著者
小渕 千絵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-6, 2021 (Released:2021-03-26)
参考文献数
25

声の韻律情報は,言語情報の意味,文法構造としての指標,感情理解や声の自然性に関与するとされているが,聴覚障害児者では,韻律情報の知覚や利用には限界があるとする先行研究が多い.そこで補聴器装用,および人工内耳装用の聴覚障害児者におけるアクセントやイントネーション,感情などの韻律情報に関する知覚や産生の研究に焦点をあて,自験例を含めて現状と今後の課題について検討した.いずれの報告にしても,補聴器装用児者の韻律情報の知覚や産生では,平均聴力や低周波数帯域の聴力程度,聴覚活用程度などにより不良となり,人工内耳装用児者では低周波数帯域の残聴の程度や対側の補聴器使用,装用時期,装用期間によって韻律情報の知覚や産生に影響した.これらの基準に当てはまらず韻律情報処理が可能な例や,音楽的なトレーニングにより改善する可能性も示唆されており,今後はさらなる要因検討や標準検査の開発などが必要と考えられた.
著者
重野 純
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.260-265, 2000-07-20
参考文献数
10
被引用文献数
1

生理的には正常なのに正しい音程が分からず, そのために正しい音程で曲を再生できない場合を, 生理的に問題がある場合と区別して認知的音痴と呼んだ.そして, 何がどうして分からないのかについて考えた.その際, (1) 音の高さにおける2種類の性質―ハイトとクロマ―, (2) 2種類の音感―絶対音感と相対音感―, (3) 音楽におけるカテゴリ知覚, の3つの側面から考察した.その結果, 認知的音痴は音名についても音程についてもカテゴリ知覚ができないことや, 音の高さや音程をカテゴリ記憶ではなく感覚痕跡記憶により記憶するため不確実な認知・再生しかできないことなどが原因として考えられた.さらに, 認知的音痴は相対音感を磨くことによりその解消が図られるのではないかということが示唆された.
著者
髙橋 三郎
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.191-195, 2017 (Released:2017-05-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

本研究は,学齢期の吃音児を対象とし,語頭と語末のバイモーラ頻度が吃音頻度に及ぼす影響を検討したものである.対象児は7歳から12歳の吃音児21名であった.対象児に,語頭と語末のバイモーラ頻度をそれぞれ独立に操作した4種類の3モーラの刺激語(「高-高」語,「高-低」語,「低-高」語,「低-低」語)を音読させた.その結果,語頭のバイモーラ頻度の影響は語末のバイモーラ頻度が低いときのみ認められた.また,語末のバイモーラ頻度の影響は語頭のバイモーラ頻度が低いときのみ認められた.これらの結果から,語頭と語末のバイモーラ頻度は単体では吃音頻度に影響を及さないことが示唆された.むしろ「低-低」語の吃音頻度が4種類の刺激語のうち最も高かったことから,語全体のバイモーラ頻度が吃音の生起に影響すると考えられた.
著者
高橋 三郎 伊藤 友彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.242-245, 2011 (Released:2011-10-06)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

本研究はバイモーラ頻度の違いが吃音頻度に与える影響について検討したものである. 対象児は学齢期にある吃音児15名であった. バイモーラ頻度の高い非語13語とバイモーラ頻度の低い非語13語の計26語を刺激語として用い, 呼称課題を行った. その結果, バイモーラ頻度が高い非語はバイモーラ頻度が低い非語よりも吃音頻度が有意に低かった. この結果から, バイモーラ頻度の違いが吃音頻度に影響を与えることが示唆された.
著者
村上 健 深浦 順一 山野 貴史 中川 尚志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.27-31, 2016 (Released:2016-02-23)
参考文献数
20

変声は14歳前後に完了するといわれている.今回,20代で声の高さの異常を他者に指摘されて初めて症状を自覚し,当科を受診した変声障害2症例を経験した.2症例とも第二次性徴を完了しており,喉頭に器質的な異常は認められなかった.話声位は男性の話声位平均値よりも高い数値を示したが,声の高さの異常に対する本人の自覚は低かった.初診時にKayser-Gutzmann法,咳払い,サイレン法により低音域の話声位を誘導後,低音域の持続母音発声から短文まで音声訓練を行い,声に対する自己フィードバックも実施した.訓練は1~2週に1回の頻度で実施した.2例とも訓練初回に話声位を下げることが可能であったが,日常会話への汎化に時間を要した.個性を尊重するなどの学校社会における環境の変化が,本人の自覚を遅らせ,診断の遅れにつながったのではないかと推測した.
著者
樋口 大樹 奥村 優子 小林 哲生
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.113-120, 2019
被引用文献数
2

