著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.37-50, 2008-03-30 (Released:2016-09-16)
参考文献数
139
被引用文献数
7

軟体動物門に属するイシガイ類二枚貝(イシガイ目:Unionoida)は世界各地の河川や湖沼に広く生息し国内では18種が報告されている。特に流水生の種は土地利用の変化や河川改修の影響で国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念されている。これまで国内でイシガイ類に関する様々な優れた知見が蓄積されているが、その多くが基礎生態の観点から行われたものである。特に北米地域では高いイシガイ類の種多様性(約280種)を背景にして、基礎から応用にいたる様々な有用な研究事例が報告されており、イシガイ類の分布に影響を与える環境条件として、洪水時における生息場所の水理条件や、宿主魚類の分布が重要であることが明らかにされつつある。また、その生態的機能も評価され、底生動物群集や水質に大きな影響を持つ可能性も指摘されている。既往のイシガイ類二枚貝に関する生態学的研究の整理から、国内では、稚貝の生態や餌資源等に関する基礎的研究、さらに好適生息場所環境条件や生態的機能等に関する応用的側面からの研究が不十分であることが明らかになった。イシガイ類を介して成立する陸水生態系全体の保全のためこれらの分野における研究の進展が必要であることを示した。
著者
岸 茂樹 西田 隆義
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.225-238, 2012-07-30 (Released:2017-04-27)
参考文献数
114
被引用文献数
2

種間競争の結末は競争排除か共存のいずれかに終わるはずである。均一で閉鎖的な実験条件下で競争排除が容易に生じることは、不均一で開放的な野外環境下では資源分割による共存が生じうることを予想させる。したがって種間競争は野外の生物の資源利用様式を決定づける大きな要因と考えられてきた。資源競争の理論的予測によれば、競争排除が起きるためには、種間の強い密度依存効果が必要となる。Gauseが競争排除則を提唱して以来、多くの室内競争実験により競争排除が繰り返し観察されてきた。そしてそれらの結果から種間の強い密度依存効果の存在が推定されてきた。しかし競争排除を起こすほどの強い競争メカニズムを具体的に示した研究は少ない。我々は種の絶滅を引き起こす要因として、種間の性的相互作用である繁殖干渉に着目して研究を進めてきた。繁殖干渉は正の頻度依存性をもつため種の絶滅を起こしやすいことが予測されている。本稿ではまずマメゾウムシ2種を用いた一連の実験結果から、繁殖干渉の非対称な関係と競争実験の結果が一致することを示す。次に繁殖干渉のメカニズムを検討する。一般に繁殖の過程は多くの段階にわかれているため、繁殖干渉もその各段階で生じうる。交雑は繁殖の過程の最終段階で生じる繁殖干渉にあたる。これまで交雑が最も注目される一方、それより前の繁殖過程に生じる種間のハラスメントは見落とされてきた。本論文では、マメゾウムシの競争系において、遺伝的な痕跡が残らない種間ハラスメントの重要性を指摘する。最後に、これまで行われてきた多くの室内競争実験の結果を繁殖干渉の視点から再検討する。繁殖干渉がより一般的に種の絶滅を予測できる可能性を議論する。
著者
富田 瑞樹 平吹 喜彦 菅野 洋 原 慶太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.163-176, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

