著者
松阪 綾子 伊藤 暁生 粟野 由梨佳 殿原 真生子 横溝 香
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.105-111, 2021-06-25 (Released:2021-07-02)
参考文献数
23

食肉製品中の亜硝酸根含量は,ジアゾ化法による定量法が用いられる.この測定法は,試料中にアスコルビン酸,システインなどの還元物質が存在すると,それらが定量妨害となり亜硝酸根の測定値が低くなることが知られている.一方,食肉製品に原材料として使用される,醤油,魚醤やみりんが有している抗酸化作用が,この還元物質に該当するのではないかと推測し,これらを使用している食肉製品について検討を実施した.検討の結果,原材料として醤油や魚醤が使用されている食肉製品中における亜硝酸根分析において,定量妨害が認められる場合があった.ただし,醤油や魚醤はその製法により抗酸化力に差があることから,これらを含んだ食肉製品において,亜硝酸根の定量妨害が一律に生じるとは言及できない.しかしながら,醤油や魚醤を含んだ食肉製品中の亜硝酸根含量を測定する場合は,亜硝酸根の定量妨害が生じることを考慮し,異なる試料量を用いて同時に定量を実施し,定量値に差が生じていないかを確認する必要があると考えられる.
著者
大八木 伸 盛田 隆行 小西 良子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.79-84, 2021-06-25 (Released:2021-07-02)
参考文献数
21

ゆでめん類は水分含量が多く,水分活性が高いために腐敗しやすい食品の1つとなっている.そのため製めん業ではHACCPマニュアルを参考とした衛生管理を行うことが推奨されている.しかし,中小企業のゆでめん工場で包装後の製品から一般生菌数が自主基準より高く出る事例が数例あった.その微生物汚染源を特定するために, PDCAサイクルを基本として検討を行った.その結果,汚染原因は環境由来菌であり,殺菌後の冷却工程で二次汚染されたこと,水洗冷却工程の強い水流により環境浮遊菌および酸素が水洗冷却槽に取り込まれ冷却水中の微生物の増殖を招き,最終製品を汚染することが示唆された.このような現象が起こることは,HACCPマニュアルでは提示されておらず新しい知見であり,本知見が今後のHACCPプラン構築に貢献することが期待できる.
著者
上野 健一 細川 葵 橋本 諭 及川 寛 柴原 裕亮 松嶋 良次 渡邊 龍一 内田 肇 鈴木敏 之
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.85-93, 2021-06-25 (Released:2021-07-02)
参考文献数
32
被引用文献数
1

二枚貝の麻痺性貝毒(PSTs)はマウス毒性試験(MBA)で検査されているが,動物愛護に対する社会的関心の高まりとともに高感度・高精度なPSTs分析法も開発され,動物実験代替法の利用が可能となった.本研究では,PSTsのモノクローナル抗体を利用したイムノクロマトキットによるスクリーニング法の開発を試みた.食品衛生法規制値(4 MU/g)を下回る2 MU/gをスクリーニング基準として試験液の希釈倍率を80倍とした条件で試験した.目視に加え,画像解析判定も併せて検証した.MBA 2 MU/g以上の20試験品はすべて本キットで陽性を示し,偽陰性はなかった.また,2 MU/g未満の327試験品のうち偽陽性は3%であった.以上のように,本法は高い正確度を示し,迅速・簡便なPSTsスクリーニング法として有用であることが示された.
著者
増本 直子 西﨑 雄三 中島 馨 杉本 直樹 佐藤 恭子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.73-78, 2021-06-25 (Released:2021-07-02)
参考文献数
22
被引用文献数
3

