著者
皆川 純 SWINGLEY Wesley SWINGLEY Wesley Douglas
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

外国人特別研究員の帰国前倒しに伴い,実質研究機関は4-6月の3ヶ月となったため,主に前年度の成果のまとめが行われた.前年度プラシノ藻Ostreococcus tauriより初めて単離に成功した光化学系I超複合体のタンパク質組成は,光化学系I反応中心サブユニットに加え,緑色植物で光化学系I専用の集光アンテナとして機能するLHCIが確認された.さらに,高等植物で光化学系II専用の集光アンテナとして知られるモノマーLHCIIであるCP26/CP29も確認された.これらCP26/CP29は緑藻ではステート遷移機構により光条件により,光化学系I,光化学系IIの間を行き来することがわかっていたが,さらに祖先型のプラシノ藻では光化学系I専用のアンテナとして機能していることが明らかとなった.モノマーLHCIIはもともと光化学系I固有の集光アンテナであったが,植物の進化に伴い陸上での生育を支えるため,まずは光化学系IとIIの間を行き交い,やがて高等植物では,光化学系II固有に集光アンテナとなったと考えられる.また,プラシノ藻の光化学系の特徴として,陸上植物では普遍的に見られる赤外域での蛍光(レッドクロロフィル)が存在しないこともわかった.レッドクロロフィルの役割についてはまだ確立されていないが,植物が陸上で生存していくために励起エネルギーを保持しているものと考えられているが,プラシノ藻は,その必要がない光合成の型式を現在でも保存しているものと考えられる.
著者
佐藤 可織
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は観測船「みらい」搭載雲レーダ・ライダデータより導出したレーダ反射因子と雲氷量の関係式を用いCloudSat衛星観測データを解析し、得た氷晶雲微物理特性の検証を以下の解析を行い推進した。CloudSat衛星と同期する航空機観測データによる光学的に厚い雲内部の微物理量抽出精度の検証に加え、パラメタリゼーションを用いずに雲微物理量を抽出する事のできるレーダとライダの信号強度を組み合わせた手法により光学的に薄い雲や雲上層部における抽出量の検証を行った。その結果、両手法で得られた氷晶雲粒径の高度-緯度断面には良く似た傾向が見られる事の他、パラメタリゼーションより得た雲氷量の統計値がレーダ/ライダ法で得られるものと比してより光学的に厚い雲の解析結果をより反映しているという特徴がある事がわかった。これらの成果はProceedings of the International Radiation Symposium(IRS2008)に"Sensitivity study for the interpretation of Doppler signal of space-borne 95-GHz cloud radar"という題名で報告した。衛星データに基づいた気象場分類法に従って氷晶雲-放射フィードバック効果をモデルで予測する際に重要であると思われる氷晶雲特性が大気大循環モデル(AGCM)で正しく再現されているかの評価を行った。その結果、観測ではlarge scaleの周囲の場の対流活発・不活発の分類と雲量に非常に良い対応関係があったが、モデルでは気象場と雲量の関係が良く再現されていない事がわかった。また、過去の研究からモデルでは上層雲の雲量が過大評価になっている事が指摘されていたが、常に過大評価であるわけではなく気象場による事がわかった。モデルの氷晶雲微物理特性の再現性に関してはグリッド平均の雲氷量特に11km以上の対流圏上層で対流活動活発時に1桁程度過小評価し、粒径を平均的に20μm程度過大評価する事がわかった。今後、より長期のデータを使用しこれらの成果を発展させ、モデルと観測の不一致のメカニズムを理解する事によりモデルでの雲再現性を改善する事が可能となると期待される。
著者
杉山 和明
出版者
大阪市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、公共空間における若者の行動に対する社会からまなざしに着目し、青少年を取り巻く社会環境の変容がもたらす諸問題への行政と地域社会の対応を明らかにすることである。前半期には、まず、事例研究として、1990年代後半以降の青少年の時間・空間行動規制、ならびに地域における犯罪対策と法整備の展開を考慮しつつ、大阪府、愛知県、東京都における諸集団による都市空間への監視活動の展開とその問題点を検討し、なかでも大阪府の事例について4月にサンフランシスコで開かれた国際学会(AAG)において発表を行った。