低頻度大規模攪乱である2011年3月の巨大津波の生態学的意味を議論するうえで、海岸林攪乱跡地における倒木や生残木などの生物的遺産の組成と構造を明らかにすることは重要である。本研究ではこれらを記載したうえで、攪乱前の標高、攪乱前後の標高差、汀線からの距離、マツ植栽時期の違いに起因するサイズ構成の差異などの環境条件が、攪乱後の海岸林の樹木群集の生残と損傷に与えた影響について解析した。2011年6月、仙台市の海岸林に設置した540m×40mの帯状区において胸高直径(DBH)が5cmを超える全ての樹木の生死・DBH・損傷様式を記録し、主な損傷様式を次の4つに区分した:傾倒(根系を地中に張ったまま地上部が物理的に傾いた状態)、曲げ折れ(根系を地中に張ったまま、幹基部が物理的に折れた状態)、根返り(根系が地表に現れて樹体全体が倒伏した状態)、流木(根系ごと引きぬかれた樹体全体が漂着したと推察される状態)。実生や稚樹の生存状況を明らかにするために、DBH5cm以下の樹木の種名と数を記録した。また、航空レーザー測量で求めた数値標高モデルを用いて津波前と津波後の標高を表した。海岸林は帯状区のほぼ中央で運河によって海側と陸側に区分され、海側には高標高の砂丘上に若齢クロマツ林が、陸側には一部に湿地を介在する低標高域にマツ・広葉樹混交壮齢林が成立していた。攪乱後の海側には生存幹が少なく、損傷様式は傾倒と曲げ折れが卓越した一方、陸側には多数の生存幹の他に多様な損傷様式が確認された。海側には広葉樹の実生や稚樹は出現しなかったが、陸側ではサクラ属やハンノキ、コナラなどの実生や稚樹が確認された。クロマツの実生や稚樹は両方に出現した。帯状区の海側と陸側の別をランダム効果、帯状区を10mに区分した方形区ごとの環境条件を説明変数、生存や損傷を応答変数とした一般化線形混合モデルによる解析の結果、マツの生存や各損傷様式の発生率は、汀線からの距離やサイズ構成、標高などに依存するが、その傾向は生存・損傷様式ごとに大きく異なること、若齢林が卓越する海側で傾倒率が、壮齢林が卓越する陸側で生存率が高いことが示された。また、マツや広葉樹の実生・稚樹が多数確認され、これらの生物的遺産を詳細に調査することで、減災・防災機能と生物多様性が共存する海岸林創出に向けて有用な知見が得られることが示唆された。
著者
久保田 康裕 楠本 聞太郎 藤沼 潤一 塩野 貴之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.267-286, 2017

システム化保全計画の概念と理論に基づく生物多様性の空間情報の分析は、保全の利害関係者に様々な選択肢を提供し、保全政策の立案・実行における意思決定を支援する。本論では、日本の生物多様性保全研究を推進する一助として、システム化保全計画を概説した。保護区ネットワーク設計の基本概念は"CARの原則"である:包括性(comprehensiveness)、充足性(adequacy)、代表性(representativeness)。全ての地域を保護区にするのは不可能なので、現実の保全計画では、生物多様性のサンプル(抽出標本)を保護区として保全する。CARの原則は、母集団の生物多様性のパターンとプロセスを、抽出標本内で再現するための概念である。システム化保全計画では、生物分布データを利用して保全目標を定義し、保全に関わる社会経済的コスト(土地面積や保全に伴って生じる社会経済的負担)を考慮し、保全優先地域を順位付けする。この分析は、地域間(保全計画のユニット間)の生物多様性パターンの相補性の概念に基づいている。かけがえのなさ(代替不可能度、irreplaceability)は、保全目標の効率的達成における、ある場所や地域の重要度を表す指標概念である。保全優先地域を特定する場合、保全上の緊急性や必要性を組み込む必要があり、代替不可能度と脅威と脆弱性の概念を組み合わせるアプローチがある。これにより、各サイトは、プロアクテイブな事前対策的保全地域とリアクテイブな緊急性の高い保全地域に識別される。保全計画では、様々な保全目標を保全利益に照らして検討することが重要である。Zonationが実装している効用関数は、メタ個体群や種数—面積関係の概念に基づいて空間的な保全優先地域の順位付けを可能にしており、有望である。システム化保全計画の課題の一つは、生物多様性パターンを静的に仮定している点である。生物多様性を永続的に保全するため、マクロ生態学的パターンおよび種分化、分散、絶滅、種の集合プロセスを保護区ネットワーク内部で捕捉するスキームを検討すべきだろう。システム化保全計画は生物多様性条約の学術的基盤で、愛知ターゲット等の保全目標を達成する不可欠な分析枠組みである。今後、日本でも実務的な保全研究の展開が期待される。
著者
大河原 恭祐 飯島 悠紀子 吉村 瞳 大内 幸 角谷 竜一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.123-132, 2017 (Released:2017-08-03)
参考文献数
43
被引用文献数
2

