著者
櫻井 梓 岩崎 聡 古舘 佐起子 岡 晋一郎 小山田 匠吾 久保田 江里 植草 智子 高橋 優宏
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.321-327, 2021 (Released:2021-10-12)
参考文献数
17

人工内耳(以下,CI)装用者に対し,楽器を使用した集団的音楽トレーニングを実施し,方向感および語音聴取への効果について検討した.20歳以上のCI装用者で,かつ装用下での57-S語表での単音節の聴取成績が60%以上で,音楽トレーニング参加希望者18名のうち,検査等が実施できた14名を対象とした.全12回(1回60分×月2回)のグループレッスンで,1グループ当たり9名の2グループで実施した.音楽トレーニング前後で単音節,単語,日常会話文のいずれにおいても有意差は見られなかった.方向感検査のd値の平均も,トレーニング前後で有意差は見られなかった.また,音楽経験ありと経験なしとの2群間での検討においても,両検査ともに有意差は見られなかった.ただ,有効な症例もあったことから,詳細な評価方法,より効果的な音楽トレーニング法の構築が必要と考えられた.
著者
田口 亜紀 三瀬 和代
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.163-166, 2013-07-20

当科では1999年より音声治療を本格的に開始し,現在は医師1名,言語聴覚士3名で週に1回行っている.診断,治療方法の選択,終了のタイミングも医師とSTが同席し,相談のうえ決定している.初診時には,ST立ち会いの下,声帯や発声時の状態を詳細に観察した後,音声機能検査,Voice Handicap Index等の検査を追加する.症例の病態,患者の音声に対する不満や要求を確認したうえで,その症例にあった音声治療法を医師とSTが話し合って決定する.今回のパネルディスカッションでは音声治療の適応や,疾患について紹介した.さらに当科での音声治療の終了基準について話し,音声治療の長期化を避ける必要があることを述べた.最後に,音声治療終了にあたり,医師・STの役割について述べた.
著者
髙山 みさき 大西 英雄 城本 修
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.253-259, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
18

われわれはfunctional Magnetic Resonance Imaging(fMRI)を用いて,平仮名および片仮名の読字処理ルートと,表記妥当性が音読に及ぼす影響について検討した.健常成人29名に対して,平仮名もしくは片仮名で表記した表記妥当性が高い単語および表記妥当性の低い単語の音読課題を実施した.片仮名高妥当性課題は左右眼窩野,左紡錘状回,左中後頭回,左鳥距溝に,低妥当性課題は左中前頭回,左紡錘状回,左角回,右上前頭回,右上内側前頭回に活動を認めた.平仮名高妥当性課題では,左中眼窩野,左右中側頭回,左角回,左右中後頭回,右前方帯状回に,低妥当性課題は左中眼窩野,左紡錘状回に賦活を認めた.平仮名,片仮名はともに背側経路で処理され,読字処理に関与する脳部位は共通することが示された.さらに,表記妥当性は視覚的な認知や情報の統合に影響を与え,妥当性が低いほど処理負荷が強いことが示唆された.
著者
藤田 郁代 三宅 孝子 高橋 泰子 酒井 経子 秋武 美紀子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.6-13, 1977
被引用文献数
2 4

The present study was designed to investigate the process of syntactic recognition of heard sentences in aphasics, especially the effect of changes in word order on syntactic recognition.<BR>Comprehension performance of 27 aphasics was studied by using two types cf active and passive test senteces; sentences having basic word order and sentences having converse word order.<BR>The results comfirmed earlier observations reporting that comprehension of sentences having converse word order was significantly poorer than comprehension of sentences having basic word order. It was suggested that there were two strategies employed by aphasics; the word order strategy and the particle strategy. Subjects were classified into four groups according to ability to use the strategies.<BR>The correlation between the syntactic comprehension and the other variables was discussed.
著者
柳田 早織
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.305-313, 2019 (Released:2019-10-18)
参考文献数
30

過緊張性発声障害と内転型痙攣性発声障害は異なる音声障害として位置づけられているものの,音声症状や喉頭内視鏡所見が類似する場合や発声困難の訴えがあるものの診療場面で音声症状を捉えられない場合があり鑑別は容易ではない.両者の鑑別における言語聴覚士の役割は,音声治療により機能的要因を解除し,医師の診断を補完することである.試験的音声治療にて筋緊張緩和のための音声手技をいくつか試みて良好な反応が得られればまずは音声治療を実施することが鑑別の手掛かりとなる.しかしながら実際には適切な治療手技の選択に難渋する場合や治療経過のなかで心因の関与を疑うようなエピソードが患者から語られることもあり,言語聴覚士のみの介入が奏功しない場合もある.今後は鑑別困難な症例に対する治療効果を集積して共有するとともに心療内科等との連携体制も模索していくことが重要である.
著者
酒井 奈緒美 森 浩一 小澤 恵美 餅田 亜希子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.107-114, 2008-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

