著者
大塚 毅 出原 賢治 田中 洋輔 山岡 邦宏 新納 宏昭 中島 衡
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. IL-10とIL-4は単球・マクロファージさらには好中球を標的として多彩な向炎症性物質産生を抑制し抗炎症作用を発揮することを明らかにした。とくに、シクロオキシゲナーゼ(COX)活性とプロスタノイド産生を観察し、両サイトカインの作用機構を細胞内シグナル伝達の系を通して明らかにした。2. 単球・マクロファージならびに好中球の活性化におけるMAPキナーゼ(MAPK)の同定と機能発現への関与(1) LPSによる活性化にて、MAPK中のERK2とP38MAPKのリン酸化ならびにキナーゼ活性が上昇した。(2) サイトカインとプロスタノイド産生においてこれらのMAPKの活性化が関与していることが判明した。(3) IL-10とIL-4によるMAPK活性化への異なる制御機構が判明した。3. ヒト単球に対するLPS刺激時にはSTAT5が活性化され、GM-CSF遺伝子発現などの関連している。IL-10はSTAT5を抑制することによって、COX-2遺伝子発現を制御している可能性がある。4. RA患者の好中球における機能変化(1) RA患者において末梢血ならびに関節液中の好中球からのサイトカインならびにプロスタノイド産生が健常人に比べて増強していることが判明した。(2) その機能発現にMAPK経路の関与が示唆された。5. IL-10等のサイトカインのシグナル伝達系が疾患発症の感受性に影響する可能性を今後検索していくために、RT-PCR-RFLPによる多型解析を行い、実験系を確立した。現在、自己免疫疾患を中心に解析し興味ある結果が得られてきた。
著者
米村 典子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

西洋絵画はしばしば「開かれた窓」に例えられてきたが,窓の向こうの表象の世界と我々の世界との,窓枠=額縁=フレームを間に挟んでの関係は,19世紀後半に大きく変わった.本研究の目的は,その変化の現れを画面の縁という「場」に見いだし,新印象派の画家ジョルジュ・スーラの作品の表象を取り巻く点描で描かれた帯=「ボーダー」と点描を施したオリジナルの額縁=「フレーム」との関係を契機として考察することである.スーラの「ボーダー」は,窓のような「現実の開口部」を示唆していない.それは抽象的な帯に見え,表象を取り囲んでその限界を定めているという意味では内側にある表象にとり一種の「フレーム」である.他方,「フレーム」に施された点描と同質の点から構成されているという意味ではその外側を取り囲む「フレーム」の自己反復とも解釈できる.本研究では,この「ボーダー」の二重性が徐々に形成されていった過程を解明することで,ドガやカイユボットの「新しい絵画」に従来とは異なる角度からスーラの芸術をつなぐ可能性を示し,この画家をモダニズム絵画の歴史の中に新たに位置づけることができた.
著者
折田 悦郎 新谷 恭明 藤岡 健太郎 梶嶋 政司 永島 広紀 陳 昊 井上 美香子 横山 尊 市原 猛志 田中 千晴
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

戦前期の帝国大学(以下、帝大)のうち、法文学部が設置されたのは九州帝大と東北帝大だけであった。東京、京都の両帝大には、法学部、文学部、経済学の3学部が置かれ、一方、九州・東北帝大以降の北海道、大阪、名古屋の各帝大には、法文系学部は設置されなかった。このことは法文学部の存在そのものが、帝大史研究の中では一つの意味を持つことを示唆している。本研究は、このような法文学部について、九州帝大の事例を中心に考察したものである。
著者
松本 浩志
出版者
九州大学
巻号頁・発行日
2012

