著者
荒川 哲郎
出版者
三重大学
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 教育科学 (ISSN:0389925X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-6, 1982

人や物とのかかわりが少なかった一精神遅滞児が指導者との経験の共有を積み重ねることで、他者とのコミュニケーション行動を確立していった。特に本児の場合模倣行動がコミュニケーション行動を円滑に進める基盤となったと考えられる。また象徴機能の発達と共に、動作を記号化し、それを道具的に使用し、コミュニケーションすることがみられた。そして他者認識も深まり、コミュニケーションの相手を情況により選択していることがうかがわれた。また、人とのやりとりが内面化され、相手とのコミュニケーションに期待感がでてきた。そして具体的な場面だけにとらわれないで、自己のイメージにより自己のコミュニケーション行動を調節することがみられた。このように言語の諸機能の獲得がコミュニケーション行動の変容過程に認められた。
著者
吉岡 基
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

イルカ類の飼育下繁殖の促進ならびに種の保存策実行のために必要となる,イルカ精子の凍結保存技術の確立に向け,ストロー法による最良な凍結条件を探るため,精液の希釈法,液体窒素ガス曝露時間,凍結後の融解時間について実験を行い,後の精子性状を比較した.その結果,まず,バンドウイルカ2頭,カマイルカ1頭について,新たに訓練によって精液採取が可能となった.そして,バンドウイルカ精子については,8%グリセリン含有卵黄クエン酸ナトリウム溶液で2回にわけて最終3倍希釈して凍結を行った場合,35℃温湯中での凍結精子の融解時間を15,30,60秒の3条件間で比較したところ,15秒区では他の2区に比べて融解後の精子性状に低下がみられた.また,希釈精液封入後のストローの液体窒素ガス暴露時間を0.5,2,5,10,15,20,30分の間で比較したところ(液体窒素液面からストローまでの高さは約5cm),5分以上暴露区では生存率約50%以上の比較的良好な成績が得られ,とくに15分区では活力が最も高くなった.またこれらとは別に,原精液を同じ希釈液で2段階希釈せず,1回希釈で最終倍率(×3)まで希釈しても,凍結・融解後の性状に違いがみられなかったことから,この手順がより簡便な希釈・凍結法となる可能性が示唆された.また,シャチについて精液採取訓練を継続した結果,わずかな検体数ではあるが,活発な運動性を示す精子を大量に含む精液が採取され,その凍結保存を行うことができた.バンドウイルカ1頭を対象に凍結精子を用いた人工授精を試みた結果,受胎させることに成功し,約1年間の妊娠期間を経た後に,国内最初の凍結精子を用いた人工授精イルカの誕生に成功した.
著者
宇京 頼三
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.33-47, 1984

「何たる! 何たる自然! 何たる諧謔の泉! 何たる性癖風俗の模倣! 何たる写生! 又何たる痴態の剔抉」・・・・・・慧眼な観察家ラ・ブリュイエールの的確なモリエール観である。但し、新旧論争では古典派に与したこのモラリストは、この直前にテレンシウスと並べ、苦言を呈している。「モリエールはただわけのわからぬ文句や粗野乱暴な言いまわしを避けてくれたら、即ち清醇な文を書いてくれさえしたら、よかった。」これに対して約三百年後、リセ・ヴォルテールのモリース・ブエ教授は、クラシック・ラルースの教科書版 (旧版)『モリエール滑稽選集』の序文で次の如く述べる。「ラ・フォンテーヌとともに、わが国の古典作家のなかで最も近づき易いモリエールが、何故中等教育と補充教育の初級クラスでごく自然な位置を占めているかを想起し、またモリエールを読むことが、如何に生徒たちの言葉を豊かにし、彼らの表現力を確立し、彼らの観察精神と思考力を強化し、ひいては彼らの心を形成することになるかを示す必要は殆どない。」この点に関して、ラ・ブルュイエールの判断は見事に外れたといえる。またブエ氏は笑劇の最も滑稽な場面さえも非教育的ではないとし、モリエール劇の様々な道化的場面を中心に、中等教育向けのテキストを編んでいるのである。これはモリエールという劇作家が、フランスでは如何に身近で親しまれているか、また「粗野乱暴」と批判された彼のことばが、如何にフランス語とフランス精神の形成に与っているかを示す事例のひとつであろう。ところで、これまで筆者は、拙稿『従僕論序説』で、モリエールを中心にした従僕像を検討してきたが、この大劇作家に対しては、いわば斜に構えたものでしかなかった。従僕役という覗穴、女中役という飾窓から、その舞台衣裳の一端に触れていただけのことである。本稿では、その飾窓から一歩踏込み、この Grands Ecrivains の一人に対峙してみようと思うが、もって生れた習性で、まともに大河を遡ることは他日に委ね、不取敢筆者にとって馴染んだ戸口から入ろうという次第である。今一度ラ・ブリュイエールの言を拝借しよう。「それがもう語られなくなってから数世紀の後に、果して人は、モリエールやラ・フォンテーヌを読むために、学徒となるであろうか?」モリエール死して三世紀後、それ (フランス語) がまだ語られているうちに、遅れてきた者がいたというわけである。
著者
井口 靖 恒川 元行 成田 克史 黒田 廉
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