吃音者は変換聴覚フィードバック (AAF) 条件下で発話すると吃音が減少することが知られており, 特に遅延聴覚フィードバック (DAF) は訓練で利用されてきた.一般に訓練効果の日常への般化は困難であるため, 近年は日常で使用できる小型のAAF装置が開発されているが, その効果は主観的データや訓練室内のデータによって報告されているのみである.そこでわれわれは日常場面での耳掛け型DAF装置の客観的効果判定を目指し, DAFの即時効果がある成人1症例に対して, 約4ヵ月間電話場面で装置を適用した.その結果, 発話速度と吃頻度の低下が観察され, 日常場面における耳掛け型DAF装置の有効性が客観的に示された.また主観的評価からも, 回避傾向, 発話の自然性などの側面における改善が報告された.さらに4ヵ月間の使用後, 装置を外した条件下でも吃頻度の低下が観察されたことから, 一定期間の装用効果はcarry overする可能性が示唆された.
著者
窪薗 晴夫
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.281-286, 1997-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

最近の日本語韻律研究を概観し, この成果から音韻発達の研究にどのような知見・示唆が得られるか検討する.具体的には, 音節・音節量・アクセント・モーラ・イントネーションといった韻律現象の構造を, (i) ローマン・ヤコブソンが提唱した有標性理論 (有標・無標の考え方) と, (ii) 大人の文法・子供の言語獲得・失語症の3つの現象間の相関関係という観点から考察する.
著者
三木 祥男 新川 拓也 野原 幹司 奥野 健太郎
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.155-165, 2006-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
15

日本語の母音を音響的に検討し, 3つの音響的キューを見出した.第1の音響的キューは, 第2フォルマント周波数と第1フォルマント周波数の比であった.第2の音響的キューは, 第3フォルマント周波数と第2フォルマント周波数の比であった.これらは単一音響管モデルの摂動理論によって理論的に説明される.第3の音響的キューは, 第2フォルマント周波数と第3フォルマント周波数の中間領域での相対的強さと閾値から求められる.このキューは, マスキング現象に関係づけられる.84名の音声から3つの音響的キューの規準を定めた.これらの規準により「母音の話者正規化問題」を解決できた.この方法を障害音の音声分析に適用し, 異常構音を判定するのに有効であることを確認できた.
著者
山根 律子 水戸 義明 花沢 恵子 松崎 みどり 田中 美郷
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.172-185, 1990
被引用文献数
3 5

言語障害児における随意運動機能の発達を診断する一方法として, 田中, 西山らが考案した随意運動発達検査法を改訂した.本改訂では, 手指, 顔面・口腔, 躯幹・上下肢の3領域について, 計40の検査項目を設定し, 2歳0ヵ月から6歳11ヵ月までの健常児723名に同検査項目を実施した.この検査結果から, 各検査項目ごとの加齢に伴う達成傾向を検討したが, 舌運動に関わる一項目を除き, いずれも発達に伴い獲得される行動であることが示された.さらに, 健常発達からの逸脱の有無についての指標を得るために, 各検査項目ごとに, 通過率を基にしたプロビット変換を行い, 90%のこどもが達成する月齢を算出した.そして, これらのデータを基に, 臨床診断法として, 改訂版随意運動発達検査を構成した.
著者
笹沼 澄子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.442-447, 1995-11-20
参考文献数
27
著者
切替 一郎
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.250-262, 1986
被引用文献数
2

この30年間は, わが国が敗戦後の混乱よりようやく抜け出して, 今日みる如き経済大国にまで成長を続けてきた時期に相当する.同時に自然科学をはじめあらゆる科学の進歩はめざましく, 革命的な変化がみられている.<BR>わが学会も当初66名に過ぎなかった会員は, 30年後の今日では1, 261名となり, 毎年行われる学会の演題も12題から125題に増加していることから分かるように大きく発展した.<BR>その間にわが学会が果たした役割は大きい.各種の委員会活動, 音声言語医学の学術面および実地臨床面における進歩, 変遷について述べた.
著者
岩田 まな 佃 一郎
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.335-341, 2000-10-20
参考文献数
29
被引用文献数
2

