著者
岡田 謙介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.71-83, 2015 (Released:2015-08-25)
参考文献数
61
被引用文献数
1 15

測定の信頼性は,実証的研究のおよそすべてに関わる問題である。本稿ではまず,信頼性の観点から直近1年間の教育心理学研究を概観する。近年のわが国における心理学諸分野のレビューからも確認されたように,研究場面において最もよく利用される信頼性の指標としてCronbachのα係数がある。しかし,α係数とはどのような指標なのかについては,心理学者の間で必ずしも理解がされていなかったり,誤解がされていることも少なくない。そこで本稿では,α係数がどのように解釈できる指標なのか,またどのように解釈してはいけない指標なのかを論じる。具体的には,前者についてはα係数が (1) 可能なすべての折半法による信頼性の平均であること,(2) 信頼性の下界の一つであること,(3) 本質的タウ等価の条件のもとで信頼性と一致することを述べる。後者については,α係数が (1) 大きいことが一次元性(等質性)の根拠とはならないこと,(2) 内的一貫性の指標とされることが多いが近年批判も高まっていること,(3) 項目数など様々な要因に依存すること,(4) 信頼性の「下限」ではないことを述べる。最後に,α係数に代わる信頼性の推定法と今後の展望,そして信頼性を高めるような測定の重要性を述べる。
著者
冨永 敦子 向後 千春
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.156-165, 2014-03-30 (Released:2014-12-24)
参考文献数
57
被引用文献数
2 9

本研究では最近のeラーニングに関する実践的研究の進展を概観した。情報通信技術の進展とともに,eラーニングと呼ばれる,ネットワークとパソコンやモバイル端末を利用した教育が一般的になりつつある。本稿ではまず,従来の教育とeラーニングを活用した教育を比較した研究を取り上げ,eラーニングが従来の教育方法と同程度かそれ以上の効果があることを示唆した。次に,eラーニングがより効果的となる特質として,反復学習の最適化が可能であることと学習者に対するフィードバックがシステムとして可能であることを取り上げた。さらに,ドロップアウトが比較的多いと言われるeラーニングの短所を補うための方策として,ドロップアウトしやすい時期や学習者の特定,講師のプレゼンス,ブレンド型授業の採用,メンタリングといった観点から工夫していくことが必要であることを主張した。最後に,これからのeラーニングの課題について述べた。
著者
平野 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.69-90, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
188
被引用文献数
1 1

本邦におけるここ数年のパーソナリティ研究の動向を2つの観点から概観した。第1に,ビッグ・ファイブを用いた研究を網羅的に概観し,それらの研究の領域的・国際的な拡がりを確認するとともに,それらの知見の適用に関する限界について言及した。第2に,敏感さやダークトライアドといった,病理や不適応と親和性の高いパーソナリティに関する研究を取り上げ,そうしたネガティブな特性のもつポジティブな側面に関する知見について検討した。それらを通して「よい/よわい/わるい」性格の多様な側面に目を向けるなかで,多様な個人の共存に向けたパーソナリティ研究の必要性が議論された。
著者
庭山 和貴 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.598-609, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
30
被引用文献数
13 10

本研究の目的は, 教師の授業中の言語賞賛回数が自己記録手続きによって増えるか検討し, さらにこれが児童らの授業参加行動を促進するか検証することであった。本研究は公立小学校の通常学級において行い, 対象者は担任教師3名とその学級の児童計85名(1年生2学級, 3年生1学級)であった。介入効果の指標として, 授業中に教師が児童を言語賞賛した回数と児童らの授業参加行動を記録した。介入効果を検証するために多層ベースラインデザインを用いて, 介入開始時期を対象者間でずらし, 介入を開始した対象者と介入を開始していない対象者を比較した。ベースライン期では, 介入は実施せず行動観察のみ行った。介入期では, 教師が授業中に自身の言語賞賛回数を自己記録する手続きを1日1授業行った。また訓練者が, 教師に対して週1~2回, 言語賞賛回数が増えていることを賞賛した。介入の結果, 3名の教師の言語賞賛回数が増え, 各学級の平均授業参加率も上昇した。フォローアップにおいても, 教師の言語賞賛回数と学級の平均授業参加率は維持されていた。今後は, 授業参加率が低い水準に留まった数名の児童に対する小集団・個別支援を検討していく必要があると考えられる。
著者
平山 るみ 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.186-198, 2004-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
19
被引用文献数
50 48 11