また、浜松圏の当該高校に通う生徒たちに対して以前行ったインタビューをもとに、かれらにとって相反する多義的な意味をもつ農村の場所感覚について検討し、大型小売店が相次いで進出し郊外化とスプロール化が進展する都市近郊農村の問題点について考察した。その成果を学術誌(地理科学学会『地理科学』)へ投稿し、現在、二度の査読を経て掲載に近づいている状況である。後半期には、前半期に行った国際学会における発表をもとに、事例として、近年改正された大阪府青少年健全育成条例において強化された青少年による夜間外出禁止条項について検討し、ローカルな青少年の社会環境に影響を与える条例の改正が、防犯政策と緊密な関係にあり、新自由主義下のガバナンスの変容に連動していることを明らかにした。その成果は学術誌(大阪市立大学都市文化研究センター『都市文化研究』)に掲載された。認識論、方法論の観点から、近年、日本の地理学関係の主要学会誌に様々な言語資料を中心的な分析対象とする研究が増加していることに鑑み、日本の地理学者による研究を学説史的な手法で詳細に吟味し、言説を対象とした研究の問題点を指摘するとともに今後の可能性を提示した論文が学術誌(日本地理学会『地理学評論』)に掲載された。
著者
藤原 伸介 SIDDIQUI Masood Ahmed
出版者
関西学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

原始生命の低温適応は多様性獲得と密接な関係があったと考えられる。本研究では超好熱菌には低温で誘導される分子シャペロンが存在すると考え、生育限界下限の温度で培養したときに誘導されてくるタンパク質の中から分子シャペロンとしての機能をもつものの探索を試みた。超好熱菌にThermococcus kodakaraensisを用い、生育下限限界温度で発現するタンパク質について二次元電気泳動を利用したプロテオーム解析を行った。70℃で培養した細胞中には90℃で培養した時には見られないいくつかのタンパク質が見られた。このうち、発現の傾向が顕著なものを選び、アミノ酸配列分析を行ったところ、ひとつは分子シャペロニンのひとつCpkAであることが確認された。これまでの研究からCpkAは低温特異的な分子シャペロニンではないかと予想されていたが、今回の実験によりそのことが確かめられた。現在、この遺伝子を破壊したcpkA遺伝子欠損株の構築を行っている。CpkAのホモログを他の好熱性生物で調べたところ、生育温度が下がるに連れてゲノム上に複数のオルソログをパラロガスに有する傾向が見られる。例えばThermococcus kodakaraensisよりも生育温度が高い同じ目のPyrococcus属や同じEuryarchaeota門で生育温度の高いメタン菌Methanococcus jannashiiではいずれもオルソログはひとつしか存在しない。一方、同じ、Euryarchaeota門でも生育温度の低い菌は複数のCpkAホモログをパラロガスにもつ。これらは進化の過程でゲノム上で派生したパラログと考えられた。以上の知見はCpkAは超好熱菌が低温適応するために獲得した分子シャペロン(シャペロンニン)であったことを強く示唆する。
著者
難波 啓一 ROLAND DEGENKOLBE ROLAND DECENKOLBE
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

細菌の運動器官であるべん毛は、20種類の蛋白質から構成される生体超分子で、回転モータである基部体、らせん繊維型プロペラとして働くフィラメント、そしてそれらを連結してユニバーサルジョイントとして働くフックと、おおまかに3つの部分からなる。べん毛フィラメントはフラジェリンが非共有結合でらせん状に重合したチューブ構造で、極低温電子顕微鏡像の画像解析による構造解析法の長年にわたる工夫によってその原子モデルの構築に成功した(Yonekura et al., Nature 2003)。フックの構造については、その直線型構造の低温電子顕微鏡像解析による低分解能立体像と、サブユニット蛋白質FlgEのX線結晶構造解析法による原子モデルを組み合わせ、機能構造である曲がったフックの擬似原子モデルを構築し、それに基づく分子動力学シミュレーションにより、ドメイン間相互作用表面で一定数の水素結合やファンデアワールス接触点を保ちつつ結合相手を順次替えて相互滑りを起こし、各素繊維が約30%にもおよぶ伸縮をしてユニバーサルジョイント機能を実現することを明らかにした。(Samatey et al.Nature 2004)Roland DEGENKOLBE研究員は、べん毛基部体の蛋白質であるFliMとFliN、そしてべん毛蛋白質輸送装置の基幹サブユニットFliIとFliHが形成する複合体について、電子顕微鏡とX線回折法を組み合わせた超分子立体構造解析手法によるその全体構造の解析をめざしている。