著者
森脇 健夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

子どもの学習の物語論的分析は、子どもが授業での経験をどのように意味づけ、自らの文脈に位置づけるか(自らの世界に取り込むか)、という関心にもとづく。本研究では、これまでのさまざまな分野におけるNarrativeに関連する研究を概観すると同時に、子どものNarrativeを分析する際の枠組みを構造主義やstoryの社会学から導き出した。実践分析としては、奈良女子大学附属小学校の小幡肇教諭の一連の実践(「阪神大震災・大研究」)を分析対象とした。「『気になる木』の『はっぱ』をふやそう」という独特のシステムを持つ小幡氏の授業の特質を分析すると同時に、そこで子どもたちが授業体験をどのように意味づけしているか、その意味づけの特徴を分析した。その結果、授業の構造の分析、すなわち共時的な分析によって、多様な物語(個性的な意味づけ)が生まれる条件としての「装置」が必要であること、また、通時的な子どもの「物語」の分析によって、さまざまな事象へのアプローチがその子ども独特のストラテジーにもとづいて行われていること、またそのストラテジーが授業での経験の意味づけに大きな影響を与えていることを明らかにした。こうした分析結果を踏まえて授業技術形成を行っていく必要があるが、これまでの技術とは異なった技術(たとえば「装置」を築いていくこと)を形成していくことの重要性を指摘することにとどめた。教師の力量形成としてこうした技術をどのように身体化していくのか、は次の課題としたい。
著者
那谷 雅之 井上 裕匡
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高温多湿環境下ラットの心筋及び脳幹における遺伝子発現量を定量した。心筋では直腸温上昇と共にHSP70 発現量は増加する一方で、42℃-44℃上昇間に Bcl-2/Bax は減少、β-MHC は増加した。脳幹では、直腸温上昇に伴いHSP70 は増加する一方で、iNOSは低下した。Bcl-2/Bax は37℃から42℃までは明らかな変化を示さなかったが、42℃-44℃間では有意に低下した。過度の体温上昇は心臓・脳幹の形態学的・機能的障害を引き起こす可能性を示唆していると考えられた。
著者
石田 正昭 徳田 博美 波夛野 豪 石井 敦
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

日本とドイツの農村地域社会は大いに異なっている。ドイツには市民がいるが、日本には住民がいる。行政への依存においても態度の違いがある。われわれはこうした違いを日常生活の中から解明しようと試みる。調査結果によれば、日本よりもドイツにおいて、市民活動における3つの原則(自己統治の原則、補完性の原則、共同経済の原則)がより徹底していることが観察される。
著者
水越 允治
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

