著者
小沢 修司
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

戦後「福祉国家」の枠組みを根本的に転換しようとする最低所得保障としてのシチズン・インカム(以下、ベーシック・インカムの呼び名を使う)構想は、第一に、資力調査に伴うスティグマや「失業と貧困の罠」から社会保障給付を解き放つこと、第二に、性別分業にもとづく核家族モデルから人々を解き放ち、個の自立にもとづく家族、ネットワーク形成を含むさまざまな社会的共同組織の形成を促す基礎を提供すること、第三に、労働市場の二重構造化が進み、不安定度が強まる労働賃金への依存から人々の生活を解き放つと同時に、「完全雇用」と結びついた現行の社会保険制度の限界を乗り越えた普遍的なセイフティネットを国民に提供すること、第四に、国家による社会保障給付という「国家福祉」と税控除による「財政福祉」とに分断されている現行の税-社会保障システムを統合し合理化することなど、今後の新しい「福祉国家」なり人間福祉の実現を図る福祉社会を展望しようとする際に検討されるべき有力な構想となりうるものである。また、失業の増大、ホームレスの増加など社会的排除の強まりに対抗する福祉政策の展開として世界的に注目されてきているワークフェア的所得保障政策と、ベーシック・インカム構想の交差状況に着目しながら、所得保障と就労支援政策の両方が必要であること、しかしながら所得保障の条件に就労(アンペイドワークや社会貢献活動など広い意味の労働であれ)を義務づけることは、資力調査の代わりの地位にいわば「労働調査」を据えることになり、家事労働やボランティア活動の本質を損なう結果になることを論じた。さらに、ベーシック・インカム保障は労働時間の大幅な短縮とワークシェアリングがともに進められることが必要であり、そのことによって過剰な消費主義が是正され所得と労働の人間化も進むものであることを論じた。
著者
野口 祐子 宗田 好史 野田 浩資 浅井 学 ラリー ウォーカー 青地 伯水 赤瀬 信吾 藤原 英城 長谷川 雅世 加藤 丈雄 加藤 丈雄 長谷川 雅世
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

10名のチームからなる本研究では、文学・歴史地理学・社会学・都市保存学の観点から、京都とヨーロッパ主要首都のイメージに関して、1)国民のアイデンティティを強化するための歴史的空間としてのみやこ、2)古都としての保存と近代的都市開発の理念の葛藤、3)美意識の変化とみやこの姿との影響関係を中心テーマとして共同研究をおこなった。2006年11月には公開シンポジウムを開催し、2008年度には研究成果報告書を作成して、近隣の研究機関と公共図書館に配付した。
著者
小林 ゆき子
出版者
京都府立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

鉄欠乏性貧血は世界中で頻発している栄養失調のひとつであり、鉄欠乏の解消は栄養学上大きな課題である。本研究では鉄欠乏症に対して効果のある鉄剤を探索するのではなく、食事全体としての鉄欠乏症への対応について検討することを目的とした。本研究期間では、鉄欠乏状態における三大栄養素の鉄生物学的利用能を検討するため、摂取する鉄量が低い場合と鉄需要が増大している妊娠期において、オリゴ糖は鉄の吸収と利用にどのように関与するかについて検討した。その結果、鉄摂取量が少ない状況下において、酸性キシロオリゴ糖の摂取は貯蔵鉄の減少を抑制することが認められた。妊娠期においては、酸性キシロオリゴ糖食は食事鉄の吸収を促進することが示された。したがって、酸性キシロオリゴ糖は食事鉄の吸収を促進することによって鉄欠乏性貧血の予防し、鉄生物学的利用能を改善することが示唆された。
著者
伊藤 五彦
出版者
京都府立大学
雑誌
京都府立大學學術報告. 農學 (ISSN:00757373)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.38-50, 1966-09-01

デンドロビウム・ノビルの開花時に切り取った花の子房を用いて, 培養管外の器官を無菌的に培養する部分無菌培養法(器外器官培養法)により, 稔性のある種子を含む果実を培養した。糖の種類および濃度は子房の発育に影響を与え, 6%のしょ糖が果実の発育に適していた。果実の発達には糖以外の有機栄養は必要ではないが, 少量の有機物質の添加は発育を助長した。50∿500ppmのペプトンの添加は, 果実の発育を促し, 種子稔性を高め, ココナットの添加は, 特に果実の発育に有効であった。
著者
大槻 耕三 中村 考志 佐藤 健司
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

