著者
遠藤 康男 粕谷 英樹
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.338-341, 1993
被引用文献数
3 2

嗄声における基本周期 (周波数) , 振幅系列のゆらぎを定量化するために比較的良く用いられるさまざまなゆらぎパラメータについて比較検討を行った.パラメータとしてjitter/shimmer factor, 変動指数, ジッタ/シマーパラメータを用いた.これらのパラメータと熟練した耳鼻科医がGRBAS尺度に関して評定した聴覚的評点との関係という観点から比較検討を行った.喉頭癌, 声帯ポリープ, 反回神経麻痺患者が発声した持続母音の52例を用いた実験により, ジッタ/シマーパラメータが病的音声の聴覚的印象と最も対応が良いことを示した.
著者
今泉 光雅 大森 孝一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.209-212, 2015

外傷や炎症,術後に形成される声帯瘢痕は治療困難な疾患である.その治療は,動物実験や臨床応用を含めて,ステロイド薬や成長因子の注入,種々の細胞や物質の移植などにより試みられているが,現在まで決定的な治療法がないのが実情である.2006年,山中らによってマウス人工多能性幹細胞(iPS細胞)が報告された.2007年,山中らとウイスコンシン大学のDr. James Thomsonらは同時にヒトiPS細胞を報告した.iPS細胞は多分化能を有し,かつ自己由来の細胞を利用できるため声帯組織再生の細胞ソースの一つになりうると考えられる.本稿では,幹細胞を用いた声帯の組織再生について述べるとともに,ヒトiPS細胞を,in vitroにおいて声帯の上皮細胞に分化誘導し,声帯上皮組織再生を行った研究を紹介する.
著者
遠藤 教子 福迫 陽子 物井 寿子 辰巳 格 熊井 和子 河村 満 廣瀬 肇
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.129-136, 1986-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
10

一側性大脳半球病変における麻痺性 (運動障害性) 構音障害患者26例 (左大脳半球病変群14例, 右大脳半球病変群12例) および, 正常者13例の発話サンプルについて, 5名の評定者が, 聴覚印象に基づき評価した結果, 以下の知見が得られた.1) 今回対象とした麻痺性構音障害群における評価成績は, 正常群とは明らかに異なっており, 話しことばの障害があると判定されたが, 障害の程度は全般に軽度であった.2) 障害の特徴は, 仮性球麻痺と類似していたが, 重症度など異なる面もみられた.3) 障害側を比較すると, 概して左大脳半球病変群の方が重度の障害を示した.4) 病変の大きさと話しことばの重症度との関係は, 明らかではなかった.5) 従来, 大脳半球病変による麻痺性構音障害は, 病変が両側性の場合に出現するとされていたが, 今回の結果は一側性病変でも出現し得るということを示唆するものであった.
著者
吉田 義一
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.95-110, 2000-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
112
被引用文献数
1

発声, 嚥下を司る疑核について, その運動ニューロンの局在, 細胞構築, 疑核への投射, 樹状突起展開を著者らの研究成績と関連文献を紹介した.研究は一貫してネコで形態学的に行われた.疑核は大きく3つの群に分けられ, その細胞柱は上オリーブ核尾側端から下オリーブ核尾側端の高さの間に存在した.吻側1/6は細胞密度は粗で茎突咽頭筋支配ニューロンがあり, 吻側半で中部2/6は密なる部で咽頭収縮筋, 食道筋, 前筋, 中程に口蓋帆挙筋, 尾側半3/6は粗で反回神経支配の4筋のものが認められ体部位局在, 分節的支配があった.疑核へは反対側の疑核, 両側の孤束核, 同側の腕傍核, 両側の中脳中心灰白質から直接投射がみられた.各咽頭収縮筋, 頸部食道筋, 各内喉頭筋支配運動ニューロンの樹状突起展開は各々上位中枢からの情報を受けるべく関連介在ニューロンに向っていて機能を反映しているのが伺えた.
著者
阿部 雅子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.239-250, 1987
被引用文献数
3 5

