さらなる研究が必要であるが、癌抑制遺伝子以外の機能を有する可能性が考えられた。本研究結果は国際英文誌に投稿中である。Dkk-3遺伝子についての研究では、頭頸部扁平上皮癌90症例を用いて。Dkk-3タンパク発現と生存解析を行った。その結果、Dkk-3はLOHで高頻度に欠失している遺伝子であるにも関わらず、腫瘍細胞で84.4%(76/90例)と非常に高頻度に発現していた。さらに興味深いことに、Dkk-3を発現する患者は有意に無疾患生存率が短く(p=0.038)、特に遠隔転移を生じるまでの期間(metastasis free survival)が有意に低い(p=0.013)ことが示された。この結果からは、Dkk-3遺伝子は頭頸部扁平上皮癌では癌抑制遺伝子として機能するのではなく、むしろ転移を促進しているかのような結果であった。この現象については考察を加え、国際英文雑誌Oncology Lettersに掲載された。本研究で得られた成果は、頭頸部扁平上皮癌における抑制遺伝子の理解を深めるものである。
著者
澤村 理英
出版者
熊本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

Bcslpは、ミトコンドリア内膜に局在する分子シャペロンである。細胞内のエネルギー産生に重要な呼吸鎖複合体のうち、シトクロムbc1複合体(複合体III)の会合・成熟に必須であり、特にRieske鉄硫黄タンパク質(Rip1p)の未成熟複合体IIIへの組込み(複合体IIIの成熟)に必要であることが分かっている。しかし、詳細なメカニズムについては、ほとんど明らかになっていない。このメカニズムを明らかにするため、昨年に引き続き解析を行った。昨年までの研究で、酵母Bcs1pの膜間部に位置するN末端領域44残基のうち、38残基以降がBcs1pの機能に必須であり、特に38番目の残基がある程度の疎水性を有していることが重要であると分かった。本年度は、38番目の残基を親水性アミノ酸(アスパラギン酸とアスパラギン)に置換した変異株(L38DとL38N)からミトコンドリアを単離し、複合体IIIの成熟への影響や未会合Rip1pの局在について、野生型Bcs1 (Bcs1_<WT>)およびbcs1欠失(△bcs1)と比較した。L38DとL38Nのミトコンドリアでは、Bcs1p自身の複合体形成はBcs1_<WT>と変わりないが、複合体IIIについては△bcs1と同じく成熟不全が起こっていることが分かり、未会合のRip1pが検出された。この未会合Rip1pのミトコンドリア内局在を調べたところ、マトリクスに存在していることが明らかになった。つまり、BcslpのN末端領域は内膜を隔ててRip1pのマトリクスから内膜の未成熟複合体IIIへの組込みに重要であることが分かった。また、Bcs1p自身についてもミトコンドリア内の局在を調べたところ、L38DとL38Nの膜間部のN末端領域がBcs1_<WT>とは異なる構造をとっている可能性が示唆された。また、化学架橋剤を用いて、膜間部のN末端領域における相互作用因子について検討したところ、L38DとL38NではBcs1_<WT>町とは異なるサイズの架橋産物が検出されたことから、相互作用様式に違いがあると考えられた。これらの結果は、国内外の学会で発表を行い、論文はBiochemical and Biohsical Research Communicationsに掲載された。
著者
小野塚 和人
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