<p>本研究では,幼児のひらがな読み書き習得における文字特性の影響を検討した.具体的には,文字の視覚的複雑度,大規模絵本コーパスを用いて求めた文字頻度,五十音表順位を文字特性の指標として用い,これらと国立国語研究所が公開している4・5歳児の読み書き正答率順位との関連を分析した.その結果,ひらがな読み正答率順位は,絵本中の文字頻度,五十音表順位と有意な相関を示した.一方,ひらがな書き正答率順位は,絵本中の文字頻度,五十音表順位に加え視覚的複雑度と有意な相関を示した.さらに,ひらがな文字を読みおよび書き正答率を基に正答率高,中,低群に分け,読み・書き正答率群を予測する文字特性を順序ロジスティック回帰分析を用いて検討した.その結果,ひらがな読みには文字頻度,ひらがな書きには文字頻度と視覚的複雑度が予測因子として有意であった.これらの結果は,ひらがな読み習得と書き習得で関与する文字特性が異なることを示しており,ひらがなの読み習得には絵本における文字への接触,書き習得には文字への接触に加え視覚処理が重要な役割を果たすことを示唆する. ただし,幼児の発話や自分の名前に含まれる文字の影響など検討されていない要因があり,幼児のひらがな読み書き習得の全体像を明らかにするためにはさらなる検討を行う必要がある.</p>
著者
宇野 彰 新家 尚子 春原 則子 金子 真人
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.185-189, 2005-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
15
被引用文献数
29 22

レーヴン色彩マトリックス検査 (RCPM) を小児用知能検査として活用することを目的として検討を行った.対象は東京近郊40万人都市における, 2つの公立小学校の2年生から6年生の通常学級の児童, 合計644名である.その結果, 2年生の平均点は29.5点, 1標準偏差は5.6であった.学年が上がるにつれ平均点は上昇し, 6年生では平均点33.0点, 1標準偏差は3.8であった.クロンバックのα係数やWISC-IIIとの相関係数から, 小児においても信頼性や妥当性の高い検査であることがわかった.以上の結果から, RCPMは小児の知能検査として有用であると思われた.
著者
岩田 重信 竹内 健二 岩田 義弘 小島 秀嗣 大山 俊廣 高須 昭彦
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.338-349, 1995-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
30
被引用文献数
2

われわれは声門下圧の直接測定とPS-77発声装置により, 空気力学的な面より, 声の高さの調節について検討を加えた。資料解析にはPI-100発声機能自動解析プログラムを用いた.測定パラメータは, 平均呼気流率, 声の強さ (dB) , 高さ (Hz) と声門下圧 (cmH2O) ならびに声門抵抗 (cmH2O/l/sec) , 声門下パワー (erg/sec) と喉頭効率である.9例の正常者 (コーラス部員男子4名, 女子5名) を選択し, 声の強さを一定にして, 低いピッチから高いピッチと, 高いピッチから低いピッチへと一息で連続的に上昇, 下降させた.成績: 男性と女性の間にピッチの上昇, 下降音階のパラメータに相違を認めた.女性ではピッチの変化に対する呼気流率, 声門下圧, 声門抵抗と声門下パワーは, 両者間に直接的な正の相関を認めた.男性では呼気流率, 声門下圧, 声門抵抗の値はピッチの増減 (100から400Hzの間) に対し, ほとんど変化を示さなかった.しかし, より低いまたは高いピッチ領域においてこれらの値は増加していた.声門下パワーは150Hz付近を最低とするくぼみ型を呈していた.喉頭効率は男女とも, 胸声ではピッチの増減に直接的に反応したが, ファルセットでピッチ上昇に対し著しく低下した.この連続ピッチ変化のうち, 胸声から中間声, 中間声から裏声の声区変換領域では, 男女とも喉頭効率は急激に低下しV型を呈した.
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 加我 牧子 松田 博史
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.388-392, 1999-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
4 2

