著者
兼岡 麻子 荻野 亜希子 井口 はるひ 七里 朋子 松﨑 彩花 佐藤 拓 後藤 多嘉緒 山内 彰人 齊藤 祐毅 上羽 瑠美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.85-95, 2023 (Released:2023-04-29)
参考文献数
35

【目的】頭頸部癌への化学放射線療法(chemoradiation therapy, CRT)に伴う嚥下障害に対する予防的リハビリテーションにおいて,行動変容手法を用いたハンドブックを導入し,患者アドヒアランスの向上度を検証した.【方法】対象は,頭頸部癌に対するCRTを完遂した患者.ハンドブックを用いてトレーニングを行った患者を導入群,過去にハンドブックを用いずに行った患者を対照群とした.自主トレーニングの実施率が80%以上の患者を高アドヒアランスとした.【結果】高アドヒアランスは導入群15名中4名(26.7%),対照群15名中7名(46.7%)で,両群に有意差はなかった.CRT終了時の口腔粘膜炎グレードは,導入群で有意に高かった.その他の因子は両群に差はなかった.【結論】ハンドブックの導入により,患者アドヒアランスは向上しなかった.ただし,口腔粘膜炎等のトレーニングの阻害要因が重度な場合,ハンドブックは患者の意欲維持やトレーニング継続に寄与する可能性がある.
著者
生井 友紀子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.295-304, 2019 (Released:2019-10-18)
参考文献数
16
被引用文献数
1

声帯結節の主な成因は声の濫用にあり音声治療が有効である.本稿では,当科での声帯結節の音声治療の経験に基づき難治例の治療戦略を検討した.難治には音声治療をしても局所病変の改善に乏しい例と,最終的に自他覚的な改善と満足を得て終了するが治療が長期化する例がある.過去11年間に30例に音声治療を実施し29例で治療を終了した.うち23例では自他覚的な改善と満足を得て3ヵ月未満で終了した.他6例が難治例で,うち3例は局所病変の改善に乏しく治療開始1ヵ月で治療を終了し医師による薬物治療に移行した.残り3例は最終的に治癒したが治療に3ヵ月以上を費やした.難治例全例で声帯浮腫や炎症,広基性病変を認め,上気道症状の訴えを伴った.また声の濫用は生活面の多岐にわたっており,病悩期間は2〜10年と長かった.難治例は結節の悪化要因を多数抱えており,全人的(holistic)治療と,多職種他領域との連携によるチームアプローチが重要と考える.
著者
野原 信 廣田 栄子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.305-311, 2014 (Released:2015-02-05)
参考文献数
20
被引用文献数
1

聴覚特別支援学校小学部2~3年生の高度聴覚障害児(HH児)21名と同学齢の聴力正常な典型発達児(TD児)60名を対象にし,向社会的および反社会的な動作主の行為の意図と受け手の反応が,通常と一致した条件と矛盾した条件を設定して,他者の行為意図説明能力の発達について検討した.その結果,両群ともに,一致した条件に比べ矛盾した条件で行為意図に関する説明の正答率が低下した.HH児はTD児に比べ,両条件で成績の低下を認め,矛盾した条件における動作主の行為意図説明では,語彙や説明内容が乏しい叙述傾向を認めた.行為意図説明の正答率は,基礎的言語能力としての読書力と相関が高いが個人差を認め,発達の評価に基づいた個に応じた指導が必要と考えられた.高度聴覚障害児では,社会的経験に基づいて密接なコミュニケーションを配慮した言語学習の重要性が示唆された.
著者
宮本 昌子 舘田 美弥子 深澤 菜月 飯村 大智
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.132-142, 2022 (Released:2022-05-17)
参考文献数
13

早口言語症の症状を示す10歳の男児を対象に,発話速度コントロールを目指した認知・行動アプローチによる介入を行った.認知・行動アプローチの方法に従い,最初にモニタリング機能に焦点を当てた指導を行ったうえで,発話速度を低下させた話し方の指導に移った.介入の6ヵ月間経過後に,「記憶した物語再生課題場面」で総非流暢性頻度が有意に低下したこと,開始時に実施した日本語版早口言語症チェックリストver. 2の得点が21点から9点へと低下したことから,指導の終結を判断した.発話をシンプルにすることで伝わりやすくなるという気づきのあった後,言語形式化が良好になり非流暢性頻度が低下したことが推測される.一方,発話速度低下が測定値からは認められず,その解釈については注意が必要である.本研究の結果からは,認知・行動アプローチに含まれるモニタリングスキル指導が非流暢性頻度低下に影響し,早口言語症改善に寄与した可能性があることが推測されるが,今後は,早口言語症のある発話において妥当な速度の測定法を検討したいと考える.
著者
香原 志勢
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.47-49, 1974-07-20 (Released:2010-06-22)
著者
石坂 謙三
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.243-249, 1981-07-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
17
被引用文献数
1