本研究の目的は, 批判的思考の態度構造を明らかにし, それが, 結論導出過程に及ぼす効果を検討することである。第1に, 426名の大学生を対象に調査を行い, 批判的思考態度は, 「論理的思考への自覚」, 「探究心」, 「客観性」, 「証拠の重視」の4因子からなることを明らかにし, 態度尺度の信頼性・妥当性を検討した。第2に, 批判的思考態度が, 対立する議論を含むテキストからの結論導出プロセスにどのように関与しているのかについて, 大学生85名を用いて検討した。その結果, 証拠の評価段階に対する信念バイアスの存在が確認された。また, 適切な結論の導出には, 証拠評価段階が影響することが分かった。さらに, 信念バイアスは, 批判的思考態度の1つである「探究心」という態度によって回避することが可能になることが明らかにされ, この態度が信念にとらわれず適切な結論を導出するための重要な鍵となることが分かった。
著者
小塩 真司 岡田 涼 茂垣 まどか 並川 努 脇田 貴文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.273-282, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
34
被引用文献数
47 27

本研究では, 日本で測定されたRosenberg(1965)の自尊感情尺度の平均値に与える調査対象者の年齢段階や調査年の要因を検討するために, 時間横断的メタ分析を試みた。1980年から2013年までに日本で刊行された査読誌に掲載された論文のうち256研究を分析の対象とした。全サンプルサイズは48,927名であった。重回帰分析の結果, 調査対象者の年齢段階と調査年がともに, 自尊感情の平均値に影響を及ぼすことが明らかにされた。年齢段階に関しては, 大学生を基準として, 調査対象者が中高生であることが自尊感情の平均値を低下させ, 成人以降であることが自尊感情の平均値を上昇させていた。また調査年に関しては年齢層によって効果が異なっていた。中高生や成人においては最近の調査であるほど直線的に自尊感情の平均値が低下しており, 大学生では曲線的に変化し, 近年は低下していた。また件法が自尊感情得点の平均値に影響を及ぼすことも明らかにされた。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.396-404, 1997-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
4

This study investigated the formative factors of gender conception as a cognitive frame concerning gender and its influence on a selection of gender roles (career patterns) using a multiple regression analysis. High school students, composed of 747 females and 726 males, were asked their gender conception measured by how much they agreed to stereotypical behaviors and affairs according to gender. The factors contributing to reinforcement of the gender conception were as follows: (a) the contact with magazines proper to gender,(b) awareness of sex/gender differences in an early period of life,(c) encouragement of femininity (masculinity) by parents, and in addition,(d) a gender separated educational environment in males. Otherwise, from the pass analysis it was indicated that the attitudes of gender roles were made by the medium of the gender conception composed by those factors, and that the gender roles were selected on those attitudes. The Scale of Gender Conception was available as a measure for a gender schematic process except the self concepts.
著者
櫻庭 隆浩 松井 豊 福富 護 成田 健一 上瀬 由美子 宇井 美代子 菊島 充子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.167-174, 2001-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
5 4