鼻腔構音と称していた構音障害について観察し, 以下の知見を得た.<BR>1) 鼻咽腔構音の音声をサウンドスペクトログラフにて分析した結果, 破裂音や摩擦音に相当する部位に, 低音部から高音部にわたるspike fillやフォルマント構造をもつ弱い雑音成分が認められた.また, 母音に相当する部分には鼻腔共鳴をあらわすフォルマントが認められた.<BR>2) X線映画, ファイバースコープ, ダイナミックパラトグラフにより, 構音器官の動態を観察した結果, 鼻咽腔構音の構音点は鼻咽腔閉鎖の行われる場所にあり, 破裂や摩擦の音は軟口蓋と咽頭壁でつくられる.そして, その際, 舌が口蓋に接して口腔が閉鎖され, 呼気や音声は鼻腔から出されることが明らかになった.<BR>3) この構音障害を表わす用語を検討した結果, 「鼻咽腔構音」 (nasopharyngeal articulation) が適切であると考えた.
著者
小林 範子 廣瀬 肇 小池 三奈子 原 由紀 山口 宏也
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.348-354, 2001-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
13
被引用文献数
4 2

痙攣性発声障害 (SD) に対する音声訓練の有効性を検討するために, SDと診断された患者17名に対して訓練を実施した.喉頭の過緊張の軽減に有効とされる6種類の訓練手法と発話速度低下の訓練を組み合わせて使用した.音声症状の評価は, 3名の言語聴覚士による「喉詰めの度合い」の聴覚印象評価によって行った.17名のうち9名が音声の改善と結果に対する患者自身の満足に基づいて訓練を終了し, 2名が通院困難のために訓練中止, 6名が音声改善中のために訓練継続という結果であった.訓練終了例の年齢, 病悩期間, 訓練回数, 初診時の重症度には共通点が認められなかった.重度の音声症状が軽度にまで改善して訓練を終了したものが4例あった.「ため息発声」, 「気息声」, および発話速度低下訓練が多くの症例に有効な訓練手法であった.本研究の結果は, SDに対する治療法の一つとしての音声訓練の有効性と訓練の実施方法を示唆するものと思われる.
著者
酒井 奈緒美 森 浩一 金 樹英 東江 浩美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.27-35, 2017 (Released:2018-03-15)
参考文献数
38
被引用文献数
1

吃音を主訴とする自閉性スペクトラム障害(以下ASD)の青年に対し,自身の流暢な発話場面のみからなる映像を視聴する,ビデオセルフモデリング(以下VSM)を導入した.最初に作成・提供した映像は,発話は流暢であるもののASDに特徴的な行動を含んでおり,症例が拒否的な反応を示したため視聴を中断した.その後,ASDの特徴を制御した発話行動を撮影してビデオを作成し直し,約3ヵ月の視聴を行った(言語訓練も並行して実施).その結果,①自由会話の非流暢性頻度の低下,②発話の自己評価と満足度評価の上昇,が認められた.視聴後の感想では,映像視聴によって自身の話せているイメージを初めてもてたことが報告された.自己モニタリングが難しいASDの特徴を有する吃音者へのVSM訓練は,映像がASDに関するセルフフィードバックとして機能する可能性に留意すべきという注意点はあるものの,吃音の問題改善に有効であることが示された.
著者
三島 佳奈子 堀口 利之 野島 啓子 三宅 直之 磯崎 英治
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.204-210, 1997-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

薬効ピーク時に移動能力, ADLが向上する一方で, 一時的な起声困難が出現する若年性パーキンソン病患者を経験した.本症例の起声困難はドラッグコントロールにより改善しており, 薬物 (L-DOPA) に起因するすくみ現象による声帯の内転障害と考えられた.同一個体内で歩行と発声という異なる運動間ですくみ現象が時間的解離をもって出現した原因について考察した.結果, 同一個体内においても四肢・体幹と喉頭ですくみ現象の発現機序に相違がある可能性, あるいは薬物の治療閾値がおのおのの筋において異なる可能性を考えた.また, 本症例の起声困難には“kinesie paradoxale”を伴っており, 声帯のすくみ現象には発声を他の目標行動に変換して誘発する方法が有用であった.A 62-year-old man with juvenile Parkinson's disease was reported. When L-Dopa was working the patient felt difficulty in voicing although he could walk smoothly. Meanwhile, when L-Dopa was not working his difficulty in voicing disappeared but he was unable to walk. This discrepancy between voicing and walking is disussed.Laryngofiberscopic examination showed the following intriguing findings. When L-Dopa was working the patient's vocal cords assumed the hyperabduction position. Also, during an attempts at phonation, the vocal cords developed a tendency to adduct but were unable to. This movement seemed to correspond to a“freezing”phenomenon in walking. The adduction tendency of the vocal cords ameliorated temporazily by voluntarily making a cough instead of voicing. Such a phenomenon appeared as a freezing of vocal cord movement with kinesie paradoxale.Two hypotheses were raised to explain this “see-saw” phenomenon between voicing and walking. First, the mechanism of the freezing phenomenon might differ for voicing and walking. Second, the threshold for the effectiveness of L-Dopa might differ for the intrinsic laryngeal muscles controlling voicing and for the limb and truncal muscles controlling walking. The task of hawking which we attempted was very useful in speech therapy on PD patients who exhibited the freezing phenomenon of the vocal cords with kinesie paradoxale.
著者
三島 佳奈子 堀口 利之 野島 啓子 三宅 直之 磯崎 英治
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.204-210, 1997-04-20
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