1年以上当科でcommunication治療を継続した143例中, 学齢以上の段階でspeechが獲得できていない自閉症児24例について, その原因を推測した.<BR>(1) 全くspeechのない自閉症児群は24%, speechはあってもcommunicationがとりにくい症例を加えると約40%であった.<BR>(2) 全例に知能の遅れが認められ, speech獲得の大きな阻害要因と考えられた.しかしその中でも, 知能障害が特に強い群と, 自閉症状が前面に出ている群に大別できた.<BR>(3) 知能障害が強い群の中には大頭, C.P., 脳波異常をもつ症例および染色体異常, フェニールケトン尿症の疑いのある症例が含まれていた.<BR>(4) 発語失行を疑う症例が3例あった.<BR>(5) 状況判断の困難, 意思表現の困難など基本的communication能力が不十分なため, 自傷, 他害をもつ症例が半数以上を占めた.
著者
田中 美郷 三谷 芳美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.180-189, 1996-04-20
参考文献数
27
被引用文献数
2

言語獲得不能な重度脳障害者とのコミュニケーションのための音楽や歌の効果を調べるために, 東京都八王子福祉園に長期にわたり入園している6名の重度脳損が原因の最重度精神薄弱者に対して音楽療法を4回施行した.これら6名はすべて成人 (男2名, 女4名) で, 年齢は40~55歳の間にあった.これらの1群に音楽療法士がギター, ピアノ, キーボード, オートハープ, 太鼓, 鈴, マイクロホンなどの楽器を駆使して, 日頃聞き慣れているメロディーや歌を聞かせた.その結果, 6名中3名は全く言語刺激に反応しなかったが, 音楽刺激には訓練中ほとんど眠っていた1例を除いて5例は情緒的に反応した.特に幼児期から日常生活の中で母親が歌ってくれる歌を聞いて育てられた2名の反応は劇的であった.5名に観察された音楽に対する反応は, リズミカルな身体運動, 歌い出す, 発声する, 微笑する, ないし拍手などであった.これらの成績は, 音楽は重度脳損傷者の情緒反応を刺激する効果的手段であること, 加えてこの種のコミュニケーションを発達させるには, 幼児期から快適な音楽環境で育てられる必要があることを示している.
著者
村尾 愛美 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.177-184, 2017

<p>日本語を母語とする特異的言語発達障害児(以下SLI児)が格助詞の使用に困難を示すことが明らかになっている.このことから,格助詞の誤用が日本語のSLI児の臨床的指標の一つとなる可能性が示唆される.しかし,格助詞の自然発話および実験課題における誤用率は明らかになっていない.本研究では,SLI児の自然発話における格助詞の誤用率と実験課題における格助詞の誤用率を明らかにすることを目的とした.対象児は小学2~5年生のSLI児9例であった.本研究の結果,SLI児の自然発話の誤用率は1.5%であった.これに対して,実験課題の誤用率は53.1%であり,自然発話よりも著しく高かった.この結果から,日本語を母語とするSLI児を同定するためには,自然発話のみならず,実験課題も必要であることが示唆された.</p>
著者
清水 充子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.115-121, 2012 (Released:2012-06-11)
参考文献数
14

言語聴覚士が携わる脳血管障害による嚥下障害の臨床は, 急性期, 回復期, 維持期と幅が広い. 適切な評価に基づいた機能維持・向上訓練を, 安全性に配慮しつつ患者本人と家族や介護者のQOLを尊重し, 他職種との連携のうえに進めることが肝要である. 急性期は, 発症後に起こりやすい誤嚥性肺炎の予防につなげるばかりでなく, 早期に意識レベルの向上を図り患者の心理的サポートをしながらリハ意欲を向上させる役割も果たしている. 続く回復期は大きな回復を狙う重要な時期であるが, 最近は急性期を脱したばかりで覚醒状態に変動がある場合もまれではなく, 症状の変動に注意しながら訓練を導入する必要がある. 維持期は, より良い状態のより長い継続をサポートする役割がある. 介護領域でも口腔機能の向上や栄養改善へのアプローチが重要視され, 各職種の連携に期待がかかっている. 回復期の対応の一例として, 脳幹梗塞による摂食・嚥下障害例へのアプローチを紹介する.
著者
猪俣 朋恵 宇野 彰 酒井 厚 春原 則子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.208-216, 2016 (Released:2016-05-20)
参考文献数
30
被引用文献数
8 12