社会性昆虫であるアリには分巣と呼ばれるコロニー創設法があり、それに基づき複数の女王と複数の巣からなる多女王多巣性のコロニーが形成される。一部の多巣性の種では、コロニーが拡大してもメンバー間の遺伝的均一性が維持され、巣間では敵対行動が起きない。それによって種内競争を緩和し、コロニーを拡大できるとされている。これらの事は遺伝的に均一性の高い集団の形成はアリでも資源の占有や種間競争に有利であることを示唆している。本研究では多女王多巣性で、クローン繁殖によって繁殖虫を生産するウメマツアリVollenhovia emeryi についてコロニー形態や遺伝構造を調べ、その繁殖様式と多女王多巣性の発達との関連を調べた。さらにこうした繁殖機構をもつウメマツアリがアリ群集内の種間競争で有利に働き、優占的に成育できているかを、他種とのコロニー分布を比較することによって推定した。金沢市下安原町海岸林でのコドラートセンサスによる営巣頻度調査と巣間のワーカー対戦実験により、調査区内には8 個の多巣性コロニーがあると推定された。さらにそのうちの主要な6 個のコロニー(S1 ~ S6)について、女王とワーカーを採集し、その遺伝子型をマイクロサテライト法で特定した。4 つの遺伝子座について解析を行ったとこ ろ、女王には19 個のクローン系統が確認され、1 つのコロニーに2 ~ 5 個の系統が含まれていた。また各コロニーのワーカーの遺伝的多様性は高かったが、コロニー間での遺伝的分化は低く、6 個のコロニーの遺伝的構成は類似していた。このような遺伝的差異の少ないコロニー群は、越冬前に起きる巣の再融合によってコロニー間で女王やワーカーが混ざるために起きると考えられる。さらに類似した生態ニッチを持つ腐倒木営巣性のアリ群集でウメマツアリの優占性を調べたところ、営巣種14 種の中でウメマツアリは高密度で営巣しており、比較的優占していた。しかし、ウメマツアリによる他種の排除や成育地の占有は見られず、ウメマツアリは微細な営巣場所を利用することによって他種との住みわけを行っていた。これらのことからウメマツアリのコロニー形態や遺伝構造には、他の多女王多巣性種とは異なる意義があると考えられる。
著者
小野 嘉明 植松 辰美
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-10, 1968
被引用文献数
3