文を理解するために聞き手は出現する語彙の予測を行っていると想定する。そのひとつはある語からそれ以降の語を予測する場合で,これについてはコーパスを用いてさまざまなコロケーションを調査した。もうひとつは語彙の出現そのものの予測で,それはテキストの種類,分野などから予測できるのではないかと仮定した。そこで,分野別コーパスを構築し,その語彙頻度を大規模コーパスと比較することによりいくつかの実例を提示した。これらの結果を独和,和独辞典や教材に反映することを試みた。
著者
草野 元己
出版者
三重大学
雑誌
三重大学法経論叢 (ISSN:02897156)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-31, 2003-08-31

論説 / Article
著者
藤田 達生 山本 浩樹 杉本 史子 播磨 良紀 福田 千鶴 三鬼 清一郎
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、小牧・長久手の戦いを中心に取り上げた。この大規模戦争を、中世における戦争の最終段階として、すなわち関ヶ原の戦いにも比肩する「天下分け目の戦い」と位置づけて、その実態を総合的に追究することをめざしたのである。本能寺の変によって、信長家臣団が分裂して後、戦争は新たな段階を迎えることになる。主だった大名が二大陣営に結集し、その首将が天下人の座を競う大規模戦争の段階へと突入するのである。それに属するのが小牧・長久手の戦いと関ヶ原の戦いである。研究の結果、これらには次に示すような共通した特徴が認められた。I.両軍の首将がめざしたのは、天下人としての実権の掌握であったこと。小牧・長久手の戦いは、信長の後継者を決する最終戦であり、関ヶ原の戦いは豊臣体制の継続か徳川政権の成立かをめぐって争われた。II.直接関係のない大名・領主も、どちらかの陣営に属することを強制されたこと。小牧・長久手の戦いは、旧織田大名ばかりではなく、周辺の戦国大名や一揆勢力が巻き込まれた。関ヶ原の戦いは、直接・間接を問わず、全国的規模で大名を動員することになった。両戦争においては、参戦せねば敵方与同とみなされたのである。III.主戦(大会戦)ばかりか全国的規模で局地戦がおこなわれ、長期に及んだこと。いずれの戦争においても、主戦と局地戦のありかたが、相互規定的であり、高度な情報戦であったことが重要である。IV.戦後も支配秩序確立のために、戦争が続行されたこと。秀吉が「征伐」と称する諸大名に対する侵略戦を繰り返したこと、家康が大坂の陣を強行したことが指摘される。
著者
綾野 誠紀
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本科研プロジェクトでは、日本語、中国語、タイ語の受動文の統語構造について検討した。日本語の受動文については、直接受動文、間接受動文、所有受動文の統語構造について考察した結果、直接受動文と所有受動文の派生に関しては、動詞句内からの名詞句移動が関与するのに対し、間接受動文には関与しないことを支持する新たな証拠を提示した。中国語とタイ語の受動文については、派生に独立受動形態素が関与するものについて検討し、それらの形態素の統語特性について、日本語の束縛受動形態素の統語特性との比較対象も行いつつ明らかにした。
著者
櫻井 しのぶ 小島 照子 小島 照子 中野 正孝 池田 浩子 櫻井 しのぶ
出版者
三重大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

