著者
渡辺 雅男
出版者
一橋大学
雑誌
一橋社会科学 (ISSN:18814956)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.49-72, 2009-03

市民社会は近代社会のあり方を示す独自の概念である。本論文は戦後日本における市民社会概念をめぐる議論を整理し、そこに込められた歴史的課題を明らかにしようとするものである。戦後日本で市民社会を議論した三つの主要な潮流、すなわち、近代化論者(丸山眞男、大塚久雄、松下圭一)、マルクス主義者(林直道、平田清明)、一橋学派というべき社会科学者(大塚金之助、高島善哉)をそれぞれ分別し、彼らの市民社会論の特徴と意義、またその限界を指摘することにより、市民社会をいかに論じるべきかという課題を探っていくことにする。市民社会論がイデオロギー的役割を過度に期待されたのは、近代化の中で社会が国家と家族から自立しなければならないという歴史的課題を人々が喫緊のものと受け止めたからである。だが、市民社会論をイデオロギーにとどめず、社会を分析する概念体系にまで発展させてこそ社会科学の基礎理論としての意義を全うすることができる。本論文で戦後日本の主要な系譜を検討した理由はここにある。
著者
森村 進
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.115, no.1, pp.41-61, 1996-01-01

論文タイプ||論説
著者
矢澤 修次郎
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.167-181, 1989-02-01

論文タイプ||論説
著者
三家本 里実
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、日本型雇用システムの変容について、企業の労務管理の変化と若年正社員の離職動向との関係から考察することで、必要な雇用政策のあり方を検討することにある。その際、主な研究対象を情報サービス産業におけるITエンジニアに設定し、2015年度においては、以下の課題に取り組んだ。(1)インタビュー調査: 2014年度に引き続き、企業の労務管理と労働者の働き方(より具体的には、労働者の有する自律性)との関連を明らかにするために、労働者へのインタビュー調査を実施した。下請企業ほど、労働過程における決定権は制限され、労働者が、より直接的な管理のもとに置かれることが想定されるが、実際には、いわゆる「丸投げ」というかたちで、労働者が労働過程における決定を行っていることが明らかとなった。(2)文献研究: インタビュー調査を受けて、企業の労務管理と労働過程において労働者が発揮する自律性の関連を分析するために、労働過程論を参照した。ハリー・ブレイヴァマンの労働過程分析と、その後の労働過程論争を辿り、技能との関連において、労働者の自律性を把握する必要性が浮かび上がった。(3)アンケート二次分析: 情報サービス産業においては、長時間「残業」の問題が深刻であり、メンタルヘルス不調や離職率の高さの原因としても考えられている。長時間残業の発生する要因について、労働政策研究・研修機構のアンケート調査データの使用許可を得て、分析を行った。その結果、目標値やノルマの高さなど、企業の労務管理が大きく影響していることがわかった。(4)アンケート調査: 産業別組合の協力のもと、ITエンジニアの転職行動に関するアンケート調査を実施した。労働時間の長さなど労働条件に加え、スキルアップが転職を志向する要因として挙げられた。とくに後者については、キャリアコースによって転職意識に違いが生じることが明らかとなった。
著者
大河内 泰樹
出版者
一橋大学
雑誌
一橋社会科学 (ISSN:18814956)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.217-241, 2008-06

ハーバーマスは六八年の「認識と関心」と題された論文と単著で、カント及びドイツ観念論から取り入れた「関心」の概念を用いて、イデオロギー批判としての認識論を展開した。そこでは、三〇年代のホルクハイマーの議論に依拠しながら、理論は特殊な関心によって導かれているとし、技術的関心が経験的分析的科学、実践的関心が歴史的解釈的科学を基礎付けていること、そして解放的関心に基づく自己反省によって批判的科学がもたらされることを主張していた。ハーバーマスは後に認識論による批判理論の基礎付けというこの路線を放棄することになるが、彼がまだこの段階で人類の類的な発展としてのヘーゲル/マルクス的発想を保持していることを見ることができる。しかし他方でハーバーマスが「批判理論」の継承者とみなされるきっかけとなったこの著作においてすでに、彼が狭いと考えていたホルクハイマー/アドルノらの理性概念を乗り越えようとしているのも明らかである。本稿では、ハーバーマスがこれらの著作で取り上げる「関心」概念が、カントおよびその後のドイツ観念論においていかに位置づけられ、ドイツ観念論そのものの展開にどのような意義を持っていたのかを再検討する。これを通じて、「関心」の概念がそもそもドイツ観念論では理性に対する懐疑という問題系において導入されているにもかかわらず、ハーバーマスが意図的に理性批判としてのこの概念のポテンシャルを切り詰め、積極的な理性概念を展開する戦略をとっていることを明らかにする。
著者
土岐 健治
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.541-557, 1981-04-01