特異的言語機能障害 (SLI: specific language impairment) 児の言語的発達と非言語的発達について認知神経心理学的な障害構造から検討した.その結果, SLI児では音読や復唱は可能であるが意味を理解することが困難であることから意味理解障害が中心症状と考えられた.SLI児は言語に関する意味理解力は障害されている一方で, 非言語的意味理解力は正常に発達していると思われた.同じ先天的障害例である, 非言語的能力も障害されている特異的漢字書字障害児と対称的であった.以上から, 言語的能力と非言語的能力は共通に発達していくだけでなく, 意味能力に関しては独立して発達していることが示唆された.
著者
小嶋 知幸 佐藤 幸子 加藤 正弘
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.141-147, 2002-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
7

重度発語失行例における軟口蓋破裂音/k/の構音訓練として, 構音点に対して冷却刺激を加える方法を試みた.症例は発症時53歳の男性.平成11年4月に発症した左中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を機に, 重度の発語失行を中核症状とする混合型失語を呈した.構音訓練開始から6ヵ月経過しても改善のみられなかった軟口蓋破裂音/k/の構音の改善を目的として, 構音点である奥舌と軟口蓋に対して冷却刺激を加える方法を考案し, 刺激前後での構音の成功率を比較した.その結果, 冷却刺激後に/k/の構音成績に有意な改善がみられた.これは, 構音点に対する末梢からの感覚刺激が正しい構音点を形成するための運動を促通した結果と考えられた.本方法は, 正しい構音動作を視覚的に呈示することが困難な音や, ダイナミックパラトグラフィの利用が困難な音の構音訓練法として簡便な方法であり, 臨床的に有効な手法であると考えられた.
著者
藤田 邦子 石川 裕治 中谷 基 熊倉 勇美
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.14-20, 1993-01-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
16
被引用文献数
1

失語症患者のジェスチャー表出能力の客観的な評価の試みとして, 表出されたジェスチャーを「構成要素」という考え方を用いて新たに分類し, 「構成要素の数」とその「内容の正確さ」という両側面から評価, 分析した.その結果, (1) 失語群は健常者群に比べ, 構成要素総数の有意な低下がみられた. (2) 失語症が重篤になるに従って, 構成要素総数も少なく, 絵カードに描かれているとおりの形態を2次元的に描くのみで動作を示さないことが多かった.これらは失語症のタイプとは関係なく観察された. (3) 質的分析の結果, 重度失語症例では描いた形態の大きさや正確さが不適切であり, さらにファンクションの数, 質ともに低く, 伝達性の低いことが確認された. (4) 非流暢性タイプの失語症者はジェスチャー伝達に停滞を示すことが多かった.以上の所見に若干の考察を加えた.
著者
北川 可恵
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.360-368, 2020 (Released:2020-12-11)
参考文献数
26

4歳5ヵ月時に人工内耳(CI)埋め込み術を受けた知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害(ASD)の症例を報告する.ASD特有の感覚の過敏さを認め,CIの調整を変更した後や感冒の罹患後にしばしばCIの装用が困難になった.CIの微調整と場面装用指導を繰り返し,推奨される装用閾値よりも児の受け入れられる範囲を優先した.CIの装用時間が延び,呼名への反応が確実になると,文字表出が増加した.11歳時にはみずからCIを装用したがり常時装用が定着したため,音声言語と文字単語の理解力が向上した.音声言語の表出は困難であったが,文字をコミュニケーション手段として使い,筆談でやりとりが行えるようになった.ASDの診断を受けてからCI埋め込み術を行ったため,児に対する保護者の理解や満足度は良好であった.ASDに知的障害を伴うCI装用児においてもCIにより聴覚活用を積み重ねることが外界に対する興味を広げ,コミュニケーション発達の基盤となることが示唆された.
著者
湯本 英二 岡本 和憲 佐々木 裕美 丘村 熙
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.145-151, 1987-07-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
8
被引用文献数
1

