- 著者
-
吉岡 基
- 出版者
- 三重大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
イルカ類の飼育下繁殖の促進ならびに種の保存策実行のために必要となる,イルカ精子の凍結保存技術の確立に向け,ストロー法による最良な凍結条件を探るため,精液の希釈法,液体窒素ガス曝露時間,凍結後の融解時間について実験を行い,後の精子性状を比較した.その結果,まず,バンドウイルカ2頭,カマイルカ1頭について,新たに訓練によって精液採取が可能となった.そして,バンドウイルカ精子については,8%グリセリン含有卵黄クエン酸ナトリウム溶液で2回にわけて最終3倍希釈して凍結を行った場合,35℃温湯中での凍結精子の融解時間を15,30,60秒の3条件間で比較したところ,15秒区では他の2区に比べて融解後の精子性状に低下がみられた.また,希釈精液封入後のストローの液体窒素ガス暴露時間を0.5,2,5,10,15,20,30分の間で比較したところ(液体窒素液面からストローまでの高さは約5cm),5分以上暴露区では生存率約50%以上の比較的良好な成績が得られ,とくに15分区では活力が最も高くなった.またこれらとは別に,原精液を同じ希釈液で2段階希釈せず,1回希釈で最終倍率(×3)まで希釈しても,凍結・融解後の性状に違いがみられなかったことから,この手順がより簡便な希釈・凍結法となる可能性が示唆された.また,シャチについて精液採取訓練を継続した結果,わずかな検体数ではあるが,活発な運動性を示す精子を大量に含む精液が採取され,その凍結保存を行うことができた.バンドウイルカ1頭を対象に凍結精子を用いた人工授精を試みた結果,受胎させることに成功し,約1年間の妊娠期間を経た後に,国内最初の凍結精子を用いた人工授精イルカの誕生に成功した.