この複合体はべん毛の自己構築過程で、輸送の効率化を計るための非常に大切な役割を果たしており、構造が解けて原子モデルが構築できれば、べん毛蛋白質輸送のしくみについて大きな手がかりが得られると予想され、大変楽しみな研究プロジェクトである。そこで、DEGENKOLBE研究員は、この複合体の構成蛋白質を共発現する大腸菌大量発現系を用いた蛋白質試料の調整法、精製法の工夫を行い、結晶化とX線結晶構造解析、そして電子顕微鏡による立体構造解析をめざした研究作業を着実に進めてきた。いくつかの条件で微小な結晶が結晶化ドロップに現れ、それを拾い上げて実験室のX線回折装置にかけて回折能を確認したが、まだ良好な回折像は得られていない。結晶化条件をさらに工夫することにより結晶をより大きく成長させ、高分解能の回折反射を観測できるよう日夜がんばっている。この種類の仕事はリスクが大きく、本来ならば、2年間のJSPS特別研究員の短い期間中に挑戦するのには多大な困難が予想されるが、DEGENKOLBE研究員はこの難しい問題に果敢に挑戦し、質の高い成果を上げようとしており、その姿勢は高く評価できる。
著者
清水 紀芳
出版者
電気通信大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は,身体性を有するユーザインタフェースに関する研究における最終年度に当たり,初年度及び次年度の研究成果を用い,ユーザインタフェースが身体性を持つことの意義に関する調査と,人型ロボットの動作生成や運動を指示するための操作方法の検討を行った.情報世界内の人と同様の身体性を持つCGアバタを操作する際に,それと同形状のロボットをユーザインタフェースとして用意する.そして,ロボットとCGアバタの動作を同期させることで,ユーザは直感的にCGアバタを操作することが出来る.この身体性を有するユーザインタフェースでCGアバタを操作するシステムを,日本科学未来館にて4ヶ月間展示を行い,ワークショップも数日間開催して一般の人々に体験してもらうことで,人型ロボットをユーザインタフェースとして使用する意義に関して知見を得ることが出来た.また,人型ロボットの動作や運動を指示する操作手法として,カメラ画像内に映るロボットに対して直感的にペン入力で操作を行うシステムを作成した.これは拡張現実感技術を組み合わせる事により,モニタ上にペンで移動方向を指示することにより,実世界のロボットを直感的に指示した方向へ歩行させることや,ペンでのジェスチャ入力を用いることにより座る,立つといった複数の動作指示も可能とした.ロボットは多くの関節を持つため,複数の関節を用いた動作を生成する際には多くの時間が必要となっていた.これに対し,CGキャラクタのモーション作成では,逆運動学を用いることで手先位置や胴体の位置を指示するのみで複数の関節を同時に,容易に指示することが可能である.このモーション作成手法を実世界での人型ロボットに対して利用することで,多関節を持つロボットの動作作成を容易にすることを可能にした.
著者
大谷 雅夫 YANG K. YANG Kunpeng
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

二十二年度の主たる実績は、科学研究費補助金「和漢聯句の研究」(基盤B、代表大谷雅夫教授)における討議をもととして『看聞日記紙背和漢聯句訳注』を臨川書店より2011年2月に刊行したことである。代表者大谷雅夫、研究分担者楊昆鵬はともに研究会に常に出席するとともに、訳注執筆を担当した。次に、楊昆鵬は、前年度に引き続いて、近世初期の和漢聯句作品資料の翻刻と紹介を進め、慶長九年(1604)後陽成天皇主催の和漢千句を取り上げ、「慶長九年和漢千句翻刻と解題」(中村健史と共著)として『京都大学国文学論叢』(第25号、2011年3月、85-111頁)に掲載した。この千句は近世初頭の堂上和漢聯句の第一次資料であり、当時の和歌・連歌また漢文学などの研究にも資することの多いものである。そのような重要な資料を新たに学界の共有財産となしえた功績は小さくないと考えられる。楊昆鵬は、さらに俳文学会第六十二回全国大会(2010年10月16日、徳島四国大学)において「和漢聯句にみえる友情の連想」という題で研究発表を行った。本発表は和漢比較文学の視点から、友情を最大の主題とする漢詩文と、あまり正面から友情を詠う事のない和歌・連歌という異なる文学の伝統が、和漢聯句においてどのように接触し、結合したかを検討するものである。友情をめぐる連想に、歌や俳諧と同じ付合文芸でありながら、和漢聯句にはそれら歌俳に見られない独自な特徴のあることが見いだされるという楊昆鵬の発表は、新発見を含むものとして高く評価された。楊は、本発表を基に論文を執筆し、現在学術雑誌に投稿中である。
著者
波平 宜敬 BEGUM Feroza
出版者