既存添加物であるカラシ抽出物およびセイヨウワサビ抽出物の品質確認試験として,市販のイソチオシアン酸アリル(AITC)試薬を標品とするGC-FID法が公定法としてあるが,AITC標品に不純物の存在が確認されていた.そこで,AITCとは別の高純度なシングルリファレンス(SR)を標品とし,より正確にAITCを定量するGC-FID法およびLC-RID(示差屈折率検出器)法を検討した.それぞれのクロマトグラフィー条件下におけるAITC/SRの相対モル感度(RMS)を,定量1H-NMR(qNMR)を用いて正確に決定した.このRMSを用いたSR GC-FID法およびSR LC-RID法から算出された製品中のAITC含量は,製品に対して直接qNMR法で算出されたAITC含量と2%以内で一致した.SR法は,従来法よりも正確なAITC含量の算出が可能である.
著者
一色 賢司 津村 周作 渡辺 忠雄
出版者
Japanese Society for Food Hygiene and Safety
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.344-349, 1983-06-05 (Released:2009-12-11)
参考文献数
9
被引用文献数
9 9

防カビ剤及び防虫剤の摂取レベルについて検討を加え, 次のような結果を得た.1) 7家庭より採取した1人1日分の喫食直前の飲食物 (陰膳) から防カビ剤が検出された. 平均含有量はジフェニル165μg, オルトフェニルフェノール24μg, チアベンダゾール33μgであった.2) 国民栄養調査による果物の摂取量を基にして可食部に由来する防カビ剤の1人1日当りの摂取量を算出した. その結果得られた防カビ剤の摂取量は, ジフェニル0.29μg, オルトフェニルフェノール0.09μg, チアベンダゾール0.04μgであった.3) 7家庭のいずれの陰膳からも防虫剤ピペロニルブトキサイドは検出されなかった.4) 穀類の摂取量を基にして防虫剤の1人1日当りの摂取量を算出したところ, 1.77μgという値が得られた.
著者
笠原 義正 伊藤 健 沼澤 聡明 和田 章伸
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.364-369, 2013
被引用文献数
5

野生のトリカブトの葉や根などに含まれている4種のアコニチン類(AC類)をLC-MS/MSを用いて一斉定量した.また,マウスに対する毒性とAC類の定量値との関係を検討した.野生のトリカブトの葉,根,花弁,蜜腺に含まれるAC類を定量した結果,おのおの5.9,928.1,46.1,69.8 μg/gで,根の次に蜜腺の含有率が高かった.また,市販のはちみつを検査したが,AC類が検出されたものはなかった.トリカブトの根エキスのマウス毒性とAC類の定量結果は良い一致を示した.また,AC類が検出されなかったウゼントリカブトにマウス毒性は観察されなかった.4種のAC類の加熱による変化では,0.5分間ゆでた葉のAC類含有量は31.6%に減少し,そのゆで汁に54.5%移行した.また,メサコニチンを加熱してベンゾイルメサコニンに変化することが確認されたので,これが検出されてもトリカブト属植物による中毒が示唆できることが分かった.
著者
吹譯 友秀 山﨑 翠 髙橋 和長 土井 崇広 川口 正美 榎本 啓吾 吉野 宏毅 内本 勝也 西村 真紀
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.65-72, 2021-04-25 (Released:2021-04-22)
参考文献数
7
被引用文献数
1

健康食品に含まれていたタダラフィルおよびタダラフィル構造類似物質であるノルタダラフィルおよびホモタダラフィルの立体配置を確認した.製品はインターネットで購入し,タダラフィルを検出したはちみつ加工品1製品および錠剤1製品ならびにノルタダラフィルおよびホモタダラフィルを検出した飴1製品を使用し,各製品から各成分を単離精製した後,円二色性(CD)分散計を用いてCDを測定した.その結果,各製品より単離精製した成分のCDスペクトルは6R,12aR体標準品のCDスペクトルと一致したことから,製品に含まれていた成分は6R,12aR体であると確認された.タダラフィルは6R,12aR体が立体異性体の中で最もホスホジエステラーゼ5阻害作用が強いという報告があることから,ノルタダラフィルおよびホモタダラフィルも作用の強さを期待して,6R,12aR体を製品に使用した可能性がある.
著者
小川 麻萌 岩越 景子 中嶋 順一 髙橋 夏生 坂牧 成恵 小林 千種
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.51-55, 2021-04-25 (Released:2021-04-22)
参考文献数
12

