著者
吉野 由起
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本課題はロマン派期文芸における妖精表象の実態をスコットおよびホッグの作品群に焦点をあて検証した。両者による土着の口承伝統を巡る論考や、詩や小説での妖精の描出例は数多く多岐に亘り、一見懐古的な様相の背後に隠された先鋭的な近代性、独創性と実験性に溢れ、同時代英国文壇で稀有な存在感を放ったと考えられる。これらの例の検証の結果、両者の妖精譚は同時代現実世界に向けた眼差しの体現であり、啓蒙主義の開花とロマン派期文芸の独特の展開をみたスコットランドにおける両潮流のせめぎ合いの顕現であり、口承伝統と古典叙事詩の借用を折衷した神話創造の試みで、両者の文学性に密接に関連するという仮説の裏付けを得た。
著者
須曽野 仁志 下村 勉
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

学習者が自分自身へ宛てた手紙をデジタルストーリーテリング(digital storytelling、略称「DST」)で表現する授業設計及び実践にとり組んだ。具体的に、大学生を対象とした実践は三重大学教育学部授業で、中学生対象の実践は三重県志摩市立浜島中学校で行われた。学習者が授業でDST制作にとり組んだ感想を質的分析し、授業デザインのためのコメントをカテゴリー化した。さらに、授業実践を通じて、手紙形式のDSTは人に伝える言語活動を充実するために有効であり、「自分への手紙」をテーマに設定することが学習者自身の生き方を内省することにつながることが明らかになった。
著者
浦山 益郎
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、都市近郊に存在する農業用ため池を居住環境資源として位置づけ、その整備・保全・管理の方向性を探るために、ため池の公園的整備が進められている愛知県東海市と農業用ため池として半自然的環境を形成している三重県津市を対象地域として、ため池が持つ居住環境資源としての可能性、住民の利用実態と評価を通してため池の利用効果・存在効果およびため池整備に対するニーズを調査分析したものである。東海市に55箇所、津市に81箇所のため池がある。市街化区域にはそれぞれ18箇所、10箇所であるが、都市公園のスキマに位置しており、都市空間における公園機能を補完する地理的条件を有している。また、市街化調整区域のため池は、周辺の農地や林地と共に都市空間を取り巻く半自然的環境を構成する要素となっている。ため池の整備形態の違いによる効果と問題点を明らかにするために、公園的整備の有無と周辺100mの範囲の土地利用構成からため池の類型化を行い、典型的なため池を10箇所選定し、周辺居住者にアンケート調査を行った。結果を要約すると、公園的整備されたため池は多くの住民に利用されているが、農地や林地に囲まれた未整備状態のため池はほとんど利用されない。周辺に宅地が多くなるほど利用するものが増える。利用されない第一の理由は利用できるように整備されていないことであるが、危険・汚い・アクセスしにくいことも周辺住民の足を遠ざける要因となっている。しかし、ため池の存在自体が否定されているのではなく、むしろため池を積極的に評価している住民が多い。それはため池が利用効果だけでなく、開放性・日照などのオープンスペース機能、生態系保全機能などを持っているためである。その場合、利用効果と同時に存在効果を高めるような整備のニーズが認められる。
著者
坂本 つや子
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.71-87, 2002-03-25

Oscar Wildeの三つの作品,The Importance of Being Earnest, Salome, The Selfish Giantについて,「庭」という観点から論じる。The Importance of Being Earnestでは,第一幕はロンドンのフラット,第二幕はウールトンのマナーハウスの庭,第三幕はマナーハウスの邸内が背景に設定されている。作者はShakespeareのA Midsummer-Night's Dreamを下敷きにして,宮廷の秩序に対する森の混沌,あるいはArtに対するNatureという,古典的対立概念を作品の構成に利用し,全体の秩序を統べる者として,Duchess of Bolton (舞台には登場しない)及びLady Bracknellを設定している。Salomeは聖書のエピソードと,Flaubertの短編Herodiasをもとに書かれた戯曲である。この作品には歴史と文明の集積地としての肉体が「囲われた庭」としてイメージされている。Salomeを恋する若者は彼女の肉体を「没薬(ミルラ)の園」と呼ぶ。Iokanaanは自らの身体を「主なる神の御堂」と呼ぶが,思想的純粋さに対する彼の自負は,Salomeの直観によって否定される。サロメは彼の神聖な白い身体とそそけた黒髪を「鳩や銀の百合に満ち満ちた庭園」,「茨の冠」に喩える一方,「癩病に冒された皮膚の白」,「黒葡萄を飾ったディオニュソスの髪」に喩える。このようにsalomeにおいては,聖とともに汚れや異教世界をも内包する,矛盾に満ちた複合体としての「囲われた庭」が渇仰の対象となる。The Selfish Giantは巨人の城に付属する広大な「庭」を背景に描かれている。童話の形式を取ったこの短編は,幼子の姿をしたキリストの「囲われた庭」への訪問,巨人のキリスト迫害と回心,キリストの顕現と聖痕の提示,巨人の「楽園」への昇天を描く奇跡劇(ミステリー・プレイ)である。
著者
冨樫 健二 藤澤 隆夫 長尾 みづほ 貝沼 圭吾 荒木 里香
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