国立大学法人琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、光ファイバ中に多数のエアホールを規則正しく配列した構造を有するフォトニック結晶ファイバ(PCF)の最適設計を昨年度の研究成果を発展させる形で研究を実施した。光パルスの群速度が波長(色)によって異なる波長分散特性が、広い波長域1.25μmから1.61μmで、平坦(フラット)の特性0+/-1.15ps/(mm.km)で、かつ同時にPCFを実用化する際の重要なパラメータの一つである閉じ込め損失が小さい(10-10dB/m)先端的なPCFを数値解析用パソコンを用いて、昨年度の研究成果を発展させたより最適な設計を行った。また、光波の実効的な光パワー分布を表す実効断面積(Aeff)が小さい(7μm^2)PCFの最適設計も行った。これは高非線形PCFと呼ばれており、波長1.55μmで、非線形定数(n2/Aeff)が大きい(35[Wkm]^<-1>)もので、通常の光ファイバの3倍も大きく、フェムト秒ファイバレーザ等の短光パルスをこの高非線形PCFに入射すると、連続光スペクトルが発生する超広帯域のスーパーコンティニューム(SC)光源をOCTを用いて眼の3次元画像等の実用化が期待できるものである。OCTの波長帯は、0.8μm,1.0μm及び1.3μmの光源が求められているので、非線形シュレーディンガー方程式を用いて、設計した高非線形PCFに、短光パルスを入射した時に発生する超広帯域スーパーコンティニューム(SC)光のスペクトル波形のシミューレーションを行った結果、高非線形のPCFが最適設計できた。
著者
関口 翔太
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

細胞質一核間の物質輸送は、核膜に存在する多数の孔(核膜孔)を通して行われている。この核膜孔は、細胞膜と共に遺伝子導入における障壁として存在し、このために効率的な遺伝子発現が行えないことが知られている。したがって、細胞膜や核膜孔を効率的に通過するマテリアルの作製及びその通過メカニズムの解明は、遺伝子導入における重要課題とされている。本研究は、これまで申請者が作製してきたナノ微粒子をツールとして、細胞膜や核膜孔を通過するマテリアルを作製し、それらの通過メカニズムを解明することが目的である。研究計画にしたがって、目的であるナノ粒子の核移行性の付与とそのメカニズム解明を達成することが出来た。本年度は更に、遺伝子導入におけるもう一つの障壁である細胞膜を通過するマテリアルの作製を行った。細胞膜は脂質二分子膜で構成されており、その内部が疎水性空間になっていることが知られている。しかしながら、ナノ粒子は一般に親水性であるため、この膜を通過することができない。そこでナノ粒子に、親水性、疎水性の双方に親和性のある両親媒性を付与することで膜の通過が可能になると考えた。作製した両親媒性ナノ粒子は、細胞膜のモデルとして知られているリボソームを、膜陥入によって通過することが分かった。この現象は実際の細胞膜でも観察され、両親媒性ナノ粒子は細胞内に効率的に取り込まれることが分かった。この粒子の細胞膜通過性とこれまでの成果である粒子の核移行性を合わせることができれば、遺伝子導入や核酸医薬へ応用する上で有用な手段となる。この成果は、現在論文としてChemical Communications誌に投稿中である。(S. Sekiguchi et al., Chem. Commun. 2013, in submission)
著者
松本 明日香
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

まず、1976年米国大統領選挙に関して、昨年度収集した米国公文書館の外交文書などをもとに分析結果の一部を論文「フォード大統領東欧発言の形成過程-1975年ヘルシンキ協定と1976年米国大統領テレビ討論会から-」として纏めて『国際公共政策』に上梓した。次に、比較対象として、1960年米国大統領選挙の第4回キューバ侵攻計画を扱うために、アイゼンハワー大統領とニクソン大統領図書館にて調査に行った。二者における関係性を平成24年6月には『アメリカ学会』にて「公開討論会と外交機密-1960年第4回、1976年第2回米国大統領候補者テレビ討論会の対照比較-」と題して報告することが決定している。最後にこれまで研究してきた政治テレビ討論会をベースに米国の状況をより客観的に分析するために各国制度比較を行っている。NHKアーカイブスにおいて、日米の討論会を比較検討する『政治テレビ討論会と国家指導者像の変遷-日本党首討論会と米国大統領討論会』の研究を進めている。これまでの資料館調査を元に、平成24年4月24日に『日本アーカイブズ学会』で「テレビ政治討論会のアーカイブズ-日・英・米を比較して-」を報告することになっている。また政治スピーチの分析手法を精査するため、これまでの質的に分析に加えてコーパスによる量的分析も行った。自然言語処理を専門とする吉田光男との共同研究を行い、『日本政治学会』において「国家指導者のTwitterレトリック-バラク・オバマと鳩山由紀夫の対照比較-」のポスター報告を行った。これまでの質的分析をある程度裏付ける結果を出すことに成功した。さらにこれまで扱ってきたテレビと、近年のウェブにおける政治言説の差異と継続も吟味できた。