臭素化植物油(Brominated Vegetable Oil:以下BVOとする)の分析において,前処理として知られるメチル化について,その反応効率を算出する場合に有用と考えられた1H-NMRの適用性について検証した.検討の結果,BVOをメチル化した際,未反応物の構造に由来するメチン基と生成物の構造に特徴的なメチル基,およびおのおののプロトン数とそのシグナル積分比を用いて1H-NMRにより簡便にBVOのメチル化効率を算出することができた.また,1H-NMRのシグナルおよびGC上のピーク面積の経時変化から,計算により得られた結果とGCで定量した結果は相対的にほぼ一致していた.したがって,BVOのメチル化効率を算出する際に1H-NMRを適用することは有効であることが判明した.
著者
Hiroshi Fujikawa
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.37-43, 2021-04-25 (Released:2021-04-22)
参考文献数
29

Microbial risk assessment in food safety is a valuable tool to reduce the risks of infection by pathogens. The dose-response relation is aimed to establish the relationship between the dose of a pathogen that populations are exposed to and the probability of the adverse health effect by the pathogen. Among many dose–response models ever proposed, the exponential and beta-Poisson models have been internationally applied, but the decision on which model is selected between them solely depends on the goodness of fit to specific data sets. On the other hands, the log-logistic model, one of the alternative models, has been little studied on the dose–response relation. In the present study, thus, the application of the log-logistic model to dose–response relation was studied with hypothetical and experimental data sets of infection (or death), comparing to the above two models. Here the experimental data sets were for pathogenic organisms such as pathogenic Escherichia coli, Listeria monocytogenes, and Cryptosporidium pavrum. Consequently, this model successfully fit to those data sets in comparison to the two models. These results suggested that log-logistic model would have the potential to apply to the dose–response relation, similar to the exponential and beta-Poisson models.
著者
遠藤 明仁 加登 麻子 柳澤 成江 田中 寿一 市川 真里 柴崎 鮎美 川井 泰 増田 哲也
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.44-50, 2021-04-25 (Released:2021-04-22)
参考文献数
20

わが国は乳・乳製品のうち生乳のみを動物検疫の対象としていたが,2017年11月から新たに乳・乳製品の輸入検疫を開始した.口蹄疫発生地域から輸入する場合,ウイルス不活化のため72℃ 15秒の加熱処理等が求められ,輸入検査では一部の現物で加熱履歴を確認する.乳の加熱履歴確認は,IDF63等に準拠したアルカリホスファターゼ(ALP)活性測定法が有効だが,手順が煩雑で時間を要す.そこで,ALPの反応により生成された蛍光物質量を簡易迅速に測定する手法を基に測定を試みた.種々の条件で加熱したウシ,ヒツジ,ヤギの乳と各種乳製品を供試し,各動物種乳において72℃ 15秒とほぼ同等の加熱でALPが失活することを確認した.今回確立した方法は,IDF63等より簡易で,少量かつ短時間での測定が可能であった.また,材料を懸濁することで各乳製品の加熱履歴確認も可能であった.
著者
井上 薫 重田 善之 梅村 隆志 西浦 博 広瀬 明彦
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.56-64, 2021-04-25 (Released:2021-04-22)
参考文献数
19

本研究では,5種の毒性試験事例から得たさまざまな病理組織学的所見の発生頻度データに実際にベンチマークドーズ(BMD)法を適用し,本法を発生頻度データに適用する際の留意点をまとめた.事例検討の結果,重要な所見について,毒性学的意義や用量相関性等が担保できれば,病変の程度毎に発生頻度データがある場合はある程度以上の発生頻度に対して,あるいは重症度が高い続発性病変ではなく,より毒性学的意義があると判断された前段階の病変の発生頻度データに対して,BMD法を適用することは妥当であることが確認された.また,BMD法を適用する必要性が高く,入手した個別所見の発生頻度データでは毒性学的にも統計学的にも妥当な計算結果を得られない場合は,可能であれば個体別の病理組織学的検査データまで遡り,新たに求めた総括的な所見名(診断名)に対する発生頻度データに基づきBMD法適用を試みることを提言した.BMD法適用の際は,必ず毒性病理学,毒性学,統計学の専門家が本法適用の対象となる所見やその発生頻度と計算結果を分析し,可能な限り統計学的にも毒性学的にも妥当な適用となるよう議論する必要がある.
著者
山中 英明 久能 昌朗 塩見 一雄 菊池 武昭
出版者
Japanese Society for Food Hygiene and Safety
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.454-458_1, 1983-10-05 (Released:2009-12-11)
参考文献数
13
被引用文献数
6 7

