著者
鄭 佳月
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では、多民族化する社会における世論の代表と世論の多元性との接点を探るべく、世論の代表形態の変遷について歴史的考察を行った。本年度は、昨年度に引き続き3つの軸に分けて研究を遂行した。第1の軸は、戦後日本における世論の代表形態の変遷を歴史的に分析するものである。特に、世論を調査する側の論理を明らかにするため世論調査に焦点を当て、政府・新聞社・民間機関等の各取り組みを実証的に明らかにするとともに、民主主義と世論調査の関係を再考した。成果は、「世論調査の効用と調査主体の視点に関する一考察」として、日本社会学会年次大会で報告された。第2の軸は、世論の多元性をめぐる市民の側の試みを考察するものである。近年の住民投票やDeliberative Pollingといった市民の実践を歴史的に捉えるため、1950~60年代の日本社会に遡り、世論の代表をめぐる議論を整理することで、世論の代表形態と市民の関係を検討した。第3の軸は、世論の代表と市民概念についての理論的考察である。研究全体を枠づける理論構築に取り組みつつ、世論の代表をめぐる日本社会の認識を、国際的動向の中に位置づけ検討するために海外の文献資料を収集し分析した。その成果の一部は、The Association for Asian Studies Conference 2011において"Social Research as a 'Technology of Governance' in Asian Networks from the 1910's to the 1920's"という題目のもと報告されることが決定している。一連の作業から、本研究では、世論の代表をめぐる日本社会独自の文脈を浮かび上がらせ、今日に通じる問題として、世論の代表形態と世論の多元性の可能性と限界を明確にした。
著者
根本 香絵 EVERITT MarkStanley EVERITT Mark Stanly
出版者
国立情報学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

これまでの研究をもとに、主に超伝導量子ビットと、ダイヤモンドNV中心のアンサンブル系の合成系を解析できるように解析系の拡張を行った。NTTの実験グループと議論を重ねて、ダイヤモンドNV中心のアンサンブルと超伝導量子ビットの相互作用を解析できるよう準備し、実験系をモデル化して数値的に解析を行った。ダイヤモンドNV中心のアンサンブルと超伝導量子ビット間での量子的な相互作用の実証はこれまでに例がなく、理論的な解析が特に重要となった。特にNV中心と量子ビット間の相互作用は大変小さく、そのためアンサンブル中のNV中心の数は巨大になる。このアンサンブルが量子ビットとして機能する条件を理論的に整理した。理論的な議論から数値計算に適する正確なモデルを構築することが重要で、モデルに工夫をするなどして数値計算が行えるよう配慮した。超伝導量子ビットとアンサンブル量子ビット間のコヒーレントな相互作用によって、超伝導量子ビットに励起された単一量子を2体間でやりとりする過程を解析した。さらにダイヤモンドNVセンターの性質や相互作用の解析などを統合して、理論的な議論を進めた結果、これらは実験結果と一致した。この物理過程は、量子メモリーやクラスター状態生成などの量子情報処理のための素子に応用でき、ダイナミクスについての理解は誤り特性の決定に必須である。また、本研究によりダイヤモンドNVセンターの量子的な性質の理解が深まり、今後ダイヤモンドNVセンターを量子情報素子へと応用する場合に重要な知見が得られた。
著者
辻 絵理子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

科研を用いた海外調査では、申請書の計画通りブリティッシュ・ライブラリーの最重要写本のひとつである『テオドロス詩篇』、及びフランス国立図書館の『パリの74番』の実見調査が叶った。この二冊は11世紀ビザンティンの修道院写本工房を考える上で不可欠な写本であり、顔料の剥落の度合いや綴じの状態などを詳細に調査することができた意義は大きい。研究成果としては、まず美術史学会全国大会、美学会、比較文学研究会において計4回の口頭発表を行った。それぞれ、会の特質に合わせたテーマめ選定と研究手法を選んだことで、活発な質疑を行うことができた。本年度特に意識したことは西ヨーロッパとの関わりであり、両者に共通するモティーフを取り上げ分析することで、各方面の専門家からのご意見を伺うことができた。また、美学会では新しい余白挿絵詩篇の分析方法を提示し、方法論に優れた専門家からの意見を求めた。二度にわたる比較文学研究会の発表においては、比較文学的な観点からモティーフめ東西伝播を探り、あるいは美学会で示した新たな手法を実際に適用することで得られた知見を発表した。それらの口頭発表のうち2本を、今年度中に論文の形で発表することができた。ひとつでは西洋古代の写本から中世までのイメージの変遷を辿り、それがやがて日本近代に形を変えて受け入れられていく過程を指摘した。もうひとつでは、『ブリストル詩篇』のこれまで等閑視されていた頁に隠された意味と機能を、口頭発表でも示した手法を用いて分析・指摘した。