18〜19世紀前半の近世小氷期末の気候特性を,近世文書の記録により復元し,19世紀後半もしくはそれ以後の気候特性との違いを明らかにした。またその様な差異を起こす原因について検討・考察を行った。主要な成果は次のとおりである。(1)冬の寒さは1820年代まで厳しく,30年代からは温暖化した。1860年代の寒さは近年と同程度。したがって近年の暖冬は決して未曽有のものではない。(2)冬の太平洋側の降水量は19世紀前半には少な目,後半に入って次第に増加する。(3)19世法前半には春先に冬型気圧配置の出現頻度が大で,春の到来が遅かったことがわかる。(4)梅雨明けは1780年代,1830年代に特に遅かった。梅雨期の降水量は19世紀初頃には少なく,1830年代から増加している。(5)1820年代までは空梅雨の年が折々現れているが,1830年代以後は梅雨末期の豪雨が頻発する。(6)年間台風襲来数は19世紀初には1〜2回程度,1820年代の後半から急増し年間3〜4回にも達する程になる。(7)夏の乾湿度(降水量の多少)は,1820年代までは乾燥傾向,30年代からは湿潤に向かい,40年代以後は湿潤年が目立つ。(8)以上から1820〜30年代付近を境として,これ以前には寒冬,暑夏で乾燥した気候条件が,それ以後には暖冬,冷夏で湿潤な気候条件が中部日本では卓越したと考えられる。19世紀初頃の気候条件をもって近世小氷期の特性とするまらば,この時代の大気大循環は東アジアの東西指数が冬は低く,夏は高い傾向にあったと推定できる。またこのような大気大循環型形成の背景には,大気と海との相互作用の存在がうかがわれ,例えば近世小氷期の時代にはエルニ-ニョ現象が比較的不明瞭ではなかったかと推測される。火山活動もまた近世小氷期の気候特性と係わることが,気候復元の結果と照合してみると推察される。現在これらの気候と対応関係の分析を進めている。
著者
麻野 雅子
出版者
三重大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、現代政治思想における公共性に関する理論研究を踏まえつつ、阪神・淡路大震災時のボランティア活動に関わった人びとの体験記や活動の記録文書を分析することから、現代の日本人が抱いている公共性意識を解明することである。これまで公共に資する活動を行うのは行政機構の専権事項のように考えられがちであったが、阪神・淡路大震災においては数多くのボランティアが、初期の救出作業や防災活動、安否確認にはじまり、援助物資の搬出・搬入、避難所の運営、炊き出しや水くみ、被災者の在宅支援など多種多様な公益に資する活動を行った。ボランティアは、すべての市民に対して責任をもつわけではないので、公平性に拘束されることなく臨機応変な対応で、行政ができない公共活動を行うことができた。ボランティアによる公共活動に参加したり助けられたり人びとは、行政や市場システムが提供するのとは違う公共活動があることに気付いた。ボランティアが公共サービスを提供するやり方は、一つには、自分たちのやり方で自発的に行うという「自己決定」の原理に支えられている。その一方で被災者の立場に立ち、被災の現実を他人事としてではなく自分に関わることとして受け止め、当事者として何か活動をしようという「協働」の原理によっても支えられている。こうした震災ボランティアの活躍によって、「自己決定」と「協働」の原理に基づいて運営される公益活動が広がり、市民自らが公共活動を担っていこうとする市民的公共性の意識が成立する可能性が高まったといえる。
著者
鈴木 成宗
出版者
三重大学
巻号頁・発行日
2017

内容の要旨・審査結果の要旨 / 地域イノベーション学専攻
著者
荒木 利芳
出版者
三重大学
雑誌
産学が連携した研究開発成果の展開 研究成果展開事業 地域事業 地域イノベーション創出総合支援事業 シーズ発掘試験
巻号頁・発行日
2007

糖アルコールの1種であるキシリトールは虫歯予防や糖尿病患者用甘味料として注目をあびているが、ショ糖と比較して高価なため、より安価な製造法の開発が求められている。現在キシリトールの材料は白樺や樫の木などのβ-1,4-キシランが使用されているが、本研究では、地中海を中心に異常繁殖し、生態系の破壊や漁業に大きな被害を与えている変異種海藻イチイヅタ(Caulerpa taxifolia)の細胞壁構成成分であるβ-1,3-キシランに注目した。申請者はこれまで海域から単離した強力なβ-1,3-キシラン分解細菌Vibrio sp.XY-214 からキシリトール生産に必要な3種類の酵素(β-1,3-キシラナーゼ、β-1,3-キシロシダーゼ、キシロースレダクターゼ)の遺伝子のクローニングに成功している。よって、本研究ではこれら酵素遺伝子の大量発現系を確立し、得られた発現酵素を用いて固定化酵素システムを構築し、β-1,3-キシランからキシリトールを安価で大量に製造する新技術を開発することを目的とする。
著者
平島 円 高橋 亮 西成 勝好
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

