著者
安藤 寿康
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.96-107, 1992-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
92
被引用文献数
1 1

The present paper reviews the methodology and findings of recent human behavioral genetics in relation to education. Under “interactionism”, genetic factors in human development and education have been minimized or treated as taboo. Genetic effect is, however, mainly additive and, heritabilities of IQ and various personality traits are considered to be about 50% in adulthood. Further more, concerning IQ, genetic effects tend to increase from infancy to childhood because of genotype-environment correlation. Recent behavioral genetics are also focusing on environmental effects and the concepts of shared / nonshared environment have been introduced. These findings suggest that genetic factors, are not only related to learning and development but also play an important role in the making of one's individuality. Finally, the educational implications of human behavioral genetics are making the topic for a discussion.
著者
遠藤 利彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.150-161, 2010-03-30 (Released:2012-03-27)
参考文献数
85
被引用文献数
6 2

ボウルビーの主要な関心は, 元来, 人間におけるアタッチメントの生涯にわたる発達(すなわち連続性と変化)と, 情緒的に剥奪された子どもとその養育者に対する臨床的な介入にあった。近年, 幼少期における子どもと養育者のアタッチメント関係が, 子どもの, アタッチメントの質それ自体を含めた, その後の社会情緒的発達にいかなる影響を及ぼすかということについて, 実証的な知見が蓄積されてきている。本稿では, まず, 児童期以降におけるアタッチメントとその影響に関する実証研究と, 乳児期から成人期にかけてのアタッチメントの個人差の安定性と変化に関するいくつかの縦断研究の結果について, 概観を行う。次に, アタッチメント理論の臨床的含意について, 特に, 無秩序・無方向型アタッチメントとアタッチメント障害, そして, そうした難しい問題を抱えた事例に対するアタッチメントに基づく介入に焦点を当てながら, レビューし, また議論を行う。最後に, 日本の子どもと養育者のアタッチメント関係の特異性をめぐる論争とそれが現代アタッチメント理論に対して持つ理論的含意について批判的に考察し, さらに日本におけるアタッチメント研究の現況が抱えるいくつかの課題を指摘する。
著者
高橋 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.538-549, 2007-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
25
被引用文献数
3 5

本研究は, 黙読と音読での文理解に違いを生み出す要因を検討し, 黙読と音読の認知プロセスを明らかにすることを目的とした。認知プロセスにかかわる要因として (1) 読解活動中に利用可能な注意資源,(2) 黙読における音韻変換をとりあげ, 二重課題実験によって検討した。読解活動中に利用可能な注意資源の量を操作するために, 読解活動中に読み手にタッピング課題を課した。黙読における音韻変換の要因を検討するために, 読解課題中に読み手に構音抑制課題を課し, 音韻変換を阻害した。その結果, 音読での文の理解度は読み手の注意資源の量にかかわらず, 一定の成績を保てるのに対し, 黙読での文の理解度は, 読み手の注意資源が奪われると低下することが示された。また, 黙読において音韻変換が阻害されると, その理解度は常に音韻変換を行っている音読での理解度よりも低下することが示された。これらの知見から, 読み手に利用可能な注意資源の量と, 黙読で音韻変換を行うかどうかという要因が, 黙読と音読での理解度の差を生み出すことが考えられた。以上の結果から音読と黙読の認知プロセスモデルを提案し, これまで提出された多様な現象を統合的に説明できる可能性を指摘した。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.92-105, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
65
被引用文献数
12 7