著者
安田 仁奈
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

サンゴ礁劣化速度も世界で最も速いCoral triangleを中心とする複数海域において、海洋保護区設定の基盤となるreef-connectivityを明らかにするべく、サンゴ礁における代表的な無脊椎動物(ヒトデ・サンゴ・ナマコ)に関して集団遺伝構造及び系統地理を明らかにした。造礁サンゴの捕食者であるオニヒトデに関してマイクロサテライトを用いた解析を行ったところ、インドネシアのジャカルタ北ではインド洋・太平洋側の遺伝子が同所的に存在しているが、それより東側の海域ではインド洋側の遺伝子の流入は見られなかった。またスラウェシ島北部周辺海域は遺伝子流動が強く、2次的大量発生に留意する必要があることが分かった。アオサンゴに関しては、高水温低流速のサンゴ礁内に発達する葉状のものと比較的低水温高流速のサンゴ礁外部に発達する棒状のアオサンゴの間では遺伝子流動がほとんどなく、種分化過程にあり、それぞれのアオサンゴを別々に保全する必要があることが分かった。コブヒトデとマンジュウヒトデに関してミトコンドリアのCO1領域を用いて系統地理解析及び集団解析を行ったところ、両方の種ともにCoral triangleから日本の南西諸島、パラオにかけて非常に強い遺伝子流動が検出された。マンジュウヒトデは、オニヒトデと同様にジャカルタ北部においてインド洋側及び太平洋側の遺伝子の両方が検出されたが、それより東側では、インド洋側の遺伝子型はスラウェシ島の南で1個体みつかったのみであり、ジャワ海において西から東に向かう遺伝子流動が極めて限られていることが分かった。一方コブヒトデでは、広域的には非常に遺伝的に均一性が高いにもかかわらず、局所的に数10キロしか離れていない地点で遺伝的に極端に異なる海域(西パプアのセンダラワシ湾・フロレス海域など)が見られ、これらの海域は他の海域と遺伝子流動が限られているため、別途保全していく必要がある。ナマコ種のミトコンドリア解析の結果、ニセクロナマコなど広域分散種4種で黒潮海域における強い遺伝子流動が検出され、上流域の保全の重要性が明らかとなった。
著者
西 遼佑
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

織込部におけるファスナー合流のシミュレーション開発を進展する上で、ファスナー合流のロバスト性についての研究は大変重要である。これまでは、車線間相互作用の異方性(局所的な車線間相互作用を拒否する粒子が存在する状況)の影響について主に検証を進めてきた。他の異方性(車のサイズ、最高速度、車線変更ルール、見通しなど)についての検証も当然ながら重要であるが、私は、ファスナー合流のロバスト性において他の重要事項が存在するかどうかについて、突き詰めて研究した。その結果、重要な検証事項として、ファスナー合流のロバスト性を向上する可能性についての検証を認識するに至った。この検証は、合流効率を改善する基礎研究として大きな価値があると考えられる。そして、その向上の手段としては、数理モデルにフィードバックを導入することが有力であると考えている。また、フィードバックの具体的な形式や、フィードバックと車線間相互作用の連動性の有無などが、現象に大きく影響すると予想している。このように、ファスナー合流のロバスト性の向上についての研究の土台作りが大いに進展した。また、これまでは数理モデルとして離散モデルを主に用いてきたが、扱う数理モデルの形式(離散モデルか連続モデルか)でファスナー合流に関連する現象に本質的な相違点が生ずるかどうかについても、詳細に検証する必要があると結論するに至った。さらに、上記のロバスト性だけでなく、車線間相互作用ルールの精密化についても、今後にわたって理論と実験の両面からの詳細な検討が必要であると結論するに至った。
著者
堀 正樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

2007年度は、欧州合同原子核研究機構CERNの反陽子減速器施設を用いて、反陽子ヘリウム原子の二光子吸収分光実験を行った。そして、反陽子ヘリウム原子の二光子遷移エネルギーを、3ppbという世界最高精度で計測することに成功した。これによって、素粒子物理の基本的な定理と考えられているCPT対称性を、従来よりも高い精密で検証した。この実験では、まず反陽子ヘリウム原子を5ケルビンという低温標的中で100万個合成した。次に、出力波長を10桁の精度で安定化させたcwチタンサファイアレーザーをパルス増幅して、この光線を原子に照射した。この際に、特別な波長の組み合わせを利用することによって、原子内で非線形な二光子遷移をひきおこすことに成功した。次に、超伝導ポールトラップを開発して、振幅4キロボルト、周波数35メガメルツ、Q=100万の特性をもった空洞を実現した。このトラップは、高純度ニオブ製で、電子ビーム溶接を用いて建設したものである。超流動ヘリウムで常時、1.8度ケルビンに保たれる。ニオブ電極の表面では、数メガボルト毎メートルという非常に強い電場が発生するが、これによって電子が発生し、放電を誘発するという問題が発生した。現在、表面の洗浄方法や、電極の形状を工夫することによって、この問題を解決しようとしている。また、反陽子ビームを測定する新型の検出器を開発した。これは、厚さ数百ナノメートルのカーボンフォイルに反陽子が衝突した際、発生する二次電子をとらえて、高感度カメラで撮影する仕組みになっている。特殊な加速電極を用いることによって、数ナノ秒という超高速シャッターを切ることができる。