睡眠時ブラキシズムは、睡眠時に行われる、顎口腔系の非機能運動または異常機能と定義されており、睡眠時に行われるため意識的な抑制が難しく、非常に大きな力が発生することも少なくない。睡眠時ブラキシズムは、その過度の力により歯の摩耗・歯周組織の破壊・歯科補綴装置およびインプラントの破損などの歯および歯周組織に関係するトラブルや、咬筋肥大・咀嚼筋の疼痛等を伴う顎関節症などの筋骨格系のトラブルの要因の一つと考えられ、顎口腔系組織に様々な悪影響を与えており、過去にも多くの研究がなされてきた。最近では、睡眠時ブラキシズムは微小覚醒を伴う中枢性の活動によって生じるものとの見解が主流になっている。しかしながら、末梢性の刺激は睡眠時ブラキシズム活動に何らかの影響を与えている可能性が報告されており、睡眠時ブラキシズムの明確な病態メカニズムの解明には至っていない。現在、睡眠時ブラキシズムに対する最も一般的な対処法として、オクルーザルスプリントが使用され、一定の効果は認められたとする報告があるものの、その作用メカニズムは明確にされていない。そこで本研究では、睡眠時ブラキシズムに対するオクルーザルスプリントの効果的な治療プロトコールの検討を目的とした。第1章では、ブラキシズムに関する基本的な事項について言及し、本研究を行うに至った経緯をまとめた。第2章では、スプリントが睡眠時ブラキシズムに与える影響に関する文献レビューを行い、現時点で得られているエビデンスを整理した。その結果、これまでに形状や使用法の異なる様々なタイプのスプリントが開発されてきており、それぞれ一定の効果が示されている。しかし、それらの安全性や臨床研究で得られたデータの信頼性等に疑問点が残り、確実に効果のある治療法はなかった。一方、スプリントの作用メカニズムに関して様々な仮説が示されているが、口腔内環境の変化が睡眠時ブラキシズム活動を減少させるという行動療法的なメカニズムが提唱され、それを支持する研究が複数みられるものの、現在のところ明確な結論は得られていなかった。第3章では、スタビライゼーションスプリントの間歇的な使用が睡眠時ブラキシズムに与える影響を明らかにすることを目的としてランダム化比較試験を行った。当教室の先行研究において、スプリント装着直後に睡眠時ブラキシズムは減少するが、その効果は長期間持続せず一時的であることがわかっている。この結果を踏まえ、スプリントを間歇的に使用することで、睡眠時ブラキシズムをより効果的かつ長期に減少させられるのではないかと考え、以下の手順で本研究を行った。九州大学歯学部学生および九州大学病院職員のうち睡眠時ブラキシズムを有する者20名(男性9名、女性11名、平均年齢28.9歳、24〜37歳)を対象に、スプリントの連続使用群(30日間連続使用)と間歇使用群(7日間ずつ使用・不使用を繰り返す:1-7日目および15-21日目、29-30日目にスプリントを使用)との2群にランダムに振り分け、各群ともにスプリント装着前・装着直後・1週後・2週後・3週後・4週後の計6回の測定ポイントにおいて、携帯型筋電図測定装置を用いて睡眠時咬筋筋活動を測定した。得られた筋活動を解析し、睡眠1時間あたりの睡眠時ブラキシズムの発生回数(EVENT)・総持続時間の割合(DURATION)・総活動量(AREA)を算出し、各測定ポイントにおけるスプリントの効果を検討した。その結果、EVENTおよびDURATIONにおいて、連続使用群で装着直後に睡眠時咬筋筋活動の減少がみられたが(Dunnett’s test, P<0.05)、その後の測定では有意な減少がみられなかった。一方、間歇使用群では装着直後に加え4週後にもEVENTおよびDURATIONにおいて有意な咬筋筋活動の減少がみられた(Dunnett’s test,P<0.05)。連続使用群における結果は当教室の先行研究と一致しており、スプリントは装着直後に効果を発揮し、その効果は1週間以上持続しないことが示唆された。また間歇使用群においては、装着直後のみならず4週後においても有意な減少がみられた。今回の結果から、スプリントを間歇的に使用することで、より長期に咬筋筋活動を減少させられる可能性が示唆され、オクルーザルスプリントを間歇的に使用するという、新たな使用法とその効果について示すことができた。これは、スプリントがSBに与える効果およびメカニズム解明の一助になったと考える。
著者
横山 俊一
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

楕円曲線とモジュラー形式の双方の計算理論について,保型性による性質の伝搬をヒントとした高速計算理論について,幾つかの成果を得た.楕円曲線側では,主として代数体上の特定の楕円曲線の族を高速に得るためのアルゴリズムの改良を行ったほか,与えられた導手(conductor)をもつ楕円曲線の逆引きアルゴリズムの効率化を得た.一方モジュラー形式側では,主として楕円モジュラー形式の高速計算理論の精密化と,これに伴う Hecke 体の効率的な計算を進めた.また本研究で得られた成果・実装を援用し,楕円曲線暗号(ペアリング暗号)の研究においても成果を与えた.