小児期の肥満と若年成人期の心血管リスクとの関連を検討するため、肥満で通院した小児を対象とした予後調査を行った。小児期の平均年齢は9.8歳、成人期の平均年齢は22.4歳であり、平均経過年数は12.6年であった。小児期の肥満が高度化するほど成人期の肥満継続率は高かった(軽度肥満35.9%、中等度肥満49.1%、高度肥満77.8%)。小児期の皮下脂肪面積、内臓脂肪面積と成人期のそれとは相関を認めなかったが、小児期の血清脂質、高分子量アディポネクチンは成人期のそれと有意な相関関係を示し、肥満に伴う脂質代謝異常やアディポネクチン低値といった心血管系リスクは成人期においても残存した。
著者
山中 章 関口 敦仁 黄 暁芬 山田 雄司 今泉 隆雄 小澤 毅 橋本 義則 今泉 隆雄 小澤 毅 河角 龍典 橋本 義則 馬 彪 山田 邦和
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究では次の様な成果を獲得した。(1)東アジアの都城が、西アジアの都市と、機能や構造において多くの共通点を有していることを明らかにした。(2)新たに3DVR表示システムを開発し、3つのモデルを作成した。(3)鈴鹿関のモデルを分析して日本古代三関が交通の検問と軍事の両機能を兼ね備えた施設であることを解明した。(4)復原モデルを用いたデジタル野外ミュージアムの展開を開いた。
著者
高木 二郎
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

新たに開発した貢献感尺度の職域における妥当性、信頼性、意義について、国内外の学会にて発表を行い、英語原著論文を発表した。いじめ、ハラスメントが自殺につながるメカニズムの検討において、それらは精神症状だけでなく、身体症状ももたらすことを見出し、国内学会にて発表を行い、英語原著論文を発表した。職場における自殺予防の検討において、職業性ストレスによる疲労感を抑える方法として、一酸化窒素に関する新たな知見を得、また、職業性ストレスは、精神的不健康だけでなく、身体的不健康も伴って自殺に影響すると考えられ、職業性ストレスの身体への影響についても知見を得、これらを国際学会にて発表し、英語原著論文を発表した。
著者
藤澤 有
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1984

基質のわずかな構造の変化により生成物の光学収率,絶対配置が変動するパン酵母還元の基質特異性の問題を基質であるケトンに硫黄官能基を導入することにより解決して高光学純度の光学活性一級アルコールを合成する手法を確立し、更に硫黄官能基の多彩な反応性を利用して還元生成物をキラルシントンとして活用し、種々の光学活性天然有機化合物の効率的合成法を開発することができた。β-ケトエステルのα位にスルフェニル基を導入するとパン酵母還元より光学的に純粋なS体のβ-ヒドロキシエステルのみが得られる。又、エステル部分に硫黄原子を有するα-置換β-ケトジチオエステルの還元はジアステレオ選択的に進行し、シン体のβ-ヒドロキシジチオエステルを与え、これはマツハバチの性フェロモンである(1S,3S,7S)-3-アセトキシ-3,7-ジメチルペンタデカンの合成に応用できる。3-フェニルチオ-1-ヒドロキシ-2-プロパノンの還元生成物であるジオールから誘導できる(S)-グリシジルスルフィドは各種の光学活性二級アルコールの有用なキラルシントンであり、スズメバチの女王物質である5-ヘキサデカノリドの両対掌体,L-ロジノースやD-アミセトースなどのデオキシ糖へ容易に変換できる。α-ケト-1,3-ジチアンは高い不斉収率で還元されて(S)-α-ヒドロキシジアチンを与え、これは放線菌より単離された(4S,5S)および(4S,5R)-5-ヒドロキシ-4-デカノリドへ誘導できる。パン酵母は種々の含硫黄1,2-および1,3-ジケトン類のジアステレオおよびエナンチオ選択的にも有効であり対応する(S,S)-1,2-および1,3-ジオールを与える。これらはL-ジギトキソース,黄アゲハ蝶への摂食阻害物質である(4R,5S)-5-ヒドロキシ-2-ヘキセ-4-オリドや抗生物質ノナクチンの合成に用いられる。さらにパン酵母は含硫黄プレニル誘導体の炭素-炭素二重結合をも不斉還元でき、種々の光学活性テルペン合成に有用な飽和イソプレン誘導体を与える。
著者
田口 寛
出版者
三重大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