本研究は,『援助交際』を現代女子青年の性的逸脱行動として捉え,その背景要因を明らかにするものである。『援助交際』は,「金品と引き換えに, 一連の性的行動を行うこと」と定義された。首都圏の女子高校生600人を無作為抽出し, 質問紙調査を行った。『援助交際』への態度 (経験・抵抗感) に基づいて, 回答者を3群 (経験群・弱抵抗群・強抵抗群) に分類した。各群の特徴の比較し,『援助交際』に対する態度を規定している要因について検討したところ, 次のような結果が得られた。1) 友人の『援助交際』経験を聞いたことのある回答者は,『援助交際』に対して, 寛容的な態度を取っていた。2)『援助交際』と非行には強い関連があった。3)『援助交際』経験者は, 他者からほめられたり, 他者より目立ちたいと思う傾向が強かった。本研究の結果より,『援助交際』を経験する者や,『援助交際』に対する抵抗感が弱い者の背景に, 従来, 性非行や性行動経験の早い者の背景として指摘されていた要因が, 共通して存在することが明らかとなった。さらに, 現代青年に特徴的とされる心性が,『援助交際』の態度に大きく関与し, 影響を与えていることが明らかとなった。
著者
工藤 与志文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.41-50, 1997-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
1

College students numbering 206 were examined on their beliefs of the movement of sunflowers, and 112 students who had the false belief participated also in the experiment. The subjects were asked to read the science text which explained the facts that contradicted their beliefs in the following three conditions: (a) the photosynthetic rule was instructed, and the contradictory facts were referred to as examples of the rule; (b) the photosynthetic rule was instructed, but the facts were referred independently from the rule; and (c) only the facts were presented. The subjects were then put to some reading comprehension tests. The frequencies in the occurrence of belief-dependent misreading (BDM) on the tests were analysed. The following results were obtained: (1) there were less BDMs in the condition of the rule and example than in the other two conditions; (2) there were no less BDMs in the condition of the rule and facts than in the condition of the facts only. There findings suggested that the instruction in the relation of the rule and example was useful in order to avoid BDM.
著者
松岡 弥玲
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.45-54, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
36
被引用文献数
5 3

本研究の目的は,(1) 理想-現実自己のズレが年齢と共に減少していく変化と, 自尊感情が生涯にわたって維持される傾向とが関係しているかどうかを検証すること,(2) 理想自己の実現可能性の生涯発達変化を捉えること,(3) ズレを減少させる方略 (肯定的解釈粘り強さ諦めの早さ) の生涯発達変化をズレとの関わりから探索的に検討することである。調査参加者は15歳から86歳までの男女 (865名)。主な結果は以下の通りである。(1) 自尊感情は生涯維持され, ズレは年齢と共に減少していた。そして青年期から老年期までの全ての群でズレと自尊感情との間に有意な負の相関関係がみられ, ズレが減少していく変化と自尊感情の維持とが関連していることが示唆された。(2) 実現可能性は, 45-54歳に減少する傾向がみられた。(3) ズレを減少させる方略は, 高校生から55-64歳までの間, 対照的な方略が交互に用いられ, 男女差が顕著であった。しかし, 65-86歳群になると男女共にズレと方略との関わりが無くなった。これらの結果について, 性差に焦点をあて, ライフイベントや職業生活との関わりから考察がなされた。
著者
住田 裕子 森 敏昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.40-53, 2019-03-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

本研究では,小学校の算数科授業において個々の児童の深い概念理解を促すペア学習中の相互作用プロセスについて検討した。まず,小学4, 5年生の児童を算数問題解決のペア学習中になされた発話の種類に基づいて「自己中心性タイプ」「他者視点取得タイプ」「協調タイプ」の3タイプに分類した上で,ルール評価アプローチを援用したプレテストとポストテスト課題における平均得点を比較した。その結果,発話のタイプによって解決方略変容の生起に有意な差が見られ,調節的発話の発現を特徴とする協調タイプ群の児童が課題に対してより適応的な方略をとるようになり,調節的発話の生起が相互作用の効果を促進させることが示唆された。次に,それぞれのタイプ群の発話の推移を分析し,共同注意の観点に基づいて分類した3種類の発話(誘導的・未追跡的・追跡的)から次の3種類の発話(誘導的・未追跡的・追跡的)への推移確率を比較した。その結果,協調タイプ群は追跡的発話から追跡的発話への推移が他の2群に比べて有意に多く,相互作用プロセスにおいて追跡的発話の循環が概念理解を促すことが示唆された。
著者
直原 康光 安藤 智子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.116-134, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
48
被引用文献数
1 8