著者
内藤 陽子 (駒田 陽子)
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

健康成人20名(21.7±0.92歳)を対象として,認知機能に関する実験を実施した.これまで報告者が蓄積してきた実験手続きやスケジュールを駆使し,剰余変数の混入を防ぎ,厳密な統制条件下で行った。実験被験者には本研究の実験内容および手続きを十分に説明し,インフォームドコンセントを得た。各被験者に対し,実験3日前より生活統制を行った。通常の就床時刻をCircadian time 0時とし,規則正しい生活を送るよう指示した。非利き腕にアクチグラフを装着させ,生体リズムの統制を厳密に確認した。実験前日は自宅にて通常の睡眠をとらせるControl条件と,睡眠不足状態をシミュレートすることを目的とし90分間の部分断眠を課すDeprivation条件をカウンターバランスで配置した。翌CT9時に実験室に来室させ,脳波等を装着した上で以下のテストバッテリーを使用し,前頭連合野機能への影響を測定した。テストバッテリーは,(1)visual analog scaleを用いた眠気や意欲に関する主観調査,(2)安静時開眼および閉眼時脳波測定,(3)事象関連電位P300測定,(4)psychomotor vigilance task(数字加算課題,作業記憶課題,記憶操作課題(セマンティックプライム),英数字検出課題,go/no-go課題)とした。部分的睡眠遮断がどの前頭連合野機能へより強く影響を及ぼしているか,回復過程を用いて確認するため,CT10時より20分間安静仰臥位を保たせた後,再度テストバッテリーを施行した。その結果,主観的眠気(KSS)は,通常睡眠後の午前セッションでは,通常睡眠午後・部分断眠後午前・午後のセッションに比べて,有意にKSS得点が低く,眠気が弱かった。生理的眠気(AAT)は,通常睡眠後ならびに部分断眠負荷後どちらにおいても,午後のセッションは午前のセッションに比べて,有意に生理的眠気が強かった。事象関連電位については,午前の測定では部分断眠を負荷した場合,P300頂点潜時は延長し,振幅が低下したが,午後の測定では部分断眠の影響は見られなかった。若年者を対象とした今回の実験の結果,午前の時間帯では,部分断眠の影響で,脳内情報処理速度は遅延し,処理能力が悪化した。午後の時間帯では,通常睡眠の場合も部分断眠負荷条件と同様に,主観的・生理的眠気の増強と,脳内情報処理の悪化が認められた。部分断眠によって,ワーキングメモリの機能が低下する傾向がみられた。日常よく経験するような90分程度の部分断眠(睡眠不足)であっても,記憶の引き出しの妨害が生じている可能性がある。継続的な部分断眠(慢性的な睡眠不足)がワーキングメモリに及ぼす影響について今後検討する必要がある。部分断眠の負荷およびサーカディアンリズムによって生じる眠気は,記憶・学習能力や注意集中力に影響を及ぼし,判断ミスや事故を引き起こす原因となる。日常生活においては,眠気を軽視しがちであるが,脳機能の観点から睡眠の役割を再認識する必要がある。
著者
川畑 隼人
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2010年度はこれまでの研究に引き続き、中央ユーラシアにおける青銅鈴の出現と拡散、社会的意味について検討を深めていった。特に、今年度は博士論文構想発表会と、全国規模の学会での発表と、ロシアでの資料調査が主な活動となった。まず、11月に奈良文化財研究所で開催された、日本中国考古学会で口頭発表を行なった。その内容は昨年度に文学研究科紀要に基づく内容で、「出土状況からみた弓形器の用途-諸説の検証と解釈-」という題目で研究発表を行ない、全国や海外から集まった専門の研究者から指摘と教示を受けた。また、同会の会員と交流を深めた。12月には、ロシアのモスクワとサンクト・ペテルブルクを訪れ、両都市の博物館を歴訪し資料の収集や本の購入、現地研究者との親交を深めた。特に、モスクワ歴史博物館とエルミタージュ美術館には、旧ソ連時代より収集された考古資料が多数所蔵されており、騎馬遊牧民の青鋼器や鉄器を中心に観察と写真撮影を行ない、多くの収穫を得た。この資料調査をまとめ、論文や研究ノートとして成果を発表する予定である。また、所属している草原考古研究会においても、資料調査の内容について発表を予定している。上記以外にも様々な調査を行なって来ており、その成果は論文や報告として雑誌に掲載される。来年度はロシアでの資料調査をもとにして論文執筆を行ない、年度末までに提出予定の博士論文の一部とする。堤出前に必要となる学内の博士論文構想発表会も7月に済ませており、「後期青銅器時代の中央ユーラシアにおける青銅鈴の出現」という題目で研究経過を発表し、今後の展開についての批判を受けた。現在は章立てや構成を精査している段階であり、各章にあたる論文をまとめている状況である。
