著者
平安 京美 仲田 行克 大城 聡 高江洲 悦子 中村 恭子 城間 直秀 嶺間 博隆
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.21-25, 2004-01-01 (Released:2011-12-15)
参考文献数
16

1977年から1999年までの23年間に沖縄県 (以下本県) で発生した亜急性硬化性全脳炎 (SSPE) は, 16例 (男児11例, 女児5例) であった. 本県のSSPE発生頻度は, 人口100万人当たり年平均0.58人で, これまでの本邦の報告に比べ高率であった. 本県の予防接種率は低く (40~68%), 麻疹の流行を繰り返し, 低年齢での罹患が多いことが, SSPEの発生頻度が高い要因の一つであると思われた. また, 1990年の麻疹罹患者から6人のSSPEが発症しており, 流行するウイルスの神経病原性にも関連があると思われた. 臨床像では, 1990年以後の発症例で, 血清麻疹抗体価の低下傾向が認められた.
著者
小俣 卓 新井 ひでえ 田邉 雄三
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.465-468, 2008-11-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
14

多動, 興奮, 急に泣き叫ぶなどの精神症状が初発症状であったマイコプラズマ感染後の急性散在性脳脊髄炎 (acute disseminated encephalomyelitis; ADEM) の1例を経験した.ADEMの初発症状として精神症状は稀で, はじめに精神疾患や心因性疾患が疑われ診断に苦慮する可能性が考えられた.意識障害やけいれんなどの典型的な脳炎・脳症徴候が明らかでない場合においても, 急性の精神症状を呈した場合, 感染症・予防接種歴を確認しADEMを鑑別診断の一つに考える必要があると思われた.
著者
小林 朋佳 稲垣 真澄 軍司 敦子 矢田部清美 北 洋輔 加我 牧子 後藤 隆章 小池 敏英
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.465-470, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
3

数字や線画を単独あるいは交互に呼称する課題を通常級在籍中の小学1~6年生207名に行い, ひらがな音読能力との関連を検討した. 数字呼称時間は小学3~4年生まで短縮し続け, 単音音読時間と相関していた. 一方, 線画呼称は学童期の前半で特に短縮変化が目立ち, 以降はゆるやかに変化した. 交互課題はいずれの年齢においても単独呼称より時間がかかったが, エラーがほとんどなく施行できた. 呼称能力はひらがな音読能力と関連性がみられ, 交互課題は単語音読とより強く相関していた. 日本語話者の発達性読み書き障害の病態解明の一助として, 音読異常を持つ小児の数字・線画呼称スピードを今後検討する必要があると思われる.
著者
中島 範宏
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.382-386, 2021 (Released:2021-10-20)
参考文献数
17

出生前診断によって胎児に先天性異常が指摘された場合, 妊娠の継続をめぐり, 「胎児の生命」 と 「女性の出産に関する自己決定」 という2つの価値が両立せずに衝突する可能性が示唆される. 本稿では先ず, 「胎児の生命の保護」 を法益として定めている刑法と, 人工妊娠中絶の根拠となる母体保護法および旧優生保護法について確認を行う. また, 出生前診断について医療側に過失があり, 結果的に障害を有する児が生まれたケースにおいて, 裁判所がどのように患者側の損害や因果関係の認定を行ったのかという視角から, 出生前診断が 「胎児の生命」 や 「出産に関する自己決定」 に及ぼす影響や意味について検討を行う.
著者
高嶋 裕美子 池田 梓 辻 恵 露崎 悠 市川 和志 相田 典子 後藤 知英
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.264-268, 2018 (Released:2018-08-16)
参考文献数
12

【目的】軽微な頭部外傷後の脳梗塞症例の臨床, 画像的特徴, 特にmineralizing angiopathy (以下MA) との関連を検討する. 【方法】1980年4月から2016年11月までに脳梗塞の診断で当院に入院した患者の診療録を後方視的に調査し, 軽微な頭部外傷後の脳梗塞患者を対象に, 臨床, 画像的特徴について検討した. 【結果】動脈性脳梗塞と診断された119例のうち5例が軽微な頭部外傷後の発症であった. 発症年齢は10か月から11歳 (中央値は2歳9か月) で全例男児であった. 1例で無症状, 4例で左片麻痺を認め, 全例予後は良好であった. 頭部画像は4例は右側, 1例は左側の大脳基底核に梗塞像を認めた. 5例中, 麻痺を認めた4例にCTで穿通枝のMAと考えられる線状の高吸収域を認め, うち3例は両側に認めた. 11歳の症例では今回の梗塞像の対側基底核に陳旧性梗塞像を認めた. 【結論】軽微な頭部外傷後の基底核梗塞症例で高率に穿通枝にMAの合併を認めた. 脳梗塞の原因となるその他の因子は明らかとなっておらず, MAが軽微な頭部外傷後の脳梗塞と関係がある可能性が疑われる. 軽微な頭部外傷後脳梗塞は乳幼児の報告が多いが, 本検討の最高齢は11歳で既報より高かった. 乳幼児期以降にも軽微な頭部外傷後脳梗塞の発症があることや, 再発の可能性を考慮する必要があると考えられた.
著者
児玉 浩子
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.5-9, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

