著者
金 三純
出版者
九州大学
巻号頁・発行日
1966

博士論文
著者
立花 宏文
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ヒト抗体産生細胞がカフェインや植物レクチンの刺激により、本来産生していた抗体軽鎖を消失し、代わりに新たな軽鎖を産生する細胞が高頻度に出現する軽鎖遺伝子の発現シフト現象(Light chain shifting)を見出した。Light chain shiftingを起こした細胞より産生された抗体は、いずれも本来の抗原結合性を大きく変化させていることを明らかにしてきた。そこで本研究課題では、Light chain shiftingの自己抗体産生機構としての可能性について検討を行った。自己免疫病では、その発症に抗DNA抗体や抗赤血球抗体などの自己抗体の産生が直接的な役割を果たしているが、その産生機構はほとんど明らかにされていない。Light chain shiftingの自己抗体の産生への関与が明らかになれば、その誘導機構を解明することで自己抗体の産生を伴うことの多い自己免疫疾患の原因究明につながる可能性がある。そこで、Light chain shiftingによって発現した抗体の性質(自己抗原との反応性や軽鎖遺伝子の構造)を明らかにするため、Light chain shiftingを起こし軽鎖遺伝子の発現を変化させた細胞を多数クローニングして、それぞれの細胞より抗体遺伝子を調製し、その構造解析を行った。その結果、自己反応性を示した抗体の軽鎖の多くは、その可変領域に組み換えの際に生じたN領域を有していることが明らかとなった。このN領域は、重鎖の可変領域にのみ存在するとされ、デオキシヌクレオチド添加酵素(TdT)の働きにより形成される。実際、Light chain shifting誘導性の細胞では、TdTの発現が見られることを確認した。また、自己反応性を有する抗体軽鎖は、特定のV遺伝子を利用した遺伝子組み換えによるものであることが明らかとなった。Light chain shiftingは、従来よりいわれていた抗体遺伝子の組み換え誘導条件であるRAG-1,2の発現と胚型転写の誘導という二つの条件では誘導されず、その誘導には第三の因子が関与していることが明らかになった。
著者
福元 圭太
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

リチャード・ドーキンスが『利己的な遺伝子』で「ミーム論」を提唱する70年以上前の1904年にリヒャルト・ゼーモンが打ち出した「ムネーメ理論」については, 「ミーム学」の中でもほとんど言及されることがなく, したがってそれがどういう概念であるのかも, まったくといって良いほど究明されていない。ゼーモンはドイツにおいてはすでに「忘れ去られた科学者」であり, 本邦においてはその名前すらほとんど知られていない。しかしながら「ミーム論」の先駆である「ムネーメ理論」の先見性と革新性は, 是非とも解明され, 再評価される必要があると思われる。本研究はこの課題に取り組むものである。
著者
神庭 重信 加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

精神疾患患者を含む患者でのミクログリア異常を解明するための橋渡し研究ツールとして、末梢血単球に2種類のサイトカインを添加することでわずか2週間で作製可能な直接誘導ミクログリア様細胞(iMG細胞)を独自開発し、一次性ミクログリア病の那須ハコラ病患者、双極性障害患者、線維筋痛症患者で、iMG細胞の活性レベルが重症度と相関するなど疾患特異的な興味深い反応の抽出に成功した。さらに、ヒト線維芽細胞由来直接誘導ニューロン(iN細胞)の作製技術を自身のラボで改良し、わずか1週間で誘導可能な早期iN細胞の作製に独自で成功し、NF1患者由来の早期iN細胞において興味深い遺伝子発現パターンを見出すことに成功した。
著者
片倉 喜範 藤井 薫 原田 額郎 山下 俊太郎 門岡 桂史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