麹納豆は多くの酵素類を含むのでその酵素反応を昔から食品加工に利用してきた。東北地方の塩納豆、静岡県の浜納豆、京都の大徳寺納豆などがその例である。本研究では麹納豆の酵素活性(フィターゼ、プロテアーゼ)を検討し、非発酵大豆食品の問題であるフィチン酸Ca、Mg、Zn、Fe塩(栄養的に不給体のミネラル)の分解加工をめざしている。塩納豆(#1、酒田市)、浜納豆(#2、浜松市)、大徳寺納豆(#3、京都市)及び比較対照として糸引き納豆(#4)、その他の非発酵大豆食品を試料とし化学分析、酵素活性測定を行なった。塩納豆は糸引き納豆に米麹と食塩を加えたもので熟成期間は約3カ月で、糸引き納豆と麹の形態が残存している。浜納豆と大徳寺納豆はほぼ同じ製法で蒸煮大豆に麦こがしと麹を加え1週間発酵させた後16%食塩水に浸漬し約一年間熟成する。これらの試料のフィチン酸分析したところ、#1,#2,#3,#4の順に0.04,0.03,0.19,1.86%であった。この結果から麹納豆は糸ひき納豆に比ベフィチン酸が1/10以下に減少している。また遊離カルシウムと総カルシウム比は#1、#2、#4、#3の順に23、19、16、11%であった。旨味に関与する遊離アミノ酸率を測定すると#1,#2,#3の麹納豆と#4の糸ひき納豆ともに18〜24%で非発酵大豆食品「きなこ]の0.9%に比較して高くプロテアーゼ作用の強いことが示された。塩納豆の有用性が確認できたので、実験室的に塩納豆を試作したところ、熟成2週間でフィチン酸が50%減少し、4週間後では約90%が分解されていることが明かとなった。塩納豆は外見は糸引き納豆の性質が残っているが化学成分的にはこのようにかなり異なっていて、ミネラル栄養吸収性が改良されている。また塩納豆は他の麹納豆に較べ食塩含量が5分の1の5%であるので健康的である。塩納豆は他の大豆食品試料との比較から「カルシウム栄養や微量ミネラル栄養」の高吸収性の大豆加工食品である。
著者
大島 一正
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

普段我々が用いている「種」という単位は,伝統的な分類学により形態差に基づいて定義されている場合がほとんどある。一方,種分化研究では隔離機構の有無や遺伝的交流の程度が重視され,形態差が必ずしも考慮されてきたわけではない。さらに DNA バーコーディングの普及により,定義上も実際の分化の程度にも大きな隔たりがある分類基準が混在している状況にある。そこで本研究では,基準間での矛盾が見られる分類群を対象に,交配能力とゲノム分化を指標として,どの程度種分化が進行すれば交尾器形態に別種相当の分化が生じるのか,そしてバーコーディング領域の分化と比べて進行する順序に傾向があるのかを解明する。
著者
山口 エレノア Yamaguchi Eleanor
出版者
京都府立大学
雑誌
京都府立大学学術報告. 人文 (ISSN:18841732)
巻号頁・発行日
no.74, pp.1-30, 2022-12-25

歴史研究には対人関係や人間相互関係の影響の重要性を過度に強調する事ができない。歴史上有名な人物の他、歴史書で少ししか触れていない人物は数えられないほどいるが、生きていた当時、きわめて重要な役割を果たしていたことは少なくもない。本稿で現在はよく知られていない元薩摩藩士で後に京都府知事となった中井弘(1839-1894)という人物について検討し、幕末・明治時代日本史で知られている有名な仲間たちとの関係に関して考察する。中井は長州藩士の伊藤博文と井上馨と深い関係があった。更に土佐藩士の後藤象二郎と坂本龍馬とも知り合い、1866 年にこの二人の勧めと支援で中井は始めて英国に旅した。その他に明治時代に生きた有名な人物で中井の友人だったのは、大久保利通、木戸孝允、大山巌、大隈重信などが例に挙げられる。大物歴史人物への影響はかなり大きいことから、中井弘自身は現在知られていなくても彼の影響は日本史に残ることが明らかになる。
著者
大島 一正 佐藤 雅彦 大坪 憲弘 武田 征士
出版者
京都府立大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2017-06-30