平成11年度に行われた研究の結果、「女性」では、従来からの「女性性」を表現する言葉が多く挙がる一方で、「心・芯は強い」という従来には見られなかった女性性の概念が抽出された。また「男性」では、「たくましい」「強い」「頼りになる」等の、従来の「男性性」と一致した表現となっていた。しかし「女性」とは反対に「気が弱い」等の精神的な弱さを挙げた者も多く、これらの傾向は20代の対象者に強く見られた。これらを元に、平成12年度は、「看護」との関連性に焦点を当て調査した。分析した結果では、「看護」に対し、「優しい」「大変・しんどい」「強い・強い精神力」という項目が上位を占めた。さらに、「女性・女性中心の仕事」という項目も、対象者の10%が挙げていた。また、看護に対するイメージと「女性性」、「男性性」としてあげられた項目において、共通する言葉を分析したところ、「女性性」との共通の方が有意に高いことが確認できた。以上の結果から、一般の人々が抱いている「看護」に対するイメージは、従来の「女性」をイメージする「優しい」等と、新しい「女性」を表す「強い」というイメージの両方を持ち合わせていることが明確となった。看護教育を考える上で、「看護」と「女性性」というものが強く結びついていることを理解し、看護者は看護に対する伝統的な女性的役割である「やさしい」だけでなく、「頼りになる」「強い」という看護の側面も、社会的に要求されていることを事実として受け止めなければならない。以上の結果をもとに、現在論文を作成中である。
著者
井上 誠章
出版者
三重大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

イセエビは千葉県以南の本州の太平洋側,九州沿岸,種子島,奄美大島,屋久島,韓国の済州島および台湾北岸に生息する重要な漁獲対象種である.このイセエビの親個体群構造に関しては,以下の2つの仮説が考えられた.すなわち,1)全くランダムに混ざり合って各々の水域に分散して着底するのか,それとも,2)特定の水域にあるまとまりを持ってプエルルス幼生として着底するのかである.上記いずれの場合においても,今後イセエビの合理的な資源管理を行うためには,イセエビの親個体群構造を把握することは必要不可欠であり,かつそれを把握することは上記のフィロゾーマ幼生の輸送・分散経路を含んだ幼生加入過程のさらなる解明の糸口になる.昨年度までの結果を踏まえて,五島列島,三重および千葉よりそれぞれイセエビ成体サンプルを採集し,それらのmtDNAのCOI領域を解析した.この結果,前年度までの予想どおり,イセエビの親個体群は大きくはひとつの個体群を形成することが明らかになった.これらとあわせて,黒潮流路とイセエビの漁獲量変動との関係の調査を行った.その結果,各県の漁獲量の変動より,本邦のイセエビは,潮岬以西と以東の2つのグループに,すなわち九州を中心したグループと三重,静岡および千葉の3県によってまとめられるグループに分割できた.これらの結果からは,イセエビは遺伝的に均一な大きな一つの個体群を形成しており,そのなかで潮岬以西と以東に分割できるような地域個体群が存在するという結論が引き出せる.
著者
問山 裕二
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

大腸癌遠隔転移形成を誘導する液性因子のサイトカインアレイを用いた網羅的解析により、癌部ならびに癌間質のHGF発現と血清中のHGF濃度が有意に正の相関を認め、血清中のHGF濃度を測定することが、大腸癌根治術後再発を規定する因子として、現在確定している因子に比べ、高いspecificityとsensitivityを示した。また腫瘍局所浸潤性リンパ球に関与することが知られている複数のケモカインも新規大腸癌予後規定因子として確認され、EMT(上皮間葉移行)を誘導した。それらは遠隔転移臓器に発現しているため、そのレセプターを持つ癌細胞の臓器特異性転移に関与する可能性を示した。
著者
福島 崇志
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,湾曲するキャベツ苗の要因を明らかにするため,育苗期のキャベツセル成型苗を対象に耐倒伏性に関して材料力学理論を基に検討した.キャベツ苗では,自重による倒伏が育苗中期で生じやすいこと,また,育苗後期になるほど自重による苗倒伏の可能性が低くなることが明らかにされた.さらに,移植時期の苗形状が収穫時期の茎形状に概ね引き継がれる傾向が明らかになった.
著者
齋藤 佳菜子
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