著者
中西 秀 市川 正敏 坂上 貴洋
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

コーヒーの上に観察される白い膜状の湯気と、それに現れる亀裂の観察と理論的考察を行った。白い膜状の湯気は、空中で凝集した微小水滴が水面直上に浮遊しているもので、亀裂はその集団消滅であることが、顕微鏡による高速ビデオ観察で分かった。微小水滴の粒径はほぼそろっており、直径が10μmから30μm程度で温度とともに大きくなり、50℃以上の熱水表面で観察される。集団消滅は、一つの水滴の消滅により誘発され、水の表面波を伴って伝播する。その伝播速度は1~2m/sで波長1mm程度の表面張力波の伝播速度程度である。この現象は、熱水の表面状態に対して敏感ではなく、界面活性剤を加えても大きな変化は見られなかった。
著者
佐々木 顕 BEN J Adams BEN J.Adams
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

デング熱は全世界の熱帯および亜熱帯地域で猛威をふるう昆虫媒介のウイルス性伝染病で、複数回感染するとデング出血熱(DHS)という致死率の高い症状に移行する。デングウイルスは4つの大きく異なる抗原サブタイプに分かれ、近年の人類集団の人口増加と移動性の上昇により、異なる抗原型が同一の地域で流行するようになった。これが宿主の複数回感染を可能にし,抗体特異的エンハンスメント(ADE)と呼ばれる特異な免疫応答現象(過去の感染によって出来た抗体が、2度目の感染で宿主に害をもたらす)によってデング出血熱が起こる。本研究課題では、数理モデルを開発することにより、交差免疫や交差増強がデングウイルスやその他の病原体の疫学動態と進化にどのような影響を与えるかを解明した。複数の抗原サブタイプと交差免疫,抗原依存的エンハンスメント、感染率の季節変動を考慮した疫学動態数理モデルの解析により、各サブタイプは、季節変動性に対する疫学動態の非線形共鳴によって、パラメータに応じて2〜数年おきに大流行する複数年周期の変動を示すこと、異なるサブタイプ流行の同期する条件を調べた。非同期振動は、交差免疫が弱いときに見られ、非同期アタラクタはパラメータに敏感に依存することを明らかにした。また何種類の抗原型が共存できるかについても理論的な解明を行った。これらの成果はMathematical Biosciences誌などに投稿中である。また、ペンシルバニア州立大学のEC Hohnesとの共同研究により、系統学的データを用いて、タイ・バンコクで蔓延するデングウイルスの複数の血清型が過去20年間の進化を解明し、デングウイルスの大きな進化的な変化は周期的に起きており、異なる血清型それぞれが約8〜10年周期で相関を持ちながら振動してきたこと、そして血清型のシフトが宿主の集団免疫による自然淘汰によるものであることを明らかにした。交差免疫あるいは交差増強を取り入れた複数血清型ウイルスの疫学動態数理モデルを開発することにより、このデングタイルス血清型の流行パターンを解析した。この研究成果はProceedings of the National Academy of Science, USAに掲載発表され、日本経済新聞等に記事が掲載された。
著者
岡田 誠司
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

腰部脊柱管狭窄症の主要な病因は脊柱管背側を縁取る黄色靭帯の肥厚であるが、そのメカニズムに関しては殆ど明らかにされていない。従来の研究では、若年者椎間板ヘルニア患者から採取された『肥厚していない黄色靭帯』と、腰部脊柱管狭窄症患者から摘出された『肥厚した黄色靭帯』の組織学的な比較により、肥厚した黄色靭帯では①膠原線維の増加、②弾性繊維の断片化、③血管新生が認められることなどは明らかになっているが、どのような細胞が膠原繊維を産生するのか、肥厚した靭帯では細胞数に変化は認められるのかなどの基本的なことが解明されていなかった。そこで我々は、マウス腰椎ならびに黄色靭帯の解剖学的解析を行い、ほぼヒト黄色靭帯の特徴を有していることを明らかにした。さらに、マウス黄色靭帯に持続的メカニカルストレスを負荷することにより線維芽細胞の増殖と膠原線維の過剰沈着を確認した。この成果はメカニカルストレスが黄色靭帯肥厚の直接の誘因の一つであることを示した初めての結果である。しかし、メカニカルストレスのみでは中等度の肥厚が限界であり、組織的にヒト疾患で認められるマクロファージ浸潤、血管新生やTGFβなどの線維化関連因子の発現上昇が認められなかった。そこで、黄色靭帯に微小な損傷を加えマクロファージ浸潤を促した結果、血管新生とともに高度の肥厚が確認された。さらに、クロドロネート投与により末梢血中のマクロファージを枯渇させた状態では、微小損傷によっても全く黄色靭帯の肥厚は認められなかった。この結果は、マクロファージ浸潤が黄色靭帯肥厚に深く関わっていることを示唆しており、疾患との新たな関わりを示唆する重要な知見である。なお、本成果はPlos One誌ならびにAmerican Journal of Pathology誌へ掲載された。