我々は学習を行う際, 人の説明を一度聞くだけ, 本を一度読むだけで, その内容を理解できるわけではなく, 事前や事後に適切な方略を用いて学習することで, 理解を深め, 知識の定着を図っている。そこで, 本稿では, 事前学習, 本学習, 事後学習の各フェイズにおいて適切な方略を使用しながら理解を深めていく学習プロセスのモデルを「フェイズ関連づけモデル」とし, そのモデルを用いて学習方略に関する先行研究の概観を行った。フェイズ関連づけモデルに基づいて先行研究を分類した場合, これまでの学習方略研究は, 1)フェイズの区別をせずに方略使用について測定した「フェイズ不特定型」, 2)フェイズを特定した上で方略使用を測定した「フェイズ特定型」, 3)複数のフェイズの関連に焦点を当てた「フェイズ関連型」の3つに分類することができる。本稿では, これらの先行研究から効果的な学習の在り方について示唆を得るとともに, 学習フェイズの関連づけの視点から見た場合に明らかになる課題を指摘し, 今後の学習方略研究に向けた枠組みを提案した。また, 最後には, 本稿の示した枠組みの実践的意義と学術的意義について論じた。
著者
KENTARO KATO
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.148-164, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
86
被引用文献数
1

This article provides an overview of recent international trends in large-scale educational assessment and relevant issues in educational measurement.  The literature indicates that the design, administration, and functions of large-scale assessment are changing dramatically, due to the changes in measurement content and method that reflect evolving societal needs.  This in turn raises various measurement issues such as concerns with validity and efficient processing and psychometric modeling of complex data.  While the successful implementation of large-scale assessment in its most advanced form is still largely ideal with many issues to be addressed, research and practice in line with the overall trends are emerging.  Implications for assessment practice in Japan are also discussed.
著者
植木 理恵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.98-108, 2008-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
48

本論文は掲載取り消しとなりました。 2013年2月3日 一般社団法人日本教育心理学会
著者
Satoru SAITO
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.120-132, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
83

Working memory underpins the transient retention of information in the service of cognitive processes within a variety of tasks. As this memory function restricts our ability to regulate mental processes, it potentially characterizes our learning and educational activities. This article reviews three lines of working memory research in cognitive psychology : Short-term retention of verbal information, the relationship between storage and processing in working memory, and the role of working memory in learning activities. These three research areas constitute promising directions in working memory research. Although the present paper limited its scope to relatively basic studies, the findings reported here could lay the foundation for applied working memory research in educational settings.
著者
詫摩 武俊
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.237-240,254, 1968-12-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
4 5

延べ組数にして543組のMZ, 134組のDZに集団式知能検査を実施した。どの知能検査の結果においても, またほとんどすべてのサブテストの結果においてもMZ間の相関はDZ間の相関より高く, 知能検査の成績を規定している機能に遺伝性が働いていることは疑い得ない。しかし, 遺伝性の強さは, サブテストの種類によって差があり, 一般に精神作用の速度をとくに必要とする問題, 言語記憶に関する問題, 計算に関する問題, 図形の空間的配置に関する問題では, 遺伝性係数が高く, これに対して過去の経験にてらして判断する問題では低かった。この資料は知能を構成する下位機能の特色について知る一つの手がかりであるが, このデーターの一義的な解決はまだ困難である。
著者
菅沼 慎一郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.265-276, 2013 (Released:2014-03-03)
参考文献数
21
被引用文献数
3 1

「諦める」は多くの人が日常的に体験することであるが, 心理学における一貫した定義はこれまでなく, その否定的側面が報告されることが多かった。本研究の目的は, 青年期における「諦める」の構造を明らかにし, 仮説的に定義すると共に, 「諦める」ことの精神的健康に対する機能に関する示唆を得ることである。後青年期(22~30歳)の男女15名を対象に, 過去の諦め体験に関して半構造化面接を行い, 29エピソードを得た。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した結果, 11の概念と3つのカテゴリーが生成された。青年期における「諦める」は, 達成・実現を目指して努力してきた<諦めた内容>に関して, 目標の達成・実現困難度の認識という<諦めたきっかけ>を契機に, 目標や望みの放棄という<諦め方>に至る。これに基づき, 「諦める」は, 「自らの目標の達成もしくは望みの実現が困難であるとの認識をきっかけとし, その目標や望みを放棄すること」と定義された。「諦める」は否定的な側面のみならず, 建設的な側面を有しており, そこに「諦める」という概念の独自性があること, 精神的健康に対して多様な機能を有することが示唆された。
著者
斉藤 誠一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.336-344, 1985-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17