論文タイプ||論説
著者
山岸 俊男 坂上 雅道 清成 透子 高橋 伸幸 阿久津 聡 高岸 治人
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

平成29年度には、行動・心理・脳構造・遺伝子多型データセットの解析を進め、ゲーム行動と脳構造の関連性に関する実験を行った。その結果、以下の知見を含む複数の知見を論文化した。知見1:社会的規範の逸脱者への罰は、従来の研究では社会的公正動機に基づく利他的な行動と考えられてきた。しかし本研究の結果、規範逸脱者へ単に苦悩を与えたいという公正さとは無縁な攻撃的動機に基づく罰行使者もかなりの比率で存在することが明らかになった。さらに攻撃的罰行使者は左尾状核が大きいという脳形態的特徴があり、この尾状核は線条体に含まれることから、罰行使で何らかの満足を得ている可能性が示唆された。知見2:攻撃性と社会規範成立との関係については、学生参加者による検討から社会的地位の高さとテストステロン量の多さが、相手への支配的行動を強めることも明らかにされている。本研究の知見は、複数の罰行動の背後にある心理・神経基盤を混同してきた従来の研究へ警鐘を鳴らし、攻撃的な罰が社会的公正の達成へ正負いずれの方向に機能しうるかという観点からの研究の重要性を示唆するものである。海外の研究者と共同で信頼ゲーム実験を17カ国で実施し、ペアの相手の集団所属性について国を単位として内集団・外集団・不明集団で操作したところ、偏狭的利他性(内集団成員をより信頼・協力する)が文化・社会を超えた普遍的な心理的基盤である可能性と、そうした利他性は評判に基づいた間接互恵性によって相殺される可能性も併せて示された。これにより関係形成型独立性へと移行する社会制度設計に評判が重要な役割を果たすことが示唆された。本研究の最終目的につながる文化形成実験は、社会的ニッチ構築の観点からの心の文化差の説明を検証する世界初の本格的実験であるが、プレテストを繰り返し実施する中で適切な実験デザインを確定し、社会的ニッチ構築理論の精緻化を進めた。
著者
栗原 福也
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.552-569, 1976-12-01

論文タイプ||論説
著者
内藤 敦之
出版者
一橋大学
雑誌
一橋論叢 (ISSN:00182818)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.787-801, 1999-12-01
被引用文献数
2

論文タイプ||論説
著者
後藤 昭 村井 敏邦 三島 聡 石塚 伸一 村井 敏邦 葛野 尋之 水谷 規男 福井 厚 土井 政和 前田 朗 佐々木 光明
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