ONO, Yoshiaki and Tatsumi UEMATSU (Kagawa Univ., Taka matsu) Sequence of the mating activities in Oryzias latipes. Jap.J.Ecol. 18,1-10 (1968). The quantitative research on the chain reactions among the behaviour unit patterns recognized during development of the mating behaviour patterns was made as a preliminary step to study both the mechanism and meaning of the chain reactions in Oryzias latipes. One hundred and twenty one full-grown pairs of both sexes were observed. Each experimental material was isolated and feeded sufficiently for 72 hours before the experiment. Then a male and a female of the same body length were introduced simultaneously in the glass aquarium under the condition of controlled light in the dark room and their behaviour patterns observed for 30 minutes were recorded. No bait was given to them during the observation. The results obtained are as follows. 1) Fifty of the 121 pairs observed developed to copulation (M7) and spawning (M8). 2) From the quantitative research on the chain relation among the mating behaviour patterns the sequence of development of the mating behaviour is concluded to be as follows. Approaching (S1)→following (S2)→courting orientation (M1)→head-up I (M2)→courting round dance (M3)→head-up II (M4)→floating-up (M5)→crossing (M6)→copulation (M7)→spawning (M8)→ejaculation (M9)→fertilization (M10). 3) Considering both the degree of development of each mating behaviour pattern and the mean time from the beginning of the observation to the first occurrence of each behaviour pattern, the mating behaviour seems to develop along two following main processes. S2→M1→M3→M5→M6→M7-10 S2→M1→ M5→M6→M7-10 Regarding S_2→M1→M3 as phase I and S2→M1→M5→M6 as Phase II, the above mentioned processes are represented as follows. Phase I→latter part of phase II→copulation Phase II→copulation 4) Phase I has the biological significance of the promotion of the sexual drive of both sexes. 5) The female behaviour patterns, head-up I and II, are regarded as the avoiding behaviour due to insufficient sexual drive. These behaviour patterns result in the repeating of the male courting behaviour. Then the sexual drive of both sexes is promoted and the synchronization of copulation results. 6) There was observed the repeated phase I when the sexual drive of bath sexes was too low to copulate. Phase II occurred frequently when the sexual drive of the male is high, but that of the female is not so high. When the sexual drive of the male is low, the frequency of the occurrence of the mating behaviour is low or zero. In the pair prepared sufficiently to copulate, there are few repeated occurrences of both phases, or phase I is omitted.
著者
木田 森丸 金城 和俊 大塚 俊之 藤嶽 暢英
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.85-93, 2017

過去20年の研究でマングローブ林は熱帯森林生態系でもっとも炭素賦存量の多い生態系のひとつであることが示されており、その生態学的役割が注目されている。マングローブ林は河川を通じて流域および沿岸海域とつながっており、河川中の溶存態の有機物(Dissolved Organic Matter, DOM)を鍵としてマングローブ林の炭素循環および生態学的役割を議論することは重要である。DOMは生態系を支える栄養塩や微量金属元素のキャリアーとして働き、沿岸域の豊かな生態系を下支えしている可能性があるが、その機能性や循環速度は組成(構成成分割合)に応じて変化することが予想される。そこで本研究では、DOMの多くの機能を担い、かつ微生物分解に対して難分解性とされるフミン物質の組成をDOMの質的評価法として取り入れることで、沖縄県石垣島吹通川マングローブ林流域におけるDOMの特性把握を試みた。源流から海にかけて採水試験した結果から、吹通川のフミン物質割合は源流から海にかけて減少する傾向を示し、フミン物質割合の低い海水との混合および林内土壌へのフミン物質の凝集沈殿が示唆された。また、吹通川源流水中のフミン物質割合は他の非有色水系河川に比べて高く(60.9〜75.9%)、マングローブ林を含む沿岸生態系へのフミン物質の供給源として重要な役割を果たしていることが示唆された。加えて、マングローブ林内で採取した表層0〜25 cmの土壌から超純水を用いて水抽出有機物(Water Extractable Organic Matter, WEOM)を逐次抽出し、WEOM溶液中のフミン物質割合を測定した。その結果、電気伝導率の低下に伴いWEOM溶液のフミン物質濃度は大きく増加し、フミン物質が液相に移行溶出されることが確認された。これらの結果は、海水塩の影響により、マングローブ林内土壌に難分解性のフミン物質が選択的に保持されることを示唆するものであり、マングローブ林土壌の有機炭素貯留メカニズム解明に向けた大きな糸口を示したと言える。
著者
奥野 良之助
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.27-34, 1988-04-30 (Released:2017-05-24)

