著者
松本 麻友子 山本 将士 速水 敏彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.432-441, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
37
被引用文献数
10 8 4

本研究の目的は, 仮想的有能感といじめ加害経験, 被害経験との関連を検討することであった。高校生1,062名を対象に仮想的有能感, 自尊感情, いじめ加害経験, 被害経験(身体的いじめ, 言語的いじめ, 間接的いじめ)の尺度が実施された。その結果, 仮想的有能感と全てのいじめ加害経験, 被害経験との間に正の相関が見られた。同様に, 自尊感情との組み合わせによる有能感タイプといじめとの関連を検討した結果, 仮想的有能感の高い「仮想型」・「全能型」ではいじめ加害経験, 被害経験が多く, 仮想的有能感の低い「萎縮型」・「自尊型」ではいじめ加害経験, 被害経験が少ないことが示された。本研究の結果から, いじめ加害経験, 被害経験には, 自尊感情よりもむしろ, 仮想的有能感が強く関連していることが示された。
著者
秋元 有子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.106-119, 2017 (Released:2017-04-21)
参考文献数
29
被引用文献数
2 2

医学的診断基準における算数能力の障害は算数障害として位置づけられ, 数処理システムや数的事実・手続き的知識からなる計算システムの問題から生じる計算障害がその中核と考えられている。算数数学の学習困難にはこれまでの研究から, 神経心理学的欠陥に基づく複数のサブタイプが提唱されてきた。本研究では数学的思考の手続き的知識と概念的理解の2つの区分を使って過去のサブタイプを分類し, 新たな知見も加えた基準を用いて算数のつまずきの具体的な症状の分析を行った。男19名, 女12名からなる対象児31名は1名を除きWISC-III, WISC-RでFIQ90以上で, 算数の評価, 治療教育を主に小学校高学年以降に行っている。日本の文部科学省の学習障害の定義にも照らし合わせて算数能力の障害と考えられる4つの群が得られた。計算手続きの問題が顕著な2つの群は明らかに算数障害と考えられたが, 具体物の配分・分割に著しいつまずきを示す群や, 操作の内化に重要なイメージが思い浮かばない群の対象児には数式の意味理解など概念的理解の問題が顕著に認められた。算数のつまずきを, 数学的思考の視点から概念的理解を含めて検討することの重要性が示唆された。
著者
成田 健一 下仲 順子 中里 克治 河合 千恵子 佐藤 眞一 長田 由紀子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.306-314, 1995-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
61 51

The purpose of this study was to examine the reliability and validity of a self-efficacy scale (SES: Sherer et al., 1982) using a Japanese community sample. The SES comprised 23 items measuring generalized self-efficacy. The SES and other measures were administered to a total of 1524 males and females whose ages ranged from 13 to 92. Exploratory factor analyses were conducted separately for sex and age groups and the factor structures obtained from these were compared. The results revealed a clear one-factor solution for the sample as a whole. A similar one-factor structure was obtained across sex and age groups. The SES was found to have satisfactory test-retest reliability and internal consistency. The correlations of the scores on the SES with other measures, such as depression, self-esteem, masculinity, and perceived health, provided some supports of construct validity. Some evidences of the construct and factorial validity of the SES in the Japanese community sample were found.
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.64-80, 2014 (Released:2014-07-16)
参考文献数
102
被引用文献数
5

ノーマライゼーションや平等主義的規範が行き渡った今日においても, 障害者に対する偏見や差別の問題は未だ社会に残っており, これらの背景となる態度について調べることが重要である。従来の障害者に対する態度研究は, 質問紙による自己報告式の測定方法が主流であった。しかしながら, これらの顕在的態度測定は, 社会的望ましさに影響されやすく, 無意識的・非言語的な態度を捉えることができない。偏見や差別のような, 表明が避けられる態度を捉えるためには間接測定による潜在指標が有効だと考えられる。本論文は, 潜在指標を用いて障害者に対する態度を調べた研究についてレビューを行った。障害者に対する潜在指標として, 主に, 投影法, 生理学・神経科学的手法, さらに近年では反応時間指標が頻繁に用いられるようになってきており, 多くの研究において障害者に対するネガティブな態度が示されていることがわかった。潜在的態度と顕在的態度の関連性について, 潜在指標の有用性と今後の課題について議論した。
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-12, 2009-03-30 (Released:2012-02-22)
参考文献数
34
被引用文献数
3 3 2