平成24年度は3年目にあたり、主として(1)研究成果の発信にむけた準備、(2)先行する成果の整理、(3)関連する理論的文献の考察、(4)オーストラリア国内における客員研究員としての研究派遣への参加、(5)オーストラリア国内での現地調査、を軸として考察を行った。時系列にそって研究内容を以下報告する:4月~7月:1)オーストラリア国内において、これまでに獲得した研究協力者に対して聞き取り調査を継続し、執筆内容に対する反映を行った。2)理論的な考察は、第一に、近代性の変化と資本主義の構造転換に関して、ウルリッヒ・ベックによる考察を元にして、分析を行った。第二に、人の移動に伴う国家の統治形態の変遷をニール・ブレナーとデヴィッド・ハーヴェイに代表される批判的経済地理学派による研究成果を参考にしながら考察を継続した。8月:『オーストラリア研究』掲載論文の執筆と投稿に向けた作業を行った。9月~12月:研究成果の発信に向けた準備を行った。11月に開催された「オーストラリア社会学会(The Australian Sociological Association)大会において、研究成果の報告を行った。1月~3月:この時期は、本研究論文の単著としての成果発行に向けて、電子メールやスカイプ、国際電話を用いて、研究協力者に対する研究の完成の報告と共に、さらなる聞き取りを行った。全体として、当初の研究計画に記載した研究内容はすべて完了することが出来た。各研究成果は審査を受けている段階にある。心
著者
光延 真哉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成21年度は次の1~3の論文を発表し、4の口頭発表を行った。なお、1と2は昨年度(平成20年度)内に投稿、受理されたものであり、その概要については昨年度の報告書に記載したためここでは省略する。1.「『春世界艶麗曽我』二番目後日考」(『国語と国文学』86巻6号、2009年6月)2.「歌舞伎役者の墳墓資料」(『演劇研究会会報』35号、2009年6月)3.「スペンサーコレクション所蔵『風流ぶたい顔』について」(『国文学研究資料館平成21年度研究成果報告<見立て・やつし>の総合研究プロジェクト報告書』5号、2010年2月)4.「東京都立中央図書館加賀文庫所蔵『役者とんだ茶釜」について」(歌舞伎学会秋季大会、2009年12月12日、於鶴見大学)3はニューヨーク公共図書館(The New York Public Library)のスペンサーコレクション(The Spencer Collection)所蔵の黒本『風流ぶたい顔』(延享2年刊ヵ)、4は東京都立中央図書館加賀文庫所蔵の名物評判記『役者とんだ茶釜』(明和7年成立、何笠著)を新たに紹介したものである。前者は「三段謎」の形式で江戸の歌舞伎役者40人を採り上げた作品、後者は鐘元撞後掾という架空の一座で上演された『菅原伝授手習鑑』の評判を記した作品であり、いずれも本研究が対象とする近世中期の江戸における、歌舞伎の享受の在り方を示す好資料である。また、今年度は、昨年度、東京大学大学院に提出した博士論文をもとにし、笠間書院から刊行予定の単著『江戸歌舞伎作者の研究-金井三笑から鶴屋南北へ-(仮題)』の原稿執筆を行った。いずれの論考にも大幅な加筆訂正を施しているが、特に研究課題の一つとなっている初代金井由輔について、その事績を新たにまとめて増補したほか、従来活字化されていなかった金井三笑作『卯しく存曽我』の台帳の翻刻を掲載する予定である。
著者
武田 篤志
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度は、戦前に構成された「杜の都・仙台」の呼称とそれに相関する場所イメージが、終戦以降どのように変容したのかという点に留意しながら、仙台をめぐるローカルアイデンティティの現代的諸相について社会学的に明らかにした。まず、戦前の観光案内書や郷土書で流通していた「杜の都」の呼称が、昭和に入ると仙台をモチーフにした流行歌に用いられ、歌声の経験として場所の記憶となる局面に準目し、戦前に人気を博したレコード曲「ミス仙台」と戦後の仙台を表象する「青葉城恋唄」を取り上げ、両作品の歌詞に描かれた仙台像の比較分析から仙台の場所イメージの変容を明らかにした(その成果は『仙台都市研究』第3巻に論文発表)。加えて、仙台市の戦災復興事業に関与し、主に戦後仙台の緑地行政に従事してきた行政関係者OBへの聞き取り調査をおこない、「杜の都」の呼称が仙台市行政のシンボルとなっていった経緯についてオラールヒストリーをまとめた(その成果は、これまでの諸論文のなかで適宜活用している)。