The purpose of this study was to investigate the relationship between pubertal growth and sex-role formation. In a first study, a sex-role scale for early adolescents, containing 9 masculine items and 6 feminine items, was constructed. In a second study, recognition and acquisition of masculine traits and feminine traits were related to variables concerning pubertal growth. The main results were as follows: 1) Height had little influence on either recognition or acquisition of masculine traits and feminine traits. 2) Mature boys showed significantly higher level of masculine trait acquisition than immature boys. 3) Both boys and girls who were satisfied with the important parts of their bodies showed significantly higher level of masculine and feminine trait acquisition. 4) It was found in both males and females that the level of acquisition of masculine traits and feminine traits were associated with some of the variables concerning pubertal growth, without recognition of them.
著者
池田 浩 三沢 良
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.367-379, 2012 (Released:2013-06-04)
参考文献数
32
被引用文献数
2 5

本研究は, 失敗に対する捉え方や価値観を意味する失敗観尺度を作成し, その信頼性と妥当性の検討を行った。研究1では, 自由記述の回答からKJ法を用いて失敗観の構造を明らかにし, それと関連する先行研究を基に尺度の原案を作成した。そして, 大学生246名を対象に調査を実施し, 失敗観はネガティブ感情価, 学習可能性, 回避欲求, 発生可能性の4因子で構成されていることを見出した。研究2では, 759名の大学生を対象に調査を実施し, 尺度の内的整合性と時間的安定性を含めた信頼性, そして関連する尺度との関係性から妥当性を確認した。最後に, 研究3では, 大学生187名を対象に場面想定法による調査を実施したところ, どのような失敗観を持つかによって, 失敗に対する原因帰属やその後の対処行動が規定されることが示唆された。
著者
石田 英子 小笠原 春彦 藤 永保
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.270-278, 1991-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1

The purpose of this study was to clarify (1) people's concept of intelligence in the following six cultures: Japan, Korea, China, Taiwan, Canada and Mexico ; and (2) the difference between the three following Japanese concepts: ‘atamanoyoi’, ‘rikouna’, ‘kashikoi’, which express “intelligent” in Japanese. The results were as follows: 1) Five-factor solution was found to be valid. They were named “sympathy and sociability”,“inter-personal competence”,“ability to comprehend and process knowledge”,“accurate and quick decisi on making”, and “ability to express oneself”; 2) The factor structures of Japan, Korea, China and Taiwan were similar to each other, but dissimilar to those of Canada and Mexico ; 3) The patterns of the correlations among the five factors were rather similar, while the variances of the factors were different between the nations concerned ; 4) The concept of ‘kashikoi’ was different from that of ‘atamanoyoi’ in that ‘kashikoi’ implied sociability together with cognitive ability.
著者
伊藤 正哉 小玉 正博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.74-85, 2005-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
39
被引用文献数
37 31

本研究では, 自分自身に感じる本当らしさの感覚である本来感を実証的に取り上げ, 自尊感情と共に本来感がwell-beingに与える影響を検討した。自由記述調査から尺度項目が作成され, 大学生男女335名を対象とした因子分析により7項目からなる本来感尺度が構成され, その信頼性と一部の妥当性が確認された。そして, 重回帰モデルの共分散構造分析により, 本来感と自尊感情の両方が主観的幸福感と心理的well-beingというwell-beingの高次因子に対し, それぞれ同程度の促進的な影響を与えていることが示された。また, well-beingの下位因子に与える影響を検討したところ, 抑うつと人生における目的には本来感と自尊感情の両方が, 不安・人格的成長・積極的な他者関係に対しては本来感のみが, 人生に対する満足には自尊感情のみがそのwell-beingを促進させる方向で有意な影響を与えていた。さらに, 自律性に対しては本来感が正の影響を与え, 自尊感情は負の影響を与えていた。以上の結果から, 本来感と自尊感情のそれぞれが有する適応的性質が考察された。
著者
小武内 行雄
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.414-426, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
24