薬効ピーク時に移動能力, ADLが向上する一方で, 一時的な起声困難が出現する若年性パーキンソン病患者を経験した.本症例の起声困難はドラッグコントロールにより改善しており, 薬物 (L-DOPA) に起因するすくみ現象による声帯の内転障害と考えられた.同一個体内で歩行と発声という異なる運動間ですくみ現象が時間的解離をもって出現した原因について考察した.結果, 同一個体内においても四肢・体幹と喉頭ですくみ現象の発現機序に相違がある可能性, あるいは薬物の治療閾値がおのおのの筋において異なる可能性を考えた.また, 本症例の起声困難には"kinesie paradoxale"を伴っており, 声帯のすくみ現象には発声を他の目標行動に変換して誘発する方法が有用であった.<BR>A 62-year-old man with juvenile Parkinson's disease was reported. When L-Dopa was working the patient felt difficulty in voicing although he could walk smoothly. Meanwhile, when L-Dopa was not working his difficulty in voicing disappeared but he was unable to walk. This discrepancy between voicing and walking is disussed.<BR>Laryngofiberscopic examination showed the following intriguing findings. When L-Dopa was working the patient's vocal cords assumed the hyperabduction position. Also, during an attempts at phonation, the vocal cords developed a tendency to adduct but were unable to. This movement seemed to correspond to a"freezing"phenomenon in walking. The adduction tendency of the vocal cords ameliorated temporazily by voluntarily making a cough instead of voicing. Such a phenomenon appeared as a freezing of vocal cord movement with kinesie paradoxale.<BR>Two hypotheses were raised to explain this "see-saw" phenomenon between voicing and walking. First, the mechanism of the freezing phenomenon might differ for voicing and walking. Second, the threshold for the effectiveness of L-Dopa might differ for the intrinsic laryngeal muscles controlling voicing and for the limb and truncal muscles controlling walking. The task of hawking which we attempted was very useful in speech therapy on PD patients who exhibited the freezing phenomenon of the vocal cords with kinesie paradoxale.
著者
石毛 美代子 村野 恵美 熊田 政信 新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.154-159, 2002-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
21
被引用文献数
4 3

内転型痙攣性発声障害 (Adductor spasmodic dysphonia: 以下SDと略す) 様症状を呈する9症例に音声訓練を行った.7段階尺度 (0: 正常~6: 最重度) を用いた訓練前後の重症度評価, および治療効果に対する患者の主観的評価の二つにより音声を評価した.9例中4例では満足すべき結果が得られた.4例中2例は, 初期評価において機能性要因が関与していることが疑われた例であったが, 音声訓練後には正常範囲の音声に回復し, 治療結果から最終的に機能性発声障害と診断された.残る2例は初期評価の一環として行った試験的音声訓練において音声症状の軽減が認められた例であったが, 最終的にSDと診断された.以上より, SD様症状を呈する症例に対する音声訓練は鑑別診断上有効であることが示唆された.また, 音声訓練により症状の軽減が得られる症例が存在することから, 試験的音声訓練を試みるべきであると考えられた.
著者
上田 功
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.331-337, 1995-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
25
被引用文献数
1

幼児の構音異常を記述し評価する方法に, 自然音韻過程分析 (Natural Process Analysis) もしくは単に音韻過程分析 (Phonological Process Analysis) があるが, これは言語学的にみて, 理論的基盤を自然音韻論に置くものである.この評価法は欧米においては非常にさかんに用いられており, わが国においても, 最近援用される機会が多くなってきている.本論ではこの自然音韻過程分析を, 主として言語学的立場から検討し, はじめに基盤となる自然音韻論の中核となる概念を紹介し, その理論的問題点を指摘し, 次に自然音韻過程分析では説明しえない症例を紹介することによってこの分析法の限界を示し, 最後にこれらを踏まえたうえで, 自然音韻過程分析を臨床に応用する際の簡単なガイドラインを提示する.
著者
一色 信彦
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.15-21, 1966-05-01 (Released:2010-06-22)
参考文献数
12
被引用文献数
9 6
著者
宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 片野 晶子 狐塚 順子 後藤 多可志 蔦森 英史 三盃 亜美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.245-251, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