Life histories of 16 males and 3 females and survival records of 9 injured individuals of the Japanese toad, Bufo japonicus japonicus, are described. Sixteen males which lived from 8 to 11 years participated in the breeding ritual an average of 5.1 times, mated females an average of 1.3 times, and reached 119.7mm in snout-vent length throught their lives. Three females which lived from 7 to 9 years spawned 2.7 times and reached 117.0mm. Extensive data was provided by one male without a left hind leg which was recaptred 55 times during his 8 years life. The fact that this male participated in the breeding ritual 4 times, successfully copulated once, and reached 114mm in body length illustrates that intraspecific competition in the Japanese toad is not as severe as in other species.
著者
村岡 裕由 野田 響 廣田 湖美 小泉 博
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.345-355, 2007-11-30 (Released:2016-09-16)
参考文献数
41
被引用文献数
2

植物の生理生態学が取り組んできた主要な課題の一つは、光合成に必要な資源の獲得と利用を司る形態的機能、および生理的機能と生育環境との関係を明らかにすることである。様々な種について、与えられた生育環境におけるこれらの機能の効率性や変動環境に対する可塑性に着目して研究することにより、個体の成長と物理的環境との関係を作るメカニズム、個体群や群落の中での個体の振る舞いとその適応的意義、さらに群落の維持・更新過程のメカニズムなど、個体から群落、生態系に至るまで、様々なスケールでの生態現象の解明が進められてきた。植物生理生態学の視点は、大気中の二酸化炭素(CO_2)濃度の上昇や温暖化などの環境変動が生態系に及ぼす影響、または生態系の反応の理解においても重要な役割を果たす。生態系の炭素シーケストレーション機能は、その生態系を特徴付ける植物の生理生態的特性に依存するため、CO_2フラックス観測結果の解析や炭素収支のモデルシミュレーション解析における植物生理生態学的視点と知見の貢献は大きい。また、数十m四方から流域、地域、地球スケールでの生態系観測に有効なツールであるリモートセンシングの解析精度の向上には、葉群をなす個葉の生理的特性に加えて樹形や葉群構造への着目が大きく寄与することが新たにわかってきた。本稿では、筆者らが取り組んできた研究を紹介しながら、植物の光合成生産に関わる生理生態学的特性が個体から生態系スケールでの生態現象に果たす役割について考えてみる。
著者
波多野 肇 増沢 武弘
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.199-204, 2008
参考文献数
15

蛇紋岩の分布する地域には、蛇紋岩植物と呼ばれる特異な植物からなる群落が成立する。本研究は北アルプス、白馬岳の高山帯の蛇紋岩地において、蛇紋岩地の特異な植生の成立要因を明らかにすることを目的とし、植物の分布調査及び土壌環境調査を行った.分布調査の結果、白馬岳の蛇紋岩地においても一般的に知られているミヤマムラサキやウメハタザオといった蛇紋岩地特有の種の生育が確認された。土壌環境調査の結果、蛇紋岩地の土壌は高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率を有することが明らかになった。本調査より、蛇紋岩土壌の高いニッケルイオン、マグネシウムイオン含有率が、白馬岳の蛇紋岩地の特異な植生の成立要因となっている可能性が示された。
著者
川口 幹子 荒木 静也
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.147-154, 2016

:国境離島である対馬は、大陸の影響を色濃く受けた極めて独特な生態系を有している。島の9 割を占める山林は、その大部分が二次林であり、炭焼きや焼き畑といった人々の暮らしによって形成された里山環境が広がっている。一方で、信仰の力によって開発から守られてきた原生林も存在している。しかし対馬では、急速な過疎高齢化によって里山の劣化が進み、原生林においても獣害や悪質な生物採取により貴重な動植物の生息環境が破壊されている。里山を象徴する生物であるツシマヤマネコも年々数を減らし、絶滅危惧種IA 類に指定されている。そのような背景があって、対馬では、原生的な自然と里山環境とを同時に保全するための仕組みづくりが喫緊の課題であった。市民レベルでは、野焼きの復活や環境配慮型農業の導入など、ツシマヤマネコの保全を銘打ったさまざまな活動が行われている。しかし、これらの活動が継続されるためには、制度的な仕掛けが必要である。ユネスコエコパークの枠組みは、原生的な自然と里山環境とを、エコツーリズムや教育、あるいは経済的な仕組みによって保全する一助となるものであり、まさにこの目的に合致するものだった。本稿では、対馬の自然の特徴を整理したうえで、その保全活動の促進や継続に関してユネスコエコパークが果たす役割について考察したい。
著者
清水 健太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.28-43, 2006-04-25 (Released:2016-09-06)
参考文献数
72
被引用文献数
8