著者
徐 強 SINGH Sanjay Kumar
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

高い水素含有量を持ち、燃料電池用水素源として高い可能性を持つ水和ヒドラジンに注目し、水和ヒドラジンの触媒による選択的完全分解反応で、室温という温和な温度において、PtNi及びIrNi合金ナノ粒子触媒を用いて制御可能な条件下で水素ガスを発生させることができることを見出した。PtNi,IrNi二成分合金ナノ粒子触媒の組成を調節して、触媒活性・水素生成選択性評価を行ったところ、それぞれ100%水素選択率を示す組成領域を明らかにした。PtNi合金ナノ粒子触媒ては、Pt含有量が7-34%の幅広い領域において、100%水素選択率を示す。IrNi合金ナノ粒子触媒に関しては、Ir含有量が5-10%の領域において、100%水素選択率を示す。放出ガスの体積測定のみならず、質量分析におけるH_2/N_2比(2.0)及びアンモニアに起因する^<15>NNMR信号がないことから、これらの条件下ではヒドラジンの完全分解反応H_2NNH_2→N_2+2H_2が選択的に進行していることが確認された。TEM観察により、PtNi,IrNiナノ粒子の平均粒径は約5nmである。XPS測定により、それぞれPtNi,IrNiの二成分合金ナノ粒子となっていることがわかった。これら合金ナノ粒子が高活性・高選択性を有することは、触媒表面に両成分とも存在し、完全分解・水素生成に有利なヒドラジン結合活性化に寄与していることを示している。水和ヒドラジンは、液体であるため移動型燃料タンクへの充填が容易であり、既存の液体燃料用供給・貯蔵インフラ設備が利用可能という大きなメリットを有する。さらに完全分解によって水素と窒素に分解するため、生成物回収・再生が不要である。
著者
栗林 香織
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、膜タンパク質の機能解析のためにマイクロ・ナノ加工技術を用いることによりこれまで実現の不可能であった直径の揃ったジャイアントリポソームを効率的に作製し、操作するマイクロ流体デバイスを実現することである。そこで、本年度は,主に下記の項目について研究を行ってきた。パリレンシートの穴あきシートに金を蒸着し電極基板を作製し、基板上に脂質膜のパターンニングを行いそれぞれのパターンからからジャイアントリポソームを作成する方法を検討した。これまで作成されてきたジャイアントリポソームでは、リポソームは閉じた系であるため作成後にリポソーム内の溶液を変えることはできなかった。本方法では、作成されたリポソーム内の溶液を小穴を通して変換することが可能である。脂質のパターンニングは、パリレンリフト法を用いて行い、エレクトフォローメーション法により作成された脂質パターンから均一径のリポソームを作ることが可能になった。さらに、作成されたリポソーム内に直径が200nm-1μmのビーズを注入することができた。ビーズをDNAや試薬等に変えることでドラックデリパリーシステムや生物系の観察などの分野での応用が可能である。一般的にエレクトロフォーメーション法で作製されたリポソームは基板上に固定されており、リポソームを単独で使用することはできなかったが、本デバイスでは、基板の小穴から溶液を流すことにより、リポソームを切り離すことができた。
著者
宮本 匠
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度当初は、前年度より継続していたアメリカ合衆国デラウェア大学災害研究所での研究を行い、筆者が実施した新潟県中越地震や阪神淡路大震災の被災者への復興曲線を用いたインタビュー結果について、同研究所の研究者らとその分析について議論を行った。議論の中では、被災者の心理的な回復の様子をその描かれた曲線の形状に即して吟味すると、1、短期間で回復していくもの、2、長期間で回復していくもの、3、一度回復したのちに再び大きく心理的に落ち込んでしまう「2番底」を経験するもの、4、曲線の一部分あるいは全体が複数の線によって重ね描きされ心理的な不安定さを表現するもの、5、曲線が底部で停滞したまま心理的な回復がなされていないことを強調するもの、等の特徴によって類型化できることが分かった。