本研究の目的は, 発達性ディスレクシア (DD) と後天性の大脳損傷によって生じる失読失書例との共通点と相違点について要素的認知機能の発達や局在化に関して検討することである. DD群は10名の右手利き例である. 失読失書例は右利きの男児2名である. 失読失書症例KYは8歳にてモヤモヤ病術後, 脳梗塞にて軽度失語症を発症し, その後軽微な失語症とともに失読, 失書症状が認められた発症半年後から追跡している症例である. 症例MSは, 8歳時の脳梗塞により健忘失語が観察された10年以上追跡してきている現在21歳の症例である. いずれも, 失語症状は軽微で失読失書症状が中心となる症状であった. SLTAではDD群, 失読失書例ともに読み書きに関連する項目以外は定型発達児群と差がなく音声言語にかかわる項目は正常域であった. DD群における局所血流低下部位は左下頭頂小葉を含む, 側頭頭頂葉結合領域であった. また, 機能的MRIを用いた実験により, 左下頭頂小葉にある縁上回の賦活量に関して典型発達群と比較して異なる部位であった. 一方, 失読失書2例における共通の大脳の損傷部位は左下頭頂小葉であった. DD群ではROCFT (Rey-Osterrieth Complex Figure Test) において遅延再生得点が平均の-1SDよりも得点が少なかったが, 失読失書2例においてはともに得点低下はなかった. 一方, 発達性ディスレクシアと後天性失読の大脳機能低下部位は類似していたが, 非言語的図形の処理能力は, 発達性ディスレクシア群で低く, 後天性失読例では保たれていた. 後天性言語的図形である文字と非言語的図形の処理は, 少なくとも8歳までの発達途上で機能が分離されてきているように思われた.
著者
都筑 澄夫
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.344-349, 2002-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
6
被引用文献数
4 2

われわれは, 成人の吃音には発話にかかわるパラリンギスティックな要因である幼児期からのエピソード記憶に対する情動系の負の働きが関与していると考えている.進展段階第4層の吃音者39人 (12~68歳) を系統的脱感作を組み込んだメンタルリハーサルで治療した結果から, 記憶に対する情動反応の可塑性について検討した.場面への恐れと発話の状態について7段階の評価尺度を設け, 吃音者が自分で評価した.結果は全症例の36%が日常生活で吃音に煩わされないレベルまで改善したとともに, 吃音者意識がなくなった.38%の症例は改善したが恐れと発話症状の消失にはいたらなかった.そして26%の症例は改善しなかった.治療結果からエピソード記憶に対する負の情動反応の減少が吃音の改善に関係していること, および従来成人の吃音は治らないとされてきたが, 成人の発達性吃音であっても日常生活場面にて吃音に煩わされないレベルまで, 一定の割合で改善できることが示された.
著者
鈴木 勉 物井 寿子 福迫 陽子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.159-171, 1990
被引用文献数
5

失語症患者に対する仮名訓練法を開発した.これは, 単音節語 (漢字1文字で表記) をキーワードとし, その意味想起の手がかりとして, キーワードを初頭に含む複合語 (ヒント) を利用する方法である.<BR>本法を3例の失語症患者 (重~中等度ブローカ失語2例, ウエルニッケ失語1例) に実施したところ, 3例とも仮名1文字の書取り及び音読能力に改善が認められた.ただし到達レベルは, 単語から文章まで症例により異なった.<BR>本法は, 多音節語をキーワードとした仮名訓練では成果の上がらなかった重度例にも適応可能であった.本法の適応のある患者は, 次の3条件, すなわち (1) 漢字の書字の学習力が保たれている, (2) 単語の復唱が可能, (3) 訓練意欲が高い, を満たす患者であった.
著者
西尾 正輝 新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.9-20, 2002-01-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
20
被引用文献数
5 6

