著者
西村 勇人
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.257-265, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
11

近年、不登校の治療において機能分析に基づくアセスメントと介入が注目を浴びており、Kearneyらは不登校行動を四つの機能に大別している。本稿で報告する2事例は、不登校行動がもつ機能に注目してアセスメントを行った結果、否定的感情を喚起する学校関連刺激からの回避、社会的・評価的状況からの回避という機能を共通して持っていると想定された。これに対して共通してエクスポージャーやSSTを行い、事例1に対しては認知的介入も行った結果、学校に対する不安感が減少し、再登校が可能になった。同じ機能をもつ2事例の比較を通して、エクスポージャーやSSTの有用性についてや、どのような事例の差異に注目して技法を選択・運用していくかについて、考察を加えた。
著者
渡邊 亮士 岩本 隆茂
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.59-69, 2005-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、抑うつ傾向による随伴性認知の違いに関する知見の検討であった。実験に先立ち、393名の健常の大学生に対し、抑うつ傾向についてスクリーニングを行い、低抑うつ群、高抑うつ群として各24名ずつ選出した。実験では、被験者の行動(ボタン押しの有無)と、その行動を受けて示される結果(ライト点灯の有無)との随伴性について、被験者に評定させる課題が用いられた。おもな結果は以下の通りで、抑うつリアリズム理論や統制の錯覚現象は、非随伴事態で限局的にみられるものであるということが判明した。(1)評定の難易度が高い非随伴事態において、低抑うつ者は高抑うつ者に比べ、随伴性評定が不正確である度合いが有意に大きかった。(2)評定の難易度が低い非随伴事態において、随伴性評定の正確さに、両群の有意差はみられなかった。(3)低抑うつ者は、高抑うつ者と比較して、ベースラインの情報をそれほど重要視していなかった。
著者
首藤 祐介 山本 竜也 坂井 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.137-147, 2015-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

行動活性化療法は生活の中で強化される経験を増やす行動を活性化することを目的とした、抑うつのための構造化された短期療法である。本事例においては、大うつ病性障害により休職に至った29歳の男性に対して活動スケジュールと回避行動への介入を中心とした14回のセッションと2回のフォローアップ(1回45分)を実施した。その結果、活動が増加するとともに、Self-rating Depression Scale(SDS)の得点が65点から37点に減少していた。1年後もSDSの得点が37点であり、長期間効果が維持されることが明らかになった。このことから、行動活性化療法は回避行動や反すう、生活習慣の乱れによって抑うつ状態にあるクライアントに効果が期待でき、復職支援にも有効であると考えらえる。
著者
山本 竜也 首藤 祐介 坂井 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.247-256, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
20

本研究では、Reward Probability Index (RPI)日本語版を作成し、その信頼性・妥当性を検討した。研究協力者は、大学生392名(男性199名、女性191名、不明2名、平均年齢=19.61)であった。探索的因子分析の結果、RPI日本語版は、「報酬量」、「環境的抑制」、「報酬獲得スキル」の3因子、原版より1項目を削除した19項目から構成される尺度となった。RPI日本語版の内的一貫性(Cronbach’s α=.86)、および、再検査信頼性(級内相関係数=.88)は十分にあった。仮説検定では、RPI日本語版とBehavioral Activation for Depression Scale–Short FormやEnvironmental Reward Observation Scale、Beck Depression Inventory、Center for Epidemiologic Studies Depression Scaleとの相関係数は、仮説を満たしており、構成概念妥当性が確認された。したがって、RPI日本語版は報酬知覚を測定する尺度として、有用であると考えられた。
著者
田中 善大
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.71-81, 2017-01-31 (Released:2017-10-11)
参考文献数
13