著者
久保田 裕之
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

最終年度にあたる平成21年度の研究成果は、以下の通りである。本研究の第一の目的は、生活の物理的基盤としての居住を中心として、家族ではない他人との共同居住(非家族居住)の事例を検討していくという経験的なものであった。この点につき、日本でも若者を中心に実践されつつある「シェアハウジング」と呼ばれる非家族居住についてのフィールドワークを行い、単著『他人と暮らす若者たち』として刊行した。また、とりわけ家計経済学とコモンズ論の観点から非家族居住を考察した。このような非家族との居住実践のデータを元に、現在の家族社会学における「家族の多様化」論を批判的に検討したものが「『家族の多様化』論再考-家族概念の分節化を通じて」である。その結果、家族概念を単に押し広げるだけでは、近代家族以外の多様な生活形態を分析から除外してしまい、結局は従来の家族さえも十分に考察できないことを明らかにした。本研究の第二の目的は、「生-政治」の戦略拠点としての近代家族とは異なる、新たな「生の基盤」の可能性を検討するという理論的なものであった。この点につき、個人単位で無条件一律に現金給付を行うというベーシック・インカムの議論を手がかりに、政策単位は家族か/個人かという従来の議論を批判的に検討した。その結果、最低限の生活水準を確定するためには、従来はもっぱら家族が担ってきたケアのコストと、生活の共同による規模の経済を考慮する必要があり、これらの検討なしに個人単位の福祉を議論できないことを明らかにした。以上のような議論は、雇用によっても家族によっても生活を支えることが困難になったと考えられる現代において重要な意義を持っている。また、定額給付金や子ども手当てをはじめとする個人単位給付が導入されつつある現在、その効果と是非をめぐる議論に重要な示唆を与えることになる。
著者
佐々木 節 ANACLETOARROJA Frederico ANACLETO ARROJA Frederico
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は本研究計画のまとめとともに,これまでとは異なる視点から宇宙論的揺らぎの理論を展開し,非線形性や非ガウス性に関する考察を進めた。その主な成果を以下に記す。(1)近年のインフレーション宇宙の揺らぎの振る舞いに関する研究から,一般的な非正準的な運動項を持つスカラー場と断熱的完全流体との類似性が指摘されていたが,この点をより明確にするべく,これらの2つの場合が非線形揺らぎも含めて完全に一致するための条件を議論した。その結果,両者が非線形まで含めて完全に一致するのはいわゆる純粋なK-エッセンス理論の場合だけであることを証明した。これは,これまでの揺らぎの理論に新たな見方を提供する重要な成果であるだけでなく,これまでにあるモデルで得られた結果を対応する別のモデルに適用して直ちに解を得ることができる,という意味でも有用な成果である。(2)インフレーション理論に対するアプローチとして,最近,いわゆる有効場の理論的アプローチが注目を浴びている。しかし,これまでは単一のスカラー場の仮定のものに有効理論が展開されていた。そこで,これを複数場の場合に拡張した。特に,2階微分までの一般的有効作用の下で,複数スカラー場理論の高エネルギー極限の補正項の一般形を導出に成功した。この結果は近いうちに論文として発表予定である。(3)単一スカラー場の理論でも,ポテンシャルに急激な変化があるモデルではスローロール近似が破れることが知られている。この場合に発生する非ガウス揺らぎを解析的に評価することに成功した。この結果も近いうち論文として発表予定である。
著者
鈴木 克彦 PEAKE J.M. PEAKE J.M
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