著者
有馬 学 季武 嘉也 中村 尚史 日比野 利信 永島 広紀 一ノ瀬 俊也
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は北九州地域の都市を主たる対象に、近代日本の都市化・工業化における地方都市の位置と機能を明らかにすることを目的とする。本研究の鍵となる史料は、今回初めて利用可能になった安川敬一郎の日記をはじめとする関係史料(北九州自然史歴史博物館蔵、以下「安川文書」と略)である。本研究では第一に、「安川文書」の整理を同博物館と協力して行い、その史料情報をデータベース化して活用できるようにした。「安川文書」の活用は、地方財閥の代表的な存在であった安川財閥の企業活動を詳細に明らかにするのみならず、企業、政党、行政、社会運動等の都市主体の動向と相互関係(対抗・競合・協調)を検証し、それによって近代日本の地方都市史研究に新たな地平を開くことを可能にすると思われる。「安川文書」の主要な内容は、(1)安川敬一郎日記、(2)安川家の経営実態を示す帳簿類をはじめとする経営史料、(3)安川宛の書簡および安川の書簡草稿、(4)安川の膨大な意見書類である。本研究ではこれらの分析によって、安川の経済活動のみならず、それと結びついた政治活動、および政治・経済活動を結び付ける独特の国家観、国際情勢認識を明らかにすることができた。帳簿類の検討からは、安川家と松本家の事業上の関係(組織構造)や安川家の投資行動(資産運用のあり方)の実態が解明された。それによれば、安川家は日清戦争時の石炭ブームで得た利益を、鉱区の拡大と鉄道投資に投下し、事業多角化を実現した。また、安川敬一郎日記、書簡、意見書等を、的野半助関係文書、永江純一関係文書、新聞史料などと付き合わせることによって、これまでほとんど言及されなかった安川の政治活動の詳細が初めて明らかになった。衆議院選挙における安川の活動の舞台は北九州ではなく福岡市であり、そこでは安川は政友会系と玄洋社系双方の支持を調達できる立場にあった。安川は中央政界にも人脈をもち、第二次大隈内閣期に立憲同志会と政友会を牽制する第三勢力の形勢をはかったが、その意図は挙国一致による日中関係の安定化と、そのもとでの中国への資本進出にあった。
著者
重村 憲徳
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、マウスを用いて明らかにされた甘味感受特性と甘味受容体(Tlr2/Tlr3ヘテロ二量体)遺伝子多型との相関を"ヒト"において明らかにすることである。方法は、以下の過程で行った:(1)human Tlr2/Tlr3のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型を明らかにする。(2) 見いだされたアミノ酸変異をもったTlr2とTlr3(Tlr mutant)遺伝子発現コンストラクトを作成する。(3) 作成したものを様々な組み合わせでHEK293細胞に導入し、10種類の甘味物質(天然糖、人工甘味料、アミノ酸)に対する応答特性をCa^<2+>イメージング法により検索し、遺伝子多型性とその応答特性との関係について検討する。(1) について:ヒトTlr2/Tlr3のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型解析では、Tlr2に4カ所、Tlr3に2カ所のアミノ酸変異を伴う遺伝子変異が明らかになった。さらに、うま味物質(グルタミ酸、IMPなどアミノ酸や核酸)の受容体は、甘味受容体と共通のTlr3とTlr1のヘテロ二量体であることが報告されているため、Tlr1についても同様に多型解析を行った。この結果、5ケ所のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型が明らかとなった。(2)と(3)について:HEK細胞にTlr2/Tlr3のmutantを発現させたCaイメージング解析では、Tlr2の1つのアミノ酸変異がミラクリン(Tlr2/Tlr3に結合し、酸味を甘味に変えるミラクルフルーツ由来のタンパク質)の効果と関連がある所見が得られた。また、うま味感受性と遺伝子多型性との相関解析では、Tlr1/Tlr3の3つのアミノ酸変異が複合的にうま味感受性と相関している可能性が示唆された。以上のことから、カロリーやタンパク質摂取と密接に関連するヒト甘味、うま味感受性の多様性は、味覚受容体の遺伝子多型性によりもたらされる可能性が強く示唆された。