指導的立場の保育士17名を対象にABC観察記録を含む応用行動分析の研修プログラムを実施し、指導的立場の保育士に対する直接の効果と指導を受ける立場の保育士(担当保育士)および対象園児に対する波及的な効果を調べた。参加者に対する効果を検討するために、参加者を対象とした質問紙調査を実施した。担当保育士および対象園児に対する波及効果を検討するために、担当保育士に対する質問紙調査と、対象園児に対する担当保育士の標的行動の記録を用いた分析を行った。その結果、参加者については、研修後に適切行動への言語称賛に関する助言が増加した。担当保育士については、その多くが、標的行動の記録およびABC観察記録を実施し、記録の有効性を高く評価した。対象園児の標的行動については、不適切行動よりも適切行動でより大きな改善が見られた。
著者
伊藤 義徳 金築 優 根建 金男
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.97-108, 2001-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、認知心理学において注目されている自動的処理と統制的処理という概念が、認知行動療法(CBT)に及ぼした影響について展望するとともに、この概念を積極的に取り入れることが、さらなる臨床心理学の発展に寄与する可能性について考察を行った。自動的処理と統制的処理は、人の認知過程において、意識しないままに行えてしまう活動と、子細に注意を払いながら行う活動があるという事実に着目した理論である。感情の喚起により統制的処理が阻害され、相対的に自動的処理が優位になるという相互の関係性があり、特に感情情報に対する処理過程は、感情障害のメカニズムを説明するモデルにおいて重要な役割を担っている。また、処理の二過程理論は認知・社会心理学の幅広い分野で応用されており、臨床領域においても、さまざまな応用が可能であると考える。こうした他分野の知見を積極的に臨床活動に応用してゆくことが、認知臨床心理学の役割であると考える。
著者
相川 裕子 土屋 利紀 原田 一道 高山 巌
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-11, 1996-03-31 (Released:2019-04-06)

通院中の緑内障,高眼圧症患者の心理的,身体的特徴を面接,タイプA行動質問紙法で捉えた。その結果,18人の緑内障患者のタイプA行動の平均得点は22人の健常者の平均得点に比べて有意に高かった。緑内障患者は心理的緊張が強く,身体的にも過緊張状態がみられた。そこで,心身の緊張を緩和させるために,ATを中心とする心理的アプローチを試み,症状がどのように変化したか検討した。ATを習得した患者全員の症状が緩和し,ATの実施によって,眼圧不安定だった緑内障,高眼圧患者8例中6例において,統計的に有意な眼圧下降が認められた。これらの結果から,緑内障患者は,交感神経系が充進状態にあることが推測され,ATを中心とした心理的アプローチが,一部の患者の症状緩和に有効であることが確かめられた。
著者
清水 栄司
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.59-66, 2020-05-31 (Released:2020-10-23)
参考文献数
15

日本認知・行動療法学会は、公認心理師、医師、看護師、精神保健福祉士などを対象にした認知行動療法師およびスーパーバイザーの資格認定をトレーニング・ガイドラインに基づいて行う。現在、日本の公的医療保険では医師および医師と看護師のみのため十分な普及に至っていない。うつ・不安に対する段階的ケア・モデルを取り入れ、公認心理師等の多職種による認知行動療法の提供が重要である。日本不安症学会は、外来認知行動指導料(案)にリハビリテーションの保険点数の単位制の応用を提案している。おおむね25分1単位で開始から180日以内(最大50単位まで)という設定にし、社交不安症の患者に毎週1回50分(2単位)で18週=36単位を提供したり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者に毎週1回100分(4単位)で12週=48単位を提供するなど、患者の重症度やニーズに合わせて、柔軟な時間単位での提供が可能となり、認知行動療法の普及が期待される。
著者
木村 諭史 市井 雅哉 坂井 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.133-142, 2011-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、質問紙調査法により、外傷体験を有する大学生191名を対象に、外傷体験想起時の対処方略の柔軟性が外傷性ストレス反応に及ぼす影響について検討した。対処方略の柔軟性の定義は加藤(2001b)に従い、"失敗した対処方略の使用を断念すること"(基準G)、"新たな対処方略を使用すること"(基準N)の二つを基準とした。分析対象者を二つの基準に従って分類した結果、G-N群は41名、G-noN群は36名、noG-N群は49名、noG-noN群は65名であった。基準G(2)×基準N(2)の2要因共分散分析を行った結果、基準G×基準Nの交互作用がみられた。単純主効果を検討した結果、新たな対処方略を使用した場合、それまで用いていた対処方略を放棄した者は放棄しなかった者に比べて回避症状得点が有意に高い一方で、新たな対処方略を使用しなかった場合、それまで用いていた対処方略を放棄した者は放棄しなかった者に比べて回避症状得点が有意に低かった。以上のことから、本研究では、対処方略の柔軟i生に富むことが外傷性ストレス反応の悪化につながる可能性が示唆された。
著者
園山 繁樹
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.55-66, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

