- 著者
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緒方 一喜
- 出版者
- 日本衛生動物学会
- 雑誌
- 衛生動物 (ISSN:04247086)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, no.3, pp.116-129, 1958-08-10 (Released:2016-09-04)
- 被引用文献数
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ドクガEuproctis flava Bremerの各期の形態, 特に幼虫と, その毒針毛についての形態を報告した.(1)卵は淡緑色.みかん形をしていて, 背腹に扁平, 底面はやゝ凹陥する.長径平均0.63±0.008mm, 短径平均0.46±0.013mm.卵殼は白色で, 表面には紋理, 凹凸はない.卵は卵塊として産みつけられ, 卵塊の表面は雌の尾房毛で厚くおおわれる.(2)幼虫の経過令数は, 各種環境要因に影響されて個体により群体により一定しない.このために, 令毎の特徴は一定しないで, あらゆる場合の個体に共通の令の特徴というものは, 1令を除いて見出す事はむつかしい事が分つた.幼虫は, 全期間を通じて, 形態的に5つの型に分ける事が出来る. A型は1令に相当し, 全く毒針毛を有しない. B型は2令以後10令まで.但し5令頃からC型がまざつてくる. B型は第1腹節亜背線部に1対の毒針毛叢生部をもつ型である. C型は, 更に第2腹節亜背線部に1対の毒針毛叢生部をもつ型で, (n-2)令までに相当する. D型は, 更に第8腹節亜背線部に毒針毛叢生部をもつ型で, (n-1)令に相当する.E型は終令で, 第1腹節亜背線に2対, 第2〜8腹節亜背線, 第1〜8腹節気門上線, 第1〜6腹節(時に1, 5, 6節を欠く)気門下線に各1対の毒針毛叢生部をもつ型である.(3)幼虫では, 普通体毛及び毒針毛は, 何れも各節の瘤起上に束生している.普通体毛には, 微毛と長短毛がある.微毛には, 瘤起上, 腹脚上, 普通微毛の3種がみられる.長短毛には, 普通毛, 側枝毛, 細毛, 単純毛などの区別がみられる.(4)毒針毛は, 平均約0.118mm, 最小0.053mm, 最大0.227mmの釘型をした毛で, 内部は中空, 表面には小さい棘状突起がならんでいる.ドクガの各stageを通じて, この毒針毛だけが, 有毒性をもつている.毒針毛長の最大値は, 令の増加に伴つて大きくなるが, 全毒針毛の平均値では, その増加は著しくない.毒針毛は, (n-1)令までは, 平均約7.5, 終令では平均約12.1本の1束となつて, 盃状体上の毛窩より生ずる.盃状体が集合して, 毒針毛叢生部を形成している.幼虫の令とともに, 一頭当りの毒針毛数は増加する.或飼育個体群のものを概算した結果では, 2令で約740本, 5令で約3, 300本, 8令で約8, 000本, 11令で約14, 500本, 14令(n-1令)で約88, 000本, 15令(終令)で6, 525, 000本にのぼつた.(5)サナギの形態を記載したが, 雌雄の区別は, 触角鞘が雌では細く, 隆起が小さいのに対し, 雄では逆である.また, 雌では, 第7〜10腹節の各関節は融合し, 腹面の境は正中線上に集つているが, この位置に生殖口がある.雄では, 第9と10腹節の境界線上に生殖口がある.雌は, 雄に比べて体長, 体重とも大きい.(6)成虫は, 体翅とも全体黄色で, 黄毛におおわれている.前翅先端の2黒点と, 中央附近の紫褐色黄帯が特徴的である.雌では, 腹部が太く, 尾端には多くの尾房毛が束生している.雄では腹部が細く, 尾端の尾房毛は甚だ貧弱である.