また、東北都市学会編『東北都市事典』(仙台共同印刷)の執筆依頼を受けたのを機に、戦前から戦後・現在にいたる「杜の都」の場所イメージの変化を通時的に概括した(武田担当項目:「杜の都」)。さらに、理論的研究として、近年再評価が進んでいるフランスの都市社会学者、アンリ・ルフェーヴルの空間生産論とその派生的議論を取り上げ、現在の都市社会学で注目されてきている「場所の社会学」論議への道筋を明らかにするとともに、その先駆的な研究として、英国の社会学者、ロブ・シールズの社会空間化論を検討した(その成果は『社会学年報』第33号に論文発表)。
著者
風間 洋一 PINANSKY S. B. PINANSKY Samuel Bernard PINANSKY Samuel Barnard
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

Pinanskyは、2年前にBerensteinと共に提唱した、素粒子の標準模型と非常に良く似た性質を示すMinimal Quiver Standard Modelの性質の研究を継続して行った。具体的には、このモデルのパラメーターに対する従来よりはるかに正確なバウンドの計算、および加速器実験における崩壊確率と計測確率の計算を遂行した。この計算により、近い将来にLHC実験から得られるデータとの比較の準備が整ったと言える。この研究成果は、Physical Review Dに掲載されることが確定している。この種のモデルにおける困難な点は、その背景にある超弦理論との関係が完全には明確になっていないことである。その鍵となるゲージ/弦対応については膨大な「証拠」が得られており、ある種の曲がった時空の境界にクイヴァーゲージ理論が現れることが知られているが、そのメカニズムをより明確にするために、トーリック幾何と呼ばれる代数幾何のクラスに関する研究も継続して行った。一方風間は、前年度に引き続き、ゲージ/弦対応の理解に不可欠であるにも拘わらず発展が遅れているラモン・ラモン場を含む曲がった時空中の超弦理論の研究を行った。この種の問題のプロトタイプである平面波背景場中の超弦理論をグリーン・シュワルツ形式で共形不変性を保ったまま量子化する方法を開発し、量子化されたヴィラソロ代数を構成することに成功した。さらに、系の持つ対称性代数の生成子の量子的な構成、および物理的状態に対応する頂点関数の構成の研究を進めたが、実はこうした研究は、平坦な時空の場合でさえ行われていないことが判明したため、まず平坦な時空の場合の構成を進めることとし、ほぼそれが完成しつつある状況である。
著者
山中 雅之
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

超新星爆発は一般的に、爆発後数週間の明るい時期が「光球期」と言われ、この時期に観測を行うと膨張大気のより外層について制限を与えることができる。Ia型超新星においては、極大絶対光度と減光速度に強い相関関係が認められ、一様な観測的特徴を示すことで知られている。このような特性を用いて、宇遠方超新星の観測から宇宙膨張は加速しているという重大な研究成果が得られている。しかしながら、爆発メカニズムや爆発する元の天体については決着がついておらず、その正体に制限を与えるような観測的研究が期待される。初年度は、広島大学宇宙科学センター付属東広島天文台にてかなた望遠鏡を用いて超新星の明るい初期に時間的に密な観測を実行した。本年度においては、爆発から200日以降の最大高度より100倍暗いフェーズにおける大口径望遠鏡を用いた観測研究を遂行した。このような爆発からおよそ一年経過した時期においては、超新星の膨張大気は光学的に薄くなり、噴出物質全体を見通した観測が可能となる。すなわち、爆発構造の最内層構造について幾何学的・物理学的に制限を与えることが可能である。私は国立天文台所有8.2m「すばる」望遠鏡での公募観測における観測提案を行い、2010年4月と2011年5月に超新星の非常に暗い状態での観測に成功した。