我々は、運動負荷に伴う血中サイトカイン濃度の変動が、運動の強度や時間などの生体負担に依存することを明らかにしてきた。本研究では、究極の運動負荷と考えられる鉄人トライアスロン(3.8km水泳、180km自転車、42.2kmマラソン)のレース前・後、1日後に被験者9名から採血し、筋損傷・炎症との関連を調べた。筋損傷の指標としては、筋力、関節可動域、腫張、疼痛、血中ミオグロビン濃度、クレアチンキナーゼ活性を、炎症マーカーとしてはCRP、SAAを、ストレスタンパク質としてはHSP70を測定したが、すべて顕著な変動を示し、レース後および1日後に筋損傷が顕在化した。サイトカインは10種類の測定を行ったが、炎症性サイトカインである1L-1βとTNF-αは変動を認めず、一方、IL-6、IL-1ra、IL-10、IL-12p40、G-CSFが顕著に上昇した。しかし、筋損傷とは関連が認められず、血中サイトカインから筋損傷のメカニズムを説明することはできなかった。これらのサイトカインは、細胞性免疫を抑制する作用があり、炎症の全身性波及を抑制する適応機構として働く反面、感染に対する抵抗能力を低下させる可能性が考えられる。以上の研究成果は、国際運動免除学会にて発表し、現在、European Journal of Applied Physiologyにて審査中である。また、運動による筋損傷と炎症の機序に関して、先行研究の知見を文献的に整理したが、血中のサイトカインの関与は少なく、むしろ白血球の産出する活性酸素の関与の重要性が示唆され、その方向で今後の研究を進める必要性が考えられた。
著者
高田 正泰
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

原発性乳癌の予後因子である腋窩リンパ節転移の有無を治療開始前に予測する数理モデルの開発・評価を行った。国内2施設から291例の症例データを得て予測モデルを作成し、韓国ソウル大学病院の174例を用いて評価を行った。予測モデル作成は決定木アルゴリズムの一つであるAlternating Decision Tree(ADTree)を採用した。構築されたモデルは、学習用データでROC曲線下面積(AUC)=0.770、独立した評価用データでAUC=0.772と高い汎用性を示した。モデルによる予測確率20%以下をリンパ節転移低リスクと仮定すると偽陰性率は5.3%であった。また、ADTreeモデルはデータ欠損にも耐性を示した。さらに同一データでの精度比較では、既存モデルはADTreeモデルに及ぼなかった。本結果を国際学会にて報告し、現在論文投稿中である。さらに、Web上で予測確率を計算可能なサイトを作成し、多施設共同で前向き評価試験を遂行中である。術前化学療法による病理学的完全奏効(Pathological complete response,pCR)を治療開始前に予測する数理モデルの開発・評価を行った。国内のがんセンター・大学病院より得られた150例のデータを用いて予測モデルを作成し、臨床試験から得た173例のデータにより評価を行った。モデル作成にはADTreeアルゴリズムを用いた。ADTreeモデルは、学習用データでAUC=0.766,評価用データで0.787と高い予測精度を示した。予測確率20%以下をpCRの可能性が低い群と仮定した場合、偽陰性率は7.7%であった。ADTreeモデルはエストロゲン受容体(ER)陽性のluminal type乳癌においてAUC=0.779と高い予測精度を示した。一方、ER陰性HER2陰性のTriple negative乳癌では、AUC=0.531と予測精度改善が必要と考えられた。同一データでの精度比較では、既存モデルはADTreeモデルに及ばなかった。本結果を国際学会にて報告し、現在論文投稿中である。さらに、Web上で予測確率を計算可能なサイトを作成し、多施設共同で前向き評価試験を計画中である。閉経後ER陽性乳癌患者を対象としてアロマターゼ阻害剤(exemestane)による術前療法を行った臨床試験で、臨床的治療効果の予測因子を探索した。その結果、年齢、腫瘍径、ER発現度、増殖マーカー(Ki-67)と治療効果との関連が示唆された。さらに、Body mass index (BMI)が低値(BMI<22kg/m2)の群は、中間値(22≦BMI<25kg/m2)や高値(BMI≧25kg/m2)群に比較して、奏効率が低い事が示された(21.7%,56.0%,60.6%,p=0.01)。さらに多変量解析でもBMI低値は独立した効果不良の予測因子であった。この結果を論文報告し国際学会で発表した。
著者
加藤 大志
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

APVの構造タンパク質VP4にはアポトーシス誘導能があることが報告されており、このアポトーシスがAPVの病原性に関与することが示唆されている。Yeast two-hybrid assayの結果、p53のユビキチンリガーゼの1つであるPirh2がVP4の相互作用因子の候補として挙がった。APV感染細胞ではVP4の発現に伴ってPirh2の滅少が認められ、その制御下にあるp53のshort isoformの出現も観察された。さらに平行して感染細胞にアポトーシスが誘導されており、p53制御下のアポトーシス関連分子(FASやNOXA)の転写活性が有意に上昇していた。siRNAによるPirh2ノックダウン細胞ではAPVによって誘導されるアポトーシスは抑制され、細胞外に放出されるウイルス量も減少することが明らかになった。以上のことからVP4-Pirh2-p53経路によって誘導されるアポトーシスがウイルス感染に重要であることが示唆された。