H/N比計算法あるいは測定システムに由来する, 真のH/N比との差およびピッチや振幅の変動が測定値に与える影響等について検討し, 以下の結果を得た.(1) 平均波を用いて調波成分を推定することはみかけ上の調波成分エネルギーを増加させ従ってH/N比を大きくする. (2) 基本周波数および振幅のゆらぎは雑音成分として計算され従ってH/N比を小さくする.また, 正常声にみられる程度の基本周波数のゆらぎは振幅のゆらぎよりも雑音成分に大きく寄与していた. (3) AD変換を含めた測定システム全体の誤差は無視しうる程度であった.たとえば, 基本周波数160Hz, 基本周波数のゆらぎ0.5%, 振幅のゆらぎ0.1dBで真のH/N比が10dBの仮想的音声はH/N比法によって10.9dBと測定されることになっる.
著者
谷 亜希子 川瀬 友貴 多田 靖宏
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.260-264, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
11

Werner症候群は遺伝性の早老性疾患で,早老性外観,白内障,皮膚の萎縮・硬化などに加え,音声障害も診断項目の一つである.今回,声帯萎縮と診断した患者が,遺伝子検査を行いWerner症候群と診断された.42歳女性.30年来の嗄声を主訴に受診した.粗糙性,気息性が強く,両声帯は瘢痕様で発声時の声門間隙を認めた.声帯萎縮と診断し保存的治療は効果が乏しく外科的治療は希望がなかった.皮膚の硬化や手指の拘縮に対し精査が行われ,遺伝子検査の結果,診断にいたった.Werner症候群では音声障害は80%の患者で自覚するといわれている.声帯萎縮に準じて治療されることが多いが確立した治療法はない.代謝異常や悪性疾患の合併もあり,音声障害についての積極的な治療の介入は難しいことが多いが,患者の希望に対応していくことが必要である.若年性の声帯萎縮症例ではWerner症候群の存在を念頭におき診断・治療を行う必要がある.
著者
角田 忠信
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-34, 1995-01-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
12

ツノダテストの概略を説明した.人の聴覚系は100Hz以上の音声帯域と99Hz以下の生物学的領域に大別される.中心脳には検査音の持つ純粋に物理的スペクトルによって左右の半球に振り分ける自動スイッチ機構があり, 音声帯域では言語音は左脳, 非言語音は右脳に選別する.スイッチ機構は生後6~9歳の言語環境によって, 日本型と西欧型に分かれる.日本型の特徴は持続母音は言語半球優位を示すことにあり, これが原点となって, 有機的な多くの自然音, 感情音, 邦楽器音なども左半球優位となる.一方, 非日本語圏の人はこれらが非言語半球優位となる.言語と情動の発達と固有の文化との間には密接な関係があると考えられる.99Hz以下には言語による差はないが, 40, 60系と年輪系という整然としたシステムが存在する.40系の特徴から, 人に根源的に備わった1秒の基本時間について論じた.
著者
角田 忠信
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-34, 1995-01-20
参考文献数
12

ツノダテストの概略を説明した.人の聴覚系は100Hz以上の音声帯域と99Hz以下の生物学的領域に大別される.中心脳には検査音の持つ純粋に物理的スペクトルによって左右の半球に振り分ける自動スイッチ機構があり, 音声帯域では言語音は左脳, 非言語音は右脳に選別する.スイッチ機構は生後6~9歳の言語環境によって, 日本型と西欧型に分かれる.日本型の特徴は持続母音は言語半球優位を示すことにあり, これが原点となって, 有機的な多くの自然音, 感情音, 邦楽器音なども左半球優位となる.一方, 非日本語圏の人はこれらが非言語半球優位となる.<BR>言語と情動の発達と固有の文化との間には密接な関係があると考えられる.99Hz以下には言語による差はないが, 40, 60系と年輪系という整然としたシステムが存在する.40系の特徴から, 人に根源的に備わった1秒の基本時間について論じた.
著者
永積 渉 三枝 英人 門園 修 山口 智 小町 太郎 伊藤 裕之
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.350-356, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
10