(1)全国の刑事施設および更生保護関連機関等に関する実態調査およびデータベース作成:統一的な調査を実施するため、「施設調査票」を作成し、全国的に施設参観を実施した。その他、元矯正施設職員、施設関係での訴訟を提起している当事者、弁護士等から、日本または海外の矯正施設の現状や新たな立法動向等についての聴き取りを行った。これらの調査から、刑事施設が現在抱えている最大の問題は過剰収容であり、それによって、施設運営も保安的観点が重視され、処遇面がおろそかにされるおそれがある等の状況が把握された。日本の刑罰システムに関する総合的なデータベース作成については、国内外のインターネット上で提供されている情報を利用しやすい形態にまとめた。その他、海外については、NGOの発行した年次活動報告書、欧州人権裁判所の重要判例関する資料を収集した。日本については、近代監獄改革関連事項に関する年表を2001年度分まで完成させた。(2)現行制度および運用に関する評価・分析、ならびに「対案の」提示:かつて本研究会が、拘禁二法案への対案として作成した『刑事拘禁法要綱案』(1996年)につき、改訂作業を行った(「改訂・刑事拘禁法要綱案」)。改訂に際しては、近年、日本においてもNGO活動が盛んとなりつつあることや、行政機関の情報公開に対する意識が高まっていること等、新しい社会の動向にも注目した。主な改訂のポイントは、施設内処遇に市民が協力するという形態を積極的に採用したこと、施設処遇に対する第三者機関としての市民の監視を充実させたことにある。刑事施設の抱える問題点に対する一つの回答でもあり、施設だけで処遇を担うのではなく、一般社会と連携しながら、また一般社会に対しアカウンタビリティを果たしながら施設を運営していくべきであるとの方向性を示したものである。改訂作業に加え、改訂要綱案に基づく施設運営の実現可能性についても検討を行った。そのために、数名の被収容者を想定し、入所時から出所時までのシミュレーションを作成した。(3)研究成果の公表およびシンポジウムの開催:以上の研究成果を広く公表するために、研究会のホームページを立ち挙げた。2002年3月9日には、法政大学において、「21世紀の刑事施設-グローバル・スタンダードと市民参加」と題するシンポジウムを開催した。
著者
戸高 七菜
出版者
一橋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

自傷行為経験者へのインタビュー調査により、行為者は二つの目的をもって自傷行為を行うことがわかった。自傷行為の第一の目的は不快気分の解消である。自傷行為によって、現実感が喪失しているように感じられる離人感や抑鬱感などを、軽減するために行うものである。二つ目の目的は、他者との関係に変化を起こすことである。自傷行為の原因についてはまだ明らかになっていないが、幼少期にトラウマ体験に遭遇している場合が多い。
著者
藤野 寛
出版者
一橋大学
雑誌
言語社会
巻号頁・発行日
vol.6, pp.118-130, 2012-03-31
著者
内藤 正典 チョルズ ジョシュクン 間 寧 足立 典子 足立 信彦 林 徹 関 啓子 矢澤 修次郎 CORUZ Coskun ジョシュクン チョルズ ショシュクン チョルズ ルーシェン ケレシュ CEVAT Geray RUSEN Keles
出版者
一橋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究は、過去30年以上にわたって、ドイツを始めとする西ヨーロッパ諸国に移民してきたトルコ人を対象に、彼らがヨーロッパに生活する上で直面する社会的・文化的諸問題とは何であるのかを明らかにした。本研究の成果として特筆すべき点は、移民を受け入れてきたホスト社会(あるいは国家)が発見した移民問題と移民自身が発見した移民問題との間には、重大な認識上の差異が存在することを実証的に明らかにしたことにある。トイツにおいて、トルコ系移民の存在が移民問題として認識されたのは、1973年の第一次石油危機以降のことであり、そこでは、移民人口の増大が、雇用を圧迫するという経済的問題と同時に、異質な民族の増加が文化的同質性を損なうのではないかという文化的問題とが指摘されてきた。他方、トルコ系移民の側は、ホスト社会からの疎外及び出自の文化の維持とホスト社会への統合のあいだのジレンマが主たる問題として認識されていた。この両者の乖離の要因を探究することが、第二年度及び最終年度の主要な課題となった。その結果、ホスト社会側と移民側との争点は、ホスト国の形成原理にまで深化していることが明らかとなった。ドイツの場合、国民(Volk)の定義に、血統主義的要素を採用しており、血統上のドイツ国民と単に国籍を有するドイツ国民という二つの国民が混在することが最大の争点となっているが、ドイツの研究者及び移民政策立案者も、この点を争点と認識することを回避していることが明らかとなった。このような状況下では、移民の文化継承に関して、移民自らホスト社会への統合を忌避しイスラーム復興運動に参加するなど、異文化間の融合は進まず、むしろ乖離しつつあるという興味深い結果を得た。さらに、研究を深化させるために、本研究では、ドイツ以外のヨーロッパ諸国に居住するトルコ系移民をめぐる問題との比較検討を行った。フランスでは、トイツのような血統主義的国民概念が存在せず、国民のステイタスを得ることも比較的容易である。しかし、フランス共和国の主要な構成原理である政教分離原則(ライシテ)に対して、ムスリム移民のなかには強く反発する勢力がある。社会システムにいたるまでイスラームに従うことを求められるムスリム社会と信仰を個人の領域にとどめることを求めるフランス共和国の理念との相克が問題として表出するのである。この現象は、移民を個人として統合することを理念とするフランスとムスリムであり、トルコ人であることの帰属意識を維持する移民側との統合への意識の差に起因するものと考えられる。即ち、共和国理念への服従を強いるフランス社会の構成原理が、それに異論を唱える移民とのあいだで衝突しているのであり、そこでは宗教が主要な争点となっていることが明らかになった。さらに、本研究では多文化主義の実践において先進的とされるオランダとドイツとの比較研究を実施した。オランダの場合は、制度的に移民の統合を阻害する要因がほとんど存在しないことから、トルコ系移民の場合も、比較的ホスト社会への統合が進展している。しかし、オランダの採る多極共存型民主主義のモデルは、移民が独自の文化を維持することを容認する。そのため、麻薬や家族の崩壊など、オランダ社会に存在する先進国の病理に対して、ムスリム・トルコ系移民は強く反発し、むしろ自らホスト社会との断絶を図り、イスラーム復興運動に傾倒していく傾向が認められる。以上のように、ドイツ、フランス、オランダの比較研究を通じて、いずれの事例も、トルコ系移民のホスト社会への統合は、各国の異なる構成原理に関する争点が明示されてきたことによって、困難となっていることが明らかにされた。本研究は、多民族・多文化化が事実として進行している西ヨーロッパ諸国において、現実には、異なる宗教(イスラーム)や異なる民族・文化との共生を忌避する論理が、きわめて深いレベルに存在し、かつ今日の政治・経済においてもなお、それらが表出しうるものであることを明らかにすることに成功した。
著者
本庄 武
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