著者
青木 博史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度における主な研究業績は,以下のとおりである。①図書『歴史語用論の方法』(共編著,ひつじ書房,352pp,2018年5月),②図書『日本語文法史研究4』(共編著,ひつじ書房,308pp,2018年10月),③論文「可能表現における助動詞「る」と可能動詞の競合について」(『バリエーションの中の日本語史』岡﨑友子ほか編,くろしお出版,pp.197-214,2018年4月),④論文「準体助詞「の」の発達と定着―文法化の観点から―」(『歴史語用論の方法』高田博行ほか編,ひつじ書房,pp.141-165,2018年5月),⑤論文「「ござる」の丁寧語化をめぐって」(『日本語文法史研究4』青木博史ほか編,ひつじ書房,pp.155-175,2018年10月),⑥発表「丁寧語の発達」(平成30年度九州大学国語国文学会,九州大学,2018年6月9日),⑦招待発表「「補助動詞」の文法化―「一方向性」をめぐって―」(日本語文法学会第19回大会,立命館大学,2018年12月16日),⑧招待発表「「動詞連用形+動詞」から「動詞連用形+テ+動詞」へ―「補助動詞」の歴史・再考―」(シンポジウム「日本語文法研究のフロンティア―文法史研究・通時的対照研究を中心に―」,国立国語研究所,2019年1月13日),⑨発表「「て+みせる」の文法化」(第277回筑紫日本語研究会,長崎大学,2019年3月28日)。古代語から現代語への過渡期である近代語に注目したものとして,いずれも重要な成果である。近年注目を集めている「歴史語用論」に関する図書①(論文④所収)は,様々な分野へ影響を与えるものとして重要である。現在の文法史研究の活況を反映した図書②(論文⑤所収)も,学界への多大な貢献が期待される。口頭発表⑥⑦⑧⑨は多くの反響が得られており,この成果については本科研の期間中に活字化する予定である。
著者
内田 諭 内田 聖二 赤野 一郎 Danny Minn 工藤 洋路 石井 康毅 ハズウェル クリストファー
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2018年度の研究計画は和英連語辞書に収録すべき見出し語の選定と連語抽出の試行を主眼とし、次の3段階で実施した。・(1)見出し語の選定:BCCWJやTWCなどの日本語大規模コーパスを用いて、収録すべき見出し語の選定を行った。名詞を中心に選定し、日本の英語教育(特に高等学校レベル)の実情に合ったものになるように心がけた。・(2)連語表現の抽出の試行:(1)で選定した見出し語のうち、頻度の高い最重要名詞について、連語表現の抽出を行った。研究分担者の意見や研究会や学会などでの専門家からの助言、コーパスにおける共起指数等を基に、教育目的で有益な連語表現を選定した。また、次年度以降の研究・執筆作業が円滑に行えるよう、連語抽出に関する全体の方針について議論し、手続きをある程度明確化した。・(3)英訳の試行:(2)で抽出した連語表現について、英訳を予備的に実施した。英語母語話者の意見・助言を基に、特に日本語と英語でずれのある表現について集中的に討議した(例えば、「体」は英語ではbodyであるが、「体が温まる」はbecome warm from inside、「体が覚える」はbecome automaticなどのように必ずしもbodyを使うとは限らず特別な注意が必要となる)。これらの作業に加えて、辞書を公開する際に用いるウェブインタフェースのプロトタイプを作成した。これにより、早い段階から研究の最終成果物のイメージを共有することが可能となった。
著者
清水 靖久
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

戦後日本を代表する政治学者・思想史家の丸山真男(1914~1996年)の政治思想の全体像を解明するために、その厖大な著作をデジタル化してコンピューターで網羅的に分析することを本研究は試みた。日本社会の民主化を第一の目標とした戦争直後、市民による多様な結社形成を説いた1960 年前後、自由な人格形成を阻む日本思想の古層を専ら研究した1970 年代以後を通じて、丸山がリベラルであろうとしたことの意味を明らかにした。