本研究の目的は, 青年が容姿・容貌に対する劣性を認知したときに生じる感情と反応行動との関連を明らかにすることである。中学生, 高校生, 大学生545名を対象に, 劣性の認知を尋ねる項目, 劣性を認知したときに生じる感情に関する項目, 反応行動に関する項目について回答を求めた。分析の結果, 反応行動は, 他者回避, 直接的努力, 他者攻撃, 気晴らし, 放置, 賞賛・承認希求, 代理補償の7種類に分けられた。また, 直接的努力は憧憬感情と, 他者攻撃と賞賛・承認希求は敵意感情と, 気晴らしは不満感情と, 放置と代理補償は悲哀感情と自己肯定感情とそれぞれ関連しており, 他者回避は中学生・高校生では不満感情と関連し, 大学生では悲哀感情と関連していた。これらの結果から, 容姿・容貌に対する劣性を認知したときに生じる感情と反応行動との間には, 特定の結びつきがあることが確認された。
著者
白水 始 飯窪 真也 齊藤 萌木
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.137-154, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
82

本稿では,学習科学の成立と展開を振り返り,次の課題を同定することで,実践を支える学びの科学になり得る可能性を検討した。1990年代初頭の成立から30年が経ち,学習科学は学習者の学びの複雑さや多様性を可視化し,それを支える教師や教育行政関係者,研究者が実践の中で学びについて学び合うことの重要性を明らかにしつつある。それは研究方法論が,特定の学習理論を具現化した教材などのパッケージを提供するデザイン研究から,ビジョンを提示し,その実装を現場主体で行えるようシステム面で支援するデザイン研究や,教育行政関係者も巻き込んだ連携基盤の上で学校や教師集団の自走を狙うデザイン社会実装研究に変化しつつあることとも呼応する。今後は,児童生徒が授業の中でいかに学ぶかの仮説を教育現場が自ら立てて,そのデザイン仮説を実践結果で検証し,学習プロセスの複雑さや多様性についての理解を深めることを支えられる実践学の創成が求められている。
著者
鈴木 有美 木野 和代
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.487-497, 2008-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
35
被引用文献数
49 34

本研究の目的は, 共感性の多次元的アプローチに従い, 他者の心理状態に対する認知と情動の反応傾向をそれぞれ他者指向性-自己指向性という視点から弁別的に測定しうる多次元共感性尺度 (MES) を作成し, その信頼性と妥当性を検証することであった。先行研究における概念定義の議論および既存尺度の構成を概観し,「他者指向的反応」「自己指向的反応」「被影響性」「視点取得」「想像性」の5つの下位概念を設定した。これらを測定する項目を作成し, 質問紙調査を実施した。大学生871名から得られた回答について因子分析を行った結果, 5つの下位概念に対応する5因子が得られた。α係数, I-T相関係数, 再検査信頼性係数などの結果から信頼性を検討した。また, 既存の共感性尺度および共感性との関連が予想される概念を測定する尺度との相関から妥当性を検討した。今後, 自我発達との関連など認知・情動反応傾向の指向性を規定している要因の検討を進めることが, 共感性に関する応用研究において有益と考えられる。
著者
水野 君平 太田 正義
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.501-511, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
28
被引用文献数
7 7

本研究の目的は,スクールカーストと学校適応の関連メカニズムについて,社会的支配志向性(SDO)に着目し,検討することであった。具体的には,自己報告によって生徒が所属する友だちグループ間の地位と,グループ内における生徒自身の地位を測定し,前者の「友だちグループ間の地位格差」を「スクールカースト」と定義した。そして,SDOによるグループ間の地位から学校適応感への間接効果を検討した。中学生1,179名を対象に質問紙調査をおこなった結果,グループ内の地位の効果が統制されても,グループ間の地位はSDOのうちの集団支配志向性を媒介し学校適応感に対して正の間接効果を持った。つまり,中学生において,SDOを介した「スクールカースト」と学校適応の関連メカニズムが示された。考察では,集団間の地位格差を支持する価値観を通して,高地位グループに所属する生徒ほど学校適応が向上する可能性が議論された。
著者
高橋 雄介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.38-56, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
103
被引用文献数
6