DNAの遺伝情報を生態学研究に活用する分野として、分子生態学が発展してきた。しかしながら、これまで使われたDNA情報としては、親子判定や系統解析のためのマーカーとしての利用が主であり、遺伝子機能の解明は焦点になっていなかった。ゲノム学の発展により、これまで生態学や進化学の中心命題の1つであった適応進化を、遺伝子機能の視点で研究しようという分野が形成されつつある。これを進化生態機能ゲノム学Evolutionary and ecological functional genomics、または短縮して進化ゲノム学Evolutionary genomicsと呼ぶ。進化ゲノム学は、生態学的表現型を司る遺伝子を単離し、DNA配列の個体間の変異を解析することにより、その遺伝子に働いた自然選択を研究する。これにより、野外で研究を行う生態学・進化学と、実験室の分子遺伝学・生化学を統合して、総合的な視点で生物の適応が調べられるようになった。本稿では、モデル植物シロイヌナズナArabidopsis thalianaの自殖性の適応進化、開花時期の地理的クライン、病原抵抗性と適応度のトレードオフなどの例を中心に、進化ゲノム学の発展と展望について述べる。
著者
早川 友康 遠藤 千尋 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.15-32, 2016 (Released:2016-10-03)
参考文献数
71

要旨 トキの採餌エネルギー効率および水田の生物多様性と生物量に対する秋耕起の影響を明らかにするため、トキの行動観察と秋耕起処理実験を行った。行動観察では、耕起後の経過日数が20日、40日、および120日の3つの時点において、トキの採餌エネルギー効率を算出するとともに、行動観察を行った水田において、観察後に水田生物量および物理環境を測定した。その後、一般化線形混合モデルにより、トキの採餌エネルギー効率を説明する統計モデルを構築し、パス解析により、秋耕起がトキの採餌エネルギー効率に及ぼす影響の経路と、その時系列的な変化を解析した。耕起処理実験では、「無処理区」、耕起の程度の細かい「ロータリ耕区」、耕起の程度の粗い「サブソイラ耕区」の3つの処理区を設け、耕起処理前後における生物量、出現種数、およびトキの採餌エネルギー効率の変化を明らかにした。一般化線形混合モデルによる解析の結果、トキの採餌効率は、主に水田の物理環境特性により規定されており、生物量の効果は検出できなかった。また、パス解析の結果、耕起がトキの採餌効率を高める効果があるのは耕起後20日までであり、耕起後40日および120日では、耕起による効果が急激に低下したことが示された。耕起処理実験の結果、耕起処理前後において、生物の出現種数に有意な差異は見られなかった。一方、生物量に関しては、ロータリ耕区とサブソイラ耕区において、耕起処理後、生物量が水田内で減少したのに対し、畦際では増加した。本研究で得られた一般化線形混合モデルにより耕起処理前後の採餌エネルギー効率の変化を推定したところ、トキの採餌エネルギー効率は、耕起処理後に無処理区で約0.6倍に減少する一方、ロータリ耕区で約1.7倍、サブソイラ耕区で約3.9倍に増加することが予測された。以上の結果から、秋耕起は短期的にトキの採餌効率を高める効果はあるものの、その効果は40日以上にわたり持続しないこと、加えて、採餌環境の改善策として秋耕起を導入する場合、水田生物への負の影響が少なく、かつトキの採餌エネルギー効率を向上させる効果が高い耕起法として、サブソイラ耕の導入が有効であることが示唆された。
著者
濱田 信夫 宮脇 博巳
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.49-60, 1998
参考文献数
80
被引用文献数
1