このように類型化できる一方で、ひとつひとつの曲線、つまりひとりひとりの復興が、決して普遍的な復興モデルに回収されることのない単一性(singularity)をもっていることを強調しておくことが、復興支援にとって重要であることも強調した。また、被災者の心理的な回復場面、曲線でいえば、被災者の心理的な変化を表す曲線が下降から上昇へと転じる屈折部分で起こっている現象を理論的に明らかにするために、筆者の中越地震被災地でのアクションリサーチを記録したエスノグラフィーを柳田國男の遠野物語拾遺における説話についての社会学的考察を援用して考察し、論文にまとめた。これらの一連の被災者の心理的な回復がどのようなに現象し、どのように支えることが可能なのかについての論考は、甚大な被害を及ぼした東日本大震災からの復興や今後予期されている首都直下地震や東南海地震のような巨大災害からの復興への備えとして実践的な意義をもつと考えられる。
著者
森 裕一
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

○高色素導入型、および高耐久性高分子材料の設計・合成高色素導入型高分子材料として、本研究課題であるハイパーブランチポリマーの更なる高性能化を目指し分子設計・合成に着手した。分子設計の指針として、光学透明性に優れるメチルメタクリレート(MMA)を導入し、色素を化学結合したハイパーブランチポリマーの統計的な合成を行った。具体的には、ハイパーブランチポリマーの主鎖にはメチルメタクリレートとイソシアネート基を有するメチルメタクリレートを導入し、分岐性を持たせるために二つのオレフィン化合物を有する分子設計と合成経路の確立に努めた。その結果、分岐内部のイソシアネートとヒドロキシル基を有する光機能性色素材料を付加反応することで極めて高い非線形光学色素の溶解性と高分解温度特性を得ることができた。汎用的に用いられているホスト材料PMMAの色素溶解性は20wt%であったのに対し、本研究で合成したハイパーブランチポリマーは50wt%と2倍近い導入を確認でき、当該年度達成目標である40wt%を大きく凌駕することができた。○光機能性色素の設計・合成光機能性色素材料として高非線形光学分子に焦点を当てて、分子設計・合成に着手した。分子設計の指針としてπ共役鎖がつながった代表的な非線形光学色素を合成した。具体的には、イソシアネート基と反応しウレタン結合を形成することから分子末端にヒドロキシル基を有するπ電子共役形誘導体を合成した。これらの材料特性評価を行ったところ、合成段階においてイソシアネート基の消失をFT-IR測定で確認でき、DSC測定によって高いガラス転移温度(>140℃)を得ることができた。○光デバイスの作成・評価合成した材料をデバイス化し、物性評価を行うことが、本テーマの役割である。作成した薄膜をデバイス化した後、電気光学定数(r33)を測定した結果、140pm/Vを得ることができた。この結果は、申請書に記載の最終目標として掲げた50pm/V以上の値を大きく超える値であり、昨年度の結果である110pm/Vを超えることに成功した。
著者
高野 義人
出版者
長崎大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

東シナ海東部外洋域五島灘海域3地点において月に一度の採水,2011年6月20日から30日の長崎大学附属練習船長崎丸第331次航海において長崎県新長崎漁港~沖縄県西表島を往復の間に掛け流し海水濾過による採集を34回行った。それらの試水から得た外洋性渦鞭毛藻,特にDinophysiales類のAmphisolenia属2種、Citharistes属1種、Histioneis属3種、Ornithocercus属4種、Parahistioneis属2種、また、Gonuaulacales類のCeratium属25種、Gymnodiniales類のBalechina属を観察し、それらの個体から単細胞PCR法によるリボゾーム遺伝子増幅および走査型電子顕微鏡観察を行った.その結果,HistioneisとParahistionersは、藍藻類に加えて好気性光合成紅色細菌を共生体として持っており,さらに、Amphisoleniaの'細胞内'共生体とOrnithocercusの細胞外共生体は共通起源であることが判明した.これらの結果より,祖先となるDinophysiales渦鞭毛藻と藍藻が細胞内共生関係を確立し,その後の進化過程で共生藻を喪失して従属栄養性に変化したり,細胞外共生関係を構築したりするような多様性が生まれたことを明らかにした.また,Ceratium属に付いての成果は,変種や亜種と識別されてきた種類は遺伝的に分化していることが示され,小さな形態的差異が種識別に重要な形質となることを明らかにした.これらはDinophysiales類や外洋性Ceratium属の進化に付いての理解を一層深化させることとなった.