HER2陽性乳癌患者において、抗HER2モノクローナル抗体であるTrastuzumabを投与することで、HER2特異的細胞性免疫応答がされるかどうか検証した。患者末梢血中に、HER2特異的細胞障害性CD8陽性T細胞が誘導されるかどうかテトラマーアッセイとELISPOTアッセイを用いて検討した。進行乳癌患者においては、trastuzumab投与後にHER2特異的CD8陽性T細胞をテトラマーアッセイにて検出する症例があった。しかしながら原発腫瘍の根治手術後、術後trastuzumab療法後においては検出困難であった。原発腫瘍の摘出後であるため、腫瘍量が少ないことからHER2特異的CD8+T細胞の誘導が検出できない可能性があった。しかしながら技術的な問題点として、HLA-A2402に拘束されるHER2エピトープの検出力が低いことが挙げられた。
著者
江原 宏 三島 隆 内山 智裕 内藤 整 豊田 由貴夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

パプアニューギニア北部の東セピック州では,サゴヤシ民俗変種を,「大きい」(背が高い;樹高が大きい),「樹中の実(髄)が多い」といった樹体サイズなどを表す語,葉柄が白い,あるいは緑色といった特性,あるいは葉柄の基部の葉鞘に当たる部分の蝋状物質の蓄積程度の差を基準として仕分けているものと考えられた。同国ニューアイルランド島ケビエン地域においても,「木のように背が高い」との意味を示す語を名称とする民俗変種が分布するなど,樹体サイズの特徴が民俗分類で重要なことが明らかになった。また,胸高直径が特に大きな,多収性と考えられる民俗変種も認められた。ニューギニア島インドネシア領の西パプア州では,乾物率や澱粉収率の低い個体は,地下水位の高い地区に生育していたことから,生育環境が澱粉生産性に及ぼす影響の大きさが窺われた。一方,葉痕間隔が長いことは,生長速度が大きいことを意味するが,その値がニューアイルランド島の調査で幹胸高直径と負の関係にあることが窺われ,生長の早いタイプ,あるいは地域では,幹が細いということと考えられ,極めて興味深い結果を得ることができた。また,葉痕間隔とデンプン含量にも負の関係が認められ,生長の早いタイプでは低収傾向があることが窺われた。
著者
友永 輝比古
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.103-111, 2002-03-25

マーロウからすると約300年前の,ブレヒトからすると約600年前の出来事,エドワード2世が即位してから獄死するまでの出来事を,これらの作家は舞台化した。ブレヒトの『イングランドのエドワード2世の生涯』は,マーロウの『エドワード2世』の翻案である。2つの作品の間には,約330年の隔たりがあり,劇形式,言葉の使い方,台詞回し,人物像等の点で大きな違いがある。逆に,その違いから時代の違いが感じられる。マーロウはイギリスのルネッサンス期を生き,ブレヒトはドイツの激動期を生きた。したがって,それぞれの作家の,それぞれ別の時代における世界観,人間観を作品から読み取ることが出来る。ここでは,2つの作品を比較し,主な登場人物の人物像の違いを述べることにする。
著者
保世院 座狩屋
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、建設廃棄物を用いた透水性セメント複合材による盛土堤防の安全率を求めた。 各種盛土堤防に対する所要の安全率が確保できる補強材の最適設計を行った。仮定した盛土法面を対象にエクセルソフトを用いた安定解析を提案し、デザインチャート化を試みた。計算内容がわかりやすく、誰にでも扱いやすいエクセルソフトによる解析を行い、各種盛土堤防に対する設計手法を確立した。補強してない盛土堤防の安全率を仮定した3種の法面勾配(30°,45°,60°)についてそれぞれ求めた。
著者
荒井 茂夫 田村 慶子 加納 寛 福田 和展 田中 恭子 レオ スリヤディナタ 賢 強
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

調査表回収率は全体で5割ほどであった。458部は十分とは言えないが、丁寧な聞き取り調査によって数値を補うことができた。インドシナ諸国華僑華人の移動は政治的混乱と戦争が最大の要因で新概念による分類が必要となった。従来は旧華僑・華人、新華僑の2分類であったが、難民華僑という分類である。彼らは受け入れ国、脱出国、中華文化の三者に濃淡差のあるアイデンティティを持つ点が他地域の華人と異なる点である。また欧米の難民華僑社会は民族・文化的共通の通信回路を持つエクスターナル・チャイナ的領域の拡大と見ることもでき、ワン・ガンウの理論は合致するが、移動に関して華僑大衆は生活次第で定住する傾向があり、難民華僑成功者も受け入れ国に資産を置きながらだ出国に帰国投資するもので、一族挙げて戻ることはない。この点ワン氏の理論は問題はあるが、都市間の移動という点では当てはまる。
著者
春山 成子 葛葉 泰久 宮岡 邦任 佐藤 照子
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