本研究の目的は,親が認知する離婚後の父母コペアレンティング,ゲートキーピングを測定する尺度を作成し,信頼性・妥当性を検証すること,離婚後の父母コペアレンティング,ゲートキーピングと子どもの適応との関連を検討することであった。離婚後の父母コペアレンティング,ゲートキーピング尺度は,離婚後9年未満の親432名を対象に分析を行った結果,一定の信頼性・妥当性を備えており,同居親・別居親で測定不変性を有していることが確認された。作成した尺度を用いて,2―17歳の子どもと同居する母親166名を分析対象として仮説モデルを検証した結果,葛藤的なコペアレンティングは,SDQの「総合的困難さ」との間に直接正の関連が認められた。一方,協力的なコペアレンティングは,SDQとの間に直接の関連は認められなかったものの,面会交流の促進を介して,同居時の父親の子どもに対する暴力が高かった場合のみ,SDQの「総合的困難さ」との間に正の関連が認められた。以上の結果を踏まえ,離婚後の父母や親子関係の在り方,親に対する心理教育プログラム等への示唆について,考察した。
著者
大村 彰道 撫尾 知信 樋口 一辰
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.174-182, 1980-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
1

To investigate the relationships between content structure of prose and information processing abilities, one group of 61 college students read passages with lots of words explicitly describing conjunctive relations among sentences and some other 61 students read passages with few such words. A memory test, a vocabulary test and an inference test Were administered to measure the relevant abilities. An immediate cued recall, a delayed cued recall and a delayed free recall were measured as dependent variables. Results strongly suggest the existence of a disordinal interaction between passage type and inference ability. That is, a number of connectives stating explicitly conjunctive relations among sentences influenced the understanding and retention of content differentially according to the reader's inference ability. Implications of this aptitude-treatment interaction to education were discussed.
著者
光永 悠彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.116-127, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
101
被引用文献数
2

本稿は2018年7月から2019年6月の1年間を中心とした「測定・評価・研究法」に関連する研究成果について,その動向をまとめた。そのうえで,今後の教育測定学や教育評価の研究が,新しい大学入試制度の導入に代表される,大規模なテストの制度設計にどのように役立てられるかについて,一つの指針を示すことを目的とした。新しい高大接続のための仕組みとして導入が予定されていた,大学入学のための共通テストに英語4技能入試や記述式を導入する試みが,導入を目前にして再考を迫られている今,これまで発表されてきた「心理尺度構成」「測定法に関する方法論的検討」「テストに関連する応用・実践研究」「その他,測定・評価・研究法に関連する研究」の諸論考から,テストで測られる構成概念の必要性の議論や,測定方法の実現可能性に関する議論を充実させることと,教育測定関連の研究環境の充実や新しい分析手法の検討が今後重要になることを指摘した。
著者
村井 潤一郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.63-78, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
72
被引用文献数
8

本稿の目的は, 主として2015年7月から2016年6月までの期間について, 教育心理学領域における社会心理学的研究の概観をした上で, そこで用いられている研究法・統計法について考察することである。本稿前半では, 2016年に開催された日本教育心理学会第58回総会における社会心理学的研究のテーマと研究法について概観した。その結果, テーマ, 発表件数についてはほぼ例年通りの傾向であり, 大多数の研究で質問紙調査法が用いられていた。また, あわせて, 上記期間における「教育心理学研究」の社会心理学的研究についても概観した。以上を受け, 本稿後半では, 尺度作成, ウェブ調査, 重回帰分析, 事前事後テストデザインの4点から研究法・統計法について論じ, 今後の研究の改善のためにいくつかの考えを述べた。