学校に関連する場面で複数の嫌悪的体験をしたことを契機に登校拒否を示した小学2年生女児1名を対象に、母親を不安拮抗刺激とした段階的再登校法を中心とした介入を行い、その効果を検討した。本児の場合、登校拒否の契機として、友人の転校、不審者との接触、雨中での重い荷物を持っての下校など複数の嫌悪的体験が推測された。具体的な介入としては、母親面接、母親が付き添っての登下校と段階的な授業参加、授業参加記録表の活用、小学校の不登校検討委員会との協議などを行った。その結果、約1年間の介入によって、本児一人での登下校および全授業参加が可能となり、登校拒否行動はみられなくなった。4年間のフォローアップにおいても特別な問題はなく、病欠も含め欠席は1日もなかった。複数の嫌悪的体験が契機となった登校拒否について、持続的な不安反応に留意した段階的な再登校支援の必要性が示唆された。
著者
仲上 恭子 中鹿 直樹 谷 晋二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-025, (Released:2022-11-29)
参考文献数
14

在宅リハビリテーションでは、高齢者特有の心理状態により目標設定が不明確となっていると指摘されている。本研究では、在宅リハビリ患者に対する価値に関する介入が、生活の質と目標設定に及ぼす効果について、単一事例を通して検討した。患者は慢性腰痛を抱える男性であり、腰痛による活動性低下と、運動の拒否が生じていた。介入は、週に2回計12回の介入セッションと、2週間後のブースターセッション1回を実施した。結果、心理的柔軟性と生活の質が向上し、運動の拒否行動が減少した。価値に基づく行動として将棋を行い、痛みがあっても活動できることに気づき、運動が価値に関連づけられたことで拒否行動が低減したと考える。また、本研究では患者本人の心理的問題だけでなく、家族やリハビリ担当者との関係性とその問題を扱うことで、さらに介入の有効性を高めることができたと考えられる。
著者
高橋 稔 武藤 崇 多田 昌代 杉山 雅彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.35-46, 2002-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究では、Hayes, Bissett et al。(1999)と同様に、コールド・プレッサー課題の耐性時間の増大に必要なrationale(講義とエクササイズ)の条件について検討することを目的とした。被験者28名を無作為に3群に分け、異なるrationaleを実施し、その効果を比較検討した。その群とは、1)A-A群(Acceptance and Commitment Therapy(以下、 ACTとする)の講義とacceptanceに関するエクササイズ)、2)A-F群(ACTの講義と思考抑制の逆効果に関するエクササイズ(FEARエクササイズ))、3)プラシボ群であった。その結果、ポストテストにおいてA-A群、A-F群ではACTに関する理解度が有意に増加した。また、コールド・プレッサー課題の耐久時間はA-A群のみが有意に増加した。これより、コールド・プレッサー課題の耐性時間を増大するためには、ACTに関する知識だけではなく、acceptanceに関するエクササイズが必要であることが示唆された。最後に、本研究の手続きに関する応用可能性と今後の課題が議論された。
著者
五味 洋一 大久 保賢一 野呂 文行
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.97-115, 2009-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