中部ミヤンマーにおいて中心となるイラワジ河流域の自然環境の変動を完新世に照準に合わせてオールコアボーリングによって得た試料、衛星画像を用いた地形解析を中心にして行った。その結果、完新世の初期には現在のデルタは扇状地として形成されていたものが完新世中期以降に自然堤防地帯からデルタ地域への変遷が認められるようになった。人間の世紀以降の流域の土地被覆変化は河川の流出土砂量に影響を与えことが河川流路変動から明らかになった。
著者
野中 健一 石川 菜央 宮村 春菜
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.133-143, 2003-03-25

本稿では、人と生き物の関係を流動的かっ可変的なものとしてとらえ、人と生き物とが、どのように結ばれているのかということ、そこに関連する諸側面を明らかにすることを目的とした。対象地域としてフィリピン、カオハガン島を選定し、島民にとって身近な生き物であるニワトリ、イヌ、ホシムシを例に取り上げた。その結果、島民はそれぞれの生き物に対して、臨機応変に対応を変えつつさまざまな関係を成り立たせていた。それは関係そのものに対する融通性と、関係を結ぶ生物の選択に対する融通性としてとらえることができた。また、人と生き物の関係は、島の社会と大きく関わっており、人間どうしのつながりをもつくっていることが明らかとなった。さらに、人と生き物の関係の間に技能が関連していることは、それぞれの関係が、一定の型にはめられるものでなく、人と生き物の実際のふれあいにより築くことが出来るものであることを示している。
著者
尾西 康充
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

平成17年に逝去した丹羽文雄に関する資料がある。孫・丹羽多聞氏から寄贈されたもので、平成19年に丹羽文雄念室が設けられた。丹羽文雄記念室には自筆原稿をはじめとして浄土真宗関係の蔵書などが所蔵されている。他方、三重県立図書館には作家田村泰次郎に関する資料が9,000点保存されている。これらは田村泰次郎が亡くなった後、平成5年に妻・美好氏から三重県立図書館に寄贈されたものである。本研究は丹羽文雄記念室および田村泰次郎文庫に所蔵されている資料類を整理、解読、活字化する基礎的作業をふまえ、丹羽文雄および田村泰次郎の文学史的・文化史的意義を明らかにした。
著者
井上 裕匡
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

熱中症診断の有効な所見として肺脂肪塞栓の有無が利用できるか否かを昨年度より解剖症例数を増やし検討した結果、肺脂肪塞栓は熱中症の陽性所見よりはむしろ生前の高温暴露を示唆する所見として有用である可能性が示された(現在投稿中)。これまでは熱中症診断は除外診断として行われてきたが、今回の結果より肺脂肪塞栓はこれまで死後の高体温でしか証明なしえなかった生前の高温暴露を示唆する所見として利用可能であり、熱中症診断の上で非常に有用な所見であると考える。一方、これまで肺脂肪塞栓の原因として指摘されていなかった病態においても肺脂肪塞栓が見られており、このことは肺脂肪塞栓が高温暴露以外にも死者の生前の状態を示唆する所見として利用できる可能性を示している。しかし、これらで見られた肺脂肪塞栓は致死的なものではなくいずれにおいても直接死因が肺脂肪塞栓であることは否定的である。肺脂肪塞栓が直接死因となるには実験的には60ml程度の脂肪の流入が必要であり、骨盤骨折など広範囲の骨折を生じるものではそれによって生じた肺脂肪塞栓症が直接死因の可能性もあることを示した。しかし、法医解剖事例では実際は20ml程度でも死亡しうるといわれており、この実験的肺脂肪塞栓との差は肺脂肪塞栓を生じる原因となった損傷や疾病によって引き起こされる炎症反応などの生体反応の状態に影響を受けていると仮説を立て、現在検証中である。