対象となった超新星は、広島大学かなた望遠鏡、県立ぐんま天文台1.5m望遠鏡などを用いて初期に集中的に観測を行った極めて明るいIa型超新星「SN 2009dc」である。SN 2009dcは極大光度がIa型超新星としては異常に明るく、減光速度も遅く、またスペクトルにおいて炭素の吸収線が卓越した特異な超新星であることが明らかになっていた(Yamanaka et al.2009,ApJ,707L,118)。すばる望遠鏡の観測においては、このような描像に加え超新星の内部構造において、予期されぬ減光と本来外側に分布するはずのカルシウムが鉄より内側に分布していることを明らかにした。このような発見は特異なIa型超新星に強い制限を与える観測結果であり、現在論文を準備中である。
著者
立川 裕二
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度も、昨年に引き続き超対称ゲージ理論の研究を超弦理論の観点を援用しつつ行った。特に、その中でも、超対称性に加えてスケール変換のもとでの不変性をもつ、超共形ゲージ理論について研究を行った。これらは、強結合であるため安直な摂動的な解析が適用できないが、ここに超弦理論の効能があらわれる。すなわち、超弦理論によれば、通常の4次元の超共形場理論は、1次元高い5次元の超重力理論をアンチドジッター空間上で考えたものと等価であることがわかる。この際、片側が強結合であればもう片側が弱結合になるため、解析が可能になるのである。具体的には、10次元のIIB型超弦理論を、5次元のアンチドジッター空間と5次元の佐々木アインシュタイン空間の積の上で考えたものを解析すれば良い。さて、そのような立場からの研究として、最大の超対称性をもつ理論に関してはこの10年に非常に沢山の研究があるが、最小の超対称性をもつものに関してはここ数年研究が深化した興味深い分野であり、今年度の私の力点はそこにあった。最小の超対称性をもつ超共形場理論の解析のために基本的なデータは、その理論の大域対称性三つの間の三角量子異常である。以上の議論から、その三角量子異常は、重力理論側のデータであらわせるはずである。超共形場理論の種別に対応するのは5次元の佐々木アインシュタイン空間の種別であるから、それら空間の幾何学であらわせるはずである。以上のような考察のもとから、S. BenvenutiとL. A. Pando Zayasの協力のもと、佐々木アインシュタイン空間の幾何学と超共形場理論の三角量子異常の関連について精密に明らかにしたものが今年度の発表論文である。これは超共形場理論の解析において今後基本的な方法となると思われる。
著者
前 真之
出版者
独立行政法人建築研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

応募時に提出した年次計画に基づき、以下の研究課題を遂行した。(1)実住戸における消費エネルギーの実測調査実住戸6世帯における消費エネルギーの計測関東の6住戸について、電気・ガス・灯油の消費状況を詳細に計測し、消費エネルギーの用途別内訳や住戸差・季節変動について、重要な知見を得ることができた。実住戸3世帯における給湯消費の計測関東の3住戸において給湯の消費状況を詳細に計測し、高齢世帯においては給湯消費が少なくなる傾向などが明らかになった。また、給湯消費については既往の実測データの再整理を行い、その平均や変動について重要なデータを得た。(2)多数の住戸を対象とするアンケートによるエネルギー消費に関する調査全国の4000住戸における消費エネルギーに関するアンケート調査全国の住戸において、消費エネルギーの検針値や生活行動についてアンケートを通して調査を行った。検針値からの消費用途の推定・分離、生活行動と消費エネルギーとの関係の分析を通し、有効な知見を収集することができた。(3)集合住宅における暖冷房要因に関する実験・実測実大の試験用集合住宅における熱移動に関する実験建築研究所に設置されている実大の試験用集合住宅において、上下左右の隣接住戸の空調条件が空調負荷に与える影響を、実験を通し把握した。その結果、隣接住戸の空調状況の変化による影響は大きく、住戸間の断熱は簡易であっても効果が大きいことが示された。上記の研究活動により、1年度の年次計画をほぼ達成することができたと考える。