本稿の目的は, 2014年7月から2015年6月までの間に発表・報告された人格(パーソナリティ)特性をはじめとする個人差変数が取り扱われた研究について概観し, その動向と課題についてまとめたうえで, 今後の展望や展開を論じることである。ジェームズ・ヘックマンの研究以来, パーソナリティ特性(非認知能力)の発達及び教育的介入の可能性に関する研究に焦点が当たっている。本稿では, まずBig Fiveとそれに並ぶ個人差変数(知能や自尊感情など), そして自己制御とそれに類する心理学的構成概念(衝動性や満足の遅延など)に関する研究について, 次に, パーソナリティ特性や個人差変数と身体的・精神的・社会的健康との関連に関する研究について概観して, それらの成果をまとめた。最後に, 「あ・い・う・え・お」に準える形で(あ : Anchoring vignettes, い : Interactions, う : Unique relationships, え : Environmental Effects, お : Other reports), 5つの観点から今後のパーソナリティ特性研究の展望と展開を考察し, 3つの視座から課題と期待を論じた。
著者
藤 桂 吉田 富二雄
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.50-63, 2014-03-30 (Released:2014-07-16)
参考文献数
37
被引用文献数
3 3

インターネットの発展に伴い, 若年層において, インターネットがいじめの手段として用いられることも多くなってきた。このネットいじめに関しては, 多くの先行研究より, 被害者が誰にも相談しない場合が多いことが示されてきた。そこで本研究は, ネットいじめの被害者における, 周囲への相談行動が抑制されるまでの過程について検討を行った。その際, ネットいじめの脅威に対する認知が, 無力感を媒介して周囲への相談行動を抑制するという仮説に基づいて検討を行った。まず予備調査を実施し, 高校生および大学生8,171名より, 283名(3.5%)のネットいじめ被害経験者を抽出した。続いて本調査では, そのうち217名に, ネットいじめの被害経験, 被害時の脅威認知, 無力感, 周囲への相談行動を尋ねた。その結果, 被害時の脅威認知は, 孤立性, 不可避性, 波及性の3因子から構成されることが示された。また, ネットいじめ被害によって強められた脅威認知が, 無力感を経て相談行動を抑制していることも示された。これらの結果は仮説を支持するものであり, ネットいじめの速やかな解決のためには, 被害時の脅威認知を低減させる取り組みが重要であることが示唆された。
著者
佐々木 保行
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.137-146, 1996-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
88
被引用文献数
2

本論文は, 父親の育児関与とそれが父親におよぼす影響についての概観を試みたものである. これまでわが国の発達研究者の多くは, 父親の子どもへの影響についてほとんど考慮してこなかった. 親子関係に関する大部分の研究は, 主として母子関係の研究に集約されている. そのため父性や父子関係の研究は, 大変少ないのが現状である. 他方, 欧米の研究者では, 家族を社会システムとしてとらえる見方が次第に濃厚になっている. その理由は, 母親, 父親, 子ども, の家族メンバーが, お互いに直接あるいは間接に影響しあう存在だからである. 近年, 父親の文化的イメージは, 養育する父親として, また子どもと同様, 発達する父親としてとらえられている.
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.218-229, 2008-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
39
被引用文献数
7 6

本研究の目的は, 青年期における劣等感の発達的変化を, 自己の重要領域との関連から明らかにすることである。中学生・高校生・大学生549名に, 予備調査から選択された劣等感項目50項目への回答と, 自己の重要領域に関する自由記述を求めた。劣等感項目は予備調査と同様の8因子が抽出され, 自己の重要領域に関する記述は10カテゴリーに分類された。自己の重要領域と劣等感得点との関連を検討したところ, 中学生では知的能力を重要領域としており, 学業成績の悪さに劣等感を感じ, 高校生では対人魅力を重要領域としており, 身体的魅力のなさに劣等感を感じていた。そして, 大学生になり, 自己承認を重要領域とするようになると友達づくりの下手さに劣等感を感じるが, 人間的成熟を重要領域とするようになると劣等感はあまり感じられなくなることが明らかとなった。
著者
高橋 知音
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.172-188, 2022-03-30 (Released:2022-11-11)
参考文献数
66