Dysarthriaにおける音節の交互反復運動 (oral diadochokinesis) について, 健常者群と比較してタイプごとに検討し, 以下の結果を得た.1) いずれのタイプにおいても/pa//ta//ka/の3種の音節で反復速度は有意に低値を示し, また発話明瞭度検査で検出困難な側面の発話の異常徴候を鋭敏に検出することが示された.2) いずれのタイプにおいても, /pa//ta//ka/のほぼすべての音節で音節の持続時間の変動係数は有意に高値を示し, 発話機能の異常徴候を鋭敏に検出するパラメーターであることが示された.3) 失調性dysarthriaでは, /pa//ta//ka/の3種の音節で最大強度の変動係数は有意に高値を示し, 発話機能の異常徴候を鋭敏に検出するパラメーターであることが示された.4) 音節の持続時間と最大強度の変動係数は, 明瞭度とは大きく異なる側面の発話機能の異常徴候を特異的に反映することが示された.
著者
熊倉 勇美
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.224-235, 1985
被引用文献数
16 12

舌癌術後の60症例に対し, 聴覚印象による明瞭度の評価ならびに修復後の舌の量とその可動性の直接的観察をおこない, 舌切除後の構音機能に関して以下のような結論を得た.<BR>(1) 舌の切除範囲が広くかつ大きくなるほど, 舌のボリュームは小さくなり, その可動性もまた制限され明瞭度は低下する. (2) いわゆる舌半側切除よりもさらに広範囲な切除になると, PM-MC flapによる再建の方が非再建例に比べて明瞭度は良好である. (3) 一般に術後に一度低下した明瞭度は6ヵ月までに回復し, その後はPlateauとなる.またPM-MC flapによる再建の場合には, 一度改善した明瞭度が, 再び舌容量の減少につれて低下する場合がある. (4) 構音障害の特徴に関しては舌尖や舌背後部による閉鎖が得られず, 構音様式では閉鎖音が摩擦音・破擦音に, 構音点では歯茎音や軟口蓋音が両唇音・声門音などに聞き取られる傾向を示す.その他, 咬合異常, 顔面神経の下顎枝のマヒ, 唾液の貯溜なども明瞭度を低下させる条件となる. (5) 明瞭度が70%以上では社会復帰が可能であるが, それ以下になると実用性は低くなる.
著者
佐竹 恒夫 外山 浩美 知念 洋美 久野 雅樹
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.349-358, 1994-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
10

言語発達遅滞児および聴覚障害児の言語発達における会話能力を語用論の観点からとらえるために質問―応答関係検査を作成した.これを健常児に実施して得た発話内容について, 誤答分析を含めて, 言語発達の加齢に伴う質的な変化を分析した.2歳前半では無反応および現前事象が特徴的であった.2歳後半から3歳では発話量が増えるが冗長であり, 自己経験的・連想的な応答や, 会話が逸れる例が観察された.4歳台では2~3歳に特徴的な誤りは減少し, 系列的説明が可能となり話題が継続した.5~6歳では会話の相手を考慮し要約的に説明することができた.質問―応答関係を含む会話能力の発達段階を, 1) 2歳前半の無反応 (NR) ・現前事象の段階, 2) 2歳後半~3歳前半の自己経験・連想の段階, 3) 3歳後半~4歳台の意味ネットワークの段階, 4) 5~6歳のメタコミュニケーションの段階, 以上のように設定した.
著者
飯髙 玄 冨田 聡 荻野 智雄 関 道子 苅安 誠
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.327-333, 2018 (Released:2018-09-15)
参考文献数
27
被引用文献数
2

パーキンソン病(PD)患者の発話特徴の一つである単調子(monopitch)は,発話の明瞭さと自然さを低下させる.本研究では,日本語を母国語とするPD患者のmonopitchが,体系的訓練LSVT®LOUD(LOUD)により改善するかを調べることを目的とした.対象は,2011〜2016年にLOUDを実施したPD患者40例のうち35例(平均年齢66.0歳)と健常者29例(平均年齢68.0歳)とした.音読から選択したイントネーション句の話声域speaking pitch range(SPR),音読と独話でのmonopitchの聴取印象評定(4段階)をmonopitchの指標とした.音読と独話での平均音圧レベル,発話明瞭度(9段階)と発話自然度(5段階)も評価した.訓練前後で比較すると,音読でのSPRは,10.5半音から13.1半音と有意に大きくなり(p<0.01),健常対照群とほぼ同レベルまで改善した.monopitch,発話明瞭度,発話自 然度の聴取印象評定は,いずれも訓練後に有意に改善していた(p<0.05).平均音圧レベルは,音読・独話とも,訓練後に有意に増加した(p<0.01).LOUDは,日本語を母国語とするPD患者の小声だけでなく,monopitchにも有効であることが示された.