著者
坂本 智子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

細胞骨格は、細胞の形態形成、免疫細胞の遊走、神経回路形成など様々な生命現象の基盤を制御している。細胞骨格を制御する主要な分子の一つが、低分子量G蛋白質Rhoである。Rhoは活性体のGTP結合型と不活性体のGDP結合型の間を往復し、細胞内分子スイッチとして働く。Rho標的分子の一つmDiaは、Forminファミリー蛋白質の一つであり、GTP結合型Rhoの結合によって分子内結合を開裂し、細胞内にアクチン線維の誘導を引き起こす。しかしながら、Rho-mDia経路の時空間特異的制御機構は不明な点が多い。本研究では、mDia結合タンパク質の同定を通して、上記の問題にアプローチした。mDia1のN末領域をbaitとし、マウス脳ライゼートを対象にpull-downアッセイを行い、新規mDia結合蛋白質Liprin-αの同定、単離した。免疫沈降法、リコンビナントタンパク質を用いた解析により、mDiaはLiprin-αのコイルドコイル領域のC末側に直接結合することを見出した。mDiaのRho結合領域へのRhoの結合およびN末領域への結合をmDiaのC末(Dia-autoregulatory domain)と競合することを見出した。次に、細胞内におけるmDiaの機能への影響を確認するためにRNAi法によりMIH3T3細胞、HeLa細胞内のLiprin-αを枯渇させたところ、アクチン線維および接着斑が増加することが明らかになった。Liprin-αのmDia結合領域を強制発現させたところ、アクチン線維および接着斑の減弱が認められた。以上のことから、Liprin-αはmDiaによるアクチン重合を負に制御する分子であることが示唆された(論文作成中)。また、リコンビナントタンパク質を用いて、Liprin-αの最小mDia結合領域を決定し、mDia-Liprin-α複合体の発現・精製に成功した。現在、結合様式を検討するために結晶構造解析を進めている。
著者
小石 かつら
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

現在では演奏会の開始音楽として「演奏会用序曲」は一般的である。しかし、そもそもオペラの開始音楽であった「序曲」が、聴衆を惹き込むプロムナードとして「演奏会」のオープニングに用いられはじめ、次第に単独作品「演奏会用序曲」として作曲されるようになった経緯は、現在まで明らかにされてこなかった。また、「演奏会序曲」というジャンルが生み出されることになった社会的、文化的背景についても明らかになっていなかった。本研究では、ライプツィヒの演奏会記録を用い、演奏会用序曲の演奏状況を調査し、今日とは全く違う状況であったことを明らかにした。また、当時の出版目録を調査することによって、家庭での演奏会用序曲をはじめとするオーケストラ作品の受容も明かにし、演奏会用序曲の位置づけを試みた。これらを背景に、メンデルスゾーンの「演奏会用序曲」の中から、一番作曲時期の遅い2作品である《静かな海と楽しい航海》と《美しきメルジーネの物語》を取り上げ、詳細な成立史をまとめた。また、個々の作品の改訂に関して、楽曲分析をおこなった。このうち、《美しきメルジーネの物語》について、日本音楽学会の全国大会において発表した。2月には、研究成果をベルリン工科大学音楽学研究所にて発表すると同時に、ベルリン国立図書館音楽部門所蔵の書簡を用い、演奏会用序曲の受容について調査を行い、研究の全体を補完した。
著者
竹井 英文
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