アポトーシスとは本来宿主の病原体に対する防御機構であるため、ウイルス粒子の成熟前にアポトーシスによる細胞死が誘導されることはウイルスにとって不利であると考えられる。そこでAPVによるアポトーシス調節機構を明らかにするため、感染初期に発現するLarge T抗原(LT)によるアポトーシス抑制能を検討した。LT発現細胞を用いてアポトーシス誘導したところ、対照細胞と比較して有意にアポトーシスが抑制されることが示された。またLTはHsc70およびRbとの相互作用することが免疫共沈降法によって確認され、この相互作用がアポトーシス抑制に関与していることが示唆された。以上をまとめるとAPVは感染初期にはLTによって感染細胞のアポトーシスを抑制し、ウイルスの成熟が完了する感染後期にはVP4によって抑制を誘導に切り替え、成熟ウイルスの放出を効果的にするのではないかと考えられた。
著者
周東 美材
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、「童謡のメディア論--2雑誌『赤い鳥』における「声」の重層と再編」『社会学評論』234号(日本社会学会)の発表を中心として、本研究がこれまで主たる研究課題としてきた近代日本における童謡とメディアに関する歴史社会学的研究の実証的・理論的研究のまとめを行った。本論文では童謡における「声」と「文字」の文化の重なりを考察しながら、「文字」が作り出す「声」の文化のありようや、複製技術時代における音楽文化のありようについての提言を行ったものである。また、「鳴り響く家庭空間--1910-20年代日本における家庭音楽の言説」『年報社会学論集』21号(関東社会学会)では、蓄音機やレコードが音楽のメディアとして「家庭」という空間に浸透していくプロセスについて、それらのメディアが普及する以前の言説、とりわけ音楽雑誌における「家庭音楽」を取り上げて論じた。言説の内容や担い手、言及される音楽ジャンルの変化をたどりながら、レコード普及の言説といかなる関係を結び、接合していったのかを考察した。いずれの論文も研究課題である近代日本の音楽の歴史におけるメディアと子どもの関わりを論じたものであり、メディアによる音楽文化の再編を論じた点に特に独自性がある。ここで言う音楽文化の再編とは、「音楽」概念の再定義と、音楽の制作・流通・受容をめぐるシステムの再編制である。また、本年度は、高校野球における応援演奏に関する研究にも考察の範囲を広げた。いわゆる「夏の甲子園」を取り上げつつ、ブラスバンドによって演奏されている楽曲について論じたものである。甲子園における音楽レパートリーにはいかなるものがあるのか、そのレパートリーはいかなる仕組みによって生み出されているのかを考察した。これまで本研究では、主にメディア技術の変化による制度やシステムの再編を論じ、音楽内容の変化は付随的な変化として位置付けようとする傾向あったが、むしろこの論考では音楽テクストの変容を中心に考察し、音楽テクストをめぐって展開される媒介作用(メディエーション)の一様態を考究した。上記の各論文とも社会学のみならず、音楽学やポピュラー音楽研究に対し社会学の立場から一石を投じるものでもある。
著者
横山 啓太
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

数学基礎論の一分野である2階算術の諸体系についての研究,特に逆数学プログラムへの寄与を目的とした研究および,算術の体系のモデルについての研究を行った.2階算術の諸体系についての研究では,昨年度までの研究で得られていたACA_0およびWKL_0における超準解析の手法についてより精密な考察を行った.これにより,2階算術に対応した超準解析の手法が直接表現できるシステムを新たに考案した.さらに,これらのシステムを用いて表現される超準解析の証明を通常の2階算術の証明に直接変換するための手続きを与えた.これにより,超準解析の証明を細かく分析することが可能になり,超準手法を用いた逆数学研究のための新たな手法が得られた.また,これらをさらに発展させ,2階算術の多くのシステムに対して超準解析のシステムによる特徴付けを行い,さらに超準解析を用いたより多くめ証明の分析を進めることを目指して研究を進めている.また,これらのフレームワークの逆数学研究への新たな応用も試みている.また,堀畑佳宏氏と協働で複素解析の基礎に関する逆数学研究をさらに推し進め,いくつかの定理に対する逆数学的な評価を得た.特に,局所的な可積分性が重要となる状況では,WWKL_0が重要な役割を果たすことがわかり,このことからいくつかの逆数学的な評価が得られた.また,正則関数の特異点の扱いについての研究も行った.現在,ピカールの定理の逆数学的評価を目指し,研究を進めている.この他,フーリエ級数の収束性についても逆数学研究を行い,いくつかの逆数学的結果を得た.以上の結果をふまえ,今までの成果を博士論文「Standard and Non-standard Analysis in Second Order Arithmetic」にまとめた.