本研究の目的は, 親子関係のしつけにおけるしつけ者(親)として抱える「悩み」「成長」に焦点を当て, そのあり様と被しつけ者(子ども)のしつけ認知(評価)との関連について検討することである。はじめに親の「悩み」「成長」の実際を明らかにするため, しつけの「悩み」と, それを経た「成長」について, 中高生の子どもを持つ親(父親6名, 母親9名)を対象に面接調査を行った。更にその結果を基に尺度を作成し, 中高生の子どもを持つ親子(父子, 母子)を組とした質問紙調査を行った(327組)。その結果, しつけ者(親)が抱えるしつけの「悩み」として「対応の硬直」「家族成員間葛藤」「対応への困惑」「価値の模索・対比」「両価性葛藤」の5因子, また「成長」として「自己超越性」「受容的態度」「柔軟性」「自己の再編」「子どもとの関わり変化」の5因子が抽出された。そして子どものしつけ評価と親の「悩み」「成長」との関係を検討した結果, (1) 子どもから高いしつけ評価を得ることと親の成長得点の高さに関連が認められること, (2) 親の悩みの抱え方についてはいくつかのパターンに分類され, それらによりしつけ評価や成長のあり方が異なること, などが示された。
著者
古畑 和孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.11-22,54, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14

従来の双生児法とはやや観点を異にして, 所謂同一環境において生育したEZ対偶者間において発現して来る性格差異を, その相互関係との関連において研究することを志したものである。そこで箪者は, 卵生診断の確実な東大附属中学校1年在学双生児20組 (EZ12組・ZZ4組・PZ2組・U K2組) を研究対象として, 学校並びに集団合宿生活での行動観察, 種々の性格診断法を併用して, 各対の性格特徴を把捉し, その差異を検出することに努めた゜その結果, 従来の諸研究が, いずれも性格における高度の類似を強調しているにも拘らず, その社会的契機を重視していく限りにおいては, 案外差異を見出したし, 諸テストの結果でも, ZZに比すればやや類似しているとはいえ, A・B間に可成りの開きがみられた。而も大凡の傾向としては, その開きの大小, 反応の一致慶の高低が, 性格差異評価の一資料たり得ると解せられる。ところで, その差異の原因としては, 固より先ず, 身体的. 生理的条件が考えられるべきであろうし, 事実, 一般的にみて, 身体的差異の大なる対に, 性格差異も亦大なる傾向が認められ, その差小なる対は, 性格差異も小であつた。それ以外に差因の原因を求めるならば, 心理学的な環境的要因として, 相互依存関係との関連において, 多少とも兄弟的取扱いを受け, 又自らもかかる意識を有するところから成立する兄-弟的な関係が考えられる。そしてこれ等の明確な対においては, 矢張り差異が比較的顕著である。この関係の表出を計つた困難な課題解決場面での実験の結果によつて, 危機的場面での行動的特性として, 一般的にみて, 主導的一従属的関係が看取され, 加えてその相互関係における協力一競争関係について若干の知見を得た。EZにおける相互依存関係は, 性格における間柄的関係として問題になつたものであるが, これはZZに比するならば, 一般には意思疎通も円滑・良好であり, 所謂双生児共同体意識をも見出し得た。が, この“二人なるが故に”の特徴は, 両者が全く平等. 対等な関係としてあるのではなく, 寧ろ先にも見た如く, 多少とも相倚り (B) 相倚られる (A) 関係ににおいてあるようである。其の他, この間が極く自然的・円滑である対から, 何らかの摩擦・抵抗を感ずるような対に至るまでの存在や, その原因, 或いは同一視の問題等についても考察を進めた。最後に, 教育的見地から, 今後この観点からの研究の推進のためにも, 一・二の点に簡単に触れておきたい。EZが, 遺伝質同一とされているところからも明らかなように, 心的構造の下層部においては, 極めて高度の一致を示すのは当然である。が, 現実の生活においては, 遺伝的な規定に因りつつも, “上層部の世界が意識的には優勢を占め, 自らの行動を統御し, 主権性を担つている”(6) ことを思うならば, EZにおける兄一弟的関係が, 一その行動面において, Aの主導的Bの従属的な傾向への分化に導いていつたことは, 望ましい性格の形成を考慮するに当つても, 充分注目せられてよいであろう。この意味でも, EZにおける性格差具は, 今後大いに追究されてよかろう。EZにおける主導一従属的関係は, 知的要因によつて規定されるとの論があるようである。(8) 確かに対象双生児について, その学業成績や知能検査結果をみても, 現象的にはそうである。成績の相対的によい方は, 主導的とされる者に, 大体相当しているからである。が, 遺伝質同一の仮定が正しく, 身体的器質的条件が特に具るところないならば, 主導的であり成績の良好な者は, 多くはA児で易るところからみても, 主導的一従属的関係の成立が, 逆に学業成績などにも影響を及ぼしているのではなかろうかとの推論も可能であろう。とに角, 一般に, 学業成績と心的構えとの連関を考察するに当つても, この種研究が一つの素材を提供することが期待される。これ等, 問題の今後の展開のために, その一二を指摘するだけでも, 一層充実した精細な実証的研究を, 長期に亘り, 発達史的に続けることが必至と思われる。そうする時はじめて, ここに提供された問題も, 進展するかもしれないであろう。稿を終るに臨み, 終始懇篤な指導を忝けなうした指導教官三木安正教授はじめ諸先生方, 並びに直接材料蒐集其の他に援助を与えられた嘱託木村幸子氏, 附属学校関係各教官に対し, 謹んで感謝する。
著者
松本 じゅん子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.23-32, 2002-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
7 14 3