pHを高くし,アルカリ性に調整したコーンスターチ,タピオカ澱粉,ジャガイモ澱粉の糊化および老化特性について検討した。高pHでの澱粉の糊化は,pHにより同様の傾向を示した。いずれの澱粉においてもpH11付近では糊化が起こりにくいため,澱粉糊液の粘度は低下した。一方,pH12を超えると糊化が起こりやすくなるため,糊液の粘度は上昇した。しかし,pH13付近では糊液の粘度は著しく低下した。これはアミロース鎖やアミロペクチン鎖の分解が原因だと考えられる。コーンスターチとジャガイモ澱粉糊液の保存に伴う離水量はpHが高くなるほど少なく,高pHほど老化の進行がゆるやかになるとわかった。
著者
西 信康
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、万物の生成変化に関する中国古代道家思想の生成論と、人性論を含む儒家の倫理学説とを対象とする。道家の生成論を儒家の倫理学説に対する存在論的基礎を提供するものと想定し、儒道二学派の思想的形成過程とその思想的交渉の具体的様相を解明する。併せて、儒家の倫理学説における解釈史上の諸問題を実証的に解決し、各資料の新解釈の提示のみならず、研究者の視点を更新する解釈学的批判に取り組む。対象となる一次資料は、世代を超えて今日まで伝わる伝世(でんせい)文献と、新たに発見された出土資料との二種類である。
著者
河野 純輝
出版者
三重大学
巻号頁・発行日
2017-03

三重大学大学院 生物資源学研究科 共生環境学専攻 環境情報システム工学専攻 エネルギー利用工学教育研究分野
著者
下西 裕太
出版者
三重大学
巻号頁・発行日
2021-09-15

本文/三重大学大学院 工学研究科 博士後期課程 材料科学専攻
著者
小田島 春樹
出版者
三重大学
巻号頁・発行日
2022-03-25

This research is a study of a case where the process innovation of small and medium-sized restaurants located in tourist spots is realized by introducing a visitor number prediction formula using big data and improving customer management. With reference to the value chain framework shown in M.E. Porter, the author edited and created a value chain model for small and medium-sized restaurants located in tourist areas. This study focused on triggering innovation in customer management as part of support activities in the value chain. In the example, by utilizing the customer information accumulated in the POS cash register and big data such as the weather and the number of nights, the number of visitors is predicted with an accuracy close to 90%, thereby eliminating the loss of purchase and managing labor and personnel. The result was that the efficiency was improved, and the treatment of employees was improved.
著者
黄 佳慧
出版者
三重大学
巻号頁・発行日
2008-01-01

三重大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程地域文化論専攻
著者
及川 伸二 山嶋 哲盛 小林 果
出版者
三重大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

アルツハイマー病の発症には多くの要因が関係すると考えられているが、近年脂質類のアルツハイマー病への関与を示す報告が多数なされている。脂質は、加熱などにより酸化され過酸化脂質を生じ、この過酸化脂質がさらに生体に酸化ストレスをもたらすことがよく知られている。本研究では、過酸化脂質などにより酸化ストレスを暴露したサルを用いて、細胞死誘導と酸化損傷タンパク質の変動について明らかにした。
著者
山口 陽平
出版者
三重大学
巻号頁・発行日
2008-01-01

三重大学大学院工学研究科博士前期課程分子素材工学専攻
著者
吉岡 基 鈴木 美和 船坂 徳子
出版者
三重大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-04-01

「鯨類において,陸生哺乳類にはない,特殊に発達する脂肪組織(脂皮:ブラバー)が,彼らの繁殖の制御に深く関わり,繁殖成功の鍵を握っているのではないか?」.本研究では,鯨類の繁殖生理学研究でこれまで主流であった血中性ステロイドに焦点を当てた研究展開の枠を脱却し,この学術的問いを出発点として「ブラバーを主軸とした器官間のクロストークが鯨類の繁殖を制御する」という仮説を立てた.この正誤を科学的に確かめることにより,鯨類の繁殖機構を新たな切り口から解明し,飼育下鯨類の繁殖成功に貢献することに挑戦する.