先ずトリゴネリンの生合成について検討した。その結果、コーヒー植物体各部位における含量は、生育の段階にかかわらず、トリゴネリンが1mg/gのオーダーであり、ニコチン酸はその千分の1の値であった。また、トリゴネリン合成酵素活性の分布を調べたところ、非常に高い活性が葉に検出され、以下未熟の種子、枝の順であった。さらに、本酵素の精製を試みたが、酸化防止とポリフェノールの除去を完全にしないと活性な酵素は抽出できなかった。酵素の性質を要約すると、基質はニコチン酸とS-アデノシルメチオニンであり、反応の最適pHは7で、重金属イオンによって阻害され、ニコチン酸に対するKm値は0.58mMと計算された。次に【N^1】-メチルニコチンアミドについて検討を加えた。一般的な食品105種類について含量を測定した結果、その含量の多いものは次のようであった(食品可食部100g当りのmg数):干しわかめ(3.19),茶の葉(3.04),ロースハム(2.83),砂ギモ(2.42),しょうが(1.63),しいたけ(1.32),うに(1.15),こうなご(1.14),糸引納豆(1.09),しゃこ(0.88),丸干し(0.87),わかさぎ(0.86),ほたてがい(0.85)。次に、試薬の【N^1】-メチルニコチンアミド(10mg)を小試験管に入れ、種々の温度のオイルバス中で5分間加熱して、ビタミンへの変換を調べてみたところ、240℃以上の高温で変換し、最大変換率は約70%で、生成物はニコチンアミドであった。そこで、実際の食品の調理・加工によっても【N^1】-メチルニコチンアミドなどがビタミンに変換するかどうかを調べるため、この目的に合った食品数種類を選び、焼くのと油炊めとを行った後に、ニコチン酸・ニコチンアミドのマイクロバイオアッセイをした結果、単位重量当りで比較して、生のときより明らかにビタミン効力は増加していた。以上のように、食品中には潜在性ニコチン酸・ニコチンアミドが存在しており、高温にするほどビタミンの量が増加した。
著者
宮崎 照雄 太田 早紀 ミヤザキ テルオ オオタ サキ MlYAZAKI Teruo OOTA Saki
出版者
三重大学
雑誌
三重大学生物資源学部紀要 (ISSN:09150471)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.21-30, 2002-11

養殖ヒラメに発生したリンホシスチス細胞(LCC)の微細構造を観察した。若いLCCは既に厚い硝子状被膜を持って肥大しており,細胞質にはウイルス合成の場(AS),粗面小胞体,リボゾーム,ミトコンドリアがよく発達し,細胞質の樹状の突起が被膜内に伸張していた。 ASは顆粒状のinclusion zoneと基質部から構成され,inclusion zone表面でウイルス粒子が合成されていた。大きく肥大したLCCの核周囲の細胞質内ではASが崩壊し,ウイルス粒子(250-300nm)は結晶配列を示していた。細胞辺縁部では,多数のウイルス粒子を含むASは明瞭であるが,微小器官の多くは変性していた。
著者
松本 金矢 森脇 健夫 根津 知佳子 後藤 太一郎 滝口 圭子 中西 良文 磯部 由香
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