年長児の読み書き習得に関わる認知能力と家庭内の読み書きに関連した環境要因を検討した.年長児243名に対し,ひらがな1から3文字の音読と書取,音韻認識課題(単語逆唱,非語復唱),RAN課題,図形の模写と記憶課題,語彙課題を実施した.保護者には,家庭内で子どもが読書活動に従事する頻度,および家庭内で子どもに文字の読み書きを教える頻度について聴取した.重回帰分析の結果,RAN,単語逆唱,非語復唱の成績は音読成績を有意に予測したものの,環境要因に関する尺度は,音読成績に有意な貢献を示さなかった.書取については,RAN,単語逆唱,非語復唱,図形模写の成績,および家庭での書き指導頻度が有意な予測変数であった.年長児におけるひらがなの読み書き習得には,これまでに報告されている認知能力の貢献度が高い一方,書字の習得においては,家庭での文字指導頻度も関与している可能性が示唆された.
著者
川井田 政弘 福田 宏之 川崎 順久 塩谷 彰浩 酒向 司 辻 ドミンゴス 浩司 甲能 直幸
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.11-17, 1991
被引用文献数
1 2

非特異性喉頭肉芽腫の5例に対して副腎皮質ステロイド薬の吸入療法を主体とした保存的治療を行った.3例が挿管性, 他の2例が特発性の肉芽腫であった.挿管性肉芽腫の1例はネブライザーを用いて, dexamethasoneの吸入を行ったところ, 約6ヵ月間で治癒した.他の4例はbeclomethasone dipropionate inhaler (BDI) を用いて外来通院で治療したところ, 約1ヵ月ないし3ヵ月半で治癒した.なお, 全例とも不要な咳払いや大声を避けるように指導した.非特異性喉頭肉芽腫の発生原因として, 声門後部の微細な損傷と咳嗽や咳払いによる同部の強い閉鎖に起因する悪循環が考えられた.副腎皮質ステロイド薬の吸入療法では抗炎症作用による直接作用とともに, 間接作用としてこの悪循環を断ち切ることも効果発現に関与していることが考えられた.このうち, BDIの吸入療法は外来でも簡便に行うことができ, 治療法のひとつとして有用と思われた.
著者
小嶋 知幸
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.293-299, 2004-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1

シンポジウムの主題である発語失行に関して, 本稿では用語・症候・訓練をめぐる諸問題について, 筆者の臨床的知見に基づいて論じた.まず, 本症候を“失行”のなかに位置づける根拠としてDarleyらが挙げている (1) 音の誤りの非一貫性, (2) 随意運動/自動運動の乖離の2点について検証し, 本症候を“失行”の範疇で捕らえることの問題点について述べた.次に, 構音 (発話) 動作の拙劣を本態とする本症候の音の誤りを分類する際に, 音韻レベルの誤りにも用いられている「置換」という同一の用語を用いることの問題点について論じた.最後に, 本症候への訓練に関して, Squareらのトップダウン・マクロ構造アプローチとボトムアップミクロ構造アプローチという分類を参照しつつ, 筆者の考える訓練の基本的コンセプトについて論じた.
著者
物井 寿子 福迫 陽子 笹沼 澄子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.299-312, 1979-10-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
39
被引用文献数
14

Phonemic and sub-phonemic analyses were made of speech sound errors exhibited by 3 conduction and 3 Broca's aphasic patients in naming and word repetition tasks. The results indicated the following:1) In both the naming and word repetition tasks, errors for the conduction aphasics oc-curred both in consonants and vowels, while errors for the Broca's aphasics occurred selecti-vely for consonants.2) In both the naming and repetition tasks, the percentages of substitution errors and transposition errors in the conduction aphasics were 44% and 44%, respectively; in the Broca's aphasics, however, they were 71% and 17%, respectively.3) An analysis of the substitution errors in terms of the distinctive feature framework showed that the Broca's aphasics most frequent error sounds (50% of all errors) were those which were different from the target sounds only by one feature in both the naming and repetition tasks. In the conduction aphasics, on the other hand, errors were distributed almost at random in terms of the feature distance in the naming task, while the frequency of one-feature errors increased somewhat in the repetition task.On the basis of these findings, it was hypothesized that the differences in error patterns between the two types of aphasia reflected differences in the underlying mechanisms of the impairment in each type, i.e., in the conduction aphasics impairment at the level of phonological processing (phoneme retrieval and sequencing) was responsible for their speech sound errors, while in the Broca's aphasics impairment at the phonetic level of the speech production process (programming of articulatory movements), in addition to impairment at the phonological level (phoneme retrieval), was responsible for their errors.