著者
澤田 有司
出版者
日本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

1.イソフラボノイド骨格合成酵素(CYP93C)の反応機構と分子進化マメ科のCYP93Cは,P450に典型的なヒドロキシル化反応に加え,特異なアリール基転位を触媒し,イソフラボノイド生合成の初発物質2-ヒドロキシイソフラバノンを生成する。この反応機構の解明を目指し,マメ科カンゾウのCYP93C2の推定3次構造上で基質の近傍に存在したアミノ酸残基を改変した。特に,3箇所の変異を組み合わせたS310T-L371V-K375Tは,植物に広く分布するCYP93Bと同じフラボン合成反応(FNS)のみ検出された。従って,これらのアミノ酸残基が反応特異性を規定していることがわかった。さらに,先祖型CYP93はFNSであり,CYP93Bの起源となる一方,反応特異性が変化したCYP93Cが生じた分子進化の過程が推定された[論文1]。2.CYP93C2の可溶化タンパクの大量調製法の確立CYP93C2の活性中心構造に基づく反応機構の解明を目指し,X線結晶構造に必要な大量タンパクの調製を試みた。膜結合部位を削除したCYP93C2を導入した大腸菌の培養条件(シャペロンタンパクの共発現,培養温度,誘導時間,培地成分)およびタンパク質抽出方法(超音波処理,可溶化剤処理,超遠心)を検討した結果,40mg/培養Lの発現系が確立された。さらに,カラム精製(陰イオン交換樹脂,ヒスチジンタグ精製レジン)を行った結果,SDS-PAGE解析で単一バンドを示す精製タンパク(収率45%)が得られた。3.CYP93D1の機能解析機能未同定のCYP93D-Gは,フラボノイド生合成に関わるCYP93A-Cとのアミノ酸配列の相同性が約40%であり,新しい機能が予想された。そこで,シロイヌナズナのCYP93D1の機能解析を目指し,T-DNAタグラインのスクリーニングとflower dip法による遺伝子導入によって,機能喪失株候補および過剰発現株候補を得た。しかし,野生型と比較し形態および成分に顕著な変化は見られなかった。
著者
北 洋輔
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、発達的支援システムの中核となる評価法の確立にむけて、次の四点を主に検討した。1.社会性認知に関わる評価法:PDDの社会性認知に関する神経学的特性を評価するための基礎的検討を行った。健常成人を対象に自己顔認知課題を実施し、NIRSと眼球運動計測装置を用いて、脳血流動態と視線パターンを同時計測した。自己顔認知時に右下前頭回周辺における酸素化ヘモグロビン濃度の上昇が有意に認められた。社会性認知に関わる責任領域の一つが示され、課題・測定法の有用性が示された。2.同評価法の運用:PDDの臨床症状と1で示した脳機能との関連を検討した。健常成人・定型発達児・ASD児を対象に、1の実験パラダイムを行うとともに、臨床症状と心理的特性を併せて評価した。結果、臨床症状が重篤であるほど、脳機能が低下している一方、自己意識傾向が強いほど、脳機能の賦活が認められた。臨床症状・心理的特性を脳機能によって客観的に評価可能と示された。3.行動面の評価および介入による変容:PDD児の向社会的行動を評価するために新規の二次元モーションキャプチャーシステムを開発し、評価を行った。PDD児は向社会的行動の前段階に注目行動の少なさが顕著であること、介入によって注目行動が増加し、向社会的行動を示すことが明らかとなった。4.発達性ディスレクシアに関わる評価法:Magnocellular systemを神経生理学的に評価する視覚誘発電位(VEP)の評価法を模索した。新規の刺激により一定程度の同systemの機能評価が可能であり、発達性ディスレクシア児がVEPに特異性を認めると明らかになった。以上、四点より、発達的支援システムの中核をなす評価法が、教育・心理・神経生理学等の観点からの複数の異なる領域から、融合的アプローチによって到達出来たものと考えられる。
著者
村松 彰子
出版者