誤嚥に伴う頻回の肺炎発症や,吸引回数の過多などの問題は,患者や家族,介護者の負担となる一方,音声言語によるコミュニケーションは,たとえ重度の感覚性失語となって有意味語が使用できない状態に陥ったとしても,感情に伴う発声,咄嗟時の発声などの心情の表出が行えるものであれば,重要な機能として回復,もしくは保存すべきものであるといえる.したがって,音声を永続的に奪う誤嚥防止術を施行することは,たとえその結果,経口摂取が可能となるとしても,嚥下障害に対する治療を徹底的に行っても改善が得られない場合以外には,まず目指すべき望ましい方向性とはいえない.今回,わたしたちは,重度の嚥下障害を伴う感覚性失語症の患者に対して,音声表出および経口摂取の回復を行いえた症例を経験したので,その治療経過を報告したい.症例は48歳女性.1年前,左側中大脳動脈領域の動脈瘤破裂に対してクリッピングを受けるも,その2ヵ月後に施行された頭蓋形成術中に未破裂の小脳動脈瘤が破裂した.これに対して後頭蓋窩開放・減圧術が施行されるも重度の嚥下障害が発症・遷延したため気管切開,胃瘻造設が施行された.その後在宅療養中であったが,終日にわたり頻回な気管内吸引が必要な状態であったため,誤嚥防止術の適応として当科紹介.これに対して,本症例の嚥下障害の病態を解明し,それに対するアプローチを徹底的に行ったところ,気管孔閉鎖が可能となり,さらに経口摂取,音声表出の回復が得られた.
著者
田中 裕美子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.216-221, 2003-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

英語圏の特異的言語発達障害 (SLI) は文法形態素獲得の遅れを主症状とする文法障害である.5歳での発現率は7.4%で, 言語障害は青年期まで長期化する.SLI研究法は, 理論をデータから検証するトップダウン方式が中心であり, 異言語間比較が理論追求に寄与するところが大きい.本研究では, 幼稚園でのスクリーニングにより同定したSLI群, 健常群, 知的障害児群とで, 語順や名詞数という言語学的要因を変化させた文理解成績を比較した.その結果, SLI群では健常の言語年齢比較群や知的障害群とは異なる反応パタンが見られ, 言語情報処理能力の欠陥説を支持した.さらに, 臨床家にSLIと診断された3症例に文理解や音韻記憶課題を実施した結果, SLIの評価・診断法としての有用性が示唆された.言語発達の遅れを「ことばを話すか」という現象のみで捉えるのでなく, 「何をどのように話すか」といった言語学的視点などを含め多面的で掘り下げ的な評価法の確立が今後期待される.
著者
北 義子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-10, 2019

<p>乳児と養育者の関係性発達は出生直後から始まり,養育者によるケアがコミュニケーションのなかで与えられることによって,健全なアタッチメント(愛着)が形成される.近年,その基盤は養育者と情動を共有する間主観的コミュニケーションやコミュニケーション的音楽性にあるとされている.難聴児が自己および他者の情動や意図の認識に目覚め,養育者とのアタッチメント(愛着)を確立することは,機能的な言語発達や望ましい社会性を獲得するために重要である.この視点より,言語聴覚士の一臨床ビデオ映像を分析し,乳児期の難聴児に必要な「養育者と子の間主観的コミュニケーション支援」の一端を示し,その意義について考察した.今後言語聴覚士による間主観的コミュニケーション支援の方法が乳児期の難聴児ケアの視点から確立されることが望まれる.</p>
著者
神田 幸彦 原 稔
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.105-112, 2019

<p>日本における人工内耳小児の実態調査から人工内耳小児症例は増加し,両側人工内耳症例も増加傾向にある.両側人工内耳の効果は初回人工内耳よりも静寂時,雑音下においても語音明瞭度が優位に改善され,また方向性の改善や逐次人工内耳側からの聴取の改善,耳鳴の改善など有効な報告が多い.一方で一側ろうの症例のハンディキャップも近年クローズアップされ,海外では一側ろうへの人工内耳も開始され有効性も報告されるようになってきた.また,人工内耳術後の聴覚活用教育も重要であり,聴覚活用教育を強化する意味での音楽療法も効果的である.早期発見や,早期診断,早期補聴,ガイドラインのより良い方向への変遷,検査機器の進歩,補聴器や人工内耳の進歩,教育の進歩などより,難聴児にかかわる聴覚専門の言語聴覚士はさまざまな将来性豊かな可能性を秘めている.</p>