本研究では, 大学生を対象に, 悲しい時に聴く音楽の性質や, 聴取前の悲しみの強さと音楽の感情的性格による悲しい気分への影響を調べた。予備調査の結果, 悲しみが強い場合ほど, 暗い音楽を聴く傾向が示され, 悲しみが強い時に悲しい音楽を聴くと悲しみは低下するが, 悲しみが弱い時に悲しい音楽を聴くと悲しみが高まる, または変化しないことが予測された。実験1, 2の結果, 音楽聴取後の悲しい気分は, 音楽聴取前の悲しみの強さにかかわらず, 聴いた音楽によって, ほぼ一定の強さに収束した。結果的に, 非常に悲しい時に悲しい音楽を聴いた場合, 音楽聴取後の悲しい気分は低下し, やや悲しい時には変化しないことが示唆された。つまり, 悲しい音楽は, 悲しみが弱い時には効果を及ぼさないが, 非常に悲しい気分の時に聴くと悲しみを和らげる効果があり, 状況によっては気分に有効に働くことが推察された。
著者
麻柄 啓一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.180-191, 2009 (Released:2012-02-22)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

本研究では, 小学校5, 6年生が問題に数値が記載されていなくても公式を用いることができるか否かを調査した。具体的には底辺の長さが等しく高さが異なる2つの平行四辺形(あるいは2つの三角形)を提示して面積の大小判断とその理由の記述を求めた。正答者は平行四辺形の場合が49名中18名, 三角形の場合135名中80名に留まった。また底辺の長さが等しく高さが2倍である三角形の面積を「2倍」と答えることができたのは135名中62名に留まった(彼らは具体的な数値が与えられれば面積を算出することは可能であった)。公式の変数間の関係のみに着目して答の大小を導き出す操作を「関係操作」と名づけた上で, 関係操作ができない原因を分析した。その結果, (1)図形の大きさの違いを絶対把握ではなく相対把握しようとすること, (2)面積差は保存されないが面積比は保存される(差の非保存・関係保存)ことの理解が必要であることが示唆された。