成城大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、ネオリベラリズム化の進んだ現代の沖縄社会で生活する人びとが、公式的には排除している「ユタ」(沖縄の宗教的職能者)と、日々の暮らしの中で実際にはどのように接触しているのかといった呪術的な諸実践を考察することにより、沖縄における生活とともにある「呪術/呪術的な知」の受容と再生産の実態を文化人類学的な調査によって明らかにすることを目的としている。2009年度の調査では、沖縄の人々が伝統的な祖先崇拝の体現者であるとされる「ユタ」(宗教的職能者)の呪術的実践をめぐる諸相を明らかにするため、その存在を知りつつも接触を避ける人びとを視野に入れて調査をおこなった。統計的に全国平均の2倍以上いるとされている沖縄在住のクリスチャンたちの活動の一環として、ある教派の教会の信者の自宅で週に-度行なわれている婦人集会を定期的に参与観察した。その成果は、2009年度の沖縄文化協会公開研究大会において「沖縄の慣習と聖書をむすぶ語り」と題して報告した。婦人集会は布教のために用意された場であることは間違いないが、そのように作られた場で、位牌の処分の重要性の指摘や「邪教」としての「ユタ」という確認がなされる一方で、それらの指摘や確認においても「ユタ」と関連の深い沖縄の慣習から離れることの困難さが暗に現わされている。そこには、布教のための方便を超えて、「知る者から知らない者へ」という布教の一方向的な関係とは異なる相互的な関係性において、ローカルな慣習がグローバルな信仰といわば同等の価値が置かれていることを指摘した。また、2009年度は、「アクチュアリティを生きる-当事者抜きの決定をめぐって」および「『沖縄的な知』は商品なのか-人びとの日常的な<つながり>の視点から」の二論文を発表し、沖縄の災因論の専門家としての「ユタ」の実践の場に見られる間身体的なつながりにひらかれた「委ねる」という姿勢を手がかりとして、近代の専門家支配とは異なる人びとの実践のあり方を考察している。これは、執筆中の博士論文の骨子となる議論となっている。
著者
丹羽 節
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

銀(II)錯体は古くからその合成例が知られ、酸化剤として有機合成への利用が試みられていた。通常官能基化が困難な炭素-水素結合の酸化など特徴的な反応性が見いだされてきた一方で、実際の合成に用いられることはほとんどなかった。その要因として、銀(II)錯体を大過剰量必要とする点、またほとんどの有機溶媒に不溶な点が挙げられる。申請者が当該年度に研究を行ったハーバード大学Ritter教授のグループでは、銀(II)錯体が中間体として示唆される興味深い芳香族フッ素化反応を見いだしている。本反応では強力な酸化剤である求電子的フッ素化剤により銀(II)二核錯体を経由し、さらに他の遷移金属では進行しにくいとされる炭素-フッ素結合の還元的脱離を経ていると考えられている。これらの知見より、適切な配位子と酸化剤を用いることで、銀(II)錯体特有の反応性を活かした触媒的酸化反応の開発を行えると考え研究を行った。その結果、3座ピリジン配位子を有する銀(I)錯体に酸化剤を組み合わせることで、芳香族化合物のベンジル位の酸化反応、ベンジルアルコールの酸化反応、またスチレン化合物の二量化反応が触媒的に進行することを見いだした。今後これらの反応の反応機構解析を行うことで、本反応の最適化、実際的な応用を行う。炭素-水素結合の官能基化など、銀(II)錯体の反応性は他の遷移金属と比べ一線を画しており、従来多用されてきたパラジウム錯体などで実現困難だった変換を開発できる可能性があり期待される。
著者
宮崎 信之 YANG Jian
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

有機スズ化合物は船底塗料や漁網の汚染防止剤などにつかわれ、世界各地で海洋環境に深刻な影響を及ぼしている。本研究では、中国と日本の代表的な水生動物に注目して、その汚染実態と生物影響を調査することを目的としている。(1)中国では、これまで有機スズの研究が少ないので、有機スズ化合物に関する規制が皆無である。本研究では、中国の太湖に五つの調査点を設け、指標生物ドブ貝(Anodonta woodiana)を採集し、プチルスズ(TBT、DBT、MBT)とフェニルスズ(TPT、DPT、MPT)化合物質を測定した。その結果、プチルスズとフェニルスズ化合物質が両方とも初めで検出された。その上、両類汚染物質が有意な地域の濃度差異が見られた。(2)日本三陸沿岸産イシイルカ(Phocoenoides dalli)の親子個体の組織濃度と負荷量を研究し、TBT、DBT、MBT及びTPT、DPT、MPTの蓄積の実態と親子の移行の実証及び特徴を明らかにした。更に、イシイルカ体内のプチルスズとフェニルスズ化合物質の代謝能力、特異的な蓄積臓器としての肝臓におけるチトクロムP450の活性の関係の比較研究を行った。その結果、プチルスズよりフェニルスズ化合物質に対する代謝能力が明らかに弱いことを発見した。これらの一連の研究は水生生物における有機スズ類汚染物資の蓄積、代謝及び毒性のメカニズムの解明に関する重要な知見が得られた。