Caco-2細胞をヒト腸管モデル細胞株として用い、SIRT1プロモーター制御下でEGFPを発現するベクターを安定導入した組換えCaco-2細胞を樹立した。フローサイトメーターを用いてEGFPの蛍光強度の変化を追跡した結果、乳酸菌T2102株を陽性菌として選定した。T2102株は、SIRT1の活性化の結果、β-カテニンの脱アセチル化を誘導するとともに、その発現を消失させうることが明らかとなった。また、T2102株はDLD-1細胞におけるテロメラーゼ発現も抑制するとともに、細胞老化を誘導することが明らかとなった。またがん細胞抑制能が足場非依存性増殖能及び造腫瘍能の結果より明らかとなった。
著者
竹松 正樹 下 相慶 VOLKOV Y.N. 崔 ぴょん昊 羅 貞烈 金 くー 金 慶烈 蒲生 俊敬 磯田 豊 DANCHENKOV M GONCHAREKO I CREPON M. LI RongーFeng JI ZhougーZhe ZATSEPIN A.G MILLOT C. SU JiーLan 尹 宗煥 OSTROVSKII A 松野 健 柳 哲雄 山形 俊男 野崎 義行 大谷 清隆 小寺山 亘 今脇 資郎 増田 章 YUNG John-fung BYOG S-k. NA J.-y. KIM K.r. CHOI Byong-ho CREPON Michel 崔 秉昊 金 丘 オストロフスキー A.G YURASOV G.I. 金子 新 竹内 謙介 川建 和雄 JIーLAN Su FENG Li Rong FEI Ye Long YARICHIN V.G PONOMAREV V. RYABOV O.A.
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.本研究の特色は、研究分担者間の研究連絡・交流を促進し、研究成果の統合を図るに止まらず、研究課題に対する理解を格段に深めるのに必要な新しいデータセットの取得を提案し、実行することにある。実際、前年度の本研究主催の国際研究集会(福岡市)に於いて策定された計画に従い、平成6年7月に、日・韓・露の3国の参加を得て、日本海全域に亘る国際共同観測を実施した。この夏季観測では、海底までの精密CTD、化学計測、ドリフタ-の放流、測流用係留系(3本)の設置・回収と並んで、分担者の開発した特殊な曳航体を用いてクロロフィル、O_2、CO_2及び表層流速の測定が試みられた。特筆すべきは、日本海北部のロシア経済水域内の3点において、11ヶ月に及び長期測流データを取得したことである。これは、日本海誕生以来、初めて、日本海盆の中・深層の流動特性を明らかにしたもので貴重である。なお、現在、3本の係留計(うち1本にはセディメントトラップ付)が海中にあって測流中である。更に、冬期の過冷却による深層水の生成過程を調べる目的で、平成7年3月1日から、ウラジオストック沖において、3国共同観測が実施された。これは、次年度以降に予定されている本格的な冬季観測の準備観測として位置づけられている。2.現地観測による新しいデータセット取得の努力と並んで、室内実験に関する共同研究も活発に実施された。即ち、昨年度の研究集会での打ち合わせに従って、日・韓・露でそれぞれ冷却沈降過程に関する実験を進めるとともに、平成6年10月にはロシア・シルショフ研究所からディカレフ氏(研究協力者)を日本に招き、また、研究代表者が韓国漢陽大学を訪問し研究途中成果の比較検討を行った。この共同研究においては、特に、自由表面を確保する冷却(駆動)方法が試みられ、従来の固体表面を持つ実験と著しい差異があることを見出した。しかし、こうした実験結果を現実の沈降現象と結びつけるには、冬季における集中的現地観測の成果を持たねばならない。3.昨年1月の研究集会での検討・打合わせに従って、日・韓・仏・中・(米)の研究者により、日本海及び東シナ海域に関する数値モデル研究が共同で進められた。その成果として、東韓暖流の挙動(特に離岸現象)を忠実に再現できる新しい日本海数値モデルを開発するとともに、黒潮を含む東シナ海域の季節変動のメカニズムを解明するための数値モデル研究がなされた。4.夏季観測の際に放流したドリフタ-(アルゴスブイ)の挙動は韓国・成均館大学及び海洋研究所で受信され、衛星の熱赤外画像と高度計データは九州大学で連続的に収集された。こうした表層に関する情報を有機的に結合し、検討するため、平成7年1月に成均館大学の崔教授が九州大学を訪問した。5.以上の共同研究活動の全成果を多面的に検討し統合するために、平成6年11月7〜8日の2日間に亘り、韓国ソウル大学に於いて開催された国際研究集会に参加した。この集会には、日本・韓国・ロシアから、一般参加も含めて、約70名の参加者があった。参加者の専門分野が、海洋物理、化学、海洋工学及び生態学と多岐にわたっていることは学際性を標ぼうする本研究の特色を象徴するものである。アメリカからも2名の特別参加があり、本研究が口火を切った日本海及び東シナ海に関する学際的・国際的研究に対するアメリカの並々ならぬ関心が表明された。なお、ここで公表・検討された成果は、逐次、学術誌において印刷公表される予定である。過去2年に亘る本研究成果の総括もなされたが、そこでは、本研究が取得した新しいデータセットは、問題に解答を与えるというよりも、むしろ、新たな問題を提起する性質のものであることが認識された。そのため、最終セッションでは、提起された問題を解明して行くための今後の方策(主に現地観測)が詳細に検討された。
著者
大石 了三 江頭 伸昭 伊藤 善規 江頭 伸昭 伊藤 善規
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ポリエン系抗真菌薬のアムホテリシンBは、腎細胞膜のコレステロールに結合してポアを形成し、細胞内へのNa^+流入ならびに、小胞体およびミトコンドリア由来のCa^<2+>上昇を引き起こすことで、腎細胞にネクローシスを引き起こすことが明らかとなった。加えて、アムホテリシンBによる腎細胞内のCa^<2+>上昇およびミトコンドリア機能障害には、MAPキナーゼの活性化が重要な役割を担っていることが明らかとなった。
著者
吉野 和寿
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