植物を餌とする昆虫類の中には,単に植物を食べるだけでなく,自身の住処となり,かつ自らが欲しい栄養成分をふんだんに含んだ「虫こぶ insect gall」と呼ばれる構造を作らせる種が知られている.このような巧みな植物操作がどのように行われ,そしてどのような昆虫の遺伝子が関与しているのかに関しては,興味は持たれていたが,そもそも実験的に飼育できる虫こぶ誘導昆虫自体がほぼ無かったため,大部分は未解明のままであった.そこで本研究では,実験室内で飼育可能な実験系の立ち上げと,モデル植物を用いた虫こぶ誘導能の実験手法を確立することで,虫こぶ形成の謎を解明する突破口を開いた.
著者
大槻 耕三 田口 邦子
出版者
京都府立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

ビタミンUは別名Sーメチルメチオニンといいアミノ酸誘導体であって、抗消化器カイヨウ因子であり食物では野菜に遊離状で含まれている。本研究では、従来のガスクロマトグラフィーによる間接的定量法とは異っていて、野菜抽出液をLi系アミノ酸分析機に直接インジェクトしビタミンUを直接分離定量することに成功し分析方法を確立した。この方法を用いて各種食品に含まれるビタミンUをスクリーニングしたところセリ科やナス科やユリ科の野菜には湿潤量あたり1〜4mg%、緑茶は乾物量あたり1〜9mg%、アブラナ科の野菜には湿潤量あたり4〜20mg%含有されていた。アブラナ科野菜中でもクレソン、白菜、キャベツは2〜4mg%と比較的少なく、カリフラワー、ブロッコリー、コールラビ、菜の花は10〜20mg%と多く含有されていた。野菜以外では青のり、ほしのりについて分析したところ乾物量あたりそれぞれ7mg%、3mg%であった。その他「あまちゃづる」については乾物量あたり4.5mg%であったがクロマトグラム上で溶出時間が標準ビタミンUからわずかに異なり、他の分析法によるクロスチェックが必要と思われる。次にビタミンUは溶液状でpH1〜6では24時間は安定であったが食品分析表の総アミノ酸分析条件(6NHCl、110℃、24時間)では40%がメチオニンになることが判明した。また逆にペクチンの存在下では約4%のメチオニンがビタミンUに変化することを見い出した。栄養的効果を知るためビタミンUのD型L型の分離をHPLCで試みたところ、市販のビタミンV製剤はDL型であることをクロマトグラム上で明らかにした。天然のビタミンUはこのHPLCにかけたところ、ピークがL型のみが検出された。以上の方法を用いて、市販ビタミンU製剤を実験動物に投与し、尿を採取してD型L型の分析定量を行う予定である。
著者
西谷 美乃理 森 理恵
出版者
京都府立大学
巻号頁・発行日
no.57, pp.33-41, 2005 (Released:2011-03-05)

陸軍被服本廠内の被服協会の機関誌『被服』と、上村六郎『戦時の本染』により、十五年戦争下における染色をめぐる状況を見た。その結果は次のようにまとめられる。植物染料によるほんぞめ「本染」(草木染)の振興は、第一に、化学染料の輸入の途絶と国内染料工場の化学兵器工場への転用とによる染料不足、第二に、本土空襲による迷彩色を身につける必要性の高まり、というふたつの要因から企図された。ところが一方、「本染」は、先に民芸関係者により、化学染料にはない美をもつものとして評価しようという動きが開始されていた。これが「本染」振興の第三の要因である。その普及に当たっては、染料不足の解消と迷彩色の獲得という差し迫った目的よりも、これは日本古来の美なのである、という美的精神的側面が強調される。「本染」(草木染)は戦時下の国粋意識と結びつき、戦後にはこの第三の要因によって、支持されることとなった。
著者
横内 裕人 須田 牧子 池田 寿 藤田 励夫 山口 華代 荒木 和憲 一之瀬 智
出版者
京都府立大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

東アジアにおける日本・朝鮮・中国の文化交流を考える基礎情報を得るため、長崎県対馬市に所在する渡来経巻を悉皆調査した。具体的には、豆酘・多久頭魂神社に所蔵される高麗再雕版大蔵経の詳細な目録を作成し、他の寺院等に所蔵される再雕版大蔵経との比較検討を通じて、本経巻の成立・伝来を考察した。その結果、本大蔵経は、おそらくは15世紀頃に印刷され、江戸時代までに対馬に伝来した経巻であり、李氏朝鮮と対馬との緊密な関係の中でもたらされた文化財であることが確認された。