経腸栄養剤や特殊ミルク・治療用ミルクには, いくつかの必須栄養素がほとんど含まれていないものがある. 主なものとしては, エンシュア・リキッド®にはカルニチン, セレン, ヨウ素 ; エレンタール®にはカルニチン, セレン ; ラコール®にはカルニチン, ヨウ素 ; 牛乳アレルゲン除去ミルク・乳糖除去ミルク・MCTミルク・ケトンフォーミュラ・先天性代謝異常症用ミルクなどにはビオチン, カルニチン, セレン, ヨウ素がほとんど含まれていない. これらを単独で使用すると, 含有量の少ない栄養素の欠乏をきたすおそれがある. これら栄養剤・ミルクを単独で使用する場合は, 欠乏症に注意し, 必要に応じて補充することが大切である.
著者
板倉 昭二
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.262-266, 2006-07-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
14

他者の心的状態を見出したり推論したりすることをメンタライジングという. メンタライジングは, 人が円滑な社会的生活を営む上で重要な能力となる. メンタライジングの萌芽は, 乳児期初期の社会的知覚だと考えられる. すなわち, 人に対する志向性から始まり, 母子関係に代表される二項関係, さらに第三者もしくは対象物を含む三項関係の成立, そして他者の誤信念を理解する「心の理論」の成立へと続く. 本稿では, こうしたメンタライジングの発達を, 人に対する志向性, 人以外のエージェントに対する目標志向性の帰属や意図の理解, 誤信念の帰属について, われわれの実証的な研究を概略する.
著者
山下 哲史 千代延 友裕 吉田 路子 諸戸 雅治 森田 高史 森岡 茂己 加藤 光広 才津 浩智 森本 昌史 細井 創
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.64-66, 2013 (Released:2014-03-03)
参考文献数
10

STXBP1変異による大田原症候群の1例を経験した. 新生児期に部分発作で発症し, 生後1カ月よりepileptic spasmsが出現した. その後, 種々の抗てんかん薬およびACTH療法に対して難治に経過したにもかかわらず, 生後8カ月より開始したlevetiracetam (LEV) が著効した. STXBP1変異がもたらすてんかんの病態とLEVの作用機序を考察する上で示唆に富む症例と考えられたため報告する. 一方で, 発作が抑制されたにもかかわらず痙性を伴う重度の発達遅滞を呈しており, STXBP1のハプロ不全はてんかんのみならず, 神経機能に重大な障害を引き起こすことが示唆される.
著者
児島 将康
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.87-90, 2011 (Released:2014-12-25)
参考文献数
17

グレリンは胃から分泌される成長ホルモン分泌促進活性や摂食亢進作用をもつペプチド・ホルモンで, その特徴的な構造は3番目のアミノ酸であるセリン残基の側鎖が, 中鎖脂肪酸であるn-オクタン酸の修飾を受けていることである. しかもこの修飾基がグレリンの活性発現に必須である. グレリンは強力な摂食亢進作用を示す. 中枢においてグレリンは, 視床下部弓状核のニューロンを活性化して, 摂食亢進作用を発揮する. 胃から分泌され血中を流れるグレリンは, 末梢からの空腹シグナルを中枢に伝える液性因子として現在のところ唯一の例である.
著者
古賀 靖敏
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.124-129, 2010 (Released:2016-05-11)
参考文献数
9
被引用文献数
2

ミトコンドリア病とは, ヒトのエネルギー代謝の中核として働く細胞内小器官ミトコンドリアの機能不全により, 症状を呈する症候群の総称である. 遺伝的には核もしくはミトコンドリアの遺伝子異常に分類される. その診断で最も大切なことは, まず本症を疑うことである. 最も診断に有用な特殊検査は筋生検であり, 病理学的, 生化学的, 分子遺伝学的解析が可能となる. 現在, ミトコンドリア脳筋症を適応症とする薬剤は世界でも存在せず, すべての薬剤は適応外使用である. 日本ではMELASに対するL-アルギニンの医師主導治験が進められているが, オーファン病であるミトコンドリア病に関して, 今後は国際的な治療薬の共同開発整備が重要である.
著者
木村 丈 渡辺 陽和 松岡 太郎
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.45-46, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
6

抗ヒスタミン薬の投与が熱性けいれんのけいれん持続時間に与える影響について検討した. 当科を熱性けいれんを主病名として受診した患児を前方視的に検討した. 抗ヒスタミン薬内服群 (以下H群) は29例, 抗ヒスタミン薬非内服群 (以下NH群) は158例であった. けいれん持続時間の中央値はH群で4.5分, NH群で2.0分で有意差を持ってH群のけいれん持続時間は長かった (p<0.05). 抗ヒスタミン薬の内服は熱性けいれんのけいれん持続時間を延長する可能性があるため, 熱性けいれん既往のある患児に対する抗ヒスタミン薬の処方は慎重に行うべきと考えられる.
著者
森内 浩幸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.151-156, 2019 (Released:2019-05-08)
参考文献数
12
被引用文献数
4