This paper discusses models of the vocal cords, which can be categorized into a drivingpoint impedance (or terminal) type and a multi-mass system type. The former typically involves a so-called one-mass model and also a two-mass model of the vocal cords, and the latter represents the difference approximation of motion equations and also the finite element method. Models for the air flow through the larynx are also considered in connection with the models of the vocal cords.The mechanism of self-excited oscillation of the vocal cords is described in terms of the degeneration of natural modes of vibration which results from the glottal flow. The intention is to clarify the distinction between the self-excited oscillation and the free oscillation of the vocal cords.A self-excited oscillator inherently involves some of non-linear factors with respects to the amplitude of oscillation. In the vocal-cord oscillator, they are the collision of the bilateral vocal cords, the non-linear elasticity of cord tissue, and the non-linearity in the aerodynamics. These non-linear factors must properly be involved in the computer models of the vocal cords. Finally, general cosiderations of the computer simulation of cord-vibration are discussed.
著者
前川 圭子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.241-247, 2022 (Released:2022-11-17)
参考文献数
26

本邦では,職業歌手の音声障害に対して言語聴覚士(ST)による音声治療が行われることは少ない.しかし,微細な声帯病変でも歌声の異常をきたし仕事の成果にも影響する職業歌手に対してこそ,音声治療は積極的に行われるべきと考える.本稿では職業歌手の音声障害に対する音声治療の効果について文献的に考察し,実際に音声治療を行ううえでの要点について述べる.職業歌手に対する声の衛生指導の要点としては,1)歌唱以外の声の乱用・誤用を防ぐ,2)声帯の湿潤を心掛ける,3)vocal warm-up/cool-downを励行する,ことに留意している.また,発声訓練の要点としては,1)来院できる機会に集中的訓練を行う,2)試験的音声治療を行い最適な手技を使う,3)うまく歌うための技術指導は歌唱指導者から受ける,ことに留意している.発声訓練には,声帯の接触によるダメージを減らし,歌唱者の発声機能を改善することが報告されている半遮蔽声道エクササイズを利用している.
著者
小嶋 知幸 宇野 彰 加藤 正弘
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.360-370, 1991-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
7
被引用文献数
3 2

22例の失語症者に対して, 実用的なコミュニケーション補助手段として, 日常生活上重要性が高いと考えられる事物の写真, 絵, 文字をカテゴリー別に貼付したノート (以下コミュニケーションノート) を作成し, 活用の状況を調査, 検討した.その結果, 1.コミュニケーションノートを自発的に活用するためには, 知的機能, コミュニケーションへの積極性, 社会的関心, コミュニケーション環境などの条件を良好に満たしている必要がある, 2.ノートは, 比較的発症初期から実用的なコミュニケーション補助手段となりうる, 3.ノートが有効でない話題もあり, 話題に応じたコミュニケーション手段の使い分けが必要である, 4.ノートの活用に際しては, 患者のみならず, 日常生活上患者と身近に関わる家族や介護者を含めた総合的な指導が必要である, と考えられた.
著者
土方 彩 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.221-229, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

小学5, 6年生の定型発達児28名と発達性dyslexia児8名を対象に, 漢字単語の読解力に対する音読力と聴覚的理解力の貢献度を検討した. その結果, 定型発達児群における漢字単語の読解力に対して聴覚的理解力が有意に, そして音読力は有意傾向の影響力を示した. また, 読解力も音読力と聴覚的理解力の双方に対し有意に影響していた. 一方, 発達性dyslexia児群における漢字単語の読解力には音読力のみが有意に影響しており, 読解力も音読力に対して有意な影響力を示した. これらの結果から定型発達児の漢字単語の読解力には音読力と聴覚的理解力の双方が重要であり, 読解力もまた音読力と聴覚的理解力に対して影響力をもっていること, 発達性dyslexia児は音読力が低いため, たとえ聴覚的理解力が高かったとしても, その能力を読解力に対して十分に活用できていないことなどが推測された. また定型発達児群における読解力と音読力, 聴覚的理解力に関して, 一貫して心像性が有意な説明変数として抽出され, 3つの能力に対し意味の思い浮かべやすさが影響していると思われた.
著者
柴 裕子 溝尻 源太郎 野崎 智嗣
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.184-191, 1995-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
22
被引用文献数
4 2