19年度は、第1に国内において、量刑が争点となる実際の裁判でのあるべき弁護活動、並びに裁判員制度の下でどのような対応策を検討しているかについて聴き取り調査を行った。また、裁判員制度の下での量刑評議をどのように行うことが想定されているか、模擬裁判でどのような取組みがされているかについて文献研究を行うと共に裁判実務家の意見聴取を行った。以上の検討を踏まえ、特に評議における量刑相場(量刑傾向)の扱われ方をチーマに研究会で報告を行った。第2に、裁判員制度の対象となる少年の刑事裁判における量刑及び家裁への再移送のあり方につ.いて従来の研究を発展させ、学会で報告を行った。またその成果の一部として、判例評釈を執筆した他、論文を執筆中である。第3に、アメリカ合衆国マサチューセッツ州における量刑の実情について実態調査を行うと共に文献研究を行った。マサチューセッツ州では、連邦とは異なり、拘束力のない量刑ガイドライン制度を採用しており、量刑の統一性と個別的妥当性を両立させるシステムとなっており、連邦量刑ガイドラインに対してなされているような、硬直的で個別的妥当性を犠牲にした量刑となっているとの批判を回避し得ており、裁判員制度の下での量刑を考える上でも極めて示唆的であった.第4に、アメリカ合衆国連邦最高裁の近時の量刑に関する判例の研究を行うと共に、現地の研究者との間で意見交換を行った。連邦最高裁では裁判官の量刑裁量を拡大する方向での判決を相次いで下している。この動向は、ガイドライン制度の下で量刑の統一性乏個別的妥当性を両立させるというマサチューセッツ州の制度と方向性を同じくしており、非常に興味深いものである。以上の日米の動向についての調査に17-19年度の調査の成果を踏まえ、20年度論文を執筆する予定である。