発達障害のある大学生(入試の受験者を含む)の能力をテストで適切に評価するために,実施方法の変更・調整(テスト・アコモデーション)が必要になる場合がある。本稿では,発達障害のある大学生へのテスト・アコモデーションにおいて,エビデンスに基づいて適切な判断を行えるようにするための資料を提供することを目的とする。そして,より適切な判断ができるように,今後さらにどのような研究が必要か,近年の研究動向をふまえて提言する。国内外の関連研究をレビューした結果,試験時間延長は発達障害のある学生に効果的であることが示された。記述試験におけるパソコンを使った解答は,タイピングに習熟すれば有効である。文字の拡大等,問題提示方法の変更は,発達障害のある学生対象の研究ではないものの,解答時間が長くなる可能性が示されている。別室受験は,有効性のみられる人がいる一方,LD,ADHDのある学生全体としては効果がみられず,むしろ成績を低下させる場合もある。発達障害のある学生は個人差が大きいことから,個別ケースにおける判断においても,研究においても,診断名ではなく,機能障害の状態の評価結果を重視することが求められる。
著者
渡邊 芳之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.79-97, 2018-03-30 (Released:2018-09-14)
参考文献数
122
被引用文献数
2 5

2016年7月から2017年6月にかけての日本におけるパーソナリティ研究の現状と動向を分析するために,120件の学会誌論文と375件の学会発表をパーソナリティ関連研究として抽出して分類し,いくつかの量的な側面から調べた。日本におけるパーソナリティ関連研究は,この期間に主要な学会誌8誌に掲載された論文のうち48.0%を,2つの学会における発表のうち47.2%を占めている。1年間の研究協力者の総数は222,986名にのぼり,132個の新しい個人差測定尺度や項目が開発されている。こうした研究にはSEMに代表される統計的因果分析の技法が広く用いられている。研究テーマの動向や,パーソナリティ関連研究のこうした動向がパーソナリティ心理学や「個人差科学」に対して持つ含意についても検討した。
著者
舛田 弘子 工藤 与志文
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.241-253, 2021-09-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
26
被引用文献数
2

工藤・舛田(2013),舛田・工藤(2013)は,説明文の不適切な読解が生じる原因の一つとして,文章内容から触発された想念が読解表象に入り込む現象,すなわち「想念の侵入」を指摘した。この現象は舛田(2018)による質的研究において確認されている。本研究では「想念の侵入」と不適切な読解表象との関係について量的な分析を行った。研究1では大学生96名を対象に,説明文の読解,文章中の「重要と思う部分」と「気になる部分」の抽出,文章の主旨の記述を行わせた。その結果,適切な主旨を記述した者は,重要と思う部分に依拠して記述する傾向があったが,不適切な主旨を記述した者では気になる部分への依拠が多く,「侵入」も多く観察された。このことから,文章中のエピソードの印象深さがその要因として指摘された。さらに,文章の冒頭と結びの部分に関連する「侵入」が多かったことから,文章構成の影響も考えられた。そこで,研究2では大学生94名を対象に,研究1の文章の結末部分を入れ替えた文章を用いて調査を実施した。その結果,入れ替えられた結末部分の内容に関する「侵入」の増減が確認された。以上の結果は,トップダウン処理による読解ストラテジーの誤用という観点から考察された。
著者
森永 康子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.49-62, 2023-03-30 (Released:2023-11-11)
参考文献数
59
被引用文献数
1

本論文は,日本教育心理学会第64回総会において発表された個人研究と2021年7月から2022年6月までに発行された『教育心理学研究』の掲載論文の中から,教育社会心理学分野に該当する研究の動向についてまとめた。また,2019年から2022年6月までに発行された『教育心理学研究』の掲載論文の中で,参加者の性別がどのように扱われているかについて,ジェンダーの視点から検討した。その結果,以下の5つのカテゴリーを見出した。(1)研究の目的上いずれかの性別に偏らざるを得ないもの,(2)参加者の性別が記載されていないもの,(3)「方法」において参加者の性別が記載されているが,関連した分析や考察がされていないもの,(4)性別を統制変数として扱っているもの,(5)性別に関連した分析と考察がされているもの。(2)と(3)のカテゴリーが大半を占めていたが,ジェンダーの視点をもった研究やそうした研究に発展する可能性のあるものが,カテゴリーを越えて存在していた。最後に,教育心理学におけるジェンダーに関連した研究の重要性を示唆した。