今年度の研究は、これまでと同様、織豊政権による全国統一過程に関する研究、および戦国・織豊期城郭の基礎的研究を継続すると同時に、基礎史料の調査を重点的に行った。今年度活字化された成果は、以下の通りである。①「岩付太田氏と難波田城」(黒田基樹編『岩付太田氏』岩田書院、2013年5月)は、以前活字化された論文を再録したもので、東国城郭の基礎的研究の一環である。黒田基樹編『北条氏年表宗瑞・氏綱・氏康・氏政・氏直』(高志書院、2013年8月)のうち、②「天正十年~天正十八年」、③「コラム 北条氏の城郭その後」を執筆した。②は、拙著『織豊政権と東国社会』(吉川弘文館、2012年)の内容を踏まえて、より政治史の流れを意識して通史的に叙述した。③は、移行期城郭論の方向性を論じた。④「館山市立博物館所蔵「里見吉政戦功覚書」の紹介と検討」(『千葉大学人文研究』第43号、2014年3月)は、移行期政治史に関わる史料の全文翻刻と内容紹介・検討したもの。⑤「文化財講演会発表要旨 戦国前期の東国と史跡深大寺城跡」(『調布の文化財』第49号、2013年3月)は、2012年10月に行った同名の講演会の要旨である。⑥「2013年度歴史学研究会大会報告主旨説明 中世史部会 中世における地域権力の支配構造」(『歴史学研究』第905号、2013年5月)は、大会報告の主旨説明文である。⑦「戦国期(関東・甲信越・東北)」(『史学雑誌2012年の歴史学界―回顧と展望―』第122編第5号、史学会、2013年5月)は、昨年度の戦国期研究を整理・紹介したもの。⑧「書評 黒田基樹著『敗者の日本史10小田原合戦と北条氏』」(『織豊期研究』第15号、2013年10月)は、本研究に深くかかわる黒田氏著書の書評である。その他、受理された研究(研究ノート)として、⑨「真田と上杉を結んだ道―戦国・織豊期の沼田と会津―」(谷口央編『関ヶ原合戦の深層(仮)』高志書院、2014年5月刊行予定)がある。
著者
清水 夏樹
出版者
独立行政法人農業工学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

1.事例調査による有機性資源循環管理システムの阻害/推進要因の把握とシステム成立のために補完・整備すべき要素林業・製材を主産業とする中国地方の中山間地域および都市近郊農畜産業の盛んな千葉県北東部での事例調査により,有機性資源の発生・再資源化・再生資源の利用等の各段階の担い手となる組織について,各組織の役割や組織間の関係の実態を把握した。その結果,発生-再資源化までの段階は,関与主体の活動や行政による支援によって円滑に進み,循環管理システムの空間的広がりは,ほぼ旧町村(大字)までの単位で成立しうることが明らかとなった。再資源化-再生資源の利用段階(家畜ふん尿の堆肥化-堆肥の農地還元)の推進においては,それ以降の段階(農産物の流通・販売-消費)に関わる主体との連携が確立されていることがシステムの推進要因となっていた。また,再生資源の利用段階が円滑に進むための循環管理システムの空間的広がりは,現在(市町村合併前)の町域を越えた広範囲となることが示唆された。さらに,イタリア中部において,農産物加工業者や消費者(観光客も含む)を循環管理システムに関わる主体として位置づけ,これらの主体からシステムを支援する投資行動を導く仕組みについて調査し,日本における適用性を検討した。日伊間の土地所有制度や歴史的背景の違いに由来する要素も多く,全ての代替要素を示すことは困難であったが,農産物の流通・販売システムをサブシステムとして有機性資源循環管理システムに組み込むなど,システム拡張の必要性が示唆された。この新システム構築については,千葉県北東部において実証研究を継続する予定である。2.行政等によるシステム支援のための情報提供有機性資源の循環管理システムを支援する主体(行政やNPO,民間企業等)への情報提供のため,受入研究機関において実施された関連研究成果を含めた書籍の分担執筆・編集を行った。
著者
宇野 瑞木