δ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS)はミトコンドリアマトリックスに局在する短寿命タンパク質として知られている。ALASはヘム生合成系の律速酵素であることから、酵素量の調節はポルフィリン症と密接に関係している可能性がある。本研究ではALAS量の調節に関し、ラット肝臓ミトコンドリアにおけるALAS分解とその制御について検討した。これまでに初代培養ラット肝細胞及びミトコンドリアにおいて、ヘム生合成阻害剤存在下でALAS分解が抑制され、さらにhemin添加によりその抑制が解除されることを見出している。このことは、ヘムによる律速酵素分解速度調節を介したヘム生合成制御機構の存在を示唆するものである。昨年度、ALAS分解制御について解析した結果、ミトコンドリアにおけるALAS分解を促進する因子として、ヘムの他にcysteine (Cys)とascorbic acid (ASA)を同定した。今年度、これらの因子により促進されたALAS分解について解析を行い、以下に示す結果が得られた。ヘム生合成阻害剤投与ラット肝臓ミトコンドリアにおけるALAS分解について、プロテアーゼ阻害剤の影響を検討したところ、(1)Cysにより促進されるAbAS分解は、システインプロテアーゼ阻害剤であるleupeptinやE-64dにより阻害された。(2)heminやASAにより促進されるALAS分解は、leupeptin、E-64d、PMSF、o-phenanthoroline、epoxomicinにより阻害されず、効果的なALAS分解の阻害剤を見出すことが出来なかった。しかしながら、このALAS分解はラジカルスカベンジャーであるMCI-186により阻害された。これらの結果から、ミトコンドリアにおけるALAS分解は、システインプロテアーゼによるものとラジカルが関与するものの少なくとも2通りの分解様式があることが示めされた。
著者
吉川 茂 志村 哲
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

「舞蛟」、「露堂々」など江戸、明治期の虚無僧尺八の名器は「地無し尺八」と呼ばれ、竹管の自然形体をそのままに、節をわずかに残して製管されている。本研究では、第2節(第4孔の少し上に位置する)より上と下では管内形状が有意に異なり、かつ第2節の残し方に独特な特徴のあることが低音域と高音域での響きと音色の差異(多彩さ)をもたらすと推論した。さらに、名器を用いた実演や CD 録音での演奏者や聴衆の印象から、メリカリ奏法での上下への音高変化と運指が現代尺八よりも虚無僧尺八において容易であり、響きと音色の差異を導くと推論された。このような特徴は第2, 3 孔が高めに開けられていることの利点と考えられる。
著者
田口 雄一郎 服部 新 栗原 将人 斎藤 毅 玉川 安騎男 安田 正大 平之 内俊郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ガロア表現のモジュライ空間の構成やその性質について研究し、幾つかの基本的な成果を得た。また、これに関連して、ガロア表現についての幾つかの結果を得た。即ち、(1)かなり一般の完備離散附値体のガロア表現のガロア固定部分空間の消滅定理(今井の定理の一般化)とその岩澤理論への応用、(2)ガロア表現の合同に関する結果とその Rasmussen-玉川型の非存在定理への応用、(3)代数体の幾何学的なガロア表現のヘッケ体が、多くの(例えば或る場合には密度1の)有限素点について、そのフロベニウスの跡で生成される事の証明、(4)ガロア表現の像のザリスキー閉包の連結成分の個数の上からの評価、等を得た。
著者
津田 誠
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