著者
須藤 斎
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,「温室地球」から「氷室地球」への転換点である始新世/漸新世境界(以下E/O境界と記載)付近で,珪藻Chaetoceros属が渦鞭毛藻類に替わって沿岸生態系の主要な一次生産者と進化していった過程を解明することである.申請者の研究により,約4000万年前から,現在までの珪藻休眠胞子化石の分類が行われてきた.その結果,約3400万年前のE/O境界付近で,Chaetoceros属休眠胞子の多様性と産出頻度が激増する「Chaetoceros爆発」イベントが起きたことが解明された.一方,渦鞭毛藻類の休眠シスト群集は,逆に多様性と産出量が急減しており,沿岸域における主要な一次生産者がこの時期に渦鞭毛藻類からChaetoceros属に急激に交代した可能性が示唆された.しかし,研究した試料間隔の制約から,正確な数値年代が明らかにできなかったため,これはあくまで仮説である.さらに,Chaetoceros属と渦鞭毛藻類の激変が本当に対応しているのかも確かめられていない.また,「Chaetoceros爆発」とOi1イベントとの対応関係や,もう1つの重要な一次生産者である石灰質ナノプランクトンの群集変化との関係も全くわかっていない.そこで,現在,E/O境界をまたぎ,かつChaetoceros属・渦鞭毛藻類・石灰質ナンノプランクトンをすべて含み,さらに酸素同位体比の測定用の有孔虫化石をも含有する連続コアサンプル(アフリカ南東沖,DSDP369および南極沖ODP689)を高時間分解能で分析することにより,同一コアを高時間分解能で分析し,事変の正確な年代と各タクサ間および酸素同位体イベントとの対応関係を明らかにすることを試みている.そして,これを基にこの事変の詳細な変遷過程を解明し,その原因を考察する予定である.
著者
井上 雄三 FAN Bin
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

石油や埋立地汚水漏洩による地下帯水層のオンサイト修復を模擬したベンチスケール実験装置(電極材料:ステンレス製タワシ)を作成した。本装置は透過性反応型地中壁(PRB)の原理を発展させた透過性電気生成反応型地中壁(e-PRB)であり、近年、米国にて発見された微生物の嫌気性代謝の一つ(電子受容体として陰電極を用いて微生物が有機物質を酸化)である。電子は電流として陽電極に伝達され、そこで酸素が還元される。開発中のe-PRBは、透過性反応壁としての地中バイオフィルム(陰極)、地下水以浅の酸素還元(陽極)、電気とイオン移動回路の3つから構成される。通常は最終電子受容体として大気中の酸素を地下水に供給するが、酸素の溶解は効率的でなく、従来のPRB技術では高コストが懸念されている。E-PRBは酸素を地下水中に溶解の必要がないため、経済的で効率的な地下水浄化技術となる。有機汚濁物質としてグルコース、石油系汚染物質としてBTEX(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン)をモデル汚染物質として浄化実験を行い、本装置が長期間(約4ケ月)にわたり安定した電極出力分解反応を継続できることを実験的に明らかにし、e-PRB技術が地下水汚染現場に適用可能なことを示した。本反応の電気出力は、グルコースでは有機炭素濃度が5〜20mg/Lの範囲で電流値4mA、電位差(陽極:0.39V,陰極:0.19V)となった。これは、本プロセスの浄化能力が、量論的に0.2kg-有機炭素/(m3・日)と非常に大きな有機物分解速度となることを示すものであり、オンサイト浄化技術としての能力が非常に高いと判断できる。一方、BTEXでは2mA程度になり、電極活性に阻害が生じないことは示されたが、BTXの具体的な分解能力は評価することができなかった。
著者
澤田 裕子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は父子関係・兄弟関係・養子関係の三つの観点から、平安貴族社会における家族のあり方を明らかにし、中世的な「家」の成立に伴う変化について考察することを目的とする。今年度は昨年度の成果を基にさらに分析を重ね、特に中世的「家」が成立する直前の十世紀から十一世紀前半にかけての元服と叙爵の変遷を中心に考察した。従来、父の地位に基づいて元服と同時に叙爵される元服同時叙爵は十世紀前半に摂関等子息の特権として成立し、十一世紀初頭には公卿層子息にまで広まったとされる。