声門閉鎖不全は, 声帯突起の部位は閉鎖し声門膜間部にのみ閉鎖不全がみられるものと, 声帯突起の部位が閉鎖せず声門軟骨間部から声門膜間部にかけて後方を底とした三角形の声門閉鎖不全がみられるものとに大別される.後者は, Posterior Glottal Chink (PGC) と呼ばれ, 声帯結節との関連が注目されている.われわれは, 声帯結節31例をPGCの有無によってPGC (+) 16例, PGC (-) 15例に分類し, 比較検討した.その結果, 1.PGC (+) 群では硬起声や, 起声時の声帯の過内転が高頻度にみられ, PGCと過緊張性発声の関連が示唆された.2.声帯結節31例の音声は, 平均すると気息性を特徴とする軽度の嗄声で, 総合的嗄声度ではPGC (+) 群がPGC (-) 群より悪化していた.音響分析の結果には両群間に差はなかった.3.PGC (+) 群はPGC (-) 群より発声時の声門間隙が大きく, 呼気流率の上昇と発声持続時間の短縮がみられた.
著者
浜 雄一郎
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.284-288, 1996-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
2

「サ」行構音障害が認められる成人の歯間性構音者16名および正常構音者16名について, VCV音節からなる検査音“asa”の子音部 [s] のFFTによるパワースペクトログラム分析を行い, スペクトル包絡線で囲まれた部分の高域部 (4kHz~8kHz) と低域部 (0kHz~4kHz未満) の面積比を求め, 正常構音 [s] と歯間性構音 [θ] の音響学的相違について検討を行った結果, 以下の結論を得た.1. FFTによるスペクトル包絡線で囲まれた部分の高域部と低域部の面積比を求めることにより, 子音 [s] の正常構音群と歯間性構音群を分離でき, [s] 構音の特徴を客観的に評価することが可能となった.2. 正常構音 [s] では, 低域部に対する高域部の音声スペクトルの面積比が1.35以上であった.3. 歯間性構音 [θ] では, 低域部に対する高域部の音声スペクトルの面積比が1.30以下であった.
著者
森 寿子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.157-171, 1981-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
53
被引用文献数
1

Investigation of clinical sense and the problem of non-verbal intelligence testing was undertaken for 45 cases of hearing and speech handicapped children. All test cases were under the age of 12 and had speech training for more than three years. Non-verbal intelligence testing was effective for evaluating their intelligence and the effects of speech training.1) (a) None of the 45 cases underwent non-verbal intelligence testing previous to visiting our clinic, and as a result 90% of them had been evaluated as having lower intelligence, while 10% were judged to be mentally deficient. Following non-verbal intelligence tests at our clinic, of 39 cases who had been diagnosed mentally deficient in addition to other lesion, 36 cases showed normal non-verbal intelligence and 3 cases showed border-line intelligence. On the other hand, 6 cases who had been diagnosed as having a hearing loss only or a cleft palate only were shown to be mentally deficient as well.(b) As concerns the cause of impaired speech for the 45 cases, of 36 cases with normal non-verbal intelligence, 21 cases showed perceptive hearing loss, 7 cases were obscurr, 5 cases were epileptic, and 3 cases resulted from other causes. Three cases of border-line non-verbal intelligence showed impaired speech in addition to abnormal behavior whose cause was obscure. Six cases of retarded non-verbal intelligence showed mental deficiency in addition to hearing loss or cleft palate.2) As a result of our speech training extending over more than three years, of 27 cases (60% of total), 26 cases of normal non-verbal intelligence and 1 case of border-line intelligence were developed, and verbal intelligence reached a level equal to that of non-verbal intelligence.3) Non-verbal intelligence testing is important as a basic discernment test on speech handicapped children and as a clinical method for evaluating learning, hearing and speech ability.4) There remain certain problems and limitations as the results of speech training are evaluated by non-verbal intelligence testing only. The role of non-verbal intelligence in the speech learning process must also be defined in relation to speech learning ability. New tests should be designed for this purpose.
著者
井村 純子 春原 則子 宇野 彰 金子 真人 Wydell Taeko N. 粟屋 徳子 後藤 多可志 狐塚 順子 新家 尚子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.165-172, 2011 (Released:2011-04-28)
参考文献数
24
被引用文献数
4