シュウ酸に基質特異性があり, 感度のよい酵素法の適用を検討し, さらに各種食品中の含量を測定した. 定量はシュウ酸に oxalate decarboxylase を作用させてギ酸にし, 次いで nicotinamide-adenine dinucleotide (NAD) とともに formate dehydrogenase を作用させ, NADHの生成に伴う340nmの吸光度の増加量から算出した. 植物性食品61種, 動物性食品30種のシュウ酸を測定したところ, 高含量のものは植物性食品に限られ, ホウレンソウの1,760mg/100gを最高に, ツルナ894mg/100g, 緑茶426mg/100gなどが高く, 水産物ではアオノリ193mg/100g, テングサ165mg/100gなど海藻にかなり高いものがあった. 動物性食品はいずれも低含量であり, 魚肉0.3~3.7mg/100g, 牛肉8.0mg/100gであった. ホウレンソウの生長に伴いシュウ酸含量が増加すること本認めた.
著者
菅野 三郎 和田 裕 川名 清子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.371-375_1, 1969
被引用文献数
1

食パン中のプロピオン酸は水蒸気蒸留で分離後, 熱検出液体クロマトグラフィーにより定量可能である.<br>食パン中にプロピオン酸を添加した場合回収率は90%以上であるが, パン製造時に添加した場合回収率は約70%に低下した. このような回収率の低下は焼き上げ時の加熱によるプロピオン酸の揮散によるものであることがわかった. またカビの発生とともにパン中のプロピオン酸は急速に減少した.
著者
新藤 哲也 牛山 博文 観 公子 安田 和男
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.29-35, 1999-02-05
参考文献数
19
被引用文献数
1 3

市販及び野生キノコ合計54種85検体のシアン含有量を調査した結果, 18種44検体からシアンが検出された. 市販キノコではニオウシメジが最も多く86~283μg/g (<i>n</i>=11) のシアンが検出された. 次いでマイタケで1.8~46μg/g (<i>n</i>=6) 及びシロアワビタケで1.1~26μg/g (<i>n</i>=7) と高い値であった. 採取した野生のキノコでは1.0μg/g以上のシアンを検出したものはみられなかった. また, キノコ中のシアンは遊離型で存在していると推察した. ニオウシメジを網焼きした場合, やや焼きすぎの6分間加熱でも加熱前の65%のシアンが残存した. また, 水煮した場合でも, キノコ中に27%が残存し, 煮汁に19%が溶出した.
著者
佐々木 英人
出版者
Japanese Society for Food Hygiene and Safety
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.34-43, 1978-02-05 (Released:2010-03-01)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

Absorption coefficients at characteristic wavelengths on absorption and derivative spectra (1st and 2nd order) were obtained for 11 kinds of food colors and 2 kinds of similar dyes on the 0.02N ammonium acetate solutions ranging in concentration of these dyes from 0 to 20μg/ml. The time derivative method for 1st and 2nd derivative spectrophotometry was introduced and facilitate more the detection of each component in dye mixture for food from the shape of standard derivative spectrum (especially, the spectrum of 2nd-order derivative) than the ordinary derivative method with duochrometer, and also facilitate more accurately the determination of the component even in the case of turbid solution.Several kinds of synthetic two-components mixture (each: 0-10μg/ml) were simply and rapidly identified and determined with the recoveries of 98-133% by 1st deravative spectrophotometry and of 99-106% by 2nd derivative method. For eight kinds of threecomponents mixture containing equal amounts of dyes (each: 33.3%), each component dye was also identified and determined with the recoveries of 86-112% by 2nd derivative spectra. This method was satisfactorily applied to the rapid analysis of food colors in seven kinds of commercial three-components mixture.
著者
八巻 ゆみこ 富澤 早苗 増渕 珠子 上條 恭子 中島 崇行 吉川 聡一 長谷川 恵美 小鍛 治好恵 渡邊 趣衣 橋本 常生 大塚 健治
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.33-36, 2021-02-25 (Released:2021-03-04)
参考文献数
12
被引用文献数
2