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度(4月から10月末まで)は、主として、次の二つの研究活動を行った。1)本研究の中心課題である<二十四孝>説話をめぐる孝の表象に関して、とくに前近代までの中国と日本における展開をまとめた博士学位論文(東京大学大学院総合文化研究科にて受理)を出版物として公開するための準備を行ってきた。本書は、既に今年度の出版助成金(学術図書)を受けることが決定しており、今年度末までに『孝の風景――説話表象文化論序説』(仮タイトル)として、勉誠出版株式会社から刊行される予定である。本論の構成は以下の通り。第一部 図像の力(第一章 後漢墓の孝の表象――山東省嘉祥県武氏祠堂画像石を中心に/第二章 六朝時代以降の孝子図――墓における複数の世界観と孝との融合/第三章孝子図から二十四孝図へ――遼・宋代以降を中心に)第二部 語りが生起する場(第一章 郭巨説話の母子像――唐代仏教寺院における唱導を中心に/第二章 郭巨説話の「母の悲しみ」――日本中世前期の安居院流唱導を中心に/第三章 日本中世の祖先供養の場と孝子説話――『金玉要集』の孟宗説話を中心に)第三部 出版メディアの空間(第一章 和製二十四孝図の誕生――日中韓の図像比較から/第二章 蓑笠姿の孟宗――日本における二十四孝の絵画化と五山僧/第三章 江戸期における二十四孝イメージの氾濫/反乱――不孝、遊戯を契機として)さらに「基礎資料編」として、孝子説話関係の画像資料を、1渋川版と嵯峨本の図像、2渡来テキストの図像、3漢~金元墓の図像、4大画面制作、御伽草子の四項目に分類し掲載する。本書の大きな特徴として、孝を表象から捉えるという目的のもと、さまざまなメディア・地域・時代にわたる孝子説話関連の図像を蒐集・整理し、一挙に掲載している点が挙げられる。本書が刊行されれば、文学、美術史、さらには思想史やジェンダー研究など多方面の関連分野へと寄与できるものと考えている。2)研究対象とする地域の拡大という目標にむけて、前年度から引き続き朝鮮やベトナムといった中国周辺諸国の漢文テクストを読解してきた。4月25日には、立教大学で開催された朝鮮漢文研究会において、『海東高僧伝』から恵輪という求法僧の伝について発表した。
著者
柿岡 諒
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

コイ科タモロコ属魚類の形態における適応進化に関する研究を進めるため,本年度は,1)タモロコ属野外集団の系統的・系統地理的解析,2)タモロコとホンモロコのF2種間雑種を用いた連鎖解析を主に行った.1)については,ミトコンドリア遺伝子の塩基配列を用いた系統・集団遺伝学的解析を昨年度から引き続き行った.その結果,属内における系統の多様化とタモロコ種内の隠蔽系統が明らかにされるとともに,湖沼集団の成立が複数回独立に生じたことを明らかにすることができた.この結果については論文執筆を行い,投稿した.河川から湖沼に進出した魚類では遊泳・採餌関連形質に適応的変化が生じることが示唆されており,この変化がタモロコ属魚類でもホンモロコに生じたことが考えられた.この適応的な形態分化の遺伝的基盤を明らかにするため,タモロコとホンモロコのF2交配家系を用いた連鎖地図の作成と湖沼適応に関連したQTL(量的遺伝子座位)解析を行った.遺伝マーカーを探索するに当たっては,次世代シーケンサーを利用してゲノムワイドで高効率に大量のSNP(一塩基多型)マーカーを作成できるrestriction-site associated DNA sequencing (RAD-seq)を採用した.Illuminaシーケンシングにより得られたRAD-tagマーカーを用いて,高密度連鎖地図を作成することに成功した.さらに得られた連鎖地図と形態計測データをもとにQTL解析を行ったところ,湖沼型のホンモロコと河川型のタモロコ間での形態の差に差に関わる遺伝領域とその効果が検出された.ホンモロコとタモロコ間における採餌関連形質や体型の違いの多くは,効果の小さい複数の遺伝子座に支配されることが示唆された.