Far more studies on lichens as bioindicators of air pollution have been done in Europe and North America than in Japan. It is therefore necessary to grasp the background of European scicnce in this field in order to perform these difficult studies. Such studies shoud help to clarify the comprehensive influence of many air pollutants on lichens, and recent changes in the environmental situation. Remarkable studies carried out in Europe over the last 30 years, and recent reports, including those on acid rain, are reviewed. The authors discuss how to actually perform studies of lichens in Japan, based on their investigations in and around Osaka City.
著者
鈴木 和次郎 中野 陽介 酒井 暁子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.135-146, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2

要旨: 福島県の西端に位置する只見町は、日本有数の豪雪地帯で一年のうち半年は雪の中にある。約74,000 ha の広大な面積の90%以上を山林原野が占め、人口はわずか4,600 人程である。第二次世界大戦後の只見川電源開発による巨大な田子倉ダムと水力発電所を持つが、特筆される産業はなく、過疎・高齢化が地域社会の衰退に拍車をかけている。そうした中で、只見町は平成の広域合併を選択せず、独自の町づくりに着手した。その指針として町民参加によって「第六次只見町振興計画」が策定され、活動のスローガンとして「自然首都・只見」宣言が採択された。それは、これまで地域振興の大きな障害と考えられてきた豪雪とブナ林に代表される自然環境を、受け入れてさらに価値を見出し、それらに育まれてきた伝統的な生活・文化・産業を守ることによって地域の発展を目指すとの内容である。只見町は、これを具体化する包括的な手段として、ユネスコMAB 計画における生物圏保存地域(Biosphere Reserve, 国内呼称:ユネスコエコパーク)を目指すことを戦略的に選択した。ユネスコエコパークでは、原生的な自然環境と生物多様性を保護しつつ、それらから得られる資源を持続可能な形で利活用し、もって地域の社会経済的な発展を目指す。只見町では、歴史的に見ると、焼畑を中心に、狩猟、採取、漁労、林業などの複合的な生業によって地域社会が成り立ってきた。こうした自然に依存した生活形態は、現在でもなお色濃くこの地域社会を特徴付けている。只見ユネスコエコパークでは、こうした伝統的な生活や地場産業を大切にし、地域の発展を模索する。また、こうした取り組みを、過疎と高齢化に直面する全国各地の山間地の自治体に発信することで、ユネスコが期待する世界モデルとしての機能を担ってゆきたい。
著者
綿貫 豊 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.31-35, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
22

要旨: 環境化学分野では環境汚染のモニタリング、影響評価、コントロールのためにこれまで数多くの研究がなされてきた。その結果、過去に排出され未だに環境中に蓄積している物質に加え、新規に開発・合成された化学物質の影響により、生態系における汚染は今現在も進行しており、野生生物に対する影響も時として甚大になることが明らかとなってきた。一方、自然界における汚染物質の挙動は、親水性などの汚染物質の性質だけでなく、汚染物質を摂取した動物の生理・行動特性や汚染物質が取り込まれた食物網や生態系によっても異なるので、その理解には生態学的視点が欠かせない。従来、環境汚染物質の影響評価は毒性試験を通した催奇形性や致死率の評価、あるいは自然界における残留蓄積量の評価に焦点があてられてきたが、生態学は個体群・群集・生態系といったより複雑な系を対象とした影響評価に貢献できるだろう。このシンポジウムではさらに、リスク削減や回避の目標を明確にした上で、モニタリングと影響評価のコストを組み込んだ現実的対応策にもとづいた「順応的管理」の考えを導入することや、汚染物質に対する感受性の種内変異を考慮した集団遺伝学的アプローチなどを取り入れることが提案された。
著者
伊藤 元己
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.253-258, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1