近年における先天性サイトメガロウイルス (CMV) 感染症の診療における最大の進歩は, 症候性感染児に対する抗ウイルス療法が予後を改善できることを示したことである. それに伴って, 感染児を見逃すことなく確定診断することの重要性が増し, 本邦では生後21日以内の新生児尿を検体としたCMV核酸増幅法が保険収載された. しかし今なお多くの先天性CMV感染児が診断されないまま見逃されており, 特に新生児聴覚スクリーニングを経て発見された先天性難聴児の中に潜む先天性CMV感染児の早期診断と治療介入が進むことが望まれる.
著者
馬渡 直子 刈茅 茂 山下 裕史朗 高嶋 幸男 松石 豊次郎
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.373-377, 2007-09-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
9
被引用文献数
2

福岡県南部において, 看護師配置のない養護学校では児童生徒の医療的ケアがどのように行われているかについて調査を行った.調査は養護学校4校の児童生徒633名を対象に担任教諭へのアンケートで行った. その結果, 全体の24%が何らかの医療的ケアを受けており, 特に医療三行為 (吸引, 経管栄養, 導尿) を要する児童生徒は訪問教育が主体であり, 通学する際には家族の常時付き添いが必要であった. また, 摂食嚥下や呼吸の問題に担任教諭が不安を抱いていること, 医療的ケアの必要な予備軍も存在し得ることが明らかとなった. 児童生徒の安全で健康的な学校生活のため, 医療, 療育スタッフの連携のもと, 医療的ケアの整備・拡大が急がれる.
著者
竹内 義博
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.451-455, 2008-11-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
20

神経伝達の視点から注意欠陥/多動性障害 (attention deficit hyperactivity disorder; AD/HD) の病態をみると, 前頭葉-尾状核・被殻・淡蒼球におけるドパミン神経系の機能異常が主体で, これにノルアドレナリン神経系, セロトニン神経系の異常が関与していると考えられる.一方, 自閉症スペクトラム障害 (autism spectrum disorders;ASD) では, セロトニン神経系の異常が基盤にあり, 細胞異動の障害, 抑制性神経伝達と興奮性神経伝達の不均衡, シナプスの形成・刈り取りの異常が関与していると考えられる.ASDに対する今後の研究は, セロトニン, グルタミン酸の神経伝達の異常と, reelin, neureXin, neuroliginなどを中心に展開して行くであろう.
著者
菊池 貴洋 加藤 光広 高橋 信也 中村 和幸 早坂 清
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.375-378, 2013 (Released:2014-10-11)
参考文献数
9

症例はてんかん性脳症の10歳女児. 発作は難治で1日10回程度の強直発作・ミオクロニー発作が出現し, 覚醒時脳波で多焦点性鋭徐波複合が多発していた. topiramate追加内服中, 眼振の増悪がみられ漸減中止したところ, ミオクロニー発作の頻度が増加し, levetiracetam (LEV) 250mg/日を追加した. LEV開始翌日から発作は消失したが, 反応性低下と寡動がみられた. 覚醒時脳波を再検したところ多焦点性鋭徐波複合の消失を認め, 強制正常化の診断基準を満たした. LEV投与による強制正常化の報告は調べ得た限り自験例が初めてである. LEVは初期から治療量の投与が可能である半面, 強制正常化の可能性を念頭におく必要がある.
著者
山本 俊至
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.138-143, 2010 (Released:2016-05-11)
参考文献数
16

アレイCGH法により, これまでのG分染法では解析できなかった10-Mb以下の微細な染色体欠失, あるいは重複を検出することが可能となった. 22q11.2欠失症候群やWilliams症候群などの奇形症候群は, いずれもG分染法で確認することが難しい2-Mb以下の非常に微細な染色体欠失が原因であるが, これらの微細染色体異常症候群と同様の数Mbの欠失による新規微細染色体異常症候群が次々と報告されている. アレイCGH法は, 全ゲノムを網羅的に解析できる革命的なデジタル染色体解析法であり, 原因不明の先天異常疾患における微細染色体異常の解析ツールとして臨床応用される時代が到来した.
著者
安立 多恵子 平林 伸一 汐田 まどか 鈴木 周平 若宮 英司 北山 真次 河野 政樹 前岡 幸憲 小枝 達也
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.177-181, 2006-05-01 (Released:2011-12-15)
参考文献数
12
被引用文献数
1

注意欠陥/多動性障害 (AD/HD), Asperger障害 (AS), 高機能自閉症 (HFA) の状況認知能力に関する特徴を検討するために, 比喩文と皮肉文から構成されている比喩・皮肉文テスト (MSST) を開発した. 今回はAS群66名, HFA群20名, AD/HD群37名を対象とし, MSSTの得点プロフィールを比較した. その結果, AS群では皮肉文の得点が特異的に低かったが, HFA群とAD/HD群では比喩文と皮肉文の得点に差がなかった. 以上より, AS群の特徴は言語能力が良好であるにもかかわらず, 皮肉という状況の理解困難であろうと考えられた.