正常動物の脊髄腔内ヘインターフェロンγ(IFNγ)を投与することで,脊髄ミクログリアの活性化および持続的なアロディニア(難治性疼痛様の痛み行動)が発現した.脊髄におけるIFN γ受容体(IFN γ R)の発現細胞をin situ hybridization法により検討したところ, IFN γ R mRNAはミクログリアに特異的に検出された.さらに,IFN γによるアロディニアは,ミクログリアの活性化を抑制するミノサイクリンによりほぼ完全に抑制された.したがって,IFN γはミクログリアに発現するIFN γ Rを刺激して,ミクログリアを活性化し,持続的なアロディニアを誘導することが示唆された.そこで,実際の難治性疼痛モデル(Chungモデル)におけるIFNγの役割を, IFN γ R欠損マウス(IFN γ R-KO)を用いて検討した.野生型マウスでは神経損傷後にアロディニアの発症およびミクログリア活性化が認められたが,IFNγR-KOでは両者とも著明に抑制されていた.以上の結果は,IFN γが難治性疼痛時におけるミクログリアの活性化因子として重要な役割を果たしている可能性を示唆している.P2×4受容体発現増加因子としてfibronectin(FN)を同定した.本年度は, FNによるP2×4発現増加分子メカニズムを明らかにすべく,Srcファミリーキナーゼ(SFK)に注目した.ミクログリア培養細胞において,Lynキナーゼが主なSFK分子であること,さらに脊髄における発現細胞もミクログリアに特異的であることを明らかにした.さらに,Chungモデルの脊髄では, Lynの発現がミクログリア特異的に増加した.Lynの役割を検討するため, Lyn欠損マウス(Lyn-KO)を用いた.野生型マウスでは神経損傷後にアロディニアの発症およびP2×4の発現増加が認められたがLyn-KOでは両者とも有意に抑制されていた.さらに,Lyn-KOミクログリア培養細胞では, FNによるP2×4発現増加が完全に抑制されていた.以上の結果から,Lynは難治性疼痛時のP2×4発現増加に必須な細胞内シグナル分子であることが示唆された.
著者
小野 勇一 伊澤 雅子 岩本 俊孝 土肥 昭夫 NEWSOME Alan KIKKAWA Jiro
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