教育実践現場やその隣接関連領域の現場で、教材開発研究とその実践を組み合わせた、教員養成のための新たなPBL教育カリキュラムの開発を模索した。開発したPBL教育モデルは、先行研究や実践活動で実績のある拠点校(5校区)を中心に、現場との協働において教育実践に活用された。さらに、海外の教育現場での学びを実現する海外実地研究型PBL教育を導入した。得られた成果は、学会発表(45件)・論文発表(29件)として公開され、関係研究者の評価を得た。
著者
齋藤 佳菜子
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012

IL-17は、癌周辺の炎症と血管増生を誘導することで癌細胞の増殖を促進する反面、細胞傷害性T細胞の活性化を介して腫瘍抑制的にも作用する。一方、癌の転移におけるIL-17の役割は殆ど明らかになっていない。癌の転移は「浸潤能の獲得」「浸潤」「血管内流入」「血中での生存」「血管外流出」「遠隔組織での増殖」のステップからなる。申請者はマウス乳癌自然転移株4T1をIL-17欠損マウス乳腺内に同所移植したところ、著明に肺転移が抑制されることを見いだした。そこで、本研究ではIL-17が転移のどの相に影響するか調べるために、4T1細胞を野生型およびIL-17欠損マウスにそれぞれ静脈内移入した。その結果、両群で生存に差を認めなかった。このことより、IL-17の肺転移促進作用は転移形成の早期(血管内流入まで)に何らかの作用を及ぼすと考えられた。次に、転移形成の早期段階での腫瘍環境について調べるために、担癌14日目および21日目に腫瘍組織を摘出し、コラゲナーゼ処理にて単細胞に分離し、フローサイトメトリーを用いて腫瘍浸潤細胞を解析した。その,結果14日目の時点で野生型とIL-17欠損マウスではCD11b+Ly6C+単球とCD11b+F4/80+マクロファージの比率が異なり、IL-17欠損マウスではF4/80マクロファージへの分化が遅れることが示唆された。21日目では両群ともF4/80+マクロファージが大部分を占めていた。また、腫瘍局所に浸潤するリンパ球を解析したところ、14日目の時点で1L-17欠損マウスにおいて明らかにFoxp3+制御性T細胞の浸潤が減少していた。同時に、所属リンパ節と脾臓細胞を解析したが、腫瘍局所と同様の結果が得られた。申請者は腫瘍浸潤マクロファージに着目し、このマクロファージの表面マーカーを解析した。その結果、IL-17欠損マウス腫瘍に浸潤するマクロファージは野生型に比べてCD206(mannose receptor)の発現が低く、class II発現が高く、よりM2マクロファージの性質を帯びていることが示唆された。これらの結果から、IL-17は腫瘍局所において、M2マクロファージへの分化を促進することで転移を促進する機序が示唆された(第71回日本癌学会学術総会ポスター発表)。
著者
吉田 真理子 竹村 真菜 西尾 美沙子 上廣 真希
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

保育現場の観察および実験より、現段階では次のことが示唆された。(1)保育現場における過去に関する子ども同士の会話は、次の3つのカテゴリに分類された。①自己の過去(自分の過去について、それを知らないであろう他者に報告する)、②自他間で共有した過去(自分と他者が共有した過去について、他者に確認・同意を求める。)③他者の過去(自分が知らない他者の過去について質問する。)。(2)過去に対して事実レベルの違いをすり合わせるようなNegotiationは4歳児以降にしかみられなかった。(3)2~3歳児では、設定された未来の目的に対して言及しながら協力することは困難であった。
著者
立花 義裕 万田 敦昌 山本 勝 児玉 安正 茂木 耕作 吉岡 真由美 吉田 聡 坪木 和久 中村 知裕 小田巻 実
出版者
三重大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

四方を海に囲まれた日本.その鮮明な四季は極めて特徴的である.日本の気候に対しては,日本を囲む縁辺海の海洋の影響が強くあることを大気と海洋の変動を評価し明らかにした.例えば,梅雨末期に豪雨が集中する理由は東シナ海の水温の季節的上昇が,九州で梅雨期に起こる集中豪雨の発生時期の重要な決定要因であること,日本海の海面水温の高低によって,寒気の気団変質過程に影響を及ぼし,寒波を強化・緩和されることを示した.
著者
塚本 明
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