著者
牛島 恵輔 GAD Mohamed El?Qady
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

現在、地下浅部の埋設物の探査方法としては、磁気探査、電磁誘導、地中レーダー、電気探査など種々の物理探査法が開発されている。しかし、いずれの探査手法においても長所、短所および探査限界がある。このため、地雷や不発弾を確実に漏れなく発見するためには、各物理探査の方法の特徴を考慮し、埋設物の物性値、埋没深度に応じて複数の手法を組み合わせて探査することが重要である。そこで、著者らは、まず広域を迅速に探査するための手法として時間領域電磁法(Transient Electromagnetic Method)を適用し、次いで、異常が検出された地点を高精度に調査する方法として、電気探査比抵抗法(Electrical Resistivity Method)を採用することにした。このように、マクロからミクロまでのフィールド調査をセンサー・フュージョンにより実施すれば、地下埋設物の3次元分布のみならず、地下埋設物の材質および3次元形状までも把握できるものと考えられる。そこで、平成15年度は、空中からTEM法を実施するためのシステム開発を目的として、まず概査用の送信・受信ループおよび精査用の送信・受信ループを試作した。次いで、実際に地下に物性値(導電率)およびサイズ(規模)が異なるモデル(地雷)を埋設して、これらの送信・受信ループの対地高度を変化しながらフィールド実験を行った。これらの一連のフィールド実験の結果、TEM法の概査用としては50cmのコインシデント・ループが適しており、精査用としては20cmのコインシデント・ループが最適であることが明かになった。一般に、広域のフィールド調査では、対地高度を一定(50cm)にして、複数の矩形ループを併用することにより、マクロからミクロまで効率良く、漏れなく埋設物探査が実施できることを確かめた。
著者
濱本 真輔
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

これまで、選挙制度改革の議員や政党に対する影響を検討している研究では、選挙制度と議員・政党に関する分析枠組みとそれに基づく体系的な実証研究が不足しており、選挙制度改革の評価も分かれている。これに対して、本研究は自民党議員を取り巻く環境、議員の認識と行動、政党組織を選挙制度改革前後で比較し、選挙制度改革の効果を網羅的に検証するものである。研究実施計画(平成21年度)では、前年度の資料収集およびレビューに基づいて、政党組織に関する論文を執筆することであった。具体的には、結党以来の自民党の党改革を4つの期間に分けて分析し、論文を執筆する予定であった。しかし、資料収集やレビューの不足もあり、リクルート事件以降の政治改革の過程と選挙制度改革後の党改革を比較した。分析では、選挙制度改革という制度変化だけでは広範な組織変化が発生しなかったことを明らかにした。また、組織変化の方向性を探る上でも、制度条件だけでなく、議員が並立制を受容し、(1)議員-政党間の目標の共有部分が拡大したこと、(2)選挙での敗北と世代交代などによって、小選挙区制に見合った政党組織改革(公募制度の導入、シンクタンクの創設、メディア対策)が進展していることを指摘した。前年度までの分析を含め、選挙制度改革は議員の認識や行動、政党組織改革に影響を及ぼし、自民党の集権化を促す要因となっていること、またその持続性を支持する結果が出ていることを明らかにした。
著者
望月 俊男
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本研究では,高等教育におけるe-Learningの導入において一般的な,対面コミュニケーションとCMC (Computer-mediated Communication)が併用される教育場面を対象に,(1)対面協調学習における協調学習環境のあり方を検討し,学習者が参加しやすい学習環境をデザインする,(2)協調学習の学習活動の状態を示す学習環境を構築する,(3)協調学習の評価法を開発する,(4)これらの成果を実践的に評価する,ことを通じて,対面コミュニケーションとCMCの統合的な学習環境のあり方を実践的かつ理論的に提示することを目指している.平成15年度の研究では,これらの研究課題について以下の成果が得られた.(1)e-Learningにおける協調学習には,対面学習機会が強く影響しており,対面コミュニケーションの機会に学習者が学習内容を十分に理解できるような学習環境が必要であることが示された.それに際し,学習者全員が議論の内容・過程を理解し,誰でも編集可能な,オープンな学習環境を提供することが有効である可能性を示した.(2)e-Learningにおける協調学習では,学習者がコミュニケーションや分業等の学習の状態について振り返りを行えるような自己評価の支援環境を提供する必要性があることを,理論的に整理した.(3)(2)の結論をもとに,テキストマイニングの技術を用いて学習者コミュニケーションの内容を可視化する協調学習の評価方法を提案し,その有効性を予備的に検証した.(4)この協調学習の評価方法をもとに,学習者間のコミュニケーションを自己評価しリフレクションをするためのCSCL環境を開発した.そして,授業実践において,そのCSCL環境を用いて,学習者がコミュニケーションを振り返りながら,多様かつ活発に議論に参加できることを確認した.これらの研究成果は,学会論文誌主著3本,書籍分担執筆2冊に集約し,公刊した.