しかし実際に十世紀から十一世紀前半の元服と叙爵の関係を調べると、十一世紀前半の元服同時叙爵は摂関の近親者など一部の公卿子息に限定されており、一般公卿子息ではむしろ元服以前の叙爵が主流であったことがわかった。そしてこの時期の叙爵の変遷、特に元服前叙爵という変則的な叙爵の背景を解明することにより、元服と叙爵のタイミングが公卿層の中でも摂関との親疎によって異なっていたことが明らかとなった。また、こうした元服と叙爵の分析を通して、昨年度手がけた養子に関する分析もさらに深化させることができた。従来、家のための養子が成立するのは院政期とされてきた。しかし関白藤原頼通の養子信家(頼通同母弟教通一男)は摂関等子息の正妻子に相当する初叙を元服と同時に与えられており、頼通の後継とするために養子とされた可能性が考えられる。信家のケースが家のための養子であったとすれば、家のための養子の成立時期は一世紀ほどさかのぼることになる。本年度はこのように、叙爵や養子の問題から中世的「家」が成立する直前の社会変化の解明に取り組んだ。
著者
桑原 里紗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

近年頻発している地震の被害を教訓に,被災した建築物の復旧に要する費用などの修復性能,および被災した建築物に残存する耐震性能(残存耐震性能)をともに満足する合理的な設計手法の確立が重要な課題となっている。その中で,地震応答終了時の残留変位は構造物の耐震性能を把握する際の重要な指標の一つである。残留変位は,地震動の位相特性や構造物の非線形性に依存するため,従来は非線形地震応答解析により直接計算するか,あるいはあらかじめ異なる周期ごとに残留変位を求める残留変位スペクトルを用いるなどして推定するしかなかった。研究代表者は,地震動の位相特性のうちどのような因子が残留変位に影響を与えるのかについて解析的な検討を行い,また通常の弾性応答スペクトルに加えて,最大応答経験後にそれと符号を異にする最大値をプロットした応答スペクトルを新たに定義することにより,弾性応答スペクトルを用いた簡便な手法による残留変位の推定についての研究を進めている。本年度に実施した残留変位の推定における検討結果より,(1)正負最大ピーク(第1,第2ピーク)だけでなく,後続の第3ピークを用いた推定により格段の精度向上がみられること,また(2)既往の応答スペクトル法に,第2,第3ピークスペクトルが適応可能なこと,よって(3)PCなどを用いた解析によらなければ推定できなかった残留変位について,第2,第3ピークスペクトルと建物の耐力性能曲線を用いて,最大応答変位のみならず残留変位も推定可能であること,が示された。加えて,弾性応答スペクトルを用いた残留変位の推定手法を構造設計へ応用・展開させるべく,時刻歴応答解析同様の物理的意味を付与させた,新たなる簡便な残留変位推定方法の開発に取り組んでいる。
著者
柳渾 一希 (2008) 柳澤 一希 (2007)
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度は,昨年度までのシミュレーションモデル・数理モデルに主に基づいていた研究を発展させ、地域公共施設の再整備に取り組むためのより実証的な研究を実施した。第一に、電子自治体の推進のなか近年の自治体に急速に普及している公共施設予約システムについての研究を行った。この予約システムによれば、施設の利用目的や利用頻度などの施設需要などを精緻に把握できるため、ここから得られる情報をもとにした、新たな公共施設管理手法の開発も可能であると思われる。このため、アンケート調査により現状の予約システムの普及状況を把握し、今後の公共施設管理についての見通しをたてた。第二に、昨年度開発した競合して立地する施設と他施設との利用圏の重なりの影響を考慮した施設利用者密度の幾何学的分析手法に基づく重要構造分析モデルを実際の観測データをもって検証した。具体的には、鈴木ほか(利用者の選好に立脚した通所型高齢者施設の利用構造と配置の分析、日本建築学会大会学術講演梗概集、F-1、pp.649-650、2002)により観測された高齢者福祉施設の利用者分布の状況を、多重ボロノイ図にもとづき解析し、開発した分析手法の有用性を示した。第三に、昨年度開発した施設再配置モデルを再検討し、施設閉鎖とともに施設移転を考慮した最適配置シミュレーションにより最適な施設統廃合についての試算を行った。この際、地域の将来人口・公共施設の建築年数・公共施設の空室率の3要素のうち、いずれの要素から優先順位をつけるかにより、閉鎖・移転施設の組合せにより統廃合後の施設利用者の負担が大きく変わることを確認した。同モデルは統廃合計画の効果測定にも有用である。