ライムのLC-MS/MSを用いた191成分の残留農薬を対象とした一斉分析法を開発し,妥当性評価を行った.試料から農薬をアセトニトリルで抽出し,無水硫酸マグネシウム,炭酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを加え塩析・脱水処理を行った.遠心分離を行い,上層を分取しアセトニトリルで定容した.続いて一定量をC18/GC/PSA固相カラムに負荷して精製を行い,LC-MS/MSにて測定した.従来の農産物対象の検査方法ではライムからの回収率が低かったチアベンダゾールについても回収率が向上した.厚生労働省の妥当性評価ガイドラインに従い2濃度で実施した妥当性評価では191成分中175成分がガイドラインの基準を満たした.また,都内で流通しているライム19試料についても実態調査を行い,18試料から残留農薬を検出した.本法はライムを対象とした残留農薬一斉分析に有用な分析法であると考えられる.
著者
辰野 竜平 梅枝 真人 宮田 祐実 出口 梨々子 福田 翼 古下 学 井野 靖子 吉川 廣幸 髙橋 洋 長島 裕二
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.28-32, 2021-02-25 (Released:2021-03-04)
参考文献数
16
被引用文献数
2

トラフグ属魚類の小型種であるムシフグは,毒性に関する情報が乏しく食用として認められていない.そこでムシフグの毒性を明らかにするため,熊野灘で漁獲した10個体(雄9個体,雌1個体)を試料とし,各個体の皮,筋肉,肝臓,生殖腺(卵巣もしくは精巣)をマウス試験とHPLC蛍光検出法に供した.各部位から試験液を調製し,前述の2つの方法により毒力とテトロドトキシン(TTX)濃度を算出した.マウス試験の結果,皮,肝臓,および卵巣で毒性が認められたが,精巣と筋肉は無毒(<10 MU/g)であった.一方,HPLC蛍光検出法で10個体中2個体の筋肉から1.4~1.5 MU/gのTTXが検出されたことから,ムシフグの食用可否を検討するため,引き続き毒性の調査を行う必要があると考えられた.
著者
大城 直雅 富川 拓海 國吉 杏子 木村 圭介 小島 尚 安元 健 朝倉 宏
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.8-13, 2021-02-25 (Released:2021-03-04)
参考文献数
18
被引用文献数
10

世界最大規模の自然毒食中毒シガテラの未然防止のために,地方自治体では可能性のある魚種を指定して販売自粛を指導している.水産卸売市場で販売が自粛された魚類7種18試料についてLC-MS/MSによりシガトキシン類(CTXs)を分析した結果,5試料(バラフエダイ4試料およびバラハタ1試料)からCTXsが検出された.含量の高かった2試料(No. 5: 0.348 μg/kg, No. 8: 0.362 μg/kg)は200 g程度の摂食で発症すると推定され,販売自粛がCFPを未然に防止したことが示唆された.産地不明のバラフエダイ(1試料)からはCTX1B系列(CTX1B, 52-epi-54-deoxyCTX1Bおよび54-deoxyCTX1B)のみが検出され,沖縄・奄美産バラフエダイと組成が類似していることから沖縄・奄美海域で漁獲された可能性が示唆される.一方,和歌山産バラフエダイ(2試料)からはCTX1B系列とCTX3C系列(2,3-dihydroxyCTX3C, 2,3,51-tri­hydroxyCTX3C, 2-hydroxyCTX3C)の両方が検出された.なお,本州沿岸産魚類からCTXsを検出したのは初めての例である.