通常学級におけるアスペルガー障害児童の学習参加を標的として、機能的アセスメントに基づく自己管理手続きの効果を検討した。研究1では、インタビューおよび行動観察を通じて離席等の問題行動の機能を推定し、その結果に基づいて支援計画を立案した。支援計画はおもに1)個別課題の提示、2)代替行動の教示、3)課題従事に対する自己管理手続きの導入によって構成された。自己管理手続きを導入し、適切な行動および代替行動を自己記録の対象としたことにより、対象児の離席は顕著に減少したが、課題従事に改善はみられなかった。そこで、研究2では自己記録の対象を個別課題の正答数へと変更し、その効果を検討した。行動的産物である正答数を自己記録の対象とすることにより、正答数だけでなく、正答にいたるために必要な課題従事も増加した。これらの結果から、通常学級における効果的な自己管理手続きの適用方法が検討された。
著者
前田 ケイ
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.23-28, 2004-03-31 (Released:2019-04-06)

本稿ではSST(social skills training)の実施を集団で行う場合、集団のもつ潜在的な治療教育的力動を生かしつつ、参加メンバーの行動学習を効果的に助けるために、どのような工夫ができるかを具体的に論じた。SSTは幅広い利用者に対して有効な方法であるが、ここではおもに精神障害者のSSTについて述べた。精神障害者のSSTは医師、看護師、臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士など、多職種が行っているので、ここではそのような人々を総称して「スタッフ」とよんだ。SSTにはいろいろな進め方があるが、本稿で紹介するのは基本訓練モデルとよばれる方法である。基本訓練モデルによる指導過程のうち、特に「学習に適切な環境をつくる段階」と「学習を効果的に進める段階」の2つに焦点を絞って、いくつかの集団技法について論じた。
著者
川井 智理 嶋 大樹 柳原 茉美佳 齋藤 順一 岩田 彩香 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.399-411, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
25

本研究は、Acceptance and Commitment Therapy(ACT)が注目する脱フュージョンという行動的プロセスを測定する尺度の作成、その信頼性と妥当性の検討、脱フュージョンに含まれるさまざまな行動の機能の重なりや相違点に基づいた妥当性の高い行動クラスを見いだすことを目的とした。40項目からなる尺度の原案を作成し、首都圏の学生を対象に横断調査を行った。探索的因子分析の結果、本尺度は【自分の自覚】・【選択と行動】・【現在との接触】の3因子18項目から構成されることが示され、脱フュージョンは三つの“機能”を含む可能性が明らかになった。また、それぞれを下位尺度とした場合、十分な内的整合性、収束的妥当性が確認された。今後は、本尺度を用いてACTが介入対象とするほかの行動的プロセスや臨床症状との関連性を検討し、精神的苦痛を緩和する脱フュージョンについての理解をより深めていく必要がある。
著者
泉水 紀彦 望月 聡
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.33-43, 2014-01-31 (Released:2019-04-06)

社交不安の認知モデルによると、ネガティブで歪んだ自己イメージが不安の維持に重要な役割をもつと指摘されている。本研究の目的は、情動価の異なる自己イメージの保持が、社会的状況でのパフォーマンスへ与える影響を検討することであった。高社交不安詳と低社交不安詳の参加者を三つのイメージ条件に振り分け、スピーチ前にネガティブ、ポジティブ、統制のいずれかの自己イメージを生成させ、そのイメージを保持したまま、スピーチ課題を行った。その結果、ネガティブな自己イメージを保持した高社交不安者は、統制条件と比較して、不安症状が他者に見えていると評価した。評定者評価においても、ネガティブ条件のスピーチ場面のパフォーマンスの悪化が示された。ポジティブな自己イメージを保持した高社交不安者は、ネガティブ条件と同様に、状態不安が増加したが、不安症状が他者に見えているかどうかの評価は現実的であった。本研究の結果から、ネガティブな自己イメージは高社交不安者により否定的な影響を与え、ポジティブな自己イメージは、ネガティブな自己イメージとは異なる影響をもつことが示唆された。