代表者らのグル-プは,森林に起源を持つといわれている食肉目の社会進化を明らかにするために、これまでネコ科、特に小型種について研究を進めてきた。特に小型ネコ科の社会形態とその維持機構を、様々な環境で野生化したイエネコの研究によって明らかにしてきた。すなわち、小型ネコ科の社会の適応性は生息環境の資源量と強い関連性を持つことが示唆された。この適応性についての試論は国内では野生種の小型ネコ、イリオモテヤマネコとツシマヤマネコの調査によって、すでに検討を始めている。ネコ科の社会進化を論ずる上で、イエネコの人間社会と完全に隔離された自然状態での社会形態と、その起源種である野生種の小型ネコの社会形態と比較することは重要なポイントとなる。しかしながら、わが国において野生化したイエネコの生息域とその中の資源量は、ほとんどの地域で人間生活との関連が深く、完全に自然状態で野生化したイエネコの生息域はない。本研究では、オ-ストラリア大陸内部に人間社会の影響がほとんどない地域で野生化したイエネコを対象にして、その社会生態と環境資源利用の調査を実施した。オ-ストラリアには西洋人の入植以来200年間にイエネコが野生化し、現在では大陸のほとんどの地域に分布している。人間生活の影響をまったく受けない森林地帯・半乾燥地帯・砂漠などに生息している野生化したイエネコは、その始原種であるヤマネコと同様に、ハンティング(狩り)によって生活をしている。一方、この野生化したイエネコは、オ-ストラリア固有の貴重な動物相に重要な影響を及ぼしている。これらの固有種の保護のために、野生化したイエネコの生態学的調査も本研究の重要な課題のひとつである。調査は、ニュ-サウスウェルズ州のヤソン自然保護区で行った。この保護区内に調査地を設け、1988年と1989年の2年間に約12ヶ月間滞在して資料を収集した。調査地内のネコの大部分を補獲し、発信機あるいは耳環を装着して個体識別し、テレメトリ-法と直接観察によって行動が追跡された。この地域の野生化したイエネコは、年中ほとんどの餌を野生化したアナウサギに依存していることが明らかになった。このことから、2年目にはアナウサギの生態学的調査も行った。調査の結果は、完全な自然条件のもとで野生化したイエネコの社会形態の基本型は、小型ネコの野生種とほとんど変わらないこと、また生息地の資源量がその基本型の変異に強い影響を持つことが明らかとなり、研究グル-プの試論が証明される大きな成果が得られた。2年間に渡る継続した資料が得られたことから、調査地内のネコの定住性と分散過程の資料が得られ、哺乳類に頻繁に見られる「雄に偏よった分散」を実証でき、またその分散の要因が、定住雄の繁殖活動によることが観察によって明らかにされた。さらに分散が確められた個体の分散過程の資料も得られた。これらの結果は、ネコ科の社会形態の維持機構解明に重要な手がかりを与えるものである。次にこの地域の野生化したイエネコは年間の餌の大部分をアナウサギに依存していることから、単純な食う=食われる関係のもとに成り立っていた。このことからネコのホ-ムレンジの大きさは、餌資源の季節的な変化に対応して決定されること、またネコの繁殖も餌の利用しやすい時期と同調していることを用いて、食う=食われる関係のシュミレ-ションモデルが導かれた。また、保護区の鳥類相の調査も平行して行い、ネコによる被食の程度は、主な餌であるアナウサギの個体数が最も少なくなる厳冬季にはかなりの程度補食されていることが明かとなった。このことから、小型哺乳類の生息が少ない地域や季節には、野生化したネコのオ-ストラリア固有動相への影響は大きいことが示唆された。本研究で得られた研究結果は各分担者ごとにサブテ-マごとに論文として公表され、また全体的には報告書の形でまとめられた。この研究成果は、特にオ-ストラリアでこれまで大きな問題となっていた野生化したイエネコについて多くの新しい知見を与えるもので野生動物保護管理のうえで貢献するものと期待される。
著者
比良松 道一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

三倍体生物種が稀に高い有性繁殖能力を発現する機構はよくわかっていない. オニユリとその近縁種コオニユリ(いずれもユリ科ユリ属)では, オニユリゲノム2組, コオニユリゲノム1組を有する三倍体オニユリが発生し易く, 三倍体オニユリの成熟種子の生産は, 花粉親の遺伝子型に大きく影響された. 自然条件下での三倍体オニユリの発生と遺伝的分化は, 二倍性のオニユリ配偶子と高い交雑親和性を有する一倍性のコオニユリ配偶子によって促進されていると考えられる. こうした性質を有する一倍性配偶子は, ユリ属植物における三倍体レベルでの交雑育種を可能にすると考えられる.
著者
東野 伸一郎 長崎 秀司
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本課題では,フラットスピンを利用した小型固定翼UAVの自動垂直着陸を実現する方法を研究した.通常の機体であってもフラットスピンにエントリーさせるために,バラストを利用して必要な時のみ機体の重心位置を後退させ,フラットスピンにエントリーさせる方法を考案し,飛行実験によってその有効性とスピン中の姿勢がほぼ水平になることを確認した.また,スピン中の姿勢がフラットになることにより,降下中の速度がかなり小さくなることが確認された.さらに,フラットスピン中の機種が所望の方向を向いた瞬間に推力を与え,飛行経路を変更する方法を考案し,飛行実験によって所望の方向に経路移動が可能であることを示した.