典型発達児と発達性読み書き障害 (DD) 児における漢字書字の特徴の相違を明らかにするため, 「小学生の読み書きスクリーニング検査 (STRAW) 」を用いて, 通常学級在籍の典型発達児708名とDD児21名の漢字単語書取の反応を比較, 検討した. DD児21名全員に音韻情報処理過程と視覚情報処理過程双方の障害を認めた. 漢字書字においてDD群は典型発達群に比べ無反応が多く, また形態的に似ていない非実在文字を書く傾向があった. さらに漢字の構成要素間の間隔が広いという特徴や, 文字が傾く特徴が認められた. DD群の漢字書字には視覚的な情報処理機能の低下が影響している可能性が示唆された. 典型発達群では正答率と音声提示による親密度との間に有意に高い相関を認めた一方, DD群では正答率と音声提示による単語心像性および画数との間に有意に高い相関を認めた. これらの知見は, DD児の漢字書字指導において考慮されるべきであると考えられた.
著者
佐竹 恒夫 飯塚 直美 伊藤 淳子 東川 健
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.354-373, 1993-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
32

音声記号の受信 (理解) 面に比し発信 (表現) 面に極端な遅れがみられ, 国リハ式〈S-S法〉言語発達遅滞検査で症状分類B群 (音声発信困難) と分類された, 自閉症を伴う精神発達遅滞児4症例の発信行動の習得経過を, 発信行動の習得過程を分析するため作成した発信行動習得モデルを用いて分析した.その結果, B群のサブタイプa (文字・身振り記号・音声模倣による訓練が有効) の中に, コミュニケーション態度は不良 (自閉症) で, 音声発信を習得する過程が, (1) 初期的および事物を表す身振り, (2) 口腔器官運動や単音・単音節などの模倣および自発発信, (3) 文字を補助とする異音節結合, (4) 音声模倣による異音節結合, 自力での音声発信が日常的に可能となる, 以上のような共通する経過を示す下位群が設定できることを示した.さらに, 音声発信困難をきたす関連要因, 訓練プログラムにおける文字と身振り記号の意義などについて検討した.
著者
大石 如香 菅井 努
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.123-133, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
29

左側頭葉病巣により健忘失語を呈した2例における二方向性失名辞の呼称の特徴とメカニズムについて検討した.症例1は53歳右利き女性.左側頭葉神経膠腫と診断され,左側頭葉前方を切除した.症例2は70歳右利き女性.左側頭-頭頂葉に脳出血を認めた.2例ともに流暢な発話と良好な復唱,自発話における失名辞,高頻度に見られる空語句や迂言,低頻度語における聴理解障害から二方向性の健忘失語と考えられた.2例に共通する失名辞の特徴として,(1)失名辞を呈した語に対し,名称を聞いても再認できない,(2)語頭音呈示により音韻的類似語が誘発される,(3)語頭音効果が乏しいといった症状が見られた.語彙理解に関する検討では,名詞の聴覚的理解や類似性判断等の言語-言語性課題の成績が低下していた.2例に見られた失名辞の背景として語彙理解障害が語彙選択障害の基盤になっている可能性が示唆された.
著者
藤生 雅子 光増 高夫 平野 実
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.2-7, 1988-01-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

妊娠に伴い著しいピッチの低下をきたした音声障害の1症例について, 声域, 話声域, および楽な発声時の声の基本周波数 (F0) を経時的に観察した.妊娠23週で, 声域の上限は6半音, 話声域の上限は9半音低下した.F0もB2まで低下した.出産後5カ月間経過観察した後, 保存的治療として音声治療を2カ月施行した.出産後の7カ月間, 声域の上限は妊娠前より5~15半音低い範囲で変動し, 経時的な声域拡大はなかった.話声域は上限が徐々に上昇し, 音声治療後はさらに上昇した.F0は音声治療後, わずかに上昇した.いずれの場合も妊娠前の状態にまでは回復しなかった.音声障害の発現について, エストロゲンのピアルロン酸に対する作用から若干の考察を加えた.