近世伊勢神宮の門前町、宇治・山田の社会構造を、神社特有の触穢意識の規定性と、穢れを忌避するシステムに注目して分析を加えた。近世の宇治・山田では、中世以来の神社の触穢規定に反して、実生活においては触穢の影響を回避する工夫がなされている。また穢れの判定には、幕府の遠国奉行・山田奉行に比べて神宮はむしろ軽く済ませる志向を示した。宇治・山田という都市が諸国からの参宮客によって経済的に成り立っており、参宮を規制する触穢規定の適用が好まれなかったことが背景にある。だが同時に清浄さを重んじる伊勢神宮は世間の見方に影響を受け、触穢を蔑ろにすることも許されなかった。宇治・山田の社会が死穢の影響を避けるためには、これらを処理する専業者、拝田・牛谷と呼ばれた被差別民を不可欠な存在とした。なお、外来の被差別民を含め、彼らへの忌避意識は江戸時代前期において強くはない、だが中期以降に、山田奉行、朝廷世界からの働き掛けにより、次第に触穢意識も変容を迫られる。特に幕末期には、被差別民、仏教、異国人が一体となって排除されるようになり、直接・間接的に近代以降の触穢意識を規定していくこととなる。なお、報告書においては伊勢神宮長官機構で作成された公務日誌中の触穢関係記事の一覧、宇治・山田の基礎的な資料である『宇治山田市史資料』の年次一覧、神宮領の基礎的な文献である『大神宮史要』の江戸時代中の記事について編年にした一覧表を付した。
著者
吉田 悦子
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.193-202, 2003-03-25

本稿では、日英語のパラレルコーパスとして作成された地図課題対話データを利用して、対話的談話における日英語の指示表現の分布を対照するための方法論のひとつであるセンタリング理論をとりあげ、その応用可能性について考察する。センタリング理論とは、談話における局所的な照応現象をモデル化するために提案されたものであり、英語の代名詞や日本語のゼロ代名詞が話題の中心として重要な役割を担うことを談話レベルで説明する言語モデルである。センタリング理論を対話的談話に応用する際の問題点としては、発話と発話との境界設定、対話参加者と談話内の指示対象との関係、「先行発話」の定義、談話要素を含まない発話の扱いなどが指摘されている。これらに関して具体例を提示すると共に、現時点での暫定的なベースラインの提案をおこなう。
著者
大野 和彦 中島 浩
出版者
三重大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

本課題の目的は、ITシステム基盤を支える実用技術の一環として超大規模計算タスク群のスケジューリング手法を開発することであり、高精度でスケーブルかつ他の基盤技術との協調を目指しでいる。従来の研究成果であるタスクの実行性能モデリング技術と、それ利用したスケジューリング手法をベースとし、これを発展させる形で研究を行っている。本年度は実環境の性能変動に対応するため、動的スケジューリングの研究を行った。動的な変動に対し良いスケジューリング長を保ち続けるには変動のたびに静的スケジューリングを再実行する動的再スケジューリング手法が有効であるが、頻繁に変動が生じる実環境ではスケジューリングコストが大きく実用的でない。そこで、変動をトリガーとする従来の手法に対し、タスクの終了をトリガーとする手法を提案した。さらに、スケジューリング結果に大きく影響するタスクの終了時のみをトリガーとすることで、再スケジューリング回数を大幅に削減した。シミュレーション評価の結果、提案手法により再スケジューリング回数が数百分の一に抑えられる一方で、スケジューリング長の悪化は5%程度にとどまった。また、前年度の成果である大規模ワークフローの縮約手法について、詳細な設計および実装・評価を行った。性能評価の結果、完全縮約可能な場合の必要メモリ量は規模に依らず、ランダムなワークフローで80KB程度、単純な実ワークフローでは2KBであり、100万タスクで200MBほどを必要とする従来手法に対し、大幅に削減できた。さらに、性能モデルの高性能計算への応用として、多次元配列を時間方向にタイリンゲすることでキャッシュを有効活用する最適化手法を時間発展シミュレーションに適用する際の最適パラメータ推定を行った。京大のT2K Open Supercomputer上で評価した結果、2次元拡散方程式の陽的求解や3次元FDTD法においてほぼ最適なパラメータが得られ、前者ではタイリングを使用しない場合に対して約2倍の速度向上を得ることができた。